海上自衛隊 第71航空隊
2010/02/12 02:38 登録: えっちな名無しさん
波高3mの悪天候でも着水できる世界唯一の飛行艇US−1Aで編成された第71航空隊は、航空救難や洋上救難、離島からの患者輸送などを任務とする救難飛行艇部隊である。
高さ3mの波の中で、墜落した米軍機パイロットを救助
「私を救助してくれた乗員全員に感謝したい。私には妻と息子と、そして生まれてくるBabyがいる」
第71航空隊の飛行隊長、貴田英樹(Kida Hideki)二等空佐(中佐)の手元には、英文でこう書かれた紙片が大切に保管されている。今から約10年前、機長として出動した際に、救助した米軍パイロットから渡されたものだ。
貴田2佐がこのメモを受けとったのは平成4年1月23日にさかのぼる。この時の任務は、洋上に墜落した航空機の捜索・乗務員の救助にあたる「航空救難」。三沢基地を離陸してハワイ経由で本土に向かった米空軍のF−16編隊の一機が、空中給油機と接触して墜落。脱出したパイロットを救助するのが貴田2佐(当時1尉(少尉))たちの任務だった。
「第71航空隊からは常時1機が厚木基地に進出して救難待機していますが、この時は私のチームが厚木に着いた翌朝のことでした。6時15分に救難情報が入り、取るものも取りあえず出動したのを覚えています。少しでも遅れたら要救助者が亡くなってしまうかもしれない。そういう危機感がありました」
すでにパイロットとしては飛行時間6000時間を越えて、機長としても脂ののりきった時期。しかしベテランの貴田機長も、「レア・ケースなので、正直、驚いた」という。
第71航空隊の編成は昭和51年。以来、その出動は洋上救難(遭難した船舶の捜索・乗務員の救助)、患者輸送(離島などからの急患輸送)をあわせて700回を超え、救助人数も700人に迫る。だが航空救難は出動自体が希で、出動がかかっても遭難者死亡のケースがほとんど。実際にパイロットを救助したのはこの時、ただ一度だけなのだ。
「現場は銚子(Chosi)沖東630マイル(約960km)の海上でした。周りに島もなく、ヘリコプターの航続距離では届かず、海上保安庁の巡視船では数日かかってしまう。まさに太平洋の真ん中です。外洋に着水できるUS−1Aでしか救助できない場所でした」
10時4分、救難チームを乗せたUS−1Aは現場海域に到達。だが、その日の現場付近は前線帯が通過した直後で、海は荒れていた。風速は着水制限の25kt近く、着水方向からの波は約3m。うねりも高かった。
着水可能かどうかの判断は機長に任される。波長や波高、風の強さ、機体重量などの要素を複合して割り出される制限曲線が基準となるが、この日の制限曲線は100%だった。
「制限曲線100%というのは、着水してもやめても問題がないギリギリの線。つまり、降りるか降りないかは機長の判断次第です。正直言って、約3の波は、何度降りても気圧されるものがあります。一度迷ったら、決断が鈍ってしまいます」
貴田機長の判断は「降りるぞ」だった。迷わず決断できた理由は、クルーに対する信頼感だったという。
「各配置に安心してまかせられるクルーがいました。また厚木を発って現場に行くまでの流れも、緊迫した状況の中でスムーズでした。順調に捜索もできたし、位置表示弾の投下も訓練どおりに完璧にやってくれました。何よりも救助に対する士気が強かった」
救難チームの各配置には、それぞれの技量に応じてランクが設けられている。下からC(チャーリー)、B(ブラボー)、A(アルファ)。チーム全体としてAが多ければ、そのチームのランクも高くなる。この時、貴田2佐が率いていたチームは、ベテランぞろいの高錬度チームだった。
「着水後も機体の動揺は大きく、後部作業は波をかぶって厳しい状況だったと思います。あとでボイスを聞くと、隊員たちがお互い怒鳴りあって作業していました。また私自身も、プロペラで波を叩いて壊さないように、ハラハラした思いで任務に当たっていたことを記憶しています」
高波の中、ボートで救助に向かった機上救助員は、貴田機長の期待通り、無事にパイロットを機内に収容。直ちに離水して厚木に帰投した。このとき、救助された米軍パイロットが機内で書いたのが、冒頭のメモである。
「どんな任務でも、終わったときは無事に終わってよかったという思いだけです。クルーの中にはメモをもらってジンときたという者もいましたが、そういう感情的な思いは全て任務が完了した後にしろと指導されていましたし、私も部下にはそう指導しています。」
飛行隊長という立場からか、抑制された表現で語る貴田2佐だが、毎年欠かさず送られてくるというクリスマスカードを手にすると表情が和らいだ。その一枚の写真には、妻と息子、そして生まれてきた娘と一緒に笑うパイロットの姿があった。
出典:不明
リンク:fumei

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