咄嗟の一撃
2009/03/20 03:43 登録: えっちな名無しさん
学生時代、アパートで一人暮らししていた時のこと。
その部屋はやけに細長い部屋だった。1kでトイレ風呂付だったが、玄関から部屋までやけに距離があった。
窓は、部屋側に一つあるだけ。昼間カーテンを開けていても、太陽の光は玄関の方まで差し込まず、玄関と玄関から部屋に続く廊下はいつも薄暗かった。
梅雨時はもちろん、夏でもそこだけは、じめっとした空気に覆われていたもんだ。
ある夏の夜、部屋で寝転がって本を読んでいた。時計を見ると午前三時になろうとしていた。
そろそろ寝るかな、と本を閉じ、トイレに行こうと立ち上がった。トイレと風呂は廊下の途中にある。
玄関に目をやったとたん、全身に粟が立った。
玄関の前に髪の長い女が立っていた。薄暗いのに、やけにその姿は、はっきりと浮き上がって見えた。
誰かが間違って部屋に入ってきたのか? そんなはずはない。ドアの開く音も閉まる音も聞こえなかったし、鍵をかけ、チェーンまでかけていたことをはっきりと覚えている。
夏なのに黒い長袖のワンピースを着込んで、手袋までしている。無表情な青白い顔でこちらを睨んでいる。つり上がった目はやけに白目が目立つ。
十秒近く俺と女は向き合っていたと思う。そのうち女は「あ゙あ゙あ゙……」と意味のわからない声を上げながらこちらに向かってこようとした。
普通なら悲鳴を上げて反対側の窓から飛び出すところだ。二階だったし、運が悪くない限り足を折るくらいで済むだろう。
だけどテンパったり、咄嗟の時など、人間は思わぬ行動に出るものだ。その時、俺は逃げ出さず、
「他人の部屋に勝手に上がり込んでなにしとんじゃああああ!」
と、でかい声を張り上げ、女に突進していった。
「おらああああああああああああああ!」
とか叫びながら、跳び蹴りをかました。能面のようだった女の顔に驚いたような表情が浮かんだ。
跳び蹴りは女にヒットせず、すり抜けた。その瞬間「ひぃっ!」という女の声を確かに聞いた。
ドアに思いっきり蹴りを入れ、尻餅をついた。女の姿は消えていた。
隣の住人は何事かと飛び起きてくるし、蹴りを入れたため、ドアの鍵を壊してしまい、大家さんに怒られた。
理由を聞かれたが、ゴキブリが出たので、退治しようと追っかけていて勢い余ってドアにぶつかったと言った。
また女が現れるかも、とビクビクしていたがそれっきり現れず、卒業して何事もなく部屋を退去し、田舎に戻った。
数年後、用事があってそっちの方面に出向いた時、ふと思い出して、アパートのあった場所まで行ってみたがすでに取り壊され、駐車場になっていた。
出典:2ちゃん
リンク:何事も強気に?

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