ショベルヘッドのハーレー

2008/12/14 15:03 登録: えっちな名無しさん

210 :774RR :2008/12/12(金) 19:41:32 ID:+BFhk1s2
もう20年ぐらい昔の話。オレのオヤジはバイクきちがいでショベルヘッドのハーレーに乗ってた。
ピカピカの新車で家に帰ってきた時のことは今でもはっきり覚えてる。
V字に開いたビカビカのエンジン。「ドッドコ、ドッドコ」とまるで生きているようなエンジン音。
むき出しのエンジンベルト。長く伸びたマフラー。圧倒的な存在感だった。
オヤジが「これがショベルだ」って言ってからうちではショベルと呼ばれるようになった。

オヤジは船員やってて2ヶ月ぐらい帰ってこないことも余裕であった。
滅多に家にいないレアキャラだったからオレ達兄弟からは絶大な人気だった。
うちはお袋も働いててオレは学童保育に預けられてたんだけど。
オヤジが休みの時はショベルで迎えに来てくれた。
あぶないからって理由だと思うけど、ショベルに乗せてもらえるのは長男のオレだけで
「先に生まれてよかった」といつも思ってた。

休みに入ると毎日のようにバイク仲間が数人きて朝からバイクいじってたりツーリングばっか行ってた。
「やっさん」っていう人がいて、もうかなり年配の人だったんだけどハーレー乗ってた。
いっつもお菓子とかおもちゃとかお土産を兄弟人数分持ってきてくれるから一番好きだった。
オヤジもやっさんと一番仲が良かった。

バイクいじりは何をしてたのかはしらんけど、
ばらしてはまた組んでっていう繰り返しで子供ながらに見てて楽しかった。
組みあがってもガスケットかなにかがまだ乾いてないってことでただひたすら待つという日もあった。

ツーリングの日はバイク仲間がうちにきてみんなしてエンジンかけて暖気するんだけど。
ショベルは他人がやっても全然かかんないんだ。
ナチヘルにくわえタバコでオヤジが出てきて「貸してみ」っていって力を貯めてキック。
地響きみたいな「ドスンッ」って音と共にエンジンが噴く。
周りから「おぉ!」って歓声が起こってオヤジはアイドリングを調整しながら、
「気合だ気合」って自慢ゲに言ってたな。かっこよかった。


オレが小5の時オヤジは病気になって入院した。
ショベルはいつの間にかなくなった。お袋に「ショベルは?」って聞くと
「うん・・・もうなくなっちゃった」とだけ返ってきた。なんとなく理解できた。

ある日病院でお見舞いに来てたやっさんとオヤジが口論になってた。
うん。オヤジはショベル売ったんだ。たぶんカネがなかったんだろうな。
でもやっさんは「元気になったらまた乗りにいこう」って言ってたのに勝手に売ったから怒っちゃったんだな。
それからやっさんはあんまりお見舞いに来なくなった。来てもバイクの話とかはしなくなった。
どれぐらい入院してたかな。半年じゃ効かなかったとおもうわ。
手術で悪いとこ全部取っちゃったみたいだけど、あまりよくなったとは思えなかった。むしろ悪くなってた。
すっかり痩せちゃってまともにメシも食べられなくなった。


オヤジが「家に帰りたい」って突然言い出した。
医者からも許可がでて一週間だかの外泊することになった。
今思えば、もうさじ投げられた感じだったんじゃないのかな。好きなところで死んだほうがいいみたいな。
家に帰ってきてものすごい痩せちゃってることに気がついたな。こんなにちいさかったっけって。
オヤジは「いつまでも休んでるわけにはいかねー」とか言ってたけど、誰がどう見ても働けるような状態じゃなかった。
オレは子供ながらに「オヤジはいなくるんじゃないか」とかなんかそんな心配をしてた。

家に帰ってきた日の夜にやっさんが来た。「退院祝いもってきたからちょっときてくれ」って。
オレはやっさんがまたなんかくれるのかと思って慌ててついてった。


そこにあったのはショベルだった。うん。売ったはずのオヤジのショベル。
なぜかオレら兄弟は大喜びだった。「とーちゃん、シャベルが帰ってきたよー」って一番下の妹が言うわけ。
オヤジは「はっ?えっ?なんで?」みたいになってた。
やっさんが買い戻してたらしい。「○○さんのショベルが他人の手に渡るのがどうしても許せなかった」と。
オヤジは感極まっちゃったみたいでボロボロ泣きながら「カネは返すから、必ず返すから」って声にはなってなかった。
やっさんは「カネのことはいいから、はやく元気になってまた走りいきましょう」って言ってた。
「ありがとうございました、ありがとうございました」って何度も泣きながらお礼を言うオヤジなんてみたことなかった。
「もういいから、泣く程のことじゃないだろ」って言うやっさん。いつもと立場が逆転してるって感じだった。
でも元々親子程年の離れてるわけで、やっさんからしてみればまだまだオヤジも子供みたいなもんだったんだと思う。

オヤジはしばらくショベルに跨ったりエンジン見たりしてた。
なにを思ったか「エンジン駆けてみよっか?」って。周りがやめとけっていうのにおもむろにキックした。
キックする姿は元気な時のまんまだった。でもかかんなかった。
まあ歩くのだってやっとなんだからかかる訳ないわな。力が全然なくなってた。
すぐ息があがって「かかんねーか」ってさびしそうだったが笑って見せた。

あんだけ弱りきったオヤジを見たのはそれが最後だった。

あれから20年ぐらいたったわけだけどショベルはいまだに現役で走ってる。
オヤジは健康だった時よりさらにひと周りでかくなったw
今年還暦を迎えたがキック一発でかけやがる。
オレのビクスクみて「なさけねぇ、そんなのバイクじゃねー」って悪態つきやがる。いらつく。
数年前やっさんが死んだ時、オヤジは家族の静止を聞かず「やっさんだって喜ぶはず」つって
喪服でショベルに乗って葬式に行った。バカなんじゃねーかと思った。

今オヤジは小学校の用務員みたいな仕事をしている。
毎朝ショベルのエンジン音が聞こえてくると、「あぁ今日も元気か」って思う。
まあオヤジには死ぬまでショベルに乗り続けてくれたらって思うよ。
作り話みたいな話だけど本当に作り話。最後まで読んでくれてありがとう。







出典:2ch
リンク:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/bike/1225428542/210-216

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