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待った。
 トントン、と玄関を叩く音がして、あわてて扉を開けた。
「先生。おはよう!」
 辻茜は緊張を隠すように、元気に声を出した。ダウンにジーパン、頭には白い毛糸の帽子をかぶって、そして足には毛皮のスノーブーツが暖かそうに彼女を包んでいる。僕はつい見とれてしまう。彼女はなにを着ても似合うようだ。
「やあ、辻君。よく来たね。さあ中へ入って」
「おじゃましまーす」
「あれ、そのバスケットはもしかして?」
「そうよ、作ってきたの。サンドイッチ。お昼に食べましょう?」
「わざわざ、ありがとう。ああ、そこのテーブルの上に置いて」
 辻茜は天井をぐるっと見上げた。
「へーずいぶん天井が高い。それにロフトが付いている。ちょっとオシャレね」
「これは山小屋だよ。お店を出そうとしてつくられた物が、訳あって売られていたんだ」
「ふーん。いいなーこのおうち」
 辻茜はダウンを脱いでイスにかけた。セーターから形のいい胸が存在をアピールする。僕は目をそらした。
「そうだろう。それに雪に強いんだ。いくら降っても雪下ろしする必要がない。おまけに冬は暖かだし、夏には天井を開けるとけっこう涼しいんだ」
「へー、そうなんだ……。先生」
「なんだい?」
「わたしも、ここに住みたい」
「い、いくらなんでもそれは。ご両親に殺される。もっとも、今の状況でもかなりまずいが……」
「なに言ってるの。これからわたしの身体を細部まで描かなきゃいけないのに」
「……」
 この空気を打ち消すために、僕は彼女にコーヒーを出した。ちょうどいい温度にするために、あらかじめコーヒーサーバーに入れて置いたのだ。
 辻茜は、まだ部屋の中をグルグル見渡している。その姿は、小動物が木の枝をかけずり回っているよう。僕は、これから脱ぐ小動物のために、ストーブにマキを足した。
 彼女は、ようやくイスに腰かけコーヒーに口をつけた。それにはホイップクリームを落としてある。ウインナーコーヒーのまねごとだ。
「うん、おいしい!」
 僕は、型通りのスマイルを作って、それに答えた。
「そう? 気に入ってくれてよかった」
 大人しく飲んでいる。僕は彼女が飲み終わるのを待った。その間に部屋も暖まるだろう。時計の音がコッコツコツとやけに響く。僕は、もう一杯コーヒーをお代わりした。
 辻茜はコーヒーを飲み干すと、コトンとマグカップを置いて、指差した。
「先
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