トラウマのスーパーカブ
2010/05/28 09:49 登録: えっちな名無しさん
10代最後のツーリング
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星空のレース
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大切なものを取り戻したあの夜から数日がたった。
近所の初めていくバイク屋にZXを整備して貰いながら、店長と語らっていた。
俺「ZXって、一般人から見たらタダの町乗りの足かもしれない。ただ俺にとっては体の一部なんだ。あの振動、エンジン音、ガソリンの匂い。そのすべてがZXはただの機械じゃなく、俺達と同じ生き物だって感じさせてくれる」
店長「……。」
無口で頑固親父な店長だがいい仕事をしてくれる、と俺は感じた。
そして俺は店長に昔話を語り出した。
俺「あれは俺が二十歳になって間もない頃だった…」・
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十代最後の夜に手に入れた自信と勇気で恐いもの知らずだったあの日、俺は教習所から帰る途中だった。
若い教習員に仕事の疲れからくる八つ当たりをうけ、しばらく教習所に通うのを休もうかと考えていた刹那、俺を猛スピードで何かが追い抜いていった。
それは緑色のスーパーカブであった。
それが奴との最初の出会いであった。
その数日後、俺は最近峠を賑わしている走り屋がいるという噂を耳にした。
俺「おもしろい。ちょうど教習所で嫌な事があってムシャクシャしていたところだ」
俺はあの夜手に入れたものを勘違いしていたのかもしれない。
何とも傲慢で救いようのない馬鹿だったんだ、今になって俺はそう思う。
俺はイオンで買ったトランクス、
しまむらで買ったタンクトップ、
あの夜着ていたライダースジャケット、
ちょっと味が出てきたエンジニアブーツを履きZXに跨った。
そしてZXに火を灯し熱きビートと共に夜の峠に向かい走り出した。
ただこの時俺は忘れていたんだ。
ZXの振動や匂い…音を感じる事を…
峠の山頂につくと奴がいた。
スーパーカブに跨った黒ずくめの男。
奴「何か用か?」
俺「おまえ、最近この峠を騒がせているらしいじゃないか。」
奴「だからどうした?」
俺「俺は俺より目立つ奴が許せないたちでよう。お前には今日負けて貰う。今11時59分だ。0時のアラームと共にレース開始だ!構わないか?」
奴「構わんよ」
静まりかえる夜の峠。聞こえるのは二台のマシンの鼓動のみ!!
そしてG-SHOCKのアラームが鳴り響いた!!
二台のマシンはそれと同時に走りだした!!
抜きつ抜かれつの激しいレース。
30キロという目にもとまらぬ高速バトルを繰り広げる中やっとの思いで奴の前に出た。そして最後のカーブ、勝ったと心の中で思った瞬間。
俺「え…」
転けた。
最後の最後で…転けた。
奴は俺を華麗に抜き去り夜の街へ消え去った。
暗闇の峠に取り残され、俺は悔しさと共に涙が流れた。
そして涙と共に大切な何かを失った…
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「今だに、俺はあの時何を失ったか、何が足りなかった解らないんだ。ただRZ50乗りと走ったあの夜ZXは生きているんだってことを思い出したんだ。あの時の俺はそんな簡単な事すら忘れていたのかもしれない。」
そういって俺は虚空を眺めた。
昔話をしている間に整備は終わり支払いをすませた。
そして店長ともう少し喋ろうとしたら、缶コーフィーを手渡され帰るように言われた。
ZXに早く乗ってやってくれという事だろう。
店長も粋な事をしやがる。
そして俺は缶コーフィーを飲み干し、ZXに火を灯し夜の峠へ走り出した。
出典:オリジナル
リンク:二輪免許取得中

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