もしも車が話せたら 霊柩車編
2008/08/12 17:22 登録: えっちな名無しさん
546 :霊柩車 :02/09/17 13:47 ID:3sJ4uJlW
可愛がってくれた社長が倒れて、会社も潰れ、俺は転職した。
運良くVIPにゃならずに済んだが、屋根剥がされてド派手な御輿の飾りつけられた時は
そりゃ驚いたもんさ。今となっちゃこれも悪くはねーがな。
死体運搬行にゃ不況もクソもねーからよぉ。今日も俺は葬式の手伝いさ。
市営だからメシもマズいが運ちゃんも焼き場のにーちゃんも俺を可愛がってくれるから
特に不満はねーな。
ただなあ…別れに立ち会うのは、人情深い俺には少々辛ぇ仕事だな。
やってきたのは山際の小さな家。ひでーな今にも崩れそーじゃん。
「やっと来たか運送屋」
おう待たせたな。にしてもこりゃ…おい軽トラのじいさんよ、随分寂しい葬式じゃねーか。
「仕方あるまいさ。身寄りの無い独居老人の最後なんざこんなもんさね」
参列者も…おいおい何人いるんだよ。よく俺なんか呼べたなおい。
「最後の花道ってやつさ…残す財産も無いし最後ぐらい飾らせてやろうって、近所の連中の
心遣いさね」
そうかい。ところでじいさん、あんたこれからどーすんだ?行くとこあんのかよ。
「さて、どうなるかねぇ…お前さん所で引き取ってくれりゃ有り難いが…」
547 :霊柩車 :02/09/17 13:48 ID:3sJ4uJlW
じじばばに運ばれて棺が小屋から出てきた。
「ご主人よぉ、ワシの荷台のネギ、市場に持ってくんじゃなかったのかい…
早く持ってかにゃ萎びちまって、売り物にならなくなるぞい…」
泣くなよ軽トラじじい。こっちまで泣けてくるじゃねーかい。
運ちゃんが俺のケツにつけられた扉から棺を載せた。何だよ軽いじゃねーか。何食ってたんだよじいさん。
「ご主人よぉ…せるふでメシ喰わしたるって約束、どうなっちまうんだよぉ…」
やめてくれよ軽トラじじい。俺ぁまだこの仕事慣れてねーんだから…っちっくしょ…
泣くなじじい。みてろ、あんたのご主人の花道俺が立派に飾ってやるぜ。
扉が閉められ、運ちゃんが俺に乗り込んだ。じじばばと軽トラじじいが泣いている。
最後ぐらい派手に送ってやらぁ。
俺は思いっきりクラクションを鳴らしてやった。
じいさんが天国まで行けるようにな。
581 :霊柩車 その2 :02/09/19 00:02 ID:5fhi6XC7
今日も今日とて死体運び。
運ちゃん次はどこへお迎えに行くんだよ…おいおい狭ぇよこんな路地入ってくのかい。
これだから新興住宅地って奴ぁ苦手だね。自慢のお飾りキズつけんなよ?
「どけどけどけーっVIP様のお通りだーっ」
っかやろー!糞ヤソ車、こんな狭いとこ入ってくんじゃねーっつの!
「何だ仲間か。そのアクセいーじゃん黒地にゴールドなんて超クール。どこで買ってもらったんだよ」
誰が仲間だ腐れDQN。俺様は市民の税金でドレスアップし放題の霊柩車様だ。
真似できるもんならやってみろってんだ。
おう、ここだな本日の会場は。んだよこの間はじじばばだらけで今日はガキだらけかい。
「おじちゃん、それかっこいいね」
誰がおじちゃんだゴルァ!…てどこだ?どっから声がしたんだ?
「おじちゃん。僕ここだよ、ここ」
足元?なんだ、車は車でもガキの足こぎ車じゃねーか。
だめじゃねーか坊主。今日はおもちゃの出る幕じゃねーぞ、何で片付けてもらわねーんだ。
「たっくんが出しっぱなしにしたから、僕お家に入れないの。おとーさんもおかーさんも
お家に入れてくれないんだよ。なんでかなあ」
そういや、あそこにもガキのおもちゃが…片付けろよなあ。おい坊主、お前のご主人どこいったんだ?
「わかんない。たっくんね、きのうのまえから見てないの」
何だと?おい坊主、どういう事だ?
「あのね、僕たっくんと遊んでたら、たっくんお外行っちゃったの。
おかーさんいっつもだめって言ってるのに、だめだよね?
そしたら、何かすごーくおっきい音がしたんだ。僕びーっくりしたんだよ」
そういや前の道、結構交通量多かったような…今日の葬式はまさか…
「今日はね、たっくんのお友達も、せんせーも、おじいちゃんもおばあちゃんも来てるんだよ!
たっくん絶対大喜びだよ!
でもね、たっくんいないんだ。かくれんぼかな?おじちゃん、たっくん知らない?」
坊主…お前のご主人はな…
582 :霊柩車 その2 :02/09/19 00:08 ID:5fhi6XC7
『嫌あー、たっくーんー』
「あ、おかーさんだ」
坊主、お前のご主人様はな。あの…お袋さんが抱いてるハコのなかで寝てるんだ。
「やっぱりかくれんぼだったんだ!おじちゃんすごいや何でわかったの?
たっくーん、おーいたっくーん、みーつけたー!出といでよー!」
お袋さん、息子さん寄越してくんねーか。安心しなって、俺が責任持って送ってやるからよ。
坊主、お前のご主人俺が預かるぞ。
「おじちゃんたっくんどこ連れてくの?」
すまねーが、たっくんは遠い所へ行かなきゃなんねーんだ。いつかきっと、お前にも判る日が来る。
「じゃ、僕もいっしょに連れてって」
だめだ。坊主は来れねーんだ。悪ぃがその代わり頼みたいことがある。
俺と一緒にクラクション鳴らしてくれねーか?
「うんわかった!お見送りだね?僕いつもやってるんだよ、たっくん幼稚園行く時に」
そーだ。思いっきり、たっくんに聞こえるよーなでっけー音でな。
空の上まで届くぐらい、でっけーでっけー音でだぞ。
おい、聞こえるかたっくん。俺らのクラクションが。
いい愛車を持ったな。
「たっくーん、早く帰ってきてねー!
おっきくなってレーサーになったら、一緒に走る約束、忘れないでねー!」
612 :霊柩車 最終話 :02/09/21 23:07 ID:PBxaWusy
これで最後にします…長々とすいません。
―――――――――――――――――――――――――――――――
うう、雨が冷てぇ。自慢のアクセにホコリが…これだから雨の日のオシゴトは嫌なんだ。
社長だったご主人と別れた日を思い出すぜ。あの日もこんな冷たい雨が降ってたなぁ…
何ぃ?ぶつくさ言わずに若い奴からさっさと出てけ?るっせーよプレジデント爺ぃ。
人が珍しくノスタルジックに語ってんのにロマンの判らん年寄りはやだねぇ…なに、その発言がじじぃだ?
さーてぼちぼち行きますかい。今日のお客様は大往生か?病死か?それとも変死体か?
やっとついた。ここか、ずいぶんとオンボロな家だなおい。
軒先が破れてるしさあ。そこの遺影抱えたおばちゃん、肩濡れてるっておい。あんただよあんた、
後姿がビンボくせぇ…なーんて言っても人間にゃ聞こえ…およ?こっち向―――
―――奥様――なんで……
『末期の胃ガンだったって…』
『会社が潰れて身体を壊して…』
『借金だってまだ残ってるのに…』
人間どもの言葉も俺には聞こえなかった。
貧乏くせぇ着物を着て、遺影を抱いて、雨に濡れて泣いている。
あの上品で、いつも俺のシートに行儀よく座って優しく笑ってた奥様が。
抱えた遺影を、俺は見ることができなかった。
―――オーナー…
―――俺は、こんなかたちで、あんたと再会したかなかったよ…
613 :霊柩車 最終話 :02/09/21 23:08 ID:PBxaWusy
運び込まれた棺がなんだかいつもよりずっしりと感じた。
…オーナー、あんた軽くなったな。
いつもそこにあったシートにどっかり座って、秘書の姉ちゃんにセクハラ発言しちゃ、奥さんと
姉ちゃんの2人に叱られてたよな。いい歳して、って。
シートは取られちまったけど、乗り心地は変わんねーだろ?
オーナー。俺カッコ良くなっただろ。毎日焼き場の兄ちゃんが磨いてくれてんだぜ。
あんたの飲み友達だったハゲの運ちゃんには、とーてー及ばねーけどよ。
オーナー。俺さ、コームインになったんだぜ。息子のにーちゃんによく言ってたろ、偉くなれって。
コームインなら喰いっぱぐれることねーからって。
俺偉くなったんだぜ。これでもうメシ代に困ることないんだぜ。
……だから、褒めてくれよ。オーナー。
偉いな、さすが俺のセンチュリーって言ってくれよ。
俺ぁ霊柩車になんかなりたくなかった、ずーっとあんたの車でいさせてほしかったんだよ……
なあ、目ぇ開けてくれよ。オーナーよぉ……
運ちゃんが乗り込んだ。ハゲの運ちゃんみたく運転上手くねーけど少しの間だ、我慢してくれな。
なあ、オーナー。
俺さ。こんな姿になっちまったけど、あんたのとこに戻ってきたよ。
あん時さ、必ず会社立て直して、迎えに行ってやるって約束してくれたもんな。
あんたがあんまり遅いから、俺がお迎えに来ちまったよ…さて時間だ。
それじゃオーナー、行くぜ。この世で最後のドライブによ。
しっかり捕まってろよ。
……じゃあな、オーナー。
出典:もしも車が話せたら その3
リンク:http://corn.2ch.net/test/read.cgi/car/1028266346/

(・∀・): 237 | (・A・): 65
TOP