キミニヨバレテ 前編

2009/07/19 01:38 登録: 萌(。・_・。)絵


<プロローグ>

どこかの誰かの右腕。

知らない誰かの左腕。

記憶にない人の心臓。

話したこともない人の左足。

逢ったこともない人の右足。




――――全部繋げてデキタノハ、イッタイダレナノ?



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<第1話 ざ・こーす・おぶ・らいふ>

目に悪そうなほどの白い部屋。
ベッドが一つあり、そこに男が眠っている。

彼の体からは、様々なチューブやコードが延びていた。
口には呼吸器が付いていて、彼が危険な状況であることが一目で解る。

ベッドの横には豪華なソファーが一つ。
そこに座る男は無言で、眠る男を見続けている。

表情には期待や不安などが浮かんでいた。
彼の顔を一滴の汗が流れ、床に落ちて小さくはじける。

すると、一つの変化が見られた。



「……ん」

寝ている男の表情が歪み、声が漏れる。
座っていた男は驚いて立ち上がると、寝ている男の顔をのぞき込む。

( ^ω^)「……お」

今度ははっきりと声を出し、起きあがる。
男は自分の状況がまるで解っていないようで、戸惑っていた。

( <●><●>)「あなたが戸惑うのはわかっています」

男はくりくりとした大きな目で、起きた男に言う。

( ^ω^)「こ……こ…は、な」

起きたばかりでうまく声が出せないようで、しどろもどろになっている。
それでも男は何が聞かれたのかを理解し、白衣を揺らしながら口を開く。



( <●><●>)「ここは、ちょっとした病院です。あなたは、長い間眠っていました」

男が聞き取りやすいようにと思ってか、区切りながら喋る。
そしてまた、同じようにゆっくりと話す。

( <●><●>)「もうお気づきかもしれませんが、あなたの四肢は、あなたのモノではありません」

目の大きな男は、それを言うと俯く。
それを訊いた男は、自分の手を何度も見る。
指の長さも、手のひらの大きさも、よく見ると肌の色も違う。

( ^ω^)「ぼく、は、だ、れ」

ねちゃ、と音を出しながら男は訪ねる。

( <●><●>)「記憶が無くなっていましたか……」

白衣の男はそう言って部屋を後にし、
手にいくつかの資料を持って再び部屋に入ってくる。





( <●><●>)「まずはこれを、喉が渇いたでしょう」

白衣の男はペットボトルの飲料水を渡す。
こくりと頷き、口の渇きを無くすように水を流し込む。

( <●><●>)「あなたの名前は、内藤ホライゾン。ブーンと呼ばれていました。
       ちなみに私の名前はワカッテマスといいます」

ワカッテマスは微笑みながら名前を教える。
するとブーンも口の両端を少し上げ、微笑む。

( <●><●>)「あなたはツンという女性を知っていますか?」

ブーンは少し悩んだ後、首を横に振った。
そのような人は知りません、と。

( <●><●>)「あなたを助けようと頑張っていたのは、ツンさんなのです。彼女は――――」

ワカッテマスはそこで口を噤む。
そして優しく言う。

「忘れていることを無理に言っても仕方がありませんね」




ブーンも今の状況がよく理解できていなかったため、
ツンという女性が誰なのか気にならなかった。

( <●><●>)「さて、少しずつあなたについて、
       お話ししていかなければなりませんね」

ワカッテマスはブーンに今までのことを説明する。
しかし、起きたばかりのブーンの頭は何も理解できないようで、
また今度改めて話すと言うことになった。





それからまた月日が流れる。
ブーンは最初、立つこともままならなかった。
しかし、時間はゆっくりと空白だった期間を埋めていき、
今ではしっかりと歩くことが出来る。

( ^ω^)「おっおっお」

少し形の違う両足。
手と同じように、やはり色もどこか違うように見える。

それでもブーンは気にしなかった。
記憶は相変わらず戻っていないが、きっと昔もこうしていたのだろうと。

ブーンが白い部屋の中で跳び回っていると、扉が開く。

( <●><●>)「調子は悪くないようですね」

ワカッテマスが大きな目でブーンを見て、笑う。

( ^ω^)「はいですお。ドクター」

ブーンは動くのを止めて答える。
そして、一つの質問をする。





( ^ω^)「僕は、誰なんですお?」

ブーンの質問にワカッテマスは額の皮を縮め、皺を寄せる。

( <●><●>)「あなたは内藤ホライゾンです」

ブーンはそれを肯定して、また喋る。
どこか悲しげな表情をしながら。

( ^ω^)「ドクターの話だと、僕の四肢と、心臓は他人のモノですお」

ワカッテマスは、「ああ、なるほど」と言って質問に答える。

( <●><●>)「あなたのベースはブーン、あなたなのです。
       誰の手足、心臓を持とうがあなたなのです。」

( ^ω^)「でも、僕には記憶がないですお」
 
そこでゆっくりっと呼吸をし、また言う。

( ^ω^)「だけどこの手足には、記憶がありますお」





( <●><●>)「……今、なんと?」

ブーンは同じ事をもう一度言う。

( <●><●>)「なぜ、そう思うのです?」

ブーンは手を眺めながら優しく答える。

( ^ω^)「最初は、ほんの違和感でしたお。
       右手が引っ張られるというか……」

ブーンは壁を見つめる。
何もない、真っ白な壁。
そこに引きつけられる、といったように。

( ^ω^)「それからは眠ると、何かが見えたんですお。
       そこに映っていたのは、僕の右手と全く同じ手。
       指も、色も、形も」





( <●><●>)「それが、右手の記憶だと?」

ブーンはコクリと頷く。
ワカッテマスは少し悩むと、ブーンに声を掛ける。

( <●><●>)「少し、待っていて下さい」

ブーンが頷いたのを確認すると、部屋を後にする。
一人部屋に取り残されたブーンは先程の壁を眺める。

生活に支障は無いほどの違和感。
無視などいくらでもできるほどの、小さな感覚。




ブーンは右手が羨ましかった。
体がある自分に記憶がない。
なのに、腕だけになっても、自分の記憶をしっかりと持っている。

もしかすると自分が気づいてないだけで、
他の誰かの部位も、何かしらの記憶を持っているのかもしれない。

ブーンは目を閉じる、眠っていたときよりも不鮮明に、記憶が見える。
髪を揺らす女性、水たまりに写る、映像の中の自分。

もっとこの映像を見たい、ブーンはぎゅっと目を閉じる。

――――ガチャリ。

閉まっていた扉が開く。

( <●><●>)「遅くなりました……。なぜ、泣いているのですか?」

( ;ω;)「お?」




ブーンは目の下に手を持っていく。
指でそっと肌に触れる。
しっとりと濡れていて、そこで初めて、自分が泣いていたことに気づく。

( ^ω^)「気にしないでくださいお」

ブーンは涙をぬぐい去ると、ワカッテマスに体を向ける。
ワカッテマスは少し不安そうな顔をしたものの、
何もないことを悟り、すぐに話を切り替える。

( <●><●>)「あなたに、もう一度説明をします。
       今度は、大丈夫ですね?」

( ^ω^)「はいですお」




( <●><●>)「あなたは、事故に遭い、四肢を失いました。
       ここでは、死んだがどこかが無事な人、
       どうしても治療が出来ず、死にそうな人を凍らせているのです。
       少しでも使える部分があれば使うために、そうしています。
       一つでも多くの命を救うために」

( ^ω^)「……」

( <●><●>)「あなたはすぐに凍らされ、一命をとりとめました。
       時が経つにつれて、少しずつ凍らされる人が増えていきます。
       そして、四肢を失っただけのあなたをベースに、他の人の部位を繋げました」

( ^ω^)「……そんなこと可能なんですかお?」

ブーンは疑問を口にする。
可能だからブーンがこうしているとはいえ、どうも現実離れしている。

( <●><●>)「ここはしっかりとした設備がありますから、大丈夫だったのです」




「あなたがすぐに信じられないのはわかっています」。
ワカッテマスはそう言うと、ブーンに書類を渡す。

( <●><●>)「そこには、あなたに繋がれた人たちの情報が載っています」

ブーンは、字が並ぶそれを時間をかけてゆっくりと見る。
この人達のおかげで、自分が存在できていると想うと、少し申し訳なくなる。

記憶の男の名前。
鬱田 ドクオ。

右腕は悲しそうにブーンを引っ張る。
やり残したことがあると言わんばかりに。

( <●><●>)「……あなたが、彼らの場所に行きたいと想うのはわかっています」

ワカッテマスは、寂しそうな顔をする。




( <●><●>)「……いつまでもこんな所にいるのも、なんでしょうし」

ワカッテマスはそっと微笑み、ブーンに言う。
ブーンの右手がトクトクと、確かな意思を見せる。

ワカッテマスは立ち上がると、壁を指差す。
そしてブーンに告げる。


「旅に出てみませんか?」




ブーンは白い歯を見せて笑う。

だが、気になる事があったのか、質問をする。

( ^ω^)「心臓の持ち主の資料、何でないんですお?」

その質問にワカッテマスは動揺した。
しかし彼はいっさい表情に出さずに答える。

( <●><●>)「すみません、見つけることが出来なかったのです。
       何せ資料は大量にありますから」

ブーンはそれを聞いて納得したようで、軽く頷く。
そして、右手を左手の親指でゆっくりとなぞる。

くすぐったく、なぜだか嬉しくて、ブーンはまた笑った。




( <●><●>)「さて……、旅に出るのならそれなりに準備が必要ですね」

ついてきて下さい。
その言葉に従い、ブーンはワカッテマスの後を追う。

ブーンは全く部屋からでないわけじゃない。
用を足すときはもちろん、気分転換に建物から出たりもする。

しかし、どこかに行ってしまおうと考えることはなく、
言われるがままに生活をしてきた。


廊下にあるいくつもの窓からは深い緑が見える。
雨が上がったばかりなのか、それらはキラキラと輝いていた。

ワカッテマスは歩くのを止め、
一つの扉の前で止まる。




( <●><●>)「その服装は旅をするのに相応しくありませんね」

ブーンの着ている服装は入院患者の着るような薄手のもの。
確かにこれでは旅は出来ないだろう。

( <●><●>)「これをどうぞ」

ワカッテマスは暗めのジーンズと、いくつかのシャツをブーンに渡す。
それに着替えるように促されたブーンは、着ていた物を床に脱ぎ捨て、
渡された物に体を通す。

( <●><●>)「似合うのはわかっています」

ブーン痩せているわけではない。
どちらかといえば太い方よりの標準。

ジーンズに、半袖のTシャツ。
Tシャツは薄い水色をしていて、涼しげに感じられる。




二人が部屋から出ると、ワカッテマスは、

( <●><●>) 「少し、入り口で待っていて下さい」

そう言って、またどこかに歩いていく。
ブーンは言われたとおりに、入り口でまつ。

小さなソファーに腰掛けて、手をじっと見つめる。
この手の持ち主の願いは何だろう、出来れば叶えてあげたい。
ブーンの思考はぐるぐると回る。

そんなことをしているうちに、
ワカッテマスが大きなリュックを持ってブーンの元にやってくる。

沢山の物が入っているようで軽そうには見えない。
それをドサリとブーンの足下に置く。

( <●><●>) 「さあ、準備が整いました」




(;^ω^)「これだけですかお?」

ブーンは少し焦ったように問う。
どう考えても一人分の荷物。
ワカッテマスはそれに申し訳なさそうに答える。

( <●><●>) 「この病院から離れるわけにはいかないのです」

それを聞いたブーンは少し不安になる。
記憶がない今、知ってる人は居ない。
知っている土地もない、そこに一人で飛び出すのは恐い。

( <●><●>) 「やめますか?」

ワカッテマスは冷たく言い放つ。
その言葉にブーンは首を横に振った。
そしてリュックを持ち立ち上がる。

( ^ω^)「行く、お」




( <●><●>) 「そう答えるのはわかっています」

ワカッテマスは微笑む。
ブーンが目覚めてからは、いつもこうやって笑っていてくれた。

( ^ω^)「……行きますお」

ブーンは荷物を背負う。
先程貰ったシャツも入っている。

( <●><●>) 「またいつか、逢いましょう」

ブーンは建物を出てからも、何度も振り返り手を振る。
その度に、ワカッテマスも手を振って返す。

( <●><●>) 「……行ってしまいましたよ、ツンさん」





「どうしても助けたいのよ!!」

「今からじゃ冷凍も間に合わないのは……解っているはずです」

「今すぐに、心臓が来ればいいんでしょ?」

「何を考えているのですか?」

「――――頼んだわよ」



( <●><●>) 「あなたに言われた通りにしましたよ」

ワカッテマスは、ソファーに腰を下ろした。
そして天井を見上げ、左手で目を隠す。

隙間から小さな水滴が頬をつたう。





――――。

ジワジワと陽が照りつける中、一人の男が旅に出た。
他人の手足、誰かの心臓を体に繋げて。

これは不思議なお話。

この世界は、未来よりも進歩しているかもしれないし、過去よりも退歩しているかもしれない。
時間を気にする人もいれば、時間という概念を持たない人もいるかもしれない。

どこかへ繋がる道が、誰かに繋がる道があります。
これはそんな道をたどる、一人の男のお話。

一つの体で複数の人生。
彼は、その一つ一つを歩きます。

持ってる地図はリュックの中。
彼は地図など見ずに、ただ道を行きます。





( ^ω^)「……お」

ブーンは空を見上げる。
着ているシャツと同じ色。

「おそろいだお」

腕を広げて道を走る。
右手が道を教えてくれる。

迷っても構わない。

いろんな所に行こう。
いろんな人に逢おう。

出来るならば望みを叶えよう。



蝉の鳴く声に混じって、一つの声が聞こえる。
それは空耳かもしれないし、
本当に聞こえたのかもしれない。

ブーンは振り返る。
今来た道を。
そしてまた走り出す。


「この旅があなたに繋がるのは、わかっています」




<第1話 ざ・こーす・おぶ・らいふ> END




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<第2話 魔女の住む森>

幅3メートルほどの道。
地面はむき出しになっており、黄土色が続いている。

木々がその道を挟むようにして群生していた。

雲がほとんどない空の下、強い日差しは容赦なく降り続けた。
そんな陽気の中を一人の男が歩いている。

(;^ω^)

空色のシャツに暗い色をしたジーンズ。
シャツの襟は汗で深い青に染まっていた。

荷物を背負っているので傍からは見えないが、背中も相当なものだろう。

(;^ω^)「たまらんね」

太めよりの標準体型の男、ブーンは立ち止まり空を見上げる。
病院を張り切って出発したまでは良かったが、院内暮らしだったブーンにこの天気は辛かった。


いくら見上げれど雲ひとつない青空。
周りの風景も変わらないせいで、前に進んでいないのではないかという錯覚を受けていた。

それでも右腕、つまりはドクオはブーンを引っ張り続ける。

寝る時間がもったいない、立ち止まる時間ももったいない、食事なんて歩きながらすればいい。
何より、ドクオの目的の場所に何があるのかを知りたい。
そういった考えが、この日差しの中、ブーンをここまで歩かせた。

しかし、限界というものはくるのであって、
2日間ハイテンションで行動してきたブーンは完全に疲れ切っていた。

そんなブーンが突如、気が触れたかのように走り出した。
地面から少しでいいる小石に躓きそうになっても一心に走る。

(*^ω^)「ktkr」

道を挟んでいた木々がそこで途切れる。
ブーンの目の前には長さ10メートルにも満たない橋があった。

橋の向こうには今まで通りの道が続いていたがブーンは全く気にしていなかった。
ブーンの目に入っているのは流れる水、つまり川だけだった。

橋の脇にあるゆるい坂を下り、渓流に近づく。
大小様々な岩の上を疲れを感じさせないステップで通過する。

( ^ω^)「ん?」

そこでブーンは少し離れた所に人影があるのに気が付いた。

从 ゚∀从

肩より少し長いぐらいの赤い髪をした少女。
頭にはスエードの黒いキャスケットを乗せている。



少女は岩に腰掛け、川に足を入れながら涼んでいた。
傍らには投げ散らかした靴に、ギターケース、新緑の色によく似た色の自転車が置いてある。

ブーンは病院を出て2日、旅を始めてから一度も人に逢っていなかった。
人と話をするのが嫌いではない性格のため、少女の傍に駆け寄る。

从 ゚∀从 「!」

少女はブーンに気づいたようで岩から腰をあげ立ち上がり、ブーンに体を向ける。
ブーンは笑顔で近づき挨拶をしたのだが――――。

从;゚∀从

少女は顔をひきつらせて苦笑いをしている。
ブーンは訳がわからずまた一歩少女に近づく、その度に少女は髪を揺らし一歩後ずさる。

(;^ω^)「な、何で逃げるんだお!僕は怪しくないお!!」

正直、相当怪しいのだが避ける理由はそこではないらしい。



少女はそこで初めて口を開く。

从;゚∀从「・・・い」

(;^ω^)「へ?」

聞き取れていないブーンにもう一度言葉が投げられる。



从;゚∀从「スッッッッごく汗臭い!」



――――。

蝉の鳴く声と水が流れる音に包まれている中、
ブーンはジーンズの裾を膝のあたりまで上げ、川に入っていた。

(;^ω^)「申し訳なかったお」

ブーンはシャツを脱ぎ、それを川の水で念入りに洗っている。
ごしごしと力強く磨いては絞り、また水につけて磨くという同じ動作。

从;゚∀从「いやー。おどろいたよ」

少女は先程と同じように岩に腰掛け、川に足をつけながらブーンを見ていた。
足を前後に揺らし水をバシャバシャと鳴らす仕草はまだ幼さを感じさせる。



( ^ω^)「えーと・・・・」

ブーンは少女にここで何をしているのかを聞こうとして、言葉を詰まらせた。
名前を呼ぼうとしたが出てこなかったのだ。

まだ自己紹介もしていないのだから無理はない。

それに気づいたのかどうなのか。
少女は口を開き自分の名前を教える。

从 ゚∀从「私はハインリッヒ高岡、ハインでいいよ。よろしく」

微笑みながらの紹介に、ブーンは少し見とれてしまっていた。
背の高い木々が川に当たる陽を遮る中、ハインのいる位置は木漏れ日で白く光っている。
それにハインが背にする壮大な緑が合わさり、一つの美術品のように見えていた。



从 ゚∀从「どうかした?」

( ^ω^)「あ、いや、その」

見惚れていたなどと本人に言えるはずもなく、答えになっていない言葉を返す。
ハインは頭に疑問符を浮かべた後、違う質問をした。

从 ゚∀从「そっちは?」

ブーンは何を聞かれているのかが分かったようで、今度はしっかりと返答をする。

( ^ω^)「内藤ホライゾン。ブーンと呼ばれていたらしいですお」
  _,
从 ゚∀从「・・・らしい?」

訝しげな表情をしたハインをみてブーンは口を噤んだ。
自分に記憶が無いことを知っているわけではないのだから、軽はずみな発言は控えるべきだった、と。



ハインからの視線に耐えられなくなったブーンは、記憶がないことだけを簡潔に説明した。
よくよく考えたら、ブーン自体、どのような経緯でこうなったかを知らされていないのだ。

从 ゚∀从「そっか、大変だな」

大変と思っているようには聞こえないリズムで言われる。

从 ゚∀从「パッと見、旅してるみたいだけど?」

( ^ω^)「・・・世界を見て歩きたくなって」

咄嗟についた嘘。
それにハインは適当に相槌をうった。

( ^ω^)「ハイン・・・さんは、ここで何を?」

从 ゚∀从「呼び捨てで良い。私は・・・魔女に会いにきた」



( ^ω^)「魔女?」

从 ゚∀从「ああ。この森の何処かに居るらしいんだがな・・・」

ハインの様子からすると、どうやら会うことができなかったようだ。
ブーンがなぜ会いに来たかを訊くとハインは、「変わったやつに会いたかった」とだけ言って空を見上げる。

ブーンも同じように空を見上げる。
相変わらずだ、雲も無く、日が突き刺す。

水に波を立てながらブーンは陸に向かう。
陸に上がるとシャツを何度か絞り、パン、といい音を鳴らして皺をとった。


それから二人が他愛もない話に花を咲かせているうちに、ゆっくりと日が沈み始めた。
ブーンはこの河原で一晩を越すことをハインに伝えると、ハインも同じくここで睡眠をとるということだった。

从 ゚∀从「変なことするなよ」

ハインは、冗談交じりに笑うと持参の小型テントに入っていく。
すっかり日が沈み闇に包囲された空間では、パチパチと音を立てて火が燃えていた。

( ^ω^)「しないお」

ブーンはぼそりと呟くと、あっという間に眠りについた。



ブーンは夜中に一度も目を覚ますことなく朝を迎えた。
陽が山の間から顔を出し、少しずつ辺りを照らしてゆく。

从 ゚∀从「朝だ、一応起こしておく」

ブーンはハインに体を揺すられ、ゆっくりと体を起こす。

( うω`)「おー」

相当の疲れがたまっていたせいか、体が重い。
ずるずると寝袋から這い出るとハインが焚いている火の横へと向かう。

从 ゚∀从「ブーンは今日どうするんだ?」

ハインの言葉にブーンはゆっくりと口を開く。

( ^ω^)「あっちに行くお」

ブーンは自分が来た道とは反対の道、つまりは橋の向こう側を指さした。


从 ゚∀从「そうか。私とは反対だな」

ハインは軽い口調でそう言うと、ブーンに焼いた魚を差し出す。
この魚はどこから?、ブーンがそう訊くとハインは川を見て、「ここ」と、さも当たり前のように言った。

ハインは旅に慣れている、自分一人じゃきっと何もできない、ブーンは頭の中で答えを出した。
しかしそれをどうするというわけでもなく、ただ貰った魚に齧りつくだけだった。


川の流れる音と蝉の鳴く声。
意識した途端に入ってくるそれは、人の関係と似ていた。

出逢って一日も経っていないのに、ブーンにはハインとの別れがとても大きなものに感じた。
さっきまでは何てことは無かったのに、方向がバラバラになる、たったそれだけで食事中の会話すら無くす。

二人は食事を終えると荷物をまとめ始める。
陽は次第に高く昇り、白い輝きを放つ。



从 ゚∀从「よし・・・お別れだな」

橋の上、ハインは自転車の荷台に荷物を載せ、背中にはギターを背負っている。
緑色の自転車を脇に支え、ブーンに向き合いながら言う。

( ^ω^)「朝ごはん、ありがとうだお」

もっと言いたい事があるはずなのに、出てきた言葉はそれだけだった。
目の前にいる少女は小柄だ。
なのに、中身はブーンよりも何倍も大きい。

从 ゚∀从「今度会うときは歌でも聞かせてやるよ」

ハインは頬にえくぼをつくりながら微笑む。
旅はこんなにも辛いモノなのか。


少し歩いただけでクタクタに疲れて、朝も自分じゃ起きられない。
起きた所で朝食をとる余裕なんてない。
今持っている食糧が底をついたら――――。

まだ病院からそう離れてはいない。
幸い、ハインの行く方向と病院は一緒、このままついて行って、もう一度準備をし直そうか。

様々な思考がブーンの頭を巡る。
そしてまた一つのフレーズが浮かび上がる。






『やめますか?』




(  ω )「・・・・」

从 ゚∀从「どうした?」

地面を見つめるブーンの頬を汗が滑り落ちる。
その汗が足元で小さくはじけた。

それと同時に、蝉の鳴く声が耳に押し寄せてくる。

ゆっくりと顔を上げたブーンは、どこか弱そうに見える。
それでも確かにその顔は笑っていて・・・。

从 ゚∀从「いい笑顔だ」

(*^ω^)「そ、そうかお?」

ハインの言葉にブーンは頬を染める。
そしてお互いに、ふぅ、と息をつき、背筋を伸ばす。



( ^ω^)「歌、楽しみにしてるお」

从 ゚∀从「ああ」

「「いい旅を」」

ハインとブーンは互いに背を向けあい、高い陽の中を歩きだした。
今度は一度も振り返らない。

また今度会えたなら、変わった人の話をしよう。
知らない人の手足をつけた、記憶のない男の話を。

周りから聞こえる夏の音は相変わらず耳に響いてる。
しかそれは嫌なものではなかった。



ハインと別れて数時間が経った。
続く道は相も変わらず樹海道。

むき出しになった土を踏みしめ、右腕の言う通りに進む。
すると、右腕の違和感の方向が向きを変えた。

(;^ω^)「・・・え?」

ブーンは思わず引き攣った表情をする。
右腕が引っ張るのは木々が生い茂った森の中。

目を細めてみるが道というものは見えない。
しかし右腕はより一層力を強めて、ブーンに進むよう促す。

( ^ω^)「・・・わかったお」

他に当てがあるわけでもないので、ブーンは右腕に従い、森の中へ足を進める。
木々が陽を遮っているものの、気温は高い。

ブーンは険しい道を汗を垂らし、息を切らしながらも少しずつ進んでいく。
時折、木々の隙間から零れ出る木漏れ日に目を細めては立ち止まり、少し休んではまた歩くを繰り返していた。



右腕が少しずつ熱を帯び始める。
ドッドッ、といった鼓動もはっきりと伝わってくる。

大丈夫、ちゃんと行くから。
ブーンは何度も心の中で右腕に言い聞かせた。

シャツの襟をつかみパタパタと仰ぎ、中に風を送る。
中からは、もわっ、とした気持ちの悪い空気が上がってくる。

( ^ω^)「お!」

少し陽が沈み始めてきたか、というところで、緑の地面の上に変化を見つけた。
茶色い2本の線、何か・・・車輪の跡のようなものが地面を露にさせて続いている。



( ^ω^)「こっちかお」

どうやら右腕はこの道を進ませたいようだった。
ブーンは先程よりも力強く前へと進む。

そこで、些細な異変に気がついた。

( ^ω^)「風が全くないお・・・」

木々が体を揺らす音が聞こえない。
微量ではあったけれど、ブーンの体に触っていた風も感じない。

ふと上を見上げると、雲は少しずつ動いているようだった。
きっと何かの勘違いだ、たまたま吹いていないだけだ。
ブーンはその考えだけを頭の中に残し、また道を進む。



そこから少し歩くと、一つの家が見えた。
恐らく木で造られているであろう、白い家。

手前には自家栽培の小規模な畑が広がっている。
トウモロコシやトマト、キュウリに茄子といった夏の野菜が実っていた。

( ^ω^)「ここかお」

右手はしっかりと自分の意思を示している。
ブーンは右手に急かされるままに、家に一歩ずつ近寄る。

畑に近づいたところで、ぬっと人影が現れた。
背の高いトウモロコシに隠れていて気がつかなっかったのだ。

('、`*川「あら、こんにちは。お客さんなんて久し振り」

歳は二十代半ばだろうか。
すらりと伸びた手足は色が白く、細い体をより細く見せているようにすら感じた。



(;^ω^)「え、あのー」

何か言わなくては、しかし何を言えばいいのだろうか。
ブーンが焦っていると、女性はやさしく微笑み、かぶっていた麦藁帽を外しながら言う。

('、`*川「立ち話もなんでしょうし、中へ入りましょう」

ほんの少しあるそばかすが印象的で、ゆっくりと発せられる言葉はブーンの気持ちを落ち着かせた。
白いジーンズに茶色いTシャツ、彼女は扉を開け、「どうぞ中へ」とブーンを呼ぶ。

ブーンは少し遠慮がちになりながらも家の中に入ってゆく。

('、`*川「くつろいでてねー」

彼女はそう言い残し、何所かに消えていった。
ブーンはテーブルの椅子に腰掛け、窓の外を眺めていた。

緑が輝きを放っているが、それらが揺れている様子はない。



少しすると、女性がお茶を持って戻ってきた。
カップの中にはうすい黄緑が湯気を立てて淹れられている。
上には一つまみのハーブの葉。

ブーンは、すっと鼻にくるそれをゆっくりと口にする。
心からの「おいしい」という気持ちを女性に伝えると、女性はまた微笑む。

そして、女性から出る言葉にブーンは息を呑んだ。

('、`*川「てっきり、ドクオだと思ったんだけど。
     懐かしい感じがしたし・・・。こんなところに入ってくるんだもの」

(; ω )「!!」

ドクオ。
今そのドクオは右腕だけになってここに来ている。

(  ω )「今から言うことを、信じてほしいんですお」

('、`*川「・・・・」

女性は無言。
ブーンはそれを肯定と受け取り、話を進めていく。



記憶が無いこと。
四肢を失ったこと。
四肢、心臓が自分のものではないこと。

その中の一つ、右腕がドクオのものだということ。
そして、彼の意思によってここまで来たということ――――。

話を終えると、あたりはうす暗くなってきていた。
気がつくと右腕の違和感はほとんど感じない。

一通り聞いた女性はブーンに、もう一度確認を取る。

('、`*川「つまり、ドクオは死んだ。ふぁいなるあんさー?」

( ^ω^)「・・はい、ですお」

ブーンは肩を落とし、俯いている。

('、`*川「ぷっ・・・あはははははははは」

(;^ω^)「おっ!!?」

突然の笑い声にブーンはびくりと肩を揺らし女性に顔を向ける。



(;^ω^)「なんですお急に?」

('ー`*川「おかしくってしょうがないのよ。腕だけにもなって会いに来るなんて」

('、`*川「そいつの夢知ってる?飛行機とやらで空を飛ぶことよ。
     魂が飛んでちゃ、ざまぁないわ」

先程までのおしとやかなイメージは無い。
なぜこんな女性に会いたがったのか、ブーンにはそれが少しも分らなかった。

( ^ω^)「・・・れお」

('、`*川「・・・?」

(#^ω^)「ドクオに!謝れお!!」

怒鳴り声が女性にあたる。
女性は表情を変えない、それどころか憐れむような眼でブーンを見る。

('、`*川「あなた、この家の周りで何かに気づかなかった?」

(#^ω^)「・・・・」

ブーンの頭には一つの答えが浮かぶ。
そしてそれを口にする。



( ^ω^)「風、かお」

('、`*川「その通り」

道中にブーンが感じていたのは勘違いなどではなかった。

('、`*川「ここら辺は私の森。私が雨を降らせたいと想えば降らせられる。
     風が嫌いなら、風を吹かなくさせる」

そこまでを聞いて何かを思い出す。
本当に最近の会話だ。

『魔女に会いに――――』

( ^ω^)「あなたが魔女?」

女性はゆっくりと微笑みどうかしらねと、はぐらかす。
ブーンの怒りはいつの間にかどこかに消えていたし、気づいたら外は真っ暗になっていた。

「今日は泊って行きなさいよ」、彼女の一言にブーンは逆らえなかった。



空いた部屋に布団を敷いた後、オヤスミ、と一言つけて女性は自室に向かった。
先程、簡潔な自己紹介もすました。

彼女の名前は「ペニサス伊藤」。
この家、というよりこの森に一人で住んでいるのだそうだ。

ブーンは怒鳴ってしまったことを謝ったのだが、気にしないでと軽くあしらわれた。

( ^ω^)「ドクオ、これでよかったのかお?」

暗い部屋で横になり、ドクオに問いかける。
右腕は何も答えずに静かに鼓動するだけ。


いつの間にかブーンは深い眠りへと落ちていった。



晴れ渡る空の下。
目の前にはペニサス。

彼女は麦藁帽をかぶり、野菜に水をあげている。
こちらがペニサスを呼ぶと彼女は、「なによ」と言わんばかりの表情で振り返る。

「今日さ・・・飛ぶんだ」

「あっそ」

ペニサスはまるで興味が無いと言ったように視線を野菜に向ける。
そしてもう一度男に向きなおり言う。

「せいぜい頑張んなさいよ」

自分でも口元が緩むのがわかる。
こちらのにやついた顔を見て「締りがない」と、彼女は一瞥くれる。

「行ってきます」

「・・・ん」

ペニサスの返事を聞いたところで、夢が覚める。



('、`*川「あら、もう起きたの?」

二階にある部屋から降りてリビングに向かうと、ペニサスが朝食を作っている最中だった。
少しずつテーブルに料理が運ばれてくる中、ブーンは椅子に座り、窓の外を眺めていた。

木々は揺れようとしない。
この森に風が無いということを改めて実感する。

右手は今朝からズシリと沈み、ただの重荷のようにすら思えた。

('、`*川「はい、どうぞ」

トマトとレタスを挟んだサンドイッチに、目玉焼き、コーンポタージュ、それに紅茶。
旅をする上では十分すぎるほどの朝食で一日を迎えた。


昨日見た夢。
ブーンはドクオのやり残したことを完全に理解した。
それだと訴えかけるようにドクオは夢を見せる。

たった一言、この一言のためだけに、腕だけになっても意志を持ち、ここに連れてきた。



( ^ω^)「ペニサスさん」

ブーンの一言にペニサスは食事を中断させる。

('、`*川「何?」

( ^ω^)「泊めていただいて有難うございましたお。
       僕はここにあまり長居出来ないんですお。まだ、終わってないから・・・」

ブーンはゆっくりと左足をさする。
ドクオの意識が少しずつ薄れてきたのだろう。

今度は違う部位が感情を露にする。

('、`*川「あらあら。忙しないわね」

少し寂しそうに笑うペニサスに、もう一度ブーンは言う。


( ^ω^)「ドクオさんからの伝言ですお」

                           
                       「ペニサス、――――――――」



ペニサスは人に無い力を持っていた。
自分たちとは違う存在、人々はやがてペニサスと関わることを避けるようになった。

魔女、ペニサスはそう呼ばれ恐れられた。

ペニサス自信、人と触れ合うのがあまり好きではなかった。
そのためペニサスは人里から少し離れた森に住むようになる。

そこでの暮らしはとても素晴らしいものだったし、不自由なく暮らせていた。
そんな生活を続けていると、ある男がペニサスを訪ねてやってくる。

('A`)「魔女って・・・あんた?」


それが、鬱田 ドクオ。




('A`)「こんにちは」

('、`;川「うわっ・・・また来た」

あの日、つまりドクオが訪れた日を境にドクオはペニサスの元へ来るようになっていた。
ペニサスも最初は嫌がっていたが、何度も来る男に飽きれ、仕舞には一緒にお茶の時間を過ごしていた。

('、`*川「私魔女よ?怖くないの?」

('A`)「怖かったら会いに来ない」

他愛もない会話。
それでも二人にとってはそれが幸せだった。

彼女はドクオが飛行機の話をすると、決まって穏やかな風を吹かせた。
ペニサスの長い髪がゆっくりと揺れ、その度にドクオは「いい風だ」と微笑んでいた。

しかしブーンの見た夢、その日からドクオはペニサスの元を訪れることは一度もなかった。



最初の何日かはゆっくりとお茶をして待っていた。
緩やかに風を吹かし、いつの間にか自分にとって掛け替えのない人へと変わっていた彼を。

数週間が経っても来ない。
次第に彼女は不安になる、もしかして・・・。
その時の彼女には一つの考えだけが浮かんでいた。
しかしそれを必死に否定する。

一ヶ月が経つ頃、彼女は一つの考えを否定するのをやめた。
所詮彼も、私とは違う人間だった。

彼もまた他の者と同じように、私を恐れ消えたのだ、と。

彼女は彼を忘れようとした、しかしそれはとても難しいこと。


いつの間にか、彼女の住む森には風が吹かなくなっていた・・・。


( ^ω^)「わざわざすみませんお」

ブーンは玄関でペニサスにお礼を言う。
彼女が育てた野菜をいくらか貰ったのだ。

('、`*川「いえいえ、馬鹿が迷惑かけてごめんね」

ブーンはそれを聞いて右手を見る。
ペニサスに伝言を伝えたとき、すぅ、と、何かが抜けて軽くなった。
その瞬間ブーンは泣き出してしまった。

困り果てるペニサスを余所に、恥じらいも無くわんわんと。
そんなブーンの頭を、ペニサスは優しく撫でてくれた。

( ^ω^)「それじゃあ・・・」

ブーンは何度も頭を下げながら、少しずつ影を小さくして行く。
それを完全に見送ったペニサスは、辺りを見渡す。


どこを見ても思い浮かぶのは馬鹿のことばかり。
そのことにペニサスはうんざりする。

嫌いになったつもりでいたのに。
忘れてやると思っていたのに。

('、`*川「腕だけになっても会いに来るとは思ってなかったわ」

ペニサスは立ったまま俯く。
足元にはポツポツと水の粒がはじけていた。

( 、 *川「なんなのよ。一人で怒って、一人で泣いて・・・」

これじゃ私が馬鹿みたいじゃない。
そこまで言うとペニサスは扉に身を任せ、ずるずると座り込む。

(;、;*川「ああああああああああああああ」

悲痛の叫びが森を走る。
それと同時に、森に変化が起きた。



緩やかな風が彼女の髪を揺らした。

('、`*川「!!」

彼女は驚いた様子で立ち上がり、辺りを見渡す。
もちろん誰もいない。

森はざわざわと揺れ、またしても風が吹く。
今度はペニサスの頬を撫でるように優しく、ゆっくりと。

ペニサスが空を見上げると一匹の鳥が空を飛んでいた。
ゆっくりと旋回をして、まるで、誰かを見守るように。

('、`*川「・・・きれいに飛べるじゃないの」

泣きやんだペニサスは鼻をすすり家の中へとはいって行く。
テーブルの上には二杯のハーブティー。

「おかえりなさい」

淹れられたばかりのそれは、白い湯気を外からの風で揺らしていた。



( ^ω^)「お?」

今確かに風が吹いた。
そのことに気がつくと、ブーンは一度振り返る。

背の高い木々が陽を遮るようにしながら群生している。
ペニサスの家は見えない。

違和感の無くなった右腕が、その瞬間だけ力強く跳ねたように感じた。
ブーンはペニサスからもらったトマトに齧りつき、森を抜ける。

左足の違和感、今度はそれに従い道を進む。
すると、使われていない、錆びた線路が見つかる。

それの上を歩き、トンネルを通過すると、現れたのは海。
線路は海の上を続いている。

ブーンはその上を一歩ずつ、自分のペースで歩いて往く。
蝉の鳴く声はいつの間にか聞こえなくなっていた。



ある所に、空を飛ぶことに憧れた男がいた。
彼は何度も失敗したが、それでも飛ぶことを諦めなかった。

その結果、彼は空を飛ぶことに成功する。
彼は町の人々や、家族からの祝いの言葉を聞かず、懸命にひとつの場所を目指した。

その途中、不幸にも命を落としてしまうことになる。

しかし彼には、死んでも彼女に伝えたかった一言があった。
「行ってきます」と伝えた彼女にたった一言――――。

「ただいま」と。




<第2話 魔女の住む森>END






出典:( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです
リンク:http://yutori.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1222512304/

(・∀・): 82 | (・A・): 41

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