世界中の誰よりも大好きだ!!

2008/05/12 16:57 登録: えっちな名無しさん

Nと俺
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Nと俺 (洪水編)
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皆さんは タイムマシーンに乗って、自分の過去を変えてみたいと思った事があるだろうか?



俺はある。
恥ずかしい話、この歳になっても、未だに そんな事ばかり考える。
特に今日のようなスロで惨敗を喫した夜には、心底思う。
過去に戻って、もう一度 別の人生をやり直したいと。



もし一度だけ自分の過去を変えられるとするならば、俺は迷わず あの瞬間に戻る事だろう。





忘れもしない。
高校生活最後の年、俺は今でも あの暑い 夏の一日を、鮮明に思い出す事ができる。
新緑に彩られた木々の 心地よい香り。
キラキラと太陽光を乱反射させながら 輝いていた、プールの水面。
そして どこまでも限りなく澄んだ、青い空。
俺は あの日、あの時、あの瞬間の、体育館裏に 戻りたい・・・。





さて、俺の住む町には、ある伝説を創った男がいる。
彼の名は『塚本 久(仮名)』。
1970年当時、彼は 町内でも有数の 貧乏な男だった。



俺の住んでいる県には「吉野川」という巨大な川が、ちょうど県内を横断する形で、東西に細長く流れている。
彼(塚本)は 毎日、その吉野川沿いに無数に転がる砂利をリヤカーに積み、石材業者に運んで売るのを生業としていた。
汗を流して 重いリヤカーを引きずり、どれだけ必死に運んでも、所詮は石ころなので 大した額にはならず、
彼は その日暮らしの生活を余儀なくされていた。



そんな時、彼の人生を 大きく変える転機が訪れた。





彼と同じく 土地の一部が 国道に掛かった者は、国から多額の補償金を貰い、悦んで その土地を譲っていった。
しかし塚本だけは いくら金を積まれても、その土地を 国に譲ろうとはしなかった。



ある時、国道建設の責任者が彼の家を訪れ、こう言った。
「塚本さん、何故 土地を明け渡してくれないんだ? 国から もっと多額の補償金を貰いたいのか?」



しかし塚本は、キッパリと こう言い放った。
「いえ、私は 別に、お金は要りません。 一銭も必要ありません。」



国道建設責任者は、困惑した。
「じゃあ 貴方は一体、何が欲しいんだ?」



塚本は 涼しい顔で、淡々と続けた。
「県内を流れる、吉野川ってあるでしょう? 吉野川沿いには、今なお、砂利が 無数に転がっています。
あの砂利の『採掘権』の全てを、私にくれませんか?」



責任者は驚いた。 確かに 吉野川の砂利の採掘権など、誰一人として所有している者はいない。
しかし そんな権利を得たところで、金山ならともかく、石ころの採掘権が、到底 金に繋がるとは思えなかった。
多額の補償金を払う覚悟でいた責任者は、半ば狐につままれた気持ちだったが、喜んで 塚本の申し出を快諾した。
こうして塚本は 国からの補償金を得る代わりに、吉野川沿いに広がる 広大な砂利を採掘する、全ての権利を手に入れた。



それから僅か1年後、彼の人生は 再び 大きく動き始める。





1972年、当時の首相・田中角栄の打ち出した『日本列島改造論』によって、塚本の人生は180°ガラリと変わった。
『日本列島改造論』とは、過疎・過密地域の解消をスローガンに、大規模な交通網整備を行うというもので、俺の住む県も例外ではなかった。
田中角栄の提唱した 国家的 大プロジェクトにより、当時 あぜ道ばかりだった県内を、いくつもの国道や県道、町道が走る事になった。



道路を造る為には、当然 アスファルトが必要だった。
そして アスファルトを作るのには、吉野川沿いに散乱していた、あの大量の『砂利』が必要だったのだ。



今となっては、当時 塚本が『日本列島改造論』を 事前に 予測していたかどうか、知る術もない。



ただ 一つだけ 確かだったのは、砂利は まさに、飛ぶように売れたということだ。
連日連夜、2トントラックが長蛇の列を作って、吉野川沿いの 河川敷に集まった。
やがて数年の後、県内全ての道路が整備された頃には、塚本の手元に、彼が今まで 見たこともない様な 巨万の財産が築かれていた。





塚本は その財産だけでは満足しようとしなかった。
彼は 砂利の採掘権で得た金を資本に、石材会社、建設会社、飲食ビル、ファッションセンターなどの会社を、次々と設立していった。
更にはパチンコなどのレジャー産業や高級ホテルなどのリゾート開発にもフランチャイズを拡大し、
彼の企業は、巨大なコングロマリットへと変貌を遂げた。



それらの事業は 高度成長に伴い、次々と業績を伸ばし、『日本列島改造論』で得た 塚本の財産は、更に数十倍にも膨れあがっていた。
まさに一生かかっても、使い尽くせない金だった。



もう塚本は、毎日 重いリヤカーを運ぶ、貧乏な男ではなかった。
何千坪の豪邸に住み、世界各地に別荘を持ち、外車を何台も所持し、
全身をブランドのスーツとアクセサリーで固める、塚本コンツェルンの頭首だった。



塚本の死から10年を経た今もなお、彼の伝説は あまりに鮮烈であり、決して色あせる事なく 俺の町では 語り継がれている。






塚本 久の死後、彼の一人息子『塚本 宏』は 金持ちの道楽にも遊び疲れたのか、
多くの企業を経営する傍ら、莫大な財産を元手に政治家になった。



彼の選挙事務所だけで、ゆうに 俺の家の数十倍の面積はある。
この不況で 塚本系列の企業が いくつか倒産したと耳にしたが、塚本財閥には何の影響もないらしく、
最近また 巨大なファッションビルとビジネスホテルが俺の町に登場する予定だ。







さてさて。
伝説の男の血を受け継ぐ塚本 宏には、現在 一人娘がいる。
つまり塚本財閥の全てを譲り受けるであろう、お嬢様だ。



名前は 『塚本 亜矢』。



恐るべき事に、俺は 高校3年の夏、体育館裏の木の下で、当時2年だった この塚本 亜矢ちゃんに、告白されたのだ。



思うに、誰の人生にも、一度は『ターニングポイント』というものが訪れる。
その時点では ほんの些細な選択も、振り返ってみると、その後の人生において大きな意味を持ってたりする。
その人生の岐路を迎えた時、いかに落ち着いて 取捨選択し、最も正しい道を選べるかによって、その者の人生は大きく左右される。
そして俺にとっての人生最大のターニングポイントは 間違いなく、高3の夏、亜矢ちゃんに告白された日であった。
故塚本氏は 人生のターニングポイントで最高の道を選んだ結果、億万長者となった。
そして俺は最低の道を選んだ末に、現在冴えないスロリーマンに落ちぶれている。
人生のターニングポイントで塚本は正しい選択をし 勝ち組になり、俺は誤った選択をしたため、負け組となったのだ。




そう・・・俺は 事もあろうか、あの時 いとも簡単に、亜矢ちゃんをフッてしまったのだ。






あの時の俺は、今後の人生に多大な影響を与えるほどの岐路に立たされているなどとは、夢にも思わなかった。
もちろん 亜矢ちゃんが大金持ちなのは知ってたけど、当時の俺には金など無価値に思えた。
しかし、あれから10年近くを経た 今なら分かる。
いや、こんな負け犬人生を送っている 「今」だからこそ、理解できる。
『金を持っている』という事が、どれだけ凄い事なのかを。



こうして 毎日あくせく働いて、上司にボロクソ怒られながら月々 ささやかな給料を貰い、
ストレス解消しようと仕事帰りに立ち寄ったバチ屋で その給料の全てを失い、
(ああ、俺は毎日何のために働いているんだろう)
と 死ぬほど後悔しながら、真っ青な顔で帰宅する日々を送っている俺だからこそ、理解できるのだ。



この世に『お金』ほど素晴らしい物は無いと。



しかし当時、高校3年生だった俺は、金の価値など まるで解さない、あまりに無知な田舎のガキだった。




正直 亜矢ちゃんは かなりのブ・・・もとい、あまり好みのタイプじゃなかった。
結果 俺は、アッサリ彼女をフッてしまった。



あの時の自分の軽率さには、我ながら涙が出る。
俺がアッサリ亜矢ちゃんをフッたように、幸せもまた アッサリと俺の前から消えてしまったのだ。



無論、仮に あの時 俺が亜矢ちゃんの申し出を受け入れていたところで、その後 二人がどうなったかは分からない。
確かに、結婚する可能性など 限りなく0に近かったかもしれない。





でも、少なくとも0ではなかった。
できちゃった婚とか あったかもしれなし、付き合ってく内に、結婚するほど 二人は愛し合ったかもしれない。



二人が結婚するなんて、しょせんは数万分の一の確率に過ぎなかっただろう。
しかし俺は・・・その数万分の一の可能性を、人生唯一無二のチャンスを、自ら破棄してしまったのだ。



その事を想うと、未だに 悔しくて、胸が締め付けられる。
特に スロでボロ負けした帰り道、塚本家の豪邸の横を車で走る時など、思わず 溜め息が出る。
自分が ひどく矮小で、とても惨めな存在に感じられる。
実は今日俺がボロ負けしたバチ屋も、塚本の経営するバチ屋だった。
あの時俺が人生の選択を誤ってさえいなければ、ひょっとすると全く逆の展開もありえたかもしれない。
塚本財閥の全てを手中に収めた俺が、バチ屋奥のモニタールームで ボロ負けした客を見物しながら、
「やれやれ、人生の負け組共が・・・」などとほざきつつ、ワイングラスを傾けていた未来もあったかもしれないのだ。



恐らく俺は、今日のようにスロでボロ負けした日は、一生後悔し続けるのだろう。
後悔という名の螺旋階段を、残りの人生、半永久的に 下り続けるのだろう。




もしタイムマシーンが発明されたならば、俺は迷わず あの夏の日に戻り、確実に 亜矢ちゃんに向かって こう叫ぶことだろう。





「亜矢さん! 僕も貴方が好きだ! 世界中の誰よりも大好きだ!!



君の全てを・・・骨の髄まで、愛してる!!!」と。




〜BAD END〜

出典:2ch
リンク:2ch

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