キミニヨバレテ 中編

2009/07/19 01:40 登録: 萌(。・_・。)絵

http://moemoe.mydns.jp/view.php/17353の続き

薄暗い部屋――――。

外は陽が高く昇っているが、窓から入る日差しはカーテンによって遮断されていた。
天井にはぼんやりと光るランプが一つ。

それなりに広く、壁には本棚がびっしりと並んでいる。
その中に本がぎっしりと詰まっていた。

部屋にあるテーブルにも本は積まれている。
その本に隠れるようにして読書をたしなむ者が一人。



どれくらいの時間が経ったのだろうか。
男はふぅ、と息をつくと本を丁寧に閉じ、机に立つ塔をまた一つ高くする。

その後しばらくは椅子に凭れ掛かるようにしていた。

何を思ったか不意に立ち上がり、窓からカーテンをずらす。
それと同時に入ってきたのは海に沈む赤い夕日。

男は目を細め、沈んでゆくそれをただじっと眺めていた。
男にしては長い髪、前髪は目にかかる長さだが、少し流すようにしてそれを避けている。
黒い髪は陽の光によって茶色く光る。

今度はカーテンを開けたままにしてテーブルのもとに行き、また本を手に取る。

太陽が見えなくなっても、少しの間、部屋はオレンジに染まっていた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<第3話 波の上、紅い街と結ばれる靴紐> 
 
左足の意識に従って道を進んで3日が経とうとしていた。
ブーンは今も波の上を歩いている。

波の上と言っても、もちろん直接歩いているわけではない。
石で造られた道が、波から1メートルほどの高さで姿を見せている。

幅は中々広く、真ん中には一本の錆びついたレールが通っている。
行き交う人も少なくはなく、それぞれが自分の意志をもって行動していた。

もちろんブーンもその中の一人だ。
波は穏やかに揺れ、広がる海は果てが見えない。

( ^ω^)「なかなか長いお」

あとどれくらいか、左足は答えない。
答える術もないのだが。



そこでブーンは一つの考えに至る。
こんなにも人がいるのだから誰かに聞けばいいじゃないか。

( ^ω^)「流石、頭良いお!」

本当に頭がいいのなら3日も歩くだけなんてことはしない。
少しずつ紅に染まってゆく風景。

太陽が沈み少し経つと、視界から赤やオレンジといった色が消えた。

夜と言っても、まったく何も見えないというわけではない。
大きく光る月は海を照らし、キラキラと揺れる。

しかし、今日は休んで明日歩きながら誰かに聞こう。

ブーンは人と少し離れた場所に荷物を置くとゆっくりと腰を下ろす。
ザァ、とゆっくり聞こえる波の音が心を落ち着かせる。



ブーンの服装はジーンズに、Tシャツ。
そしてその上から黒い上着を羽織るといった簡単なものだった。

昼間はそれで丁度良いが、夜は少し肌寒く感じる。

( ^ω^)「まあ、なんてことないお」

独り言は海に呑み込まれていく。
と、そこに、一歩一歩ブーンに近づく足音があった。

( ^ω^)「お?」

ブーンは眺めていた海から目を離し、ゆっくりと振り返る。

(´・ω・`)「やあ。隣、良いかな?」

眉の下がった男。
ブーンはそれに微笑みながら、こくりと頷いた。



(´・ω・`)「ありがとう」

笑顔でお礼を言いながら、ゆっくりと腰を下ろす。
そしてがさごそと鞄を漁り、一つの紙袋を取り出した。

ブーンがそれを眺めていると、男はその中からパンを取りだす。

(´・ω・`)「僕はショボン、君は?」

パンを差し出しながら男は尋ねる。
ブーンはお礼を言ってパンを受け取り名前を言う。

(´・ω・`)「ブーン君、よろしくね」

二人は自己紹介を終えると、それぞれのパンに齧りついた。



( ^ω^)「そうだお、訊きたい事があるんだお!」

ブーンはパンを食べ終わると、何かを思い出したかのように手を叩く。
ショボンは突然の声に、少し驚きを見せるも、すぐにブーンの質問に耳を向けた。

( ^ω^)「向こうの陸地まであとどれくらいか分かるかお?」

(´・ω・`)「明日、日が昇り切る前に出れば夕方には着くと思うよ」

その言葉を聞いた途端、ブーンは顔を輝かせた。
ショボンの手を掴み、上下にブンブンと振る。

(;´・ω・`)「あ、あはは。良かったね」

ショボンの苦笑いに気づいたのかどうなのか。
ブーンはぴたりと手を止め、囚われていた手を開放する。

( ^ω^)「ショボンも向こう行きかお?」

自分の行く先と同じ方を指し尋ねた。
ショボンは「そうだよ」と、ゆっくりと頷き、また微笑んでみせる。


地面に置かれたランプの光がぼんやりと揺れる。
二人はただじっと、中で燃える火を眺めていた。

(´・ω・`)「ブーン君は、旅人?」

( ^ω^)「そうだお」

ショボンが独り言のように言った質問にブーンは返す。
同じことをショボンに聞くと、ブーンと同じように答える。

(´・ω・`)「目的も何もないんだけどね」

照れくさそうに笑うショボンはどこか大人びていた。

自分の旅、正しくは自分に繋がれた人たちの旅が終わったら自分はどうなるのだろうか。
ショボンのようにこの広い世界に飛び出せるんだろうか。

考え、硬直するブーン。
ショボンはそんなブーンを気遣ってか、「オヤスミ」と一声かけて横になった。

ブーンはそれから少しして考えるのをやめ、ショボンと同じように眠りについた。


起きると、ちょうど陽が出始めたようだった。
ブーンが体を起こすと、ショボンも起きたようで同じように体を起こした。

人に出逢う度に何かしら悪い方向に考えているな。
ブーンはまだ完全に覚醒していない状態でそんなことを考えていた。

(´・ω・`)「僕はもう少ししたら出発するけど、ブーン君はどうする?」

方向は同じなのだから合わせよう。
ブーンは慣れた手つきで寝袋を片付ける。

(´・ω・`)「ちょっと寄りたい所があるんだ。もちろんこの通路上なんだけどね」

( ^ω^)「かまわないお」

二人は支度を整え、一息ついてから立ち上がる。
この通路が終わるのもあと少しだ。



陽が昇り切るよりもだいぶ早くに出発したため、陸に着くのは昼過ぎだろう。
少しずつ高揚していく気持ち。

この通路は長いため、露店を出している者もいる。
途中、そこで食料を調達したり、場合によっては服も買うなんてこともある。

二人は店を見つけるたびに商品を見ては、あーだこーだと話をしていた。
それを見て「冷やかしならお断り」という商人もいれば、会話に混ざったりする商人もいた。

大したことのない会話で、すっと心が洗われる。
ただ綺麗な物ほど壊れやすいとはよく言ったもので、
会話をした後に来る別れはどれも楽なものではなかった。



そうこうしているうちに、一つの建物が見えた。
ただそれはおかしなことになっていた。

通路は海に挟まれている、透けていて綺麗なのだが、恐らくかなり深い。
だがあの家は明らかに通路の脇に建てられていた。

(;^ω^)「あの家どうなってんだお・・・」

遠目からみると赤茶色をした家。

(´・ω・`)「近づけばわかるよ」

ショボンはニヤニヤしながらブーンを見る。
それにブーンは「むぅ」と唸り、心なしか足を速めたようだった。

( ^ω^) 「おお〜」

ブーンがタネを理解して出した最初の言葉がこれだった。



その家の周りももちろん海なのだが、かなり浅くなっていた。
海面から底までは10センチあるかないかだろう。

見ると通路のふちが家の周りだけ無く、通路は家を乗せるように凸状に広がっていた。

(´・ω・`)「寄りたい所ってのはここなんだ」

ショボンは家の扉を二度ほどノックする。
レンガ造りの丈夫そうな家。

/ ,' 3 「はいはい・・・、おお」

出てきたのは老人男性。
髪は白く、手も皺だらけだ。

(´・ω・`)「荒巻さん、お久しぶりです」

/ ,' 3 「ショボンよく来たのう」

二人の挨拶にブーンは置いてけぼりを食らっていた。
ぽつりと残される孤独感、これは厳しい。




/ ,' 3 「そちらは?」

優しい目つきでブーンを見る。
濁りのない綺麗な眼、目を合わせたら嘘もつけないような。
ブーンは、ぺこりと頭を下げる。

(´・ω・`)「こちらは、ブーン君。ブーン君、この人は荒巻スカルチノフさん」

荒巻と呼ばれた男性は家に二人を呼び入れた。
玄関では靴を脱いで上がる仕様になっていて、二人は靴を脱ぎきれいにそろえる。

玄関のすぐ脇はガレージのように空間ができていた。
扉も何もないため外からは丸見えになっている。
一階の多くはそこに場所を取っているようだった。

ぽっかりと空いた空間、それに気づいたショボンはきょとんとした表情をしている。

( ^ω^)「どうかしたのかお?」

(;´・ω・`)「え?あ・・、何もないよ」



玄関をあがり、少し奥に行った部屋に入る。
畳が敷かれており、外装とはまるで合っていない。

3人は腰を下ろし、少しの沈黙が走る。

(´・ω・`)「あの」

最初に声を出したのはショボンだった。
何やら訊きたげなことがあるという声で荒巻に尋ねる。

(´・ω・`)「お店は?」

/ ,' 3 「やめたよ」

(;´・ω・`)「なっ・・・」

質問に即答する荒巻にショボンは言葉を詰まらせた。
荒巻はそれが当り前であるかのように答えたのだ。

(;´・ω・`)「何故ですか!?」

ショボンは今にも掴みかかりそうな勢いで再び尋ねる。
荒巻は顎に手をやり低く唸った。



/ ,' 3 「もう年なんじゃよ」

荒巻は寂しそうに答える。
ショボンは顔を落とす。

( ^ω^)「もしよければ話を聞かせてもらえませんかお?」

ブーンはここに長居をするつもりはなかった。
だけど多少なり事情を知りたいという気持ちはある。
荒巻は「ああ、構わないよ」と笑顔をつくり昔話を始める。

波の上の商店、それがここだった。
物を売ることだけではなく、人との関わりを大切にしようとする。
そのために荒巻が創った店。

(´・ω・`)「僕は、この店が大好きだった。いつも笑顔で迎えてくれて」

ショボンがいつの間にか落ち着きを取り戻し、会話に混ざる。
会話、と言ってもブーンは相槌を打つだけだったのだが。


それでもショボンは諦められないといった様子で荒巻に言う。

(´・ω・`)「僕も手伝いますから、この店に――――」

ショボンがそこまで言うと荒巻が大きな怒鳴り声をあげた。
「ならぬ」、その一言はその場を沈黙させるには十分なものだった。

ブーンとショボンは目を見開き荒巻の方を見る。
怒鳴った本人は先程までの穏やかな表情でそっと、囁くように語りかける。

/ ,' 3 「こんな老いぼれの為に時間を使う必要は無い。
     まだまだ若いんだ、こんな所で決断を早まる必要はないよ」

ショボンはゆっくりと声を殺しながら泣き始める。
ブーンは何もできず、おろおろとするだけ。
荒巻はそんなショボンの頭をそっとなでる。

/ ,' 3 「ありがとう」

その言葉は波に消えてしまうような小さな声だった。
だけども、それはしっかりとショボンの耳に届いていた。




( ^ω^)「ご馳走様でしたお」

ショボンが泣き止み、少しお茶を飲んだところで出発することにした。
もちろんショボンも一緒に。

(´・ω・`)「・・・・」

無言でブーンの後ろに立っているショボン。
余程この店が気に入ったいたのだろう、落ち込みようが激しい。

/ ,' 3 「ショボン」

名前を呼ばれ、ショボンは荒巻の顔をじっと見つめる。

/ ,' 3 「もしこんな老いぼれと店がやりたいのなら、またいつか来なさい。
     それまでは、世界を知るべきじゃ。わしと違ってまだ先は長いんじゃ」

(*´・ω・`)「は、はい」

ショボンの顔は、ぱぁっと晴れ、子供のような笑顔を作る。
ブーンもそれを見て笑う。
嬉しさは連鎖する、結局はみんなが笑ってのお別れとなった。




(´・ω・`)「なんかみっともないとこ見せちゃったな」

ショボンがポリポリと頬を掻き、照れくさそうに言う。

( ^ω^)「・・・そんなことないお」

ブーンは人と別れることの辛さを知っていた。
回数こそ少ないものの、それは決して小さいものではない。

(´・ω・`)「僕、本当に小さい頃家出したんだ。その時にこの道を走ってたんだ。
      でも一度転んでさ、冷静になってみたら知らないところだし、足は痛いし」

ブーンはそれがどれだけ不安なことか分かっている。

(´・ω・`)「そんな時に荒巻さんと逢ったんだ」

あそこは僕にとってただの店なんかじゃないんだ。
ショボンは懐かしそうに呟く。



それからしばらくすると陸地が見えてくる。
ブーンは思わず走り出し、ショボンもそれに続く。

( *^ω^)「ふおおおおおおおお」

とうとう波に挟まれる通路が終わった。
気がつけば日は沈み始めようとしていた。

少し離れた所に街が見える。
あたりの木々は緑ではなく、赤や黄色といった色になっている。

石でできた道に沿って歩くと、右に枝分かれする道が現れた。
町はすぐ目の前、違和感も街に入るよう促す。
いつの間にか線路は無くなっていた。

そこで後ろを歩いていたショボンは足を止める。
ブーンは振り返る、それと同時に悟る。

( ^ω^)「お別れ・・・かお」

(´・ω・`)「うん・・一度家に帰るよ」



ショボンはそっと右手を差し出す。
ブーンはそれを右手で握り返す。

(´・ω・`)「この旅に、ようやく目的ができたよ」

ショボンは振り返る、波の上の店を。

( ^ω^)「いつか店に行くお」

微笑みながらブーンは言う。
二人はそれ以上何も言わなかった。

お互いに振り返ることなく己の道を進んだ。
わかっている、先はまだ長い。

まだ止まるわけにはいかない。

目の前の街、ゆっくりとそこに足を踏み入れた。




地面は石を埋められてできた通路。
建物はレンガなどを使って造られていてとても丈夫そうだ。

街、ということだけあって人はかなり多い。
市場や商店といったものも多くあり、祭りでもやっているのかとすら思えた。

( ^ω^)「すっげぇお」

キョロキョロとあたりを見回しながらゆっくりと歩く。
紅葉で紅い街、もう少ししたらその街がさらに紅くなる。

左足はブーンに通路を歩かせる。
ブーンは逆らうこともなくそれに従っていた。

というよりも逆らう必要はない。
それがこの旅の意味なのだから。



しばらく歩くと、街のはずれに出た。
そこで石の通路は途切れている。

そこからは緩やかな傾斜が続いており、土がむき出しになった蛇行した道がある。
その先にはほかの家よりもだいぶ大きな家。

豪邸、とまではいかないが、それなりに裕福なのだろう。

左足は明らかにその家の方向を指していた。
ブーンは蛇行した道に従い歩いて行く。

( ^ω^)「ここが・・・」

ここが、左足「流石 弟者」の目的のある場所。
ブーンは玄関の扉をゆっくりとノックする。

するとすぐに、ガチャリと扉が開き、人が姿を見せた。

@#_、_@
 (  ノ`)「はいよ・・・ん?」

中から出てきたのは女性、なのだが・・・。
何と形容してよいのだろう、ブーンの思考は停止する。


@#_、_@
 (  ノ`)「この街の人間じゃないね?どうしたんだい?」

見かけはかなり恐ろしいのだが、穏やかな口調での質問。
ブーンの肩に入った力はすっと抜け、女性の質問に答える。

( ^ω^)「・・・弟者さんのことでお話が」

@#_、_@
 (  ノ`)「!!・・・立ち話もなんだし、入りな」

女性はそう言って扉を完全にあける。
中からは暖かな空気と、香ばしい匂いが漂ってくる。

ブーンは弟者の名前を出した瞬間、母者の顔つきが変わったのを見逃さなかった。
本当に一瞬、眉がぴくりと動いた。

暖かな家の中に入ると、かなり広めの空間が広がっていた。
大きめのテーブルに複数の椅子、並べられた料理を見る限り、これから夕食なのだろう。


@#_、_@
 (  ノ`)「あんた、夕食は食べたのかい?」

ブーンが首を横に振ると、女性は「丁度良いね」と言って、ブーンを椅子に座らせる。
一人だけ座っているので、落ち着かない。

きっと、ここは弟者の家なのだろう。
だとしたらあの女性は母親なのだろうか?

目の前の料理の上では湯気がユラユラと踊っていた。
そこで、扉の開く音が聞こえる。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ただいまー。・・・っと、お客さんかい?」

ところどころ白い髪が見える男性。
ブーンを見るなり、こんにちは、と挨拶をしてくる。

( ^ω^)「こんにちは」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「行儀がいいな」

男性は荷物を置くと笑顔でテーブルの周りの椅子に座る。



@#_、_@
 (  ノ`)「ほらお前たち、夕食の時間だよ!」

母者が階段に向かって声を張り上げるとドタバタと足音が近づいてくる。
現れたのは小柄な女の子。

l从・∀・ノ!リ人「ご・は・ん、なのじゃー!・・・って誰なのじゃ?」

キョトンとする少女にブーンは微笑みながら挨拶をする。
少女はブーンのすぐ脇に座ると、ブーンの顔を覗き込む。

l从・∀・ノ!リ人「誰なのじゃ?」

少女がそう聞くと、母親と思われる女性から言葉が発せられる。

@#_、_@
 (  ノ`)「妹者、お兄さんには後で自己紹介をしてもらうから待ちな」



正直そこまでブーンに興味はないのだろう。
妹者と呼ばれた少女は、返事をするとすぐに料理に視線を向けた。

@# _、_@
 (  ノ`)「兄者!さっさと降りてきな!!」

女性はもう一度声を張り上げる。
少しすると、新たに人が現れた。

( ´_ゝ`)「お客?」

本当に静かに声を出す。
それは臆している声でもなんでもない。
ブーンが初めて会った彼に対する印象は「大人っぽい」だった。

@# _、_@
 (  ノ`)「説明は後だよ、さあ、食べようか」



食事はこれといった会話も無く進んでいった。
カチャカチャと食器のなる音と暖炉の火が燃える音が食卓を包む。

l从・∀・ノ!リ人「ごちそうさまなのじゃー」

妹者と呼ばれていた少女が合掌をする。
それを機に、皆がそれぞれに同じことをして食器を流し台へと運ぶ。

それも終わるとみんなが再び席に着く。
いよいよ本題だ。

ブーンは唾をのみ、喉を鳴らす。
これを説明するのには覚悟がいる。

殴られたっておかしくはない。
追い出されたって文句は言えない。

それでも説明しなければならない――――。



( ^ω^)「あの」

@#_、_@ 
 (  ノ`)「まずは自己紹介をしようか。私は母者。この流石一家の母親さ」

ブーンがいざ説明を試みようとすると出鼻をくじかれる。
母者はこりゃすまないね、と豪快に笑い、自己紹介を続けさせた。

@#_、_@ 
 (  ノ`)「こっちの禿げ始めてるのが父者。一応この家の大黒柱さ」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「どうもー(突っ込んだら殺される、突っ込んだらry)」

l从・∀・ノ!リ人「妹者は妹者なのじゃー。10歳なのじゃ」

父者は何かうずうずした様子、妹者は元気よくこたえる。
ブーンは彼ら一人一人によろしくと伝えながら自分の番を待っていた。



@#_、_@ 
 (  ノ`)「そんでこれが、兄者。この家の長男で、弟者の双子の兄さ」

( ´_ゝ`)「よろしく」

うっすらと微笑みながらブーンに声をかける。
やはりどこか覇気がなく、静かな物言い。
家族が誰も触れないところをみるとこれがデフォなのだろう。

そこで会話は止まる。
今度は自分の番か、ブーンは出されていた水で喉を潤す。

( ^ω^)「僕は、内藤 ホライゾン。訳有りで旅をしていますお」

母者は既に弟者のことだと感づいている様子で、ブーンをじっと見据える。
父者と妹者は興味深そうに、兄者はあまり関心を示さず、同じようにブーンに視線をやる。

@#_、_@ 
 (  ノ`)「その訳ってのは聞いてもいいのかい?」



( ^ω^)「かまわないです・・・・お」

ブーンは最初から話をするつもりでいた。
だが、正直、妹者には聞かせたくないという気持ちがあった。

まだ10歳の少女が、兄の死を知ったらどうなるのだろうか・・・。
ブーンは気まずそうにチラリと妹者を見る。

@#_、_@ 
 (  ノ`)「妹者、明日早いんだろう?風呂に入って、今日は寝ときな」

最初こそ嫌そうな顔をしていたが、すぐに明日のことが浮かんだのだろう。
「それもそうなのじゃ」と元気よく駆けて行った。

@#_、_@ 
 (  ノ`)「これで話しやすくなったかい?」

( ^ω^)「お気づかい、ありがとうございますお」

ブーンはすっと息を吸い込む。
ゆっくりと呼吸を整え、説明を開始する。



( ^ω^)「先程も言ったように、僕は旅をしていますお。ただ少し変わってまして・・・」

( ´_ゝ`)「なあ、その話長くなるか?」

ブーンの言葉を遮るように兄者が口をはさむ。

( ^ω^)「なりますお・・・」

だったら俺も席を外させてもらうよ。
兄者はそう言って立ち上がる。

@#_、_@ 
 (  ノ`)「待ちな、弟者に関わることだよ」

母者がぴしゃりと言い放った。
父者は多少驚いた様子でブーンを見て、それにブーンは軽く返事をした。

兄者は表情を一つも変えず、ただ黙って椅子に座った。



( ^ω^)「僕は事故で四肢を失いましたお。覚えてはいないんですけど」

記憶喪失なんです、と付け足してまたゆっくりと説明に戻る。

( ^ω^)「僕がいた病院は、治療ができなくても、どこかが無事なら冷凍されるらしいですお。
       そのため、僕は冷凍されましたお」

視線はブーンの手足に集まる。
ブーンは右手で左手の甲を撫でるように触っていた。

( ^ω^)「つまり僕の手足は、本来僕のものではないんですお」

その場にいる四人は固まる。
話を聞いている間も、誰も動いていなかったのだが、確かに固まった。

薪がが燃える音がやたらと大きく聞こえる。
母者、父者もここでこの話をしたということで気づいたのだろう。

少しうつ向き気味になっていた。
兄者は頬杖をつきブーンをじっと見ている。




階段のほうから「おやすみなのじゃー」という可愛らしい声が聞こえる。
それにはっとしたように顔をあげ、父者と母者は返事を返す。

( ^ω^)「・・・続きを話しますお。ある日僕は違和感を感じたんですお。
       繋がれた右手が、意志を持っていて・・・。そして僕は旅に出ることにしたんですお――――」


――――彼らの望みをかなえるために。



( ^ω^)「右手の違和感が消えて、次に違和感を感じたのが左足ですお」

そこでまた呼吸を整え、水を流し込む。
中に水がなくなると、それを静かにテーブルにおく。

( ^ω^)「左足は僕をここに連れてきた。この左足の本来の持ち主の名前は、流石 弟者」

ブーンは頭を深く下げて謝罪の言葉を入れた。
別に誰が悪いというわけではないのに、さも自分が悪いといったように。

@#_、_@   
 (  ノ`)「顔をあげな、あんたが悪いんじゃないよ」

ゆっくりと顔をあげて母者の顔を見る。
笑ってはいるものの、どこか寂しそうだ。

父者は今にも泣きそうな顔をして何度も頷いている。



( ´_ゝ`)「話は終わったようだし、俺は自室に戻らせてもらうよ」

立ち上がり、複数腰をひねり歩いて行く。
双子なのになぜこうも冷めているのだ、ブーンは少し動揺する。

( ^ω^)「それだけ・・・ですかお?」

( ´_ゝ`)「それだけ?何が?」

兄者は振り返り、ブーンに問う。
ブーンが何も答えずにいると、また向き直り奥へと歩いて行く。

@#_、_@   
 (  ノ`)「弟者は、死んだんだね」

もう一度確認するように尋ねる母者に、ブーンは申し訳なさそうに頷き返した。
それを聞いて「ふう」と息をつき、背もたれに寄りかかるようにして天井を見上げた。

父者は力なく立ち上がると、風呂に入ってくると言って歩いて行った。
この場に残るのはブーンと母者のみ。


( ^ω^)「あの、兄者さんっていつもあんな感じなんですかお?」

@#_、_@   
 (  ノ`)「昔は違ったよ。やんちゃで、そこらを兄弟そろって走り回ってた」

母者は懐かしそうに話す。
今はいない弟者を思い出すかのように、さみしそうに。

@#_、_@   
 (  ノ`)「いつだったか、何を思ったのか急に冷めた子になってね。
      弟者はそんな兄者を見てどう思ってたのかね・・・」

母者の言葉から察するに、弟者がいなくなる前からそうなったのだろう。
そこで一つブーンは気になることが出てくる。

なぜ弟者はこうなったのだろうか。
そこら辺で致命傷を負ったのなら、近所の病院に行くだろう。
それに、もしあの病院に行ったことを知っているのなら、ある程度を理解してるはずだった。

しかし、ブーンはそれをどう聞いたら良いのか分からずにいた。
どんな言葉を言っても相手を傷つけてしまいそうで、それがとてつもなく怖かった。


そうこうしているうちに、父者が戻ってくる。
ブーンは風呂に入って来いと言われ、遠慮をしたものの押し切られ、結局はいることになった。

風呂に入ってしまえば、後はお決まりのようなものだ。

今日はここに泊って行けと言われ、部屋を渡された。
弟者が使っていた部屋だそうだ。

多少の本と、ベッド。
机には色あせたノートが並んでいた。

壁には靴紐がほどけた靴がかかっていた。
なぜこんな所にあるのだろうか。

一人で考えていると後ろから声が掛かる。
母者だ。

@#_、_@   
 (  ノ`)「何かあったら言いなよ」

それだけを言うと部屋の扉を閉め歩いて行く。



ブーンはこの旅をして思うことがあった。
何故、どうして、これを何度も口にする。

ベッドに横になり天井を見上げる。
そのまま右手を目に当て視界を遮る。

「みんなは、どう思ってるんだお」

瞼が重い。
右手をどけても視界は暗い。

ああ、目を閉じていたのか。
ものを考えることは少しずつできなくなっていった。
ブーンは弟者が使っていたベッドで眠りについた。



「・・・う」

声が聞こえる。
夢の中だろうか。

「・・とう」

少しずつ明確に聞こえてくるそれは、やたらリアルだ。
まるで自分が体感しているような――――。

不意に体に衝撃が走る。
ブーンは体を起こそうとするが、途中でピタリと止まる。

l从・∀・ノ!リ人「やっと起きたのじゃ〜」

妹者がブーンに乗っかっていた。
先程の声は、夢などではなく、彼女がブーンを起こす声だったのだ。

( うω`)「お・・・、妹者ちゃんかお」

寝ぼけ眼をごしごしとこすりながら、ブーンは朝の挨拶を交わす。
妹者は「ご飯を食べに行くのじゃ」とブーンの服の袖をつかむ。



( ^ω^)「おっおっお」

ブーンは急かされるようにしてリビングへと足を運ぶ。
テーブルを見ると、父者、母者がすでに食べる支度をしているところだった。

( ^ω^)「おはようございますお」

ブーンの挨拶に父者と母者は優しく返す。
妹者の前ではくよくよしていられないのだろう。

昨日初めて会った時のような穏やかな雰囲気で食事を頂く。

@#_、_@   
 (  ノ`)「起こすかどうか迷ったんだけどね」

その結果がこれさ、母者は笑いながら言う。
なぜ兄者がいないのか尋ねると、彼はいつも朝食を食べないと聞かされた。

起きてはいる、とのことだった。
後で少し話がしたいと考えながら食べ物を口に運ぶ。




@#_、_@   
 (  ノ`)「内藤君、悪いけどあんたの荷物見させてもらったよ」

(;^ω^)「へ?」

思わず声が裏返る。
見られちゃいけないものなんて何も入ってはいない。
それでも何と言うか後ろめたいものが・・・。

ブーンが鞄の中を覗くと旅の道具が入っている、これはいい。
衣類系は汚れていないシャツが一枚。
そのほかの服は全くない。

@#_、_@   
 (  ノ`)「汚れてる服は全部洗っといたよ。勝手なことして済まなかったね」

そういうことか。
だったらむしろ感謝しなくてはなるまい。
それを伝えると母者は笑って食事を再開する。

( ^ω^)「一回部屋に戻りますお」

食事を終えていたブーンはそう言うと部屋に向かう。


部屋に戻ったはいいが、正直何もすることがなかった。
兄者のところに行くにしても、もう少し時間を置いてからの方がいいだろう。

ドクオの時は夢を見れたからほんの少しとはいえ、情報を得ることができた。
しかし、今回は夢を全く見ていない。
どうしたものだろうか、ブーンはため息をつく。

ベッドに腰をかけると、左足が意思をみせはじめた。
ブーンは即座に立ち上がり、部屋を飛び出す。

急げ、弟者の望みの手がかりだ。
ここに来ることがほとんどの望みだったのだろうか。
違和感は魔女の森にいたときほど大きくなかった。

血相を変えているブーンを見て、母者は驚いた様子をしている。
妹者と父者は出かけたか、その準備をしているのだろう、テーブルに姿は見えない。



@#_、_@   
 (  ノ`)「どうかしたのかい?」

母者に「少し野暮用を思い出しまして」と告げて家を飛び出す。

太陽はまだ寝ぼけているのだろうか?
やる気がなさそうに光を放っている。

昨日来た道とは少しずれた道、つまりは家の横側を進んで行く。
道は無く、ちっぽけな草の絨毯の上を駆ける。

ブーンは律義に踏んだ草たちに謝罪の言葉を入れながら進む。

消える前に、消える前に、消える前に。
いつの間にかブーンは涙を流していた。

どれだけ涙腺が緩いのか、自分でも驚くぐらいだった。
そもそもなぜ泣いているのかすら分からない。

もしかしたら、この涙は弟者の――――。

その考えが浮かんだ時、違和感が指示していた場所に着いた。
高台になっていて、そこから海を見渡せた。


違和感は一本の木の元へと歩かせる。
そこに辿り着き、辺りを見回してみるが、特に変わったものはない。

( ^ω^)(どういうことだお?)

呼吸を整えるために、木に凭れ掛かり海を眺める。
少しずつ弱くなっていく左足の違和感。

それは、まだ何かを求めている。
だがブーンにはそれが何なのかを全く理解できず、ただ途方に暮れるだけだった。

海からの風が気持ちいい。
ざわざわとなる木を見上げると、葉っぱの隙間から陽を窺うことができた。

( ^ω^)「どういうことだお?」

さっき頭に浮かべた台詞を、今度は口に出す。
違和感はここまで連れてきて、どうするかまでは教えてはくれなかった。



――――。

いつの間にか眠っていたのだろう。
陽は最も高い位置を通り過ぎていた。

一度家に帰って手がかりを探そうか。
そう思い立ちあがると、尻に着いた草や土を払う。

走ってきた道を帰るにしてはやたら早く感じられた。
家の前に立ち、扉に手をかける。

ああ、そういえば飛び出したんだっけな。
何か言われるかもしれない、その時は何て言おうか。

何の情報も得ていない今、弟者のことを会話に出すのは控えたい。
知人の所に行ってきた、なんて言っても信じてもらえるわけが無かった。

(;^ω^)「ええい、男は度胸」

勢いよく扉を開けて、中に入る。
扉から手を離すと、それは力なく閉まっていく。



@#_、_@     
 (  ノ`)「お帰り、野暮用は終わったのかい?」

(;^ω^)「え、ええ」

意外にも何のお咎めも無くすんだ。
というより何をそこまで恐れていたんだろうか。

みんなは昼食を食べ終えたようだった。
にも関わらず、母者はブーンにそれらを用意してくれた。

感謝しながらそれらに貪りつくと、母者は微笑む。
ブーンが不思議そうにしていると、彼女も椅子に腰をかけた。

@#_、_@     
 (  ノ`)「そっくりだよ、あんたは」

きっと弟者とのことを言っているのだろう。
どう反応していいのか困り果てていると母者は付け足すように話をする。

@#_、_@     
 (  ノ`)「これだけは覚えておいてほしいんだ。子供は子供でいるのが一番大人だよ」

ブーンが首を傾げていると、母者は「意味なんか分からなくてもいいさ」と笑い食器を片づける。
兄者さんは今どこに?、そう聞くと母者は、書斎にいるよ、と短く告げた。



書斎に入ると外の光だけが入っていて、独特の雰囲気を作り出していた。
たくさんの本棚、それらには本が大量に並んでいた。

( ´_ゝ`)「どうした?」

扉から入って正面にある机、そこには本が積み上げられていて、小さな砦のようになっていた。
そこからひょっこりと顔を現したのは兄者。

彼はその場から動こうとはせず、用があるのなら自分から来いと言わんばかりだった。
ブーンは最初からそのつもりだったため、兄者に近づく。

兄者の隣まで行くと、机の上にある一枚の写真に目がいった。
2人の男の子が肩を組んで笑っている。

( ´_ゝ`)「どっちが俺か分かるか?」

兄者の問いに、ブーンは困惑する。
正直、どちらも兄者じゃないように思えた。

仕方なく右を差すと、兄者は「ハズレ」と言ってみせる。
少し写真を見つめたあと、兄者はブーンに書斎に来た訳を尋ねた。

( ^ω^)「弟者さんはどんな人だったんですか?」

ブーンの質問に兄者は一言で返した。
「子供だよ」と。



( ^ω^)「子供?」

ブーンが兄者の言葉を繰り返すと、兄者は軽くうなずいた。

( ´_ゝ`)「小さい頃はいつも一緒に遊んでたよ。騒いでは大人に怒られ、悪戯してはまた怒られ。
       弟者と俺は、いつかこの街を飛び出そうとしていたんだ、もっと色んなものが見たくてさ」

そこで兄者は一息つく。
無口、というわけでは無い様だが、相変わらず静かな口調。

( ´_ゝ`)「だけどさ、人ってのはいつか大人になるものじゃないか。
       それでも弟者は相変わらず飛び出すつもりでいたよ。子供のころから何も変わっちゃいない。
       俺は馬鹿らしくなってな・・・、本を読んで知識をつけようとしたんだ。
       いつまでも子供じゃいられないだろう?本は何でも教えてくれるからな」

兄者は鼻で笑うようにして再び写真を見る。

( ^ω^)「それで・・・弟者さんは?」

「飛び出して、それっきりさ」と、兄者は言う。
ブーンは何かモヤモヤしたものを胸につっかえながらも、お礼を言いその場を去る。

向かう先は自室、その中のベッドに腰掛け、左足を眺めた。



( ^ω^)「弟者さん・・・」

ブーンは少し不安になってきていた。
まだ弟者は望んでいることがある。

だけど、かなり力が薄れてきている。
というより、今度は違う部位がゆっくりと違和感を露にしてきたのだ。

新たな違和感は、急いでくれ、と言わんばかりにブーンを急かす。
それでも今は弟者のことを、そう途方に暮れていると、あっという間に時間は流れていた。

いつの間にか日は沈み始め、街をオレンジ色に染めてゆく。
それを眺めていると今度は、あたりが暗くなる。

そうこうしているうちに、夕食だということを告げられ、申し訳ないと思いながらも、食をともにした。
明るい夕食の時間が終わり少し経つと風呂を借りて入る。

こんな事をしている場合じゃないと思いながらも、他にどうしたら良いのかわからなかった。

( ^ω^)「先に寝かしてもらいますお」

母者、妹者、父者に軽く頭を下げ、弟者の部屋に行く。
兄者はまた書斎にこもっているようだった。



明日早く起きて、手がかりを掴もう。
寝る時間が多ければ、長く夢を見れる。

そう考えたブーンは横になる。
ゆっくりと目を閉じて、心の中で弟者に問いかける。

望みを言ってくれ、できるなら叶えるから。
まどろむ意識の中、ブーンは写真の中の二人を思い出していた。




『宝物を埋めよう。ここが俺たちの旅の、宝のありかだ』

聞いたことの無い子供の声で目が覚める。
ブーンは目をこすりながら宝物、宝物と繰り返す。
寝ぼけているだけなのだろうが。

この街に来てから三日目。
ほとんどと言っていいほど進歩していない。

朝食をとり終えると、兄者とブーンを残してそれぞれが出かけて行った。
また何か聞こうか、ブーンは書斎へと足を運ぶ。

兄者は相変わらず本を読んでいた。
いったいどれくらいの時間本を読んでいるのだろうかと疑問に思う。

( ´_ゝ`)「内藤か。どうした?」

お話をしに来ましたと言って昨日と同じように歩み寄る。
やはり置かれているのは写真、それを見て今朝聞いた言葉を口にする。

無意識の行為だった。

しかし、兄者は目を見開いてブーンを見ると、すぐに部屋から飛び出した。



(;^ω^)「兄者さん!?」

ブーンは走って行く兄者の後を追いかける。
あまり体力がないのか、足が遅いのか、すぐに追いつくことができた。

(;´_ゝ`)「宝物、弟者・・・」

さっき言った言葉は弟者が生前に言った言葉なのだろうか。

周りなど見えていない、ただ一心不乱に駆けて行く。
そこは昨日ブーンが同じようにして通った道。

(;^ω^)「ど、どうしたんですお?」

(;´_ゝ`)「うまく説明できない!見て悟れ」

懸命に走り、ついた場所、やはり昨日と同じ場所。
兄者は昨日ブーンが体を預けていた木の根元を掘り起こす。

素手で何度も何度も。
爪の間に土が入り、指先は切れ、それでも何度も掘る。

ブーンはそれを見ていることしかできなかった。
いや、弟者が手を貸すなと言っているように思えていた。



少ししたら、古錆びた、お菓子を入れるような箱が出てきた。
兄者はボロボロになった手など目もくれず、箱を開ける。

中に入っていたのは色褪せた紙に書かれた絵と、手紙のようなもの。
兄者は絵と手紙を見て、力なく笑う。
ブーンが立ちつくしていると、兄者が立ち上がり、家の方へと歩いて行く。

ブーンは兄者の後に続くように家に向かう。
その間は会話などなく、何か寂しさだけを感じられた。

兄者が扉を開けると、帰ってきていた母者と妹者が出迎える。
その二人は兄者を見て驚いた様子だったが、彼の手を見てさらに驚きを大きくした。

そして一つ、ブーンの体に変化があった。
二つあった違和感が、今、完璧に一つになった。

左足から完全に弟者の意識がなくなる。
ブーンは俯き肩を震わせた。

だけどここで泣くわけにはいかない。
ブーンは思いっきり天井を見上げ、目を拭う。

@#_、_@
 (  ノ`)「洗濯した服は鞄に戻しておいたよ」

母者からの言葉聞いて、決心する。
行かなくてはならない、と。



もう次の目的地に向かわなきゃ。

そのことを流石家に伝える。
母者は「そうか」と笑っていた、その瞳は少し潤んでいた。

妹者は、えー、とがっかりしていた。
好かれていたのだろうか、と少し嬉しくなる。

兄者はブーンを見て――――。
いや、ブーンの左足を見ながら言い放つ。

( ´_ゝ`)「その足、置いて行ってくれないか?」

静かに、冷たく、当たり前のように。



ブーンは黙りこくる。
母者は兄者に怒鳴り声を浴びせていた。

兄者は、冗談だから気にするな、と言う。
だけどブーンは首を振り、答える。

地面を見つめたまま、震えた声で。

(; ω )「悪いのは僕なんですお・・・。自分だけ生きてて。
       本当ならこの足だって、返さなければならないのに」

どうして誰も責めなかった。
なぜ快く迎え入れてくれた。
なんで――――。

そこでブーンの頬に衝撃が走った。
ブーンは尻もちをつき、見上げる。

兄者が右手で拳を作り、ブーンを殴ったのだ。

( ´_ゝ`)「ふざけるな」


兄者は続ける。

( ´_ゝ`)「お前はきっと誰かに責めてもらいたかったんだろうな」

ブーンは咄嗟に首を横に振るが、その通りだった。
兄者はブーンに怒鳴り声を浴びせる。

(#´_ゝ`)「ふざけるな!それはもうお前の足なんだ、手だってそうだ!!
       責められて楽になりたいか?だったらいくらでも責めてやるよ。だけどそうじゃないだろう?」

(#´_ゝ`)「お前がいつまでもそうしてるとな、そいつらが迷惑なんだよ!
       死んだら終わりなのに、もう一度チャンスをン貰えたんだぞ。むしろ感謝するぐらいだ」

(#´_ゝ`)「どんな本を・・・」

(#;_ゝ;)「どんなに本を読んでも、人に再会する方法は載っていなかった」

( ;_ゝ;)「それどころか、死に対しての絶望感が積もっていくばかりだった。
なのにこうしてもう一度会わせてくれた。誰も・・・責めるわけないだろう」

兄者はブーンの胸倉を掴み何度も叫ぶ。
母者も泣いていた、妹者は状況を理解していないようで、困った様子だ。

ブーンもいつの間にか涙を流していた。


2人は母者になだめられ、テーブルの椅子に座らされる。

( ´_ゝ`)「殴って悪かったな」

目を赤く腫らした兄者が謝る。
それに対してブーンも同じように謝り、お互いに気まずそうに微笑んだ。

ちょうど昼時ということもあり、昼食を食べてから出発することにした。
普通の旅人だったらここまで急いだりはしないだろう、だがブーンは変わっている。

そうしている間も違和感はブーンを引っ張る。
食べたら行くよ、だからもう少し待って。

母者はブーンの鞄の脇に小袋を置く。
食べ物入ってるから持って行きな、と豪快に笑う。

( ^ω^) 「ありがとうございますお!」

ブーンは食事を終え、一息つくと、椅子から立ち上がる。
まだ陽は高い、少しでも前に――――。



ブーンが荷物を背負うと、妹者が玄関の扉を開ける。

l从・∀・ノ!リ人「内藤!ちっちゃい兄者にあったらよろしくなのじゃ。
        おっきい兄者にそっくりなのじゃ!!」

妹者は弟者が死んだことを知らない。
今もどこかにいると思って――――いや、いるんだ。

そうだよ、弟者はまた歩き続けるんだ。

( ´_ゝ`)「ちなみに弟者は俺とそっくりじゃないぞ」

( ^ω^) 「お?」

( ´_ゝ`)「そっくりなら、俺はもっと自分を好きになれていたはずだからな」

ブーンはそれを聞いて笑うと、兄者に言う。

( ^ω^)「今からでも遅くないお」

それを聞いた兄者は「そうか、そうなのかもな」と呟く。
母者は妹者の頭に手を乗せブーンに声をかける。

@#_、_@
 (  ノ`)「いつ帰ってきたっていいんだよ」

その言葉は、ブーンと弟者、両方に向けられていた。


( ^ω^)「お世話になりましたお。父者さんにもよろしくお伝えください」

ブーンは深くお辞儀をした後、振り返る。
ゆるい斜面は下り坂、そこから街を見て、海を見る。

道に一歩踏み出して、後は次の目的に向かって歩き出す。
弟者は今も歩いている。

後ろからは流石家の人たちの見送りの声が聞こえていた。

ブーンは一度だけ振り返り、大きく手を振った。



@#_、_@
 (  ノ`)「行っちまったね」

母者が何気なくつぶやいた一言に兄者は「ああ」と返す。
兄者はブーンではなく、どこか遠くを見ている。
見送り終えた妹者は部屋に行ったようだった。

@#_、_@
 (  ノ`)「にしてもあんたが外に出るなんて珍しいね。手まで怪我して・・・ん?」

母者は兄者が傷だらけの手に握っている物に気づく。
それはなんだいと言う質問の声に、兄者はそれを母者に軽く投げる。

@#_、_@
 (  ノ`)「・・・はは」

母者は目を細めてそれを見て、口元を緩める。
クレヨンで描かれた、兄者と弟者が小さい頃描いた不器用な絵。
背景には海や山、きっと彼らが本で読んだであろう世界が描かれている。

( ´_ゝ`)「こんな手紙もあるぞ」

母者はそれを受け取り読む。
絵と比べたらだいぶ新しい紙に書かれている。

本当に一言だけ。




               「靴はくれてやる、さっさと靴紐を結べ」





@#_、_@
 (  ノ`)「あの子らしいね。で、あんたはいつまで大人の真似事をしているつもりだい?」

母者の一言に兄者は苦笑いで返す。
そうだ、旅をするにはまだ遅くない。

( ´_ゝ`)「知識ってさ、いくら溜めても使わなきゃ意味がないんだよ」

@#_、_@
 (  ノ`)「だったら使いなさい。履いて行く靴はあるんだろう?」

母者が言う、笑いながらも凛とした表情で。

( ´_ゝ`)「そうするよ。もう休憩は終わりだ。宝物を探しに行くんだ」

弟者が見た景色を探そう。
弟者がいけなかった場所に行って、あいつに言うんだ「ざまぁみろ」って。
そして、宝物の埋まる場所に帰ってくるんだ。

――――弟者と一緒に。

兄者は駆け足で自室へと上がっていく。
きっと書斎の利用可数も極端に減るだろう。





母者はやれやれといった様子で椅子に凭れる。
やっぱり似てるよあんたら兄弟は。

自分のやりたい事をしなきゃ駄目だ。
周りの目なんて気にする必要はないのさ。
転んでも起きて、地面踏みしめな。

わがまま言っても構わないさ。

「子供は子供でいるのが一番大人だよ」


母者は一人きりの空間でひっそりと呟いた。




<第3話 波の上、紅い街と結ばれる靴紐> END









出典:( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです
リンク:http://yutori.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1222512304/

(・∀・): 52 | (・A・): 33

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