卒業式の季節
2010/03/01 17:17 登録: えっちな名無しさん
萌える体験というか、不思議な体験で今も結構鮮明に覚えてる。
事の起こりは高二の卒業式。
卒業式って言っても俺は当事者じゃないし、式の間も友人とじゃれ合ったり、それに飽きて眠り込んだりしてた。
卒業式が終わったのは昼過ぎだったんだけど、クラスメートとダベってるうちに三時ごろになってて、そこでようやく解散になった。
当時俺はバス通学で、バス停は学校のすぐ前にあった。
バス停まで行くと女の子が一人だけ立っていた。
制服姿で卒業証書の筒を持ってたから一目で卒業生だって分かった。
でもうちの高校には一学年250人以上の生徒がいたから、同学年ならまだしも上級生の名前なんて全然分からなかった。
彼女はジッと学校の方を見ていた。
俺は彼女の横に立ってバスを待ちながら、ぼおっとしていた。
だから突然彼女から話しかけられたとき、本当に驚いた。
「なんか昨日までの学校と違って見えるんだよね」って彼女は唐突に言った。
周りには俺と彼女しかいなくて、俺に言ってるのか独り言なのか判断出来なかったから、とりあえず何も言わずに黙ってた。
そしたら今度ははっきり俺の方を向いて「あなたにはどう見える?」って尋ねてきた。
俺は元々人見知りする方だったし、俺の目にはいつもの学校にしか見えなかったから本当に困っちゃって、まともに受け答え出来なかった。
俺がヘラヘラしながら要領を得ない返答をしていると、彼女は「まぁ分からないよね」とか何とか言って、それきり喋らなくなった。
数分して来たバスに俺と彼女は乗ったけれど、離れたシートに座ったから車内でも全然喋らなかった。
俺が途中で降りようと彼女の側を通り過ぎたときも、彼女は何も言わなかったし、視線も寄越さなかった。
俺もその日一日はなんとなく奇妙に思っていろいろ考えたんだけど、次に学校に行く頃にはすっかり忘れてて友人にも話さなかったし、結局その先輩が誰だったのかも調べず終いだった。
これだけなら思い出になんか残らない些細な出来事で終わったんだろうけど、不思議なのはこれからで、俺はまた彼女と会う機会があった。
それは初めて会って奇妙な会話を交わした日から丁度一年後の卒業式の日で、俺は今度は卒業生として送り出される立場だった。
俺は高校生活最後の日をちょっとしんみりする気持ちを紛らわすために、そんなに親しくもない友人とも積極的に話したり、泣いてる女子をからかったりして過ごした。
帰ろうと思って昇降口を出ると卒業生の親同士が談笑していたり、部活動の後輩たちが先輩に花束を渡したりしていて結構こみ合ってた。
苦労して人混みを抜けてホッとしていると、突然後ろから肩を叩かれた。
振り返ると私服姿の女性がいた。
一瞬卒業生の親かとも思ったけどそれにしては服装がカジュアルだったし、どう考えても若すぎた。
俺がポカンとしてると、彼女は「覚えてるないかなぁ」と言って自分だけさっさと歩き出して、そのまま立ち止まってる俺に「ついてきて」と言った。
俺はまだ思い出せなくて、「もしかして告白されるのか?」とか考えて、なんとなくドキドキしながら彼女の後をついていった。
彼女は校門を出て、バス停まで来たところで立ち止まって、「一年前、ここで喋ったよね」と言った。
俺はそれでようやく思い出して頷いた。
彼女は一年前に奇妙な会話を交わした女子生徒だった。
「一年前の答え聞こうと思って、昇降口で待ってたんだ」
「学校がどう見えるかって……」
「うん」
何でもなさそうに頷く彼女に本当に驚いた。
だってそんなこと聞くためにわざわざ学校まで見ず知らずの俺を探しに来るなんて、正直理解出来なかった。
「ねぇ、どう見える?」と彼女が急かすので、俺は仕方なく振り返って校舎を眺めた。
もうすぐ創立100年になるらしい校舎は、確かにいつもと違って見えた。
たぶん寂しさとか、卒業っていう特別な意識がそうさせていたんだろうけど、古い校舎とそこから聞こえる人々の声が妙に遠く感じられたような気がした。
俺がしどろもどろになりながらもなんとかそれを伝えると、彼女は「やっぱり、そうだよね」と満足したような、納得したような様子だった。
そのとき丁度バスが来た。
彼女は停車したバスを指差して、「乗る?」という仕草をした。
俺が首を横に振ると、彼女は「それじゃ」と言って開いた降車口から車内に入っていった。
彼女を乗せたバスは走り出して、あっという間に俺の視界から消えた。
俺はさっきの感覚が間違っていないか確かめようと、もう一度校舎の方に視線を移して、次のバスが来るまでの間じっと眺め続けた。
出典:オリジナル
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