バイク乗りのジーさん

2008/10/31 13:59 登録: えっちな名無しさん

968 名前:技物 ◆i3xpOVARIM [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 20:53:46 ID:q+sC0zh7
 |_|・ω・) バイク屋だけど語ってもいい?
 |文|⊂ ノ お客人と俺とのお話だが。  
 | ̄|AJ  色っぽい話はないけどさ。



969 名前:774RR[sage] 投稿日:2008/10/30(木) 20:57:25 ID:VcLNcIIG
お願いします。
つ?


971 名前:技物 ◆Lt/lPb0.I. [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 21:08:17 ID:q+sC0zh7
 |_|・ω・)
 |文|⊂ ノ  じゃーいくね。
 | ̄|AJ

バイク屋稼業ももう何年も経つけど、俺がまだ独立してすぐのころ。
俺は貧しくも公私混同を由としながらパンの耳を齧って一人で
店をきりまわしていた。

俺が朝、役所周りを終えてギリギリで店をあけると、滑り込むように
停車したリード90・・・と。なんかすげーじーちゃん。
どう見ても明日お迎えがきそうなかんじ。バイクを降りた瞬間に
杖が要るんじゃないかっていうじーちゃん。
かっ飛ばしてきたわりには人間はヨボヨボなんだよな。

「おい!2ストオイルはあるかい!」

そんなに怒鳴らなくても聞こえてますよ・・・なんていわないよ。
あるけど俺んちヤマハのオイルしかないから高いけどどうする?
ホームセンターなら安いよ?なんていってみたら。

「いいんだ!おまえんちにあるなら買うから!グズグズいうな!」

おお、気合はいったじいさん。おれこういうじいさんに弱いんだよな(笑
とりあえずオイルを用意して補充。じーさん、どこまでいくの?
とか世間話しつつ、じーさんは帰った。



973 名前:技物 ◆Lt/lPb0.I. [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 21:12:18 ID:q+sC0zh7
俺とジーさんのファーストコンタクト、それはありふれたよくあるものだった。
有象無象のお客、それ以上でもそれ以下でもないはずだった。
しかし、俺が気になったのは、走り去るジーさんの横顔がなんともいえず
楽しそうに見えたことだった。

それ以来、俺が仕事をしてると店の前を驚異的なスピードでぶっぱしる
ジーさんを頻繁に目撃するようになる。


・・・いつも楽しそうだなぁ。次にくるのはオイルが切れるころか。
しかしタイヤの空気とか気になるなぁ。


俺の思っていることとシンクロするように、翌日ジーさんが来店した。


「おい!空気入れてくれよ!」



俺は、なんとなくニヤッとした。


974 名前:技物 ◆Lt/lPb0.I. [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 21:18:18 ID:q+sC0zh7
はいはい判りました、ちなみにどれくらい空気いれてないん?
つーかこのタイヤやべぇぞ。エア入れたらヒビが凄まじいしよ・・・


「あん?最近はスタンドも空気入れやがらねえんだよ!」


だよな・・・最近そういう店増えたよな・・・
ジーさん、空気入れるのは銭いらんから、週に一回はおいでよ?
よく見かける人に事故られちゃさすがに寝覚めわりぃからさ。


「おう、そうかい!俺ここの裏に住んでるからよらせて貰うわ!」


どうぞどうぞ。良く見ると手入れはいいリードですね。
やっぱり昔は色々乗ってましたか?


「もともと機械すきなんだよ。俺軍人だったしな!」


・・・あんたは何歳だ・・・






ジーサンは、いつものように楽しそうにエンジンを掛けステキに加速して
店を飛び出していった・・・


976 名前:技物 ◆Lt/lPb0.I. [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 21:25:53 ID:q+sC0zh7
それからというもの、ジーサンはヒマがあれば店にきてお茶を飲みながら
色々とヨタ話をするようになった。


・・・大昔の戦場の話が多かったな。


嘘かホントか知らないが、中曽根康弘と同い年で、自分の方が海軍では
先輩なんだとかモテモテでモテモテでどうもならんかったとか色々・・・
べらんめえな口調もあって、俺も遠慮ナシに話せる感じだった。が。


「息子夫婦がうるせぇんだよ。バイクなんて乗るなって。」


え?ジーさん、いまさら自転車とか車とか運転できんの?


「・・・正直ムリだよ。あいつらは何もわかっちゃいねぇ。俺はバイクに乗ってるから
 好きなときに行きたいところにいけて楽しく暮らしてるって言うのによ。」



・・・俺は、どう言葉を掛けていいか詰まってしまった・・・


978 名前:技物 ◆Lt/lPb0.I. [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 21:35:51 ID:q+sC0zh7
「・・・今日もよ。ホントはバイク買い取って欲しくて来たんだよ。
 怪我したらどうすんのって家族も煩いからな。」


違う。それは絶対に違う。


ジーさんよ、今バイク降りたらどうやって暮らすの?自転車漕げないくらいに
あんた足弱いだろ?車の運転できるほど周り見えてないだろ?
リード90だから回りを見渡して好き放題に運転できてるんじゃないのか?


「そうだよ。息子達はそこんとこわかっちゃいねえんだよ。
 俺なんてもう90歳だ。階段から落ちて骨折しても寝たきりになるし、
  それはバイクで骨折しても同じだろう?同じ結果になるなら少しでも
   自分の好きなようにやって死にてぇ。あいつらはわかってねぇ。」


そうだろ?今の体力で好き放題に遊べるおもちゃがあるから釣りに行ったり
映画いったりできてんだろ?だから、降りちゃダメだ。
そうやって外の世界と繋がらなくなったらボケるよ?生きてる意味もなくなるぜ?


「・・・あんた、面白い奴だな。そういう奴、久々にみたよ。」



結局、家族の大ブーイングを俺自身も喰らいつつ、買取の話はなくなった。


979 名前:技物 ◆Lt/lPb0.I. [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 21:47:28 ID:q+sC0zh7
ちょうど、真冬になろうかっていう時期だった。
ジーさんがいつものように店にきた。なんだかすこし元気が無かった。


「なんかよ、最近動くのしんどいんだ。億劫なんだよ・・・」


今年は寒いしね。少しは体を大事にしネーとだよ?
ひ孫が生まれるとか普通な年なんだからさ?


「バカやろう!だからボケないようにバイクに乗るんだよ!」


はいはい、判りました。その元気があればあと10年は生きますよ(ry






それが、おれがジーさんをみた最後の姿になった。



980 名前:技物 ◆Lt/lPb0.I. [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 21:55:35 ID:q+sC0zh7
やがて季節が春になり、俺はジーさんを気に掛けながらも日々に追われ。


夏。


「すいません!このバイク修理をお願いします!」


30代と見受けられる男が見覚えのあるリード90を押して来た。
あれ・・・?そのバイク・・・?


「祖父のものです。動かしてなかったのでいろいろ不具合ありますので
 動けるようにしていただけますでしょうか?」




あ・・・ジーさん・・・亡くなっちゃったの・・・?




982 名前:技物 ◆Lt/lPb0.I. [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 22:04:32 ID:q+sC0zh7
「いえ、祖父はまだ存命です。ただ、入院中ですが・・・」


聞けばうちからの帰宅後に体調を崩し入院しているのだという。
快方に向かってはいるのだが寝たきりになるかもしれない
自分を悲嘆して誰とも話したくないとふさぎ込んでいると。


「このバイク、直してください。今の祖父はまたバイクで自由に遊べること
  くらいしか希望を見出せないんです!!」


・・・おまえら、気付くのおせぇよ・・・


わかった。もう、ジーさんにバイク降りろなんていうなよ?それと
元気になったらまた遊びにきてくれよ。俺からのお願いはそれだけ。
もちろんお金は貰うけど、ジーさんに請求するのも悪いから貴方の
親父さんと貴方が負担して徹底的に手を入れるの。OK?



「わかりました。お金のことは・・・」



源チャリなんだから、たかが知れてるよ・・・しんぱいしなさんな・・・






983 名前:技物 ◆Lt/lPb0.I. [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 22:13:34 ID:q+sC0zh7
そこから、俺はジーさんのリード90修理に取り掛かった。


・・・初期型(ライトの消灯が可能)なのにやっと2万キロかよ・・・(当時2005年)
まず、タイヤを交換しブレーキ類そっくり新品交換。
ボールレース、ホイールベアリング交換。ショックユニットも新品投入。
エンジンも下ろしてクランクまでOH。折角だから錆びもタッチアップしておこう。
細かい部分はきりが無いが、フレームと外装以外は手を入れる勢いで頑張った。
俺多分確実に偉かった。


ナンだかんだと丸二日、掛かりきりで作業して新車のようにリードはよみがえった。
てか新車よりよくなってね?シメに超絶洗車して鬼ワックス。シールドもアルミバフ
掛けて新品の艶をもどしておいた。



「有難うございます。祖父の病室から見えるところに置いて置きます。」



数日後に家族が引き取りにきて、そう言った。



984 名前:技物 ◆i3xpOVARIM [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 22:31:07 ID:q+sC0zh7
リードにかまけていたが、夏は忙しい。溜まった仕事を片付けながら
ジーさんをきにかけつつ。また、冬の匂いが漂う時期になっていた。
ふと。じーさんのことを気に掛けていると。

ビィイイイイン!!ビィイン!!

・・・おい。

「よ!久しぶりだな!色々手間掛けたねぇ!」

・・・あんた、死にかけてたんじゃないのかよ。

「おめーさんにお礼言うまではしねねぇからよぉ!」

・・・そうじゃなくて。

「家族もガタガタ言わなくなったんだよ!ありがとな!」

・・・ま、いっか。

「店長、あんただっていつかはこうなるんだぜ。好きなように動くこと自体が
 出来なくなる日がくるんだぜ。覚えておきなよ、それがどんだけ歯痒いか。
  俺にとってバイクは欠けた体を埋めてくれる相棒なんだよ!」

・・・・

ビシイイイイイイイイイイイイン!!!

いっちまう。ジーさんは、ほぼ一年ぶりの感触を楽しむように、加速する。
レーサーレプリカにもハーレーにも乗れないジーさんに、なにかとても大事なことを
教わった気がした。



986 名前:技物 ◆Lt/lPb0.I. [sage] 投稿日:2008/10/30(木) 22:38:15 ID:q+sC0zh7
-エピローグ-

ジーさんは、いまも店にくる。体調もあって頻度は落ちたけど。
そして、俺に説教臭いことをいう。俺はそれが嫌いじゃない。


「店長だって10年後には50代に近いんだろ?いつまでも若いとおもうなよ?」


「おまえだって階段の上り下りきつくなることあるんだぜ?」


「だから、バイクじゃないとだめなんだよ。」


「階段で転んで骨折しても、バイクで転んでも寝たきりになるのは同じだぜ?」



今の俺にはわからないこともあるけど。すごく考えさせられたね。
泣けるかどうかはわかんないけどさ。

出典:バイクにまつわる泣けた話【4発目】
リンク:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/bike/1213528012/

(・∀・): 370 | (・A・): 100

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