サークルの大学生と 終
2009/02/06 23:35 登録: えっちな名無しさん
壱
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弐
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参
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肆
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9
アヤからのメールを見た時に何故か直感的に、
話す時が来たのだ、という気がした。
例え、アヤの話がどういった内容であろうとも、
その場で彼女の話を打ち明けようと、その時、覚悟を決めた。
返信をして、何度か遣り取りをすると、
今月下旬の土曜に約束が決まった。
彼女には、前もって予定が入った事を伝えておいた。
約束の日は、すぐに来た。
待ち合わせは、
アヤの家に近い駅で、盆休みに二人で会った場所だった。
その日は風が強く、正午でも充分寒かったのに、
陽が傾きかけた今では更に気温が下がっていた。
アヤは、この寒いのにミニのタイトスカートを穿いている。
厚手のスパッツを穿いてはいるが、寒くないのだろうか。
ブーツのせいで普段よりも背が高く見える。
上着はコートのせいでわからない。
顔を合わせると、
アヤは当然のように、以前と同じ店に入っていった。
前回、来た時には気付かなかったが、
その店は時間帯によってメニューが違うようだ。
昼間は洋食屋だが、夜にはバーみたいに酒を出しているらしい。
夏に来た時はランチタイムだった、という事だろう。
ウェイターが運んで来たメニューには見覚えのない名前が並んでいる。
店内の照明は控え目で落ち着いた雰囲気を醸し出していて、
以前来た時とは様子が全く違っていた。
夕食には少し時間が早いせいか、
あまり混雑していなかったので今日も窓際の席に座る事が出来た。
暮れゆく街並のあちこちで
電気が点き始めるのが窓越しに見える。
既に街灯も灯っていて幻想的な風景だ。
注文を済ませると俺達は黙り込んでしまった。
元々アヤから誘われたので、
向こうが話し出すまで俺は待つ事にした。
飲み物が来るまでは、とても長く感じた。
ずっと黙っている訳にもいかないので、俺は天気や体調など、
当たり障りのない話題を持ち出して、何とか時間を潰していた。
上辺の遣り取りが何度か続いた頃、漸く酒が運ばれてくる。
二人ともビールの中ジョッキ。
グラスを合わせて乾杯をする。
飲み始めて、順々に、つまみが運ばれてくる頃になると、
俺は我慢出来なくなってアヤに今日の用件を問い質した。
「今日はどうしたの?」
「……うん……」
「何か話があったんじゃないの?」
俺は重ねて訊く。
彼女は俯いてテーブルの一点を見ながら
何度もグラスを口に運んでいた。
俺は、その様子を見詰める。
伏し目がちに瞬く睫毛と張りのある頬と、
それから胸元から覗く鎖骨を順番に見た。
今日も髪を巻いている。
全体が波打ち複雑な模様を描いていて、
それが彼女の心境を表しているような気がした。
「あのさ……」
アヤは、漸く語り出す。
「俺くん、私に言う事ない?」
「言う事って?」
今日の彼女の態度や雰囲気から、
何の事であるか想像はついていたのに、
最後の望みをかけて万が一違ったらいいな、
という思いで、そう訊き返した。
「私……見ちゃったんだよね」
「……何を?」
「初詣、で」
アヤは俺を上目遣いに見た。
俺は、やはりアヤに見られていたのだ、と悟った。
考えてみれば、幾ら周りに人が大勢いるからって、
ほんの何メートルか近くを顔見知りが通り過ぎているのだ。
よほど余所見をしない限り、
僅かでも視界に入れば見付かる確率は高いはずだった。
あの時だって、可能性は五分五分だと思っていたし、
アヤじゃなくてもエリが気付けば同じ結果になるだろう。
そんな事を考えながら相手を見詰める。
向こうも俺を見詰め返していた。
その瞳が暗い照明を鈍く反射して妖しく光る。
それから俺は観念したように、全てをアヤに話し出した。
元々、会う前から決心していたので、
自分の想像以上に上手く順序立てて説明する事が出来た。
最初、彼女について言及すると、
アヤは、とても驚いた顔をした。
しかし、それは一瞬で消えて、すぐ俺に続きを促してくる。
それから、
去年の秋頃から俺が感じた事や、してきた事を話していく。
アヤは、時々頷きながら俺の話に聞き入っていた。
「……って、感じ」
全部を話し終えると肩の荷が下りたように溜息をつく。
知らない内に緊張していたみたいだ。
肩に力が入っているのがわかる。
アヤは、「そう」とだけ言った。
俺は、アヤの反応が怖かった。
何と言われるだろう?
冷静に考えれば、
アヤが俺に対して何か否定的な事を言うはずはない。
非難する立場にもないし文句を言うのも可笑しい。
ただ、俺からすれば、
あの雪の日の事を持ち出されるのだけは心苦しい思いがした。
アヤに、どう話そうかと考えている時も、
彼女との馴れ初めを語るのは簡単だったが、
その事だけには満足のいく説明を思い付かなかった。
どう言えば、あの時の俺の状態を説明出来るだろうか。
そればかり考えていた。
しかし、それは杞憂だった。
アヤは、あの日に関しては一言も触れてこない。
ただ、付き合い始めのカップルに訊くような、
どれくらい会っているのか、とかデートはどこに行くのか、
とか当たり障りのない質問ばかりをしてきた。
それも活発な遣り取りではなく、
ぽつぽつと言葉を置いていくような会話だったから話の展開が遅い。
どうも彼女は塞ぎこんでいる様子で、俺の話を聞きながらも
頭の隅では別の事を考えているような感じだった。
それで俺は、
アヤの問いに答えながら、その理由を探ろうとした。
俺と会った時には、アヤは、もう少し明るい態度であった。
どちらかと言うと、
俺に探りを入れて初詣に連れていた彼女の事を訊き出そう
というような姿勢が見られた。
それが、彼女について話し出してから、アヤの様子が変わった。
口数も減ったし、俺の方を見ない。
俺は、
考えても思い当たる理由が見付からなくて、直截アヤに訊いた。
「どうした?」
「何が?」
「元気ないね」
「うん……」
「俺、マズイ事、言ったかな」
「ううん、違うの」
「じゃあ、何?」
アヤの指がグラスに伸びる。
テーブルの上だけが照度が高い。
その爪先が照らし出されると、口紅と同じ桃色なのに気付く。
店内は控え目な音楽が流れていて、それが俺の耳に届いてきた。
ジャズだろうか。
軽やかなピアノの音色が響く。
「私さ……悪い事、言っちゃったね……」
アヤの声は消えそうに小さい。
耳を凝らして、その先を待った。
「前にさ……
女の人は待ってないとか、知った風な事、言っちゃって……」
「何の話?」
俺が問うと、アヤは、あの雪の日に自分が話した事を繰り返した。
「そんな事、言った?」
あの日に関して、俺の記憶は偏っている。
その殆どは、言葉にすれば、アヤとのキスと、
彼女を忘却する方法と、未来への希望、
というようなものになるだろうか。
とにかく、そういったもので占められていて、
アヤが、今、持ち出してきた話の多くを俺は忘れていた。
黙って俯くアヤ。
「恥ずかしいよね、私。
偉そうにアドバイスみたいな事、言っておいて……これじゃあさ、
なんか俺くんの恋愛を邪魔してるみたいじゃない?」
俺は、慰めに聞こえないように注意して、その言葉を否定した。
その時になって、俺は初めて知った。
アヤにとっては、
あの雪の日の位置付けが、俺とは変わってきているのだ、と。
最初、俺にとっての雪の日は、アヤとの結束の日で、
言わば同じ目標に向かって共闘を誓った、そんな日だった。
だが、俺には彼女が出来た。
俺とアヤは付き合っている訳じゃないから、
別に恋人が出来たって構わない。
構わないのだが、その相手が、
あの時、アヤに語った女では話が違ってくる。
あの時の御前は何だったのか、と問われれば返す言葉もない。
だから、俺はアヤを裏切っているような気がしたし、
出来るなら、あの日の事に関しては触れて欲しくなかった。
その話を出されれば、俺は完全に敗者で、アヤは勝者だった。
そう思っていた。
しかし、俺が考えるようにアヤは考えていなかった。
アヤから見ると、あの日の自分の言動は、
結果的にではあるが、俺に足枷を掛けて、
本来ならとっくに結ばれていたかもしれない二人の将来を
妨害するような形になってしまった、と感じられるようだ。
だから、アヤも、あの日については触れて欲しくない。
そういう思いが湧いてきたみたいだ。
もし、俺が付き合っている彼女が、別の誰かだったなら、
きっとアヤは祝いの言葉を並べてくれたのだろう。
アヤは、頻りに、
あの日の自分の言動を後悔するような台詞を吐いた。
俺は多少、大袈裟なくらいの言葉で慰めた。
自分が非難されるような事態ばかりを想像していたから、
こうした場面になるとは思いもよらなかった。
「ホントに、ごめんなさい」
何度目かの遣り取りで、
大分落ち着いたアヤは、最後に、そう言って頭を下げた。
「もういいって」
「だって……」
「別に、アヤちゃんが何も言わなかったとしても、
俺達がもっと早く付き合っているとは限らないし」
「そうだけど……」
俺は、もう店を出ようとした。
このままでは堂々巡りだ。
いつまで経っても話が終わらない気がした。
アヤを促すと、彼女は素直に従った。
結局、アヤの用件は何だったのかわからなかったが、
このまま話し合いを続けていっても同じ事の繰り返しで、
きっと好ましい結果を迎えないだろうから、
日を改めよう、と判断した。
店を出て、アヤを家まで送って行く事にした。
彼女は、それを拒んだが、
夜も更けているし駅からの道は暗い所もあるので
反対を押し切って勝手について行った。
夜道は、とても静かで、こんな時間に、
こうして、この道を歩いていると、あの頃の事を思い出した。
空気は澄んでいて、星がよく見える。
月は見えない。
新月だろうか。
「この道、よく通ったね」
隣のアヤに声を掛ける。
「そうだね……」
俺の言葉に小さく頷いた、
その時、彼女の香が冷たい風に乗って届いてきた。
吐く息が白い。
「なんか……懐かしいよね」
俺は努めて明るく言った。
頭の中には、アヤやエリの事、サークルの事、
大学の事……色んな事が浮かんでいた。
どれも懐かしくて、過ぎ去ったものばかりだけれど、
それらを思い出す事は決して後ろ向きな感傷からではなかった。
アヤは、それには答えず、黙って隣で歩調を揃えている。
二人の足音だけが空に響く。
考えてみれば、
アヤは、この道を毎日のように通っているのだろうから、
懐かしさなんて感じているのは俺だけなんだろう。
頭の中で何か他の話題を探している内に
彼女の家に着いてしまった。
こんなに近かったのか。
自分の記憶の曖昧さに驚く。
「ここでいいよ」
彼女のアパートが見える場所に着くと、アヤは俺に言った。
向こうに彼女の部屋のドアが見える。
電柱に取り付けられた街灯が
鈍い光を投げかける空間に、二人はいた。
「ああ……うん」
頷いて、立ち止まる。
俺は見送ろうとして、その場で部屋に入るように促した。
アヤは一歩、アパートの方に足を向き変えて、
立ち止まると、俺の方を振り返る。
「私も……懐かしいって思ったよ」
さっきの答えだろうか。
「そうだね」
笑ってみせる。
随分、間の空いた遣り取りだ、と思った。
「この道を何回、俺くんと通ったかなぁとか、
……うん、もう色々あり過ぎて言葉にし切れないくらいだよ」
「俺も、そう思う」
「でもさ……」
「うん」
「でも、もう俺くんは、あの頃の俺くんじゃないし、
私も、あの頃の私じゃないんだよね」
「どういう意味?」
「俺くんも私も学生じゃないし、同じサークルとかじゃないし……」
「そうだね」
「懐かしい……なんてさ、そんな事ばっかり言ってられないよね」
彼女の言葉からは、
何故か針のような、ある種の厳しさが感じられて、
そして、それは俺の胸に強烈に響いてきた。
「私……ちょっと勘違いしてたのかもしれない」
「勘違い?」
「てゆーか、甘えてたのかも」
彼女は、その頬に手を触れる。
視線が足元に延びる二人の影を見ていた。
俺も、自然と、その先を追う。
彼女は頬杖をつくような体勢で俯いていたけれど、
やがて、その手を下ろすと俺を正面から見返して、言った。
吐き出した息が白く尾を引いて伸びる。
俺に届くよりも遥かに手前で、それは消えていった。
「俺くんにも……甘えていたんだよね、きっと」
その声は、とても微かな声で、
まるで自分に言い聞かせるみたいな口調だった。
その時、俺は、
その言葉がはっきりと聞こえたのに、答える言葉が見付からない。
何と言ったらいいのだろう。
アヤも黙ってしまった。
それっきり二人は無言で立ち尽くす。
俺達の周囲は一切の静寂で、
他に何も活動しているものは存在しないような気になってくる。
二人の吐く息は夏の雲のように鮮やかに白い。
その連想から不意に見上げると、空は曇っていて、
あんなに綺麗だった星は見えなくなっていた。
俺にはアヤの気持ちがわからない。
一年半も付き合いがあって何度も話して、
酒も飲んで、何となくアヤの事をわかった気になっていたけど、
こういう時になって俺は急に心細くなる。
俺の知っているアヤは、本当のアヤじゃないんじゃないか、と。
だから、
こんな場合に何を言えば良いのかわからなくなってしまうのだ。
何か言わなければいけない。
だけど、それが彼女の望む言葉なのか。
そうして、迷って、何も言えなくなってしまう。
アヤの気持ちを掬い上げるような、
満たしてやれるような言葉。
それが必ず、あるはずだ。
そう思えば思うほど、
思考は乱れて突発的な思い付きばかりが浮かんでは消えていく。
「帰ろうか」
どれくらい、そうしていたのか、わからなかったが、
アヤが言った、その言葉がきっかけで俺達は別れた。
アヤを見ていると、
何か言わなきゃいけない事があるような気がして、
でも何も出てこなくて、いつまで経っても帰れそうになかったから、
俺は「じゃあ、また」と急ぐように言うと、
一度も後ろを振り返らないで駅に向かって歩き出した。
それからアヤには会っていない。
エリにも連絡をしていなかった。
二月に入ると、急に仕事が忙しくなってきた。
年度末の為、仕事の量が増えてくると残業も増え出して
一年目の自分には次第に余裕がなくなってきた。
職場と家の往復が続くと、
自分の事をする時間がなくなり部屋も汚くなるのに任せていた。
二週間ほどするとポストに同窓会の案内が届いていた。
送り主は、大学時代の友人だ。
彼は、俺と同じ学科で、葉書の内容を見ると、
卒業して一年が経過するので近況を語り合いましょう、
というものだった。
開催予定日は
三月下旬を予定しているので、まだ一ヶ月以上先だ。
文面の下の方に連絡先の電話番号、アドレスなどが書いてあり、
今月中に御返事を戴きたい、とある。
その連絡先には見覚えがあった。
何となく微笑ましい気分になり、後で返信するつもりで葉書を仕舞う。
それから三日後の日曜日。
仕事も一旦、落ち着いて久し振りに自分の時間が出来た。
休日出勤もなく昨日も早く帰れたので、
前から溜まっていた雑事を片付けようと決意していた。
朝から掃除、洗濯をして捨てるゴミを纏めた。
昼に簡単な昼食を摂ると、午後はクリーニング屋に行き、
その後、スーパーで食材を買った。
帰宅すると、買い込んだ食材を冷蔵庫に入れる。
その頃には夕方になっていた。
予定していた用件を全て片付けると、
コーヒーを淹れ、仕舞ってあった葉書を取り出した。
参加するつもりで返事をしようと、
もう一度、じっくりと眺め、日時などを確認する。
文面は簡単な挨拶で始まって、流れるように文章が続いていく。
読んでいると、
何となく参加して皆で話し合いたくなるような、そんな文章だった。
そつのない内容だ。
書いた男の顔を思い出す。
彼らしい。
最初に見た時には気付かなかったが、
片隅に、同じ内容のものを
大学時代に使用していたアドレスにメールで送信した、
と書いてある。
葉書とメールで二重に送る事によって連絡漏れを防ぐ目的らしい。
そうした点も彼の人柄を思い起こさせた。
大学時代に使っていたアドレスは、今は殆ど見ていない。
春からは、仕事用に与えられたアドレスを使っていたし、
私的なものは携帯で済ませていた。
葉書を見て、メールの方も確認してみよう、と思った。
返事はメールでも構わない、とあるから、
そこで返事が出来るなら、それに越した事はない。
部屋にあったノートを開いて、立ち上げる。
ネットに接続してメールボックスを開いた。
一年近く開いていない割りには
届いているメールは殆どなかった。
大学関係者しか知らないアドレスだし、
元々、俺の交友範囲は広くない。
一番上に目当てのメールがあった。
それを開いて、返事を書く。
やはり内容は葉書と同じものだった。
送信して元の画面に戻る。
俺は、上から二番目のメールを見て驚いた。
同窓会メールのすぐ下にあるメールの送信者が
アヤの名前になっていたからだ。
俺は、それ以外のメールを古いものから開いていく。
どれも大した内容ではない。
今回のように葉書などで、
事前に、その内容を知らされていたメールばかりだった。
最後に一通だけ残ったメールを開く。
間違いなく、送信者はアヤで、
受信日時を見ると、食事をした日の五日後になっているから、
もう三週間近く放置していた結果になる。
動悸を抑えながら文面に目を移していく。
そのメールは、とても長くて、
最初に開いた時には画面に全部表示し切れなかった。
長さを確認しようと画面を下に動かしていく。
かなり下まで行っても終わりが見えなかったから、一旦、諦めて、
最初にスクロールさせてから、俺は、そのメールを読み始めた。
10
俺くんへ。
言いたい事が山ほどあって、
直接会って話すと伝えきれそうにないからメールにします。
気分を悪くしたらごめんなさい。
長くなってしまうけど、
開いてくれたからには最後まで読んでくれると嬉しいな。
俺くんが、このメールを見るのは、いつ頃かな?
仕事帰りかな?
休みの日かな?
それとも、ずっと先の何年後かな?
もしかしたら、
一生読まれないのかもしれないっていう可能性もあるけど、
それでもいいかなって思いながら書いています。
一月に俺くんと、ご飯を食べようってなった時、
本当はもっと楽しい場になると思ってたんだ。
前も話したけど、
私は初詣で俺くんが彼女さんらしい人といるのを見たから、
その辺を面白おかしく突っ込んでやろう、
みたいな気持ちでいたのね。
その時、私は声をかけようと思っていたんだけど、
結局スルーしちゃいました。
それは、邪魔しちゃいけないとか、そういう気持ちじゃなくて、
あとから『見たよー』って驚かした方が
面白いかなって思ったからでした。
それに私が俺くんに気付いたのも遅くて、
あっ、と思った時には、もうすれ違いそうだったって言うのもあるかな。
追いかける事もできたけど、人がスゴイいたし、
別に今度でいいかって気持ちもあったから。
それに、俺くんが報告してくれるのを待って、
そこで突っ込んでも面白い、とかね。
照れる俺くんに、知っていながら驚いてみせる私……とかね、
そんな様子が浮かんだりしてたよ。
でも俺くんから話してくれる感じがないから我慢できなくて、
結局、私からきくような形になっちゃったけど。
実際に会って、いろいろきいてみると、
俺くんの彼女さんが前に話してくれた人で、
俺くんを驚かすつもりが私の方が驚かされてしまって、
それで茶化すような雰囲気じゃなくなってきたし、
それ以上に私のしてきた事が
俺くんの邪魔をしてしまったんだって思い始めたら、
なんとなく暗い感じになってしまいました。
ホントは、あんな感じになるつもりじゃなかったのにゴメンね。
俺くんは『そんな事ない』って言ってくれたけど、
結果的に私が
俺くんの恋を邪魔していたのは間違いない、と思うよ。
だって、あの時、
私が『諦めちゃダメだよ』とか『もう一度ぶつかってみれば?』
みたいに言っていたら、俺くんは違う行動をとったかもしれないし、
違った結果になったかもしれないんだよ。
そう考えたら罪悪感みたいなものがわいてきてね、
どうしようもないんだよね。
いてもたってもいられない、みたいな。
取り返しのつかない事した、みたいな。
本当は、邪魔するつもりなんてないのにね。ゴメンね。
なんか謝ってばっかりだね、私。
でも、あの時。
あの雪の日に俺くんと話した事で
私は、ずいぶん楽になった気がするんだ。
なんとなくだけど、
一緒に頑張っていこうっていう仲間ができたって感じかな。
俺くんって、
あまり思ってる事とか感情とかを顔や態度に出さないから、
この人って恋愛とかに興味ないのかなって思ってたりしたんだけど、
ちゃんと好きな人とかいるんじゃん、って。
悩んだりとかしてるんじゃん、って。
その時までは俺くんといると
私だけが下らない事で悩んだり考えたりしてるのかなって、
私が小さい人間なのかな、なんて思ったりしていたけど、
そうじゃないんだって思えたんだ。
みんな同じなんだ!なんて思えたりして。
ただ私が俺くんに共感できただけなのに
全人類が私の仲間とか味方みたいに感じられたんだよね。
単純だね、私。バカみたい。
私、昔からちょっと変わってるみたいで、
女の子同士のグループとかに
うまく打ち解けられない時があったんだけど、
あのサークルは、つきあいやすい人が多くて、
『なんだ、私がおかしいわけじゃなかったんだ』って
思えるようになった場所だったから、
大事にしたいなって思ってたんだけど、
エリに、そういう話をしたら
『そういう風に大事に思ってるようには見えない』
なんて言われちゃったりして。
でも、そういう風に思っているからこそ、
そこにいる人を好きになったわけだと思うんだ。
それは偶然じゃないと思うよ。
あのサークルが私にとって大事だったから、
そこにいる人を大事に思えたんだろうし。
この考えは間違ってないって思うんだ。
だから、あの場にいた人は、みんな大事だし、
俺くんの事も大事だって思ってるよ。
俺くんが私の事をどう思っているかはわからないけど、
私は俺くんの事をホントに大切な友達だと思っているから、
好きな人がいて、その人とつきあっているなら
幸せになってほしいなって思うんだ。
それから、
俺くんと彼女さんの事を聞いて思ったんだけど、
やっぱり諦めちゃいけないよね。
今はダメかもしれないけど、
この先どうなるかわからないし、って事、いっぱいあるよね。
俺くんは彼女さんの事を忘れてなかったから、そうなったわけだし、
彼女さんの事は、よくわからないけど、
きっと俺くんと同じだったんじゃないかなって思うんだ。
そういうのを聞いて、なんか勇気づけられた気がするよ。
私も、それに便乗して、
もう一度告白してみようかなって思うんだ。
前は断られたけど、
彼だって、あの頃とは違っているだろうし
私だって変わっているから、
もしかしたら違う返事が聞けるかもしれないしね。
正直に言うと、私は、まだ彼の事を吹っ切れていません。
今は仕事で忙しいから紛れている時もあるけど、
ふとした時に、どうしてるかなぁなんて彼の事を思い出しちゃうし、
職場の歓迎会とかで
男の先輩とかに飲みに誘われたりするけど、
それを素直に受け入れられないし。
これって俺くんと同じ状態?
なんて都合のいいように考えて、
私も俺くんみたいになれるかも、
なんて最近思ったりしてるんだ。ホント、バカ。
そう思いながらも、
ダメだった時の事も考えたりして、
そうなったら、そうなったで、
また新しい人を見つけていけばいいと思うし、
きっと、見つかるんじゃないかな、って気がするんだ。
前は彼の事しか考えられなくて、
でもフラれたらどうしよう……
みたいな絶望的な気持ちしかなくて、
実際にフラれたんだけど、
思っていた以上の落ち込み方に自分でも驚いたりして……。
もう男の人はいいや、ってなってたけど、
今は、もう少し違った感じでいるよ。
いつか、もう一度、彼に告白する時が来て、
それでも断られたとしても、
まぁ、仕方ないか、っていう前向きな気持ちです。
これも俺くんのおかげなのかな。
だから。
私から俺くんに一つ申し込みたい事があるの。
前に何度か飲み会で飲み比べをしたけど、
今度は幸せ比べをしようよ。
あ、今、『コイツ、何、言ってんだ?』って思ったでしょう?
それか、『イタイ女だな』とか思ってる?
まぁ別に、それでもいいけどね……。
えっと、私が言いたいのはさ、
私と俺くんが次に、いつ会うかわからないけど、
今度会う時は、私は、きっと素敵な彼を連れているから、
俺くんも彼女さんとずっと仲良くして、
私の未来の彼が
『あんな彼女がいてウラヤマシイ』って
思うくらい幸せになってよ、って事。
そうしたら、私も負けずに、
俺くんの彼女さんが見とれるくらいのイイ男を連れていって、
『どう? 私の彼は素敵でしょ?』って見せつけるから。
そうやって、お互いの恋人を自慢しあおうよ。
私、この勝負、スゴイ自信あるんだ。
だって今まで俺くんに飲み比べで負けた事ないもん。
だから、きっと、この勝負も勝つよ。
それくらい自信ある。
だから……俺くんは、俺くんが今、考えているよりも、
もっともっと彼女さんを大事にして、なんだったら
今度会った時には結婚して子供もいるくらいになってないと
私には勝てないと思うよ。
私に負けっぱなしで悔しいっていう気持ちがあるのなら、
それくらいの覚悟でいてよね。
そうじゃないと私も張り合いがないから。
でも……もしも、よ。
もしも万が一、今度会った時に私が一人だったとしても、
それでも変わらずに声をかけてよ。
楽しく話そうよ。
私たちは友達なんだからさ、この前みたいに、
すれ違っているのに話もしないなんて悲しいじゃない。
ありえない話だけど、
もし私がその時、彼氏がいなくて一人だったなら、
それは私の準備が足りてないってだけだから。
ちょっと仕度が遅れているだけだから。
変に気を遣わなくていいからね。
その時は、しょうがないから
俺くんと彼女さんを精一杯、
笑顔で祝福してあげるわよ。
でも、その裏で私は着々と
俺くんを負かす準備をしているって事を忘れないでよね。
だから、さ。
どっちにしても今度会う時には笑って会おうよ。
俺くんといる時は、いつも楽しかったから。
これからも、ずっと、そうでありたいな。
ワガママかな?
でも、もう勝負は申し込んじゃったから。
一方的だけどね。
このメールは送った、って俺くんには知らせません。
大学時代のアドレスだから、
俺くんが見るのはずっと後になるかもしれないし、
もしかしたら見ないかもしれない。
最初に書いたのは、そういう意味です。
読んでほしいっていう気持ちもあるし、
どっちでもいいっていう気持ちもあります。
メールを書いたのは、
書く事で私の気持ちを整理したい、納得させたいっていうのが
一番大きな動機だから、こうして書いてしまった今となっては、
その目的は、ほとんど達成されている気がします。
だから、ホントにどっちでもいいんだ。
今度、会った時に
俺くんがメールを読んでいない風に見えたなら、
私も、そう振舞います。
そうなったら私の空回りだね。
それでもいいし。
でも、もし、これを読んだなら私の勝負を受けてよね。
それと、読んでから
何か言いたい事ができたら遠慮なく言ってきてね。
『俺たちのつきあい始めるのが遅くなったのは、
やっぱりお前のせいだー!』
っていうのでもいいよ。
責任は取れないし、謝る事くらいしかできないけど、
何度でも謝るよ。
できれば彼女さんにも説明して、謝りたいな。
こういう事だったんですよって。
それに、今度は、ちゃんと彼女さんを紹介してほしい。
名前とか、趣味とか、どんな人なのか知りたいし。
俺くんの選んだ人なら、絶対、仲良くなれるって思うんだ。
長くなっちゃったけど、そろそろ終わります。
忙しいけど、お互い頑張ろう。
私も頑張るよ。
俺くんに甘えないですむようにね。
じゃあね。
出典:オリジナル
リンク:オリジナル

(・∀・): 89 | (・A・): 30
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