消せない月と新しい太陽
2008/10/08 02:11 登録: えっちな名無しさん
1 名前: ◆0GJf8.3Qj. [] 投稿日:2008/10/05(日) 21:44:29.31 ID:QiPNMdLb0
今ではすっかり色あせてしまった写真とか見ると
なんだか悲しくなるじゃないですか
というのも、10月の頭にね、大掃除をしてたんです
気持ちを一新しようと思ってなんですけどね
するとやっぱり見入ってしまうのは昔の写真、アルバム
しばし掃除を中断して、アルバムの1枚1枚をめくる俺
その中には、今でも忘れられない思い出の写真もありました
というか処分したと思っていたのに、これだけ残っていたというか
俺と元カノのツーショット写真なんですけど
夜空の下で撮影したツーショット
綺麗な星空なんだけど、写真の右上部分の夜空だけが
切り取られているっていう
−−−−−
今から9年くらい前、俺がまだ高校生だった頃の話です
PHSとかポータブルMDとか欲しいものが沢山あった俺は、
学校で禁止されているにもかかわらず、こっそりバイトをしていました
ボウリング場なんですけど、夕方5時から夜10時までのシフトを
週2〜4くらいで入っていました
親には、学校の勉強が滞らなければいいだろうと
特別に許可をもらっていたんですが
実際のところ成績は下の方から数えたほうが早いくらいの成績でした
ただボウリング場のバイトはとても居心地がよかったです
気の置けない仲間や優しい社員さんばかり
学校の友達よりも仲のいい友達ができました
そんな中、気になる女の人がいました
名前を仮にレミさんとしておきます
レミさんは21歳の大学生
物静かな感じで、アホなことで盛り上がるバイト連中を、
そばで優しく微笑みながらそっと見守っている感じ
だけど、みんなで飲みに行こうとか遊びに行こうとか誘っても、
必ず断っていたんです
俺とは若干ずれている時間帯のシフトで、
夜7時にあがる人だったんですが、終わると真っ直ぐ家に帰っていました
レミさんと同い年くらいで一番レミさんと仲よく喋る
カンナさん(仮)に聞いてみました
「レミさんて、なんでいつもダッシュで帰るんですかね?
あまりウチラと絡まないし」
カンナさんは
「レミのこと気になる?」
と笑いながら茶化しましたけど、教えてくれました
なんだかレミさんの家は御金持ちだけど、
その分ものすごく厳しい家だそうで
21歳だというのに門限があるそうです
さらにレミさんは、本当は別の大学に通いたかったらしいのですが
付属高校からのエスカレータで親からはしっかり目の届く
近所の大学に無理矢理受験させられたそうです
ボウリング場のバイトはもちろん親には内緒だそうです
この話を聞いて、レミさんがちょっと気の毒になりましたが
逆に何でバイトする必要があるんだろうとも疑問に思いました
そこへレミさん本人もやってきたので、本人に聞いてみました
「レミさんてなんでバイトしてるんですか?
レミさんちって金持ちなんですよね?」
レミさんは、静かに微笑みながら教えてくれました
「一人暮らし・・・したいんだよね」
カンナさんがそこへ
「レミんち本気で過保護すぎるし
ワタシが遊びに行ったとき、物凄くジロジロ見られたよ
ヘンな友達と付き合うんじゃない的なね」
と笑いながらレミさんの肩に手を乗せてました
「ウザイですね、そりゃ一人暮らしして早く親の元から離れたいですよね」
と俺が笑っていると
「誰かも解放してくれないから、
もうこうなったら自分でがんばるしかないよね、
あ、ごめんね、もう帰らなきゃ、もう月があんなに高く上ってるし」
とレミさんはいつものステップで帰ってしまいました
レミさんの後姿に手を振っているとカンナさんが
「オレくん(←俺です)が、『解放』してあげれば?レミのこと」
とニヤニヤしながら言って来ました
「え、あ、別に・・・」
と急にふられて顔が赤くなってしまったんです
「絶対オレくんってレミのこと好きでしょ?」
と畳み掛けられました
正直、結構前からレミさんのことが好きでした
ボウリング場は当時、有線とか引いてなかったので、
バイトのみんなで各々CDとかを持ち寄って流していたんです
シフトに入っているバイトの好みでかける曲が左右されるので、
いつもホールに流れる曲はお決まり状態だったんですね
そんな中、俺が持ってきたCDで「SAKURA HILLS DISCO 3000」って
アルバムがあったんですが、それを見てレミさんが
「オレくん、大沢伸一好きなんだ?」
って話しかけてくれました
「レミさんも好きなんですか?」
「私、初めて大沢ファンに会えたよ〜」
「ジャクソンファイブリミックス持ってます?」
「EW&Fいいよね〜」
なんて、初めてレミさんと共通の会話が出来たんです
単純なんですが、男ってそれくらいのことで一気に、
「知り合い」から「友達」くらいに、下手したら「恋人未満」くらいに
昇格させてしまうんですよね
それからちょくちょくレミさんと話すようになったんです
何が良いかというと、喋るとすごく気さくなんですが
普段はあまり人と積極的に接しないで、
静かなたたずまいで「そこにいる」のような不思議な雰囲気が、
なにか惹きつけられるようになったんです
レミさんの独特な世界に、自分も入りたい、という欲求というか・・・
ただ、レミさんの身の上のことはまったく話題にしなかったので
(正確には、プライベートに踏み込むみたいでできなかった)
レミさんがそういう事情だというのは知りませんでした
カンナさんにはどうせもう、見透かされてるんだろうなと思って素直に
「ええ、まぁ、好きっすね」
と白状しました
カンナさんは意外にも
「あ、でもワタシはなにも応援もしないから、せいぜい頑張りな」
とあっさり冷たく言われてしまいました
この流れなら、なにかアドバイスでもしてくれるのかなと思ったのに
つい、
「カンナさん的に、俺とレミさんってどうですかね?」
とアホな質問をしてしまうんですが
「しらんがな、思い切ってとっとと告れ、クズ」
で終わりです
じゃあってことで
思い切ってとっとと告りました、クズなりに
レミさんはやっぱり断りました
「歳の差がありすぎる」
とのことです
「歳の差なんて気にしない!」
といくらいってもダメです
でも断る理由がそれだけで、俺がキモいとか俺がウザいとか
そういう理由でキッパリ振ってくれませんでした
だから次の日とか、その翌週とか、
調子に乗って3回くらい、告白しました
未だとストーカーギリギリの行為ですよね
4回目の告白の時には、レミさんは戸惑いながらも
「でもね、オレくんとは5歳も離れてるし、絶対価値観違うから
長続きしないと思うのね
一度別れたら、絶対ギクシャクしちゃうでしょ・・・」
と引いてきました
で、もうどうしようもなくて、
10回くらい土下座して、カンナさんに協力を仰いだんです
「レミさんをオトす戦略を立ててください!」
「しょーがねーなー」
なんだかんだ、カンナさんて、こういうの大好きらしくて、
結構世話焼いてくれました
アイツはこういう食べものが好きだ、とか
こういう場所が好きだからここに誘え、とか
告る時とかこういう言い回しをしろ、服はこうしろ、髪型こうしろ
後半はもう、単なるファッションコーディネーターになってました
唯一心に残ったのは
「アンタは5個も下なんだから、確実に向こうは年の差を気にするわけ
ショタとかじゃない限りね
そこで『年の差なんて関係ない』って言っても効果ないのよ、わかる?
本人が気にしてるのに他人から、関係無いって言われても
ムカツクだけなのね
だからね・・・」
俺はカンナさんのアドバイスを思い出してレミさんに言いました
「俺、頑張って歳とるペースあげてレミさんの年齢に追いつくよ
だからレミさんもペース落としてゆっくり俺の年齢に近づいて」
レミさん、きょとんとしてました
(全然効果ないじゃんか・・・くっそ、騙された)
と俺が内心ヒヤヒヤしてカンナを恨みかけたとき
レミさんは
「いっぱい遊べないよ、私門限あるから・・・それでもいいの?」
と言ってくれました
俺、あわてて
「いい!いい!全然いい!
1時間でも2時間でもレミさんと一緒にいたい!」
と叫んでました
実はロケーションは、ボウリング場の駐車場でした
周りの居合わせた親子連れに笑われました
レミさんは慌てて俺の手を引っ張って、駐車場から離れました
「声大きいよ・・・本当元気すぎて、だから若者すぎて引くっていうの」
「ごめん、でも心のそこから本当にそう思ったから」
レミさんはいつものオーラで、いつもの口調ではっきりと言ったんです
「いいよ」
俺はもう天にも上る気持ちで、感動をかみ締めていました
思わずレミさんの両手を握りぶんぶん上下にさせて
「これからよろしくレミさん!」
とまた大声出していました
レミさんは苦笑いしながら
「2で割って2.5年分か・・・大変だな、これから」
ってつぶやきました
調子に乗って俺、
「レミさん、すごく大人びているから、いい意味で21に見えないっす
だから2.5じゃなくて・・・」
って逆方向のフォローを入れてしまいました
「それババアってこと?」
ともちろん怒られました
「いや、いい意味で、いい意味で大人の女性というか、本当すいません」
と慌てて謝りましたけどね
レミさんとはそれから一緒にご飯食べに行ったり
休みの日にお出かけしたり
楽しい日々を過ごしたんです
お互いお金がなかったので派手なことはしませんでした
せいぜい映画とかプールとかカラオケとか、高校生らしくつつましく
例えば、ただ東京湾の港の防波堤に乗って日向ぼっこするだけとか
「写るんです」を買って、公園とかでお互いアーティスト気取りで
お互いのジャケット撮影みたいなことをやったりと
貧乏な過ごし方をすることも多々ありました
ただ、やっぱりレミさんは門限が近づくと、
どんなに一緒に居たくても家に帰っていきました
レミさんの口癖で
「もう月が昇ってるから、帰るね」
です
見上げると、必ず夜空には月が浮かんでいました
「月が昇ればもう帰るんだ、本当にまるでかぐや姫だね」
俺が不満げに言うと
「じゃあ、オレくん、『竜の頸の玉』、持ってこれる?」
なんて意地悪に微笑んで帰っていくレミさん
とある日、レミさんとの初キスを済ませたあと、
「ちゃんとお金貯めて、二人で旅行行きたい」
と言うと、レミさんは言いました
「無理だよ、そんなの絶対無理」
やっぱり両親が厳しいからなんですよね
だから、俺は頭に血が上ってしまって、勢いで、
「レミさんのご両親に会いたい!」
と言い出しました
レミさんは驚いて
「何で?」
といいましたが
「俺らふたりの交際を認めてもらうんです、そして旅行の許可を・・・」
なんて息巻く俺
「認めてもらうって、そんなの通じないよ
むしろ、オレくんを嫌な思いにさせちゃうから
あの人たち、私の女友達にすら、いい顔しないんだもの
ましてや、男の子を連れてったら・・・」
「それでもいいから」
何度も押して、押されて、
ようやく、レミさんちに招待してもらえることになりました
最初はレミさんちに気軽にお邪魔して、リビングで寛いでいるご両親に
自分のことをアピールするくらいで考えていたんですが
ところが、レミさんのご両親は、俺を夕食にご招待すると言ったのです
レミさんが、俺のことを彼氏と紹介してくれたみたいで、
彼氏が家に遊びに来るとなったら
ご両親が、せっかくだから夕食でおもてなししましょうと、
そういう流れになったみたいです
当然ビビる俺
一回だけレミさんちを外から見させてもらったんですが結構な豪邸
3階建てだし、都会なのに車庫には外車が2台止まっていたし
そんなレミさんちの夕食って、どんなパーティーなんだろう
と、それなりの正装を必死にコーディネートして
戦々恐々としていました
そしてその夕食会の席上で
やはり俺は受け入れられませんでした
レミさんの父からは
「レミには学業を専念させたいんです
あまりレミと行動するのは控えてくれるとありがたいんですよ」
レミさんの母からは
「貴方も、クラスメイトとか、同年代のお友達は、
いらっしゃらないのかしら」
と、それぞれにやんわりと拒絶されました
席にはレミさんの兄と妹さんがいらっしゃいましたが
二人は俺にまったく視線を合わせてくれませんでした
眼中に無いということですね、これもかなりツラかったです
二人とも顔も頭もめちゃくちゃエリートでした
レミさんの母は他にも
「貴方はどこの学校に通っているの?
成績は優秀なほうなの?
どこの大学を受験なさるの?」
という学業質問を連発してきました
はっきり言って高校2年生の夏から大学を決めているなんて
感覚すらありえません
ずーっとしどろもどろになっていましたから
そんなグダグダな俺を見て、とうとうレミさんの父は
「貴方はね、もう少し学業を頑張ったほうがいいでしょう
学生の本分は勉強ですからね
今頑張らないときっと将来後悔します
レミと遊んでいる暇はないのではないでしょうか」
とだけ言って
「では、私はこれで失礼します」
といって食事を終えて、席を立ってしまいました
あとはひたすら無言の食卓
本当に辛かった、空気が
レミさんもところどころフォローしてくれたんですけど、
やっぱりご両親には逆らえないのか最後はずっと俯いていました
帰り際、門の前でレミさんが
「本当にごめんなさい、オレくんに失礼なことばかりで」
と物凄く悲しい顔をしていました
「全然平気!元々そういう覚悟で来たんだし!」
と空元気を見せたんですが
帰り道は相当ヘコみました
自分とはまったく違う世界を垣間見たというか
家に帰ってからも眠れませんでした
レミさんが
「自由になりたい」
と言っているのを、俺はナンニモできなかったんだ
とか、妙に情けなくなってしまって
段々、情けなさを通り越して、自分に腹が立ってきました
何もできない、でウジウジしていないで
行動を起こそう!
次の日、レミさんに言いました
「今夜、旅行に出かけよう、丁度明日土曜日だし!」
レミさんは戸惑いました
「だから・・・旅行なんて無理だって・・・」
そんなレミさんの言葉も聞かずに俺は
「旅行といっても、2日間かけて二人で過ごすだけ!
夜中だけだけど、今夜、夜11時!レミさんちに迎えにいくから!」
レミさんが止めるのもきかずに、それだけ言って帰ってきました
俺は、どうしてもレミさんを月の下に連れ出したかったんです
遠出はできないけど、夜中の間だけでも、レミさんと一緒にいたい
最初は1時間でも2時間でもいいといっていたくせに
やっぱり欲が出てきていたんです
もはや、レミさんを自由にさせてあげたい、のではなく
自分が一緒に居たいから、そんな思いのほうが強かったんです
約束どおり夜11時に、自転車でレミさんの家の前に着きました
レミさんにPメール(PHS同士で送れるメール)を送り外に誘い出しました
レミさんは
「本当に来たんだ・・・」
と困惑しながらも、しっかりと、いつものデートの外出着になっていました
俺は
「うん、朝までの間、レミさんは自由だよ!
いっぱい遊ぼう!」
と元気いっぱいになってレミさんを自転車の後に乗せました
「どこ行くの?」
「港っす!いつもの海!」
「ねぇこのパンパンのリュックには何が入ってるの?」
「BBQセットです!炭と網! かまどはその辺の石で作れますよね!」
「こんな夜中にBBQ?」
「ウィンナーもウチの冷蔵庫からパクってきました!」
「いや、あの、おなか減って無いし」
「あ、あの、あとほら、花火もありますよ!ほら!」
「ライターとかマッチは?」
「あ・・・」
思いつきのままリュックにグッズを詰めてきた俺と
それに突っ込むレミさん
レミさんはその日初めて笑ってくれました
いつものコースを走る
辺りは真っ暗で、街頭と自転車のライトだけではすごく不安げな街並み
それでもいつもと違うシチュエーションに
俺とレミさんは、いつもよりもハイテンションに会話をしていました
頭上には、ずっと月が追いかけてきましたが
今日は違います
レミさんは渡しません
途中のコンビニでお茶とライターを買って、
港について、一息ついて腰を下ろします
せっかくなので、BBQしようと、
近くにあったレンガ3つでかまどをつくり、火を起こそうとしました
しかし炭にライターの直火だけでは到底火がつかず
近くのチラシで引火しようとしてもうまくいきませんでした
「企画倒れだねー、ドンマイ」
とレミさんは笑ってくれました
あいたーと思っていると、
レミさんがウィンナーの袋を手渡し
「これ、このままでもいけるよ」
とすでに1本、口の中でもぐもぐしていました
一緒に生のウィンナーをたいらげました
の後、花火を楽しんだり
仄暗い海面に向かって、石を何回はねさせられるか競争したり
「うまく写るかな?」
といいながら、いつものように使い捨てカメラで、
セルフツーショットを取ったりしました
ひと段落して、すこし騒ぎ疲れたので、ぐたーっと寝そべりました
そして二人でうだうだと会話を始めたんです
「オレくんありがとうね、連れ出してくれて・・・」
「ううん、俺も楽しいし」
「でもね、夜が明けたら帰らなきゃいけないんだよね」
「うん・・・、でも・・・帰らなくても・・・いいんじゃないの?」
「それは・・・だめだよ」
「やっぱり両親が怖いから?」
「というよりも、家出しちゃえば楽なのかもしれないけど」
「うん」
「今の私は、両親のおかげで生きてるんだよね」
「・・・」
「所詮私はまだ子供だから、反発したところで一人で生きていけない」
「でも、だからバイトしてお金貯めてるんでしょ?」
「そう、だから私は自力で、両親から自由になるの
大学の学費だって、奨学金を申請して、自分で払っていこうと思う
両親に内緒で申請しようとしてるんだ」
「・・・」
レミさんはやっぱり偉いと思いました
それに比べて俺なんて、思いつきでレミさんを夜中に抜け出させて
それでレミさんを解放させたと思い込んでいる
何の解決にもなっていない
あまりの子供っぽさに、だんだん悔しくなってきました
「みて・・・物凄くまん丸い月が・・・真上に来てる」
レミさんが仰向けの状態から手をまっすぐ伸ばして月を見つめていました
「俺月嫌い」
ふて腐れた俺は、そう答えました
「どうして?」
「月があるおかげで、いつもレミさんと別れさせられるから」
「今日はここにいるよ」
「うん・・・今日は特別だけど」
「お月様は、監視役なんだよ、私たちの」
「・・・そうだね、うっとおしい監視役」
「夜空からじっと見張ってるの、悪さをしないかって」
「月が夜空に浮かぶ限り、レミさんを自由してあげられないんだね」
「じゃあ、あの月を消してくれる?」
「・・・そんなの、無理だよ」
「・・・無理だよね」
「何十発もミサイル打ち込んでも、消せないよ」
「ミサイルね・・・」
「俺にNASAに知り合いとかいればね、よかったんだけど・・・」
「あはは・・・」
「お月サマを消すなんてね・・・」
「というか、みんなのものだしね、お月様は」
「うん・・・」
「そっか・・・残念だな・・・」
最後のレミさんの表情は、笑顔で穏やかで
だけど、すごく寂しげで、夜の闇に解けてしまいそうでした
そのまま、後片付けをしてレミさんを乗せて家まで送って
夜のデートは終わりました
それ以来、俺はレミさんとの間に大きな壁を感じていました
俺なんてバカでガキでどうしようもなくて
なーんて、自分自身悶々としながら、ふさぎこんでしまったんです
そうして、レミさんとは、ちょっと一歩引いた関係になってしまいました
ある日の学校帰りに、こないだの夜中に撮影したカメラの現像の
引き取りにいき、写真を眺めながら帰りました
最後にとったツーショット写真は、しっかりと俺とレミさんが写っていました
けれども、背景の夜空の右上には、
忌々しく黄色く輝くお月様もしっかりと写っていました
こんな写真の中まで・・・
くやしくて、くやしくて、思わず写真から月をはさみで切り離していました
切り離したとたん、自分がバカみたいに思えて
はさみをベッドに投げつけて、体育座りで落ち込む俺
そうしてずっと元気の無い俺の姿を見て、
さすがにカンナさんはうんざりしたのでしょう
カンナさんは言いました
「アンタさ、告白の時にアタシが授けたセリフ使ったんだろ?
もっかい言ってみなよ」
「え・・・なんでさ・・・」
「あ〜もういいや、あれだよ
『俺、頑張って歳とるペースあげてレミさんの年齢に追いつくよ
だからレミさんもペース落としてゆっくり俺の年齢に近づいて』
でしょ?
自分が歳の差気にしてどうすんだよ
自分で宣言したとおり、頑張って背伸びしてりゃいいじゃん」
「でもさ・・・
やっぱり俺のような高校生のガキには、レミさんを退屈させるだけだし
レミさんの、自由を逆に邪魔してるだけな気がして」
「だったら・・・」
カンナさんはため息交じりにこちらを見つめました
「なにさ」
「ガキにはガキなりにやれることがあるでしょ?」
「ガキなりて何・・・」
「自分で考えなよ」
「・・・?」
「月が消せないのなら、月と共存することだってできるでしょ」
「・・・」
俺はカンナさんの言わんとすることがわかりました
そして決心しました
レミさんとのデートの時間は削りました
バイトのシフトも減らしてもらいました
勉強を頑張ったんです、必死に
いままでサボっていた分、最初は体が受け付けなかったのですが
夜も遅くまで起きて頭に叩き込んだんですね
そして、そのまま2ヶ月が立ちました
高校の学内テストがあったんですが見事、
学年190人中の3位になりました
今までは140〜150くらいをウロウロしていたのに
先生も、両親も喜んでくれました
でも一番、この努力を見せたかったのは・・・
ある日曜日のお昼すぎ、レミさんと予め約束して
レミさんちに向かいました
レミさんのご両親は一応リビングにいらっしゃいました
レミさんの父の方はこれから仕事に出かけてしまうとのことですが
話を聞いてもらえました
学力テストで3位になったこと
志望大学、志望学部、将来の進路について自分のことを話しました
レミさんのご両親は黙ってじっと話を聞いてくれました
レミさんの父はいいました
「貴方の学校の、その失礼ながら、その偏差値ではね
まだまだ意味はないんですよ、その成績は
ましてや、トップでなく、3位ですよね
厳しいこといわせてもらいますが、トップと2位以下では
まったく違うんです」
厳しい空気がリビングを支配しています
やっぱり、だめか
と思ったんですが、レミさんの父は続けて言いました
「でもね、貴方の努力は認めます
だから、そのまま、もっと頑張りなさい
今度はトップを取りなさい
志望大学のランクをもっと上げなさい
ただし、誰かに認めてもらうためにがんばるのではなく、
自分の為に頑張りなさい
決して、レミの為にがんばるとか、
いわないでくださいよ
貴方が大人になって、相応しい社会人として成長できたのなら
その時、もう一度、レミを迎えにきなさい」
レミさんの父は、そのままレミさんの母を従えて
リビングを出て行きました
レミさんの母は、俺に深々と頭を下げて、出て行きました
レミさんの部屋にあがらせてもらい、レミさんは
「どうして、父たちにそんな話を・・・?」
俺は言いました
「レミさんはやっぱりすごく偉い
だから俺も負けないくらい偉くなりたい
本音を言うとご両親に、
ちゃんとした交際を認めてもらえればなとまで思ってたんだけどね
でも、俺がしっかりした人間ですよってことを
ご両親にアピールできればよかったんだ」
続けて言いました
「レミさんを監視する月は壊せないから
その代わり俺は、レミさんを見守る太陽になりたい」
レミさんは泣き出してしまいましたが
俺は何故かもっと泣いていました
二人でぎゅっと抱きしめあっていました
決してレミさんを自由に連れまわすことなんて出来なかったけど
それでもレミさんと、前より過ごせる時間は減ったけど、
1時間でも2時間でも、少しの間でも一緒に過ごしました
時々レミさんちにもお邪魔して、ご両親にも挨拶するようにしました
それでいて、自分も着実に大人になっていこう、と誓いました
−−−−−
レミさん覚えていますか?
吐き出したい気持ちが抑えきれずに、昔話を書きつづってしまいました
今日も夜空には、いつもと同じ月が浮かんでいるでしょう
今の貴方は、もはや何も恐れずに堂々とあの月を見上げているでしょう
貴方の幸せを願っています
離れていても同じ月の下ですから
以上、出産のために里帰りしてる妻のレミにあてた手紙
出典:2ch
リンク:2ch

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