泉の広場を上がってすぐの吉野家は、私たちにとってギルガメッシュの酒場みたいなものだった

2010/03/20 19:10 登録: えっちな名無しさん

1999年の7月の末だったと思う

まだノストラダムスさんが、ネタとして賞味期限内から消費期限ギリギリにかわる、夏のある日

私は大学生活で最初の長期休暇、バイトの合間に梅田のまんだらけという店に逝ってみることにした

まんだらけは、漫画の古書やアニメグッズを大量に取り扱っているお店

当時から、ヲタクだった私にとって、大阪の梅田にあるまんだらけは、聖地みたいな存在だった

今は、アメリカ村のビルに移転した、なんば店が出来る前で、コインロッカーに手荷物を入れさせて、万引きを防いでいた時代だ

当時、京都から梅田まで電車で移動し、地下街の泉の広場という場所から、階段で地上に出て、商店街の中にある店舗までいくのが、迷わないルートとして、自分の中で確立していた

お金なんか、たいしてもっていないから、月に2回も逝ければいい方で、あの暑い日はバイト代が多めに入り、浮かれていたのを覚えている

その泉の広場から、階段を上がった所に吉野家があり、それなりに利用していた

あいつに初めて会ったのは、牛丼特盛に玉子を2個溶いて投入していたら、3つ隣の席から声をかけられた時

「なあ、じぶんまんだらけによーいっとるよな?」(ねえ、君、よくまんだらけに行っているよね?)

華奢な身体で、黒ぶちの眼鏡、長髪で服には気をつかっていない、まあ、ステレオタイプなヲタクファッションの男

だった・・・人様のファッションに口出しするほど、オサレに詳しいわけじゃなかったけど、なんというか、一般人が思い浮かべるヲタクそのものの格好だった

適当に話していると、共通の大好きな作品があることがわかって、20分ぐらい盛り上がった

その日はそれだけ、私はまんだらけへ、そいつは帰るって言って吉野家の前で別れた

それ以来、待ち合わせをするわけでもないのに、よく会った

目的地が共通なんだから、珍しくないかもしれないけど、月2回の不規則な、まんだらけに逝く日、吉野家で必ず出会った

私はあいつの名前、住所、電話番号・・・なにひとつ知らないし、むこうも同じだ

ただ、牛丼屋で会って、20分ほど話してばいばい、一緒に遊ぶわけでも、買い物をするわけでもなかった

それが、4年近く続いた

就職して、最初の仕事の試用期間に病気に罹り、療養中には出掛けられず、病気が治って、今の会社に就職し

たあとは、遊び場所は日本橋になっていた

なんせ会社が近いし、大阪のヲタ系ショップが日本橋に集中しだしたからだ

あいつには、それ以来会っていない

別に、それでもいいと思っている

私たちヲタクにはよくあることだし、お互いに萌える作品も似たようなものだったのだから、ヲタクである限りあいつ

とは、どっかでつながっていると勝手に思っている

ここで終わりなら、綺麗に青い春の思い出なんだけど、昨日、久し振りに梅田まで逝って、久し振りに牛丼を食べ

ていたら、親子が入ってきた

オサレな服を着て、可愛らしい双子らしき子供を連れて、でも黒ぶち眼鏡だった

ようって言ったら、ようって返してきたので、20分くらい話した

お互いの家族のことを話したり、子供を紹介してもらったり、富樫の連載再開についてだった

店を出てから、気がついた

お互いの家族の名前は教えたのに、メアドも交換せず、名前も知らない

ま、それでもいい

あいつも私も元気で家族がいて、そしてヲタクのままだった

それで十分じゃないかと思う


出典:あ
リンク:あ

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