キャバ嬢を愛して9
2009/11/07 11:59 登録: えっちな名無しさん
京香さんとの密会も今日で5回を数える。
「密会」というほど、疚しいことも特別なことも、なにもないただの呑みなのだが、いまのところ、唯一、千佳には話していない事柄である以上、やはり「密会」という呼び名がふさわしいように思える。
最初は京香さんはヤケ気味に俺を口説いたり弄んだりしたいのかとも思った。
しかし、回数を重ねても、そんな素振りは見せることはない。
本当に「ガス抜き」がしたい、それだけなのだろう。
だとしたら、こうやって京香さんと呑むのは悪くない。
いや、俺にとって京香さんの話は勉強になることが多いし、気分転換にもなるし、むしろ「いいこと」だとすら思っている。
……だが、そろそろ「密会」というスタイルにだけはケリをつけなくてはならないだろう。
平田のことが話題に上る今日は、そのいいチャンスだった。
「『春菜』ちゃんにフラれたっていうのに、妙に明るかったんですよ、平田くん」
京香さんはわりと近い席で接客しながら、その様子を見守っていたのだという。
「カラ元気とも違う、すごく吹っ切れたような顔。……どういう言い方したのか知らないけど、
ああいう風にお客様を落ち込ませたり不機嫌にさせずに、お付き合いをお断りするのって、難しいんですよね。
さすが『春菜』ちゃんだなー、って思いましたよ」
「そうですね……」
「あれ? 『春菜』ちゃん争奪戦、大勝利だっていうのに、Eさん、盛り上がってませんね?」
「うーん。平田は部下ですからね。そうはしゃぐ気にはなれないんですよ」
それに、この勝負は最初から勝ちの見えていたもので、ちょっと不公平だった。
そのことも、はしゃぐ気になれない大きな理由だ。
俺はショットグラスを呷る。
「……キューピットっているじゃないですか」
4杯目のワインをピッチよく飲みながら、京香さんがふいに言った。
「愛の天使、ってやつですね」
「そう。愛する人たちを結びつける素敵な『エンジェル』。
でも、あれって本当に天使だと思います?」
「そう……じゃないんですか?」
いったいなんの話だろう? とまどいながら聞く。
「たとえば、平田くんとEさんが『春菜』ちゃんのこと大好きだとするじゃないですか」
「……『だとするじゃないですか』もなにも、例えにしては具体的すぎですね」
「ふふっ、そうね。キューピットさんは今回、Eさんの側に立って『春菜』ちゃんとの仲を取り持ったわけですよね。そんなキューピットの姿って、平田くんには悪魔に見えたんじゃないかなぁ、って……。こんな話になると、いつもそんなこと考えるんですよ」
なるほど。天使と悪魔は表裏一体、か。
「神様だってみんな全部を幸せにはできないんです。気にすることはないですよ」
そういって京香さんは、ふふっと、いつものように、優しく、そして妖しく微笑んだ。
「あの、ですね。京香さん」
「はい?」
「ここだけの話にして欲しいんですけど……俺、ずいぶん前から『春菜』と、個人的に付き合ってるんですよね」
「ふふっ、もちろんわかっていましたよ、それぐらい」
「やっぱり、ですか」
「うん。そうかも、ぐらいだったけど、こないだ平田くんが帰ったあとの『春菜』ちゃん見てて、わかっちゃった。仕事、ぜんぜん出来てなかったんですよね。
ほんと、珍しいですよ、『春菜』ちゃんがお店であんな上の空なのは」
「……そう、ですか」
「彼女もそろそろ辞め時なのかもしれませんね」
そういって、ふと腕時計に視線を落とす。
「マスター、いいワインある?」
京香さんはリストの中から、この店で一番高いワインをオーダーした。
まあ、バーボン中心のバーなので、一番といってもたかがしれているのだが。
ボトルが運ばれてくるのと同時に、ちりん、と小さなベルが鳴る。
店のドアが開いたようだ。
そちらを見やると、……千佳が立っていた。
「え? 千佳ぁ?」
「あれ、ふっくん……?」
困惑している俺たちを尻目に、京香さんはグラスを3つ、マスターに頼む。
「さ、ふたりとも。乾杯しましょ」
そういって、ウインクする。
本当に、気障な仕草が似合う、いい女だ。
「そうかぁ、ふたりは私にこっそり逢ってたんだ。ちょっと許せないなぁ」
俺と京香さんの間に割り込むように座ったあと、事の次第を説明された千佳。
納得はしてくれたようだが、表面上はぷりぷり怒ったままだった。
「いつまでもそれじゃいけないかな、と思って。今日は『春菜』ちゃんも呼び出してみたってわけ」
ふふっ、と不敵な笑みを返す京香さん。
俺にそんな余裕はなく、ごめんなさい、と頭を垂れた。
「マスター、このふたりやらしいことしてませんでしたか?」
今度は、ヒゲのマスターに食ってかかる。
「『いいえ』。たとえそういうことがあったとしても、『いいえ』と答えるのがバーテンダーの仕事ですから」
グラスを磨く手を休め、にやりと笑ってヒゲおやじが言う。
「あのなあ、誤解を生むような言い回しやめろよ。二度と来ねえぞ?」
はっはっは。笑いながらグラスを棚に戻しに行ってしまった。
ぎろり、迫力ある視線が突き刺さる。
「いや千佳さん、ホントなんにもないから。なーんにもないって」
「あってたまるか!」
久々に千佳の拳がこめかみを直撃した。
その一撃で気が晴れたようで、カウンターで頭を抱える俺を無視して、千佳と京香さんの話が弾み始めた。
「千佳さん、なんだね、『春菜』ちゃんは。付き合い長いけど、本名初めて聞いたわ」
「あ、そうね。私、あんまり本名とかいわないもんね。……というか、私も京香さんの本名も知らない」
そういって、ちらっと俺の方を見る。
「いや、俺も知らないから……」
ふふふ、と楽しそうに笑う京香さん。
「北見京子です。はじめまして、千佳さんにふっくん♪」
そう言った京香さんは、いつもよりだいぶ幼く見えた。
考えてみたら千佳よりも2歳、そして俺よりも12歳も年下なのだ。
ふたりの付き合いは『春菜』が入店したその日から始まったそうだ。『春菜』はすでに働いていた京香さんに、いろいろ仕事を教わったのだという。
「でも、びっくりだなぁ。『春菜』ちゃんがお客様と付き合うなんて。私と同じで仕事は仕事でぱしっと割り切るタイプだったから。それこそ私が本名知らないぐらいに」
「そうね。私もびっくりしてるところ、あるかも」
「それで、この先も割り切っていけるの?」
「それは……」
核心ともいえる質問に、千佳は黙ってしまった。
「まだ……お店辞められないから。割り切るしかないよね」
重い沈黙のなか、ゆっくりと千佳が口を開いた。
「ふっくんには言ったことあるんだけど、私ん家、けっこう借金あってね。……もともと、お父さんが飲酒運転で事故起こしちゃって、作った借金だったんだけど、お父さん、一生懸命それを返済してるうちに身体壊しちゃってさ。今度は手術の費用だ、入院費だって、また借金増えちゃって。おかあさんと私とで、今返してるところなんだ」
「……それでいろいろ納得いきました」
頬杖をついて、グラスにワインを注ぎ足しながら、京香さんはため息をついた。
「『春菜』ちゃん、不思議なぐらいまじめにあの仕事してましたよね。あくまでお小遣い稼ぎのバイト感覚、って娘ばっかりのなか、ちょっと雰囲気違いましたもんね。特に最初の頃は、あんまり楽しそうじゃないのに、辞める気配ないし。ワケアリなんだろうな、とは思ってました」
「楽しくない、ってことはなかったんだけどね……。ちょっと、無理はしてたかもしれないけど」
俺はカウンターに転がったまま、黙ってふたりの話を聞いていた。
「……あとどれぐらい残ってるの?」
「借金そのものはそれほどじゃないけど……お父さんの入院費用、毎月掛かるから、ね」
「そっか……。『春菜』ちゃん、ひとり暮らしでしょ? いっそ実家に戻って、地元のキャバで働いたら? きっと、お母さんも喜ぶし、家賃、光熱費浮くだけで随分違わない?」
しごく真っ当な提案だった。俺すら同じようなことを考えたことがある。
「……お家、もうないんだよね。借金返済で売っちゃった。お母さん、今、地方の旅館で住み込みの仲居さんやってるの」
これにはさすがの京香さんも絶句してしまった。
「じゃあさ」
まだ、ずきずきするこめかみを押さえながら、俺は起きあがる。
「一緒に住もうぜ」
同じことを提案し、以前は断られている。即答で。
「俺のマンションさ、ひとりじゃ広くてもてあましちゃってんだよ。家族用に買ったやつだからさ。……まだローン残ってるから引っ越すわけにもいかないしね」
「それがいいと思うけどな」
京香さんが応援してくれる。
「……ちょっと、考えさせて欲しい」
千佳は長い髪をぐしゃぐしゃとかき上げる。
「どうして? 他の誰でもない、Eさんと一緒ならいいと思うけど?」
「それはそうだけど……」
「なにが問題?」
「ふっくんと住むの、全然嫌じゃないけど。ちょっとね、怖いの」
「怖い? どうして?」
口調が強い。いつもの京香さんのものではない。
「京香さん、あまり千佳、攻めないであげてよ」
「攻める? どうして私が? 聞いてるだけよっ!」
身を乗り出して京香さんが喚く。あまりに冷静さを欠いた姿に驚きを隠せない。
千佳も気圧されているようだ。
「理由、ふたつあってね……。ひとつは割り切れなくなるだろうって、こと。ふっくんのところからお店に行って、ふっくんのところへ帰る。そんな生活のなかで、『春菜』さんでいられるほど、私、強くないと思う」
「『エンジェル』辞めればいいことじゃない? それで他のバイトするとか……いっそのこと、Eさんの奥さんになっちゃうとか」
「ちょっと、京香さん!」
暴走気味の京香さんをたしなめるが、逆効果だった。
「だいたい、Eさんそんな状況知ってて、なにもしないのおかしいよ。千佳さん、こんな苦しんでるの知ってるなら、なにかしてあげようと思わなかったわけ?」
いつもの丁寧口調も消え、京香さんはヒートアップし続ける。
「やめて、京香さん。ふっくんは悪くないから」
「悪い悪くないじゃないの! 『春菜』ちゃん、あなたも……」
そのとき、どん、と、鈍い音が店に響いた。
マスターがボトルをカウンターに叩きつけるように置いたのだ。
びくっとして京香さんは言葉を止める。
「ボトル、空きましたよね。次はこれいかがです?」
「あ……ごめんなさい、私……」
マスターは、恐縮する京香さんに笑顔を送ると、俺に視線を投げてよこす。
「しっかりしてくださいよ、男なんですから」
優しい口調でそういうと、何事もなかったかのように、鮮やかな手つきでボトルを開封する。
「これね、あんまり高いワインじゃないんですけど、私の大好きなやつなんです。いったん破産しちゃった名門ワイナリーが孫の世代になって畑を取り戻し、再びワイン作りに挑んだ、っていうやつでね。まだ、味は昔にはかなわないでしょうけど、けっこう情熱的で、力を感じるいいワインですよ」
そういって、新しいグラスを取り出し、3人分を注いでくれた。
「千佳さんも、京子さんも、そしてEさんも。これ呑んでみてください。お店の奢りですよ」
そういって、ウインクした。
この店にはウインク好きが多すぎる。
「私、男運悪いんですよね。なんかすっごいのにばっかり引っかかってきちゃったの。滅多な事じゃ惚れないんだけど、たまに惚れる男が……ね」
落ち着いた京香さんが、新しいワインをテイスティングしながら、言った。
「世の中の男、みーんな悪い奴なんじゃないかって思っちゃうぐらい。だから、Eさんにはもっとしっかりして欲しくて、『春菜』ちゃんにはもっと幸せになって欲しくて……。なんかわからないうちに熱くなっちゃって。ごめんなさい」
『京子』さんは、熱くて寂しがりで、感情に左右されやすい性格なのだろう。
それがわかっているからこそ、あの冷静な格好いい『京香』さんが生まれたのかもしれない。
「……京子ちゃん、ありがとうね」
千佳は懸命に笑顔を作る。しかし、すぐに笑顔は涙でにじんだ。
「私ね、前、結婚失敗してるんだ。あ、ちゃんと籍とか入れたわけじゃないんだよ。すごく好きだった人と、一緒に住んでたことあるの」
涙声で、千佳は訥々と語る。初耳だった。
「結婚式の日取りまで決まっててさ。でも、なんか大喧嘩して。嫌われちゃって、家、追い出されちゃったんだ。ほんと、困ったよ。実家もないし、お金もないし、行くところなくなっちゃってね。……だから、ふっくんと住むのはいいけど、自分の家、なくなるの怖くて。いざってときに戻れる自分だけの場所無いと……」
「それでも、千佳さんはEさんのところに行った方がいいと思う」
優しい、『京香』さんの口調で、京子ちゃんが言った。
「もし、ダメになったら、私のところ来ればいいですよ。それに部屋借りるお金ぐらい貸してあげるし。私、けっこう稼いでるんですよ?」
「……そんな、京香さんに迷惑掛けるのは」
「友達だから、ってことじゃダメですか、千佳さん。『京香』じゃなくて、京子に泣きつくの。それって、そんなにダメなこと?」
『京香』さんだけじゃなく、京子ちゃんもまた、いい女だった。
まったく俺の出る幕がないぐらいに。
ぎゅっと、強く俺を抱きしめたまま、千佳が耳たぶを甘噛みする。
耳の縁に沿って、舌を這わしていく。
やがて尖らせた舌先は、耳穴へと潜る。
ぞくっと、背中に快感が走り、うっ、と低い声を漏らしてしまった。
それに気をよくしたのか、千佳の愛撫は激しさを増した。
くちゅ、くちゃ、と唾液の音が大きく耳に響く。
「中耳炎になっちゃいそうだな」
そう言うと、ちょっと強引に千佳の方を向き、今度は俺がその舌を吸う。
絡めとった舌の、淫靡な柔らかさが、再び背骨に快感を走らせる。
指は長く泳ぐ髪を捉え、軽く引っ張るように頭を抱く。
もう一方の手は、千佳の抱擁に合わせた強さで細い腰に添えられている。
薄く、形のいい下唇に軽く歯を立てると、千佳は吐息を漏らす。
そのまま、顎先を経て、首筋へと舌を這わせていったあと、肩胛骨の上で、強く肌を吸い、その征服者の印を刻んだ。
こんな場所にキスマークを付けるのははじめてのことだ。
胸元や背中の開いたドレスを着用する『春菜』のことを思い、普段は胸や下腹部など、他人の目に晒されることがないであろう場所にしかキスマークを付けないよう、細心の注意を払っていた。
「これで、私はふっくんのものだね……」
その作為的な行動に気が付いた千佳は、囁くような声で言った。
俺の意志は的確に千佳に伝わっている。
「そう。完全に俺のもの」
そういって、今度は控えめな乳房の頂上付近を強く吸う。
「キスマークだらけにしてやろうか?」
「……だらけはちょっとなあ」
そういって、くすくすと笑う千佳。
「……私も」
そういって身体を起こし、重なるように俺の首筋へと取り付くと、お返しのキスマークをくれた。
千佳の重みが、心地よい。
密着する柔肌の感触が、心地よい。
顔に降りかかる髪の、その香りが心地よい。
「……やっと決まった。ふっくんと住むわ」
結局、バーでは持ち越しとなった結論を、ついに千佳は口にした。
「結婚、っていうのはまだ具体的に考えられないけど。でも、一緒にいたい」
「それで、いいんじゃない?」
甘えた子どものように、胸板に頬摺りする千佳の頭を撫でてやる。
「私、ふっくんの臭い、好きかも」
「千佳さんは臭いフェチですか?」
「んー。そんなこと、考えたこと無かったけど……」
「フェチなんてそんなもん。ある日気が付くみたいだよ」
「そうね……。ふっくんの中に、あとどれぐらいのフェチが眠ってるのかな?」
「千佳のなかにも、ね」
そういって、ちょっと身体を引き上げ、千佳の腹の下で猛っていたそれを、股間へと合わせる。
千佳は軽く腰を浮かせると、手を添えて自分の中へと導いた。
前戯らしい前戯もなかったが、そこは十分に熱く、濡れている。
いつもよりゆるくとろけた千佳の中へ。ゆっくりと、深く、包まれていく。
「はぁぁ……ん」
根本まで潜り込んだとき、千佳は切なそうな声を漏らした。
俺は堪らず、下から突き上げる。
「あっ……ああ……っはあ……」
送り込む快感に応えるように、千佳も腰を揺らし始めた。
「いいっ……きもちいいよ……ああ……」
自らの弱点に、自ら合わせ、快感を引き出す腰の動き。
身体を起こし、対面座位の形になって、千佳にキスをする。
千佳は自ら腰を振り、快感をむさぼる。
すべてを解放し、牝になった千佳がそこにいた。
俺は小さな胸を揉みしだき、唇をむさぼって、それに応える。
やがて押し倒すように組み敷くと、千佳の快感を引き出すための抽出を始める。
「い……いくッ……すご……いの、い、い、いく……っ」
はじめて聞く、絶頂への嬌声を、打ち付ける腰に合わせるように上げる千佳。
今まで優しく俺を包んでいた千佳が、きゅっと締め付けるように収縮する。
耐えようのない快感が脊髄を貫き、俺は千佳のなかで果てた。
乱れきった息が整うまで、何分かかっただろう。
千佳に覆い被さったまま、思考が戻ってくるのを待った。
「……中で出しやがったな」
「あ。」
まだ千佳の中で萎えきっていないモノを、あわてて抜こうとすると、それを止めるように、足を絡ませる。
「まあ、いいってことよ。……もうちょっと、このままでいよっか」
上体を起こし、見下ろした千佳は、泣きながら笑っていた。
「お前さ、本当にセックス苦手なの?」
「んー。苦手……だった、かな。たしかに最近得意かもね」
「だよなあ」
ぶかぶかのパジャマを纏った千佳の前に、ティーカップを置く。
本当はゆっくり、千佳といちゃついたまま眠りに落ちたかったのだが、出勤時間まであと2時間弱では、そういうわけにもいかない。
「最初に付き合った人。すごくいい人だったけど、セックスに関してはとんでもなく我が儘な人でね。まあ、今思うとよくもまあ、あんなに自分勝手なセックスに付き合ってたと思う。まあ、童貞と処女だったっていうのもあると思うけど」
「ふうん……って、ちょっとまて。千佳って40代としか付き合ったこと無いんじゃなかったけ?」
「あはは。やっぱり気が付いた? そう。その人、40代の童貞だったの」
「そ、それは……」
「話だけ聞くと『キモい』よね。……真剣に私に惚れてくれてたし、私も好きだったから、関係ないって思ってた。でも、そのうち、毎日、抱かれるのが苦痛になってね。セックスなんてどこがいいんだろう、って思ってた」
内容の割には穏やかな口調だった。
「んで、しばらく拒否しつづけたら家追い出されてさ。はは」
「そんな理由でか……」
ムカムカしてきた。そいつに会ったら、殴らずにはおれないだろう。
「彼にとっては大切なことだったのよ。身体の関係を拒否されることが、自分のすべてを拒否されることだと思ったみたいでさ……」
俺の怒りのオーラを察してか、千佳の口調はことさら優しいものになっていた。
「なんとか友達にお金借りて、アパート借りて……。毎日泣きそうだった。そんなときに不倫の彼と出会って……。いろいろ仕込まれちゃった、ってわけさ」
激しい嫉妬を伴う妄想が脳みそをぐちゃぐちゃに引っかき回す。
「いろいろ……というと……」
思わず聞かずにはいられなかった。
「ご奉仕、ってやつ? 私はひたすら快楽を提供するだけ。会えばすぐホテル行って、部屋にはいるとすぐフェラさせられて、服も脱がずに突っ込まれて……。それでも前の彼より上手かったんだろうね、きもちよかった。いわれるがままにやってれば、気持ちよくなれたから、それでいいや……って」
千佳はゆっくりと紅茶を飲み干す。
情けないことに俺は勃起していた。
「でもね、その人のこと、好きだった。仕事できるし、格好いいし、そんなセックスの後はすごく優しくしてくれた。言うこと聞いてたら、いつか愛してくれるかなぁって思ってたんだけど……」
壮絶な過去を、静かな口調で語りきり、千佳はにっこりと微笑んだ。
全部、もう過去だもん。そんな声が聞こえたような気がした。
「そんで、ふっくんが3人目」
「そりゃ……セックス嫌いにもなるわなあ」
「あ。嫌いってことはないんだよ。不倫の彼のとき、私けっこう好きモノかもなあ、とか思ってたし。……でも、いつも主導権相手だったんで、自分からどうしたらいいかとか、よくわかんないし。それにあんまり淫らな反応してもふっくんに引かれるかもって思ったら、ホント、どうしていいかわからなくてさ。……だから苦手」
「……なんか、過去の男、まとめてブチ殺してやりたい気分なんですが」
「あはは。もし会うことがあったらやっつけちゃってね」
そういって笑う千佳に、健気さを感じることはなかった。
本気で、過去を吹っ切った。そんな笑顔だったのだ。
俺は、全身の力が抜け、思わずテーブルに突っ伏してしまう。
「ま、いいってことよ。奴らが作ってくれた下地があったから、ふっくんを口説けたんだと思ってるし」
「なんとも前向きなお嬢さんだこと……」
「振り返っても辛いだけだし、ね」
一瞬だけ、笑顔に陰が過ぎった。
当たり前だが、そんなに強いわけがない。千佳は、全力で前を向こうとしているのだ。
俺がそんな千佳の過去に引っかかってるのでは、あまりに情けなさすぎるだろう。
「ところで、ふっくんさ」
「ん?」
「私の過去、聞きながらちんちんおっきくしてたでしょ?」
「……」
突っ伏した顔を上げられない。
「あはは。ご奉仕してあげましょうか? 髪フェチスペシャルで」
「……あのなぁ」
「ほれ、素直にいいなさい。『お願いします』って。今ならまだシャワー浴びる時間もあるからさ」
「おっ、お願い……しま……す……」
前向きなうえ、『得意』になってしまった千佳には、しばらく太刀打ちできそうにない。
出典:萌えちゃんねる
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