ほうれん草さん

夜勤でファミレスの仕事をしていた時の話。
夜2時を過ぎると、落ち着いていた店内も、仕事上がりであろうホストやキャバクラ嬢等で盛り上がる時間帯がある。
中には常連と言うべき、顔馴染みもやってくる。
その常連の中で少し気になる存在がいた。
それはいつも3人組でやってくるのだけど、いつも女子高生風の制服でやってくる。
先輩従業員に聞くと
「コスプレパブかなんかじゃないか？」
と言っていたが、確かにそれらしき容姿であった。
その３人組の中で１人、毎回「ほうれん草のソテー」ばかり注文してくる嬢がいたが、その嬢の事が密かに気になり始めていた。
他の二人に比べ、少し若く大人しめな感じで、注文する際に、いつも笑顔でこちらを向きながら、注文してくれる。
夜勤で疲れてる中いつもこの笑顔で癒されていた。
そんなある日、いつもの様に３人組がやってきた。
注文を取りに彼女達のテーブルに向かうと、３人組の中でテンションの高い嬢が
「お兄さん、うちらの中で一番誰と寝たい？」
と衝撃的な質問をしてきた。
率直な質問に俺はどうリアクションをしていいか分からなかった。
すると、俺が気になっている嬢が
「もう、困ってるじゃないですか。可哀想ですよぉ。」
と助け船を出してくれた。
オーダーを取り終え、前菜を用意していると、先輩従業員から、
「誰と寝たいか、ハッキリ言ってやれよ。やらしてくれるかもしれんぞ！」
先輩まで、何を言ってるんだよ。
俺は今までの人生で、かなり奥手な部分があり、まだ経験のない童貞だった。
そんなこんなで、嬢達も食事を済ませ、ワイワイ騒いでいると、ベルスターが鳴った。
「お兄さ〜ん。こっちこっち。」
一番ベテランっぽい嬢からの声だった。
俺「はい。追加のご注文ですか？」
と訪ねると、
嬢「それで決まった？誰と寝たいか？」
えー！？まだそんな事を..
俺は、笑って誤魔化していたのだけど、もう、引き下がれないと思い、
俺「いや、その寝たいとかじゃなくて、純粋にタイプなのは..ほうれん草さんです。」
爆笑だった。嬢達も、先輩従業員も。
ただ、ほうれん草さんは、そこまで笑ってなく、むしろ少し恥ずかしそうだった。
違う嬢「じゃ、ほうれん草さんのお店教えてあげるから、今度おいでね。」
やっぱり営業かよ。
俺「いや、そう言う意味じゃなくて、その本気で..」
こんな小さい声聞こえるはずないか。
それから、合わせる顔がないので、休憩に入った。
あ〜あ、何で風俗嬢を好きになってしまったのかな？辛いなぁ、俺。
休憩から上がると、もう彼女達の姿はなかった。
先輩従業員「おまえの事探してたぞ。ほら名刺貰っといてやったから、今度店行こうぜ！」
残り時間、タメ息をつきながら仕事をしていた。
朝5時になり、シフトが終わり、外の自販機でお茶を買おうとしたら、溝に100円玉を落としてしまった。
はぁ〜、ついてないなぁ。
と、思った瞬間。
おはようございます♪
えっ！？と振り返ると、そこにいたのは、紛れもなく『ほうれん草さん』だった。
俺は一瞬、目を疑ったが、朝日の逆行を浴びた、ほうれん草さんがそこにいた。
俺「えっ、えっ！？ほうれん草..さん？」
目を擦って見たけど、やはりほうれん草さんだ。
「あれ？眠たいの？無理もないよね。朝まで仕事なんだから。お疲れさま。あっ、名前言ってなかったね。あたし、マサエって言います。」
俺「い、いや。でも、どうして、ここにいたんですか？」
マサエ「ん〜、どうしてかな？あたしにも良くわかんない。」
彼女は照れくさそうに笑っていた。
マサエ「あっ、これは、営業じゃないから、安心して。」
なんか、どう話を持っていいか分からず、
俺「と、とりあえず、歩きましょうか。」
行き着いた場所は、公園だった。
マサエ「さっきは、皆してからかってごめんね。」
彼女から話を切り出してきた。
俺「い、いやいいよ。俺も、もう少し気の聞いた事言うべきだったと。」
マサエ「なんか、嬉しくて。あたしの事良いって言ってくれて。」
なんか、普通っぽくて、益々彼女の事が好きになっていった。
俺「俺、寝るとか、そんな事した事ないから、どう言っていいか分かんなくて。」
彼女は少し笑っていたけど
マサエ「純粋なんだね。実は前々から気になってて。あの時、あたしを選んでくれるとは思わなかったから。」
少し、会話が噛み合わないくらいお互いギクシャクした感じだったけど、
ついに俺から切り出した。
俺「もし、よかったらお付き合いさせていただけませんか？」
その言葉に、彼女は、
マサエ「うん。凄く嬉しい。こんなあたしでもよかったら。」
そう言うと、彼女は俺に抱き付き、キスをしてきた。
俺のファーストキスは、突然とやってきた。

数ヶ月後、彼女は店を辞めた。
そして今日は給料日。
彼女に婚約指輪をプレゼントします。


出典：純な男はモテない？
リンク：お金はないけど大丈夫！