胴回し回転蹴り

ヘタレで絡まれ体質の俺は一念発起して、強くなろうと決めた。
でも地道に、武道をやる根性はない。ヘタレだから。
「路上でのチンピラ相手なら武道の簡単且つ強力な技を一つ二つ覚えてればなんとかなる」
誰かが言っていたこの言葉を思い出し、これだと思った。
ホーリーランドでワンツーのみをひたすら練習したユウのように。
るろうに剣心で「突き」を究極にまで高めて必殺技にした斉藤一のように。
選んだのは「胴回し回転蹴り」
難易度は高めだが、練習すればなんとかなる。見た目派手だし、ハッタリ効かすには最高だろう。
パンチングドール（起き上がりこぼし）を購入して、部屋でひたすら体得に励んだ。
半年くらい来る日も来る日も回転し続けた。高確率で踵をヒットさせるまでになった。いける。これならいける。

ある日、彼女とデート中、DQN三人組に絡まれた。
こういう連中はリーダー格さえ潰せばおとなしくなるだろう。
「痛い目に遭いたくなかったら募金してよ、彼女の前で恥かきたくないでしょ？」
ニヤニヤ笑いながら近づいてくるリーダー格らしい男。
体格はごついが身長はそれほど高くない。脳天に踵をぶち込むのは簡単だ。いまだ。いましかない！
射程距離に入ったのを見て、ハァッ！だか、ホァッ！だか訳の分からない気合いを発して飛び上がり、回転する。

――実戦と練習は違う。
俺は空中でバランスを崩して文字通り叩きつけられた蛙のようなかっこでアスファルトに激突した。
顔面を強打し、額を擦りむいて鼻血を噴き出す俺。
唖然とする三人組……と、彼女。
「……オマエ、なにやってんの？」
呆れたような顔でリーダー格の男は俺を見下ろしながら言った。爆笑する他の二人。
可哀想な奴だと思われたのか、アブナイ奴だと思われたのか、三人は、
「キチンと介抱してやりな」と彼女に言い残して去っていった。

「……何やろうとしたの？」
急遽自宅に戻って、俺の傷を消毒しながら彼女は尋ねた。
「180度転換して『漢』になろうとしたけど、360度回って元に戻っただけだよ」と答えた。

出典：頑張れ青年
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