危なかった

2009/08/07 01:05 登録: えっちな名無しさん

これは俺がまだ小学3年くらいの頃の話。
当時の記憶なんてほとんど残ってないのだが、この出来事だけはまだ鮮明に覚えている。
まあ、それほど印象に強く残ったってことだろう。

その頃の俺は、まだ仲の良い友達が居なかったので、よく弟と遊んでいた。
2つ下の弟は当時小学1年。ちょっと脳に障害を持って上手く喋ることが出来なった(いわゆる失語症)。だから弟との遊びは、言葉が要らないものが多かった。

俺の家は学校まで徒歩50分くらい(かなり田舎^^;)で、近くには田んぼや川や山があるだけだった。その日は弟と遊ぶために急いで学校から帰ってきて、すぐ遊びに出かけた。場所はいつもの山。
学校とは反対の方角にあるその山は、まだ当時はしっかり舗装された道はなく、足場の悪い道をそれも木の間を縫って歩かなければいけない。当然危険だということで親には禁止されていたが、それを守るはずもなく結構頻繁に遊びに来ていた。
大体いつも16時半ごろから登り始めて、頂上に着くのが17時くらい。そこでちょっと遊んだ後、山のふもとに戻ってくるのが17時半すぎという子供ながらタイトなスケジュールだった。

その日はいつもの「俺が前・弟が後ろ」という並びで歩いていた。俺は弟を引き離そうとかなり速めに歩き、弟がそれに負けずと着いてくるという、競争のようなものをして楽しんでいたのだと思う。すでに結構慣れたもので、かなり早く登れるようになっていた。
だがその日、いつもと違ったことが起きた。半分ぐらい登ったあたりだったと思う、俺は男の低い叫び声が聞こえたような気がして、少し離れて後ろにいる弟を待ち、その事を尋ねてみた。だが、弟は何も聞こえなかったらしい。なので、気のせいってことにしてすぐに歩き出した。しかし、すぐにまたさっきの声が聞こえてきた。しかも今度はさっきよりも大きな声で。今度は弟にも聞こえたらしく、怪訝そうな顔をしていた。
こういう時やめとけばいいのだが、好奇心旺盛な頃だったので、その声の正体をつきとめたいと思い、声の方へと近づいていくことにした。親にチクられたら困るので見つからないように音も立てずにそっと歩く。

その声は、近づくにつれてそれに伴ってどんどん低くなっていって、その声の発信源まで行くと、それはもう声とは呼べないような、唸り声のようなものになっていた(TVのスローモーションの時の声をさらに低くした感じ)。
そのとき、ふと後ろの方に弟以外の気配を感じた俺は、怖い気持ちをなんとか抑えて振り返った。しかし、後ろには弟がいるだけで他には何も居なかった。
ほっとしていると、さっきまで聞こえていた声のようなものが急に聞こえなくなったのに気づく。
何だが気味が悪くなって、それに怖がりの弟には限界だろうと、再び振り返ろうとしたその瞬間、弟の口は異様なほど大きく開き、それと反比例するかのような、異常な低さの声を発し始めた。顔は俺の方を向いているのに、目の視点は合ってない。その声は何を言っているのか全然分からないがとにかく低い。当然弟の声ではなかった。
「あ、これはやばい」と咄嗟に思った俺は、弟の手を引っ張って山のふもとまで一気に駆け下りた。その間、弟の目線はあってないのに俺の方をじっと見て、ずっと低い声で何かを発している。正直かなり怖かったが、なぜかこれは自分の責任だと思い、必死に走った。
ふもとまでくると、すっかり暗くなっていた。外灯なんてないのでかなりの暗さ。弟はその頃には普通に戻っていたが、山を降りてくる間の記憶はないらしい。
家に帰った後もそのことを親に言えるはずもなく、あれは何だったのか分からないが、その日以来、あの山には行かなくなった。

それから数年ほど経った家での夕食の時間、なぜか忘れたけどあの山の話になった。
親が言うにはあの山には昔から変な噂があるのだという。
その噂というのも、子供が2人であの山に行くと、どこからともなく声が聞こえてくる。そしてその声の方に歩いていくとその声は聞こえなくなるのだが、その後、子供の内1人が変な言葉を発し始める。この噂が怖いのは、その言葉の意味を理解した残りの子供は、その後数ヶ月経たずに死んでしまうところ。
自分の体験談とそっくりだったのでかなり鳥肌が立ったが、もう何年も前の出来事なので、自分は無事で良かったとほっとしていた。
その日の夜、ふと思った。もし、弟が普通に喋れていたなら今頃俺は・・・。
弟の代わりに死んでいたんだろう。

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