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20201028-人形に捕らわれた男
登録者:えっちな名無しさん
作者:あでゅー
(・∀・)3(・A・)3

あでゅー 星空文庫 https://slib.net/a/18416/
(一)
「お母さん。私、受かったよ」
 私は、嬉しくて母に抱き着いた。合格したのは、第一志望の理学部化学科。家から通える大学である。母も喜んでくれると思っていた。だが、母はおめでとうと、冷めた表情で言う。この時から、私の人生が大きく変わる。
「里美。あなたに言わなきゃいけないことがあるの。お父さんとお母さんは、離婚するの……」
 その後の言葉は、私の耳には入らなかった。聞きたくないという気持ちが、働いたからだろう。
 要約すると、私たちは離婚する。お前は、一人暮らしなさい。大学を卒業するまでは、面倒をみる。卒業した後は、一人で生きていきなさいというのだ。どうやら、お互いに好きな人ができて、その人と暮らしていくらしい。
 突然、言われた私は、いやだ、いやだと言って、泣いて母にすがりついたが、その腕を払われた。父は、姿を見せず、電話だけで一言「ごめん」と言うだけだった。母の探してきたアパートに私の荷物を送った翌日、離婚が成立した。
 夢に見た一人暮らし。立派な大学。真新しいテキスト。そんな物がそろっても、私の気持ちは少しも晴れなった。
 ボーとしている間に、新年度がはじまって、たんたんと入学式とオリエンテーションが進んでゆく。私は、最低限の単位を受けることにした。
 はじめての講義が終わって、学食で一人昼食にクリームパスタを食べているときだった。気がつくと、私の前の席に三十くらいの男性が、立っていた。長身で、優しそうな眼差しに、ボストン型のセルフレームをかけている。
 その男性が、口を開いた。
「こんにちは。この席空いてます?」
 空いている席は、たくさんあったが、きっと話がしたのだろうと思った。もし、若い男性が同じことを言ったら、私は友達が来ますと言っていただろう。誰一人、友達を作ってなかったのに。
「ええ、どうぞ」
 その男性は、ありがとうと言うと、キツネうどんが載ったトレーを置いて席に座った。そのうどんを美味しそうに一口食べて、男性は言った。
「どうですか、大学生活は?」
「……やめたい」
「どうして?」
 私は、そこで泣き出してしまう。なぜ、赤の他人の前で。そう思うが、その人の優しそうな眼差しに、つい本音が出てしまった。
「困りましたね。まるで、別れ話をしているようです」
 私は、そこで笑い出してしまう。

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