成人式

2008/01/11 00:21 登録: えっちな名無しさん

俺は自分の成人式の日、その当時住んでいたアパートで、大学の同級生の男友達二人と一日中寝て過ごした。
狭いアパートで、コタツにもぐりこんで、目が覚めたらコタツの上のぬるくなって気の抜けたビールを口に含み、日が暮れて腹が減ってどうしようもなくなるまで寝ていた。
他の二人がなぜ成人式の日を寝て過ごしたのかは分からないが、俺がどうしてそんなことをすることになったかを書こうと思う。

俺には小学校から高校まで同じの仲のいい友達がいた。Aとしよう。
俺もAもバカな悪ガキだったから、いつもAとつるんで遊んでいた。
小学校のときはよくいたずらをして一緒に先生に怒られたし、拾ったエロ本で初めて女の裸を見た時も一緒だったし、高校のときは同じ女の子を好きになって殴り合いをしたし(結局二人とも振られたw)、まあ親友だったわけだ。

高校を卒業して、Aは地元で就職して工場で働くことになり、俺は地元から少し離れた大学に行くために一人暮らしをすることになった。
そしてもうすぐ成人式というある冬の日、Aが工場で事故にあったという話を聞いた。機械に挟まれて右腕がダメになったらしい。俺はとてもびっくりした。信じられなかった。
「みんなでAのお見舞いに行こう」「カンパしよう」そういう連絡が回ってきたが、俺はどちらもしなかった。
「Aとお前はあんなに仲がよかったじゃないか」そう言って俺を責める奴もいた。
けど、それまでお気楽に生きてきて何一つ不幸らしいものを見聞きしたことのなかった俺は、親友に降りかかった出来事が実感できなくて、どうしたらいいのか分からなかった。

結局他の連中がお見舞いに行った後しばらくして、俺は一人でAのお見舞いに行った。
はっきり言って入院しているAとどんな顔をして会えばいいか、何て声をかければいいのかも分からなくて不安だったが、意外な事にAは明るかった。
一人でバツの悪そうな顔をして見舞いに現れた俺を、Aはうれしそうな顔で迎えてくれた。
元気か、とか、具合はどうだ、とか、当たり前のことしか言えなかったが、Aはいろんなことを話してくれた。
きれいな看護婦がいるとか、かわいい女子高生が入院してるとか、どうやって事故にあったのかとか、腕が機械に巻き込まれてどうなったのかとか、なくなった腕が今どう感じられるとか。

「これからは左腕だけで生きていかなくちゃいけないだろ。だからいろいろ練習してるんだ」Aはそう言ってノートを見せてくれた。
そこにはびっしりと「五体満足」と書かれていた。
固まってしまった俺を見て、Aは笑った。
なんというんだろう、諦めでもない、皮肉でも、苦笑いでもない、昔一緒にいたずらした時の笑い方とも違う、一生忘れられないような笑顔だった。
「五体満足」なんて、多分Aなりのジョークだったのだろうけど、俺はそれをみて、完全にやられてしまった。
アパートに帰って、俺は泣いた。声を出して泣いたのなんて、ものすごく久しぶりだった。

それから立ち直るのにかなり時間がかかった。何か考えることもできなくて、抜け殻のようになってしまっていた。
その当時付き合っていた彼女と遊びに行ったけど、俺があまりにもひどい状態だったから、彼女が怒って途中で帰ってしまうほどだった。
そういうわけで、俺は自分の成人式の日をひたすら寝て過ごすことになった。

もうかなり昔の話だし、Aは今でも元気にやっているが、成人式と聞くとあのときのAの笑顔が思い出されて少し苦しくなる。


出典:。
リンク:。

(・∀・): 117 | (・A・): 33

TOP