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ばらく部屋の前に立ちんぼう。大丈夫だから、とか諌めるような声がドアの向こうから聞こえてくる。 
そりゃ痛かったかもしれないけど、そんなに泣くか?というのがその時の俺の心境だった。 
しばらくすると泣きやんだらしく静かになる。 
ドアがカチャ…とゆっくり開けられ、姉が申し訳なさそうに出てきた。 
「来ないでなんて言ってすいません」 
あまり気にはしてなかったが、かと言って納得もできなかった。 
「あの子は…」 
君の妹?何であそこまで泣くの?という二つがごっちゃになって、歯切れの悪い質問になる。
「すいません」 
しかしそれだけ言って、俺を部屋に入れた。ベッドの上に二人が座っていた。 
妹のエミとハルナです、と紹介してくれた。パンツがハルナで、泣き出した子がエミだった。 
で、姉はユキだと名乗った。ユキが高校二年、ハルナが中学二年、エミが中学一年と付け加える。 
「エミちゃんごめんな」 
さきほどのような恐がり方はしないものの、やはり俺には目を合わせずに「いえ…」と答えた。 
代わりに謝るように、ユキがもう一度頭を下げた。 
なんだか釈然としないまま、俺はもう一度だけ謝って部屋を出た。 
当然といえば当然だけど、なんだか自分が異物のように感じたからだ。 
時間は七時を回っていたし、九時にはお客さんも帰るだろうと踏んだ俺は親の寝室で寝ていた。 
身体が揺すられるのを感じて目を覚ますと、ハルナが俺の隣に立っていた。 
「智也さん、ご飯だって」 
最初、真剣に夢かと思ったくらいに違和感があった。新妻? 
「あれ、ハルナちゃん?」 
起き上がって、時計を見ると八時。晩御飯にしては遅いのは来客のせいだろう。 
「ご飯、って」 
「うん、お寿司。お寿司だよー」 
じゃあ彼女らと一緒に食べるのか。そう思うと憂鬱になる。 
さっきエミを泣かせてしまっているのが取り沙汰されて、親に何か言われるんじゃないかというのが気がかりだった。 
正直なところ、エミを泣かせたこと自体にはあまり罪悪感は無かった。痴漢に間違われた男の気持ちってこんなんだろうか。 
こういう姉妹の親ってのは子煩悩なんだろうなあ、とか思いながら階段を下りると、驚いたことに俺の母親と姉妹の親の姿は無い。 
代わりに配達の寿司が、テーブルの上にどーんと置かれていた。 
「うわっ、ウニだ!」 
寿司を覗いたハルナが誰とも無しに言う。一方で、ユキとエミ
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