妻が山で元カレと

2009/09/17 18:32 登録: ちントレア

「ケン【続】」で書ききれなかった登山ネタを書いてみました。
(今回の祐人、敬恵、沙織は他の話と関連しません)
「きゃあ!!」山を登っていた部下の沙織(21)が悲鳴とともに俺・平岡祐人(25)に向かって転げ落ちてきた。
ぶつかった弾みで俺は突き飛ばされ、がけの下に転がり落ちた。
視界がぐるぐる回り、眼前には川が。
もうだめだ……と思ったとき、木にぶつかって体が止まった。
立ち上がろうとするが、全身が痛くて動くことができない。

「平岡係長、大丈夫ですか〜」沙織と、経理課の奈津実が木に掴まりながらこちらに向かってきた……


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幹事は何を考えているのか、今年の社員旅行は登山だった。宿は民宿だ。
同じ会社に勤める妻の敬恵(たかえ)も一緒に参加していたが、部署が違うため別々に行動していた。
バスで到着した後、部署ごとに山頂を目指したところ、部下の沙織が慣れない山道を新品のスニーカーで歩き、足の痛みを訴えたため俺が付き添うことに。もう一人、沙織と親しい経理課の奈津実も一緒に、隊列からはるか離れた最後尾を登っていた。
「山を下りる?」立ち止まった沙織に声を掛けた。
「沙織ちゃん、無理しなくてもいいんだよ」と奈津実も心配そうにのぞき込むが、
「イヤです。みんなで頂上に登りたいから……もう少し頑張ります」と山道を進み始めた。奈津実が慌てて沙織の前に出る。
最後尾の俺は、目の前をゆっくり登っていく沙織の尻が密かに気になって仕方がなかった。
ハアハアと息を喘がせ、丸く膨らんだデニムのジーンズ越しに尻がむくむくと動いているのを密かに楽しんでいると、沙織が脚を踏み外し、転倒して……突き飛ばされ……

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沙織は、短大を出た後、新卒で入社し、俺の部下になった。
入社当時は要領が悪くて、使えない部下だと思ったが、負けず嫌いな性格から俺を質問攻めにしたり、進んで遅くまで残業するなど努力して、今では俺の片腕となっている。
ちょっと背が低いものの、丸い顔に大きな瞳にむちっとした尻。胸はBかCぐらいか?
「係長♪」と甘えた声で質問してくる仕草がかわいいけど、妻がいる身では手を出すわけにはいかない。彼女からもアプローチをかけられることはなかった。
………………………………………………

「平岡さん!!、すみません」沙織がすまなさそうに俺に声を掛けた。
「沙織ちゃんは大丈夫なの?」「はい、転んだだけですみました……課長は?」
「ごめん、痛くて立ち上がれない……」胸が痛むので、かすれたような声しか出ない。
「どうしよう」
「民宿のご主人に連絡して、救助を要請してもらおう」
沙織は電話を取り出すが、圏外で使えない。俺のも同様。
「ど、どうしよう……」
「悪いけど、電波の届くところまで山を下りて……一人じゃ危ないから奈津実さんと一緒に」
「係長は?」
「俺はここにいるよ。どうせ動けないし」
「はい……すみません。行ってきます」
奈津実さんは、降り口の木に目印のバンダナを結びつけると、動転している沙織を連れて山を下りていった。
脚と腰をやられて立つことができない。まあ、動かずにいると痛くないので、骨折ではないようだ。
リュックから水筒を取り出し、水を飲むと周りの景色を見渡した。
眼下に広がるのは大きな川と河原。対岸には岩場と灌木が広がっている。

と、対岸に人が動いているのが見えた。対岸は立入禁止のはずなのに。
距離的には5階建てのビルの上から広い道路を挟んで下を見下ろしているぐらいの距離。

「おーい」と大声を出しかけたが、胸が痛むので大声はだせなかった。人の動きを見ていると、男女のようで、抱き合ってキスをしている。
こっちは苦しんでいるのに、山の中でデートかよ…………あれ?

女の服に見覚えがある。妻の敬恵だ!! 相手は妻の上司、浩一郎。

やっぱり…………あいつら。

……………………………………
妻の敬恵は俺より4つ年上の29歳。入社当時の上司だった。
歓迎会のあと、敬恵にホテルへ誘われてエッチ。
敬恵には一つ年上の彼氏がいたが「彼が浮気したので、私も仕返しにスリルを楽しむ」とか言って、彼女のいない俺を度々誘っていた。

程なくして敬恵は妊娠。当時、彼氏だった浩一郎とは避妊していたし、浩一郎の長期出張から計算すると確実に俺の子。
敬恵は「子どものために結婚しよう」と言った。信仰上の理由かも知れないし、母性本能かもしれない。
当時、つきあっている女性がいなかった俺は、いわば回りから引きずられる形で婚約した。
結婚前、浩一郎とも話した。土下座する俺に向かって「こんなピッチ、俺には合わないよ。敬恵がお前を選んだのなら仕方ない。祐人、幸せにしてやってくれ」と声を掛けてくれた。
が、俺は知っていた。部屋から出て行った浩一郎が、トイレで咆哮していたことを。
そして、浩一郎は別の営業所へ自ら希望して異動。敬恵も休職した。

戸惑いながらも、女の子が生まれたとき……「俺は、この子の父親として生きていく」と誓った。
ところが、せっかく生まれた娘に不治の病が見つかった。娘は看護の甲斐もなく、1歳の誕生日間近に天国に召されてしまった。
ぽっかりと穴の空いた俺たちの家庭。敬恵を慰める日々だったが、俺も上手くなぐめられなかったことは分かっていた。敬恵は会社に復職すると、夜遊びをするようになった。
子どもを亡くした辛さを紛らわせているのか、と大目に見ていたのだが…………。

……………………………………

妻と浩一郎は激しいキスをむさぼっている。浩一郎の手が妻の胸をもみしだき始めた。
二人は、唇を離すと、リュックを下ろし、ビニールシートを地面に敷いて座った。俺からは正面から少しずれた位置になる。俺の目の前には木の枝が掛かり、下からは見えづらいはずだ。

浩一郎は、妻のブラウスをはだけ、中に手を入れて揉み始め、妻は気持ちよさそうに仰け反っている。
Dカップの大きな胸を揉みながら浩一郎は妻の上半身の衣類を取り去ってしまった。
白日の下に晒された妻のバストは、浩一郎の動きに合わせて形を変えている。
「おーぃ」と大きな声を上げようと、息を思いっきり吸い込み、お腹に力を入れると胸の痛みが…………くそっ

浩一郎が、ブラウン色をした妻の乳首をしゃぶりだすと、かすかに「ああんっ、ああっ」という声が聞こえた。風向きによって聞こえたり聞こえなかったりする。
妻はバストの下側を擦られると感じるのだが…………奴はちゃんと知っていた。妻は髪を振り乱している。

浩一郎の動きが止まったかと思うと、妻はシートに横たえられ、綿パンとショーツを膝まで降ろされた。あの黒いショーツは、俺がプレゼントしたものだ。
浩一郎はほっそりとした敬恵の脚を開き気味にして股の間に手を入れて動かしている様子で、再び喘ぎ声が聞こえてきた。
気がつくと、俺はジュニアが大きくなって、ジーンズがきつい。体を動かすと腰や脚が痛いのだが、何とか座りやすいように体勢を変えた。

川の向こうでは、全裸となった妻の股間に浩一郎がむしゃぶりついていて、妻の体が時折仰け反っている。…………「あっ、あっ、ああんっ、だめ、逝く、逝くっ……あああああっ」と声がしたかと思うと、妻はぐったりした。

今、ここに沙織や民宿の親父が踏み込んだらどうなるんだろう。妻は笑いものになるのか……と自嘲気味にくすっと笑ったがまだ来る気配は無い。

今度は、浩一郎が自分でズボンとパンツを下ろし、シートに横たわった。
肉棒の大きさまでは分からないが、妻は全裸のまま浩一郎に覆い被さり、頭を上下に動かしている。俺の時はあんなに激しくしてもらっていないのに…………
さらに、妻は浩一郎のシャツも脱がせ、浩一郎の小さな乳首までぺろぺろといやらしく舐めながら肉棒をしごいている。
普段、家では当たり前のように目にしている妻のほっそりした背中も、山の中で見ると妙に色っぽい。ほっそりした体にぶら下がっている妻のバストは下に向かって垂れ、ぶるんぶるんと震えていた。
現実離れした光景に、本当に自分の妻なのか?と目をこらすとやはり、一緒に暮らしている妻だった。

そして……横たわったままの浩一郎の上に、妻が自分からまたがった。
腰をそろそろと下ろしている様子だったが、「ああああんっ」と耳慣れた喘ぎ声が聞こえた。
奥まで入ったのか、背中を仰け反らしている妻。と、浩一郎が下から突き上げ、Dカップの大きな胸を掴んで揉み出した。乳首もこね回している。
一昨日の夜、妻とはあのようにHしたばかり。きっと、あのときのように気持ちよさそうにしているんだよな……と妄想していると、下半身が爆発しそうなのに気がついた。
リュックからハンドタオルを取り出し、ズボンのファスナーを開け、ジュニアを取り出して少し触れるだけで白濁液が出そうになり、タオルでジュニアを包むと、どくどくと ものすごい量が出た。
みんなが戻ってきたらまずい。俺は、大急ぎでジュニアの後始末をした。さらに、タオルをビニール袋に入れて鞄の奥深くに隠し、ジーンズのファスナーを元通りに閉めた。


妻たちの方を見ると、今度は妻が木に手を突き、浩一郎が後ろから貫いていた。
妻は髪を振り乱し、尻を振り立てていて、妻の尻を抱える浩一郎の腰の動きも速くなってきた。
「ああんっ、ああっ、いくっ、いくうううっ」時折妻の声が聞こえる。気のせいか、浩一郎の息づかいも聞こえてくるようだ……。

と、ゴロゴロと山の上の方から音が聞こえた。
うわっ、落石か。川の対岸の山の方から聞こえ、山肌に土煙があがっている。
「ラク!ラク!……落石だぞ!!上を見ろ!」俺は大声で怒鳴った。胸が激しく痛むが、そんなこと言っていられない。

後ろから貫かれていた妻は、腰をよじり、あわてて浩一郎の肉棒を抜くと二人で山の上を見た。
浩一郎が手を引いて、別の場所へ走って逃げる。岩陰に隠れることができたが、二人とも全裸のままだ。
ドッジボール大の石や大量の砂がさっきまでの二人の愛の巣を襲い、リュックや着替えなどの荷物を川の中に流し、一部は埋めていった。
呆然と見つめる二人を別の所からの落石が襲い、再び逃げだした二人。何度も転びながら山肌から河原へ逃げようとしている。落石が収まり、二人は石ころの上に座りこんだ。。

「おーい」と声を掛けようとしたが、胸が痛み、声が出ない。
さっきの落石の時の大声は「火事場の馬鹿力」だったようだ。


「平岡さーん」山の上から沙織の声がした。
手を振ると、人が降りてくる気配がした。沙織を先頭に、民宿の主人や消防団のはっぴを着た人たちがやってきたのだ。
「係長、おまたせ!」「平岡君、大丈夫?痛いところはどこか?」
民宿を親から継ぐ前は山岳ガイドをしていたという民宿の主人、俺の体を触って調べていたが「大丈夫ですよ。救助ヘリは呼ばなくてもそのまま担いでいきしょう」と俺を担ぎ上げようとした。

「ちょっと待ってください」
「何でしょうか?」
「あそこにも遭難者が2名。落石に逢ったようです」俺の指す先には、裸で呆然と座っている浩一郎と妻の姿が。
「なんじゃ、あれ?。裸じゃないか?」
「ええ…………そうみたいですね。落石から逃げてきて、歩けないみたいですよ」
消防団員が山岳無線で連絡をしたあと、「じゃあ、私たちは向こうの救助の段取りに入りますから、○○さん(民宿の主人)はこちらの方をお願いします」と、皆に担ぎ上げられて登山道へ出た。
消防団員はそのまま妻たちの救助に回ることになり、民宿の主人と沙織に肩を支えられ、近くにある森林組合の詰所に向かった。

「沙織さん……重くない?」
「重い……ですけど頑張ります。私の命の恩人ですから」歯を食いしばりながら俺に肩を貸している沙織の息は荒く、長袖Tシャツを膨らませている小さめの胸も息づいている。

森林組合詰所に着くと、経理の奈津実と一緒に診療所の看護師が待機していて、応急手当。
というか、体を動かしたせいか、却って少し痛みが和らいでいた。

「おい、車はどうしたんだ? 誰だ、持ち出したのは?」民宿の主人が尋ねると
「もう一組の遭難者がまっ裸で発見されたらしいので、服を取りに行きました」と看護師。
「まっ裸って、あそこにいたアベックか…………いったいどういうことなんだよ。だいだい、あそこは立入禁止区域なのに……落石がたまにあるから……ああいうの、迷惑なんだよ。ったくもう。」
「まあまあ、そんなに怒らないの」と看護師がたしなめる。
「ごめんね…………平岡さん、もう少し待ってもらえますか?」
「はい、私は大丈夫です。ところで沙織……大丈夫?」
沙織も、靴擦れではれ上がった足を看護師さんに診てもらっていた。
「は、はい……大丈夫です……あいたたたた」


と、詰所の外から人の声がした。「川での遭難者を連れてきたぞ」
俺はどぎまぎした。今朝まで普通に会話していた、いや、さっきまで上司とエッチしていた妻がやってくるのだ……。

消防団のはっぴにくるまれ担架に乗せられた敬恵が入ってきた。はっぴの合わせ目から白い胸元がのぞき、少し青ざめた顔をしている。
「あなた……」敬恵は、俺に気がついたのか、はっとした声で聞いてきた。
「敬恵……」言葉が出ない。
「あなた、どうしたの?」
「崖から転落してここまで担いでもらったんだ。敬恵、服はどうしちゃったの?」
「…………」うつむいてしまった。そうだろう。全裸で他の男とHしていたのだから。

浩一郎の傷は軽い様子で、はっぴを腰に巻いたまま、バツが悪そうに詰所の外でたたずんでいた。

車が上がってきて、俺たちは診療所に運ばれた。その後、軽傷で済んだ浩一郎は、民宿に居づらくなったのか旅行を打ち切ってそのまま電車で帰った。
脚や腰を痛めている俺と敬恵は、実家の親に迎えに来てもらった。
車の中で妻は、俺がどこで遭難したのか気になっているのか、探りを入れていたのが丸わかりだったが、知らん顔していた。

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二人とも満足に歩けないので、お互い自分の実家に引き取られ、面倒をみてもらうことになった。

数日後、妻の敬恵に先駆けて自宅に戻るとともに、会社に出社。
総務で休暇の手続きをして、事務室に入ると、課員が拍手で迎えてくれ、その中から沙織が「無事で良かったです」と、泣きそうな顔をしていた。

だけど、他部署のスタッフを中心に、俺のことを変な顔で見る者もいる。
いぶかしみながら仕事を片付けていると、沙織が「今夜、お時間とれますか?」と尋ねてきたので「いいよ、今夜はどうせ一人だし」とOKする。
(今までも、一緒に残業した後に食事することは時々あり、妻も「食事ぐらいなら」と認めていた。もちろん、本当に食事だけなのは言うまでもない)

レストランでの食事は仕事の話メインだったが、そのあと、夜景が見える公園に移動して欲しいというので車で移動。
駐車場には、カップルのものと思われる車が数台、間隔を開けて止まっている。独身時代、敬恵と「秘密のデート」で使った所でもある。

「沙織ちゃん、着いたよ」
「平岡さん…………あのぉ……奥さんのことなんですけど」沙織はためらいがちに言い始めた。
「あのとき、奥さんと浩一郎さんが山で遭難したとき、服着ていませんでしたよね。それが噂になっています……」
敬恵と浩一郎は、山中で性行為をしているところを落石に襲われたのではないのでと野卑な噂が広まっている。さらに、以前から敬恵と浩一郎の関係がおかしいと言うことも話になっている。注意した方がいいですよ、と沙織は話を締めくくる。

「沙織ちゃん、知っているよ。あの場所からだと丸見えだったから」
「ええっ、本当ですか?」

実は、半年ほど前、結婚したばかりの浩一郎の奥さんが心不全で亡くなり、妻は片付けの手伝いと称して浩一郎の家に出入りしていた。まさか奥さんを亡くしたばかりの浩一郎が妙なことをするはずはない、と思っていた。
俺に接する態度も元気で明るいまま変わらないし、夜のお勤めも普通にしていたので、すっかり信じ切っていたのだが…………。
まさか、そんなことを部下の女の子に言えるはずもないので、黙って景色を見ていると………………

「平岡さん!」沙織ががばと抱きついてきた。
「沙織ちゃん?」俺は背中を抱きしめ返す。
「私……前から平岡さん……いや、祐人さんのこと気になっていたんですけど、奥さんがいるからと……」
「???」
「でも……祐人さん、かわいそうです。それに……」
「それに?」
「あのとき、命がけで私のことかばってくれて、ありがとうございました。あの……」
そう言うと、唇を突き出して目をつぶった。
おでこにチュ、と返すと、沙織は顔の位置をずらして一瞬だけ唇を押しつけてきた。

「沙織ちゃん……」俺は、抱きしめ返した。山の中で悶え狂う妻の肢体を思い出したから、体が熱くなった。
抱きしめた手を、そのまま小振りの胸にずらしていくと
「ごめんなさい。それは許してください」と、沙織がためらいがちに言う。
俺は、はっと手を離した。
「私……祐人さんのこと好きです。あなたの部下になってからずっと……」
「沙織ちゃん……」
「でも、奥さんの居る人とは浮気したくありません。」
「…………」
「私、私、待っていてもいいですか? 待っていたい……ううっ、私、何言っているのかしら……すみません」そう言うと、泣き伏せてしまった。俺は、黙って車を出すと、沙織の車が止めてある会社駐車場に向かった。着くと沙織は俺の手をしばらく握りしめたあと、車に向かって駆けていった。
「待つって、何を待とうとしているのか?」沙織の気持ちをどう受け止めればいいのだろうか?……俺は寝付けなかった。


翌日、敬恵の父親から「だいぶ良くなったから娘の見舞いに来てくれ」と電話があり、夕方、菓子折を持って出向いた。
敬恵は、かつての勉強部屋に寝起きしていて、少々疲れた顔をしていた。
「どう?」
「だいぶよくなった。ごめんね、家の方、大変でしょ」腕と脚に包帯を巻いた妻は弱々しく答えた。

しばらく沈黙が続いた。怪我の原因となったことの話題に切り出せないでいたから。

「リュックや洋服、川で見つかったの?」思い切って尋ねると
「えっ、どうして荷物が川に流されたって知っているの?」とびっくりした様子で聞き返した後、はっとなり、俺の顔をまじまじと見つめていた。

「まだるっこしい話はすっ飛ばすと、俺、見ていたんだ。川の対岸から」
「えっ」
「俺が遭難したの、川向かいの登山道なんだ」
「やっぱり…………すると『落石だ!』と言ってくれたの、やっぱりあなただったのね」
「うん」
ここで、話のすりあわせをした。

「あれ1回だけなら敬恵と浩一郎に注意した上で許しても良かったんだけど、……続いているんでしょ、浩一郎と」
「はい……奥さんが亡くなった後から……時々逢っていました……ごめんなさい!」
敬恵は、浩一郎が高校の時の初体験の相手で、一旦別れたものの敬恵が浩一郎の後を追う形で同じ会社に入り、つきあいを再開。そんなときに浩一郎の浮気が原因で敬恵は俺と火遊びに走り、子供を授かった。
うちの子供が亡くなったときには、浩一郎は新婚ほやほや。
その時は浩一郎のことはあきらめていて、俺と別れようとは思わなかったが、浩一郎の奥さんが結婚後間もなく亡くなり、寂しさのどん底にいる浩一郎を慰めている内にかつての想いが蘇って体を許してしまった、と敬恵は告白した。(その後、浩一郎は人事異動でもとの営業所に戻ってきてしまう)

俺は、何と言っていいか分からなかった。3年に満たない結婚生活だったが、敬恵のことは妻として愛していたつもりだった。いや、愛そうとしていただけなのか? とにかく、子どものために幸せな家庭を作ろうとしたのは間違いない。
会社の女の子の誘惑は全てはねのけ、22歳の若さで父親教室に通い、年上のパパさんたちに冷やかされたり励まされたりしたことや、赤ちゃんを手にしたときの喜び。
不治の病が見つかったときはショックだったけど、天国に召されるまでの間、悔いの残らないように一緒の時間を過ごした。そして、1歳の誕生日を目前にして天国に召された娘。思い出として大切にしたかった。

けど、敬恵の心は浩一郎に蝕まれ、奪われていた。
彼の話をするとき、敬恵の瞳からはお詫びの感情は感じられなかった。
高校時代から10年以上の間、何回も挫折を味わっている二人だけに、結びつきはより強固になっているに違いない。

また沈黙のひとときが流れた。そして…………

「敬恵」
「はい」
「やっぱり、奴のことが好きなんだよね」
「…………」妻は否定しなかった。
「浩一郎の所へ帰る?」
「えっ」
「奴がバツイチでも経産婦でもいいよ、ってお前を受け入れるんだったら、返すよ」
「あなた…………」
「考えてみたら俺が奴からお前を奪った形なんだよな」邪魔者は俺だったのかもしれない。

「うわーん」敬恵が畳に突っ伏した。
「あなたのことは好きです。一緒にいるつもりだったけど…………でも、やっぱり彼のこと…………ごめんなさい」
俺は背中を撫でながら「いいんだよ。よく本当のことをいってくれた。ありがとう」
「えっ」
「隠れて浮気されて、笑いものになるよりも、こういう正直な敬恵の方が好きだよ」
「あ、ありがとう」
「まず、浩一郎の気持ちを聞いてほしい。俺、お前のことは一人にはさせたくない」

「は、はい。聞いてみます。……………………ところで、ねえ、祐人」
「なに?」
「あなたも、きっと幸せになれるよ。あなたのこと、好きで好きでたまらない、っていう人がきっと現れるから……私と娘のことは思い出だけにして、その子の気持ちを受け入れてあげて」
「………………」
「だって、あなたは愛するよりも愛される方が幸せになれる人。 私の気持ちには溢れるような愛で応えてくれたけど、自分からは…………」
「敬恵…………」
「いままで、本当にありがとう…………ごめんなさい」
俺たちは抱き合い、多分最後になるであろうキスを交わした。
抱きしめた細い背中が揺れていた。

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その後、離婚は円満に成立。敬恵からは、頭金とローンを払いはじめた家だけもらった。
妻と浩一郎は会社を退社し、浩一郎の家で同居を始めた。半年後に再婚するという。

しばらくは職場での噂の嵐に耐えていたが、落ち着いた頃、沙織から食事に誘われた。
「あの……おつかれさまです。色々大変でしたね」
「沙織ちゃん、ありがとう」
「取り込んでいるところ、悪いんですけど。この間の話…………」
「本当にこんなバツイチの俺でもいいの?」

「はい、奥さんのいる人を誘ったり奪うことはしたくなかったから黙っていたけど、入社してからずっとあなたのこと好きでした。特に、自分の身代わりになって崖に転落したときから、食事ものどが通らないぐらい好きです」
俺は、沙織を抱きしめると、今度は本格的にキスをした。

沙織の両親は一時難色を示したが、俺が離婚に至る事情を説明して納得してもらった。

沙織は、婚約するまでベッドは待って欲しいと言い、敬恵と軽率な行為をして3年間を棒に振った俺は、沙織の要望を受け入れた。
結納を済ませた夜、初めてベッドを共にしたが、何と沙織はバージンだった。
デート中、(俺も無理に体を求めなかったが)エッチを望まなかったのはこのためだと納得。
恥ずかしさに身もだえながら真っ白な体を横たえ、苦痛に顔を歪め、ことが済んだ後は涙を流していた沙織。
大切に取っておいたものを捧げてくれた沙織の気持ちに感動した俺は、ベッドの上で一生の愛と節操を守ることを誓った。


半年後、会社有志主催の結婚式二次会。
そこに、秘密ゲストとして敬恵と浩一郎がよばれていた。(沙織が許可していたらしい)
敬恵は、俺たちの所に駆け寄ると「祐人、沙織ちゃん!!おめでとう」と感極まって一人ではしゃいでいた。あまりのはしゃぎように「敬恵、そんなに騒ぐとお腹の子がびっくりするぞ!!」と浩一郎がたしなめている。
嵐のように去っていったマタニティドレス姿の敬恵をぼんやり見ていると
「祐人、大丈夫よ。あなたが過ごした3年間の回り道は私たちがこれから埋めていこうよ。まだあなた26でしょ」と、沙織が腕を掴んで耳元でささやいた…………


この後、再び敬恵から聞いた話だと、2年前の飲み会で沙織がべろべろに酔わされた際、同僚が「好きな人は?」と尋ねたら俺の名前が出てきた。その話を注進した者がいて、敬恵は沙織が俺のことを好きだと知っていた。その時、ちょうど自分も浮気していたので、気軽に食事ぐらいならいいよ、と送り出してくれたというわけ。

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10年後。大きな尻を振りながら登山道を登る沙織がいた。帽子からはみ出したポニーテールが揺れ、リュックを擦っている。
沙織の後ろには、泣きながら登山をする我が子・翔也がいた。
社員旅行では頂上までたどり着けなかったので、結婚式の翌年、リベンジ登山を計画したが、沙織が妊娠してしまい、中止。
その子が小3になったので登山に連れてきたのだ。

「翔也、大丈夫?。体に無理があるのなら中止しても……お父さんにおぶってもらって山を下りる??」と沙織は母親の表情で子どもの顔をのぞき込む。
子どもは「いやだ!!絶対に頂上に登ってやる!!」と言うと、べそをかきながらも山道を登っていく。かつて、沙織が転倒し、俺が転落した場所では自然と目が合い、微笑み合う。いつ見ても素敵な笑顔の沙織。かわいらしくて、とても31には見えない。

俺は、頂上近くなると下山のことは口にせず、子どもを励まし続けた。
ついに、10年前には登れなかった頂上へ。

「翔也、見てみろ! あの麓からお前は歩いてきたんだ! 全部お前だけの力で」
さっきの泣きべそ顔から一気に感動の表情へと翔也の顔が変わった。
半分呆けたような表情で、双眼鏡を手に景色を見続けている。

「やっとここに着くことができたわ」
「えっ」
「私、夢みたい……。入社して、あなたの部下になって、あの社員旅行。それから一緒になれて、翔也が生まれて……今日までのこと……」
「うん」
「ここに来れて本当によかった。祐人、大好き。」

妻の沙織は、そう言うと俺の首っ玉にぶら下がってきたので、子どもの背中を見ながら一瞬だけキスをした。


出典:オリジナル
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(・∀・): 91 | (・A・): 64

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