環境のせいにはできない

2009/02/27 10:38 登録: えっちな名無しさん

俺が大学を卒業し、社会に出て3年目の頃、会社の同県出身の同僚に
聞いた話だ。

その同僚の高校(俺が通っていた高校とは違う)の同級生に、
成績は抜群に良く、いつもにこにこしているが、母子家庭のためか
相当家計は厳しいらしく、弁当も持って来れない日が多い奴がいた。
どの部活にも所属していなく、妹や弟たちの面倒をみるために、
いつも授業が終わればすぐに帰宅していた。

抜群の成績を誇るそいつがどんな勉強をしているのか、興味があって
そいつの家に「遊びに行っていいか」と尋ねた。
そいつは、渋々と言う感じで、承諾した。
「カアちゃんは働きに行ってるし、家、汚いし、何もできないけど・・・・」

チャリを転がして一緒にそいつの家に行った。
東北の某県中央部の小高い山に囲まれた田舎にある借家でる。
家には、そいつの妹や弟が4人、キャアキャア言いながら騒いでいた。
彼が「今日わ」と入って行くと、その子たちは人懐こく、興味深そうに
彼に寄って来た。
どの子も、つぎはぎだらけで汚れた身なりをしていた。
そいつに卓袱台(ちゃぶだい:円形で折り畳み式の小さな座卓だな)
に座るよう促され、妹の一人が何かジュースのようなもの、たぶん、
粉ジュースを水で溶かしたものを持って来てくれた。
そのコップも手垢だらけで汚く、他の小さな子たちが飲みたがって指を
突っ込んだりしてるし、とても飲む気にはなれなかった。
なんか、彼の方が暗く沈みこむようだったと。
部屋はその6帖間と4帖半が一部屋ずつと、小さなキッチンしかない。
彼はどこで勉強しているんだろうと、部屋を見回すと、部屋の隅に
なんだろう、リンゴか何かが入っていたような木箱が一つあり、
そこに教科書や文房具が置いてあった。

こんな状態で、まともな勉強などできないよなあと思いながら、
そいつに疑問をぶつけてみた。
「いつ、どうやって勉強してるの?」
「うん。その箱で、弟や妹たちが寝てから予習復習だけはやってる」
優秀な奴は、環境がどうこうじゃないもんかね。と、思った。
何だか、そいつが気の毒に思えた。

彼は、なんとも落ち着かず、ジュースに口をつけることもなく、
用事を思い出したと言って、そそくさと家を辞した。

そいつは、高校を出たら就職するつもりでいた。
彼は、「まあ、あの家庭状況じゃしょうがないよな」と思っていた。
3年になって、それぞれが進路を固めなければいけない時期。
彼は、自分の学力に見合った大学とワンランク上の大学を目指した。
かたや、そいつの三者面談。
やたらと長く時間がかかっていた。
後で聞いたことらしいが、担任は、強く進学を勧めたが、母親は、
「とても、そんな余裕はありません」と、うなだれるばかりだったらしい。
そいつも家庭の状況は誰よりも知っているし、就職すると言うが、
顔には「残念で仕方がない」「大学に行きたいという」表情がありあり
だった。
担任は、言った。
「○○君は、わが校にとって初めて、東大現役合格も可能なんです。
 学校の体裁とか、そういうことではなく、私は個人的に担任として、
 惜しくて仕方がない。
 私が何とかあるだけの奨学金制度や就学支援制度を探し、自立して
 大学に進学し、生活できるように頑張ってみます。
 お母さん、何とか、○○君の進学を承諾してもらえませんか」
お母さんは担任の粘りに、しぶしぶながら、承知したという。

彼の見る限り、担任は約束通り、そいつのために県内を走り回り、
あるだけの制度を利用できるように取りはからった。
今ほど奨学金や支援制度の充実していた時代ではない。
担任もそうとうに苦労しただろう。

やがて受験も終わり、そいつは、担任の期待通り一発で東大法学部に
合格した。(実際には「文科●類」とか言うんだろうな)
そいつは、彼に呟くように言ったという。
「本当は、働いてカアちゃんを楽にしてやらなきゃいけないんだけど・・・、
 でも、先生には感謝している」と。

そいつは、苦学して東大卒業後、大蔵省(当時)に入省し、家族を引き取った
らしい。
彼は、今だから思えるけどと前置きし、
「あいつの家に行って、正直、汚いと思ったし、嫌悪感を持ってしまった。
 でもなあ、今は俺はそのことを本当に恥じているし、あいつのような奴こそ、
 官僚として、庶民感覚で日本のために頑張って欲しいよな。
 あの三者面談までは、あいつは就職することしか考えてなかったのに、
 なぜあれだけ抜群の成績をとることができていたのか。
 家庭状況を考えれば、高校に行かせてもらえるだけでもありがたい。
 大学に進学できないからこそ、高校での勉強を大事にしたかったんだ
 ろうな。
 勉強は、もちろんしていたはずさ。
 予習復習だけであの成績は考えられない。
 あいつにとっては、勉強できること自体が楽しくて仕方なかったのかも
 知れない。成績は、結果としてそこについてきただけなんだろう。
 もちろん、授業での集中力も俺なんかは足下にも及ばなかったけどな。
 人間は、環境じゃないんだな。
 あいつを見ていて、そのことを教えられたよ。」

出典:実話
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