女「私、幽霊になりたかったのに」

2009/11/28 17:11 登録: えっちな名無しさん

1 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 17:54:25.35 ID:HA2iId5DO
男「ふー……ようやくバイト終了」

男「2時過ぎかぁ……早く帰って風呂入って寝てぇ」

男「……ここの池、夜見ると不気味だな。昔、ここで自殺した女がいたっつー噂もあるし……」

男「そういや昨日の夜ここで幽霊見たとか友が言ってたな……」

男「……」ブル…ッ

男「……とっとと帰るか」

男「ん?」

男「な、何だあいつ……」

女「……」


3 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 17:55:35.17 ID:HA2iId5DO
男(浴衣着た女?)

男(しかも下半身池に浸かってるし……)

男(おいおい、もうじき真冬だぞ……?)

男(普通の人間じゃねーよな、絶対)

男(キチガイか、それとも……幽霊?)

男(はは……まさかな)

女「……」クルッ

男(うわ、こっち見た!?)

女「……」ニヤァ…

男「……っ!」ゾクッ

4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 18:00:42.81 ID:HA2iId5DO
男(に、逃げなきゃ……! キチガイだろうが幽霊だろうがヤバいだろ……!)

女「たす……けて……」

女「助けて……」ユラリ…

男(ヤバい……ヤバいヤバいヤバい!!)ダダッ!

女「あははははははは待てええええええ」ザッパザッパ

男「ひいいいっ!」

女「待てー……きゃっ!?」ザッパーン!

女「ごぼっ、たす、助けてえええ!!」バシャバシャ

男「……えーと」

6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 18:05:52.26 ID:HA2iId5DO
女「はぁ……助かりました。ありがとうございます」

男「……お前、ただの(頭のおかしな)人間だよな?」

女「いいえー。正真正銘の幽霊ですよー?」

男「溺れかけて助けを求める幽霊がどこにいる。……で、何でそんな格好してんだよ? 寒いだろ?」

女「はい! ものすごく寒いです!」ガタガタブルブル

男「そりゃそうだろうよ。俺もズボンが濡れて滅茶苦茶寒い。お前のせいでな」

女「すみません。……水に浸かってる時は感覚麻痺してそんなに寒くなかったんですけどねー。上がるともう駄目です。歯の根が合いません」ガチガチ

男「着替えとか無いのか?」

女「あの木陰に着てきた服とタオルの入ったカバンが」ブルブル

男「じゃあさっさと着替えてこい。ついでにその後タオル貸せ」

女「はーい」ブルブル

7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 18:10:47.62 ID:HA2iId5DO
男(何やってんだろ俺……)

男(溺れかけたキチガイを池に入って助けてズボン濡らして、その上着替え待って……うー寒い)

男(でも、近くで見たらそこそこ美人だったな。黒髪ストレートとか結構好みだし)

男(いやでもキチガイはちょっとなぁ……)

男(……あの陰で着替えてんだよな、今)

男(……)

男(……いやいや何も考えてない。何も考えてないぞ俺は)

女「お待たせしましたー」

男「うをぅ!?」ビックーン!

女「どうしたんですか?」

男「な、な、何でもねーよ!」

女「……?」

11 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 18:16:38.77 ID:HA2iId5DO
男(今度は普通のダッフルコートか。……でも下はホットパンツにニーソかよ! 寒いだろ!)

女「はい、タオル」

男「……やっぱ拭いても駄目だな。……うぅ、寒ぃ」

女「すみません……」

男「お前さ、幽霊の真似事なんかして楽しいか?」

女「だから私は幽霊ですってばー」

男「下らねぇ嘘つくなよ」

女「……ばっちり生きてますすみません」

14 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 18:23:06.57 ID:HA2iId5DO
男「はぁ……お前ん家、この近く?」

女「え? ええ、そうですけど」

男「送ってく。最近物騒だし女が一人で夜道ふらふらすんなよ」

女「送り狼?」

男「誰がテメーみたいなキチガイ襲うか馬鹿野郎」

女「うぅ……」

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 18:28:15.63 ID:HA2iId5DO
女「ここが家のマンションです」

男「ふーん……」

女「ちなみに404号室です」

男「聞いてねーよ。じゃあな。二度とあんな悪ふざけすんなよ」

女「部屋、寄っていきます? お詫びに温かい飲み物でも……」

男「いらねーよ。さっさと帰りてぇんだよ、俺は」

女「いけずー」

男「とっとと帰ってクソして寝ろ」

女「冷たっ!池より冷たい!」

男「何とでも言え」スタスタ…

女「あーあ、行っちゃった……」

17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 18:33:19.77 ID:HA2iId5DO
友「お前、昨日大丈夫だったか?」

男「何が?」

友「お前ん家、あの池近いだろ? 幽霊追っかけて来なかったか? 『助けてー待てー』って。うぅ……今思い出しても寒気がする」

男「ああ、追っかけて来た」

友「な、言った通りだろ? だからあの池の近くは通るなとあれ程……」

男「で、溺れた」

友「え? 誰が?」

男「幽霊」

友「……なんだそれ」

男「あの幽霊、生きた人間だった。幽霊の正体はキチガイのコスプレだ。馬鹿馬鹿しい」

友「へ……?」

19 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 18:39:40.29 ID:HA2iId5DO
友「……なるほど。で、その女の子を助けたと」

男「そーゆーわけだ」

友「なーんだ。ビビって損した」

男「幽霊なんて非科学的なもの存在するわけねーだろ」

友「……何か真実知るとイライラすんな。悪趣味な奴だ」

男「幽霊なんか本気で信じてる奴も悪趣味だと思うがな」

友「ぐ……っ」

男「まぁ怪談とかいう与太話、真に受けるなっつーことだ」

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 18:44:53.73 ID:HA2iId5DO
友「……その子、今日もあの池に居るんかな?」

男「二度とこんなことすんなって釘さしといたから多分居ないだろ」

友「でも少し残念だな。人生初の心霊体験できた! ……と思ったのに」

男「怖いとか言っといて結構喜んでんじゃねーか」

友「ふっふっふっ、怪談大好きですから。それにな、あの池案外有名なんだぞ? オカ板とか、心霊系のサイトとかで」

男「釣り乙だな」

友「ちきしょー。見事に釣られた……」

男「それにしても、何であいつあんなトコであんなことしてたんだろ?」

友「俺に訊かれてもなー。本人に訊いたら?」

男「……」

21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 18:51:38.13 ID:HA2iId5DO
男「今日も遅くまでバイト」

男「またあの池の側を通るわけだが……」

男「……また居たよ、あいつ」

女「助けてー……って、昨日の人か」

男「お前、昨日言ったばっかだろ? 二度とこんなことすんなってさ」

女「日課ですから」

男「もっとマシな日課を見つけろ」

女「でも、ネット見たらみんな期待してくれてるし……目撃した人はたっぷり怖がらせて満足させてるし……」

男「あー……そのネットの噂、多分もうネタばらししてあると思う」

女「えー!?」

男「一昨日、お前がおどかした奴居るだろ? あれ、俺の友達。昨日のことは全部言った。
  今頃オカ板とかに『あれは偽物だ』って書き込んでると思う」

女「そんなぁ……」

23 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 18:59:34.03 ID:HA2iId5DO
女「悔しいなぁ……せっかく驚かせてあげたのにっ」

男「……でさ、何でお前こんなことしようとか考えついたの?」

女「しゅ……趣味だから?」

男「本当にそれだけか? それだけで毎日、こんな寒い中人が通るの待ち続けてんのか? だとしたらとんだ阿呆だ」

女「……」

27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 19:07:22.88 ID:HA2iId5DO
女「これやり始めた理由かぁ。あんまり人に話すことじゃないんですけどね……」

男「勿体ぶらずにさっさと要点だけまとめて言え」

女「一年前の夜中にこの池で自殺しようとした。でも死にきれなかった。ずぶ濡れの私を見て幽霊と勘違いした人がいた。以上」

男「ちょ……」

女「要点だけまとめて言いましたよ? あ、ちなみにその時は浴衣じゃなかったですけどね」

28 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 19:12:43.78 ID:HA2iId5DO
男「えーと……詳細を聞きたいところだがとりあえず着替えてこい。寒いだろ」

女「優しいんですね。えーと……」

男「男だ」

女「私は女。よろしくね」

男(よろしくされたくねー……)

29 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 19:18:08.56 ID:HA2iId5DO
女「着替えてきましたー」

男(ミニスカにまたニーソ……ニーソ好きなのか?)

男「で、自殺未遂ってどーゆーことだよ」

女「私、何やっても上手くいかなくって。受験生だったけど成績も最悪。なーんか生きるのつまんないなぁって思っちゃって」

男(メンヘラかよ……うぜー)

女「で、丁度家の近くに池もあるし飛び込んじゃえーって。……でも、やっぱり溺死って苦しいですね」

男「当たり前だろ」

女「結局死に損なって、何とか岸まで泳ぎきって。体育の成績悪かったのにね。火事場の馬鹿力ですかねー?」

男「知らねぇよ」

女「で、全身びしょ濡れでゼイゼイあえぎながら池の周りフラフラしてたら丁度通りかかった人が叫びながら逃げてっちゃって」

男「そいつが自分を幽霊と思い込んでくれたのに味をしめてこんなこと続けてんのか?」

女「うーん……半分正解」

男「半分って何だよ」

30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 19:24:40.05 ID:HA2iId5DO
女「次の日ににちゃんねるのある板で『昨日池の近くで幽霊見た』って書き込みがあって」

男(多分オカ板だな……)

女「で、そこに『その池で入水自殺した女が居る』って書いたの」

男「性格悪ぃな、お前」

女「そしたらその書き込みにみんな食いついてくれてね。……何だか、フッて楽になれたの」

男「……何で?」

31 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 19:30:25.32 ID:HA2iId5DO
女「死に損なった私が、本当に死ねたような気がしてね。……それからは何だか身が軽くなって勉強にも力が入って見事に第一志望合格っ」

男「……お前、どこの学校行ってんの?」

女「○○大学」

男「ちょ、おま……同じ大学じゃねーか!」

女「え、本当? 私、××キャンパスなんだけど」

男「俺は△△キャンパス」

女「おしいなぁ。でも、会おうと思えば会えるね」

男「誰が会うか」

32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 19:36:07.37 ID:HA2iId5DO
女「でね、色々考えて『幽霊といったら着物でしょ!』って思ったの」

男「完璧な偏見だな」

女「でも家に浴衣しかないしこれで妥協したんです。で、寒くてもこれで我慢!」

男「……こんなことしてて楽しいのかよ?」

女「何だろ……楽しいっていうか、気持ちが楽になるんですよ」

33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 19:43:47.56 ID:HA2iId5DO
女「みんなが驚いてくれる度にね、私は死ねたんだ、死ねたんだ。幽霊になったんだって思えるんです」

女「……でも、この遊びも、もうおしまい」







女「私、幽霊になりたかったのに」

40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 20:09:35.10 ID:HA2iId5DO
男「本当にお前がここで死ねば心霊スポットになるんじゃねーか?」

女「半笑いで酷いこと言いますね」

男「何とでも言え。お前みたいなジメジメした考えのメンヘラは嫌いなんだ」

女「ホント、酷いなぁ。……男さん、もしかして幽霊が本当に居ると思ってるんですか?」

男「いや、別に……」

女「ですよねー。……幽霊なんて居るわけない。死んだら無になるだけ。……そう思いません?」

男「それは同意だが……」

女「私は一年前に死にかけた時、無を見ました」

男(何かややこしい話になってきたぞ……)

41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 20:15:26.23 ID:HA2iId5DO
女「酸素が薄れて、全身を水に責められて……目の前から何もかもが消え失せていく感覚。……二度と忘れません」

男「そのまま死ねれば良かったのにな」

女「本当ですよ。……死ぬつもりだったのになぁ。何ででしょう?」

男「さぁな。やっぱり生きたいっつー本能が勝ったんじゃねーか?」

女「……心の底から消えたかったのに、身体は生きたがったんですかね」

男「ややこしいことを俺に訊くなって」

女「……ですね。自分でも分からないくらいですもんね」

42 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 20:19:00.21 ID:HA2iId5DO
女「……幽霊役を一年も続けてたのは、死んだつもりになりたいだけじゃなかったのかも知れません」

男「他にどんな下らねぇ思惑が?」

女「死後の世界を、在るのか無いのかあやふやな世界を作りたかったんです。私の中にだけでも良いから。……多分、ですけどね」

男「自分のことのくせに何にも分かってねーんだな」

女「はい。……全く分からないんです。自分のことのくせに、ね」

47 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 20:50:27.49 ID:HA2iId5DO
男「で、お前これからどうすんだ?」

女「え?」

男「もう嘘の幽霊もバレて、明日こんなことしても驚く奴居なくなるかも知れないぞ?
  それでもやんのか? ……この馬鹿馬鹿しいごっこ遊びを」

女「昨日男さんが止めろって言ったじゃないですか。友達に本当のこと話したのも、そういうことなんでしょう?」

男「……。……まぁな」

48 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 20:57:57.31 ID:HA2iId5DO
女「良いんです。どうせいつかバレることでしたし。一年間無事続いたのは奇跡みたいなものです」

男「嫌な奇跡だな」

女「えへへ。そうですよね。明日からは……どうしましょう? 浴衣着て水の中に佇んでても馬鹿にされるだけですよね」

男「だろうな」

女「『この嘘つきお化け!』って石投げられちゃうかも」

男「かも、じゃなくて絶対だと思うがな」

女「あーあ、つまんない。死んじゃいたいくらいつまんないなぁ」

49 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 21:02:52.47 ID:HA2iId5DO
女「一年間幽霊やってきたのに……私、生き返っちゃいました。どうしましょ」

男「生き返ったんだからまともな趣味探せよ」

女「難しいこと言いますねぇ。これ以外の趣味かぁ。ネットと……ネット?」

男「非生産的だな」

女「褒めても何も出ませんよ」

男「褒めてねーよ」

女「冗談です、冗談」

男「お前、友達とか彼氏とか居ねーの? そいつらと真っ当な遊びだの恋愛だのでもしてろよ」

女「友達? 彼氏? 何ですかそれ都市伝説でしょう?」

男「うわ……」

女「『うわ……』ってなんですかー」

男「想像以上に非リア充だな、お前」

女「非リア充なのは仕方ありません。自力でリア充化なんて到底無理です」

50 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 21:13:35.45 ID:HA2iId5DO
男「お前、たまに変なこと言うけど結構饒舌だから友達くらいならできるんじゃねーの?」

女「大学での私、かなりの無口ですよ? バイト先でも必要以上のこと言わないし」

男「……意外だな」

女「そうですか? ……なーんか男さんとなら色々話せちゃうんですよね。何ででしょうかね?」

男「知るかよ」


女「これも幽霊効果なのかなぁ?」

男「どんな効果だよ」

女「私が幽霊ごっこしてなかったら会えなかったし、こうやって沢山喋ることもなかった」

男「俺的にはあまり良い出会いとは言えんがな」

女「相変わらず冷たいですねー」

52 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 21:21:40.88 ID:HA2iId5DO
女「私は会えて良かったですよ。……こんなに話すの久しぶり」

男「学校でもそれくらい話せよ」

女「無理無理。私、こう見えてかなりの人見知りなんですよ?」

男「夜な夜な知らない奴に『助けてー』だの『待てー』だの言ってたくせに」

女「それも幽霊効果です」

男「万能薬だな、幽霊」

女「ですねぇ」

54 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 21:26:21.28 ID:HA2iId5DO
男「……。……良かったら俺が友達になってやろうか?」

女「良いんですか?」

男「でも変な依存とかすんなよ?」

女「はい! ……地上初、幽霊と友達の人間の誕生ですね」

男「お前生きてんじゃねーか」

女「……ふふ。それはどうでしょう?」

56 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 21:36:50.90 ID:HA2iId5DO
女「私、本当は死んでいるんです」

男「また下らない冗談か?」

女「死んだこと、ちょっと後悔してるんですよ。……もっと生きていれば良かったって、いつも思っていたんです」チャポッ

男「お、おい。何で池に入ってんだ! また濡れるぞ!」

女「だから、ちょっとしたごっこ遊びをしていたんです。『私は生きた人間。本当の幽霊じゃなくて幽霊を演じているだけだ』って」ザプッ、ザプ…ッ

男「な、何言って……」

女「昨日言ったマンションの404号室。本当は今空き家なんです。……住む人間が死んでしまったからね」

男「おい、いい加減上がって来いよ。風邪引くぞ!」

女「騙してすみません。でも、本当に生きているような気分になれました。……ありがとうございます」

男「……」

女「……。……なんちゃって。騙されました?」ニコッ

男「誰がそんな浮世離れしたこと信じるか、アホ」

女「ちぇー。これにて幽霊ごっこは終了かぁ」

58 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 21:42:57.66 ID:HA2iId5DO
女「あ、でも私たちが友達同士になったのは嘘でもなんでもないですよ?」

男「はいはい。……まさか明日、こっちのキャンパスに遊びに来るつもりか?」

女「駄目ですか?」

男「駄目じゃねーけど……変な発言控えろよ。一緒に居る俺まで変人扱いされちまう」

女「分かりました。今度はリア充ごっこですね!」

男「……幽霊ごっこよりだいぶマシだな」

女「頑張ります!」

男「あと、そのですます調止めろ。友達同士で敬語とかムズムズする」

女「うん。分かったよ」

男「それで良し」

60 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 21:46:41.92 ID:HA2iId5DO
男「あーあ、ニーソぐしょ濡れじゃねーか。寒いだろ?」

女「かなりね。……結局引っ掛かってくれないんならやらなきゃ良かった」

男「ほら、さっさと帰るぞ。送ってってやるから」

女「ありがとねー」

男「……世話の焼ける友達ができちまったなぁ」

女「でも私、男くんが困ってたら何でもするよ! できる限りのこと!」

男「……何かお前のできる限りって範囲滅茶苦茶狭そうだな」

女「うん。自覚はしてる」

61 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 22:06:22.13 ID:HA2iId5DO
男「ほら、マンション着いたぞ。とっとと行け」

女「せっかくだし……寄ってく?」

男「寄らねぇ。俺はバイトで疲れてんだ」

女「バイト、何やってんの?」

男「居酒屋」

女「へー。私、お酒好きだよ?」

男「ふーん。……やっぱ一人で飲んでんの?」

女「単独で居酒屋潜入は怖いから、いつも家で飲んでる」

男「寂しっ!」

女「うん。すっごく寂しい。だから一緒に飲も?」

男「ああ、今度な」

女「え?」

男「……え?」

64 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 22:20:01.40 ID:HA2iId5DO
女「さぁさぁ、遠慮なくくつろいでー。友達の家なんだから」

男「……無理矢理部屋に押し込まれた」

女「お酒持ってくるね。チューハイしかないけど」

男「お前、親はどうしたの? まさか高校の時から独り暮らし?」

女「んー?」

男「去年だろ、自殺未遂」

女「高校の時、お父さんが他県に単身赴任してね。私が大学生になったらお母さんもそっちに行ったんだ」

男「それにしても立派なマンションだな。セキュリティもついてるし……俺の下宿とは大違いだ」

女「今度遊びに行ってみたいなー。男くんの家」

男「今度な」

女「それじゃ、かんぱーい」

男「はいはい乾杯乾杯」

65 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 22:38:30.79 ID:HA2iId5DO
女「うぃーっ。独りより二人で飲む方が美味しいねぇ」グビグビ

男「まぁ、そりゃそうだよな」

女「友達を家に連れて来るのなんて初めて。てか、そもそも友達がさっきまで居なかったのに……ああ、感動のあまり涙が」ホロリ…

男「泣くなよ、みっともない」

女「男くん! 男くんももっと飲まなきゃ!」バンバン

男「机叩くなうるせー」

女「えへ、えへへへへ」バンバンバンバン

男「うわー。もう出来上がってるよ……うぜー」

67 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 23:00:29.36 ID:HA2iId5DO
チュンチュン…

男(んー……あれ、ここどこだっけ?)

女「スゥスゥ……」

男(あぁ、幽霊女に無理矢理引っ張りこまれたっけ。んで、先にこいつが潰れたからベッドに運んでやって……そのままソファで寝ちまったんだ)

男(まだ寝てるよ、こいつ。……頭痛ぇ、飲み過ぎた)

男(俺の講義は昼からだから良いとして……こいつはどうなんだ?)

男「おい、起きろ。起きろって」ユサユサ

女「むにゃ……男くん?」

男「お前、午前中に講義ないのか? もうこんな時間なんだが」

女「んー……あるけど今日はお休み! 私の中では休講っ」

男「こいつ典型的な駄目人間だ」

68 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 23:22:25.47 ID:HA2iId5DO
男「そんなんで単位大丈夫なのかよ」

女「……あんまり大丈夫じゃない」

男「だったら起きろっ」バサッ

女「布団めくらないでよ、寒い!」

男「夜中に池に突っ立ってたくせにこれくらいで寒がるのか?」

女「寒がったって 良いじゃないか 人間だもの みつを」

男「ほら、とっとと起きる!」グイッ

女「んもぅ……強引なんだからぁ〜」

男「よし、目が覚めたな。それで良い」

70 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 23:34:55.27 ID:HA2iId5DO
女「あー、友達って案外面倒くさいんだね。無理矢理起こすし」

男「真夜中に無理矢理家に押し込んで飲ませる奴の方が遥かに面倒くさい」

女「……そうかな?」

男「ああそうだ」

女「まぁ良いや。仕方ないから学校行こう……。男くんは?」

男「一旦家に戻るわ」

女「じゃ、講義終わったらそっちのキャンパス行くねー」

男「ちゃんと講義受けろよ。サボったら友達止めてやる」

女「手厳しいなぁ……」

73 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/24(火) 23:59:57.50 ID:HA2iId5DO
男「……と言うわけだ」

友「なんつーか、色々すげぇな」

男「お前、追いかけ回されてヒィヒィ言ってたってな?」

友「ちょ……女ちゃんチクったの!? 俺の黒歴史を赤裸々に語っちゃったの!?」

男「酒飲みながら今までどれだけ驚かせてきたのか武勇伝として語っちゃってくれたよ。洗いざらいな」

友「もう良いや……。……で、女ちゃんって可愛い? 美人? 可憐? 綺麗?」

男「……お前も会っただろ?」

友「あの時は暗かったし、逃げるのに必死で顔なんて見てられなかったし……」

男「そこそこの顔だぞ」

友「そこそこか……どんなもんか会ってみてーな」

男「どうせこっち来るって行ってたし、その時に……」

女「……男くん」

男「噂をすれば来たよ」

91 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 11:31:44.48 ID:VatT+SHRO
女「こ、この人が友くん……だよね?」コソコソ

男「ああ、そうだけど?」

女「あの、その……」モジモジ

男(人見知りは本当だったんだな)

友(結構可愛い……)

女「この前はだ、騙してしまって……その、すみません……」

友「良いよ、良いよ。俺も心霊体験出来てちょっと嬉しかったし」

女「……」コソコソ

男「俺の陰に隠れるな」

友「あはは、恥ずかしがり屋さんなんだね」

女「……」

友「敬語なんて使わなくていーよ。俺とも友達になろーぜ」

女「……」コクッ

94 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 11:50:29.39 ID:VatT+SHRO
友「今から俺ら学食で飯食うんだけど一緒にどう?」

女「……」コクッ

友「ここのキャンパス来るの初めて?」

女「……」コクッ

友「へー、そっか。昼の講義終わったら案内するよ」

女「……」…コクッ

男「頷くだけじゃなくてちゃんと話せよ。あと俺の陰に隠れるなって」

女「……ごめん」

友「良いって、良いって。俺とも馴れてくれたらいっぱい話そうな?」

女「……」コクッ

男(通りで友達が居ないわけだ……昨日はペラペラ喋ってたくせに)

95 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 11:58:52.55 ID:VatT+SHRO
友「じゃ、俺ラーメン食おうっと」

男「お前は何にすんだ?」

女「……たらこスパ」

男「ふーん……じゃ、俺もラーメン」

友「真似すんなよ」

男「真似じゃねーよ。俺もラーメン気分なんだ」

友「お前とお揃いかよ。……まぁ良いけど」

女「え、えっと、じゃ、じゃあ私もラーメン……」

男「無理に合わせる必要はないんだぞ?」

女「だって……友達だから」

男「友達だからって変な気を回さなくて良いんだって。自分の食いたいもの食えばそれで良いっつの」

女「……そういうものなの?」

男「ああ、そういうものだ」

97 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 12:06:19.38 ID:VatT+SHRO
友「ラーメンウマー」

男「ああ、うまいな。……たらこスパはどうだ?」

女「うん……美味しい。でも、ラーメンも美味しそう……」

男「一口食うか?」

女「……良いの?」

男「ほら、食いな」

女「……ありがとう」

友「あ。ずりーぞ! 女ちゃん、俺のも食って良いよ? むしろ大歓迎」

女「え、えっと……」

男「あー……こいつのことは気にすんな」

102 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 12:49:04.36 ID:VatT+SHRO
男「美味いか?」

女「ありがとう。……たらこスパ、食べる?」

男「じゃ、一口だけ」

友「ちぇー……目の前でラブこきやがって」

女「え……」

男「ラブこいてなんかねーよ。ただの友達だ。な?」

女「う、うん。ただの友達」

友「ちぇー……まぁ良いや。俺も一口食わせて?」

女「ど……どうぞ!」

103 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 12:53:29.69 ID:VatT+SHRO
友「女ちゃんって、本当に今まで友達居なかったの?」

女「……うん」

友「彼氏も? 可愛いし、もてそうなのに」

女「か、可愛いなんて……初めて言われた」

友「マジ?」

女「高校のクラスメイトからは『根暗』、『ブス』って……」

男「おい、それ聞いてないぞ。……いじめられてたのか?」

女「いじめ……ではないと思います。靴も教科書も隠されたこと、ないですし」

友「でも、そんなこと言うなんて酷すぎるぞ?」

女「いえ……大丈夫です」

105 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 12:57:29.42 ID:VatT+SHRO
友「そんなこと言った奴、絶対許せねぇな」

男「で、そいつら驚かせて復讐はしたのか?」

女「……いいえ。クラスメイトが通りかかったら隠れてました」

友「……なんで? ビビらせるチャンスだったのに」

女「……怖かったから」

友「怖い?」

女「……うん」

112 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 14:44:07.11 ID:VatT+SHRO
男「怖いって……自分がやってんのがバレるかもしれないから?」

女「それもあったけど……とにかく怖かったから。幽霊なんかよりも、もっと、ずっと」

男「……。……そうか」

女「私、やっぱり臆病者だよ。……幽霊になって、強くなった気になっていただけ」

友「えーと……でも、すっげぇ怖かった! 演技力あるよ。演劇サークルとか入れば?」

女「演劇なんてそんな勇気……ないよ。それにサークル活動とかは、ちょっと……」

友「そっかー……勿体ないと思うんだけどなぁ」

女「……」

115 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 15:14:26.86 ID:VatT+SHRO
友「さてと。食い終わったし、面倒くせーけど講義行ってくる。男も次は講義だっけ?」

男「ああ」

友「女ちゃん、どうする?」

女「えっと……男くんと一緒に講義受けてみる。……良い?」

男「別に良いよ。大人数の講義だし、一人増えたところでバレねぇだろーし」

友「あ! 俺も次の奴は大人数で……」

女「じゃあ、男くんに付いていくね」

友「……」

117 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 15:24:56.99 ID:VatT+SHRO
女「友くん……落ち込んでたなぁ。……悪いことしちゃったのかなぁ」

男「ああいう奴なんだ。ほっときゃ良いんだよ」

女「でも……」

男「それに、まだ友とは打ち解けてないんだろ? 無理しなくて良い」

女「うん……」

男「……。もしもさ、あの夜お前を助けたのが俺じゃなくて、友だったら……友とはこうして喋れたか?」

女「それは……分かんないや」

男「……ふーん」

119 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 15:32:16.23 ID:VatT+SHRO
女「別の学部の講義なんて初めて」

男「つまんねー上にレポート滅茶苦茶出るぞ」

女「大変だねー」

男「お前も大学生だろーが。レポート出ないのか?」

女「出てるよ。半分出してる」

男「全部出せよ駄目人間」

女「半分も出してたら上出来だよ。自分にしては」

男「……はぁ」

女「確かにこれじゃいけないとは思ってるんだけどね。……中々上手くいかないんだ」

男「……まぁ良いや。暇だったら手伝ってやるよ」

女「良いの?」

男「ただし、一枚二千円な」

女「……友達って、そんなもの?」

男「ああ、そんなもんだ」

120 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 15:39:24.17 ID:VatT+SHRO
─講義中─

男(さっそく寝てるよこいつ……)

女「ムニャムニャ……たす……けて……」

男(誰かを驚かせてる夢でも見てんのか?)

女「助けてよ……誰か……たす、けて……」

男(……泣いてる? どんな夢見てんだ?)

女「……」

男(ま、講義終わったら叩き起こして聞き出すか……)

122 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 15:46:37.07 ID:VatT+SHRO
─講義終了後─

男「おい、起きろ。終わったぞ」

女「ん……私、寝てた?」

男「講義開始十分で熟睡だ。寝言まで言ってたぞ」

女「寝言……何か、嫌な夢を見ていたような気がする」

男「どんな夢だよ。寝ながら泣いてたぞ、お前」

女「本当?」

男「嘘言ってどうする」

女「うーん……どんな夢だったか全然思い出せないや」

男「ま、良いか。……ほら、早く出ないと次の講義始まるぞ?」

女「うん。……本当、何だったっけ?」

123 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 15:58:36.76 ID:VatT+SHRO
男「そういやさ、どうして驚かす時な『うらめしや』じゃなくて『助けて』なんだ?」

女「『うらめしや』は……何て言うか、芸が無いと思わない? あまりにテンプレ通りすぎて」

男「幽霊=着物か浴衣っつー思考もテンプレすぎると思うがな」

女「うーん……それにね、もしも私があの時本当に死んで、奇跡的に幽霊になれたらそう言うだろうなーって」

男「何で?」

女「んー、何となく」

男「そうか、何となくか」

女「うん」

男「……」

女「……」

124 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 16:16:32.72 ID:VatT+SHRO
友「おーい、男と女ちゃーん」

男「何だ、友か」

友「何だとは何だ。女ちゃん、今からこの校舎案内するね」

女「……うん」オズオズ…

友「あー……やっぱ、まだ馴れない?」

女「……ごめんなさい」

友「良いよ、良いよ。全然良いよ」

男「……」

友「じゃ、行こうか」

女「う、うん……」

126 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 16:37:43.51 ID:VatT+SHRO
友「食堂の近くに図書館があってー、こっちは喫煙所。女ちゃん、タバコ吸う?」

女「あんまり……」

友「じゃ、ちょっとは吸うんだ。俺さ、かなりのヘビースモーカーでさー。一日で一箱消費wwwww」

女「そうじゃなくって……その、タバコの煙とかあんまり好きじゃ……」

友「あ……あぁ、そうなんだ。ごめんね」

女「……いえ」

男(友の謎のハッスルに完璧引いてるな……)

127 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 16:50:54.40 ID:VatT+SHRO
友「あ、そだ。女ちゃん、お酒好きなんだよね?」

女「うん……まぁ……」

友「男、今日バイトある?」

男「いや、今日はないけど……」

友「じゃ、飲みに行こうか! 男のバイト先で!」

男「それは止めろ。別の居酒屋じゃなきゃ俺行かないからな」

女「あ、その……私も」

友「分かったよ。……じゃ、学校の近くの居酒屋にするか」

129 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 17:13:17.14 ID:VatT+SHRO
友「よし、着いた。飲むぞー」

女「……」

男「女、何緊張してんだ」

女「居酒屋、初めてだから……」

男「大丈夫だ。つまみとかは友が勝手に色々頼むだろーし、飲みたいもの選べば店員には俺から伝えるから」

女「……ありがとね」

男「感謝は良いから人見知りをさっさと治せ」

女「それは……難しいかな?」

男「お前さ、一生このままで居るつもりか?」

女「……」

133 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 17:52:50.01 ID:2mkbRp0w0
友「千二百円で二時間飲み放題かー。どうする?」

女「じゃあ……それで」

男「あんまり飲み過ぎるなよ、昨日みたいにな」

女「あれはまだ序の口」

男「……十杯が序の口なのかよ」

友「え? そんなに飲むの?」

男「ああ、こいつはそんなに飲む。飲み放題にした方が良い。財力的にも」

友「分かった。じゃ、つまみは適当に頼むわ」

男「頼んだ」

135 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 18:15:13.99 ID:2mkbRp0w0
友「で、俺は言ってやったんだよ。『うさ耳より狐耳、狐耳より猫耳だ』ってな」

男「ふーん。お前って本当にどうしようもないな」

女「……」グビグビ…

友「……女ちゃん、さっきから黙々と酒を消費してくだけで全然話してくれないね。
  しかも飲むペースがかなり早いし……」

女「あ……その、私も猫耳は可愛いと思いますよ?」

友「ほんと!? 猫耳カチューシャ今度つけてくれない? 家にあるから。あと、尻尾も自作したんだ」

男「……その猫耳、何に使ってんだよ」

友「女ちゃんの前では言えないようなことに」

男「うわー変態だー」

女「……」クスッ

友「あ! 女ちゃんが笑ってくれた!」

男「お前の変態度に失笑しただけだろ」

137 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 18:41:38.72 ID:2mkbRp0w0
友「それにしてもさー、よくもまぁ一年も続けたもんだねぇ。根性あるよ」

女「別にそんな……」

友「でもさ、男ってあの池の近く結構通るんだろ?」

男「あー、近道だしな」

友「なのに会ったのがつい数日前っておかしくないか?」

男「そう言われれば……そうだな」

女「あ、えっと……それは……」

152 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 21:09:28.23 ID:VatT+SHRO
女「男くんのこと、本当はすぐ驚かすつもりだったんだけど……何か怖そうな人だなぁって」

友「あははは。こいつ、目付き悪ぃしなー」

男「うるせぇ。……俺だってちょっと気にしてんだぞ」

女「だから、いつも男くんが来たら隠れて驚かすの先伸ばしにしてたの」

男「それで、どうして驚かす踏ん切りがついたんだ?」

女「ちょうど一周年だったの」

男「幽霊モドキになった?」

女「ううん。……自殺未遂して、勘違いされた日からちょうど一年。命日になるはずだった日だよ」

153 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 21:15:47.31 ID:VatT+SHRO
女「だから、勇気出して怖がらせようと思ったんだけど……」

男「池で溺れた、か」

女「途中までは上手くいってたのになぁ。……でも私が溺れるまでは男くん、結構怖がってくれてたよね」

友「そうなのか?」

女「『ひいいいっ』って言ってダッシュで逃げようとしてた」

友「お前、散々俺のこと馬鹿にしてたけどビビってんじゃねーか」

男「完璧に頭イカれた奴だと思ったからな。普通逃げるだろ」

友「本当のこと言えよ。幽霊だと思ったんだろ? お前もさー」

男「う、うるせー」

154 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 21:20:48.34 ID:VatT+SHRO
女「怖い人だと思ったけど、こんな私を助けてくれて……何だ、優しい人だったんだーって」グビッ

男「そのまま放って置いて次の日池を見たら死体が浮いていたー、とか正直寝覚めが悪くなるからな」

友「たまには良いことすんだな、お前も」

男「たまにって何だよ」

女「……今こうして三人でお酒を飲めるのも男くんが助けてくれたお陰だよ。……何度も言うけど、ありがとね」

男「そのせいで嘘はバレたけどな」

女「それでも良いんです。……すごく、楽しいから」グイッ

男「楽しいのは結構だが……飲むペース早すぎるぞ。また昨日みたいに潰れるつもりか?」

女「飲み放題なんだから飲まなきゃ損!」

友「そーそー。飲みたいだけ飲めば良いよ」

男「お前らなぁ……」

156 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 21:28:52.86 ID:VatT+SHRO
女「うぃー。酒、酒持ってきてー!」

友「女ちゃん……さすがに飲みすぎだって」

女「ひっく、まだ、ひっく、らいじょーぶだよぅー?」

男「……だから言っただろ? 飲みだすと止まらんぞ、こいつ。潰れるまでな」

友「……どーしよ?」

男「……俺が送るよ。家も近いし」

友「女ちゃんが酔ってるからって変なことすんなよー」

男「するかボケ」

157 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 21:36:48.44 ID:VatT+SHRO
友「じゃ、もうそろそろお開きにするか」

女「いやー! まだにょむのー!」

男「わがまま言うな」

友「どうせもうすぐ二時間経つし……また今度飲みに行こう?」

女「うぅー……」フラフラ

男「足元ふらふらじゃねーか……ほら、肩に手ぇ回せ」

女「うー……」ヨロヨロ

友(男め……羨ましいぞ)

159 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 21:45:23.81 ID:VatT+SHRO
友「じゃ、もうそろそろお開きにするか」

女「いやー! まだにょむのー!」

男「わがまま言うな」

友「どうせもうすぐ二時間経つし……また今度飲みに行こう?」

女「うぅー……」フラフラ

男「足元ふらふらじゃねーか……ほら、肩に手ぇ回せ」

女「うー……」ヨロヨロ

友(男め……羨ましいぞ)

164 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 22:05:26.63 ID:2mkbRp0w0
男「お前さー……酒が好きなのは分かったけど限度を知れよ、限度を」

女「……ごめんにゃさい」ヨロリ…

男「ちゃんと掴まってろ。……ほら、池だぞ。もうそろそろお前ン家だ」

女「ちょっと、ここで休憩しよ?」

男「池のほとりでか?」

女「うん。……だめ?」

男「また変な冗談でも考えついたのか?」

女「ううん……そーじゃないよ」






女「二人っきりで話してたいの」

166 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 22:11:34.53 ID:2mkbRp0w0
女「男くんのことね、怖い人だと思ってたから怖がらせなかったって言ったでしょー?」

男「ああ、そういやそんなことも言ってたな」

女「……あれ、半分嘘」

男「え?」

女「……一目惚れ、だったんだ。人生で初めて人のこと、好きになれたの」

男「ちょ……おいおいおい」

女「毎日、隠れながら男くんのこと見てたの。毎日……ほんのちょっとの時間だけ」

男「……マジかよ」

女「でも、このまま見てるだけじゃ何にもならないって思って……偽の命日の日にああやって会うことにしたの」

男「幽霊の真似事がお前のアプローチのやり方かよ」

女「そういう形でしか……話せなかったから。それ以外の話し方、知らなかったから」

168 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 22:18:17.37 ID:2mkbRp0w0
女「で、溺れて、助けてもらって、次の日も会えて……その後、色々話したね。下らない話も、ちょっと難しい話も」

男「難しいっつか、意味不明なんだけどな」

女「……自分でもびっくりするくらいスラスラ喋れた。今日も、すごく楽しかったよ」

男「……そうか」

女「男くんのことさ、好きなんだ。……ごめんね」

男「……何謝ってんだ?」

女「今言ったこと、全部忘れて。……おかしいよね。酔いすぎちゃったのかなぁ」

男「……。ああ、酔いすぎだ」ポン…ッ

女「えへへ。ごめんね。……ずっと友達でいようね?」

男「…………ああ、そうだな」

171 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 22:24:28.90 ID:2mkbRp0w0
女「池、入って良い? 脚だけさ」

男「……何で?」

女「水の冷たさで酔いを醒ますの」

男「はぁ……勝手にしろ」

女「ブーツとニーソ脱ぐねー」フラフラ…

男「そんなによろついて……また溺れるなよ?」

女「うん。……やっぱり冷たいなぁ」ザブザブ…

男「寒いのによく入る気になるな……慣れてんのか?」

女「まぁね」

男「傍から見てるだけで寒いわ」

176 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 22:43:50.97 ID:2mkbRp0w0
女「……もしもさ、自殺が成功して死体が沈んだままだったらさ」

男「ん?」

女「ずっと、この冷たい水の中なんだよね」

男「まー、死んだら冷たいも何も感じなくなるだろーがな」

女「それでも、やっぱり寂しいことだよね。……今になって思うよ」

男「……もうそろそろ上がって来いよ」

女「うん、分かった……」フラフラ…

男「まだフラフラじゃねーか。危ねーな……」ザプッ

女「男くん、濡れちゃってるよ……?」

男「また溺れられたら面倒だからな。ほら、掴まれ」

177 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 22:48:17.17 ID:2mkbRp0w0
女「ありがと……。……きゃっ」ザッパーン!

男「うをっ!?」ザプッ

女「えへへへ……浅瀬で良かったね。この前みたいに深いところに嵌まってたら二人で死んじゃうとこだった」

男「良かねーよ。……ちきしょう、二人揃って濡れ鼠だ」

女「お揃い、お揃い」ニコニコ

男「びしょ濡れになって何喜んでんだよ。ドMか」

女「うー。寒いっ! 一気に酔いが醒めたよー」

男「……。……うりゃっ」バシャッ

女「いくらびしょ濡れだからって水かけないでよー。……お返しだー」バシャバシャッ

男「冷たっ! やったなこのー!」バシャッ バシャッ

183 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 23:01:02.00 ID:2mkbRp0w0
男「……何やってんだ、俺ら」

女「……更に濡れるだけで終わったね」

男「こんな季節にやることじゃねーよな」

女「というより、時代遅れなはしゃぎ方だよね。かなりの」

男「こんな夜中にびしょ濡れの男女が道歩いているの見たら誰だってビビるだろうな」

女「また『幽霊だ』って思われちゃうかも」

男「その時は俺まで巻き添え食うのか……」

女「それはそれで良いんじゃない?」

男「どこがだよ。……とりあえず帰るぞ。このままじゃ寒さで死ぬ」

190 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 23:46:45.79 ID:VatT+SHRO
男「あー! さーむーいー!」

女「そんな大声上げたら近所迷惑だよ?」

男「近所を心霊スポットにされた方がよっぽど迷惑だろ」

女「そうかな?」

男「ああ、そうだ」

女「でも、それも過ぎたことだよ。今はもう関係ないもんねー」

男「何開き直ってんだ」

女「……星」

男「え?」

女「結構見えるね。……小さいけど、光ってる」

男「ここら辺街灯ないし、冬だから空気が澄んでるだろうしな」

191 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/25(水) 23:58:13.50 ID:VatT+SHRO
女「あれが蛇座でー、あれも蛇座!」

男「……テキトー言ってるだけだろ」

女「星と星を線で繋いだってみんな蛇みたいにニョロニョロしてるだけだと思わない?」

男「思わない……が、俺も正直星座は分からん」

女「うーん……あれは蠍座?」

男「蠍座って夏じゃなかったか?」

女「そうだっけ? まぁいいや。あれは蠍座っ」

男「勝手に決めるなよ」

女「いーの、いーの」

男「何がだよ」

女「今日からあれは冬の蠍座! 今決めた!」

192 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 00:21:20.90 ID:+I0ml7m3O
女「星座なんて、興味がある人だけがちゃんと覚えれば良いんだよ」

男「そりゃ一理あるな」

女「……覚えられていたって知られなくたって、星は平気だもんね」

男「星は人間に見られてるとか、そーゆーこと考えてないだろうがな」

女「死ぬと星になるって言うじゃん」

男「まぁ、そういう話もあるな」

女「私は嫌だな、星なんて。ただ宇宙に浮いてるだけなんて堪えられないや」

男「幽霊もどっこいどっこいだと思うがな」

女「……そうだね」

213 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 08:00:44.06 ID:+I0ml7m3O
男「やっと着いた……」

女「男くんまでびしょ濡れになっちゃったし……シャワー浴びてく?」

男「不本意だがお言葉に甘えるわ……」

女「えへへ」

男「ついでに着替え借りて良いか?」

女「服、女物ばっかりだしなぁ……男くんが着れそうなの、ちょっと探してみるよ」

男「頼むわ」

女「独りで濡れるよりー二人で濡れた方が暖かいよー♪」

男「何だその歌は」

女「作詞作曲、私。今考えたの」

男「音楽的センス皆無だな」

女「まぁね」

215 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 08:33:20.85 ID:+I0ml7m3O
男「先にお前浴びてこいよ」

女「ありがとー」スタスタ…

男「……はぁ。寒い」

男「それにしても……」

男「パソコンにテレビにクローゼット……」

男「必要最低限の物しか置いてねーな。質素というか、殺風景というか」

男「普通、女の子の部屋ってもっと、こう、あるだろ」

男「……ま、いいか」

男「……」

男「……寒ぃな、やっぱ」

217 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 09:02:04.66 ID:+I0ml7m3O
女「上がったよー」

男「じゃ、入らせてもらうわ」

女「男くんの着れそうなの、探しとくねー」



男「ふー……お湯あったけぇー」

男「池もお湯で出来てりゃ良いのに」

男「……でも、魚全滅するよな」

男「茹で魚……ちょっとうまそう」

男「何考えてんだか……アホらし」

221 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 09:35:07.37 ID:+I0ml7m3O
女「男くん、まだ入ってる?」

男「今身体洗ってるとこ」

女「入浴中ごめんね。男くんが着れそうなの、Tシャツとジーパンくらいしかなかった」

男「別に良いけど……サイズ合うのか?」

女「大きすぎて私が着たら袖余っちゃうくらいブカブカだし多分大丈夫。……多分ね」

男「……まぁ、無理矢理にでも着るか。もう上がるからお前、脱衣室から出ろ」

女「男くんったら、恥ずかしがっちゃってー」

男「お前は俺の裸が見たいのか」

女「男くんが見られたくないなら、止めとく。……じゃ、ここに置いとくねー」

223 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 09:47:23.70 ID:+I0ml7m3O
男「一応サイズはどうにかなったけど……」

女「それなら良いじゃん」

男「でも何だよこのTシャツのデザイン! 可愛すぎだろ!?」

女「あははっ。似合ってるよー……くくっ」

男「腹抱えて笑ってんじゃねーよ」

女「ごめんごめん。さっきも言ったでしょ? 女物の服しかないって」

男「……今日のところは仕方ないか」

女「可愛い服、案外似合うね」クスクス

男「うるせぇ」

224 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 09:54:35.62 ID:+I0ml7m3O
男「じゃ、俺もう帰るわ」

女「えー……もっとゆっくりしてってよー」

男「お前を送り届けたし、俺の任務は終了だ」

女「……明日もまた会おうね?」

男「ああ、そうだな」

女「じゃあ……また明日」

男「シャワーありがと。服も明日洗濯して返す」

女「……じゃあね」

男「じゃあな」バタン…

女「あーぁ……帰っちゃった」

女「……にちゃんでもしようかな」

女「……」

226 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 10:12:45.31 ID:+I0ml7m3O
女「ははっ、ワロス」カチカチッ

女「……」

女(……酔った勢いとはいえ男くんに告白しちゃった)

女(でも、否定はされなかった……よね?)

女(ううん。あんなの、告白なんかじゃない……でも……)

女(……今日はもう寝よう)

女(男くん、家に着いたかなぁ……)

女(……もう、寝てるよね)

女(…………男くん)

228 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 10:31:25.53 ID:+I0ml7m3O
─次の日─

友「おーっす、男」

男「おっす」

友「昨日はどうだったんだよ」

男「……何が?」

友「とぼけんなって。まさか、女ちゃん送ってくついでに家に上がり込んだりしてねーか?」

男「あー……池でまた濡れたからシャワー借りた」

友「ちょ……っ」

男「それだけだ。その後すぐ帰ったし」

友「ほ、本当にそれだけか? それだけだよな!?」

男「あぁ、それだけだ」


男(告白まがいのことされたのはこいつに黙っておこう……)

230 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 10:40:23.60 ID:+I0ml7m3O
友「そういや女ちゃん、来ないなー」

男「講義じゃねーの? 知らんけど」

友「なぁ、今日はこっちから向こうのキャンパス行こーぜwwwwwww」

男「え?」

友「来てもらってばっかだと悪いだろ?」

男「んー……まぁ、そうだな」

友「よっしゃ。じゃあ行くか!」

男「今からか? 俺、今から講義あるんだが……」

友「一回休んだくらいで単位落とさねぇって。行くぞー」

男「はいはい……」

233 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 10:48:49.41 ID:+I0ml7m3O
女(男くんのキャンパス来たのに……男くんどこにも居ないや。ついでに友くんも……)

女(なんで? 明日も会おうって言ったのに……)

女(なんで? なんでなんでなんで?)

女(男くん……寂しいよ)

女(……まさか私、捨てられちゃったの?)

女(嫌だよ。男くん……っ!)

235 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 11:07:45.54 ID:+I0ml7m3O
女(せっかく仲良くなれたのに……死にたい、死にたいよぉ……)

女(私なんかが、友達になれるわけなかったんだ。死ななきゃ……あの池に沈んで、消えてなくならなきゃ……)

プルルル…

女(……! 電話……?)

男「もしもし、女?」

女「お、とこくん……っ。どこに居るの……?」

男「そっちこそ今どこにいるんだ? お前のキャンパスまで来たんだが……」

女「え……」

236 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 11:33:59.05 ID:+I0ml7m3O
女「今、男くんのキャンパスに居るよ」

男「そうか。入れ違いになっちまったな」

女「うん……ぐすっ、そうだね」

男「お、おいおい。何泣いてんだよ」

女「ううん。何でもない……何でもないの」

男「そうか? なら良いんだが……」

女「ぐす……えへへ、これからどうしよ?」

男「お前がこっちに戻るか、俺らがそっちに戻るかだな」

女「じゃあ、今から会いに行くね」

男「ああ。正門の前で待ってる」

女「ごめんね、ありがとう。……本当に、ありがとう」

男「……ほんと、大丈夫か? 何かあったのか?」

女「何でもないよ。じゃあね」

男「ああ」

プツッ …ツーツーツー

240 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 11:54:21.68 ID:+I0ml7m3O
女「お待たせ」

男「結構早かったな」

女「へへ、急いで来たから」

友「女ちゃーん。ごめんねぇ、連絡しとけば入れ違いにはならなかったのに」

女「ううん。……大丈夫。来てくれてありがとう」

友「いやいや。女ちゃんばっかり来させるのも悪いしさー」

男「女、今日はもう講義ないのか?」

女「うーん、えっと……大丈夫!」

男「あるんだな」

女「……えへっ」

男「行ってこいよ。待っててやるから」

女「面倒だなぁ……」

男「行けって。どこの教室だ?」

女「ちぇー……」

242 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 12:05:55.66 ID:+I0ml7m3O
女「じゃあ、仕方ないけど行ってくるね」

男「さっさと行け。真面目に受けろよ」

女「うーん……頑張る」

男「寝るなよー」

女「はーい」



友「あー……行っちゃった。別にサボらせてあげても良いじゃん」

男「ちゃんと講義受けさせないとあいつのためにならん」

友「……お前だってサボってきたくせに」

男「お前が無理矢理行く行くっつったからだろーが」

243 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 12:10:08.31 ID:+I0ml7m3O
友「うー……暇だぁ。女ちゃんと話してぇー……」

男「俺と話しゃ良いだろ」

友「やだ、断固拒否。……女ちゃん、俺にも心開いてくれてきてるよな」

男「まぁ、少しは馴れてきたんじゃないか?」

友「……攻略まであと一歩だ。頑張れ、俺」

男「……」

友「何だよ、その顔は」

男「……別に」

246 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 12:25:28.01 ID:+I0ml7m3O
友「男。明日暇?」

男「一応バイトもないけど」

友「明日、土曜日だしさ。どっか遊びに行こーぜ。女ちゃんも一緒に!」

男「どこに?」

友「そーだな……カラオケとか?」

男「お前、俺が音痴なの知ってるだろ」

友「ははっ。冗談、冗談。……んーと、心霊スポット行かね? 車飛ばせばすぐ着く廃病院にな、出るらしいんだよ」

男「……何でそんなとこに?」

友「言っただろ? 俺、心霊・怪談その他諸々大好きだって」

男「一人で行けよ、馬鹿」

友「それに、一年間の幽霊歴がある女ちゃんの見解も聞きたいしさー」

男「……」

247 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 12:40:16.77 ID:+I0ml7m3O
女「ただいま」

友「おかえりー!」

男「ちゃんと講義受けてきたか?」

女「う……うん!」

男「……まぁ良いや」

友「ねーねー、女ちゃん。明日心霊スポット行かない?」

女「心霊スポット……?」

友「そ! 車ですぐのとこに廃病院あんの。マジヤバいらしいよー」

女「……へぇ」

友「行く? もし嫌なら別のとこでも……」

女「うーんと……行くよ。行ってみたい」

友「よっしゃ! じゃあ決まりだな!」

男「……何時に行くつもりなんだ?」

友「夕方くらいに集合ってことで。……良いよね、女ちゃん」

女「……うん」

249 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 12:55:00.34 ID:+I0ml7m3O
─次の日─

友「男おせーなぁ……」

女「うん……そうだね」

友「約束の時間もう十分も過ぎてんぞ。何やってんだ?」

女「……」

友「……女ちゃんさー」

女「……」ピクッ

友「やっぱまだ俺と話すの馴れない? 男と一緒の時はそこそこ喋るのに」

女「……ごめん、なさい」

友「いや、別に良いんだよ。こうやって一緒に居るだけでも楽しいし」

女「……」

友「……」

251 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 13:02:49.96 ID:+I0ml7m3O
男「遅れてすまんな」

友「十三分」

男「は?」

友「待ち合わせ時刻から十三分も遅刻だっつってんだよ、ボケ」

男「だから謝っただろ。すまんって」

友「謝って済んだら警察要らねーよ」

男「警察がこんな下らねぇことで動くかアホ」

女「あの、えっと……喧嘩、止めてよ」

友「女ちゃん、これは喧嘩じゃない。親友同士の挨拶みたいなモンだ」

女「親友同士の挨拶……」

253 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 13:14:38.25 ID:+I0ml7m3O
友「ま、何はともあれ行くか。シートベルトしろよー」

男「安全運転しろよ」

友「無事故無違反だ。今のところな」

男「今のところって……」

女「大丈夫なのかな……」ポツリ…

友「大丈夫、大丈夫」

255 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 13:21:28.58 ID:+I0ml7m3O
友「ほら、着いたぞー」

男「……お前、スピード出しすぎだろ」

友「あははー」

女「病院……窓割れてる……」

友「年代物だからなぁ」

男「確かに薄気味悪いな……」

友「おやおやー? 男、ビビってんのぉ?」

男「ビビってねーよ」

女「……本物の幽霊、会えると良いな」

友「会える会える。それじゃ、潜入ー!」

257 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 13:27:05.56 ID:+I0ml7m3O
男「まだ日も落ちきってないのに中は真っ暗だな……」

友「懐中電灯いる? 三つ持ってきたんだけど。はい、女ちゃん」

女「ありがと」

男「じゃあ俺も借りるわ」

友「さて、どうしよ。霊安室行く? それとも手術室?」

男「どこに何があんのか分かってんのか?」

友「いや、全然」

男「……とりあえず、テキトーに回ってみるか」

女「うん。そうだね」

258 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 13:35:10.33 ID:+I0ml7m3O
男「幽霊なんて居るわけねーって思ってても、やっぱ不気味だよな……」

女「うん。そだね」

友「もし何かあっても俺が守ってあげるよ、女ちゃん」

女「……ありがと」

男「おい、俺はどうなんだよ」

友「勝手に呪われてろ」

男「最悪だな、お前」

女「男くんに何かあったら……私が守る」

 ガタッ

友「……!」ビクッ!

男「何か物音聞こえたな」

女「そうだね。何か落ちたのかな?」

友「何で二人とも平然とした顔してんだよ……」

260 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 13:49:51.92 ID:+I0ml7m3O
男「これくらいでビビるなよ。そんなんで女のこと守れるのかよ」ニヤニヤ

友「うるさい。ちょ、ちょっぴりびっくりしただけだ」

女(それ、ビビったってことじゃ……)

男「何だここ。手術室?」

友「……みたいだな」ブルッ

女「何だか空気が違うね。ひんやりしてるというか……」

男「医療器具、そのまんま打ち捨てられてるな」

友(怖ぇー……けど、ここで逃げたら心霊マニアの名が廃る!)

女「これ、メスかな? こっちは何だろう? ハサミ?」

男「あんま触んなよ。手ぇ切ったらどうすんだ」

女「でも楽しいよ。色々あって」カチャカチャ

友(さすが一年間幽霊してただけあるな……平然と物色してる)

261 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [sage] 投稿日: 2009/11/26(木) 13:55:01.41 ID:A1ZoXS8tO
友「もし何かあっても俺が守ってあげるよ、女ちゃん」

女「童貞も守れないy(ry」

友「」
262 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 14:11:19.32 ID:+I0ml7m3O
男「大体周り終えたな」

女「……やっぱり幽霊なんて居ないんだね。結局何にも出てこない」

友「もう少し散策してみよう。確か霊安室が一番ヤバいらしいから」

女「ふーん……」

男「霊安室か。……まだ行ってないのは地下室だから、多分そこにあるんだろうな」

友「じゃ、行くか。……うわっ。真っ暗」

男「地下だからな」

女「埃っぽいね」

友「階段、踏み外さないように気をつけてね。女ちゃん」

男「また俺は無視ですか、そーですか……」

266 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 14:40:02.72 ID:+I0ml7m3O
友「ここだな……薄気味悪ぃ。こりゃ出るぞ。絶対出るぞー」

男「じゃ、開けるぞ」キィ…

女「……ここ、死体を置いてたんだよね」

友「霊安室だからね。ここが廃病院になる前から色んな噂があったらしいよ」

女「……まだ死体、残ってないかな?」

友「……怖いこと言わないでよ」

男「怖いの好きなんだろ、お前」

友「それは……そうだけどさー」

277 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 17:06:49.33 ID:+I0ml7m3O
友「記念に写メ撮っとこ」パシャッ パシャッ

男「案外狭いんだなー。なぁ、女。……女?」

女「……」

友「ど、どうしたの? 女ちゃん。そんな隅っこ見つめて」

女「……」

男「お、おい……女……?」

278 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 17:17:31.79 ID:+I0ml7m3O
女「……あなたは」ボソッ

友「え?」

女「あなたは、生きていて幸せだった? 死んで悲しかった? 辛かった? それとも……死ねて幸せだったの?」

男「何と話てんだよ、おい……」

女「私? 私はね、分かんないの。今は楽しいよ。初めて友達が出来て……でも、幸せかどうかはまだ分かんないの」

友「……こ、これ、ヤバくないか?」

男「女! 誰と話してるんだよ、おい!」ユサユサッ

女「ねぇ、死ぬのは痛い? 苦しい? ……死んだ後も、苦しいの?」

友「こ、ここから逃げた方が良いよな? ヤバいよ、女ちゃん……」

男「帰るぞ! 女!」グイッ!

279 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 17:27:55.97 ID:+I0ml7m3O
女「待って! まだここに居たいの!」

男「駄目だ! 帰るんだよ!」

女「嫌! 答えてよ! お願い、お願いだからぁっ!」

友「……っ」ゾクッ!

男「女! いい加減にしろよ!」

女「嫌だ……嫌だああああ! 答えて、答えてよおおおおっ!」

280 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 17:30:54.29 ID:+I0ml7m3O
友「な、何とか車まで戻れた……死ぬかと思った」ガクブル…

男「女、大丈夫か? 女……」

女「……ブツブツブツブツ」

友「完全に目が据わってるよ……とり憑かれたんじゃねーの?」

男「……」

友「どうしよう、お祓いとかした方が良いよな? 俺が軽い気持ちでこんなとこ行こうとか言ったからこんなことに……っ!」

284 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 17:49:29.30 ID:+I0ml7m3O
女「……ふふっ」

男「女……?」

女「あは、あははははははははははははは!」

友「ひっ」ビクッ

女「あはは……ふふふふふ……っ」

友「い、いよいよヤベーよ。このまま寺か神社に車飛ばした方が……」

女「ふふ……違う、違うの」

友「え?」

286 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 17:59:22.04 ID:+I0ml7m3O
女「二人ともまた騙されてくれたのが、おかしくって、おかしくって……あはは」

友「え……。っつーことは……」

女「全部演技。見事に釣り上げられてさ……くくっ」

男「……お前って、性格悪ぃな」

友「はぁ……心配して損したー」

女「あー、おかしかった。……ねぇ、また今度心霊スポット行こうよ」

男「……絶対行かねえ」

289 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 18:12:23.73 ID:+I0ml7m3O
友「さてと。女ちゃん、着いたよ」

女「笑いすぎて涙出ちゃったぁ。今日は楽しかったよ、男くんも友くんありがとね」

友「あはは……」

男「……そりゃどういたしまして」

友「男、どうする? ここで降りるか?」

男「どうせ家近いしそうするわ」

友「じゃ、さっさと降りろ。じゃあね、女ちゃん。また月曜日会おう」

女「うん。じゃあ、またね」

男「帰りに事故るなよー」

友「言われなくても」

300 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 19:44:55.61 ID:bxz0ho/N0
男「……ったく、あんな悪ふざけすんなよ」

女「心配してくれた?」

男「べ……別に」

女「嘘。あんなに真っ青になっちゃってさ……うふふ」

男「怒るぞこの野郎」

女「……でも錯乱したふりの私を車まで引っ張ってくれた男くん、ちょっと格好良かったよ?」

男「……」

女「あれ? 照れてるの?」

男「……ちげーよ、馬鹿」

301 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 19:49:39.08 ID:bxz0ho/N0
女「何だかんだ言って結局男くんも幽霊って信じてるんだね」

男「信じてねーよ」

女「見えなくても、信じてなくても、人間って心の底では『居るかも知れない』って思ってるんだろうね」

男「お前もか?」

女「うーん……私は信じてないけど『居て欲しい』って思ってるから」

男「なんじゃそりゃ」

女「死んだら消えてなくなるなんて、救いがなさすぎるよ」

男「死んでもまだ彷徨わなきゃいけない方が救いがないと思うけどな」

女「どっちもどっち……かな?」

302 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 19:56:31.58 ID:bxz0ho/N0
女「男くんって、死んだ後どうするつもりなの?」

男「は?」

女「だって、いつか死んじゃうでしょ?」

男「そりゃ……生きてる奴みんなそうだけどさ」

女「ね? どうしたい?」

男「どうもこうも……なるようになるだろ」

女「……そだね。でも、死んだ後も苦しいのも、寂しいのもちょっと嫌だな。
  死ぬ瞬間くらいなら何とか我慢するつもりだけど」

男「……あんまややこしいこと考えんな。考えたってどーにもならねぇんだから」

女「……うん」

304 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 20:04:57.82 ID:bxz0ho/N0
女「私ね、別に驚かすつもりであんなこと言い始めたんじゃないよ?」

男「じゃ、何だよ」

女「まずね、『もしも見えないだけで幽霊が居たとしたら』と仮定してね」

男「はぁ?」

女「その架空の幽霊に話しかけてたの。生きていて幸せだったのか、死んでしまったことが幸せだったのか」

男「運が良けりゃあ答えが返ってくるかもって?」

女「運が良ければ……というか、存在してくれたらね。そしたら男くんも友くんも急に慌て始めちゃって」

男「……それで、調子に乗ってとり憑かれて狂ったふりしたのか?」

女「まぁね。……思い出したらまた笑えてくるや」

男「お前なぁ……」

女「でも、答えて欲しかったなぁ。すごく知りたいことだったのに」

309 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 20:49:27.63 ID:+I0ml7m3O
男「そんなの死にゃあ嫌でも分かるだろ」

女「だよね。……上手くいってたら一年前に結論が出ていた筈なのに」

男「……。……死のうとしなくても、どうせいつか死ぬんだ。無理に死に急ぐなよ」

女「今は大丈夫。……男くんが居るから」

男「……っ」

女「死後の世界がやっぱり無でしかなかったら、男くんと会えなくなるでしょう?」

男「……もし、幽霊になれたとしたら?」

女「男くんにとり憑いちゃおっかなー」

男「迷惑極まりないな」

女「えへへ。……でも、そんな危ない賭けしないよ。私、ギャンブルには弱いたちだし」

男「うん。それで良い」

311 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 21:02:53.71 ID:+I0ml7m3O
男「じゃあそろそろ帰りな。もうこんな時間だ」

女「男くんの家、行ってみたい」

男「え?」

女「駄目?」

男「……分かったよ。ほら、こっちだ」

女「ありがとー!」

男「期待すんなよ。かなりボロい荘だし、部屋もかなり散らかってる」

女「荘。……良いなぁ。私、そういうの憧れてるんだー」

男「……ボロい家に住みたがるとか物好きだな、お前」

女「そうかな?」

314 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 21:17:12.28 ID:+I0ml7m3O
女「わぁ、予想を遥かに超えてボロボロ!」

男「やけに楽しそうだな」

女「何だかあの廃病院みたい!」

男「……さすがにそこまでボロくはねーだろ」

女「男くんの部屋、どこー?」

男「ちょっとそこで待ってろ。片付けてくるから」

女「私、いくら散らかってても気にしないよ?」

男「俺は気にするんだ。じゃ、大人しく待ってろよ」バタンッ



男(健全な男子なら誰もが持っているあれやこれやそれを隠さねば……)

316 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 21:34:09.59 ID:+I0ml7m3O
 ガチャッ

男「……もう良いぞ。ほら、上がれ」

女「お邪魔しまー……うわぁ小汚ない!」

男「人ン家入って第一声がそれかよ」

 カサカサ…

女「き、きゃあ! ゴ、ゴ……!」

男「ゴキブリがどうかしたか?」

女「やだっ、怖いっ!」

男「元・幽霊のくせにゴキブリが怖いのか? ……おらぁ!」ベシッ!

女「一撃で仕留めた……すごい。ついでに死体が気持ち悪い……」

男「慣れりゃ一発だよ」

女「……」

319 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 21:54:06.26 ID:+I0ml7m3O
女「掃除する」

男「……どこを?」

女「この部屋だよ、この部屋!」

男「別に良いっつの。慣れれば快適だぞ?」

女「慣れる方がおかしいよ」

男「お前におかしいと言われる筋合いはない」

女「ま、まぁ……そうなんだけどさ……」

男「ほらな。このままで良いんだよ。住んでんのは俺なんだから」

女「うーん……」

男「とりあえず座ってろ。何か飯作るから」

女「あ、私も手伝う!」

男「じゃ、手伝ってもらうか。……まずは流し台に溜まりに溜まった皿を洗わなきゃな」

女「うわー……」

男「面倒で三日は放置してる。ヤバいだろ」

女「うん。ものすごく……ヤバいよ」

321 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/26(木) 22:21:44.87 ID:+I0ml7m3O
男「さて、ようやく皿を洗い終わったわけだが」

女「男くん、冷蔵庫の中もやしとキャベツしかないよ?」

男「普通じゃね?」

女「えっ」

男「えっ」

女「……何作るつもりなの?」

男「ラーメン。もやしとキャベツが入ってりゃ充分だろ」

女「いつもこんなの食べてるの?」

男「大半インスタント食品に頼ってる」

女「体に悪いよ。早死にするよ?」

男「ガチで自殺未遂の経歴がある奴に言われてもなぁ……」

362 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/27(金) 09:34:20.65 ID:Aa3zqkW7O
男「さて、出来た」

女「……今度はちゃんとしたもの、私が作るよ」

男「これもれっきとした料理だ。んじゃ、いただきます」

女「いただきます」

男「うん、やっぱりラーメンは豚骨に限るな」ズルズル

女「私は味噌派」ズルズル

男「文句言わずに食え」ズルズル

女「文句じゃないよ。味噌の次に豚骨が好き」ズルズル

男「ふーん……あ、友からメール来てる」

363 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/27(金) 09:37:20.59 ID:Aa3zqkW7O
女「何て?」

男「『廃病院で撮った写メに心霊写真混じってる! や、やべー……』だって」

女「心霊写真?」

男「画像添付されてる。……あー、何か写ってるな」

女「見せて見せて」

男「ほらよ」

364 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/27(金) 09:47:04.42 ID:Aa3zqkW7O
女「人の形した白いもやもや」

男「これ、本当に心霊写真なのか?」

女「私に訊かれても。私、元・幽霊だけど幽霊の知識なんにもないんだから」

男「うーん……ただのもやにしか見えないがなぁ。これが幽霊? まさかな」

女「だよねぇ。写るならもっとはっきり写って欲しいよ」

男「これごときで友もビビるなよなぁ」

女「そだね」

367 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/27(金) 09:55:35.17 ID:Aa3zqkW7O
女「でも、これがもし本物なら素敵なことじゃない?」

男「え?」

女「答えてはくれなかったけど、私の問いかけをみんな聞いていてくれたんだーってさ。そう思わない?」

男「そんなもんか?」

女「うん。……答えて欲しかったけど、聞いてもらえるだけで満足」

男「……ふーん」

女「幽霊は居るのかもね。人は死ぬと一旦無くなって、それでも消えられなかったらこうして魂の一部が残る……そう思いたいな」

368 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/27(金) 10:10:27.85 ID:Aa3zqkW7O
男「飯も食ったしお前もうそろそろ帰れ」

女「えー」

男「えー、じゃねーよ。送ってってやるから」

女「女の子が家に来たのにご飯食べてそれで終わり?」

男「……お前なぁ」ハァ…

女「男くんだって健全な男の子でしょ? さっき片付けるとか言ってたけど、そういうの隠しただけでしょ」

男「……俺らは友達同士だろ。友達とはそんなことしねーよ」

女「……。……そっか」ニコッ

男「じゃ、帰るぞ」

女「うん……分かった(ちょっと期待してたんだけどなぁ……)」

373 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/27(金) 10:45:32.63 ID:Aa3zqkW7O
男「やっぱり池の近くの道通った方が近いよな」

女「だね。じゃあ、行こ行こ!」タタ…ッ

男「ちょ、おい、走るなって」

女「ねぇねぇ、水平線に向かって叫ぼうよ」

男「ここ池だぞ」

女「細かいことは気にしないっ。やっほー!」

男「それ、山で言う言葉じゃないのか?」

女「さっきから重箱の隅つっついてー。男くんも叫ぼ?」

374 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/27(金) 11:09:21.99 ID:Aa3zqkW7O
男「あー」

女「もっとお腹の底から思いのたけを叫ばなきゃ」

男「別に叫ぶ必要ないだろ」

女「私は叫びたいの」

男「お前だけ叫んでろ」

女「ちぇー。ま、いっか。私だけで叫ぼーっと」

376 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/27(金) 11:37:54.16 ID:Aa3zqkW7O
女「生きるってなんだーっ!!」

男「何叫んでんだよ」

女「思いのたけ」

男「叫んだって意味ねーだろ」

女「意味がないから叫ぶの。生きるってなにー! なんなのー!!」

男「……はぁ」

384 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/27(金) 11:57:47.88 ID:Aa3zqkW7O
男「もう良いだろ。さっさと帰るぞ」

女「池、入りたいな。脚だけさ」

男「駄目だ。またスッ転んでずぶ濡れになったらどうする……って、もう入ってるし」

女「うぅー。冷たい!」

男「風邪引くぞ、馬鹿」

女「馬鹿は風邪引かないのー」パシャパシャ

男「……筋金入りの大馬鹿だ、こいつ」


387 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/27(金) 12:33:32.56 ID:Aa3zqkW7O
女「この池はね、ちょっと前まで私の体の一部みたいなものだったの」

男「毎晩飽きもせず浸かってたくらいだもんな」

女「幽霊止めて、男くんや友くんと話したり遊んだりするのも楽しいけど……ちょっと寂しいなぁ」

男「そんなもんか?」

女「うん。……まぁね」

男「……もし、友がネットでネタばらししてなかったとしたらまた幽霊やるつもりか?」

女「うーん……そうかも知れない」

男「……そうか」

507 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 14:19:08.41 ID:UA8hSnRP0
おっさん「あれ、君たちも幽霊見に来たのかい?」

男・女 「「え?」」

おっさん「あれ? 違うのか」

男   「あの、その幽霊って偽物の生きた人間で……」

おっさん「そういう書き込みもあったな。でも、目撃情報も多いし……多分『偽物』っていう書き込みも釣りだろう」

女   「……」

おっさん「そこの子、可愛いね。どう? おじさんと一緒に幽霊でも見t……」

男   「すみません。俺ら、帰る途中なんで。……ほら、女。行くぞ」

女   「う、うん……」



女   「……」

510 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 14:28:25.87 ID:UA8hSnRP0
女「……どうしよう?」

男「何が?」

女「バレてなかった。期待してくれてる人がまだ居たよ……?」

男「……まさか、またやるつもりなのか?」

女「今日のところは止めとく」

男「……今日のところはって」

女「私、これくらいしか取り柄ないから」

男「取り柄でも何でもないだろ……」

女「でも。でもね……」

512 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 14:31:22.65 ID:UA8hSnRP0
女「私には幽霊がお似合いなんだよ」

男「はぁ?」

女「男くんや友くん。一度に二人も友達が増えたけど……やっぱり私は、生きた人間で居るのが辛い」

男「……何言ってんだよ」

女「ごめんね。……男くんが居るのに。居てくれるのに」グス…ッ

男「何泣いてんだ」

女「泣いてないっ。泣いてなんか……ないよ……」

男「……」

女「ごめん。ごめんね。私、やっぱり弱いよ。弱くて、ずるくて……」

男「そんなことない。……ほら、ハンカチ使うか?」

女「いい。……いいの。私は、大丈夫だから」

514 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 14:35:49.07 ID:UA8hSnRP0
男「じゃあな。……あんま考え込みすぎんなよ」

女「ごめんね……ありがとう」

男「じゃあ、また明日」

女「……明日、会おうね」

男「明日どうしようか。俺たちがそっち行こうか?」

女「ううん。来なくて大丈夫」

男「……そうか」

女「今日も、楽しかったよ。すごく楽しかった」

男「……そうか。なら良かった。……じゃあな」




女「ばいばい」

515 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 14:40:20.43 ID:UA8hSnRP0
―次の日―

友「俺は真実を書いたのに釣り呼ばわりかよ……」

男「人の思い込みって怖いな。幽霊よりずっと怖い」

友「あー……そだな」

男「真実書き込んでも無駄か。……女、またやるかもな」

友「幽霊を?」

男「何かさ、謎の使命感というか、生きがいというか……そういうの感じてるらしいし」

友「一年間もやってきたんだもんなぁ。……ところで女ちゃん来ないな」

男「昨日別れる時に明日はこっちから来るみたいなこと言ってたのに」

友「電話してみたら?」

男「……そだな」

516 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 14:43:32.49 ID:UA8hSnRP0
男「もしもし、女」

女「男くん……」

男「どうしたんだよ。今日はこっちに来るって言ってただろ?」

女「……あのね、男くん」

男「どうしたんだよ、そんな改まった口調で」

女「あの池、本当に自殺者が居たよ」

男「は?」

女「調べてみたら十年くらい前に、女の子が。私と同じ歳の」

男「……マジか」

女「うん、本当」

男「……」

517 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 14:47:19.74 ID:UA8hSnRP0
女「もしかしたら私、引き込まれたのかも」

男「……誰に」

女「その、死んだ女の子に」

男「まさか」

女「それでも死ねなくて……だから、その子は化けて出る代わりに私を幽霊役にしたんじゃないかって」

男「そんな夢物語みたいなこと、あるわけねーだろ。……お前は、お前の意思で馬鹿みたいなごっこ遊びを始めたんだ。そうだろう?」

女「それは……分かんないよ」

男「考えすぎだ。お前だって幽霊なんか信じてないだろう?」

女「信じてないけど……自信なくなってきちゃった」

519 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 14:52:19.91 ID:UA8hSnRP0
女「その女の子の代わりに私が化けて出ることが、女の子にとって幸せなら……私は今日も行かなくちゃいけない」

男「大体、実際その女の子に引き込まれたとしてもお前とそいつの接点なんて全然ないだろ?」

女「全然じゃないよ。……あの池で死ねた女の子と死ねなかった私。
  遠いようで、本質は全く同じ。……そう思わない?」

男「俺は思わない」

女「私は思う。……顔も見たことない子だけれど、私と同じように悩んでた子。
  私が代わり化けて出ることで救われるなら、私はね……いつまでも幽霊でいて良いの」

男「……理解できないな」

女「できなくて良いの。……こんなの、男くんには理解なんかする必要ないよ。
  私と、その女の子の問題なんだから」

男「……」

522 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 14:59:14.80 ID:UA8hSnRP0
男「で、今日はどうすんだよ。こっちから行こうか?」

女「……男くん、今日バイトある?」

男「あるけど……それがどうした?」

女「じゃあ、また夜中に会えるね」

男「……また幽霊するつもりか」

女「ごめんね……」

男「あんま心配かけるなよ」

女「心配してくれて、ありがと。……でもね」

男「……良いよ。じゃあ、夜に会おう」

女「うん。私、頑張るね」

男「別に頑張ることじゃねーだろ」

女「……そだね」

男「……」

女「………じゃあ、また夜に」

523 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 15:05:27.21 ID:UA8hSnRP0
友「女ちゃん、何だって?」

男「今日は来ないそうだ」

友「な、何だってー!?」

男「また今日の夜も幽霊やるからその時会おうってさ」

友「……またやるんだね」

男「らしいな」

友「俺、今日は行けないわ。また明日会おうって伝えといて」

男「ああ、分かった」

友「こんなに寒いのによくやるなぁ」

男「全くな」

友「……」

男「……」

525 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 15:11:05.33 ID:UA8hSnRP0
―真夜中―

男「……やっぱり居たよ」

女「えへへ。うらめしこんばんはー」

男「寒くないのか?」

女「何だか今日は全然寒くないの」

男「そうか」

女「男くん、聞いて聞いて。今日は二人も驚かしたよ?」

男「……こんなの、やってて楽しいか」

女「前も言ったでしょう? 楽しいというか、落ち着くの」

男「……分からんな」

女「私は私で、男くんは男くんだもん。分かるわけないよ」

男「……そうだな」

女「寂しいけど……どれだけ友達になっても分からないものは分からないんだよ。
  私も時々、男くんが分からなくなるし。男くんも私は分からない。……おあいこでしょう?」

男「……そういうものなのかもな」

女「悲しいけど、そういうもの。……私も最近分かったよ」

527 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 15:17:46.84 ID:UA8hSnRP0
男「友が明日また会おうってさ」

女「……友くんに『ありがとう』って伝えて」

男「……?」

女「ねぇ、狼少年の話は知ってる?」

男「『狼が来たぞ』って嘘ばかり吐いて、結局最後は狼に食べられる話か?」

女「大まかに言えばそう」

男「それがどうした?」

女「私もいつか食べられちゃうかもね」

男「はぁ?」

女「幽霊のフリして『幽霊が来たぞー』って嘘吐いて。
  いつか幽霊に食べられたとしても、それは当然で……必然なことで。そう思わない?」

男「……やっぱり、俺はお前のことが分からない」

女「分からなくって良い。分からない方が良いの。だから……ね?」

男「……」

530 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 15:23:09.27 ID:UA8hSnRP0
男「……帰るぞ」

女「私、まだもうちょっとここに居る」

男「ちょっとって、どのくらい?」

女「少しかも知れないし、沢山かも知れない」

男「……全然答えになってねーぞ」

女「私にも分かんないや。……男くん、今日も来てくれてありがとう」

男「帰りは嫌でも通るとこだしな」

女「えへへ。……男くんは早く帰りなよ。男くんには明日があるんだから」

男「それはお前もそうだろう?」

女「それはどうでしょ? ……ばいばい」

男「お前も早めに帰れよ。じゃあな」






女「さよなら」

532 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 15:25:08.42 ID:UA8hSnRP0




 ――女の死体が池からあがったのは、翌日の朝だった。
   嘘みたいに晴れた、爽やかな風が吹き渡る朝のことだった。






541 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 15:34:46.60 ID:UA8hSnRP0


 死に化粧を施された棺の中の女は今まで見た女の中で一番綺麗だった。
 水死体のくせに、やけに綺麗で……俺はどうしようもない気持ちで立ち竦んだ。

 目にあふれる水で歪んだ景色はどこまでも嘘らしくて、俺は少し笑った。
 笑ったけれど……声は掠れて声にならなかった。

 何も、言えなかった。
 何を言えば良いか、分からなかった。

 そのくせ、言いたいことは心にあふれて胸を押しつぶそうと圧迫する。



 あの時、無理矢理でも女を池から引き摺り出していればこんなことにはならなかったのだろうか。
 ――……今はもう、それすら分からない。




543 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 15:41:14.02 ID:UA8hSnRP0

 真夜中、一人で池に行く。
 ……女と最初に会った時間。暗く、星ばかりがやけに輝く世界。

 池のほとりに花が手向けられていた。……きっと、友の奴だろう。
 俺も持ってきた花をその隣に静かに置く。花なんか買ったの、初めてだ。
 その初めてが、まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。


 自殺だったのか、それともただ単に足を滑らせて溺れたのか……それは本人にしか分からない。
 どちらにしろ……虚しいことに変わりはない。


 ――俺はただ、女が浮かんでいたという池の真ん中を見つめた。
   そこには何もなく、ただ深い闇が揺蕩っているのみだった。



545 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 15:43:20.66 ID:UA8hSnRP0
男「女、とうとうお前は本物の幽霊になっちまったな」



男「……寒いだろ?」



男「お前は、こんなこと望んだのか?」



男「……おい、お前。本当の幽霊になれたんじゃねーのか?」



男「………少しくらい、答えろよ」

546 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 15:45:59.16 ID:UA8hSnRP0

女「そうだね。本当になれちゃった」



女「うん。寒いよ。やっぱり寒い。……冬だから、とかじゃなくってね。
  死後の世界は冷たいよ。どこまでも冷たい」



女「自分でも、よく分からないよ。自分が本当にこうなりたかったかなんて」



女「成れたよ。……幽霊は、やっぱり存在したんだよ」



女「ごめんね、聞こえないよね。……答えられなくて、ごめん」

550 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 15:53:13.74 ID:UA8hSnRP0
男「また来るから。何度でも来るから」



男「花や、お前の好きな酒。いっぱい持ってきてやるから」



男「だから。だから、本当の幽霊になれてたとしても人を驚かすのはもう止めろよ」



男「そんな、悪霊じみたこと止めろよ」



男「お前は……お前はなぁ。俺にとって……」



男「……いや、もう止めよう。どうせ言ったって届きゃしねぇんだ。……ちくしょう」

555 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 15:56:55.35 ID:UA8hSnRP0


女「来なくて、良いよ。……男くんは、生きているんだから」



女「要らないよ。そんなの、要らないよ……」



女「……えへへ。止めるも何も、誰にも見えないんだもん。できないよ」



女「……言われなくたってやれないよ」



女「男くん……?」



女「届いてるよ。ちゃんと聞いてるよ……だから、

                       だから、そんな顔しないで……」

560 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 16:02:39.18 ID:UA8hSnRP0
男「……女?」ピクッ



男「……まさか、な」



男「あの時、ちゃんと返事してりゃ良かったな……」



男「…………女、好きだった。いや、今でも好きだ」



男「……届くわけねーよな。俺って、本当に馬鹿だ」



男「……どうしてもっと早くに言ってやれなかったんだ」



男「……女」

565 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 16:06:12.19 ID:UA8hSnRP0


女「……! 気づいてくれたの……?」



女「……だよね。そんなこと、あるわけないよね」



女「……え?」



女「……っ」



女「届いてるよ! ちゃんと、届いてるから……っ」



女「……遅いよ、馬鹿」



女「男くん……」

574 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 16:15:47.85 ID:UA8hSnRP0
女「私も、大好きだよ」

男「ごめんな……女」

女「謝らないで。……私、今すごく幸せなんだ」

男「女……」

女「あのね、私ね、もうそろそろ行かなきゃいけないんだ」

男「……どうして逝っちまうんだよ」

女「ごめん、本当にごめんね」

男「生きてる時に言ってやれば良かった。沢山、話聞いてやりゃあ良かった……っ」

女「充分すぎるくらいだよ」

男「すまん。……本当にすまなかった」

女「……あのね、もし生まれ変わることが出来たらね」

男「……」




女「……また、あなたに会いに来るから」

577 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 16:18:24.18 ID:UA8hSnRP0
女「しばらくお別れするだけ」



女「……本当に生まれ変われるかなんてまだ分からないけどね」



女「こうして幽霊になれたくらいだもん。……きっと、大丈夫」



女「だから、待ってて」



女「またこの世に来れるのがいつになるかは分かんないけどね」



女「でも、きっと会いに来るよ」



女「しばらくお別れするだけ。……だから、泣き止んで?」



女「……男くん」

582 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 16:30:51.39 ID:UA8hSnRP0

 ――女の声が、聞こえたような気がする。
   微かに凪いだ風のような、密やかな声が。

   気のせいかも知れない。
   でも、気のせいであって欲しくはなかった。

   冷たい風が、頬に伝う涙を優しくなでて通った。
   ……いつの間にか、泣いていたらしい。袖で涙を拭いながら俺は立ち上がる。

   いつかまたこの世界で女に会えるような、そんな漠然とした期待がふと芽吹いた。
   ……お伽噺じゃあるまいに。それでも、期待したかった。


   もしも、もしも、もう一度女に会えたら。今度はちゃんと伝えよう。


                        そう、心に決めたんだ。だから――

586 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/11/28(土) 16:38:28.52 ID:UA8hSnRP0

 俺は重たい足取りで家へと続く道を踏みしめる。
 ふいに、池を振り返ると……浴衣を着た、最後に見た姿そのままの女がこちらに笑いかけているのが見えた。

 あ、と呟く前に女の姿は夜の闇へと光の粒になって溶けて消えて逝ってしまった。

 ……笑っていた。
   とても幸せそうな顔で、笑っていた。

 女の居た黒々とした空間へと笑い返そうとしたが、涙で喉がつっかえる。
 ……情けねぇよな、俺。こんな俺を好きでいてくれてありがとう……女。




 ――……また、いつか会おうな。


 心の中でそう呟き、俺は暗い夜道を辿り池を去った。




                                           ―おわり―


出典:女「私、幽霊になりたかったのに」
リンク:http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1259052865/l50

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