接客業というもの
2010/07/08 09:02 登録: えっちな名無しさん
先日拙者は、自宅付近にある散髪屋へ足を運んだ。
拙者、最近は床屋へよく行く。
少し前までは美容院へ行っていたのだが、顔剃りの気持ちよさに目覚めてしまい、床屋の比率が増えてきたのである。
当然ながら店によって腕は勿論、サービス内容もまるで違う。
顔剃り終了後に耳掻きまでしてくれる所。マッサージをしてくれる所。
髪を切る時期になると、色々な店を試してみる。
今回は、自宅から徒歩15分程度の店に挑戦してみた。
この店は、以前からちょくちょく前を通過していたのだが、一言で言うとかなり寂れている。
ボロい八百屋とボロい中華屋に挟まれて、赤青白色の細長いサインポールがクルクルとひっそりと回転している。
入口扉には、何十年前か分からない往年の某ジャニーズアイドルの色褪せたポスターが貼られており、時代を感じさせる趣きである。
足を踏み入れると、50〜60代と思しきオバちゃんが顧客用ソファーに座り、女性週刊誌を読んでおられた。
「はい、いらっしゃ〜い」
どうやら、このオバちゃんが店主のようだ。
「あら、お兄ちゃん初めてね」
さすが、長年(恐らく)接客業をやっているだけあり、初見は見逃さないらしい。
しかも、この位の年齢になると拙者もお兄ちゃん判定であるようだ。
先客がいない為、早速散髪を開始して頂く。
今回はかなり伸びていたので、短めにしようと「半立ちくらいまで」依頼した。
さて、散髪が始まったのであるが、開始早々オバちゃんが喋り始める。
それはもう凄まじい勢いで、散髪とは全く無関係の話を喋り続ける。
どうやらつい最近、生まれて初めての海外旅行で、サイパンだかグァムだかに行ったようで興奮の極みだ。
それこそ自宅から成田空港へ行くまでの過程から話始め、機内食はどうだ、現地人の暮らしっぷりはどうだ等、非常に事細かく順を追って解説して下さった。
何か、非合法の薬物でも摂取したのではないかと思えるくらい、素晴らしく高いテンションで話し続ける。
拙者、散髪中はゆっくりとウトウトしながら過ごしたいタイプである。
だが、無駄に愛想の良い拙者は目を閉じながらいちいち返事を返し、聞いているフリをして過ごした。
途中で、突然オバちゃんが席を外し、すぐに戻ってきた。
手にはミニタイプのアルバム。
海外旅行の思い出を視覚で堪能させてくれるようである。
強制的に目を開かされて、マンゴーを両手に満面の笑みのオバちゃんの写真や、拙者にはまるでかかわりのない同行者とのツーショット写真などで楽しませてくれた。
全く退屈する暇もなく散髪が終了し、待望の顔剃りタイムがやって来た。
席を倒し、仰向けになり、顔に蒸しタオルをかぶせられる。
どんな床屋に行っても、この時間だけはリラックス出来る時間である。
腕の良い店主であれば、顔剃り中に本気で寝てしまうくらい気持ちが良い。
が、このオバちゃんは止まらない。
拙者の口周りに剃刀をあてている最中も、海外の思い出を語ってくれている。
その内、拙者に対して海外に行った事があるかなどの質問にも及んでくる。
こちらは口を動かす事が出来ない。
ので、「ヴー」とか「ンフー」程度でしか返事は返せないのだが、オバちゃんにはそんな事は関係ないらしい。
そんなこんなで全く退屈する事もなく顔剃りが終了し、次は洗髪だ。
さすがに話すネタが尽きたのか、それとも話し疲れたのか少々オバちゃんのトークもペースダウンしたようだ。
床屋の洗髪は洗髪台に顔を突っ込むタイプである。
拙者は尋常に顔を突っ込み、洗髪を待つ。
洗髪台のすぐ脇にプッシュタイプのシャンプーとリンスが置いてあり、それを使用するようだ。
が、どうやらシャンプーが残り少ないようで、オバちゃんが凄い勢いでシャンプーをプッシュし始めた。
「ズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴ!!」
拙者の耳元で強烈なプッシュ音が鳴り響く。
洗髪に及んでも客を退屈させないこの配慮、恐れ入った。
洗髪が終了し、オバちゃんが最後の仕上げに上半身のマッサージをしてくれた。
これは気持ちよかった。プロかと思えるくらいツボを心得ている。
鏡に映った拙者は、どう見ても菅原文太のような髪型をしているが、あえて触れないでおこう。
全ての作業が完了して、ようやく開放された。
代金を支払い、最後まで高いテンションのオバちゃんに見送られ、拙者は店をあとにした。
全くもって恐れ入った。
徹頭徹尾、客を飽きさせないオバちゃんの姿勢。
そしてあの官能的なマッサージ。
確実に二度と行かないであろうが、よい勉強になった休日の昼下がりであった。
出典:拾い物
リンク:拾い物

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