鬼討神爪(宮大工番外)

2008/11/17 09:45 登録: えっちな名無しさん

さて、しばらくご無沙汰してしまったが、皆様はどのような夏休みをお過ごしだろうか…?
自分は、少々身の廻りに変化があり、これからをどうするか思案しつつ
宮大工氏の地元へしばらく滞在していた...

そして、そのおかげで最高の瞬間に立ち会う事が出来た。

そう、沙織様の御出産である。

珠の様な双子の御子は長女及び長男であった。
また、御出産日は今の所は伏せさせて頂く事をご了承頂きたい。
御出産時、病院の周りに三対の守護神獣、そして病院内には朧様が現出なされた。
自分も朧様とお会いする事が出来、感激した...

風熊も北海道からの帰りに寄り、立ち会うことが出来た。
そして、新たに護るべき御子をご両親の次に抱かせて頂き、感激に涙していた。
朧様に拠れば、
「御子は無事に誕生したがこれから二人が大人になるまで様々な事が起きるであろう。この二つの小さな命を護り、健やかに育てられるかどうかで人の世の価値が試される」そうである。
宮大工氏と沙織様という偉大なるご両親の元であれば間違いなど起き得る筈も無いが、我々も力の限りお手伝いをして行ければと思う。
皆様も御子の為にお祈り下されば幸いである...

それでは次回から、今回も姿を現した三対目の守護神獣について
沙織様から聞かせて頂いたお話を綴って行こうと思う。
ご期待あれ...

宮大工氏よりの皆様への御礼の言葉である。

「この度は、私と沙織の子供の誕生を多くの方にお祝い頂きまして
 真にありがとうございます。
 皆様からの暖かいお言葉と、お祈りは遠い距離や時を隔てても
 しっかりと我々の元へ届いております。
 我々の二人の赤子にどれほどの力が有るのか、
 またこの日本の為に力となる事が出来るのかなどは解りませんが、
 今は愛しき妻と二人、健康に育ってくれれば良いと話しております。
 また、我々の子供には血族以外にも、風熊氏・J氏をはじめとして
 たくさんの家族が居てくれます。
 もちろん、このサイトをお読みになり、我々を想って下さる方々も
 すべてこの子らの大切なる家族と思っております。
 今までも、そしてこれからもどうぞよろしくお願いいたします。」

朧様の仰っていたお言葉は、二人の御子だけではなく
日ノ本のすべての子供に当て嵌まるだろう。
未来を背負い立つ子供達が健やかに、正しく育って行ける国にしなければ、
日本の、いや世界の未来は無いであろう...

さて、それではお待たせしていた三対目の守護神獣のお話をお届けしよう...

 私(沙織様)が中学生の時の事です。

父に連れられて中国地方へとドライブ旅行に出掛けました。
当時、父は買ったばかりの大型ワンボックス車でのキャンプに嵌り、
今回も日程中の宿泊の半分はテント、もしくは車中泊となり、
私は結構楽しみでしたが母は少々うんざり顔でした。
鳥取砂丘でキャンプした後、海岸沿いにゆっくりと走り
東郷温泉でゆっくりし、そのまま大山の周りの景色を楽しみながら走り、
大山のふもとで車中泊をする為にトイレの有る駐車場を見つけました。
食事も済ませ歯も磨き、十時頃には車の中で家族全員寝息を立てていました。

ズン…ズン…

なにか、地響きの様な音で目を覚ました私は寝袋から身を起こし、
寝ぼけ眼を擦りながら窓のカーテンを開けました。
外は月明かりが煌々と輝き、青白い光の中に大山のシルエットが
大きく黒く浮かび上がっています。

ズン…ズン…

また、地響きの様な音が聞こえてきました。
私は不審に思い、ドアを開けて外に出てみました。
すると、突然目の前に二つの丸い尻尾が現れたのです。

「!?ラビちゃん!ピョンちゃん!」

それは、久し振りに見る二羽の守護卯神でした。
二羽は既に戦闘態勢とでも言うべき状態となっており、
前のめりの構えのままするすると後退り、私を護る様に間に挟みました。
「どうしたの?何をそんなに…」
私は両手で左右の卯に触れました。
「え・・・?」
二羽のふさふさした毛が震えています。
いえ、二羽の全身がカタカタと震えているのです。
「何をそんなに、脅えているの…?」
私は辛うじて声を搾り出しました。
強力無比な守護卯神がこんなに脅えるなんて・・・
その時、大山の黒いシルエットの中から、巨大な黒い影が解れ現れました。

「オオカミの仔が居るのがぁ・・・」
そのシルエットは人型のものですが、あまりに大きく
肩の盛り上がり方が異常で、全体的に不均衡なものでした。
そして頭頂部には二つの突起物が有ります。
目は赤くらんらんと輝き、口には不揃いなカタチの牙が何本も生えています。
私の足も二羽同様にカクカクと震え、我知らぬうちに声が洩れました。

「・・・お、鬼・・・?」

そう、それは紛れも無く鬼でした。
手には巨大な木を地面から引き抜いたままの様な棍棒を持っています。
「げへへ...オオカミとはいえまだ子供なら怖かねぇ...
 喰らっちまえば俺らもオオカミの力が手に入んのかぁ...?」
「だけんど、こんなに小っこくちゃ喰いでがねえぞぉ...
 全員分有んのかぁ...?」
「なあに、指の一本でも喰えばいいんさぁ...
 腹膨らますんなら、力を頂いてから近場のヤツを喰らえばええんだぁ...」
シルエットがどんどん分離し、私達の前には十数体の鬼が現れました。
二羽の卯神は毛を逆立て、必死に気力を保とうとしています。

「どおれ、まずは邪魔な卯の皮でもひん剥いでやるかぁ...」
正面の鬼がのんびりとした口調で言い、次の瞬間棍棒を凄まじい勢いで振り下ろしました。
ぶうん!
唸りを上げた棍棒の脇を擦り抜け、私を咥えたラビちゃんが左に、
ピョンちゃんが右に飛び退きました。
いつの間にか煌々と月明かりに照らされた駐車場が広大な野原の様になっており、
両親を乗せた車も、近くに有る筈のトイレも見当たりません。
ラビちゃんが私を地面にそっと降ろし、紅い瞳をちらと向けると
攻撃してきた鬼に向かって飛び掛っていきました。
それに呼応するようにピョンちゃんも逆方向から鬼に飛び掛ります。
ラビちゃんに気を取られた鬼の首筋にピョンちゃんが噛み付き、
鬼の首から赤黒い血が噴出しました。

「ぐおおおおおおお!」
鬼の怒りの叫びが木霊します。
二羽の卯神は隙の無いコンビネーションで鬼に傷を付けていき、
なんとか倒せるのでは、と私が思った瞬間。

ぶうん!!

唸りを上げて繰り出された他の鬼の棍棒がピョンちゃんの体を捉えました。
「ピイっ!!」
兎が鳴くことはめったに無いのですが、とても強烈な苦痛を受けたとき
小さく泣くことがあります。
「いやあっ!」
ピョンちゃんが小さく鳴き声を上げ吹き飛ばされたのをみて私も悲鳴を上げ、地面に落ちてもがいているピョンちゃんに駆け寄ろうとしました。
その時、いつの間にかこちらに回り込んできた鬼の一頭が両手で私を掴み、
顔の前へと持ち上げました。

ぎゅう、と力任せに掴まれた私は息も出来ずに悶絶しました。
私の上半身ほども有る巨大な顔の前で悶える私をみて鬼はにやりとにやけました。
「へへへ、掴まえたぞぅ・・・オラが一番乗りだ・・・」
生臭い息を吹きかけられ、掴まれたままの私は気を失いそうになります。
ふ、と力が緩み、ようやく息をすることが出来た瞬間。
鬼の爪が私の着ていたパジャマを引き千切りました。
「いやあああああああ!」
下着姿になってしまった私に興奮したのか、鬼は私を舐めようと巨大な口から大きく長い舌をずるり、と出しました。
「やだやだやだ!止めてぇぇぇ!」
泣き叫ぶ私に構う事なく鬼の舌が私に迫って来た時、

ひゅん!

風を切る音と共に私と鬼の間を何かが通り過ぎました。
次の瞬間、鬼の舌がざっくりと切れ、どす黒い血が噴出します。

「ぎぇぇぇぇぇぇ!」

声にならない叫び声を上げ、私を放り出す鬼。
地面へ落ちかかった私を何かがふわっと受け止め、そのまま優しく
地上へ着地してくれました。
「貴女は・・・」
穏やかで優しい色の瞳が背中の私を見詰めています。
逞しく、そして撫でやかなその背中は猪神の妹でした。
その隣に、彼女の三倍は有る巨大なシルエットがどん!と着地しました。
傷だらけの逞しい体、精悍な瞳、下顎から伸びた鋭く長い牙にはたった今切り裂いた鬼の舌がまだぶら下がっています。
そう、そこには「暴れ猪神」が月明かりに照らされていました。

「ぶるるる・・・」
猪神は逞しい首を一振りし、牙に引っ掛かっていた鬼の舌を振り飛ばしました。
「・・・暴れ猪だぁ・・・」
「ヤツは手強いぞぅ・・・」
鬼達は猪神の出現に怯んでいます。
”霞(かすみ)様、ご無事ですか?”
妹猪の声が私の精神に響きます。
霞、というのは私が神の端くれだった頃の名前を
現世で表現した時のモノで、朧と同じと思って下さい。
この頃の私には、何故彼女らが自分をそう呼ぶのかは解りませんでしたが
既にそう呼ばれることには慣れていました。
「ええ、大丈夫。ありがとう」
私は猪神兄妹が出現したことで、大きな安堵を覚えていました。
乱暴では有れど、兄猪の桁外れの強さは幾度か見せ付けられていたからです。
二羽の卯神もこちらへと戻っており、ラビちゃんもなんとか大丈夫そうでした。

しかし、兄猪から響いてきた意識に、私は恐怖しました。
”鬼共の数が多すぎる・・・
 一度にやれるのは俺が三頭、お前(妹猪)が一頭、卯どもが一頭・・・
 (沙織様を)逃がすことも難しいかもしれん”
その間にも鬼どもはじわりじわりと近付いてきます。
「猪には一斉に掛かれぇ・・・」
「押さえ込んじまえばこっちのもんだあぁ・・・」
鬼達は何事かを相談したようで、いくつかのグループに別れて
じわりじわりと近付いてきます。
”霞殿を降ろして卯に託せ。行くぞ”
兄猪に応えて妹猪が私を降ろします。
するとピョンちゃんがふんふんと近付いてきて、
私を咥えるとラビちゃんの背中に乗せました。
ラビちゃんはさっきの打撃で怪我をしたらしく、右足を引き摺っています。
「ごめんね・・・私の為に・・・」
私は申し訳なくて、ポロポロと涙を零してしまいました。
ラビちゃんは首を回して私に頬を寄せ、気にするなとでも言う様に
ふんふんと鼻を鳴らしました。

その時、鬼達が一斉に飛び掛って来たのです。
猪神兄妹は攻撃を避けつつ鬼達に飛び掛って行き、
兄猪は一瞬で鬼一頭の腹を切り裂き、返す刀で首を落としました。
そして次の鬼へと飛び掛って行きます。
妹猪はピョンちゃんとの連携を計り、二人で一頭の鬼を倒しています。
ラビちゃんは私を乗せ、痛む足を堪えながら
出来るだけ戦場から離れようと跳躍しました。
しかし、まるでそれを読んでいたかのように三頭の鬼が
私達の前に立ち塞がりました。
ラビちゃんは咄嗟に方向を変えようと着地しましたが、
痛めた足が動かずにそのまま滑り転んでしまいました。
「あうっ!」
私も野原に放り出され、強かに背中を打ち付け悶絶しました。
「へへへ・・・無駄だよぅ・・・」
一頭の鬼がラビちゃんの耳を掴み、もがくラビちゃんを宙へと持ち上げます。
「止めて!離して!!」
叫ぶ私も鬼に掴まれ、宙へと持ち上げられました。
「さっさと齧ってオラにも寄越せ・・・」
じゃあ、オラは足の先を喰らうだ・・・」
私を持ち上げた鬼は頭の上まで私を持って行き、
ぶら下げる様にするとがぱあ、と口を開きました。

”兄さん!霞様が!”
”ちぃっ!!”
猪神の声が響きますが、彼らも手一杯で余裕が有りません。
「もう・・・ダメ・・・ごめんなさい、○○様(宮大工氏)・・・」
私はふと声に出し、愕然となりました。
○○様って・・・誰・・・?
その時、私の足はもう鬼の口の中にありました。
鬼は弄ぶ様に私の足首をペロペロと舐めています。
「早くしろぉ・・・後が閊えてるだぁ・・・」
「仕方ねえなぁ・・・じゃあ、頂くかぁ・・・」
私は涙を流しながらキッと鬼を睨み付けました。

その時、視界の端に黒くてもこもこした物が蠢き出しました。
「なに・・・?」
私が呟いた瞬間の事です。

ドン!

小さな衝撃が私を、いえ私を喰らおうとしていた鬼を揺らしました。
「ぎゃあああああああああ!!」
私を掴んでいた鬼が絶叫を上げ、横倒しに倒れこみました。
放り出された私をピョンちゃんが受け止めてくれ、
地面へふわっと着地しました。
私達の目の前にはたった今倒れ伏した鬼の足が
本体から千切れ飛んで転がっていました。
私があたりを見廻すとピョンちゃんと同じくらいの大きさの
黒いもこもこがヨチヨチと歩いていました。
そのもこもこの体に比して大きな頭には円らな黒い瞳と
つんとした鼻がヒクヒクと蠢いています。
可愛らしく短い足の先には鋭い爪が光り、首には鮮やかな
白い半月が月明かりに照らされ浮かび上がっていました。

「く、熊神の仔だぁ・・・!」
「なんで・・・こんな所に・・・」
「・・・だけんど、まだ赤ん坊だぁ・・・」
「そ、そうだな、そんなに怖かねぇぞう・・・」
「みんなで掛かるんだぁ・・・」
鬼達が数頭、仔熊に殺到してきます。
「ダメ!逃げて!!」
私が叫んだ瞬間。

「グモオオオオオオ!」
ドン!ドン!ドン!
突然の雄叫びと同時に、強烈な打撃音が響き、
仔熊に向かってきた鬼が全て吹き飛ばされました。
それも、有るものは頭を失い、有るものは袈裟懸けに真っ二つにされて。
仔熊と私達の前にそそり立ち、鬼達を千切り飛ばしたモノ。
逞しい後ろ足で立ち上がり、大きな前足の先には長く鋭い爪を光らせています。
そう、それは巨大なツキノワグマでした。
 
「ぐるるるる・・・」
そそり立つその威容に鬼達は驚き、ざわめいています。
奮闘していた猪神達も驚き、戦が、いえ時間さえ一瞬止まってしまった様でした。
”・・・あれは・・・陸奥の女王・・・”
猪兄の意識が響いてきます。
陸奥の女王・・・?
その時の私には何のことか解りませんでしたが、
猪兄の様子からそのツキノワグマが只者ではない事を感じました。
いつの間にかピョンちゃんに乗った私の側に仔熊がヨチヨチとやって来て、
私に鼻を近付けてペロペロと舐め始めました。
その時、私の精神に声が響いたのです。

”オオカミの娘よ、お前は○○(宮大工氏)の名を口にしたのか・・・”
それは、巨大なクマから発せられたものでした。
私はなぜオオカミの娘、と呼ばれたのかも
○○様が誰かも判らなかったけれど、
先ほど無意識に○○様の名を呟いた事を思い出しました。
「は、はい。口にしました・・・」
私が呆けたように答えると、クマはふとこちらを振り向き、微笑んだように見えました。
”そうか・・・お前が○○の**か”
え・・・?なんて言ったの?
私には**の部分が良く理解できず、もう一度クマに聞き返しました。
”いずれ、解る。しからば、我、約定を果たさん・・・”

ドン!

次の瞬間、もがくラビちゃんの耳を掴んだままの鬼の手が
熊神によって叩き切られ、ラビちゃんの耳を掴んだまま落下しました。
「ラビちゃん!」
私が叫ぶのよりも早く、今まで私の顔を舐めていた仔熊が
ラビちゃんの落下地点に移動していて、落ちてきたラビちゃんを受け止めます。
それを見て微笑んだかのように見えた熊神は、腕を落とされて
呆気に取られていた鬼の頭を叩き潰しました。

止まっていた時が動き出し、再び戦が始まりました。
”ぐわああああああ!!”
パニックになった様に一頭の鬼が熊神に棍棒を振り下ろします。
しかし、爪の一閃で棍棒は粉々になり、そのまま肩口に
爪を叩きつけられた鬼は引き裂かれて倒れ伏しました。
その間に体勢を立て直した猪神も兄妹の連携で
あっという間に三頭の鬼を倒し、鬼達は戦意を喪失したようでした。

”に、逃げろぉぉ!”
”ぎゃああああああ”
後ろを向き、一目散に逃げ出す鬼達。
今回は流石に疲れたのか、猪兄も追おうとはせずに
ピョンちゃんに乗ったままの私の側に戻って来ました。
”霞様、御体は?”
猪妹が心配そうに聞いてきます。
ありがとう、大丈夫です」と答える私。
仔熊に背負われたラビちゃんがふんふんと鼻を近づけてきたので、
私は顎の裏のふさふさした所を撫ぜて上げました。
そして、円らな瞳で私を見詰めている仔熊にも
「ラビちゃんを助けてくれてありがとうね」
と言いながら同じように撫ぜて上げると、
仔熊は嬉しそうにきゅうん、と鳴きました。

そして、私を見下ろしている巨大な熊神に
「ありがとうございました。
 でも、なぜ貴女は私を助けてくれたのですか?」
と聞いてみました。
”オオカミの娘よ、いずれ、解る。
 我と我が息子は、○○の一族からの恩を返さねばならん・・・
 これよりお前とその子等を、猪・卯共と守護していくだろう・・・”
そう言い残すと、熊神と仔熊は掻き消すように居なくなってしまいました。
「え・・・?」
熊神の言葉を理解できずにポカンとしている内、
ふんふんと私に鼻を押し付けるラビちゃんの息を感じながら
いつの間にか眠ってしまいました。

窓から差し込んで来るお日様の光に目を覚まし、時計を見ると午前六時。
ガバっと起き上がった私が窓から外を見ると、そこには大山の雄雄しい姿が見えます。
「昨夜の事は、一体・・・?」
いつもの様に夢か現か解らずに考え込んでいると母様が起きました。
「いたた・・・車の中で寝ると、体が痛くなるわね。
 きゃあ!沙織!なんて格好してるの!!」
母様の叫び声で我に返ると、私は上半身裸にショーツだけという
あられもない姿で座っていたのです。
そうだ、パジャマは鬼に破られて・・・!
「なんだ、どうした・・・?わあ!沙織何をムグムゴ」
父様が起き上がろうとするのを必死で押さえつけ、
私は母様に毛布を掛けてもらいました。

その後、私は14歳あたりを境に自分自身の力を自覚し、
徐々に制御出来る様になって来ました。
それに伴い、怪異現象が起きても対処出来るようになり、
私が16歳の時にラビちゃんとピョンちゃんは朧の元へ戻り更なる修行を積み、
猪兄も朧の元で守護と修行の日々に戻りました。
また、母熊神は今まで通り悠久なる時の中での守護神として陸奥を見守っています。

しかし、力を制御し、使える様になったとは言え
それからも私一人では手に余るような事態が幾度か発生した時に
私を助けに来てくれたのが妹猪と仔熊神でした。
特に、赤子に近いとは言え仔熊神は強力な破邪の力を持ち、
無邪気に闇の者達を祓うその姿には畏怖すら感じました。
また、妹猪は優しく穏やかな性格なので仔熊神にも良く懐かれ、
今でも母熊神同様に甘えられています。

そして時は流れ、私はかつての意識を取り戻し○○様と結ばれた訳ですが
それでも熊神母子との因縁が解らず、○○様にもお伺いしました。
○○様は昔祖父様から熊神について聞いた覚えが有るが
うろ覚えだと言う事で太刀を譲ってくださった叔父様にお伺いした所、
その由縁が明らかになりました。

遥かなる昔、かつて○○様のご先祖様が有る地域の長だった頃、
大陸からやってきた禍神の一団が広い地域を荒らし回っていたそうです。
ご先祖様は陸奥の国を治めていた王からなんとかして禍神を祓ってくれと依頼され、
一族で最も勇敢で強く優しい若者に、一族で最高の刀鍛冶が命をこめて打ち、
神官が念を込めた破邪の剣を持たせて禍神討伐に送り出しました。

討伐に出た若者は土着の神々や精霊の支援も受けながら神出鬼没の
禍神達を捜し求め、少しずつ倒しながら禍神達が本拠にしていた
古代から残る神聖な山地へと辿り着きました。
そして、まずは禍神に囚われ辱めを受けていた土着の女神と仔熊を救い出しました。
その女神は大地と自然と動物達を優しく見守る方で、仔熊は女神の友人であり
「陸奥(みちのく)の女王」と呼ばれ畏れ敬われている熊神の仔だったのです。
熊神は強大な力を持っていましたが、友人と仔を盾に取られ闘いを起こせずにいたのです。
その後、若者は熊神と共に禍神に正面決戦を挑み、またその他の土着の神々や
人間の勇敢な戦士も加わり禍神は追い祓われ、平和が取り戻されました。
そして青年は助け出した女神と結ばれ、その土地に腰を落ち着け、
熊神母子の協力も受けつつ多くの子供に恵まれ幸せに暮らしました。
しかし、人間と神が夫婦として暮らしていくのは様々な苦労や災禍も起こりました。

しばらくは青年達と近しく暮らしていた熊神母子でしたが、
人間の数が増えて来たのを気にして山の奥地へと還る事にしました。
帰り際、母熊神は勇者に仔を救ってくれた礼としてなんでも願いを言え、
と言いました。お前の子孫を危める者が居たら全て滅ぼしたやるぞ、等とも。
しかし勇者は頭を振り、こう願ったのです。

もし、我々一族が他の一族に滅ぼされることがあっても
それは人と人との問題であるから神である貴女が気にすることは無い。
ただ、自分の妻が女神であった様に、もしかすると一族の子孫が
神と愛し合い結ばれることが有るかもしれない。
我々夫婦が闇の者に害されようとした時に貴女が助けてくれた様に、
もし神と愛し合い結ばれた子孫が現れたら、その子孫と、
子孫と結ばれる神を見守り、助けてあげて欲しい、と。
母熊はそれを約束し、山へ還って行ったそうです。
そして、○○様の一族は代々熊を狩ることは禁じたそうです。

熊神母子は私を○○様に嫁ぐことを見極めた上で守護を開始してくれたのでしょう。
しかし彼女達は伴侶としての私だけでは無く、二人の子供も守護してくれるそうです。
二羽の卯神、猪神兄妹、そして陸奥の女王とその息子に護られる我が子達は、
暗がりの者に害される事など有り得ないでしょう。
だからこそ、人からの脅威に気を付けていく積りです。
そう、人の脅威からは守護神達は護ってくれられないのですから・・・


出典:現代不思議忌憚異聞録
リンク:http://kangenpatsu.blog83.fc2.com/

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