猫間引きの話
2010/05/05 17:31 登録: えっちな名無しさん
あれは、今から30年も前のこと。私がたしか小学5年生の夏、だったと思う。団地の広場で友達数人と遊んでいたときのこと。
余談だが、その広場には首塚と胴塚とよばれる、小学校の校庭にある築山程度の小さな二子山があった。
樹木がたくさん生えていて、樹の根を人骨にたとえておばけごっこ?をしたり、自転車でてっぺんから滑り降りたり、虫をつかまえたりして遊んでいた。そこは古戦場のあとで、その塚には本当に、戦いに敗れた兵士の首と胴が別々に埋められていたのだ。そのいわれを記した立て札には「この塚に登ったり、遊んだりしないでください」というようなことも書いてあった。
とまあ、そういう恐ろしい広場で元気に遊んでいた。のどが乾いたので、隣の敷地にある団地の集会場に水を飲みにいこうと歩いていると、同じクラスの女の子が小さな紙の箱と小さなシャベルを手に歩いてきた。
その子は団地の子ではなく、ちょっと離れた場所の農家の子だった。どうしてこんなところにいるんだろうと、ちょっと不思議だった。私もいっしょにいた友達も、その子とは遊んだことがなかった。いじめられっ子というわけではなかったが、何となくみんな近寄らなかった、そんな子だった。その子が、ニコニコと笑いながら私たちを手招きする。
「どうしたの?」とみんなで近寄っていった。
その子は箱のふたをあけて、中を見せてくれた。
「なに、これ?」「ねずみ?」「どうしたの?」
みんな初めて見る変な生き物にオドオドしていた。私もちょっとドキドキしていた。ちいちゃくて、はだかのような、うっすらと綿がついたような、変な生き物が何匹か入っていた。目も開いていないし、動いてもいないが、呼吸をしていることはわかった。
「これ、猫だよ」とその子はちょっとだけ得意げに言った。
「これ、猫?」とみんなで驚いた。 ほんと〜に生まれたての猫を見たのは、みんな初めてだったのだ。
「うん。埋めてこいって言われたの」その子はニコニコしながら言った。
一瞬、耳をうたがった。友達どうしでちょっとの間、顔を見合わせたあと、誰かが聞いた。
「どうして埋めるの?」
「増えちゃうから」
「どこに埋めるの?」
「まだわかんない。いっしょに来る?」
「ううん、いい」
「じゃあね」
そんなようなやりとりがあった後、その子は一人でどこかに猫を埋めにいった。
残った私たちは、「かわいそう」とか、「ひどい」とか、ポツリ、ポツリと言ったものの、だからって何をすることもなく、しぼんだ気持ちでただうだうだとしていた。
ちょうど、社会科の授業で「間引き」の話を聞いたばかりのころだった。これが「間引き」というものなのか、と実感した。
いくら考えまいとしても、猫たちが埋められていく姿と、人間の赤ん坊が埋められていく姿がオーバーラップしながら次々と頭に浮かんでしまい、すごく怖かった。きっとみんなも、そうだったんじゃないかな。誰も、そんなことは言わなかったけれど。
出典:猫間引きの話
リンク:http://bluecats.jugem.jp/?eid=98

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