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高垣楓と少年(1)
登録者:えっちな名無しさん◆CcpptR5s
作者:くりかえす
(・∀・)1(・A・)3


「最悪だ」
グレーのトレーナーを着た短髪の少年は独りごち、目の前ある温泉を見た。
湯は無色透明で石畳の底を覗かしながらも、うっすらと白い湯気が立ち上がっている。
まだ春先の肌寒い日に入るには丁度良さそう。けれど少年はため息をこぼし、上を見上げた。まだ冬を感じさせる白けた淡い青い空が広がっていた。空には雲ひとつなく、少し傾いた陽の光は柔らかで、日本晴れという言葉を体現したかのよう。
──これがうちの風呂だったらな
少年はもう一度ため息をこぼし、今度は当たりを見渡した。
川が見える。雪解け水が流れ込んでいるためか流れは速く、ざわめきのような川音がしっかりと聞こえる。川と温泉と川を隔てる柵などはなく、石畳のすぐ向こうに、新緑が芽吹いたばかりの河原が温泉のすぐ目の前に広がり、その奥には同じく新緑が芽吹いた山の木々がさざめいている。
少年が川音に耳をとられていると「おーい。はやくしろよー」よく通った声が上からする。少年が声の方を向くと、川にかかった橋の闌干から身を乗り出す、友達三人の姿があった。遠目からでは表情を伺うことはできないが、雰囲気でにまにまと笑っているのが察せられる。
「くそ」
少年は愚痴をこぼし、背後を見る。大人二人分くらいを隠せるかどうかの気持ちばかりのすだれがかかった柵が立てられ、脱衣スペースと脱衣かごがあるだけ。
「何回も罰ゲームで入ったけど、やっぱ慣れない」
少年は脱衣かごを見てから、温泉を見る。温泉は露天で河原にあることから河原温泉と呼ばれている。入浴料はなく、気軽に天然温泉に入れると話題になっているが、橋からは丸見えで地元の年寄、しかも男しか基本入らない。少年が服を脱ぐことに躊躇していると「はやく、はやく」と煽り急かす声が橋から聞こえてくる。
「あー、ちくしょ。あそこで甲羅が飛んでこなかったらな」
少し前まで友達としていた、恒例の河原温泉に入る罰ゲームをかけたゲームを思い出した。ここ半年、少年は最下位にならず罰ゲームを回避していたが、今日ゲームに負けてしまい入ることになった。
ゲームの内容はその都度変わり、単純なかけっこから、パズルゲーム。ガイナ、サッカーチームのスコア予想まで多種多様に。
今日のゲームは友達の家でしていた国民的カートレースゲームだった。ゲームは一進一退で進み、最終レースまで全員が最下位になる可能性を秘めて
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