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20191204-少女と出会った夏
登録者:あでゅー
作者:名無しの作者
(・∀・)15(・A・)77


(一)
 二〇〇〇年代、六月中旬。梅雨の曇り空の午後に、僕は地図も持たず、田舎道で背の低いワゴン車を走らせていた。清水足柄市のどこかだと思うが、今となっては定かではない。決して、金太郎の生地などというにぎやかなところではなく、寂しい場所だったので、たぶんどこかの峠道だと思う。
 知らない街へ就職して三年目。ついに、車を買った。中古で、それなりの性能だったが、はじめて自分の働いたお金で買ったので、うれしかった。ひまさえあれば、あちこちの道を探検していた。
 そのワゴン車に乗って、清水足柄市の峠道を走っていると、突然自転車に乗った少女が目に入った。あわててハンドルを切るが、驚いた少女の自転車は倒れてしまう。僕は車を止めて、駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
 少女は、怒った顔で僕をにらむ。ひざ丈の長いセーラー服を着て、田舎臭い身なりをしているが、百五十センチほどの華奢な身体に、長い髪をたらした美しい顔が座っている。僕は、見とれてしまった。
 彼女は、その美しい顔で、怒ったように言った。
「大丈夫そうに見える?」
「……いいえ。すいません」
「手を、かして」
「はい」
 威圧的な態度に一瞬ひるむが、少女に手をかして助け起こす。
 少女は、スカートのホコリを手ではらっていたが、突然、イタと声をあげた。急いで、スカートをめくってひざ頭を見ると、わずかに血がにじんでいる。
「あーあ……。キズバンは、持ってる?」
「持ってません」
「それじゃ、この道を五キロくらい行くと、雑貨屋があるから、そこで買って」
 少女は、そう言って、さも当然のように助手席に乗り込んだ。僕は、あわてて後部座席を折りたたみ、自転車をのせて運転席に座った。
 車の中はクーラーが効いていて、肌寒いほど涼しい。その風に乗って、少女の甘い香りがして、頭がくらくらする。僕は、自転車を気にしながら、ゆっくりと車を出した。
「いい車ね。幾らくらいするの?」
「中古で、百万くらいです」
「そんなにするの。ところで、あなたはなぜ敬語なの?」
「いや、加害者と被害者の関係だから」
「オーバーだよ。普通に話して」
「わかりました。あ」
 少女は、このときはじめて、声を上げて笑った。子供らしく、アハハハと。
「ところで、あなたは一流企業の人?」
「一流じゃないけど、一応大学出て、研究で就職したから」
「へー、そうなんだ。それ
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