廃村怪奇譚(宮大工番外)

2008/11/17 09:26 登録: えっちな名無しさん

宮大工氏の中学時代の話をお届けしよう...

この話は、正月に宮大工私宅を訪問してきた
彼の幼馴染の方々から聞かせていただいた...
少年の頃から正義感が強く、ケンカは小学五年生時点で中学生よりも強く、
しかしガキ大将にはならず、弱きを助け強きを挫く男だったとの事...

そんな彼の子ども時代、友人達と山奥の廃村へ冒険に行ったときの話...

それでは、お聞き頂こう...

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜その頃、中学に入ったばかりの彼らの間はこんな噂話で持ち切りだった。
「XX山の奥に有る、二十年位前に村人が全員ふもとに下りてきて
 廃村になったA村に幽霊や妖怪が出るらしいぞ」
「隣町の中学の連中が大勢で肝試しに言って、何人か死んだらしい」
今考えれば他愛も無い噂話に尾ひれが付いただけなのだが、
中学生になりたてのやんちゃ坊主達にとっては
この上なく興味をそそられる話だった。
まだまだ小学生のままだった彼らは、体育館裏で
早速廃村への一泊キャンプ冒険行を計画した。
しかし、いざ行こうとなるとあと一息の気合が出ない。
そんな時、悪ガキ連の一人が言い出した。
「なあ、○○(宮大工氏)も誘わないか?」
「ああ!そうだな!○○ならケンカ最強だし、親父達の信用も絶大だし」
「だけど、アイツが来てくれるかな...?」
「日曜も(宮大工の)修行してるしな...」
「う〜ん...」
悪ガキ連は頭を抱えてしまった。

「こらっ!また悪巧みしてるな!」
「うひゃあっ!」「おわあっ!」
突然響いた声に、飛び上がらんばかりに驚く悪ガキ達。
「きゃははは!ビックリした〜?」
「な、なんだ、真美先輩か...脅かさないでよ」
驚かしたのは彼らよりも二年先輩で、剣道部副主将の真美だった。

真美は小学生の頃から男勝りなお転婆少女で、小学三年生から始めた剣道は
かなりの腕前であり、また野山を駆け回って男子と遊んでいた。
面倒見の良い姉御肌で、男女問わずに慕われていた彼女は宮大工氏と気が合い、
また宮大工氏と並び上級生キラーとして名を馳せており、
無体な苛めをする上級生とは一歩も引かずケンカし、殆ど勝利を収めた。
彼女が中一、宮大工氏が小五の時、スーパーでカツアゲされていた
四年生を助ける為、隣村の中学生数人を二人で叩きのめしたのは伝説となっている。
「そうだ!真美先輩も誘い込めばアイツも乗ってくるかも!?」
「ん?なんかおもしろい事有るの?」
「実は...」
真美はその話を聞くと目を輝かせ、参加を表明した。
更に、剣道部の後輩の女の子も二人連れて来ると。
悪ガキ達は違う意味での期待にも燃える事となった。

「悪い、俺は行けないや」
いきなりキッパリ断られ、呆然とする悪ガキ連。
「だけど、真美先輩も行くんだぜ?」
「今、親方に欄間の彫りを習ってるんだ。
 面白そうだとは思うけど、休むわけには行かないし...」
「ふ〜ん、○○クンは私と一緒じゃイヤなのね?」
ひょっこりと顔を出した真美に宮大工氏もたじろぐ。
「真美ちゃんには悪いけど、今回はちょっと無理だよ。」
「あ、そう。そういうこと言うんだ。ヒドイなぁ...
 あんなに息の合った私達ももうすっかり他人なのね。」
真美は宮大工氏の耳元に口を寄せ、ボソッと呟いた。
 「・・・卒業式のキスの事、皆に言っちゃおうかなぁ・・・?」

二週間後、親方から「たまには遊んで来いや!」
と快諾された宮大工氏も加わり、男子四人、女子三人の悪ガキ連が
自転車に乗り、意気揚々と林道を走っていた。
未舗装とはいえ、一応廃村までは林道を走っていけば行ける。
また、廃村とはいえ元住民や有志の管理も有り、民家の多くは
朽ち果てることなく残っているので、寝袋や毛布さえあれば
寝るのに困る事は無い。
米や飯盒、カレー用の材料などを持ち殆ど遠足気分だ。
親達には、キャンプしに行く、とだけ言ってあり、
「○○と真美先輩が一緒に行くんだ」
と付け加えるだけで全く咎められることは無かった。
土曜日に学校が終わってから出発し、途中に有る素掘りのトンネル等で
きゃあきゃあ騒ぎながらまだまだ明るいうちに到着。
泊まる家を男女別に決め、マキを集めて女子の家の方でカレーを作り始め、
男子は簡単な掃除と釣りなどをして夜まで過ごした。
カレーも食べ、すっかり暗くなってから、待ちに待った怪談が始まった。

「この村のドン尽きに有る神社の境内で化け物が踊ってるらしいぜ・・・」
「この家の裏手に有る古井戸の中には、昔殺されて放り込まれた
 女の怨念が染み付いていて、夜になると浮かんでくるってよ・・・」
どこかで聞いた事の有る怪談ばかりだが、電気も無い、藁葺き屋根の
古民家の囲炉裏の廻りで語られると背筋が寒くなる。
始めは平気がっていた女子も、段々本気で恐くなってきたらしく
涙目になり、「もうやめてよぅ...」等とつぶやいている。
計画していた神社までの夜の散歩も誰が言うとも無く取りやめとなり、
怪談を語る者も居なくなり静寂だけに包まれてきた。
「なんだよ、皆ビビッちゃってさ!」
中でも一番小心な次郎が溜まりかねて声を上げた瞬間。
「しぃっ!」
今まで黙っていた宮大工氏がそれを制した。
「・・・話し声がする。」
「あたしにも聞こえたわ...」真美が答える。
凍ったような静寂の中、子供達の耳にぼそぼそと何者かの声が聞こえ始めた。

(・・・今夜はうまそうなもんが居るらしいぞえ?)
(・・・ほうほう、近頃は獣しか喰っとらんからのう・・・)
村外れの神社の方角から話し声が聞こえてくる。
しかも、その内容は穏かではない。
いつの間にか、宮大工氏の廻りに全員が集まっていた。
「・・・かなり危ない、かもしれない」
彼の呟きに、真美が体をビクッと振るわせる。
他の連中は恐怖で声も出ない。女の子は二人とも半泣きだ。

「とにかく、この家から出よう。男の泊まる家に隠れるんだ
 窓から出て、気付かれないように。向こうの家に入ったら
 梯子で二階に上がるんだ。皆上がったら梯子を引き上げて。
 俺が様子を見てるから、真美ちゃん、皆を連れて行って」
宮大工氏が小声で指示する。
真美は頷くと、女の子を連れて窓から出て行った。
玄関の引き戸を少し開け、様子を見る。
すると、うっすらとした灯りを持ったモノを先頭に、
ぞろぞろと歩いてくる人影が見える。
まだ距離が有るのでハッキリとは見えないが、明らかに普通では無い様子だ。
足がすくんで動けなくなった次郎を運ぶのに手間が掛かり、
宮大工氏が逃げだそうとした時には一団はすぐそこまで迫っていた。

今からでは、皆が隠れている家に辿り着く前に見つかってしまう。
宮大工氏は覚悟を決め、家の中で隠れる場所を探した。
すると突然、開いた窓から真美が入って来た。
「真美ちゃん、なんで戻って来たんだ!」
「だって、○○クンが来ないんだもん!」
涙をポロポロこぼしながら真美が抱きついてくる。
しかし異形の一団はもう目の前まで迫ってきているのでときめく余裕など無い。
真美を押して二階に上がり、梯子を引き上げる。
梯子を床に置くのと同時に玄関の引き戸が開き、異形の集団が入ってきた。

提灯を持った狸を先頭に、頭が異様に大きいお坊さん、
袋を背負った恵比寿様の様な老人、頭が二つある着物の女性、
羽織を着た二本足の巨大な猫・・・
床の節穴から階下を覗いていた二人は息を呑み目を離した。
覗いていると見つかりそうな気がしたからだ。
(・・・囲炉裏に火が入っているが誰も居ない・・・)
(逃げたかのう?それとも隠れて居るのかのう・・・?)
(くんくん、子供の良い匂いがするぞえ・・・)
(ほう、子供か。娘は居るかのう・・・?)
(男は直ぐに喰らおう。娘は嬲ってから喰らおう・・・)
真美の歯の根がカチカチと鳴っている。

一体、この異形の一団はなんなのだろうか...?
(まずは、この家を探すとしようか・・・)
(そうじゃのう、それではワシは上に上がってみるかのう・・・)
真美が「ヒッ!」と小さく悲鳴を上げてしまう。
(おお、やはり上になんかおるのう・・・)
(ど〜れ、上がってみるかのう・・・)
二人はぎゅっと抱き合い、固唾を呑んだ。

(さて、どうやって上に上がるかのう...?ハシゴは無いかえ?)
(ふうむ、探して来ようかのう...)
抱き合っていた二人は顔を見合わせた。
ひょい、と飛び上がってでもくるものかと思ったら、
そういうことは出来無いらしい。
節穴から下を見ると、誰か残るのかと思いきや
一団は揃ってぞろぞろと出て行くところだ。
窓から外を覗くと、他の皆が隠れている家の方へと向かっている。
とりあえずは一息つけたが、また戻って来るのは間違い無い。
宮大工氏がなにか妙案はないかと考え始めた時、真美の悲鳴が聞こえた。

「○○クン!みんなが見つかっちゃったみたい!」
「ええ!?なんで!?」
皆の居る家の方を見ると、悲鳴やら大声が聞こえている。
「妖怪たちが家に入ったとき、誰かが悲鳴上げちゃったみたいなの。
まだ、妖怪たちは二階に上がれてないみたいだけど...」
しかし、このままでは時間の問題だろう。
「・・・よし、俺が降りてあいつらを引き付けて見る。
 真美ちゃんはココに隠れてて、あいつらが居なくなったら
 急いで神社のお社にみんなを連れて駆け込むんだ!」
「いやぁ!○○クンが居なくなったら...あたし...
 そ、それに神社なんてもっと恐いじゃない!」
「大丈夫。神社は神様のおわす所なんだから恐くないよ。
 入ったら、ちゃんと神様にお願いするんだ。
 護ってくださいって。そして、護ってくださったら
 お社のお掃除をさせて頂きます、って。
 そうすれば必ず護って下さるよ。
 俺もあいつらをまいてから神社へ逃げるから。」
真美はちょっと迷っていたが、コクリと頷いた。

「よし、それじゃあ行くよ。」
「必ず、無事に神社へ来てね!」
宮大工氏は真美に笑顔でうなずき、窓から屋根に出ると草むらへと飛び降りた。
そして、大騒ぎとなっている家の前まで行き、大声で叫んだ。
「おーい!こっちだよ化け物!出て来いよ!」
騒ぎがピタッと収まり、玄関から二つ首の女が現れた。
「おや...?可愛い男の子が居るよ?」
二首女はにやあり、と笑い外に出てくる。
案の定、その後に異形の一団がぞろぞろと続いて来た。
「ほうら、こっちだこっち!鬼さんこちら!」
ぞろぞろと出てくる化け物達を直視しない様にしながら
一定の距離を開けて走る。神社とは逆の村外れへ向かい、
徐々に誘導する事に成功していた。

十分ほど引き付け、そろそろ潮時かと思い叢に姿を隠す。
宮大工氏の姿を見失い、戸惑っている一団が騒いでいる横の叢を
忍び足で掛け抜け、なんとか神社へと辿り着く。
社の中には真美に連れられた悪ガキ連が身を潜めて震えていた。
「○○クン!」
飛びついてくる真美を抱き止め、全員居る事を確認して安堵する。
そして、社の奥に向かって一礼し、お護り下さる様お願いした。
しばらくして、異形の一団がやってくるのが見えてきた。
しかし、鳥居の前まで来てなにやら騒いでいる。
あそこから入ってこれないのでは?と期待したが、
一団はぞろぞろと行進を再開し、お社の前までやってきてしまった。

(社の中にいるぞえ...)
(お〜い、何もしないから出ておいで...)
(出てきたらご馳走を食べさせてやるぞえ?)
(楽しい遊びをしないかえ?)
皆、震えながら蹲っている。
「大丈夫、この中には入って来れないはずだ」
呟きながら、余りの異様な光景に冷や汗が止まらない。
とにかく、早く朝になる事を祈るしかない。
(この社は、今は留守じゃろう...入っちまっても構わんのじゃないかえ?)
(じゃが、あやつらに知られたらまずいじゃろう)
(なあに、大丈夫じゃ。ワシが入ってみよう)
冷や汗が脂汗に変わった。
宮大工氏は一心不乱にお護り下さる様に祈った。

着物を着た巨大な猫が社の階段を上ってくる。
賽銭箱をまたぎ、戸に手を掛けた瞬間。
「ミギャー!」
悲鳴を残して化け猫が吹っ飛ぶ。
何事が起きたかと驚く妖怪達の前に白い靄がわだかまり、
巨大な白犬が現れる。次の瞬間、犬は人に姿を変えた。
社からは後姿しか見えないが、神官服を着た若い男の様だ。
妖怪たちは驚き、じわじわと後ずさっている。
「去ね」
男が短く言葉を発した。
妖怪たちは名残惜しそうに、すごすごと鳥居を潜り去っていった。
ハッと気付いた時にはもう男は消えており、いつの間にか
宮大工氏以外の皆はへたり込んで寝こけていた。
心の中で神様にお礼を言い、真美の隣に寝転ぶ。
腕時計を見ると、ちょうど午前三時になった所だった。

翌朝目を覚ますと眩しい朝日が昇ってきている。
昨夜の出来事など、思い出してみても全く現実感が無い。
全員殆ど無言のまま、箒を探してきて社を掃除し、
お礼を言ってから朝食の用意をする。
朝食を食べながら、大人には絶対内緒にする様に皆で誓い、村を後にした。
あの廃村での怪異の一夜は、果たして現実だったのか、
皆で見た夢なのか、今だに解らない。

出典:現代不思議忌憚異聞録
リンク:http://kangenpatsu.blog83.fc2.com/

(・∀・): 32 | (・A・): 21

TOP