鎌倉日記@秋の連休(その1)

2009/09/23 09:08 登録: えっちな名無しさん

秋の夕の出来事、一瞬萌えた肌の白さに〜

(その1)秋の連休の敬老の日の鎌倉駅のホーム、この日も出勤だったけど僕は残業はしないで定時退社で鎌倉まで戻って来た。明日明後日は休める。日中は近場への行楽で大混雑していたらしい鎌倉駅のホームもほとんどいつもの夕方遅くの閑散とした風情に戻っていた。

ホームのはずれのベンチに肌がビックリするほど白い若い母親と、疲れたのかベンチで母親に寄りかかって眠り呆けている低学年の幼児の姿が目にとまった。「眠っちゃいましたね!」「一日歩き疲れて・・、自分から遊びに行きたいと言っていたのに」「どこまで帰るんですか?」「古河まで、小金井行きに乗ればそのままで・・」
あと15分はある、電車が来るまでに。多分古河まで2時間以上かかるだろう。
休み前日の気安さが話を饒舌にした。「もう電車も空いてはいるけど、眠いのだろうな、でも目を覚ましたら今度はお腹がすいたと愚図るかも知れませんね、何か買っておかないと困りますよ、車内販売もないし。」
この時点で僕は半分悪魔になっていたのだと思う。
「もう一日休みは無いのですか?」
「休むのは良いのですが、日帰りの積りだったし、今日は連休でどこに行っても大混雑で、多分(旅館も)満員だからどうしても帰らないと・・」「さっき軽い夕食を取った時までは元気が残っていたみたいですけど・・」
女性が泊まりの心配と言えば、子供と自分の着替えとかだ。結婚前嫁に僕が迫って散々説教された男の勝手だと言うそれだ、きちんと教訓として生きている。

今実家には母親と出戻りの妹とその息子がいる。祖父の代から洋品店を商っていて、代が替わってからは商家が結構広かったのを改装して女性向けの旅館を経営している。その構えの古さがレトロ調のペンションなんて雑誌に取り上げたいと言う話もあった。多分、今日は満室だろう、客室は。
僕が事情があって再び実家に戻る時に、丁度旅館に改装する話があって、大部分を僕がお金を用意した。だから、単身には大き過ぎる続き部屋を作って貰えた。寝る場所はある、残りは・・旅館の暇な時期に昔から続けている、洋服の仕立てと修理の仕事を母と妹がしている。洋品店だった時代の在庫も少しばかり残してあった筈だ。女性向けにそこそこ身の回りの用品は準備が役立つ。

「僕の実家がすぐ近くで旅館をしていて、二人位なら何とかなりますよ。子供は一晩寝れば朝にはすっかり疲れは忘れて、また飛び回り始めるものです。母と妹もいますから・・・」
残りの半分は、手を差し伸べる救世主の顔で。
その若い母親の顔がパッと輝いたように見えた。生活の疲れなどは微塵も見せない若い肌の顔が黙ってお願いする・・と返事をしていた。「でも急にお願いしては、色々そちらで用意だって・・・」「旅館なんて、いつもお客を待っていて用意はすることが仕事ですよ。別にお料理を売り物にしている場所ではないし、B&Bみたいなものです」
「切符だって駅で訳を話せば何とかしてくれますよ。」これは出まかせだったが、そこは主婦の計算が勝った様子だった。駅を出る時に切符は僕が預かって、それはそのまま・・・

駅を出ると、普通の家並みを抜けてすぐに普通の商店の脇の玄関の風情の我が家に辿り着いた。母親はその子供を重そうだけどしっかり抱きかかえて、大型のトートバックみたいな荷物一つの軽装の姿で母親と妹に迎えられた。突然泊めて欲しいと言う女性の客も少なくなく、もっと遅い時間でも飛び込みも珍しくない。大した宣伝もしてないのに、口コミが広がっているらしい。
「可愛い坊やが寝てしまって重かったでしょう・・」母親と妹は異口同音に子供を母親に代わって受け取って長椅子に横たえ、宿帳を母親が書くのを手伝った。「簡単な着替えもお部屋に用意しておきましたから。」さっき、駅のホームから事務的にお客が母子連れで行くと携帯したら、 妹から「日帰りで見えた方? 年恰好は私と同じ? 子供は小学生低学年?」と矢継ぎ早に質問があって、普段から用意してあるお泊りセットを引っ張り出してそれを部屋に用意したのだった。

我が家は普通の商家を改装したので、旅館とかペンション風情とはいささか趣が異なる。商売に使う客室のすぐ隣が僕の私室になっていて、ちょっと眼には区別が付かない。長い廊下の一番奥が僕の部屋でその手前に出口・非常階段もあるので普段は扉を閉めて、女性専用の旅館に僕が出入りしないように気遣っている。だから1階の厨房とか母や妹の部屋との行き来は、専用の別の通路と階段がある。そこは妹がそつなく部屋への案内を引き取って、僕の部屋の予備の寝室を母子の部屋に当てて、「ここがお部屋です。普段は客用には使わないのでそこが仕切りの扉です。兄の部屋には向こうから回って入ります、一応女性専用の旅館なので。バス・トイレは廊下の反対側が専用です、昔アウトバスだった時代に使っていました。兄は下のを使いますからお客様だけで使って下さい。」

母親は安心顔で説明を聞くのもそこそこに、子供を寝かしつけるのに気持ちが一杯らしかったと、妹は言っていた。「ここの扉を閉めておけば、他のお客さんの目には留まりませんから。」と言って境の扉を閉めておいたと、妹の悪魔の顔が告げていた。

その間、僕は家族用の廊下を回って奥から部屋に戻って持ち物を仕舞おうと、裏の階段を登った。丁度その時目に入ったのが、ジーンズとTシャツの昼間の恰好でなくて、多分下着姿の母親が息子にシャワーを浴びさせようと廊下を横断して浴室に入る時だった。一瞬僕が足を止めて、小さく失礼と声を上げると、気にもならぬ様子で、「奥さま、綺麗な方だったのね。」と訳知り顔で納得の表情で語り掛けられた。予備の寝室には嫁のありし日の裸婦像が掛けてある。もう時間は経ったが、語り掛ける機会も少なめになった気がしていた頃だ。電話して用意をしてくれていた妹も仏心か鬼心か、その絵はそのままにしていた。

「子供は着たままだと暑がって寝冷えをしてしまうの、汗を落とさないと夜中に目を覚ましてしまうでしょうし、私の田舎は寝るときは何も着ないのが習慣なので。」それは僕がクラスメートと彼の田舎に遊びに行って、夜中に寝ぼけ眼で風呂から上がったばかりの姿の彼の妹に出っ食わして肝をつぶした覚えがある。入浴後に湯ざめをしない内に布団に入ると言う習慣に出会った訳。
僕がその田舎の名前を言うと、その田舎の近くだと母親もうなずいた。そんなうたかたの会話を交わして、僕は夕食に戻って母親・妹と遅い夕食を囲んだ、母と妹はお客の為の朝食の用意の段取りだけは夜の内に済ませておく。家族との他愛ない会話、「古河って茨城県なのね、年は私と同じ」これは妹が、宿帳への記入が嘘偽りでないかを、ちょっとした話題で判断する。その街がどこの県か、合併前は何と呼んだ町名だったのか、街の名産・お土産は?そんな会話を客と交わすのが習慣だ。「せっかくの連休で父親と一緒じゃないのは、可哀そう」と母親からの感想。客の素性を詮索しないのが旅館の客商売の秘訣ではあるが、事故だけは避けたいので最低限度の探りは入れる。宿泊代は前金だから逃げられる心配はないが、部屋が使えなくなって遊ばすのが一番困る。同業者からの入れ知恵だ。

そこまでは救世主の心で連れてきた僕も、さっきのバス前の姿態が頭に浮かんで、ホームで見かけた首と胸がチラ見えする肌の白さが、他の部分も透明で透き通る様な輝きなのを思い出して、心が浮き立つような揺らぎを覚えた。「××(嫁)の事が分かったみたいだね。」「もしかすると、父親で訳ありかも」「××を忘れていないんだね、(見かけて声を掛けて連れてきたなんて)なんだか似ているよ」母親まで探りの会話に加わって来る。確かに、嫁とずっと前付き合い始めた頃の第一印象に似てなくもない。翌日が休みの気安さで、ビール少々が僕の頭を揺すって、救世主と悪魔をかき混ぜている様な気持で夕食と会話を終えた。 (続く)


出典:残された二人のめぐり会い
リンク:unknown

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