キャバ嬢を愛して10

2009/11/07 13:02 登録: えっちな名無しさん

『エンジェル』は大盛況だった。

指名嬢の誕生日となれば、客はそれぞれ大きな花束やプレゼントを抱えて店にやってくる。
そして、それぞれのテーブルでドンペリなど、高い酒が開けられる。
その店のナンバーワンの誕生日ともなると、それはもう祭といっていい。
普段は曜日をバラして顔を出す多くの客が一斉に店へと集結するのだ。
すんなりと席に着けることは稀で、場合によっては1時間以上も待機席で待たされることもある。

『京香』さんの持ち客が何人ぐらいいるのかは、見当も付かないが、1席に『京香』さんが付くのは1時間にほんの5分程度といったところだろう。残り55分間は、ヘルプの女の子を廻して間を持たせるのだ。
仮に延長したとしても、やはり次の1時間で5分付くぐらいだということがわかっているため、ほとんどの客は延長せずに帰っていく。その空いた席へ、新たに空席待ちをしていた指名客が押し込められていく。
ひっきりなし客が回転し、『京香』さんはひたすら席から席を飛び歩くことになる。
ナンバーワンの誕生日ならではの風物詩、といったところだ。

そんな光景を見ながら、俺はのんびりと酒を呑む。
「すごいねえ」
「ホント、見習わないとねえ……」
どこまで本気なのか、『春菜』は実にのんびりとした口調である。
いつものようにまったりと酒を呑む俺と『春菜』を横目で見ながら、田上さんが恨めしそうな顔で若いヘルプの娘と世間話をしている。
こういう状態になることは最初から分かり切っていたのだから、そんな顔されても困る。

結局、千佳は俺と一緒に住んだあとも、『エンジェル』での仕事を続けることにした。
どうしても上手く「割り切り」ができず、これは無理だと自身が、もしくは端で見ている『京香』さんが判断したときはすっぱりと辞めるという約束で。
今のところ、「無理」な状態が訪れることはない。というより、3年という年月、『春菜』でありつづけたことが、想像以上に千佳の中で定着していたようだ。そのことを「いい」とも「悪い」とも言えない自分がもどかしい。

好きな女性にはいつだって自分のことを考えていて欲しい。当然の気持ちだ。
しかし、俺は千佳と付き合い始めるとき、「キャバ嬢でありつづけること」を受け入れ、見守るという約束をしているし、千佳の抱えている事情もよくわかっている。
『春菜』の状態が安定している以上、『エンジェル』を辞めろ、という権利はない。
働いている以上はそれなりに頑張って欲しいとも思う。しかしキャバクラが職場である以上、頑張る=指名を獲る、ということになってしまうので、迂闊に応援もしにくいものだ。

また、一緒に暮らすようになってみて、『春菜』の仕事がプライベートにも微妙に食い込んでいることを思い知らされた。
客からのメールである。
これまでは俺と逢っている間は着信を無視していたんだそうだが、一緒に住んでいると、そうもいかない。

千佳の手料理を堪能している土曜の午後、ゆったりと二度寝三度寝を堪能している日曜の昼。
そんな「俺たち時間」にも、客が割り込んでくるのだ。
日によってはひっきりなしにメールが届くこともある。
そのすべてに返信することはないが、全部を無視するわけにもいかない。
眠そうに目をこすりながら、複数の客に返信を返す『春菜』。
一緒に住むまでは、まさか俺の家で『春菜』の横顔に出会うとは思いもしなかった。

ヘルプの女の子が2人変わったあと、ようやく、田上さんの隣に『京香』さんが付いた。
「わざわざありがとね」
そう言いながら、慣れた手つきで田上さんからのプレゼントを受け取る『京香』さん。
オーダーしたドンペリのロゼが運ばれ、俺や『春菜』にも振る舞われた。
「やっぱ、この席が一番落ち着くわ」
ふう、とため息をつきつつ、『京香』さんがグラスを空ける。
「だろ? ずっとここに居ちゃえよ〜」
田上さんは『京香』さんの肩に手を回しながら言う。
「そうもいかないのはわかるでしょ? たーちゃん」
「わかんないよぉ〜。わかりたくもない!」
「こらこら、だだこねないの!」

端で聞いていられないくらい阿呆らしい会話が続く。
むろん田上さんもすべてわかった上で言っているし、それを了解した上で『京香』さんも相手をしている。
案の定、『京香』さんはすぐに呼ばれ、別の席へと移っていった。
すぐにヘルプの娘がやってきて、ふてくされる田上さんを懐柔する。
『京香』さんに次ぐ田上さんのお気に入り、巨乳のアヤさんだ。

すでに入店してから半年。以前とは見違えるような落ち着きと艶っぽさを身に付け、その巨乳もあいまって、人気嬢への道をひた走っている。
今日のような状況でもない限り、彼女がヘルプ周りをすることなどほとんどなくなっていた。
「……延長しても、また5分だろうなあ」
田上さんがぼやく。
「仕方ないですよ、『京香』さんですから」
「まあ、そりゃそーだわな。所詮、高嶺の華でございますわな」
そういって、ちらっと『春菜』を見た。
「あーあ。俺も『春菜』ちゃんぐらいのにしておけばよかったよなあ」
「はいはい。人気なくて済みませんでしたね。大人気の『京香』さんのおこぼれに預からせていただいてますよーだ」
そういって、グラスにドンペリを継ぎ足す。『春菜』は今日はずっと俺の横に付きっぱなしである。

「まあ『春菜』ちゃん、ってわけにもいかねえし、そろそろアヤちゃんに乗り換えるかなぁ」
「えっ。勘弁してくださいよー『京香』さんに殺されますよー」
アヤちゃんは本気で動揺している。
それが客の意志であっても、取った取られたは禍根を生みかねない。
仕事に対してサバサバした『春菜』ですら、客を取られれば落ち込んでしまうぐらいだ。
ましてや相手がこの店の絶対的女王ともなれば、ビビるのも仕方ないだろう。
「はっはっは。冗談だよ、冗談。でも、アヤちゃん、優しくしてくれないと指名しちゃうカモよ?」
「はいっ、誠心誠意尽くさせていただきますので、指名だけは勘弁してくださいっ」

「なんの話?」
ふと、見ると、『京香』さんが立っていた。
「あら? これはお早いお戻りで……」
とたんに田上さんは小さくなってしまう。
「ごめんねーアヤちゃん、馬鹿がご迷惑おかけしたでしょ?」
「い、いえっ! とんでもないっ!」
そういって、アヤちゃんは飛び跳ねるように席を立ち、挨拶もそこそこに去っていった。
『京香』さんは、妖しく微笑むと、田上さんの隣に座る。
その肩に顎を載せ、耳元で囁くように言った。
「そろそろ時間だけど……もちろん延長していくわよね?」

閉店のあと、店の女の子たちだけで、『京香』さんの誕生会があったそうで、千佳が家に帰ってきたのは7時を回ったころだった。
うるさいぐらいに連打されるドアホンのチャイムに叩き起こされ、玄関に出ると、千佳と京子ちゃんが肩を組みながら騒いでいた。
千佳が誰かを家に連れてきたのははじめてのことだ。

「おーす、ひっくん! お元気ですかあ」
「京子ちゃんさらってきちゃったよぉぉ」
ふたりとも並のテンションではない。
「……お前ら、時間考えろよ」
とりあえずふたりを迎え入れ、ドアを閉める。

「んもー、付くテーブル、付くテーブル、みーんなシャンパン空いててさ。洒落にならないぐらい呑まされたよ」
コートを脱ぐことも忘れ、ふらふらと千佳がダイニングテーブルに着く。
京子ちゃんはそこまで酔っていないようで、自分コートを脱いだ後、千佳のコートを脱がせてくれた。
「おつかれさん。茶でも入れるか?」
ふたりのコートをハンガーに掛けながら、聞く。
「んー。お願い」
テーブルに突っ伏したままの千佳が応えた。

ぬるめに淹れた玉露を出し、俺もテーブルに着く。
「しかし、とんでもない盛況ぶりだったなあ。さすが『京香』さん」
実際のところ、誕生日とはいえ、店を混乱に陥らせるほど多くの客を持っているキャバ嬢というのは、それほど多くはない。
『京香』さんは、特別な存在なのだ。

「『春菜』の誕生日だったら、どのぐらい混むのかね?」
「さあねぇ……。飛び込みの場内指名を除くと、常連さんって、『Eさん』ふくめて5,6人だし」
「うわー少ねえなあ」
「まあ、週に2回しか出なくなってから、お客さん減らしちゃったからね。……というか、そこに文句付けるのはどうかと思うけどね」
「はっはっは。ごめんなさい。……しかし、去年の『春菜』の誕生日はどんな風だったんだろうなぁ。もう少し指名客いたんだろ、そのころは?」
「……あはは。やっぱり気が付いてないか」
笑って千佳は湯飲みを呷る。
「え?」
そういわれても、思い当たるフシがない。去年の『春菜』の誕生日、俺、店に行ってないよな?
というか、そのころはすでに指名客だったはずだが、誕生日に誘われた覚えすらない。

「ふふっ。『春菜』ちゃん、去年の誕生日お休みしてたんだよー」
京子さんがフォローしてくれているようだが、意味がわからなかった。
「私の誕生日、知ってるでしょ?」
「そりゃもちろん、12月27日……」
そこまで言って、ふと気が付いた。
「お前、それって……あの日か?」

妻に離婚を切り出された日。
はじめて『春菜』にデートに誘われ、そしてはじめて千佳に出会った日。
なにかが動き出した運命の日。

その日のことを忘れるわけはないが、具体的な日付に関してはしっかりと覚えているわけではなかった。とにかく、毎日がシームレスに繋がっており、俺は怒濤のように押し寄せた出来事にひたすら対処し続けていた。
だから、今まで「年末だったよな」ぐらいの記憶と認識しかなかったのだ。

「まあ、男の人はそういう日付とか、あんまりこだわって覚えてたりしないからね」
軽いショックを受け、固まっている俺を京子さんが優しく慰めてくれた。
「いや……ホント。ごめんなさい」
「いいってことよ。まあ、あのときは特別、誕生日だからふっくんに逢おうとか思ったワケじゃないし」
「『春菜』ちゃん、毎年、誕生日は仕事しないんだよねー。店来れば売り上げ伸びるのにさ」
「だって……それは千佳の誕生日だからさ。『春菜』の仕事には使いたくないかなぁ、って思っちゃうんだよね」
「ふふ。千佳さんらしいね。私はフル活用。今日も大漁でした♪」

そのあと、服も着替えずに、ふたりはは抱き合うようにしてベッドに倒れ込んで寝た。
千佳と京子ちゃんは仲の良い友達になれたようだ。

しかし、なんとも眼に毒な光景である。
美女がふたり。長い髪を乱れさせ、捲れ気味のスカートから伸びる綺麗な足を絡ませ逢っている様は、とてつもない興奮を呼び起こす。

仲間に入れて……くれるワケないよなあ。

俺はオナニーしてからソファーでもうひと眠りしようと思った。





夢を見ていた。

ガタイのいいハゲ親父のとなりで、『春菜』が笑いながら水割りを作っている。
たしか、『春菜』の常連客で、瀬川、とかいう男だったと思う。
瀬川はライム・グリーンのドレスの裾を捲り、『春菜』の太ももをなでまわしている。
『春菜』はやんわりと拒否するが、瀬川は止める気がないようだ。

瀬川の手の動きは大胆になり、足の付け根の方まで上がっていく。
それでも、軽く開かれた足は閉じられることはなく、『春菜』は羞恥をかみ殺すような笑顔のまま、瀬川との会話を続けている。

やがて、露わになった下着の上から、瀬川の指が千佳を攻める。
『春菜』は、上気した顔を背け、瀬川の手を掴んで退けようとする。
しかし、瀬川はさらに激しく、執拗な愛撫を続け、腰に廻していたもう一方の手をドレスの脇から突っ込んで、胸を揉む。

「んっ」
声が漏れると、瀬川は満面の笑みを浮かべ、足を絡めるようにして、大胆に股を開かせる。
水色のパンティの中央部分が濡れ、変色しているがわかる。
瀬川はその脇から指を滑り込ませ、直接『春菜』の部分に触れる。
指は奥まで差し込まれ、『春菜』の敏感な部分を巧妙に攻める。

唇を噛み、与えられる快感に耐える『春菜』。
一切の抵抗はない。それどころか、その快感を享受するかのように、腰が小刻みに揺れる。

押さえようのない怒りと劣情が俺を包みこむ。
立ち上がろうとしても、身体が動かない。叫ぼうとしても声が出てこない。

瀬川に嬲られ、快感に悶える『春菜』を、ただ見守るしことしか、俺に出来ることはなかった。


汗だくで目を覚ました。
午後1時。

どうやら、テレビを見ながら居眠りしてしまったようだ。
テレビは、軽薄そうなお笑いタレントが山ほど出演しているクイズ番組を写している。
キョロキョロと千佳の姿を探し、ふと我に返った。
居るわけはない。今日は『エンジェル』の出勤日。千佳は会社から直接、店に出ているはずだ。

なんていう夢を見てるんだ、俺は……。

『エンジェル』に行ってみようかとも考えたが、たぶん、今日は瀬川も店に顔を出しているはずだ。ちらっとでもその顔を見てしまうと、殴りかかりそうな気がしたので、やめた。

とりあえずコーヒーでも炒れようと立ち上がったとき、テーブルの上に投げ出した携帯の着信ランプの点滅に気が付いた。

メール1件。千佳からのものだった。

件名:アフター
『ちょっと瀬川さんとご飯食べてくる。4時までには戻ります。先に寝てていいよ。』

絵文字で飾られたメールに、激しい嫉妬とやるせない怒りがこみ上げてくる。
あまりアフターはしない『春菜』だが、月に1度程度は客に付き合うこともある。
あくまで仕事、だ。
そんなことはわかっているが、タイミングが悪い。
あの夢のあとに瀬川と。

思わずソファに携帯を投げつけ、サイドボードの上にあったバーボンをひっ掴む。
グラスに注ぐのも面倒くさく、そのまま一気に呷ってしまう。

『春菜』の……いや、千佳の身体の上をはい回る瀬川の指。
歯を食いしばってそれに耐える……いや、それを受け入れる千佳。

悪夢が妄想によって増幅され、より最悪な想像となって俺を襲う。
服をはぎ取られ、露わになる華奢な千佳の身体。
太った瀬川がのしかかり、M字に開かれた足の間に腰を埋める。

ありえないとわかっているはずの光景が、リアルに脳裏へと展開されていくのを押さえることが出来ない。

濡れそぼった千佳が瀬川を受け入れる。
最奥まで貫かれた千佳は、背を反らせて快感に耐える。
「気持ち、いいんだろ?」
聞いたこともない瀬川の声が、脳内で再生される。
髪を振り乱して、首を横に振る千佳。精一杯の抵抗。

動きを早め、さらに千佳を攻めあげる瀬川。
「あっ、ああ……」
噛みしめる唇から、漏れ出す声。

あり得ない光景。他人に犯される千佳。
それに果てしのない劣情を覚え、勃起している俺。
やはり、歪んでいる。

瀬川は千佳の細い腰を掴み、後ろから形のいい尻に腰を打ち付けている。
長く、細く、綺麗な髪を鷲掴みにし、強引に千佳の奥を突きまくる。
「ああっ、い、いいっ」
もう、千佳は嬌声を我慢していない。

千佳を攻め続けたまま、ゆっくりと、こちらを振り返る瀬川。
どうだ、と言わんばかりの満面の笑みを浮かべながら。


「千佳っ!」
自分の叫び声で目が覚める。
「はい。ここにいますよ」
目の前に、千佳の顔があった。
「あ……。俺……」
気が付くと、俺は千佳の膝枕で寝ていた。
「悪い夢でも見た?」
「……うん」
頭がガンガンする。
ゆっくりと起きあがる。テーブルの上に、カラになったバーボンのボトルが置かれていた。

「どうしたの、ヤケ酒? ボトル全部空けちゃったんだね」
優しく響く、千佳の声。
思わずすがりつく俺を、千佳は抱き留めてくれた。
「水、飲む?」
「……いや、こうしていたい」
優しく、頭を撫でてくれる。
「私の夢、見てたの?」
「まあ、……ちょっとな」
つい、視線を逸らしてしまった。
「そっか」
そういって、ゆっくりと口吻してくれた。

「そろそろ、辞めるよ」
「え?」
「『春菜』さん、辞めるよ」
「……いいのか?」
「ふっくんのおかげで、思ってたより早く借金返せそうだし……それに」
千佳は綺麗な瞳に涙を溜めていた。
「千佳……」

「愛してるよ、ふっくん」
そういって、もう一度、キスをした。

出典:萌えちゃんねる
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