( ^ω^)ブーンが二者択一するようです

2009/06/19 21:55 登録: えっちな名無しさん

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/23(月) 21:22:59.53 ID:lDyri4Ur0



あまぁいチョコレートとにがぁいチョコレートならどっちを選ぶ?
うん、あまぁいチョコレートだよね。きっとみんなそう。
ひねくれた誰かなら話は別だけど。

でもこんなのつまんない。
わかりきった答えなんか見たくない。
悩みに悩んで、取り返しのつかない決断をしてほしい。
それで、苦悩して涙を流してそれでも決断を続けて欲しい。

それを見るのは、とっても楽しい。
本当に、楽しい。













( ^ω^)ブーンが二者択一するようです













<プロローグ>



(;^ω^)「行ってきますおー!!!」

昔から走りでは負けなかった。陸上部では常にエースだった。
しかし悲しいかな、引退してしまった今、その足が活躍するのはこんなときだけ。

⊂二(;^ω^)二⊃ 「うおおおおおお!」

両手を広げる、独特のフォーム。
ブーンと奇声を発しながら―それが彼がブーンと呼ばれている所以だ―風を切って走っていく。
普通に走ったほうが速いのだけれど、こうして走る方がブーンは好きだった。風を、感じられるから。






( °ω°)「!!!」

無常にも、正門が閉められていく。
いや、負けるものか、此処で諦めては元陸上部エースの名が泣くぞ。
ブーンは加速していく。ksk、ksk、ksk…

(;^ω^)「セーフ!」

ξ゚?゚)ξ「うっわ、汗臭い」

(;^ω^)「ツン…僕だってわかってたお?何で門閉めちゃうんだお」

ξ゚?゚)ξ「あら、風紀委員長がえこひいきするわけにはいかないわ」

ツンは得意げに無い胸についている風紀委員のバッチを見せる。
トレードマークでもある自前の金がかった茶色の髪は今日も今日とてクルクルしている。






(;^ω^)「あんまり遅刻するようなら推薦取り消すぞって荒巻先生に脅されてるのしってるお…?」

ξ゚?゚)ξ「朝早く起きればいいのよ」

( ^ω^)「それが出来ないから毎朝走ってるんだお」

ξ゚?゚)ξ「足が鈍らなくていいじゃない。大体、朝練には一度も遅れてこなかったくせに」

(;^ω^)「ドクオが毎朝叩き起こしてくれてたお…」

ξ;゚?゚)ξ「あんた、本当にダメね…」

( ^ω^)「うっせーお…教室行くお…」






主要な学校行事がほぼ終わり、クラス中が一気に受験モードになっていく10月。
ブーンのように、推薦で早々と進学先が決まってしまった者たちはなんだか気まずい時期でもある。

( ^ω^)「おはようお」

('A`)「おk、まず汗を拭け、臭い」

ξ゚?゚)ξ「ほら言ったでしょ」

( ;ω;)「ドクオまで僕をいじめるお?」

(;'A`)「ええ…だって臭いもんは臭いじゃん」

ξ*゚?゚)ξ「私のVAN貸してあげるわ」シュー

(*^ω^)「ひょお!冷たいお!」

('A`)「きめえ」

そう言うと、ドクオは机に突っ伏して寝始めた。
全くマイペースだおと呆れたブーンが、運動後の休養と称した居眠りを始めるのはその三分後。
二人が教師に殴られるのはさらにその三分後。






('A`)「お前らみたいなのが居るだけでみんなの意欲が削げるとまで言われたらサボるしかないわな」

( ^ω^)「それはどうかと思うお」

('A`)「じゃあお前なんで付いて来た?」

( ^ω^)「どうかと思いながらもドックンと同じ思いを抱いた次第ですお」

('A`)「ハッ、馬鹿め」

からあげさんを食べるドクオは小さい。身長もそうだが、線が細いのだ。
けれどドクオは凄く大きい。思い立ったら即実行がポリシーというだけあって、自分の意見を絶対に突き通す。
―たとえ、それによっていじめられたって、絶対に妥協しない。

よくも悪くも日本人気質なブーンには、それが凄く眩しく見えたものだった。
ドクオを自由きままな野良猫と例えるなら、ブーンは忠犬である。
毛色の全く違う二人は、それでも不思議と気が合った。






('A`)「あー…マンドクセ」

( ^ω^)「早く冬休みにならないかおー」

('A`)「お前いつツンに告白すんの?」

( ^ω^)「ツンの合格が決まったら、だお」

('A`)「浪人したらどうすんだよ」

( ^ω^)「ツンに限ってそれはないお」






('A`)「まあ、来月にある公募入試に合格したらいいけどよ、一般までもつれ込んだら高校最後のクリスマスも
    明石家サンタと過ごすことになるんじゃねえの?」

( ^ω^)「明石家サンタおもろいお」

('A`)「そういうことじゃねえよ…つうかもう両想いは確定みたいなもんなんだから、告白しちまえよ」

( ^ω^)「ツンは今大変な時期なんだお。負担になりたくないお」

('A`)「わっかんねえなあ…」

ドクオがからあげさんの袋を捨てる。ブーンが拾ってカバンにそっと入れる。
律儀なやつだとドクオが笑った。






('A`)「お前は律儀だよな」

( ^ω^)「褒めてもなんも出ないお」

('A`)「褒めてねえよ」

(*^ω^)「おっおっ」

ブーンにはたくさん友達が居るが、
こんなくだらない話を延々とし続けられるのはドクオだけだった。

ドクオには友達がほとんど居ないから、
こんなくだらない話を延々とし続けられるのはブーンだけだった。

遠くに聞こえるチャイムの音。






( ^ω^)「冬休みは三人で鍋をつつくお」

('A`)「お前がオーバーイートするから嫌だ」

(;^ω^)「お…材料費八割負担するお」

('A`)「そんな金あんのかよ」

( ^ω^)「バイトするお。冬休みと春休みは思いっきり遊ぶんだお、ドクオとツンと」

('A`)「他のオトモダチはいいのかよ」

( ^ω^)「安っぽい言葉は嫌いかお?」

('A`)「ああん?」

( ^ω^)「ドクオとツンは親友だお」

('A`)「…恥も外聞もねえな」

(;^ω^)「…」






('A`)「さっさと親友減らして恋人増やせよ」

( ^ω^)「お…」

ツンは陸上部のマネージャーだった。
その美貌から陸上部員は勿論他学年に至るまで告白が絶えなかったが、ツンはそのすべてを断った。
ドクオ曰く”ブーンにベタ惚れ”だかららしいが、いまいち実感がわかない。

( ^ω^)「ドックンは友達増やせお」

('A`)「間に合ってます」

( ^ω^)「今なら洗剤も付けますよ」

('A`)「あらお得ー」

ひゅっ、と小気味のいい音を立てて、ドクオが小石を川に投げる。
小石は何度も跳ねて、ずっと遠くでやっと沈んだ。






( ^ω^)「上手いおね」

('A`)「小学校サボってこればっかやってたからな」

(;^ω^)「小学生からサボりかお」

ブーンも真似てみる。申し訳程度に二回跳ねただけだった。

('A`)「ヘタクソ」

ドクオは笑った。






川が朱色に染まりだしたので、ドクオと別れて帰路につく。
なんだか無性に眠たくて、ご飯もお風呂も適当に済ませてしまった。
母親は看護婦で、滅多に夜は居ない。

( うω`)「ふあああ…もう寝るお…」



そしてブーンは、最後の平穏を手放した。



<プロローグ・了>


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やあ。ようこそ、夢の世界へ。
このプロテインはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

うん、「強制」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、この夢を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「恐ろしさ」みたいなものを感じてくれたと思う。
平和ボケした日本で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、
そう思ってこの夢を見せたんだ。

じゃあ、は じ め よ う か ?






<第一択>



(*^ω^)「…ツン、そんな…大胆だお…」

( <●><●>) 「…」

(*^ω^)「こんなところで…ダメだお…」

( <●><●>) 「…」

(*^ω^)「ツ…」

( <●><●>) 「私がツンでは無いことはわかってます」

(;;°ω°)「UWAAAAAAAAAA!!!!」






( <●><●>) 「うるさいことをわかってください」

(;^ω^)「す…すみませんお」

( <●><●>) 「わざとでないことはわかってます」

( ^ω^)「優しいお」

くりくりとした、かわいらしい瞳をしているのに大人びた顔をしている。
女の子にも見えなくないけれど、声はしっかりと男の子である。
夢にしては珍しく、やけに視界がクリアで意識もはっきりしている。

夢の中で夢とわかる夢を、明晰夢と言うのだ、とドクオから聞いたことがあった。
曰く、夢とわかったなら思う存分遊んでおけ、とのこと。
ドクオは明晰夢を見ることが得意で(訓練でどうにかなる類のものらしい)、
空を飛んだり魔法使ったりとかなりエンジョイしているとのこと。

…でもなんだか、これはそんな雰囲気ではない気がする。かなり現実感がある。






長いヒラヒラとした黒い服を翻し、くりくりくん(仮名)は歩き出す。
彼が歩を進めるたびに、足元から黒い粉のようなものが舞い上がっている。
彼なら魔法が使えそうだな。黒魔術。

ともかく彼に付いて行く。
ドクオが見たら殴られるのかもしれないけれど、まあ自分の夢だしな、と気軽に考える。
実際、付いて行こうが行くまいが、結果は変わらなかったのだろうけれど。

僕が歩いても、彼のように黒い粉は舞い上がらなかった。
やっぱり彼は特別なのだろう。それとも僕が異端なのか。
自分の夢なのにわからないことだらけなのは理不尽な気がする。






いきなり、彼が振り返って、手のひらを僕に向けた。
彼の手のひらに例の黒い粉がくすぶっているのを確認した瞬間、僕は目を閉じた。
魔法だ!殺される!カーチャンツンドクオごめんおごめんお…

と驚異のスピードで懺悔していたら、声をかけられた。
ゆっくりと目をあける。

( <●><●>) 「ここです」

( ^ω^)「ここは?」

( <●><●>) 「選択の場です」

( ^ω^)「洗濯?」

( <●><●>) 「わざとなのは わかってます」

( ^ω^)「ごめんお」






僕達が居る場所を中心に、道が二つに分かれている。
先の方は、また例の黒い粉が霧のように隠していて見えないけれど、
そう長い道でもなさそうだ。

道自体になんの問題も無いけれど、
道以外の場所はすべておどろおどろしい色が渦巻いていて怖い。
何せ空もその色だ。絵の具を全部ぶちまけた色。

(;^ω^)「趣味の悪い場所だお…」

( <●><●>) 「…私もそう思います」

( ^ω^)「でも僕の夢だから僕のせいだお?」

( <●><●>) 「いいえ これは貴方のせいではありません」

( <●><●>) 「でも 決断したならば 全ては貴方の責任です」






( ^ω^)「…どういうことだお?えーと」

( <●><●>) 「私は ワカッテマス といいます」

( ^ω^)「変わった名前だお」

( <●><●>) 「貴方もですよ ブーン」

( ^ω^)「お…それは本名じゃないお」

( <●><●>) 「わかってます」





彼―ワカッテマスは手のひらを広げた。
例のk(ryが手のひらから湧き上がってくる。
手品を見る感覚で僕はそれをわくわくしながら見ていた。

やがてそれは何かを型どり始める。
うまい棒?いいえ、ナイフです。

( ^ω^)「ナイフ?」

( <●><●>) 「そうです」

典型的なナイフだ。ただ色彩センスが決定的に欠落している。
持ち手が例の12色ぶちまけMIX−僕の地獄に音楽を添えて−色なのだ。
刃の部分も微妙な色をしている。見る角度によってホログラムのように色が変わって、
綺麗だと思うのだが、どうにも好きになれない。





( <●><●>) 「これを あなたに」

( ^ω^)「くれるのかお?」

( <●><●>) 「…渡さなければなりません」

(;^ω^)「無理に渡してくれなくていいお…それ趣味悪いお」

( <●><●>) 「いいえ 渡します それが私の役目なのはわかってますから」

まあ夢だし銃刀法違反で逮捕されることも無いだろう、
と軽い気持ちで受け取ったそれは見た目より随分重かった。






( ^ω^)「重いお」

( <●><●>) 「これからもっと 重くなるでしょう」

( ^ω^)「そんないわくつきいらないお」

( <●><●>) 「すみません 時間です マスター」

(´・ω・`)「やあ」

(;^ω^)「UWAAAAAA?!」

(´・ω・`)「ハハハ、良い反応だね、やらないか?」

(;^ω^)「お断りします!!!」

(´・ω・`)「冗談さ。ところで君、あまぁいチョコレートとにがぁいチョコレートならどっちを選ぶ?」

( ^ω^)「へ?」

(´・ω・`)「「掘るぞ」

(;^ω^)「あ、甘い方…」

(´・ω・`)「だよね、100人いたら99人はそっちを選ぶだろう。でもそんなのつまんない」

( ^ω^)「つまんない?」






(´・ω・`)「僕はね、わかりきった答えなんか欲しくないんだ。数学なんて大嫌い。答えがひとつしかないからね。
      僕が欲しいのは、血の涙を流して下した決断。決断したあともなお続く苦しみに悶える姿」

あ、ドSの方ですか。僕はドン引きしてその人から離れようとした。
けれど身体が動かない。急に怖くなって、震えが止まらなくなる。

(´・ω・`)「本当に大事なことには正しい答えなどないんだよ」

耳元で低く低く呟いたその声が、僕の身体に氷を落とした。
彼が僕から離れると、身体を取り押さえていたものが無くなって、僕はその場にへたり込んだ。
なんでか、涙が止まらない。

(´・ω・`)「夢の中とはいえ、生きている人間には僕の存在が強すぎるんだ。困ったものだね」

彼の一挙一動が、僕の身体から熱を奪っていく。
呼吸の仕方を忘れたみたいに必死に息をして、止まらない涙で視界がぼやけても、それでも顔を上げる。

(´・ω・`)「…いい顔だ。じゃあ、良い夢を。後は頼んだよ」

( <●><●>) 「…わかってます」






( <●><●>) 「大丈夫ですか」

( ;ω;)「う、うう…」
 
( <●><●>) 「…大丈夫じゃないのはわかってますが 時間がありません ―立ちなさい ブーン―」

( ;ω;)「うお?!」

意志とは無関係に身体が動いた。気分はマリオネット。

( <●><●>) 「さあ」

( ;ω;)「痛い痛い痛い」

夢なのに!理不尽だチクショー!





( <●><●>) 「道の先にそれぞれあるものがあります」

( ^ω^)「あるものとな」

( <●><●>) 「みればわかります それを刺してきてください そのナイフで 右のものか左のものか 選択するのです」

( ^ω^)「だから選択の場かお」

( <●><●>) 「そうです」

( ^ω^)「…もし嫌だと言ったら」

「永遠に覚めぬ夢と言えば聞こえはいいですね」

( ^ω^)「…」

僕の夢なのに決定権が僕にない。 これなんて理不尽?
…でも逆らうのも怖い。




重い身体を引きずる僕の姿はきっと幽霊かゾンビだ。
ゆらぁりゆらぁり、まずは左の道をいく。
もし道を外れたらどうなるのかなど考えたくもない。

( ^ω^)「…お?」

…なんてこったい。

⌒*リ´・-・リ「…だあれ?」

よりによって幼女。いくら夢だからと言って幼女を刺すのは気が引ける。
別にロリコンってわけじゃあない。人間として当たり前のことだろう。

でもこの重い身体を引きずって戻り、さらに右の道に進む元気もない。






(;^ω^)「うーん、ごめんお」

ナイフで幼女の手をちょいと刺す。

⌒*リ´・-・リ「やっ!」

(;^ω^)「ご、ごめんお」

⌒*リ´;-;リ「おかあさーん」

(;;^ω^)「うおおおおお…ごめんおごめんおごめry」






(#^ω^)「つうかもう十分さしたじゃねえかお!さっさとイベント起こせお!」

( <●><●>)「静かにしてほしいんです」

(#^ω^)「ワカッテマス!もう刺したお、これ以上は無理だお!」

( <●><●>)「…最初はそうでしょう では 私が手助けを ―ナイフを振り上げなさい」

クン、と見えない糸が僕の右手に巻きついて、勢いよく右手を―ナイフを振り上げた。

(;^ω^)「え?え?ワカッテマス?!まさ…」

( <●><●>)「哀れな少女の左胸を切り裂くのです―」

「い、いやだお!いやだお、いや―――




















( °ω°)「はあッ!!!」

(  ω )「は、は、は、は、は、ハアッ、は、は…は…」

(  ω )「は……っ、は…」

(  ω^)「……ゆ…め…」

( ^ω^)「ああ、なんだ、夢か…」

思わず右手を見る。いつものずんぐりとした手。血などついていない。
僕はそれを確認すると、布団に引き込まれるようにして、再び眠った。






(´・ω・`)「どこかで哀れな母親が泣いているねえ」

( <●><●>) 「…」

(´・ω・`)「ふふ…あせらないことがコツさ。君のときは少々あせりすぎた」



”それ”を見るのは、とっても楽しい。
本当に、楽しい。


<第一択・了 >


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<第二択>

今までの人生でもワーストワンに選ばれるであろう朝だ。
もう10月も半ばだというのに寝巻きは汗でじっとりしている。不愉快極まりない。

フラフラと階段を降り、台所で水をガブガブ飲む。
何故こんなにも気分が悪いのか少し考えて、思い出す。

夢だ。夢を見たんだ。

(  ω )「人を…殺したお」

思わず出た自分の声にビックリして、辺りを見回す。誰も居ない。
ホッと胸を撫で下ろしてから気付く。

(  ω )「別に本当にやったわけじゃないんだから堂々としてればいいお」

今度は意図的に声を出したが、妙に情けない。

(  ω )「別に本当にやったわけじゃないんだから堂々としてればいいお」

繰り返してみたけれど、やけに嘘っぽく聞こえた。





軽くシャワーを浴びてから制服に着替える。まあ夢見は悪かったけれども、そのお陰で早起き出来たし、
今日は全力で走る必要もなさそうだ。ポジティブに考えよう。

でも、母親が作っておいてくれた質素な朝食をおいしいと思うことが出来ない。
気分を紛らわそうとテレビをつける。





| ^o^ | 「おはようございます」

|  ^o^ | 「ずーむいん!しょうゆ です」

| ^o^ | 「では にゅうす にまいります」

|  ^o^ | 「せんじつおこった じょしこうせいれんぞくさつがいじけん 
       のはんにんが たいーほ されますた」

| ^o^ | 「よかったですね」

|  ^o^ | 「はい これがはんにんのしゃしん です」

| ^o^ | 「いいえ それはしょうゆです」

|  ^o^ | 「おやおや …よくみたらコーラじゃないですか だましましたね」

| ^o^ | 「うふふ」

|  ^o^ | 「しゃしんはこれでした なまえは…」


…なんか余計気分が落ち込んだ。






味のしない朝食をなんとか食べきってから、返事のないいってきますを言って、家を出た。

それでもお腹の中に落とされた何か凄く重い物についてポジティブに考えることは出来ない。
ポジティブキャラとして由々しき事態だ。必死でポジティブな方向に考える。

( ^ω^)「漬物石として利用…」

(´<_` )「何言ってんの」

(;^ω^)「おおッ?!」






独り言を誰かに聞かれていたなんて赤面者だ。

(´<_` )「俺は弟者です」

( ^ω^)「?知ってるお、おはよう弟者」

(´<_` )「おはようブーン。今日は早いんだな」

( ´ω`)「お…」

(´<_` )「…なんだ朝から辛気臭い顔して、らしくもない」

弟者とは二年のときに同じクラスになっただけという間柄で、特に仲が良いわけではない。
しかし彼の飄々としたところがどこかドクオに似ているからか、僕は彼に親しみを持っていた。






( ´ω`)「夢見がテラ悪かったんだお」

(´<_` )「夢?」

( ´ω`)「人を、しかも小さい子を殺す夢だったんだお。やけにリアルで、怖くて」

(´<_` )「で、まだ引きずってると。女々しいやつだな」

(#´ω`)「あんな夢見れば誰でもこうなるお」

(´<_` )「はは、いやごめん、別に馬鹿にしたわけじゃあないんだ。そうか、今日は怖い夢を見たから早起きなんだな」

( ´ω`)「…そのとおりだお」

なんか改めて言われると本当に女々しい。ますます落ち込んでしまう。

(´<_` )「ブーンらしいな」

(#´ω`)「どういう意味だお」

(´<_` )「いい意味だよ」






さらっと笑ってみせる弟者は悔しいことにイケメンである。笑顔が嫌味でないところがさらに妬ましい。
しかも性格もいいし運動もそこそこ、天はイケメンにのみ二物も三物も与える。

(´<_`;)「…機嫌直せよ。そうだなあ。じゃあ、身内からの受け売りの小話でもひとつ」

( ^ω^)「お?」

(´<_` )「人は、ひとつだけあれば生きていけるそうだ」

( ^ω^)「なんの話だお?」

(´<_` )「まあ聞け。なんだっけかな、人は本当は自分とひとつあればいいんだそうだ。
 いや親が居ないと生まれないとか農家の人が居ないと飯食えないとかそういう話じゃなく、精神的な意味で」

朝から難しい話。でも幸いにもこういう中二病的な話はドクオから度々聞かされていたので、
学習済みの僕は早々とスーパー右から左に受け流すモードに入った。






(´<_` )「それを―多くは人なんだが、それをなんていうのか誰も知らない。多くの人は、他の名前で代用している。
      生き甲斐だとか天職だとか、恋人だとか親友だとか。
      でも本当はそれをそんな風に代用してしまうのは凄く失礼なんだと。安っぽいから」

スーパー右ryに入った僕だったが、その言葉はなんだか凄くわかる気がした。
ドクオに比べ、弟者の話は難しくないからかもしれない。
ドクオときたらオタクの典型、やたら難しい言い回しを使う。

(´<_` )「そのひとつがあれば、恋人も親友も親も居なくたって生きていけるんだ。
      そのひとつがないから、みんな空っぽの友達や愛のない恋人で埋めているんだと」

( ^ω^)「でも友達が居ないのはさみしいお」

(´<_` )「これを言った身内は友達がほとんど居なかったからなあ、すっごく極端なんだろう。
      俺だってそいつのいう空っぽの友達は必要だと思うしな。
      でも寂しいとかそういう話じゃなく、生きていけるって話だと思うぞ。
      たとえばブーン、俺が死んでもさみしいかもしれないが生きていけないってことはないだろ」

(;^ω^)「…」

(´<_` )「いいさ、悪いが俺だってブーンが居なくたって生きていける」

( ^ω^)「失礼だおww」





僕たちは笑った。
多分僕にとっても弟者にとっても、お互いが彼の言う(正しくは彼の身内の言う)からっぽの友達で、
でもそれは別に薄情でもなんでもない。当たり前のこと。

一緒に居て楽しいけれど、楽しいだけで。
困っていたら助けてあげたいけれど、それは自己満足で、どこかに良く見られたいっていう計算があって。
嫌われやしないかってビクビクしていて。

誰とでも親友になれたらいいけれど、そもそもそんなのは親友って言わないし。
でも楽に生きていくためにはからっぽでも友達は居た方がよくて。

よくよく考えてみたらこの話は微かな矛盾を孕んでいる気もしたけれど、
その方が真実味がある気がするのは僕が人間だからだろうか。





( ^ω^)「でも弟者、その話と僕の夢の話どう関係があるんだお」

(´<_` )「つまり」

( ^ω^)「つまり?」

(´<_` )「ドクオに話してみろってことだ」

(;^ω^)「全然わからんお」

(´<_` )「ははは」

中二病の入った話をしたあとでさえ、弟者は爽やかだった。全僕が嫉妬した。






( ^ω^)「ドクオにこんな話をしたら、馬鹿にされるお」

(´<_` )「どうかな。試しにドクオの前で本気で落ち込んでみたらどうだ」

(;^ω^)「どんなアドバイスだお」

(´<_` )「たいせつなことだ」

( ^ω^)「お?」

(´<_` )「わかっていないならそれは凄く勿体の無いことだから」

( ^ω^)「?」








(´<_` )「…人間は、ひとつだけでいいんだ」

すぐ隣で歩いている僕にさえ聞こえるか聞こえないかというくらいの声で、弟者はつぶやいた。
それは音としてはとても小さいものだったのだけど、
なんだかやけに切なく、僕は胸が締め付けられるようだった。






教室を空ける。一瞬、一番乗りかと思ったけれど、先客がいた。

( ^ω^)「ドクオ」

(;'A`)「うおっ、珍しいな」

弟者よりも数倍驚いている。朝練のために毎朝僕を(叩き)起こしてくれていたドクオは、
僕の朝の弱さを誰よりもわかっているからだろう。

余程信じられなかったのか、僕をまじまじと見ている。
下手くそに笑ってみせるといやなものを見てしまったという顔をして、視線を窓に向けた。

一体どういうイカサマをしているのか、何度席替えをしてもドクオは窓際の席になる。
授業中だとか、僕が他の友達としゃべっているときだとか、ドクオはいつも自分の席から空ばかり見ている。






('A`)「…なんかしゃべれよ」

( ^ω^)「お」

('A`)「顔色わりぃぞ。お前は俺か」

( ^ω^)「…」

ドクオにとっては渾身のギャグを軽くスルーして、実は、と話を切り出す。
弟者に言ったこととほぼ同じようなことを言った。

('A`)「馬鹿じゃねえの」

予想通り。
ドクオはかっこつけたように笑って(これが弟者と違って全然かっこよくない)視線を空に戻した。
いつものことだから、いつもなら別になんとも思わないのだけど、今日の僕は”いつも”ではなくて。






弟者が優しかったのもあるのかもしれない。比べるもんじゃないけれど、なんだか悲しかったのだ。
弟者の”たったひとつ”の話を聞いたとき、ドクオを思い浮かべたことが恥ずかしかった。僕だけだ。
親友って言葉すら安っぽいだなんて、そんなことを思うのは。

( ^ω^)「…」

('A`)「ブーン?」

そりゃそうだ。僕とは違う。僕は周りに流されてばっかりで、ツンに告白する勇気もなくて、
そのくせツンが他の男としゃべっているときは一丁前に妬いたり、挙句は夢なんかに本気で怯えるようなヤツだ。

ドクオは一人で生きていける。強いのだ。その辺の奴らとは違うんだ。僕はずっと、そこが誇らしく、憎かった。
夢が落としていった何か凄く重いものが、思考すら重く重くしていく。

('A`)「おい、」






ドクオが何か言いかけたとき、教室のドアが開き、人がぞろぞろと入ってくる。
僕は逃げるようにその人らに話しかけに行った。

( ^ω^)「おはようお」
  _
( ゚∀゚)「え、今何時だよ?!俺らテラ遅刻wwww」

( ^ω^)「ちょww八時十分だおwww余裕www」
  _
( ゚∀゚)「だってお前が居るとかwww」

「ヒドスwwww」

(=゚ω゚)「ahad!(明日は雨だよう!)」

”からっぽの友達”には、完全に”社交的な自分”を作って話すから、
よっぽど出ない限りは笑って話せる。楽だよ。馬鹿なこといってりゃいいんだから。
それを言う人間が、僕である必要性はわからないけれど。





そんなことが朝にあったから、その日はずっと気まずい雰囲気(なぜか変換出来た)。
ツンが尋ねてきても適当にはぐらかして。まあツンはだまされてはくれなかったようで、不満気だったが。

そのままずるずると放課後に。僕はそそくさと帰ってしまおうとしたが、ツンが立ちはだかる。

( ^ω^)「なんだお」

ξ゚?゚)ξ「付き合って」

(  ゚ω゚)「?!!!」

ξ*゚?゚)ξ「か、勘違いしないでよ!ついてきてって意味なんだから!」

( ^ω^)「なんだ、連れションかお」

したたかに殴られた。






(メ;^ω^)「な、なんだお、こんな人気のない自転車置き場に連れ出して…ツンまさか…っぼ、僕心の準備g」

ξ゚?゚)ξ「私を自転車に乗せなさい」

( ^ω^)「へ?ツン乗れないのかお?」

ξ;゚?゚)ξ「乗れるわよ!二人乗りしたいの!」

(;^ω^)「お…ど、どうぞ」

男友達にしか乗られることのなかった僕の自転車の荷台に、女の子が。
それも、一番乗って欲しかった女の子が。

(;^ω^)「の、乗ったかお?」

ξ゚?゚)ξ「乗ったわよ」

ちょこんと横座りをするツンは凄くかわいくて、ヤバイ。
お前の生足で俺がヤバイ。






( ^ω^)「お客様、どこに行かれるんですかお?」

ξ゚?゚)ξ「そうねえ、とりあえずモーソンまで」

( ^ω^)「かしこまりましたお」

自転車ってこうやって漕ぐので合ってたっけ?
河原って本当にこっちだっけ?

彼女居ない歴=年齢、フラグを立てたこともない僕である。
正直マジパネェテンパってんでやんす。






ξ゚?゚)ξ「――ねえ」

(;^ω^)「なっ、なんだお?」

ξ゚?゚)ξ「何かあったの?」

後ろに乗っているわけだから、ツンの表情は見えない。

( ^ω^)「なにも?」

ξ゚?゚)ξ「…ドクオが心配してたわよ」

(;^ω^)「ドクオが?心配?!」

ξ;゚?゚)ξ「あんたその反応は失礼でしょう…まあわかるけど」

( ^ω^)「え?僕をかお?」

ξ゚?゚)ξ「あんた以外の誰をあのドクオが心配するのよ。私にね、今日一緒に帰ってやってくれって」

( ^ω^)「お…」






ξ゚?゚)ξ「…」

( ^ω^)「…」

ξ゚?゚)ξ「ねえ」

( ^ω^)「お」

ξ゚ー゚)ξ「ドクオの家にお願いできます?運転手さん」

(*^ω^)「…お安い御用ですお」













ξ゚?゚)ξ「あ、でもその前にモーソン」

( ^ω^)「ムード台無しだお」





無事にドクオの家につき、チャイムを鳴らす。
ドクオの家――と言っては失礼か。ドクオの部屋は常に壊滅しているため、
僕がここを訪れることは滅多にないので、少しドキドキした。

ξ゚?゚)ξ「ここがドクオのねえ。ブーンの家から遠いの?」

( ^ω^)「結構近いお。歩いても15分くらいだお」

ξ゚?゚)ξ「あら、でも高校で初めて会ったのよね?校区違ったの?」

( ^ω^)「ドクオは中学校まで私立に通っていたらしいお」

ξ゚?゚)ξ「そうなの。そういえば頭いいものね、あんなに寝てるのに」

( ^ω^)「僕も頭良かったら寝れるのに、不公平だお」

ξ゚?゚)ξ「もう寝てるじゃない」

( ^ω^)「心のどこかでテストヤバいお、っていう不安があるんだお。
      頭が良ければ心よく寝れるお」

ξ゚?゚)ξ「馬鹿ね」

ξ;゚?゚)ξ「…出ないわね」

(;^ω^)「出ないおね」






ξ゚?゚)ξ「まさか居留守を決め込んでるんじゃないでしょうね」

( ^ω^)「あり得るお。つーか9割方そうだと思うお。連打してみるお」

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポ(ry

ξ#゚?゚)ξ「うッるさいわね!」

(;^ω^)「いでっ」

でも僕の作戦(?)は功を奏したようで。

『はい…いません…』

(;^ω^)「ちょwww僕僕wwwww」

『詐欺おt…ってブーン?』

ξ゚?゚)ξ「私も居るわ!」






流石にツンに自分の部屋を見せる気にはなれなかったらしく、
僕らは居間に案内された。

ξ゚?゚)ξ「きれいね。モデルルームみたい」

( ^ω^)「っていうかいつ来ても生活感ないお」

('A`)「俺は自分の部屋でしか生活してねえし、此処だってたまに手伝いが来て片付けるだけだからな」

ξ゚?゚)ξ「え?それって…」

(*^ω^)「お手伝いさん?メイドかお?」

('A`)「そんないいもんじゃねえよ。此処日本だぜ?家政婦っていやあいいか?」

そんなことを言っている割に、手なれた様子で紅茶を注いでみせるドクオは顔以外はイケメンだった。
それをイケメンと言えるのかはわからないけれど。

ξ゚?゚)ξ「…あらいい香り」

(;^ω^)「なんか庶民の僕には飲みなれないお」

('A`)「ペプシ飲むか?」





それから僕らはくだらないことを延々と話し続けた。
僕とドクオが話して、ツンが笑って。
僕とツンが話して、ドクオが呆れたようにツッコミを入れて。
ツンとドクオが話して、僕がフルボッコにされて。

何の実りも無い話題ばかりなんでこうも出てくるのだろう。
それでも僕らはずっと笑っていた。

('A`)「…もう遅いな」

ξ゚?゚)ξ「あらもうこんな時間?」

( ^ω^)「時の流れは残酷お…」

ξ゚?゚)ξ「中二病乙」






('A`)「ブーン、送っていけよ」

( ^ω^)「もちろんだお」

ξ゚?゚)ξ「あ、待って待って、写真撮りましょ」

('A`)「写真?」

ξ*゚?゚)ξ「さっきモーソンでカメラを買ったの。この三人で撮った写真が欲しいかな、なんて」

('A`)「俺写真はきr( ^ω^)「もちろんだお!!!11!!!」

('A`)「…」








ドクオ、ドクオ笑って、ほらカメラみて
                           魂抜かれる…
      いつの時代の人だおww
  
  ブーン顔近すぎ。
                    すみませんお…
  

       ざまあwwww
                  もーちゃんとして。ほらいくよー?






          はい、チーズ。






ツンを送っていったけれど、特にフラグが立つこともなかった。

( ^ω^)「まあ、そんなもんだお」

それでも僕は満たされた気持ちだった。幸せな気持ちでお風呂に入ったし、
ごはんを食べた。そして僕は幸せな気持ちのままで、ベッドに入った。

携帯が鳴る。ドクオからだ。めずらしいな、と思いメールを見るとまさかの空メール。

( ^ω^)「あ、よく見たら添付ファイルがあるお」

音楽ようだ。

( ^ω^)「seesound.mp3」

( ^ω^)「dolphinvoice.mp3」

( ^ω^)「…?」

『なんだおこれ』

六文字だけ打って送ったメールはすぐに帰ってきた。
返信は、僕よりさらに短い四文字。

『あんみん』

…ああ。なるほど。僕は五文字で返事を送ると、さらに幸せな気持ちで眠りについた。






の、に。

( ^ω^)「またお前かお」

( <●><●>) 「まだ二回目ですが」

( ^ω^)「一回見たらもう十分だお」

( <●><●>) 「そうはいきません」

( ^ω^)「人生とはかくも辛いものだお」

( <●><●>) 「随分と口が達者ですね 今日も選択をせねばならないのに」

( ^ω^)「もうおまいらの言うことなんか聞かないお。夢っていっても後味悪すぎんだおバーカ」

( <●><●>) 「…選択を」






手に重みを感じる。あのナイフだ。

(#^ω^)「こんなもの!」

投げ捨てると、それは黒い粉となって消えた。

( <●><●>) 「…」

(#^ω^)「早くこの夢どうにかするお。夢ジャックなんて流行らねえお。世も末だお」

強気で言ってみても、彼は、ワカッテマスはまるで動じない。
ゆらりと僕の後ろを指刺す。見てはいけないとわかっていても、
そのあまりにも黒い眼に見られてしまってはもう振り返るしか無い。

二つに分かれた、道。

( <●><●>) 「さあ お行きなさい」

( ^ω^)「いやだお、と言ったら」

( <●><●>) 「死にたくばそうなさい 私は構いません」






夢なんだから別に死んだっていい筈なんだけども、
昨日と同じく、この夢にはリアリティがあり過ぎる。
五感も思考もはっきりしている。だから、どうにも逆らう勇気が出ない。

進んでいくと、男がいた。

(・∀ ・)「なっんだよここ!!」

どこかで見た顔だ。

( <●><●>) 「犯罪者です」

( ^ω^)「ああ、朝みたお。女子高生殺害…」

(・∀ ・;)「な、なんだよ!俺は悪くないんだぞ!」

( ^ω^)「…」

( <●><●>) 「どうです 前よりはずいぶんと楽な選択じゃあありませんか
        ちなみに もうもう片方に居るのは 何の罪もない一般人です」

( ^ω^)「…そりゃあ」

そりゃあ、何の罪もない、しかも幼い少女を傷つけるよりはずっと気が楽だ。






( <●><●>)「その男 きもちわるい と言われたと思いこみ 女子高生を何人も殺したのですよ」

( <●><●>)「人を殺した人間は 殺されて当たり前だと思いませんか」

その黒さに底は無い。たとえば、思い悩んで眠れもしない夜のように。

( <●><●>)「ねえ ブーン? そうでしょう」

(;^ω^)「そ、そりゃそうだお…罪もない人を殺すなんて許されることじゃあないお」

( <●><●>)「…でしょう この男 現実ではもう海外に逃亡しているんです」

(;^ω^)「え…」

( <●><●>)「貴方がここで選ばなければ この男 裁かれることなく 時効を迎える予定なのですよ」

(;^ω^)「…」

( <●><●>)「ねえ ブーン」

捨てたはずのナイフが、僕の手に再びあった。






( <●><●>)「矢張り昨日は 私が選択するものを強制したような形になってしまったからいけなかったんです」

(  ω )「…」

( <●><●>)「選んでください 殺人者か 何の罪もない者か」

ワカッテマスの声が頭の中で何度も何度も響く。それに呼応するように、身体が震える。
手が、ナイフを離してくれない。身体が言うことを聞かない。

( <●><●>)「―選びなさい」

血が、身体中の血が、湧き上がったように熱い。息を吐き出すと、喉が焼けるような。
とても立っていられないと思っているのに、何故か足だけはしっかりと立っている。

( <●><●>)「手助けは今日までですよ ブーン 私は貴方を嫌いでは無いのです」

( <●><●>)「母親を一人にしたくはないでしょう 考えてみなさい 冷たくなった貴方を見つけた母親の叫びを」

( <●><●>)「え ら べ ―」




(  ω )「これは…  ただの、夢だお?」

( <●><●>)「…ええ」

(  ω )「ああ―そうにきまってたおね   はは まったく   ぼくは ゆめみ ガ わる い お 」

( <●><●>)「そう あなたは本当に夢見が悪い」

その目は、夜のように黒かった。

(・∀ ・;)「な、なんだよ!来るな!来るな!」

その刃は、希望のように煌めいていた。













その血は、優しさのように温かかった。













(´・ω・`)「全く君は本当に期待以上の働きを見せてくれるね」

( <●><●>)「…恐縮です」

(´・ω・`)「いや、本当に傑作だよ、あれ。あんなに優しい嘘を初めて聞いた。僕にはとてもつけないね」


あんな残酷な嘘。


<第二択・了>


---------------------------------------------------














一人が「神よ、慈悲を」と叫ぶ、もう一人がアーメンと言う、この殺し役の手を見たかのように。
その恐怖の声を聞きながら、「神よ、お慈悲を」のあと、おれは「アーメン」と言えなかった。

――俺こそが神の慈悲が必要なのに、「アーメン」ということばが喉に引っかかったのだ。

                      ( William Ahakespeare 「Macbeth」)














<第三択>

目覚めとは、こんなものだっただろうか。
悪夢を見たらそりゃあ気分は悪いだろうけれど、起きたときはホッとするものじゃなかっただろうか。
それでも右手は綺麗なままで、それがあれは夢であったと証明している。

喉が渇いていた。
夏に走ったときのように汗をかいていた。ベッドから降りようとして、転がり落ちた。
それでもあまりにも喉が渇いていたので、這うように部屋から出る。

震える足で階段を降りようとして、結局踏み外して派手な音をたてて落ちた。






J(;'ー`)し「ブーン?!」

(  ω )「……カーチャン?」

J(;'ー`)し「そうよ、カーチャンよ!わかる?」

(  ω )「……」

J(;'ー`)し「ブーン…?」

( ;ω;)ブワッ

J(;'ー`)し「ブーン!!大丈夫?!」






高校生にもなってとか男の癖にとかいう思いが頭の隅に過ったけれど、
やっぱり母親って偉大なものだ。絶対の安心感。

( ;ω;)「カーチャン!!カーチャン!!」

J( ;ー;)しブワッ

J( ;ー;)し「ブーン!!ブーン!!」

( ;ω;)「カーチャン!!カー(ry」

J( ;ー;)し「なんだいブーン!!ブー(ry」

「夢が!!夢が怖かったんだおおおお!!!!」

J( ;ー;)し

J( 'ー;)し

J( 'ー`)し

J( ^Д^)し「プギャーwwww」

( ^ω^)「ちょwwwww」

J( ^Д^)しm9「高校生にもなって夢で母親に泣き付いてんじゃネーヨwwww」

( ^ω^)「ヒドスwwwww」






J( 'ー`)し「でも本当に凄い汗ね。お風呂入ってらっしゃい」

( ^ω^)「そうさせて頂くお」

笑い飛ばして貰ったせいか、自分も笑ったせいか、
はたまた夢うつつからようやく抜け出せたからか、身体の震えも涙も止まっていた。

手に力が入らないのを気のせいにして、シャワーを浴びた。
排水口に流れていく水が、赤く染まらないことに安堵しながら。






( ^ω^)「サッパリだお」

J( 'ー`)し「カーチャン寿命が縮まったよ、この世の終わりみたいな顔してたから」

( ^ω^)「ごめんお」

J( 'ー`)し「どんな夢だったの?」

( ^ω^)「……覚えてないお。怖かったことしか」

J( 'ー`)し「そう?でもよっぽど恐ろしい夢だったんだろうねえ、あの様子じゃあ…」

( ^ω^)「忘れて欲しいお」

J( 'ー`)し「無理ぽ。今日もカーチャン遅番だからね」

( ^ω^)「把握」

覚えていないなんて嘘だ。今日の夢も昨日の夢も、不自然なほどにはっきりと覚えている。
あの、ワカッテマスの言ったことや、そのときの表情まで。






( <●><●>)『母親を一人にしたくはないでしょう 考えてみなさい 冷たくなった貴方を見つけた母親の叫びを』

カーチャンは、随分前から女手ひとつで僕を育ててくれている。
父親はろくでもない奴の典型で、酒癖が酷く、 カーチャンを殴ることも少なくなかった。
それでもずっと耐えていたのだが、浮気相手との間に子供が出来たと知ったとき、キレて光の速さで別れた。
正直、あの速さはネ申というしかない。母親とは世界で一番強い生き物である。

J( 'ー`)し「ほらブーン、時間に余裕があるからってだらだらしないの」

( ^ω^)「目玉焼きトーストktkr」

―でもやっぱり、辛かったと思う。気丈に振る舞い、たった一人ですべてを済ませたカーチャン。
決して僕の前では泣かなかったけれど、夜に一人で泣いていたのを知っている。





J( 'ー`)し「あのちーへいせーんー」

何度も何度も、顔だって容赦なく殴られていた。
ビール瓶で殴り血が出て、僕が近所の人に泣きついて警察を呼んでもらったことだってある。

J( 'ー`)し「どこかーにきみーをー」

それでも、酒を飲んでいないときは人畜無害。仕事だってちゃんとする。
お金も十分すぎるほど入れていたらしい。父親を愛していたし、僕のこともあって、
カーチャンは踏ん切りがつかなかったのだ。本当に、大変な人生を送っている。

J( 'ー`)し「おっちゃん、肉団子二つ入れて!海賊王に!俺はなるから!」

…とてもそうは見えなくても。

J( 'ー`)し「フハハハハハ!!!人がゴミのようだ!!!」

(;^ω^)(やっぱしてないかもしれんね)





(*^ω^)「で、ツンが…」

J( 'ー`)し「ツンちゃんにまだ告白しないのかい」

(;^ω^)「ツ、ツンが好きだなんて僕言ってないお」

J( 'ー`)し「話すときの目を見ていればわかるんだよ。若いっていいねえ」

( ^ω^)「…」

J( 'ー`)し「あら、もう時間じゃないの」

( ^ω^)「お、本当だお。いってくるお!!」

J( 'ー`)し「いってらっしゃい」






| ^o^ | 「おはようございます」

|  ^o^ | 「ずーむいん!しょうゆ です」

| ^o^ | 「あさの にゅうす です」

|  ^o^ | 「せんじつたいーほされた じょしこうせいれんぞくさつがいじけん のはんにんがだつごくしていたことがはっかくしますた」

| ^o^ | 「さーせん」

|  ^o^ | 「けいさつは きんじょにちゅういをよびかけるとともに そうさを…






( ^ω^)「あ、弟者」

(´<_` )「今日も早いな。心を入れ替えたのか?」

( ^ω^)「そういうわけじゃ…また夢を見ただけだお」

(´<_` )「また悪夢か。でも昨日より元気そうじゃないか」

まさかカーチャンに泣きついたからとも言えない。

( ^ω^)「お…あ、昨日ありがとお」

(´<_` )「昨日?」

( ^ω^)「ひとつの話だお。僕にとってのたったひとつがわかったお」

(´<_` )「そりゃあ良かった」





( ^ω^)「弟者にも、あるのかお?」

(´<_` )「ん?」

( ^ω^)「その、たったひとつが」

(´<_` )「ん…まあ、そりゃな。俺って性格いいだろう」

(;^ω^)「自分で言うなお」

(´<_` )「はは。そのひとつがあるから、笑ってられるんだよ」

僕は結構人の顔色を見る方だ。場の空気を乱したくないと、みっともなくフォローしたりする奴である。
弟者もタイプは一緒だけれど、僕よりずっとうまく立ち回ることが出来るから、
フォローしようとして出来ない僕を凄く自然にフォローしてくれたことも多かった。

( ^ω^)「…弟者も僕と同じかお?」

(´<_` )「ん?」

( ^ω^)「みんなそれなりに大事だけど、それなりにどうでもいいっていう人間かお?」

返事は無かった。弟者はただ喉の奥でくつくつと笑っていた。
僕らは同類だったから、それだけで十分だった。






( ・∀・)「今日で中間テスト一週間前だなー範囲配るぞー」

( ^ω^)「これが人生で最後の中間テストだけど、結局存在意義がわからなかったお」

('A`)「そりゃお前、定期イベントだよ。幼馴染を作っておかないから一緒に勉強会フラグが立たないだけで」

( ^ω^)「ドクオと勉強フラグしかたたないなんて人生オワてるお」

('A`)「そんなに赤点フラグ立たせたいか?ああ?」

(;^ω^)「是非一緒に勉強させてくださいですお」

ξ゚?゚)ξ「あんたら気楽でいいわね…」






('A`)「あー今日も有意義に過ごしたわー」

( ^ω^)「一時間目:早弁のち昼寝 二時間目:昼寝 三時間目:昼寝 四時間目:早退のどこが有意義なんだお」

('A`)「変わらない日常こそが幸せであり有意義ってこった」

( ^ω^)「似合わない言葉だお」

('A`)「そうだな、お前が言いそうなことだ」

( ^ω^)「おっおっ」

('A`)「まあいいか。お前んちでゲームしようぜ、スマブラ(64版)」

(;^ω^)「勉強じゃなかったのかお…」

('A`)「ばッかお前、勉強は前日が勝負だぞ」






( ^ω^)「もう八時だお、勉強できなくなるお」

('A`)「腹減った」

( ^ω^)「…」

('A`)「今から飯食ったら九時過ぎるか?」

(;^ω^)「まあそれからでも少しくらいは…」

('A`)「俺九時からドラマ見るから」

(;^ω^)「…補習フラグ立ちまくりだお…」

(*'A`)「HAHAHA」

( ^ω^)「きめえ…」






明日も学校なんだけども、ドクオは泊まる気なのだろうか。
まあ僕はカーチャンの夜勤が多くて一人暮らしみたいなものだし、
ドクオも実質一人暮らしみたいなものだから、別にいいのだけど。

( ^ω^)「なんかあったか下に見てくるお」

('A`)「おう」

ゲームの電源を消したからテレビの画面は真っ暗だ。
ドクオがチャンネルを変える。

バラエティ。ドラマ。バラエティ。ドキュメンタリー。

あんまり早くチャンネルを変えるものだから目がチカチカしてきた。
しばらくルーレットを続けたあと、ドクオは見る番組を決めたようだ。
意外にもニュース。まとも。まあ今の時間萌えアニメはやっていないしな。




ミセ*゚ー゚)リ『ですねーwwwでは、次のニュースです』

(*^ω^)「ミセリちゃんかわいいお」

('A`)「そうかあ?俺はもっとこう…クーにゃんかわいいよクーにゃん」

( ^ω^)「ドクオはお姉さんタイプが好きなんだおね、わかりますお」

ミセ*゚ー゚)リ『例の女子高生連続殺害事件の斉藤またんき容疑者が韓国への輸入を行っている漁船「ニダー」で
       遺体となって発見された事件ですが、警察はこれを自殺とし…」

心臓が止まったかと思った。
けどその次の瞬間から、びっくりするくらい大きく脈を打ち始めた。

('A`)「ああ、こいつ意味わかんねえよな、脱獄してしかも日本からも脱出出来てたのになんで自殺なんか―」

ドクオの言葉が聞こえなくなった。僕の部屋が歪んでいく。違う、そう見えるだけだ。
そうだ、違う、だって自殺だって言ったじゃないか、僕はナイフで刺したんだぞ、僕は、刺したんだぞ、
僕は、

('A`)「ブーン?」

(  ω )「食べ物見てくるお」

('A`)「あ、ああ…」






僕はナイフで刺したんだから僕が殺せるわけないしあれはただの夢だし、僕はナイフで刺した、ぐさりと
さした、あの嫌な感触、あの匂い、あの赤さ、あの生暖かさ、僕はナイフで刺した、あのナイフで刺した、
僕が確かに刺した、でもあれはただの夢だから、僕は夢見が凄く悪いから、僕はただの夢で人をさしたから、
僕は刺したから、さしたから、さしたから、

('A`)「なあブーン、」

ドクオの声がした、後ろを振り向いた、ドクオが遠くなる、落ちて行く、夢の中で人を刺した僕が落ちて行く、



夢の中で人を■した僕が落ちて行く、






( <●><●>) 「…早いですね」

(  ω )「……ただの」

( <●><●>) 「今日は随分と早寝なのですね 現実の方はまだ20時19分12なのはわかってます」

(  ω )「ただの夢だって言ったお…」

( <●><●>) 「…ああ 階段から落ちたのですね ご友人が心配していますよ」

(  ω )「ただの、ただの夢…」

( <●><●>) 「まだ二人揃っていないのですが」

(#゚ω゚)「ただの夢だって!」






僕の言葉など聞きもせずに、ただ淡々と喋り続けるワカッテマスの胸倉をつかむ。
喧嘩など滅多にしない僕である、こんなことをするのは初めてだ。
ワカッテマスは抵抗もせず、ただ僕を見つめている。

( <●><●>) 「ただの夢ですよ」

(#゚ω゚)「なら、なんで!なんであいつは死んだんだお!」

( <●><●>) 「…」

(#゚ω゚)「答えろお!!」

ぐい、とさらに力を込めると、ワカッテマスはぐにゃりとして、
真っ黒になって、それから地面に溶けた。
あまりのことに僕が呆然としていると、背後から声がした。

( <●><●>) 「左側の道へ お行きなさい そちらの人間はちょうど眠っていたのですぐに会えますよ」

全然嬉しくない知らせをありがとう。






死ぬほど進みたくなかったけれど、進まないでいることは、この夢がただの夢ではないと認めてしまうことになる。
だから僕は進むのだ。こんなものはただの夢なのだ。

( ^ω^)「…弟者」

まさか知り合いが出てくるとは。
いやでも知らない人が出てくるより、知り合いが出てくる方がただの夢らしいじゃないか。
僕は必死にポジティブに考えたが、それが仇となる。

( ´_ゝ`)「いや、俺は兄者だけども」

(;^ω^)「兄者?」

( ´_ゝ`)「弟者の知り合いか?双子の兄だよ」

(;^ω^)「ふ、双子?」

( ´_ゝ`)「そう、双子」






ただの夢で知り合いの知らない情報が発覚するものだろうか。
でもまあ考えてみれば”弟”者って名前なんだから”兄”者が居るのは当然な気がするし。
それを僕の脳が無意識に考えてこういう夢を見せているのかもしれないし。

( ´_ゝ`)「変な夢だな、意識はっきりしてるし普通に会話してるし」

(;^ω^)「そ、そうだおね、変な夢だおね…」

( ´_ゝ`)「あんたなんていうの?」

(;^ω^)「お?」

( ´_ゝ`)「名前」

(;^ω^)「ぼ、僕は内藤ホライゾン…略してブーンだお…」

( ´_ゝ`)「どう略してんだよ」

ああ、笑った顔が弟者と全然違う。僕は素直に感動した。
顔の作りは本当に同じなのに、笑いかたひとつで受ける印象がこうも違うとは。
弟者のイケメン爽やかスマイルとは違って、凄く幼い笑顔。

しかしよくよく見てみると、兄者さんは弟者と顔こそ同じだけども、
一回り二回り小さい。というより、細い。ついでにドクオ並に白い。病的なくらい。






( ´_ゝ`)「まあ夢とはいえ家族以外と話すの久しぶりだし話そうぜ」

( ^ω^)「驚くほどポジティブだおね」

( ´_ゝ`)「そうか?でもそれ弟者にもよく言われるなあ」

家族以外と話すのが久しぶりという発言から、僕は彼を引きこもり認定した。
病的なまでの色白さも、弟者が双子だということが全く知られていないのもそうすれば納得がいく。

( ´_ゝ`)「まあどうでもいいや。弟者の高校の奴か?」

( ^ω^)「そうだお。二年のときに一緒のクラスで…」

( ´_ゝ`)「へー。弟者モテるだろう」

( ^ω^)「そりゃもう」

(*´_ゝ`)「まあ俺に似てかっこいいからな!」

…弟者の双子の兄だけあってイケメンで、僕とペラペラしゃべっている辺り対人恐怖症でもないし、
加えてこのポジティブさが合って引きこもりになるものだろうか。






( ´_ゝ`)「しかしいいなあ、学校。俺も行きたかったなあ」

( ^ω^)「…え?」

( ´_ゝ`)「試験の日にぶっ倒れたからなあ。せっかく勉強したのに」

( ^ω^)「倒れ…」

( ´_ゝ`)「いやまあ珍しいことじゃないんだけどな。
       俺生まれつき呪われた道具装備してるらしく心臓を主にいろんなとこ駄目なんだよNE!」

( ´ω`)「…」

( ´_ゝ`)「あ、そんな暗くならなくても」

( ´ω`)「ろくでもない引きこもりだと思ってましたお、すみませんお」

( ´_ゝ`)「せめてろくでもない抜いてから謝罪してくれよw」

兄者さんは、笑うのが幸せでたまらないというように笑う。
弟者は、笑うのをこらえるように笑う。そこが違うのだ。






( ´_ゝ`)「小学校は結構行けてたんだけど中学になると入院が多くなってなあ。
       だから高校受かったとしても卒業は出来なかっただろうなあ」

( ^ω^)「そうなんですかお…」

( ´_ゝ`)「…なんで敬語?普通にしゃべってくれていいんだぞ、俺を弟者だと思って」

(;^ω^)「う、わかったお…」

(*´_ゝ`)「にしても変なしゃべり方ww」

( ^ω^)「…」

この失礼さ、ドクオに近い。






( ´_ゝ`)「にしても夢なのに会ったこともない弟者の友人に会うってのも変な話だな」

( ^ω^)「…これは夢だお」

( ´_ゝ`)「そりゃそうだ、何言ってんだ」

畜生、ドクオが居る。イケメンな分更に腹が立つ。

( ^ω^)「夢だお」

僕は自分自身に言い聞かせるようにもう一度呟いた。
兄者が僕を探るように見つめてくるので、目をそらす。

( ´_ゝ`)「これが夢でなくちゃいけない理由があるのか?」

(  ω )「だって夢だお。ただの、ただの夢―」

( ´_ゝ`)「必死だな」

(  ω )「―ッ」

( ´_ゝ`)「話してみろよ。ただの夢なんだろ」






僕は話した。本当は誰かに全て話してしまいたかったから。
そして解決して欲しかった。誰かに助けてもらいたかった。
そうでなきゃ、笑い飛ばしてほしかった。

( ´_ゝ`)「…ふうん」

でもそのどれも兄者はしなかった。

( ´_ゝ`)「で、そのワカッテマスってのはどこに居るんだ?」

(  ω )「知らないお…」

( <●><●>) 「なんですか」

( ´_ゝ`)「うわっ、びっくりした。心臓弱いんだから驚かせるなよ」

平然と言う兄者は大物なのかもしれない。
いや、夢なんだからこれくらいで驚くのはおかしいんだ、きっと。






( <●><●>) 「用件を」

( ´_ゝ`)「最初の選択は幼女となんだったんだ?」

( <●><●>) 「同じようなものを」

( ´_ゝ`)「幼女と幼女か。二番目は犯罪者と一般人」

(  ω )「…どうしたんだお」

僕は兄者が信じられなかった。僕がこんなに切実に訴えているのに。
初対面とはいえ心配してくれたっていい筈だ。やっぱり彼は弟者とは違う人間なのだ。

( ´_ゝ`)「いやあ、やっぱり俺だったらもう片っぽは弟者なのかなと思って。そうなの?」

( <●><●>) 「…」

( ´_ゝ`)「沈黙は肯定とはよくいったもんだ」






鈍器で殴られたような感覚。変な言い回しになるが、目が覚めたようだった。
そうだ、僕はなんて無神経なのだろう。彼は選択される側、僕に■されるかもしれないのだ。
その相手に慰めてもらおうだなんて、僕は頭がおかしくなったのか。

( ´_ゝ`)「ちなみにブーンがどっちも選択しなかった場合、どうなるの」

( <●><●>) 「ナイフが血を求め力が暴走し この世界は崩壊します その際 この世界に存在する魂も消滅します」

( ´_ゝ`)「つまり、ブーンも俺と弟者も死ぬのか」

( <●><●>) 「ええ」

( ´_ゝ`)「ちなみに現実ではどんな感じで死ぬの?」

( <●><●>) 「その人に不自然でない死に方で」

( ´_ゝ`)「へー、便利だねえ」






( ´_ゝ`)「残り時間はどれくらい?」

( <●><●>) 「体感時間があちらとこちらでは違いますから 正確にはいえません」

( ´_ゝ`)「アバウトでいいよ」

( <●><●>) 「貴方がたの感じる時間に直すと 残り67分34秒90 になりますね」

(;´_ゝ`)「それわざとやってんの?」

反省はしたけれど、兄者を僕はますます信じられなくなった。
だって今の彼のおかれている立場って僕より絶望的である。
自分か弟が死ぬのだ。そうでなくば、僕ら全員。

( ´_ゝ`)「まあいいや、じゃあもう帰っていいよ」

しっしっ、と兄者が猫を追い払うようにすると、ワカッテマスは素直に消えた。






( ´_ゝ`)「というわけで、俺を選べよ」

(  ゚ω゚)「なっ、」

( ´_ゝ`)「だって俺が死なないなら弟者が死ぬんだろ」

(;゚ω゚)「だ、だけど、」

( ´_ゝ`)「…ただの夢、なんだろ?」

(  ゚ω゚)「違う!」

あ、

(  ゚ω゚)「違う、違う!これは、」

ああ、

(  ゚ω゚)「これはただの夢なんかじゃない!違う!だって僕は、僕は、」

駄目だ、駄目だって、

(  ゚ω゚)「僕は、確かに、この手で、」

言わないで、

(  ゚ω゚)「僕はこの手で―」






(  ゚ω゚)「こ、

白く細い腕が僕に伸びて、そして頭を撫でた。優しく、何度も撫でた。
これもまた細い、けれど暖かい肩に顔を押し付けられる。僕は何にも言えなくなって、遂に泣き崩れた。

声を出して泣くなんて何年ぶりだろう、喉が痛くなるくらいに泣いた。
何度も兄者の胸元を駄々っ子のように叩いた。兄者は何も言わなかった。
冗談みたいに涙が溢れて、そして消えていった。



どれくらい経ったろう、まだ涙は止まらないながらも落ち着いてきたころ、兄者がつぶやいた。

( ´_ゝ`)「弟者もよくそんな風に泣いてたよ」

(  ω )「…意外だお」

( ´_ゝ`)「そうか」





( ´_ゝ`)「小学校の体育の授業でさ、まあ、脳みそ筋肉みたいな教師が居て。
       俺身体弱いからって理由でいろいろ贔屓されんの嫌でそれなりに頑張ってたんだけど、
       流石にマラソンは死ぬから見学してたんだよ」

( ´_ゝ`)「でも普段がんばってたのが災いして、心臓弱いのなんか嘘だろ、走れって言われてさ、
       むかついたから走ったの。そしたらちょっと本当に死にかけて、何日か意識不明状態ンなって
       起きたら起きたで弟者にボッコボコにされて」

(  ω )「弟者が?」

( ´_ゝ`)「そうそう、あんな泣き虫の弟者がさ、怒ってるんだよ、もちろん泣きながらだけど
       怒るんだ、俺に。ついでに教師にも殴りかかったらしいけど。学校でも有名ないじめられっこの弟者がさ」

( ´_ゝ`)「…この世の終わりかってくらい顔ぐっちゃぐっちゃにさせて、それでも怒るんだ。
       ああ俺こいつが居ないとダメだなあって思った
       俺はこいつがこんなに怒ってるから死ななかったんだなって本気で思った。今でも思ってる」






(  ω )「だから…死んでもいいのかお?弟者の為に?」

( ´_ゝ`)「いいや」

(  ω )「じゃあ、なんで…」

( ´_ゝ`)「それは単純に、価値の話だよ。俺が生き残ってなんになる。治療費馬鹿になんないしそのくせ就職だって出来ないし、
       なんもしなくても明日死ぬかもしんねえし」

(  ω )「価値、」

( ´_ゝ`)「そう、ないだろ。まあ俺より価値がない人間なんて犯罪者くらいなもんだけどなあ。
       …ま、俺が健康だとしても、弟者ってだけで俺にはなによりも価値がある」




何か言わなくてはと思った。彼は笑顔で、あまりに寂しい言葉ばかり紡いでいる。
違うというのはわかるのに、なんと言ったらいいのかわからない。
大体、なにか言うべき言葉が見つかったとして、その言葉をかけてどうする。

どうするっていうんだよ。どうしろっていうんだよ。
こんなに優しいひとたちを、僕にどうしろっていうんだ。





( <●><●>) 「――時間です」






( ´_ゝ`)「…ブーン、頼む。俺お前のこと結構気に入った。弟者に似てるから」

(  ω )「…」

( ´_ゝ`)「だからお前を死なせたくないし、弟者も死なせたくない」

(  ω )「…だけど」

( ´_ゝ`)「こういえばいいのか?…俺に、価値をくれ」

いつの間にか握っていたナイフ。僕の手に兄者の手がかかる。どこからか声が聞こえる。
いやすぐ近くに声の主が居るのはわかっているのだが、声が遠い。夢みたいに。

( <●><●>) 「ブーン自身が殺さなければ意味がありません」

( ´_ゝ`)「そうか仕方ない。ごめんなブーン」

兄者は笑っていた。




さいごまでわらっていた。













兄者に価値がないなんていったら弟者が怒るお、と僕は言った。
そしたら生き返るから大丈夫だ、と言って彼は血にまみれた手で僕の頭を撫でた。
一度ゆっくりと息を吐いてから、彼は目を閉じた。












―僕は目を開けた。見慣れない天井に少し驚くが戸惑っている暇はない。
階段から落ちて一晩中目を覚まさなかったから、病院に連れてこられたのだろう。
僕を見つけた看護婦さんが笑顔で声をかけてくる。

从'ー'从「内藤さん、良かったです〜。頭強く打ったみたいなので一応今日は検査―」

(  ゚ω゚)「この辺で!」

从;'ー'从「きゃあ〜」

(  ゚ω゚)「心臓の病気の治療に力を入れている病院はどこだお!」

从;'ー'从「し、しんぞ…?」

(  ゚ω゚)「どこだお!!」

从;'ー'从「ふええ、隣町の荒巻診療所さんだよお…」






走った。頭がクラクラして、足がもつれたけれど走った。
今走れるならば、間に合うならば、足がちぎれてしまっても構わないとすら思った。
走れなくなったら死んでやると結構本気で言っていた僕だけど、願った。祈った。

着いた、けど倒れた、でも立ち上がった。息を吐くことしかできない。過呼吸気味。
どうでもいい。看護婦さんが声をかけてくる、流石さんはどちらですかときく、
悲しそうな顔をする、どちらですか、と僕はいう、案内します、彼女はいう。

泣き崩れる女性がいる、きっと母親、それを支えているのは、父親だろうか、
小さい女の子、僕より少し年上の女の人、みんな泣いている、いやみんなじゃない、

( ^ω^)「――おとじゃ」

(´<_` )「…ブーン?」

弟者は、泣いてはいなかった。






(´<_` )「なんでここに…」

( ^ω^)「兄者、は」

(´<_` )「?」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ああ、兄者の友達ですか。弟者が知らせたのか?兄者とはロクに会えもしなかったろうに、よく来てくれたね。
      どうか兄者を見てやってください」

手に触れる。さっき、ついさっき、僕を撫でてくれた手だ。いっそ冷たければ良かったのに、まだ暖かかった。
僕には泣く資格などないのに、また泣いた。事情を知らなければそれは純粋な友人の涙にしか見えないだろう、
だから彼の父は僕に言葉をかけるのだ。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「苦しまずに逝きました、それだけが救いです」

そんなものを救いだなんて呼ばないで。叫びたかったけど、声にならなかった。






(´<_` )「ブーン、兄者と知りあいだったんだな。言ってくれてもよかったのに」

汗まみれな僕を見かねて弟者が屋上に連れ出してくれた。
スポーツドリンクを差し出して、弟者はいつものように笑った。

( ^ω^)「…」

(´<_` )「口止めでもされてたのか?まあそうだな、知ってたら怒ってたろうな。高校入ってからか?」

( ^ω^)「…」

僕は頷いた。弟者を見れなくて、スポーツドリンクをじっと見つめていた。

(´<_` )「兄者は昔っから一人でフラフラと出かけてって、外国人やら浮浪者やら警官やらと仲良くなってたんだ。
      誘拐されかけたり、救急車に乗って帰ってきたこともあったのに、やめないんだこれが」

(´<_` )「高校入ってからはやめたと思ったんだがなあ。此処入ったの俺が高校入ってからなんだけど、
      結構監視厳しいんだ。まあ兄者だし仕方ないか」






( ^ω^)「僕が」

(´<_` )「ん?」

( ^ω^)「僕が… した お」

(´<_` )「…?」

( ^ω^)「僕が兄者を殺したんだお。夢の中で」

(´<_` )「…お前がそんな不謹慎なこと冗談で言う人間じゃないことはわかっているつもりだが」

( ^ω^)「話すお」

僕は兄者に話したことを話した。汗を拭かなかったせいか、身体は冷え切っていた。






(´<_` )「信じがたいんだが」

( ^ω^)「僕は現実で兄者に会ったことはないお」

(´<_` )「…」

( ^ω^)「兄者に最初弟者と話しかけたお」

(´<_` )「兄者はなんて?」

( ^ω^)「…『いや、俺は兄者だけども、』」

兄者の台詞をそのまま言うと、弟者は噴き出した。



(´<_` )「そりゃ間違いなく兄者だな」

( ^ω^)「信じて…」

(´<_` )「何を話した?」

僕は兄者が話したことを話した。口から出る言葉のひとつひとつが、僕をズタズタに切り裂いていく。
気付いていた。こんなことを言うのはけして兄者や弟者のためではないと。ただ僕のためなのだと。
この悲しみを、苦しみを、誰かに吐きだしてしまいたいのだ。

きっと弟者も気づいていただろう、この利己的な思いくらい。僕らはそういうところで似ていたから。

(´<_` )「……」

全てを話し終えた。弟者は馬鹿だな、と小さく笑って、それから僕を見ていた。
僕が”何”を乞いたいのか、浴びせて欲しい言葉は”何”なのか。
僕も弟者も悲しいほどにわかっていて、決してそれをしなかったし、してくれなかった。




(´<_` )「…そのマラソンさ。兄者、走りきったんだよ」

( ^ω^)「…お」

(´<_` )「馬鹿だよな、本当に危篤状態で集中治療室まで担ぎ込まれたのに、起きたときなんて言ったと思う?」

( ^ω^)「…」

(´<_` )「『おとじゃ、俺は走りきったぞ!みたかあの先生の顔!』―殴りたくもなるわなあ。
       でも、そんときに思ったよ。俺こいつには絶対かなわないんだって。それは絶対的な安心でもあった」

(´<_` )「兄者は頭が良かった。学校にはあまりいけなかったけど、ずっと本を読んでいたからか何なのか、
      考えが柔軟だったし、発想も奇抜だった。そして何より優しかった。
      どんなに嫌なことがあっても、兄者に話せば笑って、俺が一番欲しい言葉をかけてくれた」

(´<_` )「でも決して嘘はつかない奴で、だから喧嘩することだってあった。それでも最後にくれる言葉は俺が求めていたものだった。
      ―いや、兄者の言葉ならなんでも良かったのかもしれないけど」






浴びせられる言葉は僕の求めていたものにしてはあまりにも優しい。
違う、そんなものじゃない、こんなじわじわと、僕の心を食いつぶしていくものじゃない、
もっと、もっと痛みが欲しいのだ。僕は、

(´<_` )「―兄者は、心臓発作で死んだよ」

(  ω )「ちが、」

(´<_` )「その方がいいんだ。俺にとってはな。
      お前と兄者にとっては、そうじゃない方がいいんだろうけど」

(  ω )「…兄者…も?」

(´<_` )「自由が好きなやつだったから。病気で死ぬのは運命だけど、自分で願ったのならそうじゃないだろ」
      ずっと病気に縛られていたから、…最期にそうじゃなかったのなら、兄者にとってはよかったんだろう」






それを言い終わると、弟者は僕の方を見なくなった。ただ空を見上げていた。

(´<_` )「もう、帰れよ」

(  ω )「弟者、」

僕が名を呼ぶと弟者は振り返った。けど僕は次の言葉を言えなかった。
だって彼にとっては、兄者は心臓発作で死んだ。実際、死因にはそう書かれるだろう。

僕と兄者以外には、あくまで死因は心臓発作なのだ。逃げ道がないことを僕は知った。
違うか。今さっき、弟者によって潰されただけだ。






(  ω )「その…」

(´<_` )「たったひとつあれば生きていけるというなら、それが無くなったらどうなると聞いたことがあった」

(´<_` )「その話をした奴は笑って、生きなくなるだけだ、けれどそれは死ではない。生きていないだけなのだと
       もしそれで死んだのなら、それは自分の弱さ故だ、俺のせいにすんなよ、と」

耐えきれないように、弟者は泣き、笑った。兄者によく似た笑顔だった。

(´<_` )「…俺は死なない。安心しろよ」

(´<_` )「人生は長いから、いつか気が向いたらお前を責めてやってもいい」

彼は―彼らは本当に優しい。だから僕は何も言えないまま、ただ涙を流した。


<第三択・了>

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「僕の名前は内藤ホライゾン!」

「…知ってるよ、同じクラスの同じ部活じゃねえか」

「だからブーンって呼んでくれお!」

「何がどうだからなんだよ」

「……こうして、ブーンって走るのが好きだからだお!」







<第4択>

生ぬるい雨が降っている。辺りが暗い。今は何時だろう。

(;'A`)「ブーン!どうしたお前、…ブーン?」

ドクオの声がする。あ、目の前にドクオがいる。でも何重にも見えるなあ。
熱でもあるのかもしれない。すっごくおもしろい。でも笑えない。

(;'A`)「おい」

ドクオが僕の腕を掴んだ。
陸上をやっていただなんて誰が信じるだろう、ドクオのこの白く細い腕。

(;'A`)「つめた…ブーン?」

いやでも思い出す。これによく似た腕、でも大きかった手。
彼の手が赤く染まったとき僕はどこかで安堵してはいなかったか。
彼が自ら選んでくれた。僕が選択せずに済んだ。






(;'A`)「どうしたってんだよ」

本当に、どうしたっていうんだろう。僕は何をしたんだろう。

(  ω )「…は、」

何をしたんだろうだって?
反吐が出る。ああ、何度だって言ってやるさ。
僕は人を殺した。

何も知らない幼い少女。彼女の先にどれだけの幸福があったろう。

罪びとだって、きちんと裁かれるべきだった。
遺族の人は真相も知らないまま、責めるべき相手を失ったのだ。

そして、兄者。考えただけで、あの優しい手を思い出すだけで気が狂ってしまいそうになる。






僕は責められたくてたまらなかった。赦しを乞いたかった。罵倒を浴びせられたかった。
そうでもなければ、僕は僕のしたことを本当に見なければならなくなる。
それが辛い。怖い。

「ゆるして」「ごめんなさい」「たすけて」

僕の言いたかったことはこれだけだ。この三つの言葉だけなのだ。
吐き気がする。人を殺してなお、自分のための言葉しか望まないとは。






(;'A`)「おいってば」

(  ω )「…大丈夫だお」

(;'A`)「でもお前そんなびしょびしょで…」

いつもと立場が逆だ。ドクオがまともなことを言っている。

(;'A`)「大体、昨日一晩中気失ってたのにどこ行って…とにかく病院に」

(  ω )「大丈夫だお」

(;'A`)「でも」

(  ω )「大丈夫だお」




ドクオの腕を振り払うと、その反動で僕は水たまりに顔から突っ込んだ。

(;'A`)「ブーン!」

なんて滑稽な姿。今の僕の姿を想像したら本当におかしくてたまらない。
それなのにどうしても笑えない。笑おうとするたびに、弟者の笑顔が過る。
笑えるわけないじゃないか。あの悲しくて優しい笑顔。

(;'A`)「おい、大丈夫か?!おい、おいってば!」

さっきから何度も言ってるじゃないか。

(  ω )「大丈夫だお」

(  ω )「…大丈夫だお」






どうやって帰ったかは覚えていないけれど、いつの間にか家に着いていた。
18年間住み慣れた街だけあって、身体が勝手に運んでくれていたようだ。

J(;'ー`)し「ブーン?!」

珍しくカーチャンが取り乱している。
脳震盪で何時間も気を失っていた上、いきなり行方不明。心配するのも当然かもしれない。

J(;'ー`)し「心配したのよ。…カーチャンがわかるかい?」

(  ω )「大丈夫だお」






J( 'ー`)し「良かった…擬古さんも心配して探してくれてたのよ。電話しなくっちゃ。
      ブーン、お風呂に入ってらっしゃい。カーチャン何も聞かないけど、検査はしなくっちゃ駄目よ」

擬古さんというのは、カーチャンの彼氏だ。
うちにはあまり連れてこないけれど、何度か食事をしたことがある。
感じのいいおっちゃんで、息子としては複雑な思いはあるけれども、決して嫌いではない。

(  ω )「大丈夫だお」

J( 'ー`)し「…ブーン?」

(  ω )「大丈夫だお…」

J( 'ー`)し「…」






お風呂から上がると、擬古さんが来ていた。

 
(,,゚Д゚)「ブーンくん、ちょっといいかな」

(  ω )「大丈夫だお」

J( 'ー`)し「ブーン、あなた本当に、」

(  ω )「大丈夫だお」

J( 'ー`)し「ブーン…」

(,,゚Д゚)「俺に任せて、君は夕飯の準備があるんだろう?」

擬古さんは優しくカーチャンを諭すと、僕の部屋に行こうと誘った。
何も言わず僕は自分の部屋に向かう。






僕の部屋は、あの夜のままだった。ついたままのテレビ。出しっぱなしのゲーム機。
あの夜に戻ったようだった。本当にそうだったらどれだけ良かっただろう。
全てがただの夢だと信じていられたあの夜。

(,,゚Д゚)「ブーン君、身体は大丈夫なのかい?」

(  ω )「大丈夫だお」

(,,゚Д゚)「そうか。聞けば昨日の朝から調子が悪かったらしいじゃないか」

(  ω )「大丈夫だお」

(,,゚Д゚)「…何か悩みでもあるのかい」

(  ω )「大丈夫だお」






僕は決して擬古さんという人が嫌いではない。
男にさんざん苦しめられてきたカーチャンが選んだ人だ、悪い人であるはずがない。
でも今の僕には、この人のいかにもな「優しさ」が腹立たしかった。

(,,゚Д゚)「ブーン君、それではお母さんが困ってしまうよ」

ほら、結局それじゃないか。お前はカーチャンに好かれたいだけだろう。
結局お前は自分のためだ。僕にそっくりだ。僕や、僕の父親にそっくりだ。

お前は知らないんだろう、本当の優しさを。切ないくらいの優しさを。
見てるこっちが痛くなるくらいひたむきで、ただ誰かの為にある優しさを。

(  ω )「大丈夫だお」

(,,゚Д゚)「…そうじゃなくって、お母さんが」

僕は知っている。知っていてそれに甘えた最低な僕は誰よりも知っている。
なんでお前は知らないんだ。僕にそっくりなその醜い心を持っていながら、
何故お前は知らないままでいられる!

(#゚ω゚)「大丈夫だっていってんだろお!」





(,,゚Д゚)「ブーン君…」

(;゚ω゚)「…ッ」

――いま。いま、殴りかかりそうだった。ぞっとした。

(  ω )「…すみませんお、一人に、してくださいお…」

(,,゚Д゚)「ああ…」

僕は、僕は決して喧嘩はしない人間だった。
それは性格もあったけれど、何より父親を見ていたからだ。
感情に任せて殴るなど、最低の行為。

小学生時分には、感情に任せた殴り合いなど珍しく無かったから、僕はそのたびに彼らを軽蔑していた。
勿論彼らのするのは”喧嘩”であって”暴力”ではないから、一時的な軽蔑ではあったけれど。

さっきの衝動。そして出てきた言葉。この僕にもそんな感情があったのだ。
吐き気がする。本当は、僕は父親と似ている。






夕飯の時間。食欲など無かったけれど、カーチャンの痛々しい笑顔を見れば断れず。
人生で一番気まずい食卓。味が無い。砂を噛んでるようだ。
擬古さんが気を使って話す。カーチャンが答える。それだけ。

結局ご飯を大幅に残して、僕は逃げた。

(  ω )「大丈夫だお」

呪文のように、僕は繰り返す。

(  ω )「大丈夫だお、大丈夫だお」

何が大丈夫なんだろう。何で大丈夫なんだろう。
何ひとつとして大丈夫なものなどないのに。

テレビを見る。ネットをする。何も頭に入ってこない。
何度も携帯が鳴った。携帯の電源を切った。

そして僕は眠りについた。






( <●><●>)「いらっしゃい」

(  ω )「…」

( <●><●>)「気が狂ってしまうのではないか と思いましたが 大丈夫そうですね」

(  ω )「…」

( <●><●>)「さあ、選択を」

ワカッテマスが言うと、いつものように僕の右手にナイフが現れる。
僕はそれを握りしめる。覚悟は決めた。もう一度握りなおす。






( ゚ω゚)「おおおおお!」

僕はそれを思い切りワカッテマスの胸のあたりに突き刺した。
僕が何故なんの抵抗もなく眠りについたか。
それはこの状況から抜け出すたったひとつの方法を思いついたからだ。

この最悪な夢の原因は間違いなくこいつら。ワカッテマスと、あのしょぼくれ顔。
まずワカッテマスを殺す。そしたらあのしょぼくれ顔も出てくる筈。

僕にはこいつらを殺す権利がある。僕はなんの疑いもなくそう思っていた。
だから眠りについたのだ。






( <●><●>)「そういう考えですか」

刺した。僕は、確かに刺した。殺すつもりで。今までの誰よりも力強く刺した。

なのに、あまりに軽い。忘れるわけもない、あの肉に突き刺さる鈍い感覚がない。
確かに刺した。現に目の前、彼の胸にはナイフがしっかりと刺さっている。
なのに何故こいつは平然としている?

( <●><●>)「確かに 気を狂わせるよりはよっぽど賢い選択です しかし」

足りないのか。足りないのか。足りないのか。これでも足りないのか。
何度も突き刺す。けれどワカッテマスは言葉を続ける。聞きたくない。突き刺す。血は出ない。






( <●><●>)「死神は 死神にしか殺せません
       もっとも私はいうなれば死神のなりそこないですが それでも貴方に殺せるような存在ではありません」

ワカッテマスはこともなげに自らの胸からナイフを抜いた。
僕はその場にへたり込む。力を入れ過ぎた手は震え、それでもナイフを握ったまま。

( <●><●>)「そしてこの世には …貴方にとってはあの世ですが 死神は 
       つまり私のようななりそこないではない死神は ショボンさましか居ません」





今大声で笑えたならば、僕は壊れてしまうことが出来ただろう。
でも僕は矢張り笑えず、壊れてしまうことも出来ず。

( <●><●>)「…他の死神は ショボンさまが みんな殺してしまいましたから」

ははははははははは。
心の中で笑う。つまりなんだ、ショボンとやらどころか、下っ端のお前すら殺せないと。

ははははははははは。
どんなチートですか?終わらない悪夢なんてどこの厨二病?

( <●><●>)「…泣いているのですか」






笑えない代わりか、知らないうちに涙が流れていた。
泣いてないのに、涙が出る。どこかの糸が切れてしまったのか。

絶望とはこのことか。逃げられない。
人を殺すなど、何度やろうとも慣れるものではない。
慣れてたまるか。もうどんな悪人だって殺したくない。

このワカッテマスを、何故か僕は嫌いになれなかった。
だけどこいつが当事者なのは間違いないから。
この悪夢から逃れられるならと、残った気力全てをかけて刺したのだ。

それなのにこんな結果。

(  ω )「なんで僕なんだお」

( <●><●>)「…」

(  ω )「なんで…僕なんだお」






殺人衝動がある人間、殺人を快楽とする人間がこの世には居る筈だ。
何故そいつらに選択させない。何故僕である必要がある。
この世界には六十憶もの人間が居るってのに、その中で何故僕が選ばれた。

答えを請うために、ワカッテマスを見上げる。
今まで僕から目をそらしたことの無かった彼が、僕から目を逸らした。
そして、一度も表情を変えなかった彼が、ほんの一瞬だけど、痛みに耐えるような表情を浮かべた。

僕にはわからなかった。
それが何でなのか、何故今なのか。それを怒ればいいのか、許せばいいのか。
そもそも何を許せばいいのか、それは、赦しを乞うべき僕が許せるものなのか。

( <●><●>)「…選択を」

沈黙を破ったのはワカッテマスの方だった。






最早僕に抵抗する気力は無く、左の道を進んだ。

(;^ω^)「……」

(,;゚Д゚)「……」

これはいったいどういう基準があって選んでいるのだろうか。
夢の中とはいっても、あんなことがあったから、気まずい。向こうも気まずそう。
知っていてこの人を選択の場に出してきたなら、かなり性格が悪い。

…本当に僕は参ってきているようだ。
こんな選択させるやつの性格がいいわけないだろうに。

僕は引き返した。目指すは、もう一本の道。
誰だって殺したくはないけれど、カーチャンの愛している人だ。
人の命を天秤にかけていることに吐き気がするけれど、もう躊躇う資格すら僕には無いんだ。

誰も殺さないでいれば皆死ぬ。それなら、一人殺した方が、ずっと。
誰だってそう思うだろう?僕は、間違ってなどいない。






( ^ω^)(自分が死にたくないだけだお?)

(  ω )「うるさいお」

⌒*リ´;-;リ(いたいよう、いたいよう)

(  ω )「うるさいお。だまれお」

(・∀ ・) (俺とお前何が違うって言うんだ。同じ人殺しじゃねえか)

(  ω )「うるさいお。うるさいお」

( ФωФ)「ブーン?」

( ^ω^)「うるさいっ、…え?」






もう何年も聞いていなかった声がした。
何年も聞いていなくても、すぐに誰のものかわかる声がした。

( ФωФ)「ああ、ブーンだ…ブーンが夢に出て来るのは久し振りだな…」

記憶の中の姿より、ずっと落ち着いた印象を受ける。それとも元からこんな人だったろうか?
写真はカーチャンが全て燃やしてしまったから、はっきりとした姿は覚えていない。
けれども、例えもっと年老いていたとしても、きっと彼だとわかっただろう。

( ФωФ)「そうか、今年でもう18になるのか…これくらいになっているんだろうな」

あんなに憎んだ親子という繋がりがそう思わせるのか、もっとほかのものなのか。
それなら、その二者で選択しなければならないのなら、僕は前者を選ぶ。迷うことなく。

後者であるはずがない。そうだ、そんなものであるはずがないのだ。
そうでなきゃ、あまりに僕が救われない。






( ФωФ)「ブーン…ふふ、覚えているか」

僕と同じ色だとカーチャンが言った髪には白色が目立つ。
僕と似ているとカーチャンが笑った口元には皺がある。

( ФωФ)「今はもうブーンだなんて呼ばれていないんだろうけど」

カーチャンを罵倒した声が何故こんなにも優しく僕を呼ぶ?
カーチャンを殴った手が何故僕に触れようとする?
カーチャンを蔑んだ目が何故涙を浮かべて僕を見る?

( ФωФ)「私は今も覚えているよ、お前のあだ名がブーンになった日のことを」










( ФωФ)「ホライゾンは走るのが好きだなあ」

⊂二(*^ω^)二⊃ 「おっおっおっ」

(;ФωФ)「あ、待ちなさいそこ段差が…アッー」

(;^ω^)「おっ!」

(;ФωФ)「セーフ!セーフだな?!大丈夫かホライゾン!」

⊂二(*^ω^)二⊃ 「だいじょうぶだお!もっとはしるんだお!」

( ФωФ)「まったく、お前は本当に走るのが好きなんだな」

⊂二(*^ω^)二⊃ 「だいすきだお!」








(;ФωФ)「でもなあ、早く走りたいのならその走り方はどうかと思うぞ」

⊂二(*^ω^)二⊃ 「こうすると、かぜがきもちいいんだお」

( ФωФ)「うん?」

⊂二(*^ω^)二⊃ 「かぜがいっぱいあるんだお!」

⊂二(*ФωФ)二⊃ 「う、うむ?そうか?で、では私も…むむ?!新境地!」

⊂二(*^ω^)二⊃ 「おっおっ!」

( ФωФ)「そうか、手を広げることで抵抗が増えて風を…わが子ながら天才だな!」

(*^ω^)「おっ、僕天才だお!」

(*ФωФ)「ははは!ブーン!」

(*^ω^)「お?!なんだお?ブーンってなんだお?」

(;ФωФ)「む?べ、別に意味はな…いや!これは早く走るための呪文なのだ!」

(*^ω^)「まほうのじゅもんかお?!」

(*ФωФ)「そうだ、魔法の呪文だ!ふはははは!」






(*^ω^)「ブーン!ブーン!」

J( 'ー`)し 「ちょっと貴方、ホライゾンに何言ったんですか?一日中あればっかり」

(;ФωФ)「むっ…むう、男にしかわからんことだ」

J( 'ー`)し 「もう…ホライゾン、あまり言ってるとブーンって名前にしちゃうわよ!」

(*^ω^)「お?それいいお、僕はブーンだお!」

J( 'ー`)し ( ФωФ)「ちょwwwww」









( ФωФ)「お前ときたら私の口から出まかせを信じて」

( ФωФ)「結局私たちが根負けしてブーンと呼ばされたっけな」

( ФωФ)「…今は、どんな風に呼ばれているのだ?友達はたくさんいるか?学校はたのしいか?」

( ФωФ)「なんて…な」

僕と彼の間にある壁は凄く厚い。もしかしたらカーチャンと彼の間にあるそれよりも。
カーチャンと彼は他人だが、僕と彼はいつまでたっても親子である。
同じ男であることも手伝って、嫌悪感はカーチャンよりも僕の方が強かった。
血を恨み、彼のような人間だけはなるものかと誓い、そして今の僕が居る。

カーチャンを不幸にしかしなかった男。
カーチャンをこれから幸せにしてくれる男。

どちらを選べばカーチャンの為になるかなんて明白だ。






――それでも。

( ^ω^)「いまでも、ブーンと…呼ばれている、お」

( ФωФ)「…そうか」

それでも、僕と彼の間には、確かに親子としての記憶が、
ホームドラマにでも出るつもりだったのかと笑ってしまいたくなるような歴史がある。
それはこんなにもささやかなのに、厚い壁すらも超えて今の僕に届くのだ。親子というほかにない絆を伝って。

( ФωФ)「ありがとう」

誰も、こんなものを愛だと言わなければよかったのになあ。
そしたら僕も、ほんの少しは救われたのに。





(,,゚Д゚)「ブーンくん」

僕が何も言わずに擬古さんの前に立っていると、彼の方から話しかけてきた。

(,,゚Д゚)「夢の中で悪いが、すまなかったね。君くらいの年なら、言いたくないような悩みがあって当然なのに…」

夢の中でまで、謝らなくてもいいのに。
でも、そんなところをカーチャンは好きになったんだろう。

(  ω )「だけど」

(,,゚Д゚)「うん?」

(  ω )「だけど、貴方は、僕の父親じゃ、ないんだお」

(,,゚Д゚)「…え?」






子供にとって、親は神様のような存在だ。
本当に困ったとき、泣きつけばどうにかしてくれる。
わがままはかなえてくれないけれど、本当のお願いは聞き入れてくれる。
そう頑なに信じていられた。

だけど、彼らも僕らと同じただの無力な、弱い、悩んだり間違えたり、醜い部分も持つ人間だと知ったとき、
子供は、その幻想が愛の見せたものだと理解できるほど大人ではないから、ただただ衝撃を受ける。
裏切られたようにすら感じる。そして自ら幻想を打ち砕く。

それでも、その破片がまだ残っているようだ。
だからこんな風に、救いを求めてしまうのだろう。

もう、神様なんかいないのに。





( ;ω )「………とーちゃん、」














(´・ω・`)「初めて、君と違う選択をしたね」

( <●><●>)「そうですね」

(´・ω・`)「どんな気持ち?」

( <●><●>)「…わかりません」

(´・ω・`)「はは、似合わないことを言うね」

( <●><●>)「すみません」

(´・ω・`)「別にいいさ。あの子は本当におもしろいからね。でかしたよ」

( <●><●>)「…ありがとうございます」

( <●><●>)「…」








「いちねんにくみにじゅうにばん!ぼくはないとうほらいぞん!ブーンってよんでくれお!」

「なんでブーンなのー?」

「おっおっ、これはぼくのトーチャンがおしえてくれた、まほうのじゅもんなんだお!」

<第四択・了>


--------------------------------------------






擬古さんが交通事故で亡くなったのが三日前だから、
僕はもう三日寝ていないことになる。

意外といけるもんだなあ、と
泣き疲れて眠ってしまったカーチャンを布団に運びながら思う。

――僕はどこまで、逃げられるのだろう。









<第五択>

まず三日前、僕はカーチャンの狂ったような泣き声で目覚めた。
擬古さんが、擬古さんが、と泣き叫ぶカーチャンを宥め、話をなんとか聞き出し、
タクシーを呼び、病院へ向かった。

飲酒運転のトラックにはねられ、ほぼ即死。
その割に死体は、少なくとも顔は綺麗なままだった。
泣き叫ぶカーチャン。擬古さんの両親も駆けつける。

ベッドを取り囲み、皆が泣く。僕はただカーチャンの傍に立っていた。
その姿が擬古さんの両親には健気に見えたのか、慰められてしまった。






犯人はすぐ捕まった。僕は直接会ってはいないが、まだ幼げな印象の残る青年らしい。
かわいそうに。僕が居なければ、人殺しの経歴がつくこともなかったろうに。

携帯の電源を入れる。待ってましたといわんばかりに、次々とメールを受信する。
「どうしたの?」「何ズル休みしてんだよwww」「アホ」

ああ、無断欠席になっているのか。そこまで気が回らなかった。
返信しようかと一瞬迷って、どうでもよくなって携帯を投げた。
携帯は、壁に当たってぼとりと落ちる。

ここ三日、カーチャンを宥めたり葬式を手伝ったりで、眠気は感じなかった。
だから今日からが、本当の戦いだ。




明日は学校に行こうか?
友達と話していれば眠らなくて済むかもしれない。
でも授業中はどうする?

ああ、もういいや、明日考えよう。明るくなってから、考えよう。
とにかく夜を乗り越えなければ。

僕はゲームをすることにした。テレビを見るだけでは、受動的すぎる。
とにかく、何かやっていなければ不安だった。

知らない間に眠ってしまわないか。
…知らない間に、気が狂ってしまわないか。






夜が明けて、僕は制服に着替えた。
行くかは別として、カーチャンには行っていると思わせておかなければ。
もっとも、あの様子では、そんな小細工必要ないかもしれないが。

全てに現実感がない。確かに歩いているのに、浮遊感がある。
外に出てみるとそれが余計顕著に現れて、吐き気がした。
目の前の景色が嘘臭くて、何度も目をこする。

思ったより追い詰められているようだ、と、頭だけはしっかり現実をみていて、
学校に行くのはやめた方がいいのかもしれない、と懸命な答えを出した。






その辺をぶらついていては補導されてしまうから、河原に向かった。
いつもはドクオと来る、絶好のサボりスポット。

石を何度も川に投げる。
ばちゃん。ばちゃん。ばちゃん。ばちゃん。

投げつける。出来るだけ大きな石を、叩きつける。
ばちゃん!ばちゃん!ばちゃん!ばちゃん!

こんなバカみたいなことを、僕は何時間も続けていた。
めちゃくちゃになった河原を見て、少し泣いた。






僕が普段帰る時間帯を見計らって帰ったのだが、カーチャンはまだ寝ていた。
あれから一度も起きていないようだ。カーチャンの為のおかゆを作って、自分の部屋に向かう。

風邪だろうがインフルエンザだろうが食欲だけは失わなかった僕なのに、
今は何も食べたくなかった。吐き気がおさまらない。
お葬式のときに無理やり食べたきりだから、吐くものもないだろうに。

今朝から、耳鳴りがひどい。
テレビをつける。ニュースになった瞬間にチャンネルを変えた。






テレビの前に座る。叱られた子供みたいに、体育座り。
そろそろ眠気も出てき始めて、ぼう、としていると、視界の端にちらちらと何かがうつる。

ついに幻覚までみるようになったのか。ああ、三日で狂ってしまうのか。
人ってやつは、僕は、なんと脆いものか。

せめてもの反抗のつもりで、その幻覚を見る。

(;^ω^)「…ッ」






( ´_ゝ`)

兄者。

現実の世界を見ても湧かなかった現実感が、幻覚を目にした瞬間に湧くとは。
何か言おうとして、けど止める。幻覚に話しかけるなんて、それこそ本当に気が狂っている。

( ´_ゝ`)「ブーン、」

僕が作り出した幻覚なのだから、僕の望みどおりにしてくれるだろう。
そう、僕が何よりも望んだ、心を突き刺すような、非難の言葉を紡いでくれる筈だ。

そう、僕が作り出した、悲しい幻覚なのだから、僕の本当の望みを、






( ´_ゝ`)「お前を、許すよ」

(  ゚ω゚)「――ッ!!」

( ´_ゝ`)「お前は悪くない。俺が望んだのだから、お前は少しも悪くない」

(  ゚ω゚)「あ、」

( ´_ゝ`)「大丈夫だ、誰もお前を責めないよ」

(  ゚ω゚)「あああ、あ、」

( ´_ゝ`)「仕方無かったんだよな?あんな状況に置かれたらだれだって、」

(  ゚ω゚)「ああああああああああ!!」






ゲームを幻覚に向かって投げた。当然当たるわけもない。
力加減などしないまま投げたものだから、ゲームは凄い音を立てて床にたたきつけられた。

耳を塞いでも、兄者の声はしっかりと聞こえた。僕は悪くないと、仕方なかったのだと、
優しく優しく諭すように、彼の声で、言い方で、僕を赦すための言葉を紡いでく。

ぼくがいちばんほしかったことば。

(;゚ω゚)「う、ぷ、」

吐いても吐いても、何も出ない。床にぼたぼたと胃液だけが落ちる。

(; ω )「う、ぇ、ぐ、…ッ、ああ、」

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。

(; ω )「ああああ、あ、ぐ、うぇッ、げ、ぁ」






ごめんなさい。ごめんなさい。そんなことを言わせてしまって。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
貴方は十分すぎるくらい優しかったのに、それだけでは満足できない、
この、あさましいまでに弱い僕を、もう、ゆるさないでください。

( ´_ゝ`)「お前を少しも恨んでなんかいない」

ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、
そんなことを言わせてごめんなさい、それで少しだけ安心してしまってごめんなさい、
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、

( ;ω;)「もう、…もう、やめてくれお!!」

叫んでから、恐る恐る顔をあげてみると、兄者は消えていた。
その代り、背後から声がする。






(,,゚Д゚) 「大丈夫だよ、ブーン君」

(,,゚Д゚) 「辛かったんだね」

( ;ω;)「……」

(,,゚Д゚) 「俺は少しも君を恨んでいないよ」

( ;ω;)「………」

ごめんなさい。

(,,゚Д゚) 「大丈夫、俺も、誰も君を恨んだりしないから」

( ゚ω゚)「あああああああああああ!!」






頭を何度も殴る。足りない、こんな頭だから幻覚なんか見るんだ、もっと、もっと、
机の上にあったシャープペンが目に着いた。
僕は迷わずそれを握りしめ、思い切り手の甲に突き刺した。

(  ゚ω゚)「!!!!」

鋭い痛みに声も出ない。何度も荒い呼吸を繰り返す。というか、呼吸するのがやっとだ。
けど、それが良かったのか、気付いたときには幻覚も消えていた。

震える手でシャーペンを抜く。どぷ、と傷口から血が溢れる。
流石に貫通はしていないが、だいぶ深くまで刺したらしい。
しばらくしたら、熱をもってじくじくと痛みだした。

( ;ω;)「うー、うー…」

痛い。身体の内からくる痛みは我慢しようとしても勝手に涙が出てくる。






( ;ω;)「あああ、あー…」

けど、けど、僕の殺した人たちは、もっと痛かったはずだ。
あの女の子や犯罪者はワカッテマスが操ってくれたから、
まだ、苦しむことなく死んだけれど、兄者なんかはどれだけ痛かっただろう。

さっきの僕は衝動にかられて勢いでさしたけれど、
あんなに落ち着いたまま自分にナイフを突き刺すなど、夢の中だって僕には出来ない。

擬古さん。初めて僕が僕の意志で殺めたひと。
なかなか死ななくって、何度も何度も突き刺した。
痛みという点では擬古さんが一番ひどかった筈だ。






ああ、だから二人が幻覚となって出てきたのか。
僕に、殺したという自覚があるから、その二人に赦して欲しかったのだ。
酷い話だ、あの女の子も犯罪者も僕が殺したってのに。

でも、そんな僕でも、もう何人も殺した僕でも、譲れないひとがいる。
選択する人は、どんどん僕に近づいてきている。僕に近しいひとに。

わかっているから、僕は眠らない。
もう逃げ道などないのだとわかっていて、それでも必死で逃げている。

( ´ω`)「…」

( ´ω`)「……」


          <●><●>


(;゚ω゚)「ヒッ」






こんな感じで、それでも僕は五日目の朝を迎えた。
左手はもうグロ画像みたいになっているので、包帯で隠してカーチャンに挨拶をする。

J( 'ー`)し「おはようブーン。カーチャンね、今日から仕事に戻ろうと思うわ。
      何かしていた方が、気もまぎれるし。心配かけてごめんね」

目を真赤にさせたカーチャンはそれでも笑う。
本当に強い人だ。息子の僕はこのていたらくだというのに。

( ^ω^)「僕も頑張るお」

J( 'ー`)し「…うん、親子でがんばりましょうね」

( ^ω^)「お!」






カーチャンの方が早くに出てくれたので、学校に行くふりをしなくてもよくなった。
作っていってくれた朝ごはんを食べてみる。味がしない!不思議!

( ´ω`)「…」

                            <●><●>

(;゚ω゚)「!」

ご飯を食べながら一瞬、寝てしまったらしい。そろそろ限界が近い。
包帯をゆっくりほどく。うん、間違いなく食事中に見るもんじゃないな。

フォークを出す。そしてそれを左手に突き刺す。

(; ω )「ッ、」

じわじわと広がる痛み。勝手に溢れる涙。
傷痕をさらにえぐっているわけだから、なんかもう形容しがたい痛みなのだ。
一応消毒はしてあるけど、そのうち細菌感染でもして使い物にならなくなりそう。

新しい包帯を巻く。看護婦の家だけあって、救急箱の中は充実している。






六日目。
眠気がくる間隔がだいぶ短くなってきた。
左手の感覚がマヒしてきたので、右手を刺そうと思ったけれど、
流石に両手に包帯は怪しまれる。

( ^ω^)「どうしたもんかおね」

見えないところを刺せばいい。そう、脚だ。
もう中にまで血が入り込んだシャーペンを手に取る。
呪われた道具みたいだなと思いながら、手を振り上げ、脚に突き刺し――

(;'A`)「ブーン?!」

た瞬間だった。ドクオが飛びかかってきた。






(;^ω^)「ちょ、ドクオ!」

(;'A`)「お前なにやって…うわ、突き刺さってるじゃねえか!抜け抜け!」」

(;^ω^)「いたいいたいぐりぐりしちゃらめえええ」

ξ;゚?゚)ξ「何やってんのよあんたら!ってきゃあああ何してんのドクオ!」

(;'A`)「ちげーよこいつが自分でうわなにするやめ」

(;^ω^)「ドクオ!ツン!人の家に勝手に入るのは泥棒だお!」





(#'A`)「勝手じゃねえよ。おばさんが、ブーンの様子が変だから見てくれって言われたんだよ」

貧相な体のドクオに睨まれても何も怖くない筈なのだが、その鬼気迫る表情に少しだけ怖気づく。

( A )「てめえ何してんだよふざけんな」

(;^ω^)「…」

ξ;゚?゚)ξ「…」

ドスの聞いた声に、ツンも僕も固まる。

(#'A`)「…何してんだよ。この包帯はなんだよ」

察しがよろしいことで。暴れたけれど結局包帯は取られた。
ツンには泣かれ、ドクオには殴られた。






(;^ω^)「…」

(#'A`)「…」

ξ;?;)ξ「…」

(#'A`)「…俺だって信じたくなかったよ。お前がおかしくなっただなんて」

(;^ω^)「僕はおかしくなんか!」

(#'A`)「じゃあなんだよその左手は!」

(; ω )「これは…これは、…」

('A`)「…夜中にずっと叫んだり、暴れたりしてるって」

(; ω )「…」






紛れもない事実だ。カーチャンが何も言ってこないからバレてないと思っていたが、
考えてみればあれだけ暴れて気付かない方がおかしい。
寝ないことだけに必死で、当然のことに気付けなかった。

ツンのすすりなく声だけが部屋に響く。
理由を説明すれば、それこそ頭のおかしい人扱いされる。
どうしようもない。






('A`)「何が、あったんだよ。こうしてみても、おかしいけど、気がおかしくなったとは俺には思えないんだよ」

ドクオの言葉に、涙が出そうになる。

(; ω )「…言ったって、信じてもらえない、お」

('A`)「お前の言うことならなんだって信じるよ。俺もツンも」

ξう?;)ξ「…そうよ」

話してしまおうかと、おもったその瞬間だった。

(;゚ω゚)「あ」

( <●><●>)「すみませんが ショボンさまが おまちかねです」

(;゚ω゚)「ああああ」

(;'A`)「ブーン?!」

ξ;゚?゚)ξ「どうしたの?」

(;゚ω゚)「く、来るなお!」

( <●><●>)「…」






(;'A`)「ブーン、落ち着けって!ツン、おばさんに電話してこい!」

ξ;゚?゚)ξ「わ、わかったわ!」

ドクオが僕を押さえつける。ワカッテマスが僕に向って手を広げる。
その手の平からあふれ出たものが、僕にふりかかり―――

僕の逃走劇は、幕を閉じた。

<第五択・了>


--------------------------------------------------





(´・ω・`)「やあ、随分と頑張ったね」

(  ω )「…」

(´・ω・`)「この選択、僕は本当に楽しみにしていてね。頑張っていたところ悪いけど、来てもらったというわけだよ」

(  ω )「…」

(´・ω・`)「さあ、素晴らしい選択を!」






<第六択>

どんどん”僕”に近づいてくる選択の、その先を予測出来ないほどに狂うこともできずに、
そしてこのザマだ。身体も心も限界に限りなく近い。
発狂してしまえばもっと楽だったのだろうか?
何も考えることもなく、殺せたのだろうか?

頭痛も耳鳴りも吐き気もおさまらない。呼吸は荒く、胸が熱い。心臓の音が脳に響く。
それでも左手に傷は無く、それがなんとも皮肉めいて見えた。
これは夢なのだ。ただ、本当に人が死んでしまうだけで。

ただ、それだけで。






右手に握られているのはシャープペンではなく、ナイフ。
突き刺して、奪って、やっと切り開いた僕の明日に、何か、揺らぐものはあったかな。

よく、わからない。
生きたいと思うことは、こんなにも辛かったろうか。
生きているということは、こんなにも苦しかったろうか。

どうしたらいい?いくら答えを求めても、誰も答えてはくれない。
キリキリと、内臓が痛み、それでも歩を進め、
そして僕は予想と違わぬ人物を見つける。

('A`)「…ブー、ン?」

( ^ω^)「ドクオ」

('A`)「なんだよ」

( ^ω^)「話すお。僕が何故あんなことをしたのか、すべて」






('A`)「……」

(  ω )「信じて、くれるかお」

('A`)「信じがたいけど…何の理由もなしにお前があんなことするわけねえし…」

(  ω )「…」

('A`)「信じるよ」

(  ω )「……なら」

(;  ω )「なら、助けてくれお!お願いだお!お願いだお!」





縋るとはまさにこのことを言うのだろう。
どこかに残っている理性が、こんな情けないことはやめろと叫んでいる。
それでもやめられなかった。

僕にとってドクオは憧れのかたまりみたいなやつだった。
僕とドクオは全然似ていない。ドクオは頭がいいし、僕と趣味も嗜好も違う。
唯一、走ることが好きだということだけは同じだったが、僕は短距離、ドクオは長距離。

僕は人付き合いが好きなほうだが、ドクオは大嫌いで、
僕は要領が恐ろしく悪いが、ドクオは恐ろしくよくて、
僕は決断というものが嫌いで、ドクオはうじうじと悩むことが嫌いだった。






(; ω )「お願いだお!ドクオが言った通りにするお!もう、もう、どうしたらいいのかわからないんだお!」

('A`)「…もう一人は、見てきたのか?」

こんなにも情けない姿を見てなお冷静で居られるドクオは本当に凄いと思う。
こういうやつだから、何処かで僕は、ドクオをまるで、そう、”神様”みたいに思っていたところがある。
ドクオに言えば何か言葉をくれる。なんとかなる。そう思わせる力を持っていた。
僕が昔に無くしたものを埋めてくれたのだ。

(  ω )「…みて、ないお…だけど、たぶん」

('A`)「…」

( ^ω^)「たぶん…ツンだお」

('A`)「そうか…」






それなのに僕が何故今まで打ち明けなかったか。

信じてもらえないのが怖かった?
気違い扱いされたくなかった?

そうじゃない。それが少しも無かったかと言われれば嘘になるが、
僕のドクオに対する信頼はそんなに軽いものではない。

じゃあ、何故?






('A`)「…よし」

( ^ω^)「お」

僕は、誰にも答えを求めなかった。
更なる絶望が、怖いから。



('A`)「お前、俺を殺せよ」



答えを求めて、

それでも、救われないのが、

怖かったから。






(  ω )「なんで…だお」

('A`)「え?」

(  ω )「なんでそんなこと、言うんだお……そんなことしたら、僕は、僕が、誰よりも、悲しいお…」

('A`)「……そんな、お前だから、いいんだ」

(  ω )「…」

('A`)「ツンと、幸せになって欲しい」






ドクオは、そんなキャラじゃない。
勿論、知っていた。わかっていた。ドクオは本当は僕なんかよりずっとやさしいってことくらいは。
だけど、それを口に出来るような人間では、ないのだ。

('A`)「俺はさ、こんなやつだか、ら…あああああ、もう!一回しか言わないぞこんなの!」

そのドクオが何で、こんなことを言っているのか。あまつさえ、似合わない笑顔を浮かべて。
僕はそういう笑顔を知っている。ついさっき幻覚で見たのと同じ、笑顔。

('A`)「お前に救われたんだよ。周りの人間みんな人間だと思っていなかった。
   世の中つまんないことばっかで、俺が居ても居なくても世界に何の支障もなくて、自分が空気みたいで。
   でもお前と会って、」

(  ω )「やめてくれお」

('A`)「…ブーン」

(# ω )「やめてくれお!!」

(#'A`)「聞けよ!!!」

(# ω )「いやだ、いやだお!聞きたくないんだお!!そんなの!!」






全て聞かなければ全てから逃げられるだなんて思ってはいない。
でも、抵抗しなければ全てが終わる気がした。

言葉の重みを知っているから。
いつも泣いているひとの笑顔、いつも笑っているひとの涙、
そういったものと全く等しい重みが今この言葉に宿っていて、僕にのしかかる。

やめてくれ。
そんなことを聞きたくて、ドクオと仲良くなったわけじゃない。
そんな言葉を紡がせるために、しあわせな日々があったわけがない。






('A`)「聞けって、なあ」

(  ω )「いやだ、いやだお…」

('A`)「…世界は俺が居なくなってもお前が居なくなっても、変わらないけど」

(  ω )「……」

('A`)「俺の世界はお前が居なかったら、変わるから」

(  ω )「……」

('A`)「前より、ずっと人ってもんを見れるようになったけど、やっぱりお前は違うから」

(  ω )「…、」

('A`)「なんていえばいいかわかんねえけど、親友とか、そんな言葉も似合わないし…」



















”人は、ひとつだけあれば生きていけるそうだ”


















ゆらりと記憶の海から落ちてきた言葉が、何かを溶かしていく。
目を閉じる。相変わらず息が苦しくてたまらない。
深呼吸をしてみたら、凄く楽になった。
簡単過ぎることだけど、今まで僕は思いつきもしなかった。

息の仕方を忘れていた。
当たり前のことは、よく忘れてしまうから。けど、それは悪いことじゃあない。
忘れたことすら忘れてしまったとしても、それはただ悲しく寂しいだけで、悪いことじゃない。

悪いことより、悪くないことの方がずっと多いのだ。
上手く笑えなくても、器用になれなくても、上手に嘘をつけなくても、
誰も救えなくっても、夢がかなわなくても、全然悪いことじゃない。

でも、僕は覚えていたい。僕を僕たらしめる、全ての欠片を。
泣き方も、笑い方も、何ひとつとして忘れたくない。
貰った優しさも、くれた人々も、すべてが僕の世界の欠片。

僕は、生きたい。
いとおしい人々がつくってくれた、こんなちっぽけな僕だから、生きたい。






(  ω )「…」

( ^ω^)「いいんだお」

('A`)「え?」

( ^ω^)「名前をつけなくても、いいんだお。どんな名前も、似合わないようになっているんだお。それには」

('A`)「…そっか」

( ^ω^)「僕はドクオの、それに、たったひとつになれていたかお?」

('A`)「……うん」

( ^ω^)「そうかお。なら、いいんだお」

('A`)「え?」

( ^ω^)「ドクオ。目を閉じてくれお」

('A`)「…おう」






長い付き合いだったわけではない。
高校の三年間なんて、振り返ってみればあっという間だ。
ついこの前高校に合格したと思ったら、もう部活を引退している。

長くはない、ドクオと過ごした時間は、驚くほどささやかで、本当に楽しかった。

( ^ω^)「…ありがとう」

迷ったけれど、いつか送った五文字を別れの言葉に選んだ。

(;-A-)「――!!」




































(;-A-)「…」

(;-A-)「…」

(;-A-)「…?」

(;-A`)「ブーン?」

(;'A`)「おい、ブーン!!」















( ^ω^)「ツン!」

ξ;゚?゚)ξ「ブーン!」

ξ゚?゚)ξ「ああ、心配したのよ、ブーンが急に倒れて、その次にドクオもね、倒れて。
 それで、それで…私も目の前が真っ暗になって…」

( ^ω^)「ツン、これは夢だお」

ξ゚?゚)ξ「え?」

( ^ω^)「夢だから、目が覚めたら忘れて欲しいんだお」

ξ゚?゚)ξ「何を?」

( ^ω^)「――ツン、僕は、君が好きだお」






見開かれた瞳を縁取る睫毛、流れる明るい色の髪、
白くはないけれど健康的な肌、ふっくらとした唇。
全てが可愛くて、いとおしい。

気にしているらしい、たびたび頬に出来るニキビすらも、
この思いを増長させてしまうのだから不思議だ。

ξ゚?゚)ξ「ブーン、」

欠点が無いなんてお世辞にも言えない。
自分が悪いとわかってもなかなか謝らない。
たまに我儘が過ぎて場の空気を白けさせることだってある。

ξ゚?゚)ξ「じゃあ、これも忘れてね」

それでも、そのあとに落ち込んでいる姿が愛おしいのだから、
もうどうしようもない。






ξ*゚?゚)ξ「私も、……好き」

( ^ω^)「…」

ξ*゚?゚)ξ「…夢から覚めたら私から言うんだから、さっさと忘れてよね!」

笑顔が、好き。

( ^ω^)「…抱きしめても」

ξ*゚?゚)ξ「普通、聞かないのよ」

少し鼻にかかった、声が好き。

ξ*゚?゚)ξ「…」

女の子特有の、けどツンだけの、この匂いが好き。

( ^ω^)「…」






ξ*゚?゚)ξ「ん!」

(*^ω^)「……」

ξ*゚?゚)ξ「ちょっと、何すんのよ!」

( )ω^)「普通聞かないって言ったお…」

ξ*゚?゚)ξ「だからっていきなりキ、キキキキ、キスすることないじゃない!」

(;^ω^)「ご、ごめんなさいだお…」

ξ*゚?゚)ξ「もう!初めてが夢の中だなんてブーンはデリカシーがなさすぎるわ!」

(;^ω^)「あうあう」






( ^ω^)「…ツン、ツン、好きだお」

ξ゚?゚)ξ「聞いたわよ」

( ^ω^)「ツン、もう一回言って欲しいんだお」

ξ゚?゚)ξ「もう。起きてからって言ったでしょ」

( ^ω^)「お願いだお」

ξ゚?゚)ξ「…」

ξ*゚?゚)ξ「もう」

ξ*゚?゚)ξ「私は、ブーンが、…好き」

( ^ω^)「愛してるお」

ξ*゚?゚)ξ「ば、ばっかじゃない!」

( ^ω^)「馬鹿でいいお」

ξ*゚?゚)ξ「もう…」







( うω;)「…」

ξ゚?゚)ξ「ブーン?」

ξ゚?゚)ξ「どうしたの?」

( ;ω;)「嬉しいんだ、お」

ξ゚?゚)ξ「嘘よ。嬉しいときのブーンはそんな風に泣かないわ」

( ;ω;)「…嬉しいんだお」

ξ゚?゚)ξ「ブーン、なんで嘘つくの?」

( ;ω;)「嘘じゃないお」

ξ゚?゚)ξ「ブーン!」

( ;ω;)「ツン、忘れてくれお。お願いだお」

ξ;゚?゚)ξ「ブーン!どこ行くのよ!」





ツン、僕は、終わりに行くんだ。
終わり。結末。終焉。なんて呼んだって構わない。

滲む視界に、限りない未練が映るけれど、それでも僕は行くんだ。
君はドクオみたいにひねくれていないから、ハッピーエンドが好きだろう?
僕も、出来ればハッピーエンドがいい。

子供騙しだとか、ご都合主義だとか言われても、
無理矢理にでも、終わるならしあわせな終わりがいい。
悪が倒されて、世界は平和になって。

だって、終わってしまうのだから。
物語は、もう続かないのだから。












( <●><●>) 「…どうされました」

(´・ω・`)「まあ、リミットまで時間はあるし、ゆっくりしてくれてかまわないよ」

( うω;)「ワカッテマスはこういったおね。このナイフで、右のものか左のものか選択しろと」

( <●><●>) 「はい」

( ^ω^)「僕はずっと、右を選んできたお」

(´・ω・`)「?」

( ^ω^)「でも今回は左を選ぼうと思うお」

( <●><●>) 「…そうですか」

(´・ω・`)「ワカッテマス、僕には彼の言うことがちょっと理解できないのだけれど」

( <●><●>) 「…」






僕はしあわせだと思った。それが嬉しかったのだ。その言葉に嘘はない。
兄者が笑えた理由がわかった気がした。笑ってくれたのはきっと僕のためだったけれど、
あの場面で笑えた理由はけして自暴自棄になったからではない。

命を賭してまで守りたいと思える人間が居るということ、
そして自分の命でその人を救えるということ。
そしてそれが、僕を本当の意味で生かす。
なんと、しあわせなのだろう。

こんなくだらない馬鹿な僕だけど、それが二人も居る。

僕は死なない。本当には死にはしない。
例え、息が止まろうとも。





僕のたったひとつは生きるから。生き続けるから。





笑い方など忘れていた筈なのに、勝手にこみあげてくる。
そうだ、笑顔なんて勝手に出でくるもので、作るものなんかじゃなかったのだ。
僕が忘れていたのはそんな当たり前のこと。

最期に気付けて良かった。最期に笑えて良かった。
僕の人生は、本当にしあわせなものであった。


















だから僕は、ひどく満たされた気持ちで、ナイフを左胸に突き刺した。







あれ、意外と痛くな――

(;´・ω・`)「ぐッ、ああああああああ!!」

(;^ω^)「?!」

( <●><●>) 「さようなら」

ワカッテマスがその身の丈ほどもある鎌を持っているのを確認したのと、
ヒュン、と空を切る音を聞いたのはほぼ同時だった。

次の瞬間、ショボンの首が飛んだ。






(;^ω^)「ちょ…え?」

( <●><●>) 「…死神は 死神にしか殺せない と言ったはずです」

(;^ω^)「な、ななななんで」

( <●><●>) 「何に対しての なんで ですか …一応言っておきますが
       できそこないの死神である私には そうして魂を留めることしかできません」

(;^ω^)「え、あ…はい」

( <●><●>) 「それもそう長く持ちません 時がくれば 貴方の意識は完全に消滅します それが死です」

(;^ω^)「そう改めて言われるとショックだお…」

( <●><●>) 「すみません」

ワカッテマスは深々と頭を下げた。

(;^ω^)「い、いや別にそんなに謝らなくても」

(#<●><●>) 「なんでですか!」

(;^ω^)「うおっ」

(#<●><●>) 「貴方は 貴方はもっと もっと私に怒っていいのです!」

(;^ω^)「ご、ごめ」

(#<●><●>) 「謝罪をすべきは私の方なことを わかってください!」

(;^ω^)「わわわわわわかったお、だからその鎌をしまってくれお…」






ワカッテマスはハッとしたように鎌を消して、
ついでにショボンの頭をサッカーボールのように蹴った。
その姿はまるで小学生か中学生で、なんだか笑った。

( ^ω^)「ええと…ショボンは何で死んだお?だってワカッテマスは完全な死神じゃないって」

( <●><●>) 「死神は死神にしか殺せないというのはつまり 死神の鎌でなければ殺せないという意味なのです。
       できそこないの私も鎌は扱えたので… ただ本当にそれだけです」

( ^ω^)「と、いうと」

( <●><●>) 「殺せはしますが 対抗はできません つまり 真っ向から向かって行って勝つことはできないのです」

( ^ω^)「ほほう」

( <●><●>) 「…貴方 ふざけてるんですか」

( ^ω^)「おっおっ、至極真面目だお。でもそうなんだおね、だから僕は君を嫌いになれなかったんだお」






( <●><●>) 「…貴方の本当の敵は 私です」

( ^ω^)「?」

( <●><●>) 「私が貴方を選びました」

( ^ω^)「お」

( <●><●>) 「こんなにもたくさんの人間が居るのに 私があなたを選びました」

( ^ω^)「そうだお、それだお。…なんで、僕を選んだお?」

( <●><●>) 「……」

ワカッテマスは目を伏せて、大きく息を吐いた。
どう見たって中学生くらいにしか見えないのに、その表情は大人のそれだった。

( <●><●>) 「貴方の 少ない残り時間を 私のために使ってくれますか? 私の 懺悔に」

( ^ω^)「いいお」

( <●><●>) 「…」

( <●><●>) 「その話をするには まず 先ほどの話の続きから始めなければなりません」






( <●><●>) 「真っ向から向かって行って勝つことはできない なら何故私はショボンを殺せたか」

( ^ω^)「…そう言われればそうだおね」

( <●><●>) 「ブーン 人間の間でも言われている通り 死神は人間の魂を狩る存在です
         魂を糧として存在する …ただひとつ 例外があります」

( ^ω^)「例外、」

( <●><●>) 「自殺した人間の魂は 死神には毒なのです」

( ^ω^)「…」

( <●><●>) 「何故かははっきりとはわかりません けれど わかる気がします」

( ^ω^)「なんか、らしくないおね」

( <●><●>) 「そうですね」

( ^ω^)「いいと思うお」

( <●><●>) 「そうですか」






( <●><●>) 「…私は 私が貴方を選んだ理由はそこにあります」

( ^ω^)「……」

( <●><●>) 「貴方が この選択を続けるうち 誰かのために 自らを犠牲にする人間だと 思ったからです
       それもすぐにではなく 迷いに迷って あがいてくれる ショボンが興味を持つような人間だと」

( ^ω^)「そんな残酷な言葉、初めて聞いたお」

( <●><●>) 「私も そう思います」

( ^ω^)「おっおっ」

( <●><●>) 「何故 貴方はそう笑うのですか」

( <●><●>) 「こんなにも残酷で 救いようのない 他人の勝手な都合で 貴方は死んでしまったのに」

( <●><●>) 「しなくてもいい苦悩を 与えられるべきではなかった選択を 悲しすぎる決断を強制されて 貴方は」

( <●><●>) 「それなのに… それなのに」






( ^ω^)「僕が責めるまでもなく君が君自身を責めているお」

( <●><●>) 「…」

( ^ω^)「それに…僕は死んだんだお。これ以上の理由は無いお」

だって、終わってしまったのだから。
物語は、もう続かないのだから。

それなら、すべてを赦したい。
憎んでも、怒っても、何も変わらないのならば、
誰かを赦して終わりたい。






( <●><●>) 「それは 諦め ですか」

( ^ω^)「違うお むしろ貪欲なんだお ただで死んでやる気はないんだお」

( <●><●>) 「…貴方は よくわかりません」

( ^ω^)「おっおっ。君には感謝しているんだお。流石の僕もショボンは赦せそうになかったから」

( <●><●>) 「私ならば赦せると?」

( ^ω^)「そうだお」

( <●><●>) 「諸悪の根源の… 私を」

( ^ω^)「…聞かせてくれお。君が何故できそこないなのか。何故ショボンを殺そうと思ったのか」

( <●><●>) 「…」






( <●><●>) 「短い方からお話しましょう 私が何故できそこないなのか」

( ^ω^)「そうしてくれお」

( <●><●>) 「前提として 死神は元は人間です」

( ^ω^)「ふむふむ」

( <●><●>) 「死神になるには 魂を刈った死神が 決まった儀式をしなければならないのですが」

( ^ω^)「へー、引き継ぎ制なのかお」

( <●><●>) 「スカウト制です」

(;^ω^)「…君がユーモアにあふれた人間だったとは思わなかったお」






( <●><●>) 「私の場合は ショボンより先に私の魂を刈ってしまった死神が居たんです」

( <●><●>) 「激怒したショボンはその死神を殺し ショボンが私を死神にしました」

( ^ω^)「…」

( <●><●>) 「結果として 私はできそこないになりました」

( ^ω^)「他の死神はみんな殺したって…」

( <●><●>) 「そう 私のことが発端となって皆を殺したのですよ
       あの人は 自分の思い通りにならないのが一番嫌いな人でした ちょうど私の父のように」

( ^ω^)「…」

( <●><●>) 「…長い方をお話しましょうか」





ワカッテマスの話は淡々としていた。教科書を読むように、自分の人生を語る。
悲しいのだろうか、それとももっと別な感情なのだろうか。
なんにせよ、彼の瞳には何も映らなかった。

ワカッテマスは、日本に住んでいた、普通の子供だったらしい。僕には想像もつかないけれど。
僕のトーチャンやカーチャンが生まれたくらいに、ワカッテマスは死んだのだという。

ワカッテマスには弟と妹が居た。そして当然だが、父親と母親が居た。
母親は絵に描いたような良妻賢母で、
また父親がエリートサラリーマンと言われるような人間だったこともあり、
ワカッテマスとその弟、妹たちは普通以上に幸せな生活を送っていた。

けれど母親が恋人と失踪してしまったことで、
全てが壊れてしまった。






母親が居なくなったことで、ワカッテマス達の生活は激変した。

( <●><●>) 「変化したのは 父だけかもしれませんが」

父親は、母親だけしか女を知らなかった。それが当然だと思っていたし、
妻もそうであると信じきっていた。
友人も居なかった。それでも妻が居ればよいと思っていた。
そして妻もそうであるように求めた。

( <●><●>) 「母を恨むつもりはありません 彼女は十分すぎるほどよく耐えたと思います」

裏切られた。騙された。あの女。売春婦。父親は人が変ったように叫ぶ。

( <●><●>) 「私が愚かだったのです もう十二にもなっていたのに 父親の特異性に気づきもしなかった
       私が気づき 母を支えていれば もっと違った終わりがあった筈だというのに」

家具を投げる。壊す。窓を割る。ついには会社で暴力沙汰を起こし、警察に捕まり。

( <●><●>) 「私は あの家庭が 母の我慢という あまりに脆い土台の上に成り立っていた家庭が 幸せなものであると
       信じていました 疑ったことなどありませんでした」

ようやく帰ってきた父親は 見た目も 中身も 変わり果て。






( <●><●>) 「まず 妹でした」

弱いものから。或いは幼くとも女だったからか妹がまず殴られた。
小さくかよわい身体、なにより自分の子供だというのに、父親は何のためらいもなく壁にその身体を打ちつけた。
そして、それが始まりの合図であった。

父親は、ひたすら三人を殴り続けた。自分の子供、三人を。
殴り、蹴り、打ちつけ、叩きつけ、罵声を浴びせ、

けれど ふ と正気に戻り、彼らを手当し、拙い料理を作り、泣きながら詫びるのだという。
母親を失った幼い三人に、唯一残った親という絶対の存在を拒否できるわけもあろうか。

ただただ、その、獣のような父親に耐えるしかなかった。
優しい父親が戻ってくるまで。





しかしそんな生活が続くわけもない。まず妹が、最初に限界を迎えた。
不十分な栄養、過剰なストレス。一番幼い彼女には耐えがたいものだったのだろう。

熱を出し、嘔吐を繰り返す妹を見ていられなくて、ワカッテマスは夜中にこっそり抜け出した。
病院に泣きついて、なんとか見てもらう。そうすることで一時しのぎにはなった。
病院代を盗んだワカッテマスは盛大に殴られたけれども、そんなことは既に大した問題ではない。

( <●><●>) 「そういったことが 何回かあった頃ですか」

夢を、見たのだ。














”やあ。ようこそ、夢の世界へ。”











( <●><●>) 「私は 特に何も考えませんでした どうせ夢なのだから と」

選択の内容は、僕とあまり変り無かった。

最初は、幼い子供二人。
二番目は、犯罪者と普通の人。
三番目は、兄と妹。

( ^ω^)「…」

( <●><●>) 「ただ なんとなく行った方に居た人間を 殺していました」

それが奇しくも、僕と同じ選択だったのだという。
三番目までは。

四番目に出てきた二人は、父親と母親の恋人。

( <●><●>) 「私は はっきりとした殺意を持って 父親を殺しました」

初めて僕と違う選択をしたワカッテマスが、目が覚めたとき、目にした光景。

( <●><●>) 「父親が 弟に殺されていたのです」

( <●><●>) 「今にして思うと 最も自然な死に方が ”息子に殺される” だとはつくづく哀れな男ですね」






(;<●><●>) 「ビロード!ビロード!貴方何を!」

( ><)「お兄ちゃ、ん」

(;<●><●>) 「貴方、自分が何をしたかわかっているんですか!」

( ><)「だって、ぽぽちゃんを殴るんです」

( <●><●>) 「ビロード…」

( ><)「お兄ちゃんだって、いっつも殴られてます ひどいんです」

( <●><●>) 「…」

( ><)「僕、もう、我慢できなかったんです…でも、僕、僕…いけないことだってわかってたんです」

( <●><●>) 「…大丈夫です」

( ><)「ごめんなさい、ごめんなさいお兄ちゃん…」

( <●><●>) 「大丈夫です、貴方は何も悪くありません。悪いのは」


悪いのは 誰?






( <●><●>) 「私はその日ようやく あの夢の恐ろしさに気づいたのです」

少し調べてみると、殺した男と同じ顔をした犯罪者が怪奇的な死に方をしていることもわかった。
ワカッテマスは確信した。あの夢は現実に干渉する。

しかしそんなことはどうでも良かった。今は、父親をどうにかしなければならない。
図書館から帰ったワカッテマスは、まだ泣いている弟と妹に少し出かける、と告げた。

少しばかり会えないかもしれない、と思いはしたが、
まさかそれが現実で生きている二人を見た最後になろうとは。






ワカッテマスは警察に向かった。
全てを話した。ただひとつ、父親を殺した犯人のこと以外は、真実を話した。
警察の気の毒そうな顔を見て、まあ悪いようにはされないだろうと思い、弟と妹のことを頼んだ。
そうすると涙ぐむ婦警もちらほら出始める。

警察は酷く同情的だった。近所から苦情や、助けてあげて欲しいという声も届いていたらしい。
それでも見にもこなかったのかと、ワカッテマスは軽く絶望した。本当に軽く。

その日は、父親の死体の処理や、事情聴取などで、目まぐるしく過ぎていった。
夢のことなど忘れてしまうほどに。

だから、ワカッテマスは、夜中に、車の中で眠ってしまったのだ。






その夢の中で、ワカッテマスは弟を見つけた。
柄にもなく取り乱して、もう片方の道へ行くと、その先には妹が居た。

( <●><●>) 「でも私は 貴方のように 弟や妹のために死ぬという考えが 思いつきもしなかったのです」

どうしようもなくなって、とりあえずもう一度弟の元へ向かう。
しかしそれが間違いだった。

( <●><●>) 「ナイフを見た弟は 取り乱しました」

弟が父親を殺したときに使ったのも、ナイフ。

( <●><●>) 「そして 凄い力で 私の右手からナイフを奪い」

(  ω )「もういいお!」

( ^ω^)「…いいお」

( <●><●>) 「…」





( <●><●>) 「…覚えていますか ナイフは持ち主の手によって扱われなければ意味がないと …それでは夢は覚めないのです」

( ^ω^)「…お」

( <●><●>) 「弟が自ら命を絶ったあとに 私は何をしたと思いますか?」

( ^ω^)「え」

( <●><●>) 「実をいうと 私の精神も弟が目の前で死んでしまったことによって限界を迎えたらしく そこからの記憶はないんです」

( <●><●>) 「ただ 私は目が覚めました」

( <●><●>) 「…目が 覚めたんです」

目が覚める。これの意味するところをワカッテマスは知っていた。
ワカッテマスの目が覚めるのを待っていたかのように、車は目的地に着く。

取り乱して駆け寄ってくる警察官の言葉を、ワカッテマスは言われる前から知っていた。


”た、大変です!ワカッテマスくんの弟さんと妹さんを乗せた車が――”





( <●><●>) 「そこからの記憶は曖昧です 気づけば私の目の前で死神が殺されていました」

( ^ω^)「…」

( <●><●>) 「そして私はできそこないとしてショボンに仕えました ショボンの快楽のため 何人も選択の場に連れてきました
         そういった人達はショボンが飽きれば殺されてしまいました」

(;^ω^)「そんな…」

( <●><●>) 「そう 私にもわかっていました 悲劇を繰り返すだけだと」

( ^ω^)「それで…ショボンを殺そうと思ったんだおね?」

( <●><●>) 「ええ どうすればいいか ずっと考えてました そして ある日人間界をショボンとさまよっていたときのことです」
















(´・ω・`)「ああ、こっちはやめておこう」

( <●><●>) 「どうしたのですか?」

(´・ω・`)「ほら、あそこ。首を吊ろうとしているだろう」

( <●><●>) 「ええ…それが?」

(´・ω・`)「できそこないの君と違って、僕みたいに完全な死神に自殺者の魂は毒みたいなものなんだよ」

( <●><●>) 「何故ですか?」

(´・ω・`)「さてね。とにかく近くで自殺なんかされたらたまったもんじゃない。自殺しようとしているだけで気分が悪いよ」
















( <●><●>) 「そして 私は貴方を見つけました」

( ^ω^)「…そう、かお」

( <●><●>) 「他に 何かありますか」

( ^ω^)「…その…最期の記憶は曖昧なんだおね?」

( <●><●>) 「ええ 何で死んだのかもよくわかりません」

( <●><●>) 「…ただ、」

( ^ω^)「ただ?」




( <●><●>) 「最後の記憶は 病院なんだと思います ただの肉片となった二人を見ました」

( <●><●>) 「多分医者だったと思うのですが 誰かから妹さんが持っていたものだ と渡された蜜柑を見ました 皮肉なくらい綺麗なままの蜜柑」

( <●><●>) 「そこに私の名前が書かれていたのです きっと私にくれるつもりだったのでしょう」

( <●><●>) 「妹は蜜柑が大好きでした 父がああなってからは食べられなかったので 警察の方にせがんで買ってもらったのかもしれません」

( <●><●>) 「そんな大好きな蜜柑を 私にあげようとしていたのです 妹は」

( <●><●>) 「多分 私は最後に笑ったのだと思います」

( <●><●>) 「覚えてはいませんが 妹と弟のことを考えていたので 多分笑ったのだと思います」





( ^ω^)「…でも」

( ^ω^)「でも、今は泣いているお」

( <●><●>) 「泣いている?私が?」

( ^ω^)「涙」

( <●><●>) 「…ああ、」

( ^ω^)「大好きだったんだおね?」

( <●><●>) 「ええ、 …ええ 私は 本当は 父親も嫌いではありませんでした 誰も 」

( ^ω^)「わかるお」

( <●><●>) 「そうですね だから私は貴方を選んだのかもしれません」






( ^ω^)「ゆるすお」

( <●><●>) 「…」

( ^ω^)「僕は、君をゆるすお。だから」

( <●><●>) 「…だから?」

( ^ω^)「泣きたいときは泣いてくれお」

( ^ω^)「笑いたいときは笑ってくれお」

( <●><●>) 「努力 します」






この雨が止むまでずっと、彼と一緒に居てあげたいと思ったけれど、その願いは叶いそうにもなかった。
空が白んでいくように、僕の視界はどんどん霞んでいく。
心は矢張り穏やかなまま、覚えてはいないけれど羊水の中に居るような、あたたかでふわふわとした感覚。

雨が止めばいいのに。雨も嫌いではないけれど、僕が一番好きなのは青空だ。
僕やドクオが走っていた、ツンが応援してくれた、あの運動場に一番よく似合うのは、青空だからだ。

ついに何も見えなくなった視界に、浮かんでくるぼくのゆめ。

ドクオが汗をタオルでぬぐいながら僕を応援している。走ったあとなのだ。
ツンもいつものジャージ姿で僕を応援してくれている―ブーン、負けたら承知しないんだから―
可愛らしい声を張り上げて。僕のところまで届くように。





その横には兄者と弟者が居る。兄者は病弱だからか、弟者に日傘をさしてもらっている。
二人が話しているところなど見たことがないのに、その光景は凄く自然だ。
弟者のあの性格は兄者が居たからこそだったのだろう。
二人が話しているところは見たことがないが、想像がつく。
兄者ははしゃいでいる。ああ、がんばらなくっちゃ、兄者は僕のことただの泣き虫だと思っているだろうから。
見返さなきゃ。そして、褒めてもらいたい。あの笑顔で、よくやったなって。

少し離れたところに、カーチャンと擬古さんがいる。
カーチャンは見ているこっちが恥ずかしくなるくらいに興奮している。
声を張り上げて、僕の名を呼ぶ。よく通る声。
擬古さんは少しうろたえながらもカーチャンに続く。
低めの声は通りが悪い。けど、僕にはちゃんと聞こえているよ。

そのさらに遠くにはトーチャン。トーチャンは何も言わない。
けど僕にはそれで良かった。






スタートの合図、はじかれたように飛び出す。
ひとりぼっちのかけっこ。走っていくうち、身体がどんどん小さくなっていく。
ついには小学生のときの僕になったが、問題無い、ゴールは目の前だ。

僕は懐かしい体操服を着ている。胸には「1−2 内藤」と書かれたワッペン。
白いテープを切って、僕はゴールする。
トーチャンが僕に一等賞の旗を差し出す。僕は笑ってそれを受け取る――














なんて、しあわせなゆめだろう。
ドクオは怒るかもしれないが、たとえばそこにワカッテマスが居ても、
僕のしあわせはちっとも揺るがないと思うのだ。

<第六択・了>





----------------------------------------------



















<エピローグ>

世界ってもんは実は誰も必要としていない。
大統領が死んだって総理大臣が死んだって、世界は回る。
世界が必要としているのは個人じゃなく社会だ。

だから誰が死んだって、世界は何にもなかったかのように回り続ける。
俺みたいなのが一人、どんなに泣き叫んだって、苦しんだって関係ない。






あれから、ちょうど二年が経った。皆が各々の将来に向かって生きている。
俺もそうだ。いくらなんでもあの日から止まったままではいられない。

無償に何かに没頭したくなり、俺はひたすら勉強した。
寝るのも忘れて延々と単語を覚えてみたり、
一体いくつの職業につくつもりなんだと自分でも思うくらいに、意味もなくいろんな分野を勉強したり。
お陰で難関な筈の大学でも首席をキープしている。

あれから。…あの日から。

あの日に起こったことは、夢のような出来事だった。
違うか。すべてが、夢となってしまったのだ。








気がつくと、目の前にツンが倒れていた。

('A`)「…ツン!」

ξ-?-)ξ「…」

('A`)「ツン!起きろよ!…ブーン?!」

気を失うそのときまで確かに居たブーンの姿が、どこにも見当たらない。
あの夢がただの夢とも思えなかった。嫌な胸騒ぎがおさまらない。
俺が部屋から出ようとした、その時。

( <●><●>)「…」

(;'A`)「う、わっ?!」





少年が現われた。思わずしりもちをつく。
本当に、何も無いところから音もなく”現れた”のだ、驚かない方がおかしいだろう。

少年は俺をじっとみたが、何も言わなかった。
俺は何か文句を言おうとして、言えなかった。
少年が、泣いているのに気づいたから。

だからその場に音は無かった。
ブーンの部屋から全ての音が消えてしまったかのように、静かだった。






少年は右手をさしだした。その意図がわからなくて、俺は少年を見た。
その目からは依然として涙が流れている。

('A`)「なんで、泣いているんだ」

静寂を破ったのは俺だった。

( <●><●>)「泣きたいからです」

('A`)「…そう、か」

さしだされた手のひらから、きらきらと何かが溢れてきた。
夢見がちな俺だけれども、魔法がこの世に存在しないことくらいは理解している。
でも、そうでなければこれは何だ。奇跡とでもいうのか。

( <●><●>)「綺麗でしょう」

(;'A`)「あ?あ、ああ」

( <●><●>)「なんだと 思いますか」






そんなの、こっちが聞きたいっての!と俺の顔に書いてあったのかはわからないが、
俺の答えを待たずに少年自らが答えを言った。

( <●><●>)「これは 記憶です」

('A`)「記憶?」

( <●><●>)「この世のすべての ブーンに関する」

('A`)「……は?」

知った名前が知らないやつの口から出てきたことで、
これはもう夢ではないのだと、そのときようやく実感した。






('A`)「それ、どういう」

( <●><●>)「ブーンの最期の願いです」

( <●><●>)「貴方と、…もう一人の人間以外の すべての人間から ブーンに関する記憶を消して欲しいと」

('A`)「え、」

( <●><●>)「この世界から 内藤ホライゾン という人間が居た痕跡を 一つ残らず消してほしいと」

(;'A`)「いや、おい、なあ、お前何言ってんだよ」

( <●><●>)「…」

(;'A`)「なあ、どういうことだよ!ちゃんと、」






俺は、奇跡と悲劇を見間違えたのだ。
その悲劇はどんどん大きくなり、キラキラと腹立たしいほどに輝いている。
俺は少年に飛びかかろうとしたが、足が動かなかった。

( <●><●>)「ブーンは 貴方に感謝していました」

(;'A`)「ブーンはどうなるんだよ!」

(;'A`)「なあ!」

悲劇は、どんどん膨らんでいく。
俺はいつの間にか泣いていた。答えなど本当は知っていたから、泣いていた。
少年が答えないのは俺のためなのだとわかっていたから、余計に泣いた。

( <●><●>)「ありがとう」

どこかの誰かと同じ別れの言葉が紡がれたのと同時に、悲劇は弾けた。
俺はまた気を失った。目が覚めたときには、ツンと共に、病院に居た。


そして――ブーンは消えてしまっていた。






クラスメイトや部活の奴らからも、ツンからも、そしてブーンの母親からすら、ブーンは消えてしまっていた。
それだけではない。クラス名簿。クラスや、部活の集合写真からも、ブーンは消えていた。
ブーンから借りたゲームの、ブーンのセーブデータだけが
ご丁寧に消えていたときは少年の芸の細かさに泣きながら笑ってしまった。

しばらく、気が狂いそうな日々が続いた。
ブーンという存在が俺の中の妄想だったのではないか、
という考えが一度浮かんでしまうと、もう、そうとしか思えなくなったのだ。

大体、世界からすればそれが本当なのだから。



どん底の日々を過ごしていた俺が今こうして比較的普通に生きているのは、
ブーンのことを覚えている人間、”もう一人の人間”の存在があったからだ。

(´<_` )「…そこに居るのはドクオか?」

('A`)「弟者、帰ってたのか」

(´<_` )「兄の二周忌でな、しばらく帰って無かったし」

('A`)「ああ、そうか、そうだな…」

少年の言っていた”もう一人の人間”の存在を思い出したときは、唯一の希望の光を見たような思いがした。
人と話すのが嫌いな俺が、必死でいろんな人に聞きまわった。
ブーンの知り合いは多かったし、俺は変人扱いされていたので苦しい作業だったが、
この気の狂いそうな日々から抜け出せるならとひたすら頑張った。






それが弟者だとわかって、ようやく俺はどん底から抜け出した。
もっと仲がいいやつもいただろうに、何で弟者なのか、とは思ったけれども、
俺にとっては他人に近い弟者が覚えているということは、より真実に近い気がして、俺には良かった。

お互いの嘘みたいな本当を教えあい、俺は悲しみと喜びをそれぞれひとつづつ手に入れた。
ブーンは確かに生きていたし、ブーンは確かに消えてしまったのだと。

(´<_` )「で、こんな河原で何してるんだ。大学でもいじめられたのか」

('A`)「大学生にもなってそんな暇なやついるかよ」

(´<_` )「結構居るもんだぞ。気をつけろよ、ブーンが泣くぞ」

('A`)「くッだんねえ。…ツンと待ち合わせしてんだよ」

(´<_` )「ほう?」

('A`)「今日、ブーンの命日だからさ…ツンは覚えてねえけど、ここ、よくブーンとサボりにきた場所だから」

(´<_` )「あ、虹だぞドクオほらほらあそこ」

(#'A`)「て、めえ女じゃねえんだからはしゃぐな!畜生KYでもキモくないなんて!イケメンなんか死ね!」






(´<_` )「虹も捨てたもんじゃないんだぞ」

('A`)「ああん?」

(´<_` )「虹の根元には宝箱が埋まっていて、その中には一番欲しいものが入っているんだそうだ」

('A`)「本、当、にお前ってくだらねえ」

(´<_` )「ドクオは本当に夢がないなあ」

('A`)「……あんなデブ、宝箱に入りきらねえだろ」

(´<_` )「前言撤回してやってもいいぞ」

('A`)「うっせえ、さっさと帰れ」

それにしても、弟者は、こんな風に笑うやつだったろうか。
もっとかっこつけたように笑うやつだった気がするのだが。





('A`)「…何でお前がもう一人だったんだろうな」

(´<_` )「いつか気が向いたときのためじゃないか」

('A`)「はあ?」

(´<_` )「あと、多分…」

('A`)「多分?」

(´<_` )「あっ、あの子津出じゃないか?」

(#'A`)「てっめええええ」






ξ゚?゚)ξ「ドクオー!もう、なんでこんなとこ待ち合わせに…」

(´<_` )「よ」

ξ゚?゚)ξ「…え、弟者くん?久しぶりじゃない。こっちの大学だったっけ?」

(´<_` )「いや、ちょっと用事で帰ってきてるだけだ」

ξ゚?゚)ξ「そうなの。ドクオと弟者くんって仲良かったっけ?」

(´<_` )「ああ、そりゃもう」

(#'A`)「誰がだよ!」

ξ^ー^)ξ「…仲よさそうねw」

まあ、実際。
仲がいいかはわからないが、弟者と話していても苦痛は感じない。
むしろ、気が楽になることの方が多かった。

ブーンが居なくなった俺にとっては、唯一友人と言える存在である。





(´<_` )「じゃあ、お二人さんの邪魔にならないうちに帰るわ」

ξ#゚?゚)ξ「そんなんじゃないわよ!」

(;'A`)「マジギレすんなよ…」

(´<_` )「はは」

(´<_` )「…知ってるよ」




ξ゚?゚)ξ「で?なあに、ドクオから連絡が来るだけでもびっくりなのに、会おうだなんて」

('A`)「いや、ほら…えーと、最近どうなのかなって」

ξ゚?゚)ξ「何よそれ。てっきり告白なのかと思ってちょっとおめかししてきちゃったわよ」

(;'A`)「…お前を好きだなんて俺はそんなに物好きじゃ痛い痛い痛い」

女って奴はなんでこうも短期間で変われるのだろうか。
よく見ると顔自体は変わってないのだが、ツンは完全に”大人”になっていた。
俺は二年前からタイムスリップしてきたみたいに変わらないのに。









ξ゚?゚)ξ「まあ、良いわ。私もね、ドクオに直接会って聞きたいことがあったの」

('A`)「へ?」

ξ゚?゚)ξ「最近高校時代のものの整理してたらね、現像にだしてないカメラがあって、現像にだしたのよ」

('A`)「はあ」

ξ゚?゚)ξ「そしたら知らない人がうつってたのよ」

心臓を鷲掴みにされたようだった。
ツンがカバンの中をあさっていたのが幸いして、顔を見られずに済んでよかった。
もう、ものすごい顔をしていただろう。

ξ゚?゚)ξ「これ」

それは、何の変哲もない、写真だった。






俺、ブーン、ツンの順で写っている。
テーブルにカメラを乗せて撮ったから高さが微妙。いい写真とは言えない。

ブサメン具合は自覚しているから、俺は写真を滅多にとらない。
友達となんてなおさらだ。そもそも友達が居なかった。
だから俺は見事なまでの仏頂面で写っている。

('A`)「……」

ブーンは友達が多かったから写真など慣れているのだろう、満面の笑みだ。
世界で一番幸せだおってな馬鹿な台詞が聞こえてきそうな。

ξ゚?゚)ξ「ねえ、ドクオは知らない?この人の名前」

('A`)「いや」

ξ゚?゚)ξ「…そっか」

ツンは、柄にもなく可愛らしい笑顔を浮かべている。
そりゃそうか。邪魔者がいるとはいえ、集合写真とか以外でブーンと写真撮ったことなかったもんな。
好きなやつと撮る写真。少しでも可愛く写りたいのが女心ってもんだろう。うん、多分。





('A`)「ちょっと、貸して」

ξ゚?゚)ξ「ん?はい」

破ってやろうと思った。ブーンの最期の願い。
多分あいつが一番消して欲しかったのは、ツンのブーンへの思いだろう。

これは、ツンとブーンの、最後のひとつ。
これをびりびりに破いてしまえば、ツンからブーンは完全に消える。この世からすら。

ξ゚?゚)ξ「…私ね、これ見ると幸せな気分になるの。変でしょ?
      名前も知らないひとと写ってるの、普通怖いじゃない?全然怖くないの。すっごく幸せなの」

ブーンの最期の願い。
親友なんて言葉恥ずかしくって安っぽ過ぎて似合わないくらいの、たった一人の。
俺はそれをかなえてやりたい。心底そう思っている。

だから、破ってやろうと、

ξ゚?゚)ξ「…でも」











ξ゚?゚)ξ「でも、おかしいね、これを見ると、私幸せなのに苦しくなる。泣いちゃうときだってあるの」

( A )「………ねえよ」

ξ゚?゚)ξ「え?」

( A )「おかしくなんか、ねえよ」

ξ゚?゚)ξ「…そっか」

ξ゚ー゚)ξ「ありがと」

( A )「…」

ξ゚?゚)ξ「…ドクオ、」




ξ゚?゚)ξ「泣いてるの?」












破れなかった。
少し力を入れてしまえば簡単に破れてしまう、たった一枚の写真を、紙切れを、
俺にはどうしても、破ることが出来なかった。



<エピローグ・了>







         ( ^ω^)ブーンが二者択一するようです



出典:( ^ω^)ブーンが二者択一するようです
リンク:http://yutori.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1214223737/

(・∀・): 317 | (・A・): 86

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