聖女融同(宮大工番外)
2008/11/17 09:23 登録: えっちな名無しさん
私が○○様の所へ嫁いで一ヶ月くらい経ってからの事です。
優しく、そして暖かく私を包んでくれる○○様との生活は楽しく、
とても満たされたものでしたが、それまで大騒ぎだった状態が落ち着き、
心身に余裕が出来た所で思わぬ事態が生じました。
私が沙織として生きてきた二十年の生の記憶と、
人ではない、神の端くれだったそれ以前の記憶、と言うか意識。
この二つがせめぎ合い、精神的に疲れてしまったのです。
強大なかつての意識に押され、人としての意思は叫びだしたいほど辛いのに
悠久の時を超えてきた意識は達観した様に人の感情の起伏を抑えようとします。
そんな事が重なる内、二十歳の娘としての意思が暴発して
私は自傷行為に及んでしまいました。
幸い遊びに来た優子さんが発見してくれて大事には至らなかったのですが、
○○様は夫として配慮が足りなかったととても落ち込み、
しばらく仕事を休んで付き添ってくれました。
そのお陰で精神的にも落ち着き、一時は回復しました。
しかし、○○様が傍に居てくれないとどうしても不安で、苦しくて
ついお酒に逃げてしまうようになりました。
元々がお酒に目が無いモノだった上に人としてもお酒に強い体質で、
○○様が帰ってくるまでは完全に酒浸りで、
少なくても一日一升の日本酒を空けてしまうようになりました。
幸いそれによって健康を損ねる事は無かったのですが、
このままではいけない、と思いつつも○○様に隠れて飲酒する日が続きました。
ある日、○○様を仕事にお送りしてから掃除と片づけ、買い物を済ませ、
いつもの様にお酒を飲み始めた時の事です。
グラスに注いだお酒をぐっと飲み干し、
ふう、と息をついた目の前にあの少年が立っていました。
本来、神の本当の名を現世で表現するのは難しい事なのですが、
人として転生する前、彼の事を私は”朧”と呼んでいました。
かつて信じあい、結ばれ合っていた頃の彼より姿が幼くなっていますが
優しさ、そして深さはまったく変わっていない瞳で私を見つめています。
心を違え、彼を裏切るような事をした私を
責める所か庇い助けてくれた朧に対して
お酒に溺れるみっともない姿を晒してしまった事を恥かしく思い、
私はしくしくと泣き出してしまいました。
すると突然”沙織ちゃん、泣かないで...”
という女性の声が聞こえて来ました。
私が顔を上げると、朧の隣に綺麗、というより
とても可愛らしく優しげな女性が立っています。
朧よりも、頭一つほど高そうなその女性は初見なのに
どこか懐かしく、とても愛おしい雰囲気を持っています。
彼女がにっこり微笑んだ時、誰なのか私は気付きました。
「詩織...姉様...」
そう、その笑顔は私の大好きな姉のものでした。
その女性が詩織姉様の成長した姿と悟り、様々な意味で私は混乱しました。
朧が口を開きました。
「ヒト一人の精神力では巨大すぎるかつての意思に耐え切れるものではない。
だが、信じ合い、慈しみ合う二人のヒトならば乗り越えられると主は仰った。
そして、貴女には信じ合い、慈しみ合える存在がここに在る。」
はじめ、私は朧の云わんとしている事が理解できませんでした。
しかし、朧の隣で微笑んでいる詩織姉様と目が合い、瞬時に理解しました。
”沙織ちゃん、私はあなたの中で生きるために、 朧様に修行をさせて頂いたの。
今の私とあなたなら、オオカミ様の意思を受け止められる...”
「でも、でもそうしたら姉様はどうなるの?」私は疑問を口にしました。
「彼女は、貴女の中に取り込まれる。
しかし、それは彼女の消滅を意味するものではない。
貴女がかつての意思を取り戻す前、夢で詩織に逢っていた時に戻るのだ。
そして、貴女の中で、沙織、詩織、かつての意思が共存していく事になる」
”沙織ちゃん、私はあなたと一つになれることがとても嬉しい。
そうすれば、私も○○さんのお嫁さんになるのと同じだしね”
悪戯っぽく、可愛らしく微笑う詩織姉様を見て、
私もとても幸せな気持ちになりました。
「ありがとう、姉様...そして、朧。本当に貴方には感謝します...」
私はさっきとは違う、とても熱く満たされた涙を流していました。
私が立ち上がると、詩織姉様がすう、と近づいてきます。
両手を胸の高さに上げ、私と姉様は
両手の指を絡めてからまるでキスをするように顔を近づけました。
そして、詩織姉様はそのまますーっと私の中へ入ってきました。
その瞬間、今までせめぎ合っていた心が融け合うようになり、
重く、痛かった想いが霧散していくのを感じました。
その後、私はお酒に逃げる必要は全く無くなりました。
お酒好きなのは直りませんけれどね。
今でも私が困る時、悩む時には意識することなく姉様と通じ合います。
それどころか、姉様はおなかの赤ちゃんともお話しているみたいなんです。
でも、その事を聞くと姉様は「生まれてからのお楽しみ」
と悪戯っぽく言うだけで教えてくれません。
出典:現代不思議忌憚異聞録
リンク:http://kangenpatsu.blog83.fc2.com/

(・∀・): 35 | (・A・): 19
TOP