エレベーターで
2009/11/28 22:51 登録: ちントレア
7月。
社内では各種プロジェクトが活発に運営され、企画課も大忙し。
社員食堂から引き抜いたバイトの浪人生、伊藤優花(19)も忙しい日々を送っていた。
そんなある日、常務の中部ケン(37)は優花からベッドの中で相談を受けた。
「ケンさん……相談というか、仕事のことでお願いがあるんだけど」
さっきまでの激しいエッチの余韻を楽しむように、優花はケンの胸や腕に指を沿わせ、話し始めた。
…………ここのところ忙しくて、予備校に行く直前まで仕事をしている状態。
夏休みに入ると、予備校の夏期講習にも参加したいので、今のままでは仕事の分量がきつい、と。
「優花ちゃんはどうしたらいいと思うの?」
「あの……夏休みだけのバイトを入れて、私の仕事を手伝ってもらいたいんです」
「企画課勤務となると……一応、パソコンとかできないと駄目だよ。そんな都合の良い子、居るかな……」ケンは優花の髪を撫で、耳をくすぐりながら、ちょっと意地悪っぽく言った。
「はい……私の高校の後輩の矢間田明日香(やまだあすか)さんを頼んでいいですか?……」なーんだ。ちゃんとそこまで具体的に考えてあるんだ……
「いいよ。明日、面接に来てもらって。できれば優花も立ち会ってもらえる?」
「まあっ、私が面接官なんですか? はい。予備校は遅刻して行きますから…………ねぇ……もう1回……だめ?」優花はケンを見つめ、指でケンの乳首をこね始めた。
「優花ちゃんのエッチww」もみもみっ。ケンは優花の小さくてかわいらしい胸を優しく揉みはじめた。
「だってぇ…………ああんっ」
翌朝、企画課課長でケンの愛人、長瀬香織(25)に話を通すと
「ふーん、また女の子入れるの? 今度は現役の高校生? エッチなんだからぁ」
「香織……じゃあ、優花が仕事をできない分、お前が肩代わりするか?」
「分かったよ……ケン、浮気しちゃだめだよ」(浮気しているの、どっちだよ)
「現役高校生に手出しなんて出来るわけないだろwww」
夕方……優花が明日香さん(18)を伴って面接に来た。現役の高校3年生で、専門学校への進学を志望している。
アルバイトは夏休みだけで、美沙や優花から与えられたデータ処理やレタッチ、電話番が主な仕事となる。
高校在学中なので、対外的な仕事は無し。後は時間や日数を詰めて…………採用が決まった。
「中部常務……本当にありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそよろしくね」
「明日香ちゃん……よかったね」
「優花先輩もありがとうございました」
優花と明日香さんは感慨深くやりとりをしていた
「優花ちゃん……明日香さんすごく嬉しそうだね。何かあったの?」
「はい、実は……」
明日香さんは去年、優花と一緒に中部工業の倉庫でバイトしていたのだが……
大柄な割には体が丈夫でない明日香さん、暑い倉庫での力仕事ではみんなについて行けず、上司に怒られるは、仲間からは「チームの成績が下がる」と白い目で見られるわ……
で、仕事途中でバイトを断念してしまい、冬休みに友達と行くはずの旅行に一人だけ行けなかった。
体は大柄なのに肉体労働は不向きなので、余計目立ったのだ。
明日香さん、パソコンは一通りでき、特にPhotoshopやIllustratorが得意なので、エアコンの効いた部屋でのデスクワークを探していたのだが、夏休みだけの高校生にそんな仕事があるわけがない。これでは卒業旅行の軍資金も貯まらない…………どうしよう。と思っていたときに、優花先輩に声を掛けられた。
「本当にそんないい仕事があるの?」
「うん……私、重役に体当たりで迫ってみるわ」
「ええっ、あの中部さんと優花、出来ているの」
「もうっ、大きな声で言わないのww!!」
というわけで、今日の面接に漕ぎ着けたというわけ。
明日香さん、丸顔で目は細く、男受けする顔とは言えないが、健康的な若さに満ちあふれている。
優花と1歳しか違わないのに、垢抜けない感じだ……というよりは優花が駆け出しの重役秘書やケンの愛人(?)として過ごしているために、女として開花つつあるのだろう。
明日香さんは優花よりも一回り背が高く、肩回りなどは意外とがっしりした体つきをしている。
バストも大ぶりだが、体の線の感じが何となく固いので、もしかしてバージン?
いや、そんなこと考えちゃいかんよな。
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夏休みに入り、一緒に仕事を始めだした。
明日香さんは優花に比べると、人付き合いが苦手で聡明性には欠けるものの、与えられた仕事は黙々と手早くこなし、デザインセンスも抜群。
男の人との会話が苦手で、上司であるケンや宮本君としゃべる時もしどろもどろになっているので、極力、表に出さないようにした。
(倉庫でかつての仲間と会ってもバツが悪いだろうし)
優花も、予備校での普段の授業に加えて、夏期講習に行けるようになった。
パソコンに限って言えば、美沙はおろか、優花よりも早く仕事ができるので、明日香さんの時給区分を専門職のプログラマーに変更、給料は1.5倍になった。
(同じ職場に「山田美沙」がいるため、矢間田明日香さん、ここでは「明日香さん」と呼ばれている)
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8月上旬。お盆休みまであと数日というある日の17時。
夏休み前までに仕上げたい仕事のため、優花と明日香には17時まで残業してもらい、一緒に退社。
ケンはといえば、ダイヤモンドホテルでの市長主催のパーティーに出席するため、秘書の万由子を伴って出かけるところだった。社長と秘書の京子さんも一緒に出席する。
このクラスの社交系パーティーともなると、香織や美沙と言ったインスタント秘書では対応しづらいため、もっぱら(前職で秘書経験のある)万由子に同行してもらっている。
スーツを着たケンと万由子が1階ロビーに降りたとき、ケンは名刺入れを役員室に忘れた事に気がついた。
「常務、私、行きます」と万由子。
「いや、いいよ。鍵付きのプライベートキャビネットの中だから、俺、取ってくるよ」と上衣と鞄を万由子に預けた。
エレベーターを呼んで乗り込もうとすると、優花が
「明日香ちゃん、常務が乗るところだよ。乗せてもらいなよ!」と明日香を急かす。明日香も忘れ物をしたようだ。
明日香と二人で乗り込み、エレベーターが動き出した
と、ガタガタガタ………………ゴン!………ガタガタガタ
どうやら、地震があったみたいで、エレベーターが停止した。ケンは怖がっている明日香に寄り添い、肩に手を当てた。
エレベーターの揺れは収まったが…………動かない。どのボタンを押しても反応がない。明かりはついている。
エレベーター内のインターホンを押しても、故障しているのか、つながらない。
ケンは万由子に電話をかけ、ケンと明日香が閉じこめられたことを伝え、社屋の被害状況を確認してもらった。
程なく、施設管理課長から電話が掛かってきて、社屋の被害確認中であること、マニュアルに従い、総務部長を本部長とした災害対策本部が設置されたこと、籠の中に人が閉じこめられたことを連絡するため、エレベーター会社に電話をかけ続けているとの報告を受けた。
万由子から電話があり、現在、社長と京子さんは災害対策本部に詰めて、被害の確認に当たっているとのこと。
万由子と優花は、災害対策本部から「第二事務棟エレベーター閉じ込め事故の担当者」を命じられ、ロビーで待機。後ろでガヤガヤ人の声がするので、他に何人か人が居るようだ。(というか社屋に用事のある人が階段を行ったり来たりしているのだろう)
エレベーター内は畳2畳ぐらいの広さ。人荷用なので少し広め。ケンは
「明日香さん、座ろうよ」と声を掛け、壁に寄りかかって座った。
今頃、社内に残っているスタッフは、復旧や被害確認に走り回っているんだろうな……と考えながら、明日香の方を見た。
これから優花たちと遊びに行く予定だったという明日香。胸の丸い膨らみがピタTを大きく押し上げ、柔らかい素材のミニスカートに、黒の5分丈のスパッツ。ケンの斜め向かいに体育座りをしているためスパッツの奥が見えそうだ…………
緊張をほぐすため、ケンは他愛ない話を始めたが、次第に明日香は体をこわばらせて生返事をするようになった。体が小刻みに震えている。
「明日香さん……どうしたの? 気分が悪いの?」
「あの……何でもないです」
と、万由子から電話が掛かってきた。
「常務、ご気分はどうですか?」
「大丈夫だよ。二人しかいないから、空気は持ちそうだ」
「エレベーター会社に連絡が取れました。技師が急行するそうです」
「頼むよ。蒸し暑くてたまらないよ」(エレベーターにエアコンなんて洒落た物はついていない)
「はい。ところで常務。お手洗いは大丈夫ですか?」
「ああ。俺は大丈夫だよ。さっき部屋を出る前に万由子さんを待たせて行ったばかりだろ?」
「そうでした……了解です」で、電話が切れた。
「明日香さん。もう少し時間掛かるって。のんびり待っていよう」
「常務……あの……すみません」
「明日香さん……?」
「あの……おしっこ。おしっこ漏れそうです」
「ええっ?」
「さっき……トイレに行こうと思ったら、優花先輩が『上のトイレ使ったら?』と急かして……エレベーター降りてから上のトイレ行こうとしたんです」
「明日香さん…………」
「常務は?」
「俺はさっき済ませてきたから」
ここで、ケンはハッとなった。
これでエレベーターの床を小便で水びだしにしたら…………
万由子は俺がトイレに行ったのを知っている。(エレベーターに乗る前に待たせたし、今の確認の電話でも……)
一方、優花は、明日香がトイレに行きたがっているのを知っている…………
つまり、ケンが漏らしたという強弁は通らない。明日香が漏らしたというのがばれてしまう。
何か袋は…………なかった。
ケンは、ワイシャツ姿で手ぶら。(上衣と鞄は万由子に預けていた)
明日香も、荷物は優花に預けていたため、小さな巾着一つだけで手ぶら。巾着の中には財布とケータイと化粧道具だけ。ビニール袋なんて入っていない。
「明日香ちゃん……我慢できる」
「はい…………でも、お腹が……痛い」
またケンの電話が鳴った。万由子からだ。
「常務……申し訳ありません。技術者の乗った車が路上で故障して…………技術者は近くの民家で事情を話して自転車を借りてこちらに向かっていると連絡が…………あと15kmです。大丈夫ですか?。警察かレスキュー隊呼びましょうか」
明日香は必死に首を横に振る。
「大丈夫だよ。ヒマだから、しりとりしていたんだ。余裕だよ」
「分かりました。何かあったら電話します」電話は切れた。
「常務…………お腹が……痛い」
「明日香ちゃん……レギンスとパンツ、脱ぎなよ。もし出ちゃったときに被害が少なくなるから」と、ケンは後ろを向いた。
「はい……」震えながら明日香は返事をし、服を脱ぐ音がした。
「脱ぎました」
意外と色っぽい生足が目に飛び込んだ。
「常務……でも、おしっこ見られるの恥ずかしい。ああっ」
「もしもの時は後ろ向くから」
「そうじゃなくて、みんなに見られるの……優花先輩や万由子係長に見られたら…………、施設や営業の人とか、みんな待っているんですよね。」
「仕方ないよ。非常時なんだから」
「ぐすっ、ぐすっ。いや……見られるの……でもお腹痛い、痛くて辛い……ううっ。お腹が爆発する……うわああああんっ」
明日香は股間を押さえながら泣き出してしまった。
「明日香さん」ケンは言った。「最後の手段だけど…………」
「はい」
「俺が飲むよ。」
「えっ?」
「俺のお腹の中に入ってしまえば、誰にも分からないよ」
「そんな…………」
「だって、技術者が来るの、あと1時間はかかると思うよ。自転車で15kmだもの。我慢できるの?」
「無理です」明日香はすすり上げながら股間を押さえる手の力を益々強くした。
「でも、おしっこ、汚いよ。申し訳ない……」
「海で遭難したとき、おしっこを飲んで助かったという話もあるし、おしっこ自体も出したてなら無菌で不衛生なものではないし、それどころか飲尿療法っていうのも昔に流行っていたし…………じゃないと、床が濡れて…………」
「常務……もうだめ……すみませんっ…………お、お願いします。でも、どうやって」
ケンは床の上に横たわり、明日香の局部を口に当てるように指示した。
「恥ずかしいかもしれないけど、ぴったりくっつけて。隙間があると口から漏れちゃうから」
明日香は余程我慢ができなかったのか、スカートを捲り上げ、ケンの顔の上にまたがると、局部を顔に押しつけた。ケンの視界は奪われ、局部のヘアと尻たぶの柔らかくて暖かい感触が顔に伝わった。
でも、いくら室内仕事の事務員とはいえ、夏の暑さで明日香の局部は女の匂いでむせかえりそうだ。
「い、いいですか。常務…………すみません…………ああっ」
突如、ケンの口の中に生暖かい液体が迸った。
最初は口の中に溜めようとしたが、我慢に我慢を重ねたおしっこは次から次へとケンの口腔内に迸る。ケンは鼻をつまむと、飲み下した。息ができなくて苦しい。ツンとした匂いが鼻を突く。
これでもか、これでもか、と出てくるおしっこを苦しい思いで飲み下すうちに、ケンは思った。
「自分は重役として恵まれた仕事をしているけど、危急時にはみんな同じ。苦しみも、痛みも、みんな一人の人間として受けとめなくてはならないんだ…………」
ケンは、最後の一滴まで吐き出さずに飲み干そうと決心し、ひたすら耐えた。
次第に、尿の勢いは衰え、停まった。
明日香はケンの顔から局部を離した。剛毛に包まれた幼くて綺麗な割れ目が一瞬だけ目に飛び込んだ。
ケンものろのろと体を起こし、壁に寄りかかった。
「常務……大丈夫ですか?」
「ちょっと気持ち悪いけど……まあ大丈夫だよ」
「本当にすみません……ありがとうございました」
ケンは、ハンカチで口の周りをぬぐった。
明日香は、ケンの向かい側に体育座りで座った。パンツも穿かないで。
「明日香ちゃん、見えちゃうよ。パンツ穿かないと」
「だって……拭いてない……ティッシュもないし……」
「これ使う?」ケンはハンカチを手渡し、明日香は股を広げて滴を取っていた。
濃いめのヘアーと、しっかりと閉ざされた割れ目が目に入っていたが、呆然とした明日香、そんなことも気にしていない様子だ。
「明日香ちゃん……口、匂う?」
「えっ?」
「口が臭くないか、嗅いでもらっていい?」
明日香はケンの側に寄って………………「あの……ちょっとおしっこ臭いような気がします」
「じゃあ、出たらうがいしなきゃ」
「すみません…………」
そう言うと、明日香はケンに寄りかかり、手を握ってきた。
てか、パンツもレギンスも穿いてないじゃん。まくれたスカートの裾からは、長くてむっちりとした太ももがむき出しになっているのを眺めていた。
また電話が鳴った。
「常務、技術者が到着しました。今から救出に入るそうです」と施設管理課のスタッフ。
「予想より早かったね」
「営業の山田(裕太)係長が部下と手分けして車で技術者を探しに行って……自転車でこちらに向かって走っていた技術者を山田係長が発見し、自転車ごとライトエースに収容して連れてきました」…………裕太、やるじゃん!!
程なくして、エレベーターがガタガタ揺れ始めた。手動ハンドルで動かしているのだろうか。
エレベーターが停まり、扉が開いた。
十数名のスタッフが拍手で迎えてくれた。
優花は明日香に駆け寄り、明日香とないしょ話をしたかと思うと、ケンの方に駆け寄った。
近寄ろうとした万由子を制止し、
「常務……飲んだの?」と小声でささやいた。
ケンは首を縦に振った
「大丈夫?」
「ちょっと気持ちが悪い」
「じゃあ、こちらへ」優花はケンの手を引き、トイレへ。
万由子がついてこようとするので「ケンさんは私が見ますから、岡田係長は各所への連絡をお願いします」と優花とケンで身障者トイレに入った。
「常務……水を飲んで下さい……あっ、コップがない」優花は洗面台蛇口の下に自分の手を当て、水をすくい取ると、ケンに飲ませてくれた。ケンは、これでもか、と言うぐらい大量に飲む。
と、ケンに吐き気が襲ってきた。便器を抱えて塩辛い液体を吐き出すと、優花が背中をさすってくれた。口に指まで突っ込んでくれた。
「優花ちゃん、ありがとう」
「いいえ、出張の時、酔っぱらって介抱してもらった時の借りがやっと返せました」優花は嬉しそうに微笑むと、チュッとキスしてくれた。おでこだったが。
明日香の小便の匂いが残るハンカチで口の周りの水滴を取り、ハンカチはゴミ箱へ。
「常務に優花ちゃん、どうしたの?」トイレから出てきたケンたちに、万由子はいぶかしそうに訪ねた。
「いや、常務が気分が悪いって言うから、指を口の中に入れ、吐かせていたんです」
「そう……優花ちゃん、ありがとね」万由子はぼそっと言った。
(ケンと肉体関係のある優花だから躊躇無く出来たんだろうな。口に指を突っ込むなんて……万由子は密かに思った)
「そうそう、常務…………ホテルでのパーティーは地震のために中止になりました。社内には特に大きな被害はなく、災害対策本部も解散して、施設管理課での対応に切り替わりました。常務、お疲れのご様子ですので、今日はお帰りになられては? 各所には手配しました」と万由子。
ケンが総務部長や施設管理課長、大手柄を立てた裕太にお礼と激励の電話をしていると、真帆がロビーにやってきた。
お腹の大きな真帆の隣には、心配そうな顔をした娘の真菜絵が香織に手を引かれていた。
「あなた…………今日は帰ろうよ。万由子さんから電話もらったから迎えに来たんだよ」
「うん」
ケンは、万由子、優花、そしていつの間にかレギンスを穿いていた明日香たちに見送られ、香織の車で会社を後にした。
自宅に着いたケンは、食事を断り、ひたすら水を飲んでは吐くことを繰り返した…………
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翌日。体調がすぐれないが、午後から大切な会議があるので香織の車に乗って出社。
ラインや倉庫なども特に大きな被害はなく、片付けのために操業開始を遅らせた程度で済んだ。
エレベーターも、昨夜大活躍した技師がやってきて修理を始めていた。
昨日昼間の点検で地震管制装置とインターホンが故障しているのが判明し、部品手配の関係で翌日(つまり今日)直すところだったとか。
(6階建ての小さな社屋で人荷用が1台しかなく、そのまま使い続けていたのが仇となった)
自転車で駆けつけた技師をねぎらい、さらに、昨日借りた自転車を返すため、裕太にお礼の商品券を持たせた上で、技術者と一緒に自転車を借りた民家まで挨拶に行ってもらった。
それにしても、さっきから企画課のオフィスに万由子と明日香の姿が見あたらないのが気になる。
この二人、通常は組んで仕事をしないのに…………
課のみんなも「研修」としか聞かされていないとのこと。(優花は予備校の夏期講習のため午後から出社)
朝から、地震の関係で取引先や他の課から掛かってくる電話が鳴りっぱなしなのに、万由子の奴、どこ行ったんだ?
ケンはぶつぶつ言いながら、優花の机に座って電話応対を手伝った。
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電話の嵐が収まり、役員室で自分の仕事を始めたのはお昼前。
そこに、荒々しいノックのあと、万由子と明日香が連れだって入ってきた。
万由子は険しい顔をして目をつり上げており、明日香は泣きそうな顔をしてしょげている。
「常務! 矢間田(明日香)さんからお話があるそうです」と万由子。
「何?」
明日香は、ケンの机の上に封筒を置いたかと思うと、いきなり絨毯の上に這いつくばって
「常務、昨日は本当に申し訳ありませんでした」とケンに向かって土下座した。
机の上の封筒には『進退伺い』と書いてある。
「ち、ちょっと…………何の真似だよ。やめてくれよ」とケンは明日香の所に飛んでいき、明日香を抱え起こして、
「万由子さん、一体、何を明日香に言ったんだ?」と詰問した。
「何をって……常務。私、昨日のこと、優花さんに問い詰めて腰が抜けそうになりましたよ。だから、きつく注意して進退伺いを書かせ、お詫びするように言いました!」
「だから、何なんだよ。明日香さんが土下座するようなこと、俺にしたのかよ? おい!」とケンは強く言った。
自分が怒られるとは思っていなかった万由子は少し慌て、言い返した。
「バイトがよりによって会社の常務に小便飲ませるなんて、非常識にも程があります」
「で、明日香に進退伺いを書かせて、土下座までさせるわけ?」
「はい!!」
「企画課も他の部署も地震の後始末で大忙しなのに、仕事放ったらかして『指導』なんてしているわけ?」
「はい……」
「主な当事者から事情も聞かないで? 俺からも事情って聞いてないよね?」
「ええ……」万由子は少しうつむく。
「万由子さん……ふざけるなよ!。あれは俺の方から『口の中に出してもいいよ』って言ったんだ。大切なエレベーター汚しちゃ困るからな。本人の名誉も大事だし」
「でも、バイトが常務におしっこ……」
「だからぁ、ああいう非常時とか災害の時って、役職とか関係ないんじゃないの?」
「えっ」
「上司が部下を守るのは当然だよ。だけど、災害時や非常時に上役が権力使って威張ったところで、どうするんだよ!」
「………………」
「仕事や会議、あと、パーティーなら常務は常務らしく、秘書は秘書にふさわしい行動を取らなくてはならない。上下関係とかスキルとか色々あると思う。だから昨日のパーティ随行は万由子さんが最適だと思って残ってもらったけど、今朝の行動はどうかと思うよ。地震災害の翌日にする仕事ではないよね。勝手なことしたらだめだよ!!」
「すみません…………出過ぎたことをして、申し訳ありませんでした」
「ところで、万由子さんが居合わせたのならどうしたと思う?」
「すみません……とても飲めません……でも、『私が漏らしました』とかばうなら…………」
「万由子さんは普段は仕事も出来るし、気が利くからすごく助かっているけど、パニックになるとちょっと抜けるところあるんだよなぁ。あのとき、電話口で『常務はお手洗い大丈夫ですか?』なんて大声で確認したもんだから、その手は使えないんだよwwww 同じ事は俺も考えたよ!」
「…………本当に申し訳ありません…………ごめんなさい。許してください…………」
うつむいた万由子の目尻から涙がぽたぽたと垂れている。
ケンからこんなに厳しく叱られたのは初めてだ。
そんな万由子を尻目に、ケンは明日香の傍らで
「明日香さん。ごめんね。俺の『監督不行届き』だから、上司としてお詫びするよ。何言われたか想像つくけど、嫌だったよね?」
「…………」
「今朝からさっきにかけて、岡田係長が明日香に言ったことは上司の職権として全部取り消すし、こんなもの、受け取る方がどうかしているよ」
とケンは進退伺いを封筒ごとシュレッダーに掛けた。
「あと、岡田係長を……人事に通告することまではしたくないんだけど…………後で何か埋め合わせしてあげるから、このぐらいで許してあげていい? ああいう真似は二度とさせないから…………明日香さん」
「はい。常務……、十分です。本当にありがとうございます」明日香は真っ赤な顔をしていた。
「万由子さん、頼みがある。重要な仕事だ」
「ぐすっ……はい」万由子は鼻をすすり上げながら返事した。
「この事を知っているのは、俺と明日香の他は万由子さんと優花ちゃんだけだよね」
「はい」
「これ以上、絶対に話が広がらないように、万由子自身も気を付けるとともに、当事者に指導して欲しい。明日香もそうだけど、俺にも名誉ってものがあるからね。香織や真帆にも言っていないし、尾ひれが付いて噂にでもなったら…………」
「はいっ」万由子の顔が少しだけほころんだ。
午後。優花が出てきた。
「優花ちゃん……昨日はありがとう」
「常務こそ大変でした。大丈夫ですか?」
「うん。おかげさまで」
「さっき、万由子さんから聞きました。私も秘密は守ります」
「頼むね」
「その……秘密を守る代わりに…………」優花が耳元でささやく。
「???」
「だ・い・て…………」
「もう……エッチ」
「だって……体が火照って……勉強に集中できないんだもん。ケンさんの欲しいよ」
「………………」
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※ 雅亜公 作 「密室の中で」 (夏色物語・フランス書院刊)を参考にしました。
中部ケンシリーズ登場人物など
http://chintrair.x.fc2.com/ken-ex.html
出典:エレベーターパニック・明日香、【1】【2】より。
リンク:http://novel18.syosetu.com/n7794i/

(・∀・): 58 | (・A・): 54
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