憧れの1人暮らし隣人に恋(を)した(3/6)
2009/09/27 14:40 登録: 痛(。・_・。)風
■人物紹介
二宮 光輝(>>1):303号室。映像関係会社勤務、ディレクターの卵。
新田 まりあ:302号室。スレタイの隣人。後に二宮と交際するが、2008年に悟と結婚予定。
油田 靖男:301号室。まりあと同じ大学に通うヲタ、意外に社交性あり。二宮のライバル。
渡辺:304号室。二宮の同僚。カメラマンの卵。二宮に恋愛感情は全くなし。
赤松:いやな上司。二宮のミスにより、6ヶ月の減給処分を食らう。
志村:二宮を嫌うフリーランスの先輩
田畑:孤高の天才演出家。変人の先輩
南:アホだけど根は良い上司
川田:二宮が尊敬するディレクター。キャバ好きの先輩(フリーランス)
大宮:会社でも怖いと評判のカメラマン、渡辺の先輩上司
悟:二宮の親友。
おふくろ:女手一つで二宮を育てたJ( 'ー`)し
■時系列
1982年、二宮誕生。
1995年、二宮グレる。
2001年4月、大学入学。
2005年3月、大学卒業。
2005年4月、二宮、引越と就職。
2007年1月、二宮、親友とモトカノの婚約を知る。
2008年、まりあと悟が結婚(予定)
■マンションフロアの見取り図(二宮作成)
(油田) (まりあ)
301号 302号
ーーーーーーーーーーーーー
303号(二宮)
廊下
304号(渡辺)
ーーーーーーーーーーーーー
「EV 「空中」
ホール」
まりあ部屋は正確に言うと隣ではなく向かい隣?
マンドクセーから隣で統一した。(二宮談)
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第12章 終戦まりあ記念日
季節は真夏に突入していた。とにかく暑い。
しかしこの頃の俺は仕事も熱かった!
初ディレクションを無事に成功させた俺は
その後も1本、2本と南さんから仕事を貰えた。
例のパブであるが全て全力で取り組んだ。
自分のディレクター業務に加え
川田さんAD業務ももちろん俺の仕事だ。
ディレクター業務にかまけてAD業務を疎かにしては
本末転倒だ。これも全力で取り組む。
更に俺にはもう一つ仕事が増えた。
野球中継のFD(フロアディレクター)である。
中継部門が弱点である、我が社の制作部が
本格的に中継業務へ幅を広げていこうという時期だった。
その急先鋒として俺が指名された。
ディレクターは自社でもフリーでもない
V局のディレクターだ。
局D(TV局のディレクターをこう呼ぶ)は
今までのディレクターとはワケが違う。
いわば放送業界の頂点。親玉だ。
局Dが俺に失格の烙印を押せば、それはすなわち
我が社の制作部は中継業務が出来ないことを意味する。
俺のプレッシャーは頂点にまで達していた。
野球中継のFDは
弁当の手配にはじまり。
チーム広報への挨拶。
スタッフIDの配布。
スタメンの入手。
実況・解説の出迎え。
試合中はスコアの記入(予算のある仕事ではスコアラーが付く)
CMの入りや明け時間のカンペ出し。
などなど多岐に渡る。
今までは台本に沿って撮影していたが
中継は当然のごとし
その場その瞬間に作品が出来上がっていく。
生中継ならばその瞬間にTV電波に乗っている。
台本も進行台本とその名を変えるのだ。
一瞬のミスも許されない。それが中継業務なのだ。
中継の仕事ではよく渡辺と一緒になった。
彼女はまだCA(カメラアシスタント)である。
セッティングでは重い機材を運んで走りまわり。
本番中はカメラのコードをさばく。
そして撤収の時は、再び重い機材を担ぎ
汗まみれになって動きまわった。
地味だが体力的にはかなりハードな仕事だ。
よく怒鳴られていた。
しかし渡辺の目はいつも先を見据えていた。
カメラマンになりたい!
その思いは俺にまでヒシヒシと伝わってきた。
俺も負けてはいられなかった。
渡辺は同期であり、隣人であり、そしてライバルであった。
俺は死に物狂いで中継の仕事を覚え
ある程度局Dの信頼を得ることができた。
仕事が充実していた。
しかしその代償として休みは無かった。
15連勤なんてザラだった。
家に帰るのが週に1日という時もあった。
しかしそれは渡辺だって同じことだ。
この時の俺たちはとにかく仕事に全力だった。
そんなある日。
俺は平日に代休をとることができた。
何もしたくない。
とにかくクーラーの効いた部屋でゴロゴロとしていたい。
というわけで俺はその日
油田と2人、部屋でマンガを読んでいた。
しかしコイツもヒマな奴だぜ。
少しはまりあを見習ってバイトでもしろよっ!
プピィィ〜〜。
コイツ!!人の部屋で屁までこきやがった!!
どんだけくつろいでいるんだよ。
「そうそう。ところで二宮さん」
油田がケツを掻きながら話しかけてきた。
「もうすぐまりあちゃんの誕生日では?」
俺はガバッと飛び起きた。
そうだ・・・。8月15日。
その日は終戦まりあ記念日だった!
「お祝いでもしますかぁ。みんなで集まって」
油田が面倒くさそうにそう言った。
やるっ!やるに決まってんだろがっ!!
俺はカレンダーを見た。8月10日。
時間はたっぷりある。
「でもさ。まりあも友達とお祝いするかもよ?」
それは十分に考えられられる。
仮に友達と会わなくても帰省する可能性がある。
「ああ。それは大丈夫ですよ。」
なに?
「昨日彼女と会った時、お盆もバイトが入っているって嘆いていたので」
俺は早速、油田と誕生日パーティーの計画を立てた
会場は俺の部屋。
飲み物の購入も俺。
ケーキの購入は油田。
チキンの購入は渡辺(仕事のメドが立てば)
そして当日の予定は・・・。
まりあのバイトは早くて16時、遅くても19時には終わる。
15時頃に俺からまりあへメール。
内容「今日バイトは何時までですか?
至急メール下さい。」
↓
バイト終わりのまりあがメールを返信。
「○時に終わります」
↓
俺返信「至急の用事があります。帰り家に来て下さい」
↓
まりあ来る。
↓
クラッカー。
↓
おめでとう!!
↓
まりあ感激!!
ざっとこんな感じであった。
次の日の朝、俺が部屋を出ると
前方に渡辺の姿が見えた。
「おーい。ナベ。ちょっと待ってくれー」
「あっ!おはよう二宮くん」
俺と渡辺は一緒にエレベーターへ乗り込んだ。
「渡辺は15日ロケ?」
「うん。でも上がり早いよ」
よしよし。
「その日まりあの誕生日なんだ。俺の部屋でパーティーしようよ」
「へぇー。まりあちゃん終戦記念日が誕生日なんだ」
そうなのだ。
実はこの頃まりあと渡辺は
「まりあちゃん」「彩さん」と呼び合う仲になっていた。
お互いの部屋を行き来し
休みが合えば買い物も一緒に行っているらしい。
俺は渡辺に分担を伝えた。
君はチキンを頼んだよ。
「ところでさぁ。チャンスじゃん」
渡辺がニコニコと俺の顔を覗き込む。
「な・・・。なにがよ??」
言いたいことは大体想像がつく。
「プレゼント買っちゃいなよ。まりあちゃんに」
き・・・君は何を言っとるんだね。
俺だけがそんなマネしたら明らかにおかしいじゃん。
「いいこと教えてあげようか?」
更にニコニコする渡辺。
い・・・いいこと??
「まりあちゃんね。aquagirl好きだよ」
「な・・・何?アクアガールって」
「女の子のセレクトショップだよ。
この前、買い物した時aquagirl行ったもん。一緒に」
さすがにこの手の情報は女の方が目ざとい。
「そこでまりあちゃん。ブルーのワンピース欲しそうに見ていたよ」
ゴクリ・・・。確かにチャンス。
「それで?それ買わなかったんだよね?」
「うん。結局ね。だからチャンスでしょ?」
「それは・・・確かにチャンスだ」
結局その日の会社終わり、俺と渡辺はaquagirlに行く約束をした。
男1人では入り辛い店らしく
渡辺も付き添ってくれるそうだ。
というか渡辺がいないと
お目当てのワンピースが分からない。
昼休みに金を下ろした。
資金は潤沢に越したことは無い。
初ボーナスは有り難かった。
俺は仕事を定時に終えると
1階の技術部に行った。
そこで渡辺はカメラの練習をしていた。
「渡辺ー。帰るべさ」
「はーい。カメラ片付けるからちょっと待っててね」
俺と渡辺は技術部の先輩に「お疲れ様でしたー」と挨拶をし会社を出た。
後で知ったことだが
当時、社内では俺と渡辺が付き合っているという
噂が流れていたそうだ。
付き合ってはいない。
ただ隣には住んでいる。
それがバレるほうが怖かった。
俺と渡辺は繁華街に出てaquagirlに行った。
なるほど。これは確かに男1人では入りにくい。
「残ってるといいねー。ワンピース」
そう言いながら渡辺はズンズン店内に入って行く。
ちょ・・・。待ってよ。1人にしないで!
店員の綺麗なお姉さんが
「いらっしゃいませ」と声を掛けてくる。
なんか落ち着かないよ。ここ。
「あー!あったあった!二宮くん。このワンピースだよ」
渡辺が手に取った淡いブルーのワンピースは
清楚で上品な感じがして
まりあに実に良く似合いそうであった。
「へー。いいじゃん。」
と言って手に取る俺。
何気なく値札を見てみると・・・。
\43,000と書かれてあった。
女の子の服は高い!
あらかじめ予想はしていたが、こんなに高いとは。
男ものに比べて生地も薄くて少ないのに・・・。
しかし俺は腹をくくった!
まりあがこのワンピースを欲しいのなら
俺はこのワンピースを買いたいのだ!
それが男の甲斐性(多分)である。
ふと店内を見渡すと渡辺がブラウスを見ていた。
近づいて行く。
「ねぇ。二宮くん。これ可愛いね」
うん。確かに可愛いと思う。
渡辺にもよく似合いそうだ。
中継現場で見る渡辺とは別人だな。
いつもは鬼気迫る勢いで、汗まみれに仕事をしてるくせに・・・。
ブラウスを見てはしゃぐ渡辺は少し可愛く見えた。
やっぱ20歳(21歳かも)の女の子じゃん。
「買ったろうか?それ」
なぜだか分からないが、自然とそんな言葉が出た。
驚いた表情で俺を見る渡辺
「いいよ。彼氏でもないんだし・・・」
「でも欲しそうじゃん。それ」
渡辺は少し悩んだ表情で
「やっぱいい。悪いし」
そう言ってハンガーを元の場所に引っ掛けた。
確かに出費は痛い。
しかし今日は手持ちも多少ある。
なにより俺は、渡辺に今日のお礼がしたかった。
「別に悪くないよ。ボーナス残ってるし・・・」
渡辺は首を振って
「ううん。まりあちゃんに悪いじゃん」
そういってニコッと笑った。
そして・・・。
「まぁ。気にすんなっ!」
と言って俺の腕を引っ張ってレジに向かった。
終戦まりあ記念日の当日、俺はお盆休みを取った。
ちょうど仕事も無かったし好都合だった。
昨日廊下でバイト帰りのまりあに会った。
「お疲れ。まりあ。明日は終戦記念日だね」
わざと意地悪な言い方をしてみた。
「終戦日記念日に生まれた子です。私。あはっ」
軽く自分の誕生日をアピールしてくるあたり
天性の可愛さは才能であると確認させられる。
分かってまんがな。分かってまんがな。
明日は盛大にお祝いしてあげまんがな。
「それでは・・・。フヒヒ・・・。」
油田チックな俺がいた。
俺はハサミで色紙(いろがみ)を短冊に切った。
これであのベタな「繋がったリング」を作ろうとしていた。
社会人にもなって、本気でこんな物が
喜ばれると思っていた自分。
今では恥ずかしい。
油田と渡辺は16時に来る予定だ。
まりあが16時上がりでも間に合うように。
もし19時上がりの場合は
あいつらにもリングの飾りつけを手伝わそう。
リングが2m位になったところで15時になった。
まりあにメールを入れなければ。
「まりあって今日バイト上がり何時なの?」
まずはシンプルなメールで攻める。
ここで「いかにもっ!」といったメールは
ネタバレの恐れがあり、命取りだ。
これで早くて1時間後には返信が着ますね。フヒヒ・・・。
しかし5分後には俺の携帯が光った。
ん??油田か??
メールを確認する。あれ?まりあだ・・・。
「きょぅゎぢっかにぃるよヾ(@^▽^@)ノ」
え・・・?
なんで?
なんで実家にいるのよ?
意味が分からない。
だって今日バイトだよね?
今バイト中だよね?
何かの間違いだ。
きっとそうに違いない!
落ち着け俺。
深呼吸だ。
スーハー。スーハー。
「今日ってバイトだよね?お盆はバイトだよね?」
焦りの色は微塵も感じられない。
我ながらパーフェクトな文章が完成した。
送信!
すぐに
返信!
「ぅん♪でもきょぅ1にちゎぉ休み(@^▽^@)ゞどしたの??( ̄〜 ̄;)」
なななな・・・・なんですとぉぉぉぉぉ!!!!
そうか!俺はここで全てを悟った。
油田は確かこう言った。
「お盆もバイトが入っている」と・・・。
油田のお盆は「8月15日」を指していたが
まりあは「8月15日前後」
いうなれば、世間一般のお盆休み期間を指していたのだ。
俺は焦った。
正確にいうと焦りまくった。
どんな返事をしようか?
こっちが勝手に盛り上がってる内容を
匂わせてはいけない。
まりあも責任も感じるだろう。
この際、悪いのは油田1人でいい。
それにこの浮かれ具合を、見透かされるのは恥ずかしすぎる!!
「別になんにもないよ(。 ̄_ ̄。)ノ
ただ、まりあの誕生日ケーキを用意してたからさ(≧∇≦)ノ
帰ってきたら食べようぜ(V^−°)」
よしこれで完璧だ。
生まれて25回目くらいに使った、顔文字のお陰でうまく誤魔化せた。
送信!
2分後
返信!
「ぇーー。。。ごめんなさぃ。。(+_ q ))グスン」
俺は「\(^◇^)OK!」
とだけ返しておいた。
それにしてもだ・・・。
もうすぐ油田がケーキを
渡辺がチキンを買ってやってくる。
今から携帯で止めても手遅れかもしれないな。
みんなで終戦記念日に、チキンを食うのも悪くないな・・・。
俺はふと床に転がる色紙のリングを見た。
なぜか笑いが込み上げてくる。
フフフ・・・。
まりにあげる予定だった、ワンピースが入った袋を右手に持つ。
あは・・・あはは・・・。
笑えてくるぜ!俺のバカチクショーが!!
HAHAHA!
左手にはまりあを驚かすために仕入れたクラッカーを持つ。
HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!
あははは・・・あは・・・。
フフフ・・・・。
ぅぅ。。。ぅぅっぅぅ。。。
あれ?なぜだろう・・・?
笑っているはずの俺の目から一筋の汗が流れた・・・。
16時丁度インターホンが鳴った。
渡辺だった。
「ごめん。開いてるから勝手に入ってきて・・・」
「お邪魔しまーす」と言って渡辺がリビングに入ってきた。
「先輩に用事があるってウソついちゃった。いいよね。あはは」
「あー。二宮くん。リング作ってるー。幼稚だねー」
「チキン冷めちゃうかな?まりあちゃん何時に帰るって?」
「そうそう。ちゃんとワンピース渡さなきゃだよ。がんばってね」
俺はただリビングにボー然と立ち尽くしていた。
「どうしたの?二宮くん?」
「聞いてくれ。渡辺・・・。実は・・・。」
「いけませんねぇ。いけませんねぇ。これじゃケーキが入りませんよっ!!」
キッチンを見ると俺の家の冷蔵庫を漁っているオタクがいた。
油田テメーーーー!!!インターホンくらい押せんのかっ!!!
それは100歩譲っても
人ん家の冷蔵庫勝手にいじってんじゃねーーぞ!!
「ふぅ・・・。なんとかケーキが収まりましたなぁ。
二宮さん。この麺つゆが邪魔でしたよ?」
この2人を今からシラケさす報告をするのか?俺は!!辛いぜ!!
「2人共ちょっと聞いてくれっ!!」
俺の声に2人が固まった。
そして俺の顔をゆっくりと見る。
「今日まりあは来ないっ!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・。
オタクと渡辺の表情が固まった。
「まりあはお盆にバイトがあるとは言ってない。
正確にはお盆の【間】にバイトがあると言ったんだ。
したがって・・・。今日は実家に帰った!」
シーーーーーーーーーーン。
もはや恒例となった重い空気だ。
しかし今日はGの効き方がいつもよりきつい。
「そそそ・・・それじゃなんですか?僕に責任があるとでも??」
油田が汗を掻きながら焦っている。
「油田に責任はない!90%しかないっ!」
「俺が俺が悔しいのは、まりあが来ないことじゃないんだ・・・。
俺は自分が残念な気持ちを悟られないように・・・」
油田と渡辺が俺を見つめる。
「顔文字(。 ̄_ ̄。)ノ←こんなのや。(≧∇≦)ノ←こんなのや。(V^−°)←こんなのや。
\(^◇^)←とどめにこんなの。を送った自分が情けないんだ!!」
俺の話を聞き終えると渡辺がそっと近づいてきた。
「元気だして。二宮くん。そんな時もあるよ」
俺たち3人はテーブルを囲んでチキンを広げた。
俺の横にはワンピースが入った袋が置かれている。
まりあ。俺やっぱりこれ・・・今日渡したかったよ。
渡辺はそんな俺を気遣ってか
「私もね。プレゼント買ったんだ。明日渡そっかなぁ」
と遠まわしに慰めてくれる。
「ちなみに何を買ったのですか?彩さんは」
油田が興味津々の様子で尋ねる。
「んとね。スリッパ。可愛いやつなんだよ」
そか。渡辺は俺のプレゼントが引き立つように
わざわざ地味目な物を用意してくれたのかも?
「スリッパですかぁ。それはナイスチョイスですねぇ」
油田がガザガザと自分の鞄を探り始めた。
「いやぁ。実はですね。僕もまりあちゃんに
プレゼントをご用意しているのですがぁ・・・」
少し自慢気な油田。
きっと俺たちに見せたくて仕方ないのだ。
「なになに?」
渡辺はのってあげる。
実は俺も少し興味がある・・・。
「いやぁ。本当に大したものではありませんが・・・。アリ伝説DXです」
シーーーーーーーーーーーン。
「袋を空けてお見せ出来ないのが残念です・・・。」
別に見たくない。
「そうだ!チキン食べようか!
二宮くんには1番食べやすいモモの部分あげる」
そう言って渡辺はチキンを紙に巻いて俺に持たせてくれた。
渡辺は俺と一緒にaquagirlに行ってくれた。
そしてあのワンピースは
俺の給料ではちょっと手の出しにくい物だと分かっている。
だから渡辺は分かってくれているのだ。
俺が今日という日に賭けていた事を・・・。
よし!俺も明るく飲もう!
油田と渡辺に悪いもん。
しかし一旦落ちてしまった空気を上げるのは
なぜこんなにも困難なのであろう?
がんばってはみるものの
まるでお通夜のように、盛り上がる気配が無かった。
Happy Birthday まりあちゃーん♪
・・・
Happy Birthday まりあちゃーん♪
・・・・
Happy birthday, dear まりあちゃーーーん♪
・・・・・・
Happy birthday to you♪
・・・・・・・・・
渡辺が勢いよくローソクの炎を吹き消す。
シーーーーーーーーーン。
なにこれ?一体?
「さぁさぁ。切り分けましょう!」
油田がケーキ入刀をする。
元々こんなバカな提案をしたのは油田である。
油田と渡辺は明日は忙しいらしい。
そこで主役を差し置いて、少し気は引けるが
まりあの分は残しておいて
ケーキを食べようという提案だ。
それは分かる。仕方ないとも思う。
しかし・・・。
「せめて歌いましょう!我々の歌はきっとまりあちゃんにも届くハズです。」
油田のこの提案。
届かねーーーーーーっよ!!!
そしてまりあと同じ女という安易な発想で
火消し人は渡辺となった。
彼女は最後まで抵抗していた。
板チョコに書かれている
「Happy Birthdayまりあちゃん」の文字が少し物悲しい。
「さてとっ!」
ケーキを食べ終わった渡辺が切り出す。
「明日は早朝ロケなんで帰るね!」
そう言って渡辺が立ち上がった。
「さてさて・・・」
アリ伝説DXを大事そうに抱え
「僕も明日は、仲間との寄り合いがあるのでこれで!」
油田も立ち上がった。
玄関まで2人を見送る。
まだ19時だ。
しかし主役がいなければ、盛り上がるハズもない。
「私明日はちょっと遅いけど
まりあちゃんにプレゼント、一緒に渡しに行こうか?」
渡辺がそう言ってくれた。
「そうだね・・・。」
「僕もお供しましょう!」
油田はなぜか親指を立て「グッ!」のポーズをした。
2人を見送って部屋に戻る。
祭りの後の静けさが少し切ない。
(正確には葬式だったが)
俺はしばらく1人でボーッとTVを観た。
「さてさて。片付けでもしますか・・・。」
俺は壁に貼られた「繋がったリング」を外す。
「せっかく作ったんだし」と言って、渡辺が付けてくれたのだが
男1人の部屋で、いつまでもこんな物をブラ下げていたら
ただのバカである。
ワンピースの入った袋を見てみる・・・。
隣に油田の靴下があった!
アイツは飲むと、どこででも靴下を脱ぐ癖があった。
つまみ上げる。
くっせぇ〜〜。
ワンピースに臭いが付いたらたらどうしてくれんだよっ!!
俺は油田の靴下を遠くに投げ捨てた。
テーブルを見た。
まりあの分として、切り分けられたケーキがあった。
油田から死守したチョコレートの板。
そこには「Happy Birthday まりあちゃん」の文字。
「明日じゃもう・・・。Happy Birthdayじゃないね」
俺はポツリとつぶやいた。
その時インターホンが鳴った。
油田のヤローだな。
靴下を取りにきたか!?
俺は油田の靴下をつまんで玄関のドアを開けた。
一瞬目を疑った。
そこにはまりあが立っていた。
なんで??どうしてここに??
俺はまりあに気づかれないように
そっと油田の靴下を後方のリビングに投げた。
「・・・・・・・」
俺は状況が理解できないため、声が出ない。
「こんばんわ・・・。」
まりあがそう言った。
「こ・・こんばんは。あれ?まりあどうしたの??実家にいたんじゃ・・・??」
まりあは下を向きながら
「ケーキ買ってくれたんだよね?だから帰ってきちゃった。」
マジですか?
油田さん。あなたの黒魔術ですか?
俺たちの歌声は、本当にまりあに届いたみたいです。
「そ・・・そうか。部屋上がりなよ。ケーキ食べなよ」
俺はまりあを部屋に招き入れた。
リビングに入ると、まりあが床に転がったリングに気づく。
「これ・・・。」
そういってまりあはリングを持ち上げた。
なんだか恥ずかしくなってくる。
「こんなものまで用意してくれてたんだ・・・。」
「そ・・・そうね。油田が作ったんだ。喜ぶわけないじゃんよね?こんなの」
まりあは首を横に振って
「ううん。すごく嬉しい。」
本当は僕が作ったんです・・・。2時間くらい掛けて・・・。
「ケーキ食べなよ。いま飲み物取ってくるからさ」
そう言って俺はまりあを座らせた。
「ごめんね。なんか俺たちで最初に食べちゃって」
まりあは「ううん」と言って首を横に振った。
飲み物を出してあげてケーキをお皿に入れてあげる。
「いただきます」
といってまりあはケーキを食べ始めた。
「うまい?」
俺の質問に
「うん。私ね。チョコのケーキ好きなんだぁ。」
チョコレートケーキ。
油田さんナイスチョイスですよっ!
(本当は油田が食べたかっただけだと思う)
まりあがケーキを食べている間はしばし雑談。
そうだよ。これだよ。これがいいんだよ。
俺は喜びに浸っていた。
誕生日に俺の部屋でケーキを食べるまりあ。
な・・なんか俺たち。
付き合っているみたいじゃね!?
俺はそっと、自分の後方にあった袋をたぐり寄せた。
わ・・・渡すぞ。
まりあが欲しがっていたワンピース。
渡辺とaquagirlで買った43,000円のワンピースを!!
「まりあ。えっとこれ。誕生日のプレゼントです」
なぜか心臓がバクバクする。
「喜んでくれるといいけどさ・・・」
そういって俺は紙袋をそっとまりあに差し出した。
驚いた表情のまりあ。
俺の顔をじっと見つめる。
「ありがとう・・。」
そう言ってまりあは紙袋を受け取った。
「中開けてみてよ。」
俺はまりあの喜ぶ顔が早く見たいんだ。
「うん」
そう言って丁寧に袋を開けたまりあ。
「aquagirlの・・・ワンピース・・・」
まりあはワンピースを見つめながら、ポツリとそう呟いた。
「うん。渡辺に聞いてさぁ。まりあがそれ欲しがっていたって」
照れ隠しでそう言ってみた。
その瞬間まりあがポロポロと涙を流し出した。
そしてワンピースをギュッと胸に抱きしめる。
「ありがとう・・・。
今までもらったお誕生日プレゼントの中で・・・。1番嬉しいです。」
そんなまりあを見ていると
俺は胸がドキドキと高鳴るのを感じていた。
おい・・・。今のまりあ可愛いよ!
いつも可愛いけど・・・。
なんかむちゃくちゃ可愛いよ!
てか、愛しいよ。やっぱまりあが好きだよ。
俺・・・。
止まらない。
もう気持ちが止まらないよ。
「まりあ・・・」
口が開いてそこから言葉が出ていた。
止まらないよ。もう・・・。
「俺はまりあが好きです。ずっと好きでした。」
言ってしまった。
とうとう言ってしまった。
俺はまりあの反応を待った。
胸の高まりは頂点に達していた。
緊張しすぎて頭がクラクラする。
しかしまりあは、俺の言葉に対して反応しない。
ワンピースを胸に抱きしめたまま泣いている。
長い・・・。
おそらく5秒か?10秒か?
その時間がとてつもなく長い。
これは告らないほうが良かったか?
それとも聞こえていなかったのか?
はたまたタイミングを間違えたのか?
様々な思いが俺の頭の中で交錯する。
その時・・・。
「私も・・・。」
まりあがポツリとそう言った。
「私も光輝くんのことが好きでした・・・。」
はっきりとそう聞こえた。
嬉しい・・・。まりあも俺を・・・。やったよ。
「俺・・・俺ずっとまりあと・・・」
ヤバイ!なにをしようとしてるの?俺
気が付くとまりあを抱きしめていた。
うそっ!?俺こんなこと出来る男だったの!?
「まりあといたい。ずっと・・・一緒に。」
そう言ってまりあをギュッと強く抱きしめた。
まりあは俺の胸の中で泣き続けている。
そして一言。
「はい・・・。」
その時!!
バーーーン!とリビングのドアが開く音がした。
ビクッ!として俺とまりあがドアの方向を見る。
「どうもどうも。靴下を忘れてしま・・・・」
俺たち2人を見た油田がフリーズをしている。
だからインターホンを鳴らせと・・・。
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第13章 はじめての彼女
次の日、俺は油田の部屋にいた。
油田はメガネのレンズに、ハーっと息を吹きかけ
服の袖でメガネをフキフキ切り出した。
「しかし。まぁ。なんですなぁ」
俺は油田の前で正座をしていた。
「共同生活における秩序を乱しましたなぁ。二宮さんとまりあちゃんは」
え・・・。ちょっと。
俺たちは確かに仲はいいけど、各々が独立した部屋に住み
家賃も各自で払っていますが・・・。
しかし俺はその言葉を飲み込こんだ。
そして「すんませんでした・・・」と言った。
昨日・・・。
俺はとうとうまりあに告白し成功した。
まさに天にも昇る気分とはあのことだ。
俺は愛しいまりあをギュッと抱きしめ
まりあも無言でそれに応えてくれた・・・。
「幸せの絶頂」そこへ向け、俺とまりは階段を一段ずつ上り始めた。
いや。始めていた。
そこへもっての油田の登場。
ヤツは何かを嗅ぎ付けてきたのかもしれない。
ジッと抱き合う俺たち2人を見下ろす油田。
目が怖い・・・。
「あ・・・油田。靴下・・・。そこ・・・」
俺はそう言って、油田の靴下を指さした。
油田は抱き合う、俺たち2人の横を通り
お目当ての靴下を握りしめると、静かにリビングを出て行った。
「あ・・・明日。寄り合い楽しんで・・・こいよ」
俺の言葉が彼に届いたかは、定かでは無かった。
これはとても隠しきれるものでは無い。
俺は次の日、油田の部屋へ説明に訪れた。
まりあも付いて来ると言ったが、それは断った。
油田の前にカップルで登場すれば、ピザに油を注ぐようなものである。
そして今・・・。
俺は油田に説教されていた。
油田はフーっと深く息をつくと
「まぁ。良いでしょう。今回の件は僕の胸の中に収めるということで」
油田による判決が下された。
「それに僕は・・・」
なんだ?
「彩さんのほうが好みなので・・・フフフ」
・・・・・・・・・・・・・・。
「まりあちゃんは胸が大きすぎて
エロいきらいがありますしね。
ややもするとあの胸は少し下品ですなぁ」
テメー・・・。ぶっ飛ばされたいのかっ!!??
「そこへいくと彩さんの胸は小ぶりだが品がある」
乳しか見てねーのかよ!お前は!!
「まぁ今回は、まんまとお2人のキューピット役を演じましたが・・・」
キューピット・・・?
お前が俺に何をしてくれた?
油田はメガネを持ち上げこう言った。
「今度は僕と彩さんの、応援団長をお願いしますよ。二宮さん?」
お断りします。
俺は油田の部屋を後にし、302号の前に立った。
俺には分からなかった。
彼氏ってなにをするんだ?
どんな態度で接すればいいのだ?
いまの時間は23時30分。
彼氏はこの時間に、部屋を訪ねてもいいのだろうか?
そしてどんな態度をとれば彼氏「風」なのだろうか?
ドアを開けたまりあに対し
「おお。俺だよ。彼氏の俺だよ!」
こう言えばいいのか?自分が純朴すぎて分からない。
以前ならもっと気楽に訪ねることが出来たのに・・・。
俺は廊下の壁にもたれながら、夜空を見上げていた。
俺には今まで彼女がいた経験がない。
中・高とグレて最高のDQNだったが俺だが
そっちの方面はからきしだった。
もちろん女の子には興味があった。
決してウホッではない。
でも照れ屋だったのだ。
中学時代、隣町の中学生とケンカをした。
仲間と鼻血を流しながらの帰り道。
その時仲間が言った。
「俺らもそろそろ彼女が欲しいよな」
俺はクールに言った。
「バカかテメーは?男同士の方が楽しいよ。女なんてつまんねーよ」
しかし内心は
「ウァァァーーーン!彼女欲しいよぉぉぉ!!なんで鼻殴られて血ぃ出してんだぉぉぉ」
であった。
こんな俺でも高校へ行けば、バラ色の学園生活が待っている!
そう思っていた。
しかし中学時代より、さらにDQNとして進化を果たした俺に
近寄ってくる女など皆無であった。
そんな時ある事件が起きた。
これは俺の今までの人生で、1番大きな出来事であった。
実をいうとそれも今回、話すつもりであった。
しかしこの事件を話すと、とうとう終わりが見えないので
やめる事にした。
とにかく俺の人格は、その事件を境にして180度変わった。
人の気持ちを1番に考えたいと思うようになった。
しかしその代償も大きかった。
人の気持ちを考えすぎて、自分が傷つくことも多かった。
すっかりチキンハートな俺になっていた。
髪は黒くなり、サラサラのセンター分けヘアになった。
DQNの仲間とも離れ、ひたすら勉強をした。
来る日も・・・。来る日も・・・。
そしておふくろの肩を揉んであげた。
これまでの何年も、苦労を掛けた分を・・・。
この時に俺は勉強のしすぎで、メガネを掛けるようになった。
その甲斐もあってか、なんとか4流大学に現役で滑り込んだ。
しかし不気味なメガネ男に、近づいてくる女はここでも皆無だった。
しかも元がDQNなのだ。
メガネの奥の潜む眼光は簡単には消えてくれない。
今はメガネをコンタクトに変え
世間の話題にも、ある程度ついていけるが
当時の俺はDQNからある日突然ガリベンになったのだ。
みんなが大事なものを養っている期間を、俺は無駄にした。
そう考えると、俺の青春時代は非常に暗かったといた。
自分の信じる、オタク道を邁進する油田は少し羨ましい。
遅い時間だし302号を訪ねるのはやめておいた。
渡辺には明日、会社で会えたらその時報告しよう。
次の日、15時ごろ技術部に行くと
機材を片付けている渡辺がいた。
たった今、ロケから帰ってきた様子だ。
「お疲れナベ。なんのロケだったの?」
世間話をしたあと、俺は渡辺を誘って会社近くの喫茶店へ行った。
こういうことが新人の俺でも出来るのは
この業界の特権ともいえる。
ホワイトボードに「二宮 資料探し。本屋」と書いておけばOKである。
俺は渡辺に話した。
一昨日渡辺たちが帰ったあと、まりあが家に来たこと
そしてプレゼントを渡して・・・。告白したこと。
まりあが俺の気持ちに応えてくれたこと。
それを油田に見られてしまったこと。
昨日の夜、油田に許可(なんで?)を貰ったこと。
しかし俺が応援団長に任命されたことは伏せておいた。
渡辺はニコニコとしながら俺の話を聞いてくれた。
そして一言
「良かったね。二宮くん」と言ってくれた。
後にまりあから聞いたことだが
まりあも俺に好意を持っていることを渡辺は知っていた。
まりあ本人から聞かされていたらしい。
渡辺はその時点で、俺とまりあが両思いであることを知っていたのだ。
しかし渡辺は俺が告白するまで、そのことは黙っていた。
きっと自分がでしゃばる問題ではないと思ったのだろう。
その中で俺をaquagirlに連れて行ったりして
筋道を立ててくれていたのだ。
渡辺は本当にいいやつなのだ。
「今度デートしなよ。今までは私や油田さんが邪魔しちゃってたしさ」
別に渡辺は邪魔をしてない。
邪魔をしたのは全て油田である。
デートか・・・。
俺は会社に戻った後も、仕事そっちのけでデートプランを考えていた。
結局、良いデートプランは思い浮かばなかった。
渡辺も「遊園地とかでいいじゃん」とアドバイスをくれたのだが・・・。
少し幼稚なまりあにはそれもいいかな?と思ったが
昔「マイホームみらの」というマンガで「初デートで遊園地と映画はご法度」と
いっていたのを思い出す。
う〜〜〜〜む。
俺はこの日の帰り、まりあがバイトをしているカレー屋に行った。
この時間なら、まりあがバイトをしている可能性が高かった。
「いらっしゃいませ」と声を掛けてきたのはやっぱりまりあだった。
俺はどんな声を掛ければいいのか迷った。
「やあ!」「お疲れ!」「オッス!」等が候補に挙げられた。
しかしどれが彼氏「風」か分からず
つい「どうもどうも」と油田「風」の挨拶をしてしまった。
席に着くとまりあが注文を聞きに来てくれた。
「お疲れさま。お仕事いま終わったの?」
なぜ女の子って今まで通り、普通に話せるのだろう?
「う・・うん。ロケ無かったし・・・」
俺はついゴニョゴニョと話してしまう。
「納豆フライドチキンカレーでいいですか?」
「はい。それでいいです。400gにして下さい・・・」
「少々お待ち下さい」そう言ってニッコリ笑うと
まりあはカウンターの奥へと消えて行った。
俺は水をゴクゴクと飲みながら。
「真性の喪男だよな・・・('A`) 」
そう思っていた。
やがてまりあが、納豆フライドチキンカレーを持ってきてくれた。
「いただきます」と言ってカレーを食べようとすると
「もうすぐ上がりだから、一緒に帰ろうね♪」と声を掛けてきた。
「は・・・はい」
えーーーーーいっ!!俺はどこまで純朴なのだっ!!
自分に腹が立つ。
まりあのバイトが終わると帰り道、2人で並んで歩いた。
こんな幸せが俺に訪れるとは・・・。
まりあの話に相槌を打ちながら、2人でゆっくりと川沿いを歩く。
俺の大好きな川だ。
春には桜並木になり、いまの夏の季節には子供たちが水遊びをする。
まりあが「ちょっと下に降りようか?」と言ってきた。
この川は土手に階段が付いていて、川辺に行けるようになっている。
俺とまりあは川辺に並んで座った。
この時間は川のせせらぎだけが聞こえてくる。
まりあが俺の肩に頭をもたげてきた。
そしてそっと手を握ってくる・・・。
本当に俺たち付き合っているんだ!
この時初めてそれを実感した。
よ・・・よし。デートに誘うぞ。
デートプランは何も決まっていない。
しかしこうなれば出たとこ勝負だ!!
「ま・・・まりあ」
まりあは川の方を見ながら
「なに・・・?」と呟いく。
喉が渇く。しかし言った。
「今度・・・。デート行っとく?」
俺のバッキャロー!!
これじゃ川田さんの「キャバ行っとく?」のパクりではないか!!
まりあがこっちを向いて、甘えた声を出した
「どこに行こうか・・・?」
「いや。実はまだ考えてないんだよね。まりあはどこがいい?」
まりあは「そうだなぁー」としばらく考え
「ここがいい」と言った。
「え?ここ?」
まりあはコクンと頷くと
「そう。ここ。ここにお弁当を持ってきて食べたいな。」
まりあがそう言うのであれば
「OK!分かった。んじゃ初デートはここでピクニックをしよう!」
俺とまりあの初デートは、自宅から僅か5分の川辺に決まった。
なんとなく俺とまりあらしいと思った。
そして2人で手を繋いで帰った。
デートの約束をした日から、俺は仕事が忙しくなった。
お盆にのんびりした分の反動が少なからず返ってくる。
結局、まりあとの初デートが実現したのは
それから3週間後の土曜日だった。
既にカレンダーは9月に突入していた。
その日の朝、俺はまりあの部屋を訪れた。
「まだお弁当できてないんだ。少しリビングで待ってて!」
そういって俺をリビングに招き入れる。
俺はボーっとキッチンで、おにぎりを握るまりあを見ていた。
・・・・。
・・・・・・・・。
チクショーーーー!!俺の彼女可愛いーーーーーーーーーーっっ!!!!
叫んでやろうかと思った。この時は本気で。
まりあは手の平でコロコロと器用にご飯を回転させ
三角形のおにぎりを完成させていく。
「手。熱くないの?」
俺は小学生みたいな質問をした。
「熱いよぉー。でも少しお水をつけてね。素早く握るの。そうすれば大丈夫!
あんまりお水を付けすぎると、おいしくなくなるんだぁ。」
俺はへーっと関心した。
男の一人っ子で育った俺は、まりあに色々教えてもらった。
ある時2人で歩いていると、ふと秋の香りがした。
「なんか秋の香りがするね」と言うと。
「うん。これはキンモクセイの香りだね」と教えてくれた。
その度に「女の子ってすごいなぁ」と関心したものだ。
まりあが「今から巨大おにぎりに挑戦します」と言った。
どうも俺用らしい。
まりあはご飯をペタペタと重ねソフトボール位の球体を作った。
俺そんなに食えないよ・・・。
それに具を数種類詰め込み、にぎりに入る。
さすがに三角にするのは無理な様子だ。
最後はその球体の全面に海苔を貼り付け
「完成〜〜〜!!」と笑っていた。
とても嬉しそうだった。
おにぎりをバスケットに詰め込み
俺とまりあは手を繋いで、近所の川辺に歩いて行った。
到着すると2〜3人の小学生の男子が、網で川魚を追いかけていた。
和む風景である。
2人でそれをしばらく眺めていた。
まりあは近くの小さな花を摘んで、器用に指輪を作っている。
たいしたものだと思う。
俺とまりあはバスケットからおにぎりを取り出して食べた。
すごく美味しかった。
こういう場所で食べるというのもあるかもしれないが
ここは素直にまりあの腕を褒めておこう。
俺用の巨大おにぎりも完食した。
せっかくまりあが作ってくれたのだ。
残すわけにはいかない。
お弁当の後も、俺とまりあは子供たちを見ていた。
キャッキャッと騒ぎながら、網で魚を追いかけている様子は
とても楽しそうである。
まりあも「楽しそうだね」と笑顔だ。
待てよ・・・。そういえば・・・。
以前、俺は油田がセミ採りに行く姿を見かけたことがある。
この時、大学生にもなってセミ採りなんてバカだと思った。
「まりあ。ちょっと待っててね。」
そういうと俺はマンションに走って行った。
301号のインターホンを連打する。
やっと油田が応答した。
「なんですかぁ。もう・・・」と言いながら寝癖だらけ
の油田が出てきた。
どうやら寝ていた様子である。
「ごめん。油田。お前ムシ網持っていたよね?悪いけど貸してくんない?」
「それならありますが・・・」
そう言って油田がムシ網を持ってきてくれた。
俺はそれを借りると、またまりあが待っている川辺に走っていった。
「お待たせ。油田に網借りてきたから、俺たちも魚を捕まえよう!」
まりあは喜んでこの提案に乗ってきた。
2人で網を川に入れて小魚を追う。
なかなか難しいではないか・・・。
俺は意地になって危険なエリアにまで侵入していった。
ライバルの小学生もここまでは来れまい。
これが大人の力だよ。
フヒヒ・・・。サーセンねぇwwwwww
俺は夢中になっていた。
まりあはそんな俺を見ながら
草花を摘んで、今度は王冠を作っていた。
「待っててくれ!まりあ。俺は君のために、絶対小魚を捕まえてみせるからね!!」
そう心の中で誓った瞬間!
ちょっっ!!!!!!!!!!!
それは一瞬だった!!
俺は藻の付いた岩に足を滑らせた。
このままだと川に転んでいくのが分かる。
全ての景色がスローモションになった。
川辺にいるまりあの「あっ!」という表情が少し悲しい。
俺はこの後予想される、悲惨な結末を想像していた。
ズブ濡れになった俺の顔を、まりあが丁寧にハンカチで拭いてくれた。
かなり情けなかった。
「ごめんね・・・まりあ」
俺はそう言った。
本当は君に小魚を採ってあげたかっただけなんだ・・・。
まりあは気にする様子もなく
「あはは」と笑いながら髪も拭いてくれた。
「呆れてないよね?」俺は心の中でそう聞いていた。
これが俺とまりあの初デートになった。
2回目のデートは遊園地だった。
俺が平日に休みを取れた日に行った。
遊園地はガラガラだった。
それでも俺とまりあは楽しかった。
俺は不覚にもジェットコースターに酔ってしまい
トイレで吐いてしまった。
「光輝くん。大丈夫??」
そんな俺に、まりあはジュースを買って飲ませてくれた。
情けない・・・。
1回目といい2回目といい
デートでは必ずみっとも無い姿を見せてしまう俺・・・。
その日、俺たち2人が気に入ったアトラクションは
「−40℃の世界」だった。
ハッキリいって、ただひたすら
寒いだけのアトラクションである。
その中を歩くだけだ。
特に驚く演出はなにも用意されていない。
中には味噌が置かれてあった。
その味噌が−40℃の世界ではカチカチに凍っていた。
なぜそこに置くものとして、味噌が選ばれたのか?
運営者側の意図は数年経った今も分からない。
2分程度歩くと外に出る。
俺とまりあは大爆笑した。
「本当に寒いだけだったな」
「うん。お味噌置いてあったね〜。」
それでまた大爆笑。
結局このアトラクションには4回も入った。
俺とまりあは占いの館にも入った。
2人の相性の占ってもらった。
占い師によると、俺たちの相性は決して悪くない。
結婚するならば、早期がいいと言う。
しかし貯金はしっかりとするようにアドバイスされた。
この占い師の予言が当りか?それとも外れか?
それは意外にも早く分かるのだが・・・。
この日、俺たちは初めてキスをした。
遊園地から帰った後、場所は俺の部屋だった。
流れはごく自然に生まれた。
まりあの肩を抱く。
手がブルブルと震えた。
必死に震えを押さえようとしたが、それは止められなかった。
状況を理解したのか、まりあがスッと目を瞑った。
まりあも小刻みに震えていた・・・。
唇をそっと重ね合わせた・・・。
それ以上のことは何も無かった。
俺は自他共に認める、チキンハーターなのである。
でも俺は幸せだった。
今にして思えば、この時が公私ともに絶頂期だった。
しかし俺はこの後、ズルズルと転落していく。
公私ともに・・・。
出典:憧れの1人暮らし隣人に恋した
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