ハタケドロボウ
2008/02/01 11:53 登録: 名無しさん
俺ら兄弟2人を育てきった隠居母の楽しみは家庭菜園。
家から車で15分のところに大きめの休眠畑を本物の農家から借り
て色々な野菜や草花を育ててた。
土地は森に囲まれた丘の奥で、畑から見える人工物といえば遠くに
ある高圧線鉄塔や時折上空を通過する飛行機くらいのもの。
天気のいい日はござを引いてゴロゴロしながら採り立ての野菜に味
噌をつけて食べる。これだけで幸せな気分。予定のない日は母と畑
に行くのが楽しみだった。
そんな母も肺気腫を患い、なかなか畑には通えなくなった。
週1回ではあるが、俺が変わりに畑の面倒を見ることになった。
周りのプロ農家との関係も円満で苗を分けてくれたり、虫や鳥に困
った時には対処法を教えてくれたり。カスミ網を分けてくれたり。
特に親しくしてくれたのは高速道路で見かけるキャベツとカリフラ
ワーのあいの子みたいな花(名前知らない)を専門に作ってるプロ
農家Aさん。いつもニコニコしてて、昼休憩してるとオカズを分け
てくれたり。
一度お返しにチューハイを渡したら、ジュースと勘違いして一気飲
み。炎天下だったのでヘベレケに酔っ払わせてしまったことがあっ
た。そんなときも俺と2人でゲラゲラ笑ってた。
最初は母への親孝行と思ってはじめた家庭菜園も、続けてみると結
構楽しくなってきた。枝豆やソラマメを植えて夏のビールを楽しみ
にしたり、なすを植えて焼きなすとビールを楽しみにしたり。
きゅうりを植えてはキンと冷やしたきゅうりと味噌でのビールを楽
しみにしたり。
畑の隅に母が植えた腰高のブルーベリーも行くたびに成長してたり。
そんな畑の最大の敵はカラス。
真っ黒で鋭利なくちばしを持った奴だ。成り立てがいいってんで、
ソラマメとか殻の上からくちばし突き立てたり中身を引きずり出し
て遊んだ挙句、やっと食いやがる。かゆい うま。
それはともかく。とにかく酷い。アレだけ楽しみにしていたソラマ
メ全滅。枝豆は根っこから抜かれていました。
ええ。根っこから。随分馬力のあるカラスです。
農家のAさんの話だと、最近この敷地内に犬の散歩に来るババアが
居るらしい。どうやら我が家の畑を荒らしているカラスは人型で犬
を連れて歩いているらしい。
畑泥棒するにしても、少しくらいお裾分け程度に取るならともかく、
根こそぎですよ根こそぎ。こっちにお裾分けよこせ。
とはいえ、平日は仕事がありますので監視できません。
無駄とは判っていても「大切に育てています。取らないで下さい」
の看板を設置。
まぁ、それからは少しお裾分けしてくれるようになりましたよ。
それでも、直前の育成具合から想像するに、ソラマメを大きいスー
パーの袋に5,6袋は取って行ってるはずだし、きゅうりも5,60
本は取ってるはず。
自分家で消費できる量じゃないだろ。
あまりにも酷いので警察に相談。結果、畑泥棒の捜査・立件は難しい
と。巡回は増やすようにする、とのこと。超消極的。
そんなある日、ゆるせない事件が。
母との思い出のブルーベリーの木3本が根こそぎ持っていかれた。
木だよ?実じゃなくて。
温和な俺も流石に震えるほど頭にきた。
「通りがかったらおいしそうな実がなってたから少し貰った。」
って言うのとはわけが違う。大きいスコップ持って盗る気満々でや
ってきたわけだ。その絵面を想像しただけで吐き気すらする。
かつて木のあった場所の3個の穴を見てたら、せっせせっせと草を
むしってた母の姿とまだ丸かった笑顔を思い出して泣けてきた。
農家のAさんも「毎日見るようにはしてたんだけど・・」と残念そう
だった。
それでも毎回、母に野菜や花を届けると喜んでくれた。ブルーベリー
の話が出る度にキュッと心が痛んだが、盗まれたことは秘密にしてい
た。
半年ほど過ぎたある日、早朝にAさんから携帯に電話があった。
犯人捕まえたから来てくれ、と。
Aさんが犯人を捕まえた?!そんな無茶な。そもそも警察に捜査をお
願いしたときも畑泥棒の立件は難しいと。自分で捕まえようなんて思
わないようにとも言われていた。
畑に着くとそこには予想外の風景が。
パトカー1数台と、警察バイク2台。お巡りさんが4人。
Aさんとウナダレたオバサン1人。
何故こんな騒ぎに。
Aさんから聞いた話はこうだ。
朝、畑に出る支度をしていると、敷地内に入っていく人影をみた。
見るとハサミと包丁を持ったやる気満々のオバサンだった。
直接声を掛けようとも思ったが、俺のことを思い、もっと痛い目に
合わせたい。
普通に警察に通報しても無駄なのはわかった。そこで一計。
「私の敷地を、刃物を持った女がうろうろしている。すぐに来てくれ」
警察大慌てで登場。
というわけだ。
腹は立ったが、このオバサンだって家に帰ればおそらく誰かのいいカー
チャンだ。
以下の約束をして解放してもらった。
・ブルーベリーを返せ。
・取るのは構わないが、最低限にしてくれ。
・少し雑草抜くとかしてくれると助かる。
とりあえずオバサンはパトカーに乗せられ警察署で事情聴取を受けるこ
とになった。
今も週末畑に通う生活を続けている。
少し雑草が刈られていたりすると幸せな気分になる。
Aさんは昼休みのチューハイが癖になってしまったようだ。
天気がいい日は一緒にゴザでゴロゴロしている。
出典:実話です。
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