キャバ嬢を愛して11【完結】

2009/11/07 13:04 登録: えっちな名無しさん

エピローグ

千佳と『春菜』。
俺の出会った最高の女性が持つ、ふたつの顔。
似て非なるふたつの存在。

誰もが幾つもの顔を持ち、それを使い分けながら生きている。
特別なことではない。

ただ、キャバクラという場所が、それぞれの顔を際だたせる舞台だったということに過ぎない。
俺は俺であり、課長であり、Eさんであり、ふっくんでもある。
『京香』さんも京子ちゃんであるし、田上さんもたーちゃんだったりする。
小西は未だに『リサ』で居続けているし、極めて裏表の少ない平田だって、クライアントの前では「宣伝営業部2課の平田」になる。
いまひとつ頼りない部下の小林だって、家に帰れば2児の父として、頼もしい存在振なのだろう。

誰だってそんなものだ。

年内一杯で千佳は『春菜』であることを辞め、そして、春には斉藤千佳から江口千佳に名前が変わった。
今でもたまに田上さんの付き合いで『エンジェル』に行くことがある。
『京香』さんが仕切り、アヤちゃんがその片腕として店をもり立てている。
もう、そこで『春菜』に逢うことは、ない。
最後の日、千佳は泣いた。『春菜』との別れを惜しんで。


ゴールデンウィーク。
先月逝った千佳の父の墓前へ、ふたりで赴いた。

「お父さん、私、お母さんになるの」
愛おしそうに下腹をさすりながら、千佳が報告する。
俺は無言で手を合わせた。
そう遠くない将来、千佳の母も呼び寄せ、生まれてくる子と4人で暮らすことになっている。
千佳は、妻としての顔と母としての顔、さらに娘としての顔を使い分けることになるのだろう。

俺も「お父さん」と呼ばれる、新たな顔を持つことになる。
幸せだけど、不安だらけだ。
そんなとき、ふと『春菜』に逢いたくなる。

「どうしたの?」
神妙な顔で突っ立っていた俺に、千佳が声を掛ける。
「ん。ちょっとね」
ふと、突拍子もない考えが脳裏を過ぎった。
「名前さ」
「え?」
「女の子だったら『春菜』がいいなあ、俺」
「……馬鹿じゃないの?」
そう言いながらも、千佳は笑っていた。
俺の大好きな、とびきり明るい笑顔で。

「春菜ちゃん」
まだ見ぬ『娘』に、そう呼びかけてみた。





ここまで拙い話にお付き合い頂き、ありがとうございました。

出典:萌えちゃんねる
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