男前だったあの子

2009/04/06 00:46 登録: えっちな名無しさん

 俺の通ってた公立中学でやたらとDQNな連中が多かった。その中でもリーダー格だったのがまた最悪で、親がヤクザの幹部かなんかでそれを傘に着てとんでもなかった。DQN連中の中でも反発している奴は多かったんだけど、表だっては逆らえなかったみたい。
 暴力、カツアゲなんかは日常茶飯事で、教師も一応注意はするんだけど、どうにもならないって感じだった。
 女子にも嫌がらせ、というかセクハラっていうの? ケツ触ったり胸揉んだりとやりたい放題だった。中学だったからそれくらいで済んだけど、もっと年齢が上だったら、それどころじゃなかったかもしれない。
 俺らみたいな普通の生徒や、真面目な連中はとにかく目をつけられないように、怯えて暮らす毎日だった。
 中学二年の時。同じクラスにある女の子がいた。真面目で勉強ができて、大人しくて。背も小さくて可愛い子だった。その子に、問題のDQNが目をつけて、「俺とつき合え」だの「やらせろよ」だのと抱きついたり胸揉んだり。その子は「やめてよー」と半泣きでいつも言ってたが、全く意に介さない。
 俺らはびびって何も言えなかった。時々友達の女子が「やめなよ」っていっても、「うるせえ、お前ヤっちまうぞ」とか言ってどうしようもない。滅多になかったがキれると女の子にも手を上げる奴だったから、それ以上はなにもできないって感じで。
 ある日、またそいつがその子にちょっかい出し始めた。俺らは『ああ、またか』と、ひたすらその場を収まるを待つしかなかった。
 が、その日は少し違った。いつものように抱き寄せられて、胸を触られてたその子が、
「やめてよ」
 と、静かだがきっぱりとした口調でそいつの手を振り払った。いつも半泣きでなすがままだったその子がだ。俺らはいつもと違う彼女に驚いて息を呑んで見守った。DQNは少し面食らったようだが、すぐに「なに怒ってるんだよ」といいつつ、手を伸ばす。彼女はその手をバシッと叩くように振り払ってもう一度、
「お願いだからもうやめて」
 ときつい口調で言った。DQNの顔色が変わった。はっきりと拒絶されて恥をかかされた(?)と思ったんだろうな。
「女だと思って下手に出てりゃあいい気になりやがって!」
 と、三文芝居のようなセリフを吐いた。おいおい、お前がいつ下手に出てたよ?
 キれたら女の子にも手を上げるような奴だ。間違いなく彼女に殴りかかる。実はその子の事が密かに好きだった俺は意を決して、「やめろ」と間に入ろうとした時。
 まさに殴りかかろうとしていたそいつから一歩下がって間合いを取った彼女は、
「ハッ!」
 と気合いを発して回し蹴りを放った。ただの回し蹴りじゃない、二段回し蹴り。一発目が浅くヒットし、棒立ちになったDQNの顔に二段目の踵が、映画の効果音みたいな「バシッ」という快音を立てて、もろ鼻っ柱にクリーンヒット。
 派手に机や椅子にぶつかって倒れるDQN。周りは呆然。目の前で起きたことが信じられない様子だった、もちろん俺も。
 鼻血を噴き出しながら、しばらく呆けたように彼女を見上げていたが、すぐに「てめえ、ぶち殺すぞ!」と立ち上がって彼女に突進。そこへ彼女の放った正拳突きが鳩尾に突き刺さって一巻の終わり。
 女の子の力とはいえ、カウンターに鳩尾に食らったので、ダメージは大きかったらしく、その場に蹲ってゲーゲー吐き出した。彼女は、自分のしたことが信じられないようで、呆然としていたが、我に返ると
「ご、ごめん大丈夫?」
とDQNに駆け寄った。DQNは吐きながらわんわん泣いていた。鼻血と涎を垂らしながら。
「大丈夫か」「保健室いくか?」と、そいつの(嫌々ながら)仲間だった連中が助け起こす。謝る彼女に、
「いや、お前もういいから」「大丈夫だから、ついてこなくていいって」
と、そそくさと教室を出ていった。
 ヤクザの親が、どんな行動に出るかわからない、と戦々恐々だったが「子どものケンカに親は出ていかない」って感じで何もなかった。それどころか親に泣きついたそいつは「女にやられて泣きついてくるってどういうことだ」と逆にシメられたらしく、一週間ほど学校を休んだあと、顔を腫らして登校してきた。
 そいつの権威は失墜し、他のDQN連中も表だってはそいつを無視したりはしなかったが、明らかに前のようなへりくだった態度は見せなくなっていた。もともとそいつに扇動されて他の真面目な生徒を苛めたりしていたので、それもピタリと止んだ。そいつの影は薄くなり、その後、権威を取り戻すことはなかった。
 彼女は空手を習っていたという。しかも小学校の頃から。ただ、小学校の頃から大人しい真面目な子、という周りの認識があまりにも強くて、彼女も親しい友人にもなかなか言い出せないでいたらしい。
 DQN連中も、
「お前、男前だよなー」「今度俺にも教えてくれ」などと冗談なのか本気なのかわからないような事を言って、彼女に一目置くようになった。
 その後彼女は、DQN連中と親しくなり、その道へ……てなことはなく、有数の進学校である女子校に進学し、俺達のような、一般的な連中とは縁が切れた。彼女はヒーローだったね、いや、ヒロインか。
 その後のDQNは、どうしたか知らない。それ以来、卒業までまったく影の薄いままだったし。最低な奴だったな、しかし。

 だがもっと最低なのは、彼女が回し蹴りを放った時に見えた白いパンツを思い出して、その夜オカズにしてしまった俺だ。

出典:*
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