誓い(宮大工番外)

2008/11/17 09:18 登録: えっちな名無しさん

今夜は、風熊が遭遇したオオカミ様の少年の話をお送りしよう...

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葉月が本来往くべき処へと向かった後、俺はふら付いた沙織様を抱き止めた。
「ひとの身だと、思うようには行きませんね」
額にびっしょりと汗をを貼り付かせて微笑む沙織様の軽い体を抱き上げ、
とりあえず居間のソファーへと運んで寝かせる。
祐樹に水を持ってこさせ、沙織様に手渡す。
「風熊さん、そんなに気を使っていただかなくても大丈夫です。
 それより、そろそろ昼ご飯の支度をしなきゃ」
俺は沙織様に休んで下さるようにお願いし、食事は何か買って来る様に提案した。
「お客様にそんな事させられません...」
「俺達は客じゃない。俺は沙織様も宮大工氏も
 本当の家族の様に想っています。ご迷惑ですか?」
俺は本気で、想いを込めて語りかけた。
沙織様はちょっと驚いたように眼を見張ったが、微笑んでくれた。
「そんな、迷惑だなんて...。とても嬉しいです。」
「じゃあ、俺の言う事を聞いて下さい。
 沙織様の手料理は、今夜頂きますよ」
「・・・はい、じゃあ今夜は腕によりを掛けますね」
沙織様に近所の弁当屋さんの場所を聞き、祐樹が買いに出掛けた。

少しすると沙織様は顔色も良くなり、回復したようだった。
そして、汗を流したいからとバスルームへ向かった。
俺はその間に宮大工氏のバイクの様子を見る為、ガレージへ向かった。
ガレージの照明を点け、バイクの脇にしゃがんでオイルの量や外観チェックをする。
エンジン掛けてのチェックは飯食ってからだな、
等と思いながら続けていると背中に誰かの気配を感じた。
祐樹が帰ってきたのかと振り返ると、そこには見知らぬ少年が立っていた。
只者ではないその雰囲気と、しっくりと馴染んだ神官服。
そして、沙織様に似た美しい顔立ち。
俺はバッと立ち上がり、彼に正対した。
そして直感した。この方は・・・!
漆黒の深き瞳に俺は目を奪われ動けなくなった。
彼は何も言わずに俺の目を見つめている。
その時、俺の精神の中に彼の言葉が響いた。

「沙織にとって、人の身での奇蹟は現世で危うい事も有る。
 だが○○殿も沙織も、我が身よりもひとの心を重く見る。
 貴方は彼らの、沙織の家族となった。
 ならば、貴方が彼らを助け護って呉れる様希む...」

俺の脚はガクガクと震えていた。
心の底から湧き上るような高揚感と喜びによって。
そしてその瞬間、バスルームで倒れる沙織様のイメージが浮かんだ。
「あっ!」
自分の声で我に返ると、ガレージに居たはずの俺はソファで横になっていた。
「夢...?」頭を振りながら起き上がる。
その時、バスルームからガタ、と物音が聞こえた。

「!」
俺はバスルームへ向かってダッシュした。
「沙織様!沙織様!どうかしましたか!?」
ドアの前で声を掛けるが返事が無い。
もう一度、今度は怒鳴るように沙織様に声を掛けるが返事は無い。
俺はドアを開け、脱衣場へ入る。そしてもう一度声を掛けるが返事は無い。
俺はもう迷わずにドアを開けた。
そこには、沙織様の白い肢体が倒れ臥していた。
脱衣場からバスタオルを数枚持ち出し、沙織様を包んで抱き上げる。
居間へと出たところで帰ってきた祐樹と鉢合わせた。

「祐樹!救急車!」一瞬で事情を了解した祐樹が携帯を取り出す。
俺はその間に沙織様をソファに横たえ、
濡れたままの体と艶やかな黒髪をバスタオルでぬぐいながら
息遣いと脈を確認した。とりあえず、息遣いは正常。
脈がちょっと早いが、不整脈は出ていない。
そこまで確認したところで、沙織様がうっすらと目を開けた。

「・・・私、立ち眩みがして・・・倒れちゃったの・・・」
「喋らないで。今救急車呼びましたから」
「そんな...大丈夫です...」
「駄目です。貴女とおなかの御子にもしもの事が有ったら、
 俺も祐樹も宮大工氏に腹切って詫びなきゃならない」
冗談めかして言う俺の言葉に沙織様はくすっと微笑む。
しかし、俺の言葉は本心だった。

数時間後、宮大工氏や晃さん夫妻も駆けつけた病院で
沙織様もお腹の御子も異常なしとの診断結果が出た。
宮大工氏宅で留守番している祐樹にも電話をして安心させる。
病室で宮大工氏に手を握ってもらってニコニコしている沙織様。
俺はそれを見て心が温まるのを感じながら、宮大工氏に土下座した。
宮大工氏は俺を抱き起こし、気にしないでくれと言って下さった。
俺達は家族なんだから、と。驚く俺に沙織様がウインクする。
「まったく!ホンットにこのおたんこ娘は後先考えないんだから!
 こんなんで良く神様やってたわよね〜もう!」
優子さんがプンスカ怒っている。
「だから、神様落第として人に転生させられたんじゃないの?」
晃さんがにこやかに酷い事を言う。
「おまえらなぁ...」「ひっど〜い!」苦笑する宮大工氏と抗議の声を上げる沙織様。

俺は、この大切な人達の為なら、命も惜しくないと心から思った。


出典:現代不思議忌憚異聞録
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