歴史に名を残す方法
2010/04/04 04:45 登録: 人間七七四年
592 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2009/04/11(土) 16:04:42 ID:ca+3IYpo
渡辺惣左衛門の冒険
関ヶ原の折のことである。小山会議にて東軍への参加を決めた池田輝政。
が、この事を、彼の北の方のいる大坂屋敷に知らせ、状況を説明せねばならない。
輝政と重臣達は、誰を使いに出すべきか、紙に名前を書いて一斉に出すことにした。
全ての紙にこう書かれていた
『渡辺惣左衛門』
渡辺「オレっすか!?無理無理無理!こんな大事な使い、オレに出来るわけ無いです!!」
輝政&重臣一同「全会一致だ」
いかなる艱難があってもお前ならばそれに耐えて出来る!そんな勝手なことを言われる。
戦の困難なら耐えられるけどこれは…、どうにかして逃げなきゃ
「ほ、ほら、病気とかになるかもしれないし、一人じゃ無理、無理ですよ!」
「それならこの野中市左衛門を連れて行くと良い!」用意いいなお前ら。逃げ道、無し。
輝政「もし殺されれば、わしの前で討ち死にしたのと同じように考えてやるぞ。
うまく大坂まで行けば、一番首以上の評価をする。」気軽に言ってくれる。
そんなわけで、それぞれに同じ書状を一通づつ渡され、7月15日、小山を出発したのである。
途中、三河の吉田を通った。
ここは池田家の領地なわけで、無論俺の家もあるわけなのだが、寄っている暇はないと通り過ぎた。
尾張の熱田まで来ると、船着場は大竹の虎落(もがり)が作られしっかり守られていた。
船は無理。野中も役に立つ提案はない。
そこで知り合いである熱田神宮の神職、大原左衛門太夫のところに密かに立ち寄り、
どうしたものかと相談すれば、太夫所の下人に7〜8町先に行かせて道案内をさせ、伊勢との境まで連れて行ってもらう。
さて、この先は敵地。食料を乞う事もできず、手持ちの玄米を生のまま噛む他ない始末。
行き会う人達が露骨に俺達を怪しんでいる。「関所に言ったら殺されるよ?」と、親切に言ってくれる
人さえいる。涙が出てくる。
まあ、関所にたどり着かなくても、このままじゃ飢え死にするのは間違いない。どうしたものか。
野中は何の役にも立たない。
とにかく関を通るのは無理だという事はわかった。
そこで伊賀越えか浅間越えのルートを取るしかないのだが、どちらを通ったものか。
ともかく、知り合いの伊勢神宮の祝上部左近の所に、とりあえず宿を借りに行く。
「すまん、泊めさせてくれ」
左近「誰だお前!出てけ!!」
下人に棒を振るわれたたき出された。おいおいお前は池田家の恩を受けてる人間じゃねえか。
一生恨んでやる。おい俺より先に逃げてどうする、野中は本当に役に立たない。
しょうがないので行く当てもないがとにかく立ち去ろうとすると、左近がこっそり近づいてきて
耳打ちする「川堤ノ下デ、乞食ノ格好シテ待ッテロ」
どうしようもないのでその通りにしていると、夜になって左近がやってきて、家の中に入れてくれた。
「すいません。今の伊勢はこのくらい警戒しないといけないのです。」飯も食わせてくれた。
風呂にも入れてくれた。涙が出た。もう恨みは解いた。
左近の言うには、浅間越えは非常に危険で、最近も女乞食が殺されるなど物騒な状況なのだそうだ。
つまり、伊賀越えしかない。そんなわけで、ここでボロボロの伊勢巡礼の体を装わせてもらい、
二通の書状のうち、一通は深田の中に隠し、もう一通は紙縒りにして、傘に編みこむ。
そして一日かけて山を越え、翌朝、宮川を渡り、終に大和との関所にかかった。
「伊勢巡礼の帰りです。どうか通して下さいませ。」
関所の人間、「こんな時に伊勢参りなどする奴があるか!怪しい奴め!打ち殺せ!」
全く持って正しい判断である。俺が関番でもそう思う。が、「伊勢に詣でたらこの騒ぎに出会ったのです。
大坂の妻子のことが心配で、とにかく天照大神を頼みに任せてここまで帰って来たのです。」
と、泣き落とし。
荷物も全部見せ、終いには髪の中や帯わらじまで改めてもらい、「怪しい所はない」と通してもらった。
こうして奈良まで出て寺に泊めてもらった。
奈良の寺では酒をもらった。出発以来の酒だ、身に染みる。しかしそこの僧に
「良くここまでこられたものですな。他にも伊勢方面から大和まで忍び来る人はいるようですが、
皆、関所で殺されているようです。あなた方は、よほど故のある方ではありませんかな?」
やばい、怪しまれてる。内心、死ぬほど驚く。
「いえいえ天照大神のご加護のおかげです!この後も無事に行ければいいのですが。」
などと言い訳するも、この僧、露骨に信じていない。野中もへらへら酒飲んでるんじゃない!
変に見咎められないよう、笑ってごまかしながら大慌てで出立する。
さて、ついに奈良と大坂の間の関所にかかった。ここでも草鞋の中まで見せて、怪しい所は無いと通してもらった。
が、その時関所の老人が、「怪しかろうがそうでなかろうが関係ない!斬って捨てよ!」
と言い出した。マジっすか?無差別殺戮は想像していなかった。万事休す。
しかし、末座にいたものが「お伊勢様への巡礼者を殺せば、神の祟りがありますよ?」と言って、
そのまま通してくれた。終に大坂に入ったのだ。ありがとうございます天照大神様。
野中も大神に感謝している。
お前は何の役にも立ってないけどな。
と、大坂に入ったのは良いが、東軍の諸将の屋敷は虎落にかこまれ、
兵士がそれぞれの門を厳重に警護している。無論我が池田家もだ。出入りするのはとても無理である。
しょうがないので知り合いの商家の所に行き大根をたくさん買って、大根売りのふりをした。
池田屋敷の中に、オレの声を知っている人間がいれば気がついてくれると思ったからである。
「大根〜、大根はいらんかえ〜」その声が屋敷内の窓の傍にいた久保田市太夫に聞こえた
「渡辺に良く似た声の大根売りだな〜。あ、姿形まで似てる。…って、渡辺じゃんあいつ!
何でこんな所に…?おい!そこの大根売り、大根よこせ!」
渡辺、久保田のいる窓の傍まで行き大根を差し出す。久保田、大根を受け取りつつ小声で
「お前の宿はどこだ?」それを伝え商家に帰りこの事を野中に言うと、野中も大喜び。
良かった良かった。
お前は何もしてないけどな。
そして邸内の久保田は、門を守る兵に、薪を購入するからと、屋敷から35人の人夫を出し、
件の商家に派遣、そしてそのうちに一人と渡辺を入れ替え、ついに屋敷の中に入ったのである。
戦後、渡辺はこの功績を高く評せられた、との事。まさに九死に一生を得た冒険であった。
ちなみに野中がどう評価されたかは、よくわからない。
597 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2009/04/11(土) 17:45:45 ID:V3GxzZCK
ここまで何もしてないのに何故名前が残ってるんだ野中w
出典:戦国ちょっといい話・悪い話まとめ
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