おっさんのカラオケボックス

2010/04/03 11:29 登録: えっちな名無しさん


皆で、カラオケに行くことになった。
恥ずかしながら歌が下手な俺は、一人でカラオケの練習をすることにした。
女の子も来るらしいし、やっぱり格好良いところ見せたかった。

とはいっても、俺は金欠気味。
ちょっと古い感じのカラオケ屋で1時間だけ練習することにした。


二階の小さなカラオケボックスに入って、何曲か歌う。でも、途中でマイクの電池が切れたりスピーカーからノイズが聞こえたりして、雰囲気の悪い店だと思った。
ていうか、店の雰囲気がパッとしない感じ。受け付けのお姉さんもパッとしなかった。

俺以外にも何人か客はいるみたいだが、大半の部屋に電気がついていなかったから、たぶん極僅かだろう。

それでも、錆だらけのタンバリンをシャカシャカしながら歌ってたら気分がノってきた。


ついでにメニューを見たら、料理が超安い。
ラーメンとかオムライスが120円くらい。せっかくだしオムライスと麦茶を注文しようと思って、電話をかけたんだよ。

プルルルルル……

ガチャ

「…………………」

「あのー……」

普通さ、店側がなんか言うじゃん。電話は繋がってるはずなのに、受話器の向こうがシーンってしてるんだよ。

「オムライスと麦茶を……」

「…………、行くから」

「……え…?」

「……今がら行ぐがら待っでろよ!!」


受話器の向こうから、おっさんの怒鳴り声が聞こえた。

「え、ちょ、……」

ガチャ

ツーツーツーツー…………


電話が切れた。
恐る恐るドア開けて周りを伺ったらさ、廊下とかが薄暗くなってんだよな。

慌てて廊下に飛び出たらさ、階段からバタバタって足音が聞こえるんだよ。

バタバタ バタバタバタバタ バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ!!

って、すっごい焦ってる感じ。二・三人の足音だったから、受け付けのお姉さんと電話に出たおっさんが来てるんだと思った。
何となくヤバい感じがして、部屋に戻って扉を押さえつけてた。

バタバタって足音は俺のいる部屋を通り過ぎて行った。なんか、二階のフロア中を走り回ってるっぽい。

それで、ちょっと扉を開けてみたらさ、おっさんがいたんだよ。おっさんが二人。
双子みたいにそっくりな二人のおっさんが、廊下でキョロキョロしてた。

ビビって扉を閉めたら、またバタバタバタバタって足音が聞こえた。今度は、俺の部屋の前で止まった。たぶん、扉を閉める「ガチャ」って音が聞こえたんだと思う。


扉についてる硝子張りの覗き窓から、こっちをジーって見てんだよ。
俺は扉を押さえてるわけだから、超至近距離なわけだ。
扉を一枚隔てて立ってる状態だよ。


そしたら、また新しい足音が聞こえてきた。
普通に静かな足音だ。

で、俺の部屋の前で止まると
「破ぁっ!」
って声が聞こえてきた。

「ぐきゃぁあ」って声と共に二人のおっさんが消える。

慌てて扉から離れると、Tさんが麦茶とオムライスを持って入ってきた。

「お待ちどうさま」

「な、何でこんなとこにいるんっスか?」
「んー?お前の下手な歌を聞いてやろうと思ってな」

そう言ってニヤリと笑ったTさん。
寺生まれってスゴい。改めてそう思った。



出典:あ
リンク:あ

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