名前

2010/01/12 18:54 登録: 名無しの作者

中学1年と2年の時の同級生に松本彰子という名の同級生がいた。
1年の時はほとんど話したこともなかったけど、2年になって彼女の1個下の弟がサッカー部に入りオレの後輩になったことをきっかけに急に親しくなった。
親しくなったといっても付き合ってデートに行ったり、突き合って中学生にあるまじき不純異性行為にはげんだりというのではなく、クラスの中でも良くしゃべる友達として。
当時エロ中学生まっしぐらだったオレは正直そういった関係も期待しないではなかったが、ついぞそういう雰囲気にならなかったなぁ。
で、彼女の弟君が静夫というんだが、弟君は弟君でなぜかオレに良くなついて、オレも部活でのこととかかわいがって面倒みてやったりした。
オレにも3つ上の姉貴がいるんだが、当時は反抗心と恥ずかしさとでほとんど口を聞かない関係だった。反して彼女ら姉弟はものすごく仲が良くて、姉から「弟は○○子というアイドルが好き」という情報を入手したり、弟君の口から姉の失敗談を聞かされたりと、互いが互いの話をよくしてくれた。
たまに帰宅時間が重なった時など3人でファーストフード店に出向いてバカ話に講じることもあった。

そうこうしている内に1年が経ち3年生になって間もない1995年の5月、お騒がせなバカ教団のアホ教祖がサリン事件の容疑者として逮捕される事件が起こった。
田舎に住んでる自分達には何の関係もない出来事と思いきや、弟君の友達があることに気付いた。
いわく、麻原容疑者の本名「松本 智津夫(マツモト チヅオ)」と「松本 静夫(マツモト シズオ)」は1字違いだ、と。
実にくだらないネタなのだが当時はどのチャンネルつけてもこの話題ばかりだったし、学校でも本気の論議から冗談まで含めてかなり話題になっていたので、いいからかいの材料になっていたらしい。
人ごとながらバカバカしいとは思うのだが、当の本人は本気で気にしていたようだ。
元来生真面目で人を笑うのにも人に笑われるのにも慣れていなかったことに加え、思春期特有の過剰な自意識も手伝って、そのことを言われるのを相当に嫌がってたらしい。
しかし子供の世界は残酷で、嫌がれば嫌がるほどにエスカレートしていくもの。いじめとまではいかないまでも周囲からかなりネタにされていたようだ。
そしてそのことを姉の彰子から聞かされ、相談にのられた。(余談だけど3年になって彼女とは別のクラスになってしまってたけど仲がよいのは続いていた)
本気で自分の名前に嫌悪し、反抗など見せたことなかった弟君が親に対して「なんでこんな名前付けた!」と憤慨し、改名したいとまで言い出したらしい。

彼の説得と懐柔を軽い気持ちで引き受けたが、めちゃくちゃ大変だった。
「親のつけてくれた名前を捨てるのか!」とか「そんなこと言うやつは無視しろ!」とか「そのうちこんなくだらない事件はみんな忘れるよ」とか宥めたり賺したり、押したり引いたりと手をつくしてみたが、自分を見る周囲の目に不信感をつのらせた彼を納得させることはできなかった。
しかしながら、難航を極めた弟君の説得も時が簡単に解決してくれた。
数ヶ月もすればまるである日を境に線を引いたようにみながこの事件を忘れていき、話題にのぼることも少なくなった。同時に彼の名前をからかう笑いもなくなっていった。
当の本人も改名まで言い出したことを恥じ、姉やオレにしきりに頭を下げた。
実に些細な、実にくだらない中学生時代のお話だが、このことがあってから姉弟との新密度が増し、大学を卒業して就職した今も連絡を取り合い、特に弟君とは一月に一度くらいのペースで飲みにいったりする仲が続いている。

さて、ここからが本題なんだけど、最近その弟君から思わず笑ってしまうような相談を受けた。
姉の彰子が結婚を考えている人を家族に紹介したらしいのだが、その人と結婚すると名前が「朝原 彰子(アサハラ ショウコ)」となってしまうのをすごく気にしているらしい。
まさかそんなことで結婚話をお流れにすることはないと思うのだが、踏ん切りをつかすために一言いってくれ、だと。
この姉弟の奇妙な宿命に苦笑を禁じえないがさてはてなんと言ったらいいものか。
いっそのこと笑い飛ばしてやったほうがいいのかも知れん。

(名前についてはニュアンスと漢字を若干変えています)


出典:オリジナル
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