( ^ω^) ブーンが赤い水を飲んじゃったかもSIRENね
2010/08/10 01:48 登録: 痛(。・_・。)風
【登場人物紹介】
( ^ω^) ブーン・・・(高ニ/超人進化型)
勉強も運動もいまいちだが、明るく気の優しい少年。なぜか逃げ足だけは速い。
誰とでも仲良しだが、ショボンが一番の友達。一応、本編の主人公。
(´・ω・) ショボン・・・(高ニ/頭脳高回転型)
頭が良く、いつでも冷静に物事を判断しようとするグループのブレイン。控えめで、一歩下がった感じ。
たまに顔AAがブーンと見分けにくくなるのが最近の悩み。
('A`) ドクオ・・・(高三/近距離パワー型)
ぶっきらぼうでひねくれ者だが、行動力がありグループのリーダー的存在。生まれつき勘が鋭い。
体が大きく力自慢で、素手でイノシシを倒した事があるとかないとか。ツンとは家が隣り同士。
ξ ゚?゚)ξ ツン・・・(高三/母性強化型)
気が強く、かなり口うるさい女の子。ちょっとガサツなところもあるが、実は以外と優しかったりする。
通信空手五段の猛者で、素手でクマーを倒した事があるとかないとか。ドクオとは家が隣り同士。
(*゚ー゚) しぃ・・・(高一/中距離操作型)
一年程前に本土から転校してきた子。中学ではクラスになじめず、しばらくしてブーン達と仲良しに。
先天性色素欠乏症(アルビノ)で、瞳は赤く、髪や肌は白い。
引っ込み思案で臆病ないじめてちゃんだが、ブーン達にいじめられた事はない。
7 :【本文】 ◆SiRen.KDYA [最後の最後に……] :2006/05/09(火) 00:02:13.07 ID:rq8EuvBc0
≪ サイレン 〜名の示すもの〜 ≫
【プロローグ】
昭和77年○月×日
関東沖に浮かぶ小さな島、双頭蛇(そうずだ)島。
その島唯一の村、羽生蛇(はぶだ)村でその事件は起こった。
いや、事件というよりも怪異現象といったほうが正しいだろうか。
その村は北東に雄蛇ヶ岳(おじゃがだけ)、北西に雌蛇ヶ岳(めじゃがだけ)、
そして南を海に囲まれた、人口500人足らずの小さな村である。
これまでは、およそ事件とは無縁な村だったらしい。
(中略)
この辺りの島では未だ土着信仰が根強く、この村では親子神が祀られていたという。
白蛇の姿で顕現するという、朧神(おぼろがみ)と虚朧子神(うろぼろすがみ)がそれである。
事件について話す生存者の口からは、なぜかこの二神の名が出てきたらしい。
また、その話しに頻繁に出てきたという、『ウロス』という言葉の示す意味とは?
平和な村で、一体何が起こったのだろうか?
この怪異を災害として片付けてはならない。
今後も継続して調査する必要があるだろう。
〜ある民俗学者の手記より抜粋〜
9 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:04:56.20 ID:h2xKt+bY0
【一日目/現世/11時16分28秒/雄蛇ヶ岳山麓】
⊂( ^ω^)⊃ 「あいわなびぃあ びっぷすた〜♪キミがずっと〜 むちゅ〜なそれ〜なん〜てホラ〜ゲ〜♪」
ブーンはお気に入りの歌を口ずさみながら、緩やかな坂道をスキップで登っていた。
今日はクラスの友達四人と一緒に、雄蛇ヶ岳(おじゃがだけ)のふもとに咲いている、
陽下美人という花を見にピクニックに来ているのだ。
クラスメイトとはいえ彼らの通う高校の生徒数は少なく、
1〜3年生までは一緒のクラスなので、年はバラバラなのだが。
降り返るとドクオとツン、それに少し遅れてショボンとしぃが見える。
見下ろすその先の丘には、この島の守り神である虚朧子(うろぼろす)を祀るお社(やしろ)があり、
更に先には自分達の住む村、羽生蛇(はぶだ)村が望めた。
ξ ゚?゚)ξ 「ちょ、ブーン!浮かれ過ぎて転ばないようにしなさいよ!」
('A`) 「まだつかねぇのかよ、めんどくせぇな・・・」
ξ ゚?゚)ξ 「あんたは体力だけが取り柄なんだから、ブツブツ文句言わないの!」
('A`) 「へいへい・・・」
ツンとドクオから少し遅れて歩いていたショボンが、しぃに声をかける。
(´・ω・) 「しぃちゃん、大丈夫?疲れてない?」
(*゚ー゚) 「うん、大丈夫。わたしが誘ったんだもの、これくらい平気だよ・・・」
ブーンやショボン、ドクオ、ツンはこの島で生まれ育ったが、しぃは一年程前に本土から転校してきた。
おとなしい性格のしぃはなかなか村に馴染めず、ブーン達のグループに入った後も遠慮がちだった。
そのしぃが今回のピクニック話しを持ちかけたので、皆びっくりし喜んだものだ。
ひねくれ者のドクオですら、まんざらでもない様子だった。
10 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:06:06.21 ID:h2xKt+bY0
⊂( ^ω^)⊃ 「今日は天気もいいし、最高のピクニック日和だお」
ブーンは両手を広げ、一気に坂を駆け上がる。
登り切ったその先に待っていたのは、一面の赤い絨毯だった。
( ^ω^) 「すごいお、陽下美人が満開だお!」
陽下美人とはこの島── 双頭蛇(そうずだ)島に群生する、赤い花を咲かせる植物である。
とても綺麗なこの花は、一度開花すると2〜3日しか咲くことが出来ずにすぐに散ってしまう。
しぃはこの花を見たいと言って、皆をピクニックに誘ったのである。
⊂( ^ω^)⊃ 「ショボンもしぃちゃんも早く来るお!」
ブーンは今来た道を駆け下りると、最後尾にいたショボンとしぃの腕を掴んでグイグイ引っ張る。
(´・ω・) 「ブーン、あんまりひっぱらないで」
(*゚ー゚) 「や、やだ、ブーン君ったら・・・ふふふ」
ξ ゚?゚)ξ 「ちょ、ブーン。しぃちゃんに無理させないの!」
ツンがブーンを注意したのも無理はない。しぃは元々、疲れやすい体質なのだ。
その事と関係があるかはわからないが、しぃは産まれながらの色素欠乏症(アルビノ)だった。
彼女の瞳は血のように赤く、髪も肌も透き通るように白い。
その事が原因で、この島に引越してきた後も中学のクラスではよくいじめられたらしい。
いじめの現場を押さえ、それを注意したツンの誘いでブーン達と仲良くなったのだ。
肌が白いために紫外線に弱いのか、夏でも常に長袖の服を着ていた。
今日も長袖のワンピースを着て、長いツバの帽子をかぶっている。
11 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:07:13.63 ID:h2xKt+bY0
ブーン達が坂を登り切る頃には、ドクオとツンも一面の陽下美人を眺めていた。
('∀`) 「おお、こりゃすげぇな・・・長い時間かけて歩いてきた甲斐があったってもんだ」
ξ ゚ヮ゚)ξ 「きれーい・・・」
極めて短命なこの花を、ここまでの規模で見られる機会は島民といえどもそうそうない。
追いついたしぃとショボンも、赤い絨毯に見惚れている。
(*゚ー゚) 「すてき・・・」
(´・ω・) 「うん、こんな良い景色はめったに見られないね」
(*゚ー゚) 「うふふ、あはは・・・」
しぃが両手を広げて、楽しげにその場でクルクルと回る。
銀色の長い髪と、丈の長い白いワンピースの裾がヒラヒラと舞って陽光に映えた。
そんなしぃの姿を見て、ツンが目を細めて微笑む。
その表情は、まるで愛娘を見守る母親のそれのようだ。
少し離れた場所ではブーンがはしゃいでいる。
( ^ω^) 「すごいお、みんなに自慢できるお!・・・・・・ところでお腹空いたお!」
(*゚ー゚) 「じゃあ、座れる所を探してお昼にしましょ?」
( ^ω^) 「やたー、お昼だお。しぃちゃんの手作り弁当だお!」
一同はシートが広げられる眺めの良い場所を見つけると、少し早めの昼食を採ることにした。
弁当はしぃが作ったサンドイッチである。
12 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:08:45.10 ID:h2xKt+bY0
バスケットをシートの上に広げるしぃの左手の指先に、絆創膏が貼ってある事にツンが気付く。
ξ;゚?゚)ξ 「しぃちゃん。その指、料理作ってて?」
(*゚ー゚) 「・・・う、うん。ちょっと切っちゃいました。わたし不器用だから」
ξ;゚?゚)ξ 「だから私も手伝うって言ったのに・・・」
(*゚ー゚) 「ううん、いいんです・・・ごめんなさい、ツンさん」
ツンは、さっきから元気のないしぃの事が気になっていた。
もともと物静かな性格なのだが、今日のしぃはいつもと違う感じがする。
長い時間歩いて疲れたのだろうか?それとも何か心配事でもあるのだろうか?
悩み事があるのなら聞いてあげたいが、さすがに今はそんな雰囲気ではない。
ツンのそんな心中のモヤモヤを、ブーンが彼方へふっとばす。
( ^ω^) 「ぱくぱく、おいしいお。しぃちゃんの手作りサンドイッチおいしいお」
(´・ω・) 「ブーン、ボクのサンドイッチ取らないで・・・」
ξ ゚?゚)ξ 「ちょ、ブーン。食べながらしゃべんないの!ドクオはもっとおいしそうな顔で食べる!」
('A`) 「ほっとけ。オレはこういう顔しかできねぇんだよ」
( ^ω^) 「もぐもぐ。おいしいお、おいしいお」
ξ#゚?゚)ξ 「だから食べながらしゃべるなっつーの、あんたは!」
('A`) 「・・・やれやれだぜ」
四つ目のサンドイッチを手に取ったとき、ドクオは地面がわずかに揺れるのを感じた。
('A`)。oO(また地震か・・・最近多いな)
14 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:10:25.20 ID:h2xKt+bY0
それは感の良いドクオにしか気付かない程度の微震だったが、最近やけに地震が多いのも確かだ。
ただ、双頭蛇島は火山帯の近くにあるため元々地震が多く、
また、近頃は日本各地で地震が頻発しているので、村人達は余り気にはしていなかったのだが。
楽しい雰囲気に水を差すほど無粋でもないので、ドクオは黙って口を動かす。
サンドイッチを皆で平らげた後は、やはりしぃが作ってきた紅茶を皆で飲む。
( ^ω^) 「ごくごく、紅茶おいしいお。おかわりちょうだいお!」
(*゚ー゚) 「はい、どうぞ・・・でもあんまり飲みすぎると、お腹壊しちゃうよ?」
( ^ω^) 「うん、わかったお。おかわり!」
(´・ω・) 「ブーン、ボクの紅茶飲まないで・・・」
(*゚ー゚) 「・・・・・・」
ブーンはしぃの忠告もどこ吹く風で、紅茶を何杯もおかわりしている。
そんなブーンを横目で見ながら紅茶を口に含んだドクオは、その味に違和感を覚えた。
一度カップを口から離し、その中の血のように赤い液体をまじまじと眺める。
('A`)。oO(この紅茶、ちょっと鉄の味がするな。鉄瓶で作ったのか?)
カップを見つめながらそんな事を考えていると、しぃがその赤い瞳でドクオの顔を覗き込む。
肩にかかった銀色の髪がサラサラと流れ落ちる。
(*゚ー゚) 「・・・ドクオさん、どうかしましたか?」
('A`) 「んにゃ、なんでもね」
(*゚ー゚) 「そう・・・ですか・・・」
なんとなく飲む事に抵抗があったが、残すのもしぃに悪いと思い、一気に飲み干す。
ブーンはそんなドクオの気も知らず、ゴクゴクと紅茶を飲んでいる。
15 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:11:25.36 ID:h2xKt+bY0
(*^ω^)。oO(うぁ〜、楽しいお、幸せだお。こんな時間がいつまでも続くといいお・・・)
目の前に広がる赤い花々、眼下に遠く望める自分達の村、
そして大好きな友達とを代わる代わるに見ながら、ブーンはそう祈った。
─── だが、そのささやかな願いが叶う事はなかった。
16 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:14:34.81 ID:h2xKt+bY0
【一日目/異界/12時00分00秒/雄蛇ヶ岳山麓・花の咲き乱れる丘】
ヴ オ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ! ! !
突然、辺り一面にけたたましいサイレンの音が鳴り響く。
大気が震え、体すら揺さぶるほどの大きな音だ。
慌てて音のするほうを見るブーン達。
村の方角から聞こえてくるようだが、村役場が流すサイレンの音とは全く違うものだ。
それに微妙に村の手前から聞こえてくるような……?
唐突にサイレンは止み、次の瞬間世界は一変する。
辺りは一瞬にして薄闇に支配された。
ドクオの身中を得体の知れない感覚が走る。
それは18年間生きてきた中で感じた事のない、異様な感覚だった。
体中から冷たい汗が、ドッと噴き出す。
('A`;) 「まだ昼だってのに、なんだこの暗さは・・・?それに、この感じ・・・」
ξ;゚?゚)ξ 「! なに、あの空の色!?」
ツンが指差した空はいつの間にか真っ赤に染まっていて、
先程まで頭上で輝いていた太陽はどこにも見当たらない。
だが、その赤い空はおぼろげな光を放っていて、
その為に辺りは完全な闇に包まれずに済んでいるようだ。
17 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:16:35.25 ID:h2xKt+bY0
ブーンが辺りを見回しながら叫ぶ。
(;^ω^) 「な、なんだお・・・いったいどうなってるんだお!」
(*゚ー゚) 「・・・・・・」
(;´・ω・) 「みんな見て、海が!?」
ショボンの声に、皆が一斉に海のほうを振り向く。
島を取り囲む海が── 空と同じ赤い色に変わっている……?
暗くてよくは見えないが、それは明らかに本来の海の色とは違っていた。
(;´・ω・) 「と、とりあえず村に戻ったほうがよくない・・・?」
ξ;゚-゚)ξ 「そ、そうね。村に帰れば何かわかるかも・・・皆の事も心配だし」
('A`;) 「よし、オレとブーンで先に戻る。ショボンはツンとしぃを連れて後から来い」
(;^ω^) 「わ、わかったお。怖いけどドクオ君と一緒に行くお」
(;´・ω・) 「うん、わかった」
ξ;゚?゚)ξ 「あんた達、気を付けなさいよ」
('A`;) 「おまえらもな。こいつはマトモじゃねぇ・・・危険を感じたらお社に隠れてるんだぞ!」
そう言うなり駆け出すドクオ。その後を慌てて追うブーン。
残された三人は顔を見合わせると一度うなずき、二人の後を追って走り出す。
18 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:21:28.20 ID:h2xKt+bY0
【一日目/異界/12時27分11秒/海蛇海岸】
山を一気に駆け下りて村外れまで来たブーンとドクオは、
息苦しさと疲労も忘れ、呆然とその場に立ちすくむ。
(;^ω^) 「みんな、いったいどうしちゃったんだお・・・」
('A`;) 「おいっ、あんたらどうしちまったんだよ。ちょっと待てってば!」
二人が見た光景は、まさしく異様だった。
村人達は皆、何かに取り憑かれたかのような虚ろな表情と足取りで、一様に海岸を目指していた。
話しかけても、体を掴んで揺さぶってもまるで反応のない村人達の後を、
二人は引きずられる形でここまでついてきたのである。
そして夢遊病者のような村人達は海岸に着くと、ためらいもせずに赤い色の海に入っていく。
水平線で赤い空と交わるまで延々と続く、波の無い赤い海の中に……
(;^ω^) 「ダメだお、溺れちゃうお!」
('A`;) 「待てよ!この海は普通じゃねぇ、入ったら駄目だ!」
二人は必死に村人にしがみつくが、その歩みは止まらない。
大柄で力も強いドクオと平均的な体格のブーンが、二人掛かりでも引きずられてしまう。
動きは緩慢だが、信じられない力だ。
そうしている間にも、回りの村人達は次々と赤い海に入っていく。そして海の中に消えてしまうのだ。
常識で考えれば溺れてしまうのは間違いない。
そうこうしている内に、ブーンとドクオも村人に引きずられて赤い海に入ってしまう。
赤い水が足に触れた途端、背中に悪寒が走る。
普通の海水とは違う、何かネットリとした感じがする。
そう、まるで血のような───
19 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:23:36.26 ID:h2xKt+bY0
首の近くまで赤い海に引きずり込まれて、二人は戦慄する。
赤い水が生物の触手のように蠢き、口に向かって伸びてきたのだ。
思わず村人から手を離し、慌てて海から出るブーンとドクオ。
戒めから解き放たれた村人は、二人の目の前で海の中へと沈んでゆく。
それを為す術もなく、ただ呆然と見送る二人。
('A`;) 「そ、そうだ。オヤジは・・・」
(;^ω^) 「・・・あ、ばぁちゃん」
余りの異常事態で忘れていた一番大切な事を思い出し、
二人は急いで海岸を離れると、それぞれの家に向かって走り出す。
途中すれ違う、虚ろな目をした村人達の顔を確認しながら……
20 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:27:12.10 ID:h2xKt+bY0
【一日目/異界/12時29分45秒/羽生蛇村外れ・海岸付近】
ショボンとツン、しぃの三人はブーン達からかなり遅れて村外れまで戻ってきた。
極力しぃのペースに併せたのだが、それでも体力のないしぃにとってはかなり辛かったのだろう、
村に着くなりその場にへたり込んでしまう。
ショボンとツンは肩で息をしながらも、目の前の異様な光景に息を飲む。
それはつい先程、ブーンとドクオが見たものと全く一緒だった。
ξ;゚?゚)ξ 「お父さん!お母さん!」
もうすでにかなりの村人達が赤い海の中に入っていってしまったのだろう、
すでにまばらになった夢遊病状態の村人達の中から偶然、ツンは両親の姿を見つけ声を張り上げる。
ξ;゚?゚)ξ 「ちょっ、どうしたのよ!二人ともどこへ行く気なの!?」
ツンは両親の手を引っ張るが、そのままズルズルと海岸のほうへ引きずられてしまう。
ショボンも走り寄り、顔見知りの二人に声を掛けながら肩を揺さぶる。
(;´・ω・) 「おじさん、おばさん、しっかりして下さい。いったい何があったんですか!?」
ξ;゚?゚)ξ 「お母さん、ちょっと止まってよ!お父さん、お父さん!!」
ショボンの声は、ツンのヒステリックな悲鳴にかき消されてしまったが、
元より二人に話しを聞いているそぶりなど全くない。
何かに操られているみたいだ、とショボンは思った。
直感的にこの二人を、いや村人達を止める術は無いと悟る。
21 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:29:34.87 ID:h2xKt+bY0
ショボンが呆然とツンとその両親を眺めていると、三人は建物の角を曲がって見えなくなってしまう。
自分はどうすべきだろう?
ショボンは自問する。
出来る事ならツンの両親を引き止めたいが、この状態では三人掛かりでも恐らく無理だろう。
なにより自分の両親の事が気になる。父母も皆と同じような状態になってしまっているのだろうか?
今すぐにでも家に飛んで行きたいが、さっきから座り込んだままのしぃをほうってはおけない。
ショボンは駆け出したい衝動をグッとこらえ、しぃの元に戻る。
(´・ω・) 「しぃちゃん、大丈夫?」
(*゚ー゚) 「うん。だいぶ楽になったよ・・・」
(´・ω・) 「じゃあ、しぃちゃんの家に行ってみよう。お父さんの事、心配でしょ?」
(*゚ー゚) 「ショボン君、ぼ・・・あたしと一緒に来てくれるの?ありがとう、でも・・・」
(´・ω・) 「ボクの事はいいから・・・さ、行こう!」
ショボンはしぃの手を取って立ち上がらせると、その手を引いてしぃの家へと歩き出す。
両親の無事を祈りながら───
22 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:32:05.39 ID:h2xKt+bY0
【一日目/異界/12時40分01秒/ブーン自宅】
(;^ω^) 「ばぁちゃん!ばぁちゃん、居たら返事するお!」
途中でドクオと別れ、一人自宅へと戻ってきたブーンは玄関を開けるなり声を張り上げる。
海岸から家に戻る間にすれ違った村人は、そう多くはなかった。
恐らくはあのサイレンが鳴ったと同時に、村人達は操られるように海岸を目指したのだろう。
とすると、海岸からそう遠くない場所にある自宅にいたはずの祖母は……
嫌な考えを振り払うかのように、大声で祖母を呼ぶブーン。
しかし、家のどこを捜しても祖母の姿はない。
(;´ω`) 「・・・ばぁちゃん、やっぱりもう・・・いや、まだだお!」
もしかしたら家に向かう途中、すれ違いになったのかもしれない。
一縷の望みにかけたブーンは家を出ようとし、赤い海水をたっぷり含んで重くなった服に気が付く。
このままでは思うように動けない。
ブーンは二階にある自室へと走り、部屋に入るやいなや服を脱ぎだす。
だが気持ちばかりが空回りし、体にへばり付いた服はなかなか脱げてくれない。
(;^ω^) 「くっ、こんなときに・・・はやく、ばぁちゃん!」
ようやく服を着替え終えたブーンは、再び海岸へと走り出す。
23 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:34:26.91 ID:h2xKt+bY0
【一日目/異界/12時53分31秒/海蛇海岸】
('A`;) 「おいツン、待て!この海に入ったらダメだ!」
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、離してよ!お父さんとお母さんがっ・・・!」
ブーンと別れた後、自宅に父がいない事を確認したドクオは、一足先に海岸に戻ってきていた。
ブーンとここで落ち合う約束をしていた訳ではない。
だが、この怪異現象の元凶とも思える赤い水を湛えた海に、もう一度行ってみなければ、と思ったのだ。
そこで偶然にも、先程の自分のように海に引きずり込まれそうになっているツンを発見したのである。
ξ#゚?゚)ξ 「ちょ、はな、離しなさいよっ、ドクオ!お母さん死んじゃう、お父さん・・・!」
('A`;) 「落ち着けって、ツン。この水はおかしいんだよ、色だけじゃねぇ!」
水に入る間際のツンを見つけたドクオは、両手を掴んで海から引き離す。
半狂乱になったツンの力は尋常ではなく、ドクオの力を持ってしても抑えつけるのが精一杯だった。
二人が揉みあっている間にも、ツンの両親は赤い海の中にその身を沈めてゆく。
ドクオは何故か確信していた。この赤い海に頭まで浸かっても死ぬ事はないのだろう、と。
先程の恐ろしい体験がそう思わせたのかもしれない。
生物のように蠢き、口の中に侵入してこようとする不気味な赤い水───
('A`;) 「大丈夫だ!死にはしない、恐らく・・・」
だが、死よりも恐ろしい運命が待ち受けているのかもしれない、という思いが脳裏をよぎる。
ξ#゚?゚)ξ 「なんであんたにそんな事がわか・・・!」
反論しようとしたツンの言葉は、なぜか尻すぼみに消えてしまう。
24 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:39:10.59 ID:h2xKt+bY0
急に力の抜けたツンをいぶかしみ、その視線の先を見るドクオ。
次の瞬間、ツンを掴んでいたドクオの両手が力なく落ちる。
ドクオとツンはポカンと口を開けたまま、その奇妙な光景をただじっと見つめていた。
('A`;) 「な 、なんだ・・・ありゃあ・・・?」
水面が小石大に盛り上がったかと思うと、その大きさを次第に増してゆく。
それは人の頭だった。
そして水面のあちこちに『ソレ』は浮かび上がってくる。
海に消えていったはずの村人達が還ってきたのだ。
入っていったときと変わらぬ、緩慢な動きで。
無表情で歩いてくる『ソレ』の白目は、血で染めたように真っ赤であった。
それ以外は、人となんら変わらない。
だが、つい先程まで確かに人であった『ソレ』は、もはや人ではなかった。
ドクオは『ソレ』を見ただけで、その事を理解した。
自分の中の何かが、あらん限りの早さで警鐘を打ち鳴らす。
('A`;) 「こ、こいつぁ・・・・・・ガチでやべぇぞ・・・!」
本能的に危機を悟り、ハッと我に帰るドクオ。
呆気にとられていた隙に『ソレ』─── 屍人(しびと)は一番近くにいるモノで、もう膝まで見えている。
放心したままのツンの腕を引っ張り、ドクオは走り出す。
海岸から少し離れた所で後ろを振り返ると、次々と屍人が海から還ってくるのが見えた。
恐らく海に入った村人達は、皆そうやって還ってくるのだろう。
人為らざるモノとなって───
25 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:44:48.49 ID:h2xKt+bY0
【一日目/異界/12時55分18秒/海蛇海岸】
ブーンは海岸へ向かって必死に走っていた。
走りどおしで疲れが溜まり、ペースはかなり落ちてはいたが、それでもしゃにむに走った。
建物の陰に隠れて海はまだ見えないが、その角を曲がればもう海岸だ。
⊂(;^ω^)⊃。oO(ばぁちゃん、待ってて・・・アッー!)
ド ン ッ !
スピードを緩めずに角を曲がろうとしたブーンは、出会い頭に何かにぶつかり尻餅をついてしまう。
(;^ω^) 「アタタ・・・い、痛いお・・・あっ、ドクオ君!」
ぶつかったのはツンを連れたドクオであった。
ドクオもビックリした様子だったが、相手がブーンとわかりホッとした表情を見せる。
('∀`) 「ブーン!無事だったか・・・おまえの婆さんは?」
(;^ω^) 「あっ、そうだお。家にばぁちゃんいなかったから早く海岸に・・・」
ドクオは静かに頭を振ると、海岸で起こった事態を手短にブーンに伝える。
(;´ω`) 「そ、そんな・・・・・・ばぁちゃん・・・」
('A`) 「望みは捨てるな。おまえの婆さんがどこかに隠れてる、って事もある」
言いながらもドクオは、その可能性が限りなくゼロに近いだろうと感じていた。
そして自分の父親も……
28 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:50:53.20 ID:h2xKt+bY0
ドクオの慰めに、ブーンはなんとか笑顔を作る。
(;^ω^) 「き、きっとそうだお。みんなの父ちゃんも母ちゃんも、絶対に無事だお!」
ブーンのその言葉に、放心状態のツンの肩がピクリと動く。
それを見たドクオは慌てて話題を変える。
('A`) 「とりあえず確実に無事なのは、オレら五人だけのようだ。まずはショボン達と合流しねぇと」
(;^ω^) 「そ、そうだお。ショボンとしぃちゃんの事も心配だお」
('A`) 「ツン、おまえショボン達と一緒にいただろ?あいつら、どこへ行ったんだ?」
ツンの肩を揺さぶり、二人の行方を聞き出そうとするドクオ。
ξÅ-゚)ξ 「・・・わ、わかんない・・・お父さんとお母さんを見つけたあと、はぐれて・・・おかあ・・・うっ・・・」
('A`) 「そうか・・・」
こうなったら足を使って捜すしかない。
だが、この状態のツンを連れて回る訳にもいかないだろう。
('A`) 「ブーン、ツンを連れて学校に向かってくれ。オレはショボンとしぃの家に行ってみる」
(;^ω^) 「わ、わかったお。でもドクオ君、一人で大丈夫かお?」
('∀`) 「へっ!この島でオレより強いのは、クマ殺しのツン様だけだろ?」
ニヤリと笑い、胸の前で拳を手のひらに叩きつけるドクオ。
パーンと良い音が響く。
その自信が、決して過信ではない事をブーンは知っている。こういう時のドクオは本当に頼もしい。
自分達のクラスで落ち合う事を約束して、それぞれの目的地へと走り出す。
32 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 00:56:16.53 ID:h2xKt+bY0
【一日目/異界/12時57分25秒/羽生蛇商店街】
ブーンがドクオ達と再会していた頃、ショボンは暗がりの商店街の中を一人さまよっていた。
(´・ω・) 「おーい、誰かいませんかー!おぉーい!」
ツンと別れた後、二人でまずしぃの家に向かったのだが、すでにしぃの父親はいなかった。
次にショボンの家に行き、やはり誰もいない事を確認する。
この村は今、本当にもぬけの殻であった。
ショボンは気を抜けば暴走してしまいそうな思考を抑えつけ、努めて冷静に考える。
あのサイレンは一体なんだったのだろう?集団催眠を引き起こす音?
もしあのサイレンが原因で村人達が変わってしまったとしたら、なぜ自分達は無事なんだろう?
サイレンの音の近くにいなかったから?そうだとしたら他にも無事な人がいるのでは?
その中に自分と皆の家族がいる事を願って、ショボンは一人で商店街を捜していたのだ。
しぃは自分の家に置いてきた。
戸締りをしっかりさせ、いざとなったら物置の中に隠れるよう言ってある。
少なくとも自分についてくるよりは、そのほうが安全だろう。
血の色に染まったこの狂気の世界── 異界を、たった二人でさまようよりかは。
38 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 01:03:33.66 ID:h2xKt+bY0
しかし、明りが乏しく人気のない商店街が、こんなに不気味だとは思いもしなかった。
ともすれば萎えそうになる気力を振り絞り、喉の奥から声をひねり出す。
(´・ω・) 「おーい、誰かぁ!おー・・・」
ショボンの視線の先に、この村唯一のコンビニ── ひろぽんマートが目に止まる。
最悪の場合、かなりの長丁場になるかもしれない。
そうなったら水と食料は絶対に必要になる。
家に立ち寄ったときに確認したのだが、ガス・水道・電気は全てストップしていた。電話も通じない。
確保出来る内にしておいたほうがいい。
そう考えたショボンは、ひろぽんマートに寄ることにした。
(´・ω・) 「失礼しまーす・・・」
未だ自動ドアではない扉は、すんなりと開く。
店内は明りがない為に暗かったが、通りに面した場所ならば見えない事もない。
だが、奥の方は真っ暗で、何かが息をひそめて隠れているのでは、という恐怖に駆られてしまう。
恐怖心を抑え、まずは入ってすぐにあったリュックを二つ、手に取る。
財布を持ってきていない為、万引きという形になってしまうが、今はそんな事を気にはしていられない。
(´・ω・)。oO(後で払えばいいよね・・・)
そう自分を納得させ、まずペットボトルをリュックの一つに放り込み、
次に適当にオニギリや弁当など、腹持ちのよさそうな物をもう一つのほうに詰め込む。
すぐに二つのリュックは一杯になった。
41 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 01:08:13.14 ID:h2xKt+bY0
(´・ω・)。oO(外も暗いし、懐中電灯もあったほうがいいかな)
そう考え家電製品コーナーに向かおうとしたところで、微かな人の声を鼓膜が捕える。
? 「………んじしろー……ボーン…しーぃ………おーい……」
(;´・ω・) 「この声、ドクオ君!?」
懐中電灯の事はすっかり忘れて、ショボンは店を飛び出す。
ショボンが店を出ると同時に、ドクオが通りの曲がり角から姿を現す。
('A`) 「! ショボン、無事かっ、しぃは!?」
(´・ω・) 「ボクもしぃちゃんもなんともないよ・・・ドクオ君も無事で良かった」
('∀`) 「そうか、こっちはブーンもツンも無事だ・・・とこでしぃは?」
(´・ω・) 「ボクの家にいるよ。ブーン達は?」
('A`) 「先に学校に行かせた。早いとこ、しぃを迎えに行くぞ。この村はやべぇ」
(;´・ω・) 「え?村のみんなが夢遊病状態になった以外に何かあったの?」
('A`) 「道すがら話す。行くぞ!」
ドクオはそう言うと、ショボンの返事も待たずに走り出す。
(;´・ω・) 「あ、待ってよドクオ君。このリュック一つ持って・・・」
46 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 01:14:31.09 ID:h2xKt+bY0
【一日目/異界/13時18分09秒/ショボン邸に向かう路上】
パンパンに膨れたリュックを一つずつ背負い、二人はショボンの家に急ぐ。
その間に、ドクオは海岸で起こった事をかいつまんでショボンに話した。
(;´・ω・) 「そんな事が・・・信じられない・・・」
('A`) 「・・・あの場面に立ち会わなきゃ、オレも信じなかっただろうよ」
もちろんドクオが嘘をついているはずもなく、それは事実に間違いないのだろうが、
それでもショボンの感情は、いま聞いた話しを否定しようとする。
ついさっきまで皆でピクニックに行き、普通におしゃべりをしていたのだ。
そのときと今の異常な状況には、余りにも大きな隔たりがある。
海に入っていった村人達が、人間以外のモノになって還ってくる……
そんな事は、フィクションの世界でしか起こり得ないはずだ。
そう簡単に納得出来るはずもない。
夢であって欲しい、とショボンは心の中で強く願う。
だが一方で、ショボンの理性はこれが夢であるはずがないと告げていた。
(;´・ω・) 「ドクオ君、急ごう!」
('A`) 「ん、あぁ・・・」
ドクオの話しを聞き、急にしぃの事が心配になってくる。
重いリュックを背負った二人は、走るのと変わらない位の早足でショボン邸を目指す。
51 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 01:19:44.80 ID:h2xKt+bY0
家にたどり着いたショボンは玄関の鍵を回し、扉を開ける。
(´・ω・) 「しぃちゃーん、帰ったよー。ドクオ君も一緒だよー」
だが、返事はない。家の中はシーンと静まり返っている。
なにか嫌な予感がする……
ふと玄関に置いてある靴を見ると── しぃの靴が無い。
(;´・ω・) 「あ、あれ?」
('A`) 「あ、どした?」
ドクオが玄関に入ってきて扉が閉まる。と、同時に鍵もガチャリと閉まる。オートロックなのだ。
さすが金持ちの家は違うな、と妙なところで感心するドクオ。
ショボンは大声でしぃを呼びながら、靴も脱がずにそのまま上がり込む。
(;`・ω・) 「ドクオ君も早く上がって!靴なんていいから!」
('A`;) 「あ、うん・・・」
靴を脱ごうとしていたドクオは、見た事もないようなショボンの剣幕に押されて家に上がる。
(;`・ω・) 「ドクオ君は一階を捜して!ボクは二階を捜すから!・・・しぃちゃん、しぃちゃんっ!」
言い終えるが早いか、ショボンは階段を駆け上って行く。
('A`;)。oO(今、あいつの残像が見えたな・・・)
ドクオは場違いな事を考えながらも、言われた通り人が隠れられそうな場所を捜し始める。
56 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 01:24:44.31 ID:h2xKt+bY0
ショボンの嫌な予感は的中していた。
しぃは家の中のどこにもいなかったのだ。
両親の鍵は二つとも無かった。
もし、そのどちらかを持っていったのがしぃならば、戻ってくるつもりがあるという事になるのだが……
(;´-ω-) 「あれだけ外には出ないよう言っておいたのに、なんで・・・」
('A`;) 「待ちきれずに父親を捜しに行ったのかもな。それか、オレ達以外のまともな奴についていったか」
二人とも考えている最悪のケースを、あえて口にはしなかった。
それは、時間差でしぃも村人達と同じ状態になってしまったのではないか、という事だった。
もしそうなら自分達もそうなってしまう可能性が高い。
自分が人間以外の何かに変わってしまう……
ショボンもドクオも、そんな恐ろしい事を口に出す勇気はなかった。
(;`-ω-) 「ボクのせいだ・・・ボクがしぃちゃんを一人にしたから」
('A`) 「そう自分を責めるなって。オレがお前の立場だったら、きっと同じ事をしたぜ」
(´・ω・) 「ドクオ君・・・」
('A`) 「あれこれ考えてる暇があったら、まずはしぃを捜しに行こうぜ?」
(´・ω・) 「う、うん、そうだね!」
二人が椅子から立ちあがろうとしたそのときだった。
ガ シ ャ ー ー ー ン ッ!!
59 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 01:28:19.90 ID:h2xKt+bY0
【一日目/異界/13時35分34秒/ショボン邸】
ガラスの割れる音が、隣りの応接間から響いてくる。
(;`・ω・) 「し、しぃちゃん!?」
('A`;) 「おい待て、ショボン!」
部屋を飛び出したショボンを追って、ドクオも廊下に出る。
すると応接間の入口でショボンが固まっていた。
('A`;) 「ショボン、どうし・・・うっ!」
ショボンの背後から部屋を覗き込んだドクオの動きが止まる。
ガラスを割って応接間に侵入していたのは、二体の屍人だった。
しかもその顔には見覚えがある。
全身から赤い水を滴らせ、虚ろで真っ赤な目をこちらに向けるその屍人達は……
── 変わり果てた姿のショボンの両親だった。
(ヽ´゚Ω゚) 父 「・・・ア゙ゥ゙〜・・・ショボ・・・ア゙ァ゙〜、ゴッヂィ〜・・・」
(ヽ´゚,ω゚) 母 「ア゙ァアア゙〜・・・お゙まえ゙もぉぉ゙〜・・・」
ショボンの親であった屍人達は、不気味な唸り声を上げながらこちらに近づいてくる。
その動きは鈍いが、目的がショボンとドクオである事は間違いないだろう。
(;´・ω・) 「お、お父さん・・・お母さん・・・?」
62 :【本文】 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 01:31:01.20 ID:h2xKt+bY0
無表情な屍人達からは、説明しがたい殺気のようなものが溢れ出ていた。
それを感じ取ったドクオの背中に悪寒が走る。
('A`;) 「逃げんぞ、ショボン!」
ショボンの手を取り、引っ張るドクオ。
だが、ショボンは凍りついたようにその場を動こうとしない。
そうしている間にも、二体の屍人はどんどん近づいてくる。
その伸ばされた手は、今にもショボンに届きそうだ。
(;´・ω・) 「ちょっと・・・ま、待ってよ、おとう・・・」
('A`;) 「チッ、ショボンどけぇ!!」
ドクオは吼えるとショボンを脇に押しどけ、掴みかかろうとしていた父屍人に体当たりを食らわす。
父屍人は大きくバランスを崩し、後ろの母屍人を巻き込んで派手に転倒する。
さすがにドクオの良心は痛んだが、今はそんな事をいっている場合ではない。
素早く立ちあがり、未だ呆けてるショボンの頬に平手をお見舞いすると、玄関に向かって走り出す。
この状況で玄関に置きっぱなしだったリュックを忘れなかったのは、上出来だったと言えるだろう。
('A`;)。oO(しぃは心配だが、この状態のショボンを連れては捜せねぇな。とりあえず学校に向かうか。
しかし、ツンの次はショボンかよ。なんかオレ、今日こんなんばっか・・・)
二つのリュックを両肩に背負い、ショボンの手を引いて走るドクオはそう思わずにいられなかった。
5 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:05:23.84 ID:OdmJKtzL0
《 二章 操るもの、操られるもの 》
【一日目/異界/13時37分26秒/羽生蛇学校・三階廊下】
ドクオとショボンが学校に向かっている頃、すでに学校に到着していたブーンは、
ツンを教室に残して校内を歩き回っていた。
羽生蛇学校は島で唯一の学校であり、小・中・高と同じ校舎で勉強している。
生徒数が極めて少ないので、クラスはそれぞれの三クラスしかない。
そんな訳で、たいして広くもない校舎を調べ終えたブーンは溜息をつく。
( ^ω^) 「ふぅ、やっぱり誰もいないお」
今日は休日なので校内に人がいないのは当たり前にしても、
それでも自分達以外にまともな人間がいてくれれば……と、淡い期待を抱いたのだが。
とりあえず、ここが安全だと確認出来ただけでも良しとしよう。
ブーンはそう思いなおし、ツンのいる自分達の教室に戻ってきた。
( ^ω^) 「校内には誰もいなかったお」
ξ ゚-゚)ξ 「・・・・・・そう」
ツンは心神喪失状態からは回復していたものの、ただ呆然と椅子に座っていた。
( ^ω^) 「みんな来るの遅いお。大丈夫かお」
ξ ゚-゚)ξ 「・・・そうね」
(;^ω^) 「・・・」
ξ ゚-゚)ξ 「・・・・・・」
(;^ω^) 「・・・ちょっとうんこしてくるお」
雰囲気にいたたまれなくなったブーンは武器替わりのモップを持って、そそくさとトイレに向かう。
6 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:07:03.39 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/13時49分20秒/羽生蛇学校・三階廊下】
(*^ω^) 「ふぅ、たっぷりでたお」
トイレで用を済ませたブーンは、トボトボと廊下を歩いていた。
(;^ω^) 「・・・でも、これから一体どうなっちゃうんだお」
床に落としていた視線をふと上げると、その先にぼんやりと人影が見えた。
暗くてよくはわからないが、ツンだろうか?
声を掛けようと上げた手は、しかし途中で止まる。
その人影の動きが、明らかに異常だったからだ。
ソレは左右に大きく揺れながら、ゆっくりとした動きでこちらに近づいてくる。
(;゚ω゚)。oO(ヤヤヤ、ヤツらだお・・・!)
ブーンは回れ右をすると近くの教室に飛び込み、横滑りの扉を静かに閉める。
ここは普段は使われていない教室で、今ツンがいる教室の隣りだった。
(;゚ω゚)。oO(みみみ、見つかったかお・・・?)
ブーンは扉の前でガクブルと震えている。
自分一人でどうにか出来る相手ではない。理由も無く、ブーンはそう思った。
なんとかこのままやり過ごすしかない───
8 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:10:06.15 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/13時50分35秒/羽生蛇学校・高校生教室】
学校に着いてからというもの、ツンはずっと考え事をしていた。
だが、この短時間に余りにも異常な事が起こり過ぎて、考えが全然まとまらない。
はっきりしているのは、あのおかしなサイレンが鳴ってから全てが変わってしまったという事だけだ。
あのサイレンと同時に、この異界へと引きずり込まれた。
そして、あの赤い水を湛えた海と、そこから還ってきた異形のモノ───
それ以上の事はわからないし、考えて答えが出る訳でもない。
ξ;゚-゚)ξ。oO(お父さん、お母さん・・・なんで、こんな事になっちゃったんだろ・・・・・・しぃちゃん・・・)
考え事は、いつしか心配事に切り替わる。
両親の事はもちろんだが、村外れで別れてしまったショボンとしぃの事も心配だった。
特にしぃの事が気懸かりだった。
しぃは体が弱い上に怖がりだ。
彼女が一人で怯えている姿を想像すると、胸が締めつけられて辛かった。
今もショボンと一緒にいてくれれば良いのだが……
ξ#゚?゚)ξ 「ああ、もうっ!あの筋肉バカは一体なにしてんのよ!」
イライラの矛先を理不尽にもドクオに向け、ウェーブのかかったツインテールの髪をクシャッと握る。
11 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:11:51.32 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/13時52分03秒/羽生蛇学校へ続く路上】
。∵・('A`;) 「へーちょ!」
(´・ω・) 「大丈夫?」
('A`) 「ん、あぁ・・・誰かオレの悪口言ってんな。この感じは、たぶんツンだな」
(´・ω・) 「・・・相変わらず変なクシャミだね」
('A`#) 「黙らっしゃい」
13 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:13:22.84 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/13時52分13秒/羽生蛇学校・高校生教室】
ツンが机の上で頭を抱え込んでいると───
……ズッ…ズルッ…
廊下から何かを引きずるような音が微かに聞こえてきた。
その奇妙な音はゆっくりと、だが確実に近づいてくる。
ξ;゚-゚)ξ 「ブ、ブーン・・・ブーンでしょ・・・?」
ツンは顔を上げ、独り言のような小さい声で問い掛ける。
だが、廊下の音の主にその声は届かなかったのか、返事はない。
ツンはなるべく音をたてないように椅子から立ち上がり、教壇の方に移動した。
そして、しゃがんで教壇の影に隠れながら、教室の後ろ側の扉を凝視する。
? 「・・・ア゙ゥ゙〜・・・・・・ダレが・・・い゙るぅ〜?」
その扉の向こう側から、唸り声のようなくぐもった声が聞こえてくる。明らかにブーンの声ではない。
ξ;゚?゚)ξ。oO(ひっ・・・ヤツら、ここまで・・・)
ツンは息を飲み、急いで教壇の中に隠れる。
人が隠れられるスペースは充分にあるので、黒板側に回られなければ見付かる事はないだろう。
問題は、先程の問い掛けを聞かれていたかどうかだ。
ガ ラ ッ …
横滑りの扉が音を立てて開いた───
15 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:15:35.25 ID:OdmJKtzL0
続いて、教室に何かが入ってくる気配を感じる。
ズルリ…ズルッ……
これは足を引きずりながら歩いている音だろうか?
ツンは耳を両手で強く押さえて震えながら、そんなどうでもいいような事を考える。
固く目を閉じて、島の守り神と幼馴染に祈った。
ξ;>?<)ξ。oO(・・・朧様、虚朧子様、お助け下さい・・・・・・ド、ドクオ助けてっ、ドクオ!)
ツンの必死の願いも虚しく、足を引きずる音は次第に近づいてくる。
もう教壇と何メートルも離れてないだろう。
? 「・・・ヅンぢゃぁ〜ん゙・・・ツン゙ちゃん゙の匂い゙がずるよぉ〜」
ξ;゚?゚)ξ 「ひぃっ・・・!」
耳を塞いでいるにもかかわらず聞こえた不気味な声に、思わず悲鳴が漏れてしまう。
ξ;゚-゚)ξ。oO(聞かれた!?に、逃げなきゃ・・・!)
だが、意思に反して体が動かない。おかしいほど震えているのに、指一本すらまともに動かせないのだ。
ツンが命令を聞かない自分の体と格闘している間に、屍人は教壇の前に回り込んでしまう。
(ヽ゚∀゚) 「みみ゙み、み゙ぃ〜づけだぁ〜」
教壇を覗き込むその顔は、屍人と化したジョルジュ校長のものであった。
震えながら丸くなっているツンを見て、ニタリと邪悪な笑みを浮かべる。
(ヽ゚∀゚) 「え゙、えへ・・・え゙べべへぇ゙ぇぇ゙えぇ゙え゙え・・・!」
16 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:16:55.30 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/13時55分34秒/羽生蛇学校・未使用教室】
キ ャ ア ア ア ァ ア ア ァ ァ ァ ァ ア ア ! ! !
突如響き渡る悲鳴に、扉の前でビクリとするブーン。
(;^ω^)。oO(ツ、ツンちゃん!?ツンちゃんに何かあったかお!)
思わず目の前の扉を開けるブーン。
ガラッ!
だが、開けた扉の前には屍人化したギコ先生の姿があった。
(;゚ω゚) 「アッーーー!!」
(ヽ,,゚Д゚) 「ア゙ーーーッ゙!!」
相手も驚いたのか、同時に悲鳴を上げる。
19 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:18:15.90 ID:OdmJKtzL0
お互いにしばらく固まった後、最初に動いたのはブーンだった。
ピシャッ!
目の前の扉をおもいきり閉めるブーン。
ガラッ!
ギコ屍人がその扉を再び開ける。
ピシャッ!ガラッ!ピシャッ!ガラッ!ピシャッ!ガラッ!………
無意味な行為を繰り返すブーンとギコ屍人。
最後に扉を閉めたブーンは、これ以上開けさせないように手に力を込める。
(ヽ,,゚Д゚) 「おどなぁじく、出でぇぎなざぁ〜い゙・・・」
ギコ屍人がガタガタと扉を揺らす。
(;^ω^) 「そ、そう言われて出ていく犯人はいないお!.」
満身の力を込めて扉を抑え付けるブーン。
だがその努力も空しく、扉は力任せにこじ開けられてしまう。
24 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:22:24.02 ID:OdmJKtzL0
(;^ω^) 「うわっ!」
扉に体重を掛けていたブーンは、いきなり扉を開けられてバランスを崩し倒れてしまう。
足元に倒れたブーンを仰向けにし、その上にのしかかるギコ屍人。
動きは緩慢だがその力は尋常ではなく、ブーンは身動きすらできない。
(;^ω^) 「み、見逃してくれお!なんなら、またお尻を貸してもいいお!ぷりぷりだお!」
(ヽ,,゚Д゚) 「うほっ。ブーンも゙こっぢに来なざぁ〜い・・・ひどづにな゙ぁるぅ゙〜」
ブーンの両手を掴み、顔を近づけるギコ屍人。その赤い目は見開かれている。
そしてブーンの顔の上で、口をガパッと大きく開ける。
(;^ω^) 「な、何をす・・・」
そう言いかけた瞬間、ギコ屍人の口の中から赤い水が溢れてブーンの顔に降り注ぐ。
(;゚ω゚) 「アッー!いやぁぁぁああーーー!!」
思わず顔を横に背けるが、赤い水は生物の様にブーンの口や鼻に入ってこようとする。
口を閉じ息を止めて抵抗するが、赤い水は執拗にその動きを止めない。
(;゚ω゚) 「ンムー、ンンンーッ!」
必死の抵抗も虚しく、鼻や口の端から赤い水が徐々に侵入してくる。
酸欠で薄れゆく意識の中で、ブーンは最後に思った。
(;´ω`)。oO(も、もうダメだお・・・僕は主人公じゃなかったのかお・・・?)
27 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:23:48.46 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/13時55分34秒/羽生蛇学校・玄関前】
キャアアアァアアァァァアアア……
アッーーー… ア゙ーーーッ゙…
ドクオとショボンが校門をくぐり、玄関前に来たときにその悲鳴は聞こえてきた。
二人同時に悲鳴がした方を見上げる。
('A`;) 「ツンッ!?」
(;´・ω・) 「ブ、ブーン?」
悲鳴の出所は、恐らく三階の自分達の教室だろう。
慌てて走り出そうとしたドクオを、ショボンが制する。
(`・ω・) 「ドクオ君、リュック降ろして!」
('A`;) 「あっ、そ、そうか」
(`・ω・) 「あと、何か武器になる物を探して。二人以外の声が聞こえたから、多分ヤツらがいるよ!」
ヤツら、とはもちろん屍人の事だ。
急いでリュックを降ろし、同時に駆け出す。
ショボンは学校に来るわずかな時間で、すでに平常心を取り戻していた。
こういう所はさすがだな、とドクオは感心する。
見た目はいささか頼りない感じもするが、常に冷静沈着なショボンの事を、ドクオは密かに尊敬していた。
ショボンが味方でいてくれて、本当に良かったと思う。
三階に向かう途中、掃除用具入れにあったモップ二本と、廊下に置いてあった消火器一つを入手する。
こんな物が屍人にどれだけ通用するかは疑問だが、のんびり武器を探している暇はない。
一気に階段を駆け上がり三階の廊下に立つと、人が争っている物音と声が聞こえた。
ショボンに消火器を渡すと、モップを構えドクオは走り出す。
31 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:27:21.42 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/13時56分38秒/羽生蛇学校・三階廊下】
('A`;) 「ツンッ、どこだ、返事しろ!ブーン!」
叫びながら廊下を疾走するドクオ。
教室の前まで来て薄暗い中を覗くと、今まさにツンが何者かと争っている最中だった。
ξ;>?<)ξ 「やっ!放してよ、いやだったら!」
恐ろしい力で両腕を掴まれ、身をよじるツン。
('A`#) 「オラァッ!その手を放しやがれぇぇぇぇえっ!!」
モップを振り上げ、雄叫びを上げながら教室に突入するドクオ。
突然の乱入者に驚いたのかジョルジュ屍人の動きが止まり、ツンの腕を掴んでいた手が緩む。
その好機をツンは見逃さなかった。
体をひねってジョルジュの戒めから逃れると、その反動をバネに掌底を顔面に叩き込む。
(ヽ`Д´) 「ヴバァァ゙ァア゙アァ゙・・・ッ!」
顔を押さえて前屈みになったジョルジュの側頭部に、ツンの右上段回し蹴りが炸裂する!
ス パ ァ ァ ァ ン ッ!!
32 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:28:47.82 ID:OdmJKtzL0
ド サ ッ ……
ツンの渾身の蹴りをまともに食らったジョルジュの体が一瞬固まり、
次にスローモーションのように、ゆっくりと床に崩れ落ちた。
ξ ゚o゚)ξ 「コオォォォオオ・・・ッ!」
('A`;) 「ナ、ナイスハイ・・・」
モップを振り上げた間の抜けたポーズのままのドクオを、ツンはキッとにらむ。
ξ#゚?゚)ξ 「ドクオ!あんた来るの遅すぎ、このノロオ!」
('A`;) 「はい、申し訳ございません・・・」
ξ*゚?゚)ξ 「たっ、助けに来てくれた事は感謝するわよっ!そのおかげで隙も出来たんだし・・・」
('A`) 「まぁ、無事で良かったよ。悲鳴を聞いたときは心臓が止まったぜ」
ξ*゚-゚)ξ。oO(し、心配してくれてたんだ・・・)
('A`) 「・・・なぁ、ツン」
ξ(゚、゚*ξ 「な、なぁに・・・?」
('A`) 「さっき蹴りいれたときパンツ見えたぞ。ピンク」
バ キ ッ !
ξ#゚-゚)ξ 「殴るわよ?」
('A(::) 「もう殴ってね?」
ξ#゚-゚)ξ 「殴ってないわよ。私に殴らせたらたいしたもんよ」
('A(::) 「・・・・・・あ」
ξ#゚?゚)ξ 「今度は何ッ!?」
('A(::) 「・・・ブーンは?」
33 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:30:07.24 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/13時57分16秒/羽生蛇学校・三階廊下】
渡された消火器のピンを引き抜き、走り出すショボン。
ちょうどドクオが雄叫びを上げながら教室に入っていくところだった。
そちらはドクオに任せ、ショボンはもう一人を捜そうと辺りを見回す。
それはすぐに見付かった。
隣りの教室の扉付近で、重なり合う二つの影が見える。
(;´・ω・) 「ブーン!?」
ここからでは扉の死角になっていてよく見えないが、ブーンが誰かに乗りかかられているようだ。
消火器を廊下脇に置くと、モップを握り締めてそのうごめく影に近づく。
暴力は振るいたくないが、この状況では仕方がない。
話しが通じる相手ではないだろう。そう、自分の両親のように……
(;`-ω-) 「ブ、ブーンから離れろ!」
目を固く閉じ、その背中にモップを振り下ろす。
ガ ッ !
確かな手応えを感じた。
だが、恐る恐る目を開いても、状況はなんら変わってはいなかった。
34 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:31:06.33 ID:OdmJKtzL0
もう一度モップを振り上げたところで、ブーンに跨っていた屍人がゆっくりとこちらを向く。
(;´・ω・) 「ギ、ギコ先生・・・?」
ショボンは振り上げたモップを廊下に落とし、あとずさる。
いくら相手が屍人とはいえ顔を見てしまった以上、もう殴る事は出来なかった。
ギコ屍人はノロノロと体を起こし立ちあがると、ショボンに手を伸ばして近寄ってくる。
(ヽ,,゚Д゚) 「よぐもぉ゙〜・・・殴っ゙たね゙〜・・・」
(;´・ω・) 「ご、ごめんなさい、先生・・・謝りますから、ちょっと落ちついて・・・」
無駄だとは知りつつも、ジリジリとあとずさりながら声を掛ける。
それに答える事なく、ギコ屍人は少しづつ距離を詰める。
コ ツ ン
ショボンのかかとに、何か固い物が当たった。
先程、隅に置いておいた消火器だ。
ピンはすでに抜いてある。
ショボンは急いで消火器を手に取ると、ギコ屍人にノズルを向けて思いきりレバーを握った。
ブ シ ュ ー ー ー ー ー ッ !
35 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:32:26.29 ID:OdmJKtzL0
ギコ屍人を中心に、辺り一面が一瞬で白い闇に包まれる。
それと同時に、ショボンは自分の背後から脇にかけて、何かが凄い勢いで通り過ぎるのを感じた。
ド ゴ ッ !
次いで、肉と骨とが激しくぶつかり合う音が響く。
一拍置いて、何かが床に倒れる音。
そして静寂。
白闇の中で何が起こったのか、ショボンには理解出来なかった。
ショボンは手で鼻と口を押さえ、手探りで廊下の窓を開ける。
風が吹きこみ、人工の霧をさらってゆく。
少しずつ見えてきた光景は、白い粉にまみれてピクリともせず廊下に倒れているギコ屍人と、
その隣りでボディビルダーのよくやるポーズを決めているドクオだった。
('∀`) 「ようやくオレにも見せ場があったぜぇ!」
(´・ω・) ゚o゚)ξ 「ナイスポォーズでぇーす」
36 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:34:50.03 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/14時14分14秒/羽生蛇学校・廃校舎教室】
消火器の粉を吸い込んでしまったのだろうか、やけにむせているブーンを、
ショボンとツンの二人で支えながら歩かせる。
少なくとも二体の屍人がいた校内は、もはや安全な場所とはいえなかった。
話し合った結果、一同は学校の敷地内にある、今は使われていない廃校舎に移動する事にした。
自分もすぐ行くからとドクオは言うと、倒れている屍人達を調べ始める。
廃校舎は老朽化し危険だという事で、近々取り壊される予定になっていた。
そのため校舎のすぐ脇には、本土から数日前に運ばれてきたショベルカーなどの重機が置かれていた。
それらには雨避けの青いビニールシートが被せられ、なにやら物々しい印象を受けるうえに、
更には校舎の周囲にはロープと立ち入り禁止の札が貼られているため、今は近づく者はいない。
身を隠すには絶好の場所と言えた。
廃校舎の教室に入り一息ついたあと、ショボンは重い口を開く。
(;´・ω・) 「その・・・しぃちゃんが、いなくなっちゃったんだ・・・」
(;^ω^) 「ほ、ほんとかお!?」
ξ;゚?゚)ξ 「し、しぃちゃんが?いつ、どこでっ!?」
ショボンはうなだれつつ、二人にいきさつを話す。
話しを聞いたツンの心の中に、ショボンを責めたい衝動が沸き起こる。
だが、自分にショボンを責める資格はない。目を離したという点では、自分も同罪だからだ。
それにショボンは、他人が責める必要もないほど自責の念に駆られている。
ショボンの顔を見れば、それは明らかだった。
その顔を見ていると、ツンには何も言えなかった。
37 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:35:58.68 ID:OdmJKtzL0
三人が黙り込んでから数分後、大きなリュックを二つ抱えたドクオが戻ってくる。
('A`) 「よう、ブーン。もう大丈夫か?」
( ^ω^) 「うんだお。ドクオ君もショボンも助けに来てくれてありがとうだお」
(´・ω・) 「・・・ブーン、目がちょっと赤いよ?」
(;^ω^) 「え? だ、大丈夫だお。たぶん消火器の粉が入ったんだお」
ゴシゴシと手の甲で目を擦るブーン。
その肘の先から血が出ているのをツンが見付ける。
ξ ゚?゚)ξ 「あんた、肘をケガしてるわよ」
( ^ω^) 「ああ、さっき倒れたとき擦りむいたんだお。舐めておけば治るお」
ξ ゚?゚)ξ 「バッチイこと言わないの。ほら、腕出しなさい」
( ^ω^) 「あ、ありがとうだお、ツンちゃん」
ツンはリュックから取り出したペットボトルの水で傷口を洗うと、
自分のハンカチを包帯替わりにブーンの腕に巻きつける。
ドクオは飲み物を皆に配ると、教室の隅に置かれている古い机の上に腰を下ろす。
('A`) 「さてと、それじゃオレが調べた限りのヤツらの特徴を話すぞ」
皆はまずドクオの話を聞き、次いで各々が見て感じたことを話した。
38 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:37:57.34 ID:OdmJKtzL0
皆の話しを要約すると、屍人の特徴はこうなった。
・白目が真っ赤に染まっている。
・脈も息も非常にゆっくりだが、一応はある。
・動きは緩慢(普通の人間の半分以下)だが、力は非常に強い。
・回復力が高いらしく、ドクオが調べている数分間の内に起き上がる気配をみせた。
・知能や記憶はわずかに残っているようだ。
・ブーンに「こちらに来い」と言い、赤い水を飲ませようとしたらしい。
・赤い水が体内に入ると屍人になる?もしそうなら、人を襲う目的は赤い水を飲ませ屍人化させる事?
(;´・ω・) 「これだけじゃ全然情報が足りないね・・・」
('A`) 「そうだな。せめてヤツらの弱点くらいはわからねえとな」
ξ;゚-゚)ξ 「こんなんじゃ迂闊には出歩けないわよね・・・」
ツンの言葉を最後に、沈黙が教室内を支配する。
その沈黙に耐えきれなくなったのか、突然ブーンが口を開く。
それは誰もが考えていたが、言い出せなかった事だった。
(;^ω^) 「・・・ところで、早くしぃちゃんを捜しに行かないのかお?」
('A`) 「いや、だからなブーン。あんなのが何百人も村中をウロウロしてんだぜ?」
ξ;゚?゚)ξ 「・・・いくら動きが遅いからって、囲まれたらひとたまりもないでしょ?」
(;^ω^) 「そ、それもそうだお・・・」
39 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:40:27.31 ID:OdmJKtzL0
だが、そんな危険な場所に、しぃは一人でいるのかもしれないのだ。
助けに行きたくても行けない。そんなジレンマが一同に重くのしかかる。
また沈黙しかけたところで、ショボンが口を開く。
(´・ω・) 「でも、ヤツらの知能レベルは相当低いみたいだよ。ボクの・・・両親が家に入ってくる時に、
ガラスを壊して入ってきたんだ。どっちかは鍵を持っていたはずなのに・・・」
もし鍵すら使えないまでに知能が低下しているのならば、しぃはそう簡単に見つかったりはしないだろう。
ショボンは皆にそう説明する。
それはただの希望的観測に過ぎなかったが、そうでも思わなければいてもたってもいられなかった。
ショボンは、しぃがいなくなった事に強い責任を感じていた。
本音を言えば自分一人ででも捜しに行きたいくらいだ。
だが、自分が捜しに行くと言い出せば、皆も一緒に来ると言うだろう。
自分のわがままの為にこれ以上、皆を危険な目に合わせる訳にはいかなかった。
(;´-ω-)。oO(しぃちゃん、どうか無事でいて・・・)
いまショボンに出来るのは、ただ祈る事だけだった。
40 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:41:09.71 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/14時22分24秒/羽生蛇村の外れの建物前】
(*゚ー゚) 「ここだね・・・」
彼は村外れにある、とある建物の前に立っていた。
屍人達の手から逃れて、一人でこの場所まで来たのだろうか?
見たところ、屍人に襲われたりはしていないようだ。
だが、少し離れた場所から、屍人達の呻き声が風に乗って聞こえてくる。
ここも安全な場所ではない───
41 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:42:57.95 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/14時53分52秒/羽生蛇学校・廃校舎教室】
四人とも壁にもたれかかりグッタリとしていた。
皆、考えている事は一緒だった。
出来ることならしぃを捜しに行きたいし、家族がどうなってしまったのかを確認したい。
だが、今の状況で考えもなしに村にノコノコ出向くのは、余りにも危険だ。
それに、もし変わり果てた姿の家族と再会なんて事になったりしたら……
ショボンには申し訳ないが、そんな家族の姿を見たくはない。想像するだけでも恐ろしい。
動くに動けず、かといってさしあたりすべき事もない。
今日は色々な事が重なり疲労が溜まっていたので、とりあえず休憩をとる事にした。
とはいえ神経が張り詰めているので、寝る事など出来はしないのだが。
皆、目を閉じてムッツリと押し黙っている。
こういう雰囲気が苦手なブーンは、なんとなく教室内をウロウロし始める。
ξ ゚?゚)ξ 「・・・あまりウロチョロしないでよ。目障りだから」
('A`) 「今の内に少しでも体力を回復しておけよ、ブーン」
( ^ω^) 「う、うん。わかったお」
そう返事をしたものの、ブーンはなぜか余り疲れてはいなかった。
いや正確には、さっきまではかなり疲労を感じていたのだ。
ギコ屍人に襲われる前までは……
( ^ω^)。oO(なんだか体が軽い感じだお・・・ん?)
窓際まで歩いてきたブーンは、窓の外をなんとなく見上げる。
学校の塀の更に向こう、既に見慣れた赤い空に黒い煙が立ち昇っていた。
43 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:44:52.13 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/14時55分31秒/羽生蛇学校・廃校舎教室】
( ^ω^) 「なにか燃えてるお・・・」
ブーンは誰に言うでもなくつぶやく。
それを聞いたドクオが立って窓際に寄ってくる。
('A`) 「どうした、ブーン?・・・なんだ、ありゃ!?」
ドクオの声にただならぬ気配を感じたのか、ツンとショボンも立ち上がる。
ξ ゚?゚)ξ 「なに、あの煙・・・火事?」
(´・ω・) 「みたいだね。でも何が燃えているんだろう?」
('A`) 「・・・よし、ちょっくら様子を見てくる」
腕を胸の前で組み、少し考え込んでからドクオが言う。
正体不明の煙が、彼の行動したいという気持ちを後押ししたのだ。
ドクオは元々、あれこれ考えるより先に行動するタイプだった。
47 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:47:07.19 ID:OdmJKtzL0
それを聞いたツンが、慌てて止めようとする。
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、何言ってんのよ!さっき危ないって言ってたでしょ?」
('∀`) 「オレ一人ならなんとかなる。それに村の外を回って行くしな」
ξ;゚?゚)ξ 「でも・・・」
('∀`) 「なに、危ないと思ったらさっさと逃げてくるって。走りならヤツらにゃ負けねえからな」
(;`・ω・) 「ボ、ボクも行くよ!」
ショボンにしては珍しく強い口調で、二人の間に割って入る。
煙に触発されたのは、ドクオだけではなかったのだ。
ツンは驚いた顔でショボンを振り返る。
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、ショボンまで・・・!」
('A`) 「・・・いいぜ。だが、あくまで煙の原因を調べに行くだけだからな」
(´・ω・) 「うん、わかってる。ありがとう、ドクオ君」
('A`) 「よし、ツンはここでブーンを守ってやってくれ。緊急時以外は絶対に外に出るなよ」
ξ;゚-゚)ξ 「・・・止めてもムダみたいね。わかったわ、気を付けてね。ブーンの事は任せて」
(;^ω^) 「なんか、ちょっと漢のプライドが傷ついたお・・・」
廃校舎を出たドクオとショボンは、体育用具室に寄ってバットを手に入れると、
黒煙が立ち昇る村へと足早に消えていった。
48 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:48:45.77 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/15時12分46秒/羽生蛇学校・廃校舎教室】
ドクオとショボンが出ていってから、ツンはずっと悩んでいた。
自分だけこんな安全な場所に隠れていていいのだろうか?
どんなに危険でも、しぃを捜しに行くべきではないのか?
彼女は今、一人寂しく泣いているかもしれない。
もし、彼女に万が一の事があれば、自分は一生悔やむだろう。
ツンにとって、しぃは妹のような存在だったのだ。
ξ;゚-゚)ξ。oO(無事でいて、しぃちゃん・・・)
そんなツンの心中などお構いなしに、ブーンはリュックに入っていたコンビニ弁当を頬張っている。
( ^ω^) 「ぱくぱく。このお弁当、おいしいお。ツンちゃんは食べないのかお?」
ξ;゚?゚)ξ 「・・・あんた、よくこんなときに食べられるわね」
ツンは半分嫌味、半分呆れ気味につぶやく。
( ^ω^) 「ごくごく。このジュースもおいしいお」
ξ ゚?゚)ξ 「みんなの分もちゃんと残しときなさいよ」
ブーンは500mlのペットボトルをあっという間に飲み干すと、新しいボトルの栓を開ける。
さっきから妙に喉が乾いてしょうがない。いくら飲んでも乾きが収まらないのだ。
水分を欲している訳ではないのだろうか?
そう、もっと別な何かを求めている……?
51 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:50:30.92 ID:OdmJKtzL0
能天気なブーンを眺めていて、ついにツンは吹っ切れた。
ξ ゚?゚)ξ 「よし!私、しぃちゃんを捜しに行くわ」
(;^ω^) 「えっ、そんな事したらドクオ君に怒られるお?」
ブーンがペットボトルから口を離し、慌てた様子で言う。
ξ ゚?゚)ξ 「いいのよ、あいつだって出てったんだし。
それに二人が戻ってきたときに、ここにいればバレないでしょ?」
(;^ω^) 「で、でも、僕一人でここにいるのは心細いお。ウサギさんは寂しいと死んじゃうんだお」
ξ ゚?゚)ξ 「じゃ、あんたもついてくる?」
(;^ω^) 「そ、それも怖いお。ガラパゴスゾウガメさんはリクガメ科で最大なんだお」
ξ#゚?゚)ξ 「どっ・ち・に・す・ん・の?」
(;^ω^)ゞ 「・・・小隊長殿についていきますお」
今のツンに逆らうのは危険だと、ブーンの本能が強く警告する。
ξ ゚?゚)ξ 「よろしい。じゃあモップを持ちなさい」
(;^ω^)ゞ 「わかりましたお、少佐」
二人はモップを手に取る。
武器としてはいささか心許ないが、何も無いよりはましだろう。
一応、ドクオとショボン宛てに書き置きを残し、二人はモップを構えて教室を出て行く。
52 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:51:55.29 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/15時25分36秒/羽生蛇村外れ・電話局】
屍人に見つからないよう、ドクオとショボンは村を大きく迂回して移動する。
適度な暗さが幸いして、屍人に見つかる事はなかった。
実は何度か危なかったのだが、屍人の目や耳はあまり良くないらしく、なんとかやり過ごす事が出来たのだ。
途中、小声でしぃを呼んだりもしたのだが、残念ながら反応はなかった。
そうしている内に火事現場に到着する。
煙の発生源は、電話局の建物だった。
ガソリンか灯油を撒いたのだろうか、既に炎は建物全体を覆っている。
村の外れにある為に、他の建物に類焼する危険性が低いのは救いだが、
これで電話は完全に使えなくなってしまった。
('A`) 「なんだ、こりゃ・・・ヤツらがやったってのか?」
だが、この異界では電話は通じない事は既に確認済みだ。
では、何の為にこんな事を?
ショボンは空を仰ぎ見る。
(´・ω・) 「ドクオ君、あれ!」
目の前のとは違う、新たな煙を発見する。
向こうは漁港の方角だ。
二人は顔を見合わせてうなずくと、漁港を目指して走り出した。
53 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:54:22.10 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/15時32分02秒/しぃ自宅】
ツンとブーンは、しぃの家へと向かっていた。
心当たりもない上に時間もないとくれば、もう彼女の自宅をあたるしかない。
ツンは出来る限り急いだ。
なるべくならドクオやショボンに、これ以上の心配をかけたくなかったのだ。
それにはあの二人より先に学校に戻っている必要がある。
幸いな事に、しぃの家は学校寄りに建っている。方向的には魚港のほうだ。
休む事なく走って、目的のしぃの家にたどり着く。
途中、屍人に何回か見つかったが、そのたびに走って振り切った。
屍人は二人を見つけると後を追ってはくるものの、その足は非常に遅く、
また、大声で仲間を呼ぶような事もしなかったので、比較的楽に逃げ切る事が出来たのだ。
囲まれて捕まりさえしなければ、屍人は恐るるに足りない相手だった。
こんな事なら悩んでないで、さっさとしぃを捜しにいけば良かった。と、ツンは少し後悔した。
二人で息を切らしながら、鍵の掛かっていない玄関の扉を開ける。
家の中は静まり返り、人の気配はない。
扉を閉めるや、ツンは大声でしぃの名を呼ぶ。
ξ ゚O゚)ξ 「しーぃちゃーーん!私よ、ツンよー!いたら返事してぇーーー!!」
(;^ω^) 「ゎわっ、ヤツらがいたらどうするお!?」
それも計算しての事だった。
もし声に引かれて屍人が出てきたら逃げ出せばいい。
この声に反応がないのなら、家の中に屍人はいないという事になる。
それなら屍人に怯える事なく、安心してしぃを捜せる。
54 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:55:41.47 ID:OdmJKtzL0
しばらく待ってみたが、返事も屍人が現れる様子もない。
しぃは家には戻っていないのだろうか?
だが、ここまで来たら捜すだけ捜してみよう、とツンは決めた。
ξ ゚?゚)ξ 「家の中を捜すわよ。あんた一階をお願いね。私は二階を捜すわ」
(;^ω^) 「えっ!?僕、一人でかお?」
ξ ゚?゚)ξ 「大丈夫よ。今の声でなんの反応もなかったでしょ?」
(;^ω^) 「で、でも暗くてなんか怖いお。アホロートルのアルビノ種をウーパールーパーっていうんだお」
ξ#゚?゚)ξ 「時間がないの。お・ね・が・い・ね?」
(;^ω^)ゞ 「りょ、了解でありますお、大佐」
ξ ゚?゚)ξ 「大佐じゃない、私は大尉よ・・・さぁ、くだらないこと言ってないで早く始めるわよ」
ツンは靴を脱ぐと、さっさと二階に行ってしまう。
一人残されたブーンも恐怖を押し殺して一階を探し始める。
サボったりしたら、もっと恐ろしい事になりそうだったからだ。
55 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/09(火) 23:57:46.88 ID:OdmJKtzL0
【一日目/異界/15時35分29秒/しぃの部屋】
二階の部屋数は多くはなかった。
ツンは短時間で他の部屋を探し終え、残りは突き当たりの部屋だけだ。
扉に貼ってあるネームプレートには、『しぃ の部屋』と書かれてある。
しぃらしい、かわいらしい字だ。空白が少し気になったが、今は考えている余裕はなかった。
ツンはしぃの部屋はおろか、この家に上がる事さえ始めてだった。
ツンが「家に呼んで」と何度頼んでも、その度に「また今度」とはぐらかされてきたのだ。
無断で入る事を心の中でしぃに謝りながら扉を開け、そして中を覗き込んで唖然とする。
そこは机とタンスとベッド、それに小さな鏡台があるだけの殺風景な部屋だったからだ。
装飾品やおしゃれな小物類などは、ほとんど見当たらない。まさにそこは生活する為だけの部屋だった。
これが年頃の女の子の部屋なのだろうか?
色気が無いと自覚している自分の部屋ですらもう少し華やかだ。
もしかして、これが家に招待してくれなかった理由なのだろうか?
とりあえず、しぃが隠れられそうな場所を捜す。
捜しながら、やはりここはしぃの部屋だと確信した。見慣れた彼女の持ち物が揃っていたからだ。
それにしても、とツンは思う。
しぃは少し地味で控えめなところはあるが、その心はいたって普通の女の子だ。
少なくとも、こんな何も無い部屋を好むような子ではない。
やはり母親がいないせいだろうか?
しぃはあまり家族の事を話したがらないが、
聞いたところによると、しぃの母親は彼女が産まれてすぐ家を出ていってしまったそうだ。
それからは、ずっと父親と二人暮しだったらしい。
56 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 00:00:08.06 ID:OdmJKtzL0
もしかしたら父親に愛されていないのだろうか?
ツンは無意識に親指の爪を噛む。
しぃに直接は聞けなかったが、ツンには心当たりがあった。
しぃは年の割には余り服を持っていなかった。
それを見兼ねたツンは、余計なお世話だとは知りつつも、
自分には小さくなったお古を彼女に譲ったりしていたのだ。
しぃはその都度遠慮はするものの、最後には嬉しそうに服を受け取ってくれた。
この間の彼女の誕生日には、小遣いを貯めて買った白いワンピースをプレゼントした。
しぃは驚きながらも、それはもう喜んでくれたものだった。
彼女のあんなに眩しい笑顔を見たのは初めてで、ツンにはそれがとても嬉しかった。
そういえばしぃは今日のピクニックにそのワンピースを着てきてくれた。
ツンの想像通り、それはとても良く似合っていた。
しぃのワンピース姿を思い浮かべながら、何気なくベッドの上を見る。
部屋が薄暗い上に、シーツの色と一緒だったので今まで気が付かなかったのだが、
そこにはツンのプレゼントしたワンピースが無造作に脱ぎ捨てられていた。
という事は、彼女はショボンと別れたあと、一度この家に戻ってきたという事になる。
しぃは何をしにこの家に戻り、そして着替えて出ていったのだろう。
そんな事を考えていると、ふと机の上の本に目が止まる。
よく見ると、それは本ではなく日記帳だった。
中を覗き見たい衝動に駆られる。
しぃは感情を余り表に出す子ではなかった。
彼女が普段、どんな事を考えているのか知りたい。
こんな殺風景な部屋を見た後では、なおさらだった。
57 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 00:02:05.76 ID:3rEjHJ6O0
しばしの葛藤の後、ツンは日記帳に手を伸ばす。
心の中で何度もしぃに頭を下げながらページをめくる。
期待に反し、そのほとんどはごくありふれた事しか書かれていないみたいだった。
───────────────────────────────────
【×月□日】
今日はわたし達の誕生日。
今までの誕生日は意味のないただの一日だったけど、今日は違った。
みんなが盛大にお祝いしてくれたんだ。
ツンさんがとってもすてきなワンピースをプレゼントしてくれたの。
これを着て鏡台の前で何度も回っちゃった。
こんなに嬉しかった誕生日は、この世界に産まれ落ちて始めて。
ありがとう、ツンさん。ありがとう、ブーン君、ショボン君、ドクオさん。
今日という日を、わたしは絶対に忘れない・・・
───────────────────────────────────
ξ ゚ー゚)ξ。oO(あの子ったら、おおげさなんだから・・・)
ツンは複雑な気持ちで微笑み、パラパラとページをめくる。
その指が、あるページでピタリと止まる。
───────────────────────────────────
【○月△日】
あと二日であの日が来てしまう。
その事を考えると気が重い。とても憂鬱になる。
逃げ出したい。でも、そんなこと出来るはずもない。
それはよくわかっている。
準備はすでに終わっている。
あとはその日が来るのを待つだけ・・・・・・
───────────────────────────────────
58 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 00:04:15.15 ID:3rEjHJ6O0
その日付は一昨日になっていた。
なんだろう……しぃは何の事を言っているのだろう……?
ページを押さえる手が震える。
ツンの理性が警鐘を鳴らす。これ以上読んではならない、と。
だが、震える指は理性にあらがってページをめくろうとする。
ダメだ!この先を読んだら、きっと後悔する……!
そして、次のページの文字が目に入った直後───
( ^ω^) 「しぃちゃん、一階にはいなかったお」
ξ;゚?゚)ξ 「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
口から飛び出かかった心臓をなんとか飲み込み、日記帳を慌てて閉じる。
(;^ω^) 「ど、どうかしたのかお?」
ξ;゚?゚)ξ 「なっ、なんでもないわよ・・・!」
ブーンが近寄ってきたので、逃げるように窓際に移動するツン。
そして窓の下に何か動く影を見た。それは間違いなく人影だった。
しかもあれは、しぃではなかったか?
チラッと見えたその服に見覚えがあったからだ。あれは、以前しぃに譲った自分のお古に似ていた。
ツンは急いで玄関に向かい、靴を履いて外に飛び出す。
そして家の周りを見て回るが、それらしい人影はどこにもなかった。
(;^ω^) 「はぁはぁ・・・いったいどうしたんだお?」
ξ;゚?゚)ξ 「気のせいだったみたい・・・さぁ、学校へ戻りましょ」
ツンはそう言うと、さっさと学校に向かって走り出し、ブーンはその後をしょうがなくついて行く。
59 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 00:05:57.74 ID:3rEjHJ6O0
【一日目/異界/15時36分55秒/海蛇漁港】
新たな煙の発生源とみられる漁港に着いたドクオとショボンは、そこで更に驚くべき光景に出くわす。
大小、数十艘の漁船全てが炎を上げて燃えていたのだ。
漁港の回りにはまだ屍人がいるため、近寄って確認する事は出来ないが、
この様子では使える船は残ってないだろう。
(´・ω・) 「・・・どう思う?ドクオ君」
('A`) 「普通に考えりゃ、オレらの脱出手段を潰したんだろうな」
(´・ω・) 「やっぱりそうだよね。船を使って異界から抜け出せるかどうかは別としてだけど」
('A`) 「だが電話局は?ここじゃ、はなから電話は使えないんだぜ?」
(´・ω・) 「うん、確かに。でもわざわざ燃やしたからには、なんらかの意図があるはずだけど・・・」
ショボンの頭の中に、一つの答えが閃く。
もし先程の自分の予想通りならば、屍人は鍵すら使えないはずだ。
それなのに、灯油を撒き火を点けるなんて事が果たして出来るのだろうか?
しかも屍人は無作為に火事を起こしているのではない。
明らかに目的を持って対象物を燃やしている。
以上の事から考えると……
『屍人を操れる存在がいるのではないか?』
60 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 00:07:02.07 ID:OdmJKtzL0
それがショボンの導き出した答えだった。
もし屍人を操る存在がいるとすれば、それはこの怪異現象を引き起こした張本人である可能性が高い。
そして、その存在が屍人を使って自分達の脱出を妨害しているのだとしたら、
これから先、この状況に何らかの変化があるのではないだろうか?
もしそうなら、それが異界から脱出するチャンスになるかもしれない。
ショボンはそう結論づけた。
その答えが出ると同時に、ドクオがショボンに話し掛けてきた。
('A`) 「よし、学校に戻るぞ。とりあえず煙の原因はわかったし、残してきたツン達も心配だ」
(´・ω・) 「あ、うん。そうだね」
この事は戻ってから皆に話そう。ショボンはそう思い、ドクオに同意する。
ショボンの推測の一つは、学校に戻る前に正しかったと証明される事になる。
ただそれは、ショボンの想像外の事態として起こったのだった───
2 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:26:39.67 ID:udBVAUei0
《 三章 繰り返す悪夢 》
【一日目/現世/16時00分00秒/羽生蛇学校前】
ヴ ォ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ ! ! !
何の前触れもなく、再びあのサイレンが村中に響き渡る。
学校の手前まで戻ってきていたツンとブーンは、驚いて辺りを見回す。
やはり村役場のサイレンではない。方角が違う。
このサイレンは村の外── 北東の方角から聞こえるようだ。
そしてサイレンが鳴り止むと同時に、世界は急変する。
まるで映画の特撮のワンシーンを見ているかのようだった。
赤い空は晴れ晴れとした青空に一瞬にして切り替わり、
薄暗く澱んだ風景は、隅々まで太陽の明るさで満たされ活気を取り戻す。
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ・・・いったいどうなってんのよ、これ・・・?」
(;^ω^) 「ここは・・・元の世界だお・・・?」
世界は秩序ある元の姿を取り戻していた。
ピクニックでサイレンを聞く前の、何の変哲もない当たり前の世界に───
4 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:28:11.51 ID:udBVAUei0
【一日目/現世/16時00分00秒/羽生蛇学校に続く道】
ヴ ォ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ ! ! !
(;`・ω・) 「ま、またあの音だよ!」
('A`;) 「今度は、なんだってんだ!」
ドクオとショボンが揃って空を見上げるのと、世界が差し替えられるのが同時だった。
今まで確かに頭上を覆っていた赤い空は、その痕跡すら無くなっていた。
見慣れているはずの青空が、なぜか酷く不自然なものに感じられる。
('A`;) 「・・・わけわかんねぇが、とにかく学校に戻んぞ!」
(;´・ω・) 「あっ、ちょっと待って・・・!」
走り出したドクオの後を急いで追うショボン。
5 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:29:57.05 ID:udBVAUei0
【一日目/現世/16時01分24秒/羽生蛇学校・校庭】
ツンとブーンは学校に着くと、廃校舎の教室を確認する。
ドクオとショボンは、まだ戻っていない。書き置きも読まれた形跡はない。
二人が校庭に引き返すのと、ドクオとショボンが校門をくぐるのが同時だった。
走ってきた四人が校庭で合流する。
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、これってどういう事!?」
('A`;) 「そんなん、オレらにわかる訳ねぇだろ!?」
( ^ω^) 「帰ってきたお、元の世界に帰ってきたお!」
それぞれが大声で喚きたてる。
その中で一足先に平常心を取り戻したショボンが、当然の疑問を口にする。
(´・ω・) 「・・・村の人達はどうなっているんだろう」
(゚ω゚) (゚A゚)ξ゚?゚)ξ 「!!!」
三人がショボンのほうを振り向く。
世界が元に戻ったのならば、村人達も元に戻っているはずだ。
一呼吸置いて、四人は一斉に村に向かって駆け出した。
6 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:32:56.94 ID:udBVAUei0
【一日目/現世/16時19分40秒/羽生蛇商店街】
警戒心が未だ残る四人は、とりあえず商店街まで行動を共にしていた。
ぐるりと商店街通りを見回すが、屍人が徘徊しているという事はない。
だが、やけにひっそりと静まり返っていた。
人の気配がまるで感じられないのだ。
薄れていた警戒心が、再び首をもたげてくる。
さっきは慌てていて、バットやモップは学校を出るときに校庭に投げ捨ててしまっていた。
失敗だったろうか?
ただ、ドクオが異界で感じていた独特の殺気のようなものは、今は無くなっている。
('A`;) 「どう思う?ショボン」
(;´・ω・) 「うん、何か変な感じだね・・・」
ξ;゚-゚)ξ 「と、とりあえずどこかの家に入ってみない?」
(;^ω^) 「そうだお、みんなで入ってみるお」
もう一度辺りを見回し、他に人の気配が無い事を再確認すると、四人は目の前の八百屋に近づく。
9 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:35:18.96 ID:udBVAUei0
【一日目/現世/16時23分55秒/羽生蛇商店街・八百屋】
四人はドクオを先頭に、慎重に店に入っていく。
店のシャッターは開いているのだが、店内には誰もいない。
売り場を通り抜け、そのまま母屋へと向かう。
('A`) 「おーい、誰かいないかー?」
しばらく待ってみたが、その問い掛けに返事はない。
一応、靴を脱いでから家の中に上がる四人。
いざという時の為に、靴は手に持っている。
そろりそろりと足音を立てずに廊下を進む。
手始めに客間をのぞく。誰もいない。
次に居間をのぞく── いた。
顔馴染の八百屋の店主と妻が、部屋の中で横になっている。
12 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:39:54.16 ID:udBVAUei0
ツンがドクオの脇をすり抜け、横になっている店主と妻に駆け寄る。
ξ;゚?゚)ξ 「おじさん、おばさん、大丈夫!?」
店主 「・・・ああ、ツンちゃん・・・いらっしゃい」
肩を揺さぶられた店主は目を開けると、弱々しくツンに笑いかける。
その顔は普通の人間のものだが、やけに衰弱しているように見えた。
思わず涙声になるツン。
ξÅ-゚)ξ 「いらっしゃいじゃないわよ・・・体は?おかしな所とかない?」
店主 「・・・ああ、なんか二人とも体がだるくてね・・・・・・店に出なきゃならんのだけど・・・」
その脇でドクオが店主を、ショボンが妻の体を簡単に確認するが、
少なくとも目立った外傷などはなく、衰弱している以外は普段と変わらないように思えた。
その後、昼から今までの事── つまり異界にいた時間の事について聞いてみたが、
その間の記憶は、すっぽり抜け落ちてしまっているようだった。
少なくとも嘘をついている様子には見えなかった。
これ以上質問を続けても埒があかないので、とりあえず二人を布団に寝かせて八百屋を退去する。
14 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:43:16.87 ID:udBVAUei0
【一日目/現世/17時36分11秒/羽生蛇村・中央広場】
八百屋を出たあと何軒か様子を見て回ったが、どの村人の様子も全く同じだった。
動くのも億劫なほど衰弱している事以外は普通の人間と変わらず、
白目が赤くもなければ、着ている服が赤い水で濡れているという事もない。
異界にいた時間の記憶が無いのも一緒だった。
こうなると自分達は悪夢でも見ていたのではないか、とさえ思えてくる。
だが、もちろんそんなはずはない。あれが夢であるはずがない。
もし夢だったとすれば、今の村人達の状態の説明がつかない。
いずれにせよ危険性は低いと判断した四人は、ひとまず商店街で別れる事になった。
皆、家族の事が気になってしょうがなかったのだ。
一時間後に中央広場に一度集合し、その後手分けしてしぃを捜そうと約束をする。
そして一時間後───
広場での再会後にお互いが報告しあった結果、どの家族もやはり他の村人同様の状態だった。
四人は、それぞれが複雑な表情を浮かべていた。
家族に無事再会できた喜びと、不自然なほど衰弱している姿を見て沸き上がる不安感。
そして、いつまた異界に引きずり込まれるかもしれないという恐怖感。
それらの感情がないまぜとなり、微妙な表情を形作っていた。
('A`) 「まぁ、とりあえず家族全員が無事で良かったってとこだな」
(´・ω・) 「・・・そうだね」
( ^ω^) 「みんな無事で本当に良かったお」
ξ;゚-゚)ξ 「あとは、しぃちゃんだけね・・・」
ツンがぼそりとつぶやいたその時、ブーンが突然その名を叫ぶ。
16 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:44:57.02 ID:udBVAUei0
( ^ω^) 「しぃちゃん、しぃちゃんだお!」
ハッとして顔を上げる三人。
ブーンの視線の先を見ると、そこには建物の影に佇むしぃの姿があった。
ツンがプレゼントした、あの白いワンピースを着ている。
しぃに向かって走り出すショボン。つられて皆も走り出す。
(;´・ω・) 「しぃちゃん!無事だったんだね、良かった!」
(*゚ー゚) 「みなさん、ごめんなさい・・・その、わたし・・・」
申し訳なさそうな表情を浮かべて、その場に立ちすくむしぃ。
そんなしぃとショボンの間に、ツンが割って入る。
ξ#゚-゚)ξ パ ー ン !
⊂彡☆))-`)
乾いた音が広場に響く。
ξ#゚?゚)ξ 「しぃ!あんた、今までどこにいたの!なんで一人で出歩いたりしたのよっ!?」
(;´・ω・) 「ツ、ツンちゃん、落ちついて・・・」
叩かれた頬を押さえ、しぃは黙ってうつむく。
頬を押さえる手から涙が伝い落ち、地面にいくつもの沁みを作る。
小さく震えるしぃを、ツンはギュッと抱きしめる。
ξ T?T)ξ 「みんながどれだけ心配したと思ってるのよ、もう・・・」
(*T-T) 「ごめんなさい、ツンさん・・・ごめんなさい、みなさ・・・うぇぇぇぇん・・・・・・」
抱きあったまま泣きじゃくる二人を、ショボン達は黙って見つめていた。
18 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:51:00.35 ID:udBVAUei0
【一日目/現世/17時55分22秒/羽生蛇村・ショボン邸】
日も暮れてきたので、五人はひとまず近くのショボンの家に集まる事にした。
ドクオは、この家に上がるのがなんとなく後ろめたかった。
緊急時だったとはいえ、ショボンの両親にタックルしてしまったのだ。
その現場の前を通り過ぎるとき、割れたガラスが散乱したままの応接間が見えた。
('A`;) 「・・・ショボン。その、あの時はすまなかったな」
(´・ω・) 「そんな・・・あやまらないでよ。おかげでボクは助かったんだから」
両親はすでに寝室に寝かせてある。
応接間で横になっていた両親を移動させる際、ショボンは二人の手足を調べてみた。
両親は手でガラスを割り、裸足のままで割れたガラスを踏んで家に上がってきたのだ。
それで無傷なはずがない。
だが、二人とも手足に怪我はなかった。
いや、よく見ると怪我の痕跡らしきものが、うっすらと残っていた。
つまり屍人は、常識では考えられない程の治癒力を持っているのだろう。
ショボンは自室に集まった皆にそう説明した。
('A`) 「人間離れした筋力と回復力かよ・・・動きの遅い事だけが救いだな」
( ^ω^) 「それと、あんまりしつこくは追っかけてこないお」
('A`) 「ん?なんでそんな事わかんだ?」
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、ブーン!余計なこと言わないの・・・」
ツンがブーンの腕を引っ張る。
ブーンにペラペラしゃべられると、学校を抜け出してしぃを捜しに行った事がバレてしまう。
そうなるとドクオに煩く言われる羽目になる。出来ればそれは避けたかった。
20 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:52:57.63 ID:udBVAUei0
ブーンにチョークスリーパーを極めながら、ツンはしぃをチラリと見る。
しぃには、あの窓から見えた人影の事、そして日記の事を聞きたかった。
だが今は皆がいるし、日記を盗み見たという後ろめたい気持ちもある。
いずれ二人きりのときに改めて聞けばいい。
そうだ、そうしよう。
ツンは自分にそう言い聞かせ、ブーンの首に回した腕に力を込める。
(((;゚ρ゚))) 「・・・・・・」
('A`;) 「・・・ブーン、とっくに落ちてんぞ」
ξ;゚ヮ゚)ξ 「え・・・?あら、やだ。おほほ」
(*゚ー゚) 「あ・・・ブーン君の魂が・・・」
皆のやり取りを見ていたショボンが、遠慮がちに口を開く。
(´・ω・) 「あのー、学校から見えた煙の事なんだけど・・・」
('A`) 「あぁ、そうだ。それを話しとかねぇとな」
ショボンとドクオが煙の件について報告し終わると、先程まで騒々しかった部屋は静まり返る。
これで一連の怪異現象は終わった訳ではない、と告げられたも同じだったからだ。
でなければ電話局と船が焼かれた理由が説明出来ない。
考えたくはなかったが、再び異界に引き込まれる可能性は高いと言わざるを得ないだろう。
気は乗らないが、これからの事について話し合う必要があった。
(´・ω・) 「あと、これはボクの考えなんだけど・・・」
ショボンが屍人を操る存在の事について話そうとしたとき、部屋全体がグラグラと揺れ始める。
21 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:55:16.09 ID:udBVAUei0
さして大きくはないが、その揺れはかなり長い時間続いた。
(*゚ー゚) 「また地震・・・」
ξ;゚?゚)ξ 「最近、多いわね」
('A`) 「今のは結構長かったな」
(´・ω・) 「あ、あの、それでね・・・」
( ^ω^) 「あっ、地震速報だお!」
部屋に入ったときからつけっぱなしにしておいたテレビの画面に、地震速報のテロップが流れる。
と当時に、ニュース番組の見慣れたオープニングが始まった。
ちょうど夕方のニュースの時間に重なったのだ。
一同はそのままテレビに集中する。
(´・ω・) 「・・・」
話すタイミングを完全に失ったショボンは、また後で話そうと口をつぐむ。
さしあたって緊急性の高い内容でもなかったからだ。
今は外部の情報のほうが、より重要だろう。
元の世界に戻ってから、テレビ以外にもガス・水道・電気などのライフラインは復活していた。
ただ村人があんな状態なので、これらもいつストップしてもおかしくはなかったが。
それと固定電話はもちろん、携帯電話もインターネットもなぜか繋がらなかった。
電話局が燃やされたせいか、それとも他に原因があるのかはわからなかったが、
島外部に連絡を取る手段は全て断たれていた。
23 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/10(水) 23:58:08.00 ID:udBVAUei0
しばらく皆でローカルニュースを見ていたが、地震速報以外の緊急ニュースのたぐいは流れてこなかった。
あの怪異現象は双頭蛇島限定で起こり、しかも島外にその情報は漏れていないという事だろう。
つまり連絡手段を断たれた現状では、外部からの救いの手は期待出来ないという訳だ。
こうなったら自分達だけでなんとかするしかない。
だが、電話もインターネットも使えない。エンジン付きの船は全て燃やされてしまった。
手漕ぎの船なら残っているかもしれないが、エンジン船ですら一番近い島まで一時間弱はかかる。
とても素人が手漕ぎでたどり着ける距離ではない。
八方塞がりだった。
皆が一斉に溜息をついたとき、ショボンが顔を上げる。
(`・ω・) 「そうだ、船だよ!」
('A`) 「あ?オレに漕げってか?」
(`・ω・) 「違うよ、定期便だよ!」
ξ;゚?゚)ξ 「あ、そっか!」
定期便とは一日に一度、隣りの島から新聞や食料・生活用品などを運んでくる船の事だ。
大体、朝の8時前後にやってくる。
それに無線で救助を要請してもらうか、場合によっては隣りの島まで乗せていって貰えばいい。
ξ ゚?゚)ξ 「でも、異界の事なんて話しても信じてもらえるかしら?」
('A`) 「そいつぁムリだろうが、村人全員が寝込んでるってのは充分緊急事態だからな。」
( ^ω^) 「電話局も船も、みんな燃えちゃってるのも大事件だお」
(´・ω・) 「そうか、電話局の件もあった!」
この島の電話局からの通信が完全に途絶えた事は、すでに本土でも確認されているだろう。
ならばその原因を探りに来ない訳がない。早ければ明日中にでも調査目的の船が到着するだろう。
うっすらと光明が見えてきて、皆明るい表情を取り戻す。
しぃの無理に作ったような笑顔に気付く者はいなかった。
25 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:00:21.82 ID:KtRk4nQP0
その後、今夜これからどうするかを話し合った。
ドクオとショボンは朝まで全員一緒にいたほうがいい、と提案したが、
ブーンとツンは家に帰りたい、と頑なに言い張る。
ドクオとショボンも本音は家族と一緒にいたいのだが、いつあのサイレンが鳴るとも限らない。
そうなれば、一つ屋根の下で寝ている家族が一番危険な存在になるのだ。
話し合いが平行線になりかけたとき、それまで無口だったしぃがポツリと言う。
(*゚ー゚) 「その・・・あの人達の弱点がわかれば危険は減りますよね?」
(´・ω・) 「ヤツらの弱点?しぃちゃん知ってるの?」
(*゚ー゚) 「あ、うん。わたし、一人で逃げてる途中、暗いからライトを点けていたんだけど、
それであの人達を照らしたら怖がってたみたい・・・」
(;^ω^)'A`;);`・ω・);゚?゚)ξ 「な、なんだってーーーっ!!」
そう言うとしぃはポケットから小型のライトを取り出し、皆に見せる。
どこにでも売っているような普通のライトだ。
(;`・ω・) 「そうか、ヤツら光に弱いんだ!だから異界はあんなに薄暗いんだね」
('A`) 「よっしゃ、今から電気屋にライトかっぱらいに行くぞ。」
ξ ゚?゚)ξ 「なに言ってんの!お金はちゃんと払うのよ」
( ^ω^) 「僕はサーチライトがいいお。映画で脱獄犯を照らすような、でっかいのがいいお!」
('A`)´・ω・) ゚-゚)ξ*゚ー゚) 「そんなの置いてねーよ」
26 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:01:43.67 ID:KtRk4nQP0
【一日目/現世/18時41分39秒/羽生蛇商店街・電気屋】
五人は店員のいない、明りすら点いていない暗い店内に入り、よさげなライトを物色していた。
目当ての物は、すぐに見つける事が出来た。
ブーンとドクオはマグライトを選ぶ。長さが40cm近くある大型の奴だ。
アメリカの警官の装備品にもなっており、いざとなれば警棒としても使える。
半艶の黒いボディーが、いかにも頑丈そうに見える。
ショボンは20cm程の、アルミ合金製の円柱型ハンドライトを選んだ。
マグライトを点灯させるにはヘッド部を回す必要があるが、これは普通のスイッチ式だった。
頑丈さではマグライトに劣るが、手軽にオンオフ出来るのが利点だ。
艶消しの黒と銀があったが、黒のほうにする。
ツンとしぃは、取っ手付きのプラスチック製ハンディライトにした。
警棒変わりには使えないが、なるべく持ち易くて光量が大きい物を選ぶ。
それぞれ電池のスペアを忘れずに持ち、電気屋を出た時点で別れる。
明日の朝、7時半に漁港に集まる約束をして。
27 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:03:30.68 ID:KtRk4nQP0
【一日目/現世/19時15分25秒/ブーン自宅】
( ^ω^) 「今日はたくさん汗かいたから、お風呂入るお。ポロリもあるお」
ブーンは脱衣所で汗と埃で汚れた服を脱ぎ、無造作に篭に投げ入れる。
最後に、怪我の手当てをしたときにツンに巻いてもらった肘のハンカチをほどく。
( ^ω^) 「ちょっとしみるかもしれない・・・お?」
ハンカチをほどいたと同時に、何か赤黒い物がハラリと床に落ちる。
それはカサブタだった。
擦り剥いた所を見ると、そこにはすでに艶のある真新しい皮膚が盛り上がっていた。
(;^ω^) 「・・・ず、ずいぶん治るのが早いお。カサブタはがすのワクテカしてたのに残念だお」
鏡に映った自分の顔を見てみるが、特に変わった様子はない。
(;^ω^) 「き、気のせいだお・・・それにしても僕はいい男だお。うほ」
ブーンはカサブタをゴミ箱に捨てると、浴室に入っていった。
29 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:05:06.25 ID:KtRk4nQP0
【一日目/現世/19時29分39秒/しぃ自宅】
しぃはワンピースを脱ぎ、丁寧にたたんで仕舞ってからパジャマを着た。
そして机の椅子に座り、日記帳を開く。
日記帳には、やはり自分以外の誰かが見た形跡があった。
読んだのはツンだろうか?
机の上に置きっぱなしにしておいたのは迂闊だったと後悔する。
だが、ツンにならば読まれて良かったとも思う。
ツンは先程の別れ際に、自分の家に来ないかと言ってくれた。
寝込んでしまっている父親と二人きりでは心細いだろうから、と。
その心遣いがとても嬉しくて危うくうなづきかけたが、なんとか断った。
これ以上ツンと一緒にいると、自分を抑えられなくなってしまいそうだったから。
しぃは未練を断ち切るかのように日記帳を勢いよく閉じると、ベッドにもぐり込む。
汚してしまう事になるかもしれないが、明日もあのワンピースを着ていこうと思う。
ツンに貰った大切な服だけど、この先もう着る機会などないのだから。
31 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:06:24.00 ID:KtRk4nQP0
【ニ日目/現世/00時00分00秒/羽生蛇村・それぞれの家】
皆、眠れぬ夜を過ごしていた。
たった一日であれだけの事が起こったのだ。
ましてやそれらは一般常識では起こり得ない出来事だった。
そう簡単に寝つけるはずもない。
いつまた、あのサイレンが鳴るかもしれないという恐怖感と、
ひとまずは通常の世界に戻ってこられたという安堵感。
それらがないまぜとなり、眠れぬ夜は過ぎて行く───
(*´ω`) 「・・・そんなにやかん・・・食べられないお・・・むにゃむにゃ・・・・・・」
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/11(木) 00:06:55.39 ID:Go4QwO+E0
(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブルブルブル
33 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:08:19.24 ID:KtRk4nQP0
【ニ日目/現世/07時44分36秒/海蛇漁港】
次第に強さを増す陽の光が、かすかに残る朝靄を徐々に消し去ってゆく。
その頼もしい光は、漁港に佇む四人の姿を照らす。
しぃは今日も、昨日と同じあの白いワンピースを着ていた。
それを見咎めたツンが、まるで子供に言って聞かせる母親のような口振りで、しぃを諭す。
ξ ゚?゚)ξ 「ねぇ、しぃ。どうしてそんな服を着てきたの?もしものとき、それじゃ危ないでしょ?」
(*゚ー゚) 「ごめんなさい、ツンさん・・・でも、どうしてもこの服がよかったから・・・」
それをプレゼントしたツンは、そう言われてもちろん悪い気はしない。
が、なにしろ丈が長くてヒラヒラしている。
何かあったときに走るのに向いていないのは確かだ。
溜息をついて、しぃに笑いかける。
ξ ゚ー゚)ξ 「しょうがないわね・・・もう着替えに帰っている時間もないし」
(*゚ー゚) 「・・・ごめんなさい」
ξ ゚ヮ゚)ξ 「いいのよ。私だってホントは、しぃがその服を気に入ってくれて嬉しいんだから」
(*゚ー゚) 「ツンさん・・・」
このまま何事も起こらなければ、どんな服を着ていようが問題はない。
ツンは半ば願うように、自分をそう納得させた。
そんな中、軽やかに走ってきたブーンが漁港に到着する。
⊂( ^ω^)⊃ 「みんな、おはようだお!」
(´・ω・) 「・・・遅刻だよ、ブーン」
34 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:10:55.06 ID:KtRk4nQP0
ブーンを除く四人は、すでに揃っていた。
普段ならば定期便を待つ人々で賑わうこの場所も、今朝はブーン達以外の姿は見えない。
漁港は船が燃えた残骸で惨憺たる有様だったが、定期便一隻が止まるのに問題はないだろう。
ただ待っているだけでは手持ちぶさたなので、一応使えそうな船がないか確認する。
だが、やはり使えそうな船は残っておらず、ご丁寧にも手漕ぎ船さえ一隻残らず燃やされていた。
この分では船外機(取り外し出来る小型のエンジン)や、小型ボートも無事ではないだろう。
予想の範囲内とはいえ多少失望はしたが、定期便さえ到着すれば何の問題もない。
( ^ω^)ノシ 「船が来たお!お〜い、お〜い!」
ブーンの声に皆が一斉に沖を見る。
確かに船が見える。見慣れた定期便に間違いない。
ξ;゚?゚)ノシ 「お〜い、ここよ〜!」
('A`;)ノシ 「はやく来てくれ〜!」
(;´・ω・)ノシ 「病人がでてま〜す!本島に連絡を〜!」
皆、ちぎれんばかりに手を振り、声を張り上げる。
あと数分で船が到着する。そうすれば助かる。
誰もがそう思っていた。
─── その瞬間までは。
35 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:12:33.69 ID:KtRk4nQP0
【ニ日目/異界/08時00分00秒/海蛇漁港】
ヴ オ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ! ! !
三度目のサイレンが双頭蛇島を包みこむ。
絶望というものを音で表すならば、正にこの音であろう。
サイレンが鳴り終えた直後、世界は異界へと変容する。
青い空と青い海は、瞬時に赤く塗り替えられる。
声も出せず、呆然とその場に立ち尽くす一同。
最初にその異変に気付いたのはショボンだった。
(;´・ω・) 「船がスピードを落とさないよ・・・!」
世界が異界に飲み込まれても、定期便の船は変わらずにそこにあった。
だがいつもなら減速しているはずの距離なのに、速度が落ちている様子が全くない。
このままでは漁港に突っ込んでくる。
('A`;) 「や、やべぇぞ、はやく逃げろ!」
ドクオはツンの、ショボンはしぃの手を引いて、ブーンは一人で急いで漁港を離れる。
36 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:13:44.07 ID:KtRk4nQP0
50メートルほど離れてから後ろを振り返るのと同時に、船が漁港のコンクリート壁に衝突する。
ド ガ ァ ァァ ァ ァ ン !!!
派手な音をたてて船は爆破四散し、船体の破片が辺りに飛び散る。
あのまま、あの場所にいたら危ないところだった。
ひとまずは胸を撫で下ろす。
だが目の前の危機を回避したところで、先程の絶望感が甦ってくる。
船は大破し、希望は失われてしまった。
ξ;>?<)ξ 「一体なんだってのよ!もうイヤッ!!」
ツンがヒステリックに叫び、両手で顔を覆う。
('A`#) 「くそっ、こっちの考えを見透かしてやがる!」
ドクオは地面を蹴る。
(#`・ω・) 「・・・ボク達を弄んでいるのか!」
普段、めったな事では怒らないショボンまでもが怒声を上げる。
37 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:15:58.17 ID:KtRk4nQP0
しぃはうつむき、ブーンはそんな皆を見てオロオロしている。
(*゚ー゚) 「・・・・・・」
(;^ω^) 「こ、こういう時こそポジティブシンキングだお。諦めたらそこで試合終了だって先生も言ってたお」
だがこれではもう、電話局の調査船のほうも当てにはならないだろう。
ブーンの言葉に反応する者はなく、それぞれ別の方を見て押し黙る。
そのまま数分が過ぎた。
そして───
………ア゙〜…ア゙ゥ〜……
かすかに呻き声が聞こえてくる。
そして足を引きずる音。
('A`;) 「! ヤツらだ!」
ドクオは念の為に持ってきていたマグライトをナップザックから取り出す。
その声に反応し、皆もそれぞれのライトを取り出し構える。
('A`;) 「ここは見通しがよすぎる。ひとまずあそこに隠れるぞ」
ドクオは近くの倉庫を指差す。
幸い、まだ屍人の姿は見えない。
皆は一斉に倉庫目指して走り出す。
39 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:19:00.12 ID:KtRk4nQP0
【ニ日目/異界/08時07分50秒/海蛇漁港・倉庫】
なんとか屍人に見つかる前に倉庫に身を隠す事が出来た。
ドクオは倉庫の扉を少しだけ開け、外の様子をうかがっている。
('A`) 「チッ、うじゃうじゃ出てきやがったぜ・・・ん?」
次第にその数を増していく屍人達は、昨日と変わらぬ緩慢な動きで、皆が同じ方向に向かって歩いていた。
あの先にあるのは……海岸だ。
('A`) 「どうやらヤツら、海岸に向かってるようだな」
(´・ω・) 「・・・もしかしたら、また海に入りに行くのかもね」
ξ;゚?゚)ξ 「何のためにかしら・・・?」
その行動の意味するところまではわからないが、
屍人達が赤い海に入りに行くのならば、その間に安全に倉庫を抜け出せる。
今、屍人が群れている状態で出ていくのは無謀だった。
沈黙の時が過ぎていく。
誰も何も話さない。
再び異界に巻き込まれたショックはもちろん大きかったが、
それ以外にも、もしかしたらそれ以上にショッキングかもしれない、『ある事』に皆が気付いていた。
40 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:22:21.24 ID:KtRk4nQP0
やけに喉が渇く。
いや、体全体が欲している。
飲みたい。
─── 赤 イ 水 ガ 飲 ミ タ イ
そして赤い海に入りたい。頭の先までどっぷりと浸りたい。
それは先程のサイレンを聞いたとき、再び異界に巻き込まれた直後から感じていた。
最初のサイレンのときは、なんともなかったのに。
このままサイレンを聞き続け、最後には渇望を抑えきれずに赤い水を飲んでしまうのだろうか?
恐怖だった。
あの屍人達の仲間に自分も加わってしまうのだろうか?
屍人になった後はどうなってしまうのだろう?
もう元の暮らしには戻れないのだろうか?
あの平凡ながらも、楽しかった日々は返ってはこないのだろうか?
そして、もし赤い水を欲しているのが自分だけだったとしたら……?
それもまた恐ろしい考えだった。
皆、同じように考え、その結果、重苦しい沈黙を作りだしていた。
(;^ω^) 「なんか赤い水が飲みたいお」
('A`)´・ω・) ゚?゚)ξ*゚ー゚) 「ちょwwwおまwwwwww」
41 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:25:13.87 ID:KtRk4nQP0
【ニ日目/異界/08時25分32秒/海蛇漁港・倉庫】
ブーンが赤い水の件をさっさとカミングアウトしてくれたおかげで、一同の雰囲気は幾分和らいでいた。
不謹慎かもしれないが、自分一人だけではなかったという事実にホッとする。
もちろんそれが何の解決にもなっていない事は、皆よくわかってはいるのだが。
20分ほど経った頃には、倉庫の前を通る屍人はほとんどいなくなっていた。
そろそろ、ここを出る頃合だろう。
これ以上待っていると、今度は海に入っていった屍人達が還ってきてしまう。
余り時間を無駄にする訳にはいかない。
倉庫内からは海岸を見る事が出来ないので確かではないが、
扉の隙間から見た限りでは、海から還ってきた屍人はまだいなさそうだった。
('A`) 「よし、行くぞ。念の為、ライトはいつでも点けられるようにしとけよ」
顔を見合わせ、皆が同時にうなづく。
ドクオは外に屍人の気配が無い事を確認し、ゆっくりと扉を開けて出ていこうとする。
そのとき、倉庫の角から不意に現れた一体の屍人と鉢合わせしてしまった。
('A`;) 「ぬぉっ!」
急いでマグライトの明りを点け、その光で屍人を照らそうとしてドクオは気付く。
その屍人からは、襲いかかってこようとする気配が全く感じられないのだ。
いつも感じる殺気のようなものも漂っていない。
ドクオが様子をうかがっていると、屍人は視線すら合わさずに前を通り過ぎて行ってしまった。
その歩く先── 赤い海しか意識にないのだろう。
どうやらサイレンが鳴ってから海に入るまでの屍人は無害なようだ。
42 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:26:51.14 ID:KtRk4nQP0
こんな事なら倉庫になど隠れていないで、さっさと移動しておけばよかった。
ドクオはそう思いながら額の汗を拭い、倉庫内の皆に声を掛ける。
('A`) 「・・・いいぞ、みんな出てこい」
辺りを見回しながら、四人がおそるおそる外に出てくる。
そして最後に出てきたしぃが、後ろ手に扉を閉める。
カチャリ……
その扉が閉まる音がまるで合図かのように、倉庫の左右の角から屍人達が一斉に飛び出してくる!
ア゙ ァ゙ 〜 ! ヴ ァ ア ァ゙ ァ゙ ア ァ ア゙ ア゙ ァ ァ゙ ァ゙ 〜〜〜!!
屍人達は獲物を確認し、一斉に気味の悪い呻き声を上げる。
その屍人達は皆、全身赤い水に濡れていた。
二度目の海還り(うみがえり)をしたモノ達だ。
その屍人達に、倉庫はいつの間にか囲まれていたのだ。
43 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:28:26.36 ID:KtRk4nQP0
('A`;) 「チッ!待ち伏せかよ!」
(;`・ω・) 「みんな、円になって!」
皆は急いでライトを点け、輪になりながらその光を左右から迫ってくる屍人に向ける。
ヴ ォ ア゙ ァ ァ゙ ア ア゙ ー ッ!!!
ライトの光に照らされた屍人は異様な叫び声を上げ、その場でうずくまる。
しぃの言った通り、確かに光は屍人に効果があった。
だが、ダメージは与えられても、撃退するまでには至らないようだ。
屍人は複数いるので標的を次々と切り替えねばならないが、
そうしている内にも、最初に光の攻撃を食らった屍人は復活してくる。
迫り来る屍人は二十体以上いる。
このままでは、いつかは取り囲まれて捕まってしまうだろう。
だが、左右から挟まれてはいるものの、前方はまだ開いている。
今なら完全に囲まれる前に逃げ切れる。
そう判断したドクオは、ライトを屍人に向けながら叫ぶ。
('A`;) 「キリがねぇ、走るぞ!」
その声に、ブーン達は一斉に前方に走り出す。
44 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:30:14.41 ID:KtRk4nQP0
だが、慌てていたしぃはライトを取り落としてしまった。
(*゚ー゚) 「あっ・・・!」
ツンは足元に転がってきたそれを運悪く踏んでしまい、派手に転倒してしまう。
ξ;>?<)ξ 「キャアッ!」
それを見て立ち止まるしぃ。
(*゚ー゚) 「ツンさん!」
('A`;) 「ツンッ!!」
近くにいたドクオが駆け寄り、ツンの腕を掴んで助け起こそうする。
しぃも反対の腕を取り、ツンを起こす手伝いをするが、
そうしている間にも、一体の屍人がツンを捕まえようと手を伸ばしてくる。
('A`#) 「オラァッ!」
ゴ キ ッ !
ドクオのマグライトの柄が、その屍人の顔面にヒットする。
よろめく屍人。
45 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:32:11.47 ID:KtRk4nQP0
屍人の包囲をすでに抜け出していたブーンとショボンが、
少し離れた場所から、三人に群がる屍人達を次々と光で照らす。
(;^ω^) 「三人とも早くこっち来るお!」
(;`・ω・) 「ブーン、一点集中で逃げ道を確保するんだ!」
そのライトの攻撃で、三人に迫る屍人の包囲にわずかな切れ目が出来るが、他の屍人達もすぐ傍まで迫って来ている。
その動きは昨日よりも格段に素早い。
('A`;) 「こ、こいつら速ぇ!?ツン、走んぞっ!」
ξ;゚?゚)ξ 「は、はいっ!」
ドクオに手を引かれたツンは、走ろうと足に力を込める。
が、右足にうまく力がはいらない。
それでもツンは無我夢中で地面を蹴った。
屍人の手が、ツンの長い髪の先を掴もうとする。
しかし、髪はギリギリでその手をすり抜け、屍人はバランスを崩して転倒する。
(*゚ー゚) 「きゃっ・・・!」
二人について行こうとしたしぃは、その転んだ屍人の腕に足を取られ、その場でたたらを踏む。
46 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:33:53.55 ID:KtRk4nQP0
前を行くドクオとツンにあっという間に置いていかれ、しぃは屍人達の只中に取り残されてしまった。
(;^ω^);`・ω・) 「危ない(お)、しぃちゃん!!」
その様子を見ていたブーンとショボンが、しぃを取り囲む屍人達にライトを向ける。
ヴ ァ オ゙ ォ オ ァ゙ ー ッ!!!
ブーン達の攻撃を食らって動きの止まった屍人達の隙間を、小柄な体を活かして上手くすり抜けるしぃ。
だが、ブーン達とは逆の方向に逃げてしまった為に、屍人達の壁で四人と分断されてしまう。
(;`・ω・) 「しぃちゃん、そのまま逃げて!学校で会おう!」
ここで無理に合流しようとすれば、しぃが捕まってしまう危険性が高い。
ショボンはそう判断し、しぃに向かって叫ぶ。
(*゚ー゚) 「う、うんっ!」
しぃはうなづくと、そのまま倉庫の角を曲がって走り去る。
姿の見えなくなったしぃを追う事を早々に諦めた屍人達は、再び四人に迫ってくる。
(;`・ω・) 「ドクオ君、急いで!」
('A`;) 「おぉ!」
(;^ω^) 「ここは僕達に任せるお!」
痛めた足を引きずるツンにドクオは肩を貸すが、そのため移動速度はどうしても遅くなってしまう。
ブーンとショボンがしつこく追いすがる屍人達をライトで威嚇しながら、必死でその場を逃げ出した。
48 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:37:07.00 ID:KtRk4nQP0
【ニ日目/異界/08時37分09秒/羽生蛇商店街・ひろぽんマート】
ブーン達はひとまず商店街通りのコンビニ、ひろぽんマートに身を隠していた。
ここで、しぃが落としてしまったハンディライトの替わりの懐中電灯を手に入れる。
学校で合流予定のしぃに渡す為だ。
屍人達を撒く事は、思っていたよりも簡単ではなかった。
まだ人間並みとはいえないが、昨日よりも明らかに動きが速くなっていたからだ。
しかも大きな唸り声を上げて仲間を呼び、執拗に追ってくる。
これは二度目の海還りの効果なのだろうか?
全ての屍人がそうなっているのならば、非常に厄介な事になる。
更に厄介な事に、ツンの怪我は打ち身や擦り傷ではなく捻挫だった。
足首の腫れもかなり酷く、とても走れそうにない。
それどころか、しばらくはまともに歩く事さえ困難だろう。
冷凍コーナーにあった袋入りの氷で患部を冷やしていたツンが強がる。
ξ ゚?゚)ξ 「この程度のケガなんて、どってことないわよ。いざとなったら逆立ちしてでも走るわ」
('A`) 「んなことしたら、またパンツ見えるぞ。あ、今日はジーンズだか・・・」
メ キ ッ !
ξ#゚-゚)ξ 「殴るわね?」
('A(::) 「もう殴られてね?」
(;^ω^) 「動いたら包帯巻きにくいお」
昨日のお返しにと、、慣れない手つきでツンの足首に包帯を巻くブーン。
なにやらミイラのようなグルグル巻きになってしまっているのだが……
50 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:39:13.35 ID:KtRk4nQP0
そのとき、外を見張っていたショボンが抑えた声で皆に告げる。
(;´・ω・) 「ヤツらが戻ってきたよ!」
一同に緊張が走り、急いで棚などの物陰に隠れて外の様子をうかがう。
しばらくして二体の屍人が店の前をウロウロし始める。
やはりその身のこなしは以前よりも滑らかで素早い。
その屍人達はキョロキョロと辺りを見回すと、店に入っては来ずにどこかへ行ってしまった。
ホッとする一同。
だが、いつまでもここにいるのは危険だ。
('A`) 「なんかオレらを捜してる様子だったな」
(´・ω・) 「・・・そうだね。倉庫での待ち伏せといい、狙いはボクらだろうね」
(;^ω^) 「は、はやく学校に行ったほうがいいお」
ξ;゚?゚)ξ 「そうね。しぃの事も心配だし・・・」
ドクオは腕を組んで考える。
村外れにある学校なら、少なくともここよりは安全だろう。
だが、ここから学校までは結構な距離がある。
怪我人のツンを連れて、無事にたどり着けるだろうか。
また先程のように屍人に囲まれてしまったら、次は逃げ切る自信がなかった。
しかし、しぃと学校で落ち合う約束になっている。
連絡が取れない以上、待ち合わせ場所を変える事は出来ない。
頭を上げ、ドクオがキッパリと言う。
('A`) 「オレが囮になる。ヤツらを引き付けている間に裏口から逃げろ」
53 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:41:21.26 ID:KtRk4nQP0
皆が驚いた顔でドクオを見る。
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、あんた何言ってんのよ!」
(;´・ω・) 「いくらドクオ君でも、それは危険過ぎるよ!」
(;^ω^) 「ドクオ君がいないと不安だお、怖いお、心細いお!」
皆が一斉に喋り、それをドクオが煩そうに手を振って止める。
('A`#) 「この状況じゃ、四人一緒に動くほうが危険だろが」
ξ;゚?゚)ξ 「でも、私のせいでドクオが・・・」
('A`) 「別におまえの為じゃないっつーの。自惚れんな。」
ξ#゚?゚)ξ 「なっ、なによ、その言い方!私はあんたの事を心配し・・・」
言い合う二人の隣りでなにやら考え込んでいたブーンが、ツンの言葉を遮って手を挙げる。
(;^ω^)∩ 「ぼ、僕がやるお」
(゚A゚) (´゚ω゚ )ξ゚?゚)ξ 「はい?」
(;^ω^)∩ 「だから、僕がドクオ君の代わりに囮になるお」
店内が先程以上の喧騒に包まれる。
('A`;) 「ブーン、おまえ何言ってるかわかってんのか!?どこかで頭でも打ったか?」
ξ;゚?゚)ξ 「ヘンなモノ拾い食いでもしたの!?あんたに囮役なんて無理に決まってるでしょ!」
(;´・ω・) 「ブーン一人でなんて、わざわざ捕まりに行くようなもんだよ!鴨、ネギ、鍋の三重奏だよ!」
(#^ω^) 「みんなうるさいお!僕は逃げ足だけなら誰にも負けないお!」
57 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:43:52.93 ID:KtRk4nQP0
珍しく怒鳴ったブーンを見て、一同はシーンとなる。
血走って赤くなったその目は、妙に迫力があった。
( ^ω^) 「僕が羽生蛇学校のアイルトンって呼ばれてるのは、みんな知ってるお?」
('A`)。oO(呼ばれてねーし。つか、なんでファーストネーム?)
( ^ω^) 「それにいざとなったら、ドクオ君ならツンちゃんを背負って走れるお。僕やショボンじゃ無理だお」
ξ;゚-゚)ξ 「ブーン、あんたそこまで考えて・・・」
( ^ω^) 「あんまり足の速くないショボンには、この役は無理だお?」
(´・ω・) 「それは、確かにそうだけど・・・」
('A`;) 「ブーン、おまえ・・・・・・結構まともに考えてたんだな」
(#^ω^) 「黙らっしゃいお」
廃校舎で合流する約束をすると、ブーンは正面出入り口のほうに、他の三人は裏口に回る。
ブーンはガラス越しに店の前の通りを確認する。
そこには見えるだけでも、五体の屍人がウロウロしていた。
(;^ω^) 「うゎ、結構いるお・・・」
膝がガクガク震える。だが、ここで音を上げる訳にはいかない。
三人が無事学校にたどり着けるかどうかは、自分の働きいかんに掛かっているのだ。
汗ばんだ手で強くマグライトを握り締める。
⊂(;^ω^)⊃ 「みんな、学校で会うお!ブーン、行きまぁーーーす!ぉ」
ブーンはそう叫ぶと、勢いよく通りに飛び出していった。
58 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:46:11.51 ID:KtRk4nQP0
【ニ日目/異界/09時01分21秒/羽生蛇商店街・裏通り】
ブーンが飛び出してからしばらくして、ドクオは一人裏口からソーッと出てゆく。
付近を注意深く確認するが、屍人の姿はない。
大声を上げながら走るブーンの誘いに、上手くのってくれたようだ。
ツンに肩を貸すため裏口まで戻ろうとしたドクオは、赤い空に灰色の煙が立ち昇っている事に気付く。
そして、その煙はみるみる内に勢いを増していく。
目指す学校とは逆の方向、あれは海岸の外れのほう── 朧(おぼろ)神社がある方角だ。
('A`)。oO(まさかヤツら神社まで・・・?)
だが、電話局や船ならまだしも、神社を燃やす理由がドクオには見当つかなかった。
燃えているのは神社ではないのだろうか?
どちらにせよ、今は煙の出所を確認している余裕などないのだが。
ドクオが顎で示す煙を見て、ツンが辛そうにつぶやく。
ξ;゚-゚)ξ 「あれ、神社の方角よね?もしそうなら、なんて罰当たりなことを・・・」
61 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:47:47.96 ID:KtRk4nQP0
この村では、土着の神に対する信仰は未だ根強く残っている。
それはツン達のような若者も例外ではなかった。
(;´・ω・) 「酷い・・・一体、何の目的で・・・?」
('A`) 「民家に飛び火しなきゃいいんだがな・・・さあ急ぐぞ。ツン、大丈夫か?」
ξ*゚?゚)ξ 「あ、当たり前でしょっ!あんたがどうしてもって言うから、肩を借りてるだけなんだからね!」
肩越しに覗き込むドクオの脇で、ツンは真っ赤になって顔をそらす。
('A`)。oO(? そんなに痛むのか?)
そんな二人の隣りで、ショボンは深刻な顔で何事かを考え込んでいた。
(;´・ω・)。oO(この放火のタイミング・・・昨日といい今日といい、まさか・・・)
('A`) 「ん?どうかしたか、ショボン?」
(;´・ω・) 「う、ううん、なんでもないよ。さ、早く行こう!」
ξ ゚?゚)ξ 「そうね、もう行きましょ」
ドクオとツンの背後をショボンが守る形で、三人は足早にコンビニを後にする。
65 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:49:50.93 ID:KtRk4nQP0
【ニ日目/異界/09時02分14秒/羽生蛇商店街・表通り】
⊂(;^ω^)⊃ 「ブーンブーンブーン♪ はしるよろこび〜〜〜♪」
ブーンはなるべく屍人の注意を惹くよう大声を出しながら、学校とは逆方向に向かって疾走する。
そんなブーンに屍人達はすぐさま気付き、奇声を上げながら追ってくる。
⊂(;^ω^)⊃ 「あゎわ、ききき、来たお!」
あっという間にブーンを追う屍人の数は十体近くになる。
だが、昨日よりも動きが速くなったとはいえ、まだ人間のそれには及ばない。
ましてや、本気になったブーンの逃げ足に追いつけるはずもなかった。
⊂(;^ω^)⊃ 「そ、そんなぬるぽな動きじゃ、この僕は止められないお・・・あっ!」
ブーンの声に惹き寄せられ、今度は前方の横道から二体の屍人が姿を現した。
だが、まだ距離は充分にある。
66 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/11(木) 00:51:07.94 ID:KtRk4nQP0
走りながら二体の屍人にライトを向け、次々に照らす。
悲鳴を上げ、よろめく屍人達。
その二体の間をブーンが走り抜けようとした瞬間、右側の屍人がブーンに向かって手を伸ばす。
ガ ッ !
その手がライトにぶつかり、ブーンはライトを落としてしまった。
(;^ω^) 「し、しまったお!」
転がるライトを慌てて追いかけるブーン。
だがその間に、二体の屍人はダメージから回復してしまう。
ライトを掴んだ瞬間、ブーンは強い力でその場に引きずり倒された。
(ヽ゚д゚)A 「ア゙、ア゙、ア゙、ア゙、ア゙バァ゙オォ゙ァア゙ッ!」
(;^ω^) 「み、見逃してくれお!僕はこの戦いから戻ったら婚約者とけっこ・・・」
(ヽ゚д゚)B 「グェ゙ッ、グゲェッ゙、ゲエ゙ェェ゙ェエ゙ッ!」
ブーンの懇願には耳を貸さず、体にのしかかってくる屍人達。
(;゚ω゚) 「アッーーー!!」
ブーンの悲鳴が商店街に虚しく響く───
2 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:06:49.92 ID:ZvbGnd4z0
《 四章 還らざる者 》
【ニ日目/異界/09時23分19秒/羽生蛇学校・廃校舎】
ドクオ達三人は、なんとか無事に学校までたどり着く事が出来た。
屍人の目を避ける為、一度村の外に出て大回りをしてきた分、かなり時間を消費してはいたが。
交代でツンに肩を貸していたドクオとショボンは、教室に入るなり座り込む。
と同時に、肩で息をしたしぃが教室に駆け込んで来た。
(*゚ー゚) 「ハァ・・・ハァ・・・」
(;´・ω・) 「しぃちゃん、よかった!」
ξ;゚ヮ゚)ξ 「しぃ、無事だったのね!」
(*゚ー゚) 「みなさんもご無事でなによりです・・・あれ、ブーン君は?」
('A`) 「・・・ブーンはまだだ」
ドクオが囮になったブーンの事を話す。
それを聞いたしぃは、一転して暗い表情になる。
(*゚ー゚) 「・・・ブーン君に何もなければいいんですが」
('A`) 「オレ達があいつを信じてやらなくてどうする?」
(*゚ー゚) 「そうですね・・・ブーン君ならきっと大丈夫です」
そう返事をすると、しぃはツンの額の汗をハンカチで拭い始める。
3 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:08:18.00 ID:ZvbGnd4z0
挫いた足は相当痛むのだろう、その額には玉のような汗が浮かんでいた。
(*゚ー゚) 「ツンさん、すごい汗・・・やっぱり痛みますか?」
ξ;゚ヮ゚)ξ 「別にたいした事ないわ。最近、運動不足で体がなまっていただけよ」
(*゚ー゚) 「ごめんなさい、あたしがライトを落としたせいで・・・」
ξ ゚ヮ゚)ξ 「なに言ってんの、しぃのせいじゃないわ。私がトロかっただけよ」
申し訳なさそうな表情のしぃを元気付けながら、ツンはある事に気が付く。
ξ ゚?゚)ξ 「ねぇ、しぃ。あなた、服はどうしたの?」
(*゚ー゚) 「え・・・?」
しぃはいつの間にか、膝下丈のハーフパンツと長袖のシャツに着替えていたのだ。
皆と別々になる前は、確かにワンピースを着ていたのだが。
(*゚ー゚) 「あ、さっきツンさんに注意されたから着替えてきたんです。このほうが動きやすいですし」
ξ ゚-゚)ξ 「そう・・・そうね、そのほうがいいかもね」
ツンはそう返事をしながら、よく屍人から逃げながら服を着替えてくる余裕があったな、と疑問に思う。
今しぃが着ている服も、ツンが以前譲った自分のお古だ。
それは昨日、しぃの部屋から見たあの人影が着ていた服によく似たものだった。
そういえば、あの日記の続きには何が書かれていたのだろう……?
せっかく忘れていた事を、ツンは思い出してしまった。
そこまで考えて、それらの事をむりやり意識から遠ざける。
これ以上、深く考えるのが怖かったからだ。
4 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:10:10.15 ID:ZvbGnd4z0
二人のやりとりを何とはなしに聞きながら、ショボンはこれからどうすればいいのかを考えていた。
屍人の弱点はわかったが、それだけでは根本的な問題は解決しない。
屍人の進化
赤い水への欲求
ツンの負傷
事態は加速度的に悪化してゆく。しかも、外部への連絡手段も逃げ場もない。
このまま解決策を見出せなければ、遠からず屍人の仲間入りだろう。
ショボンは頭を振って嫌な想像を追い払おうとする。
しかし、いくら頭を振っても、新たに沸き上がってくる疑惑を消す事は難しかった。
まだ誰にも話してはいなかったが、ショボンは屍人を操る存在── 屍人操者がいると考えている。
それは倉庫で屍人に囲まれたときに確信した。
あのとき屍人の中にはリーダー的存在を認められなかったが、確かに組織的に動いていた。
今までの屍人には見られなかった行動だった。
だが、コンビニの前にいた屍人は、自分達を捜している様子だったにもかかわらず、
店内に入って来ようとすらしなかった。
それはつまり倉庫では屍人操者が近くにいて、コンビニではいなかった、という事なのではないだろうか?
そして、昨日と今日の建物や船への放火だ。
恐らくあれらも屍人操者が現場近くにいて、屍人達に火を点けるよう命令したのだろう。
倉庫のときに自分達のそばにいて、火事のときにはいなかった者───
思い当たるのは一人しかいなかった。
いや、そんなはずはない!
ショボンは眉間に皺を寄せ、固く目をつぶる。
彼女がそんな事をするはずがない。
5 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:12:24.15 ID:ZvbGnd4z0
第一、屍人の弱点を教えてくれたのは彼女ではないか。
彼女が屍人操者なら、それは明らかな矛盾点だ。
やはり彼女ではない、彼女であるはずがない。
憶測で大切な友達を疑ってしまった事を、ショボンは激しく後悔した。
ショボンが懺悔の気持ちで彼女を見つめていると、その視線に気付いたしぃが傍にやってくる。
(*゚ー゚) 「・・・どうかしたの?」
(;´・ω・) 「う、ううん。なんでもないよ」
(*゚ー゚) 「そう?・・・ならいいんだけど。ブーン君の事、心配だね・・・」
小首をかしげ、ショボンをいたわるように微笑むしぃ。
その優しく思いやりに満ちた笑顔は、ショボンの嫌な想像を脳裏から払拭した。
(*゚ー゚) 「・・・ねぇ、ショボン君。あたし、ずっと考えてたんだけど・・・」
(´・ω・) 「なに、しぃちゃん?」
(*゚ー゚) 「あのね。今回の事件の原因は、やっぱりあのサイレンだと思うの・・・」
(´・ω・) 「うん、ボクもそれは間違いないと思うけど」
異界に引き込まれたときも、この世界に戻ってきたときも、共にあのサイレンが鳴った直後だった。
サイレンがこの怪異現象を引き起こす原因、もしくは発端になっている事は疑いようがないだろう。
(*゚ー゚) 「それでね。あのサイレンはどこで鳴ってるのかな、って思って」
(;`・ω・) 「・・・!そうか、それだよ!ねぇ、ドクオく・・・」
ショボンがドクオ達を振り向いたとき、教室の扉が大きな音をたてて開いた。
皆が驚いてそちらを見ると、そこには息を切らしたブーンが立っていた。
(;^ω(::) 「あ、危なかったお・・・ハードゲイ危機一発だったお」
('∀`;);゚ヮ゚)ξ;´・ω・)*゚ー゚) 「ブーン(君)!」
6 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:14:40.86 ID:ZvbGnd4z0
【ニ日目/異界/09時04分33秒/羽生蛇商店街・表通り】
時は30分程さかのぼる───
ブーンは二体の屍人に路上に組み敷かれ、身動き一つとれなくなっていた。
その内の一体が、ブーンに赤い水を飲ませようと口を近づけてくる。
いつもは能天気なブーンも、さすがに今回は覚悟を決めていた。
昨日の廃校舎のときのように、ショボンやドクオの助けは当てに出来ない。
ライトを握った腕さえ動かせない今の自分一人では、もうどうしようもなかった。
赤い目と口とを大きく開いた屍人の顔が、眼前まで迫ってくる。
それでも、最後の最後まで抵抗し続けるつもりだった。
自分がこうして少しでも敵を惹き付けておけば、それだけショボン達の危険を減らす事になる。
己に課せられた役割だけは最後まで果たそうと強く思った。
ブーンは大声で言葉にならない何かを喚き散らしながら、頭を左右に振る。
(゚ω゚;三;゚ω゚) 「g$のう%8※9*0〆t4q;い@お!!!」
だが、近寄ってきた三体目の屍人が、ブーンの頭と顎を恐ろしい力で掴む。
もう大声を上げる事すら出来ない。
目の前の屍人の口の中から、赤い水が溢れ出す。
恐怖に耐え切れず、ブーンは目を閉じた。
(;´ω`)。oO(ばぁちゃん!みんな!!)
7 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:16:17.02 ID:ZvbGnd4z0
突如、ブーンの頭を掴んでいた屍人の力が緩まった。
赤い水が顔に降り注ぐ事もない。
ブーンが恐る恐る目を開けると───
(ヽ゚Д゚)Σ(゚ω゚;)
すぐ目の前に恐ろしい形相の屍人の顔があった。
それを見て、悲鳴を上げて体をひねるブーン。
すると上にのしかかった屍人は、何の抵抗もなく路上に転がった。
ブーンは慌てて立ち上がると、屍人達を見る。
自分を押さえ付けていた屍人達の動きが止まっていた。
それだけではない。
周りに集まって来ていた全ての屍人も同じだった。
ライトで照らされたときとは違う、まるで時が止まりでもしたかのような感じだ。
あるモノは立ったまま、あるモノはしゃがんだまま、その動きを完全に止めていた。
(;^ω^) 「・・・な、何が起こったんだお?僕は、ザ・ワールドの力を手に入れたのかお?うりぃ?」
何が起こったにせよ、助かった事には間違いない。
ブーンは深く考えるのを止め、一目散にその場を逃げ出した。
近くの建物の影から自分を見つめる、その人影に気付く事なく……
|ー゚)。oO(・・・君にはもう少し役に立ってもらわないとね・・・・・・)
ブーンが走り去ると、屍人達は何事もなかったかのように動きだした。
8 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:17:51.56 ID:ZvbGnd4z0
【ニ日目/異界/09時31分42秒/羽生蛇学校・廃校舎】
体も服もボロボロになったブーンを見て、皆が口々に話し掛ける。
(;´・ω・) 「ブーン、無事で良かった!」
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、あんたその格好、大丈夫なの!?」
('A`;) 「ブーン、おまえ・・・!」
(*゚ー゚) 「ブーン君、そのケガ・・・」
(;^ω(::) 「ちょちょちょ、ちょっと待ってお」
矢継ぎ早な質問を制して、ブーンは教室の隅に転がっているリュックに近づく。
( ^ω(::) 「ノドが渇いたお。確かまだ飲み物が・・・あ、あったお」
そしてリュックからペットボトルを取り出して蓋を開けると、それを一気に口に含んだ。
(;゚ω(::)・∵. 「ごくごく。おいしいお・・・ヴフォアッー!」
だが、なぜかブーンは突然飲み物を吹き出し、ペットボトルを床に落としてしまう。
転がったペットボトルからは、ドロリと赤い液体が流れ出す。
近くまで転がってきたボトルを拾い上げて、ドクオが声を失った。
('A`;) 「なに吹いてん・・・・・・なっ!?」
9 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:19:23.83 ID:ZvbGnd4z0
紅茶の物だと思っていたボトルのラベルには、『雄蛇ヶ岳の天然水』と書かれていた。
('A`;) 「な、なんだこりゃあっ!ボトルの水が赤い水になってやがる!」
(;´・ω・);゚?゚)ξ*゚ー゚) 「えっ!」
一斉にドクオの手元のボトルを見、その後ブーンを見る三人。
⊂(;^ω(::)⊃ 「だ、大丈夫、全部吐き出したお。三秒ルールのおかげでセフセフだお!」
ミ⊃⊂彡
ブーンはそう言いながら、急速に体力が回復していくのを感じていた。
いや、むしろ回復を通り越し、体中に力がみなぎってくる。
こころなしか怪我の痛みも薄れている気がした。
弁解するブーンに皆は疑いの視線を向けたが、あえてそれ以上は追求しなかった。
本当の事を聞き出すのが怖かったせいもあるが、
なにより、今まで忘れていた赤い水への欲求を思い出してしまったからである。
赤 イ 水 ガ 飲 ミ タ イ ィ ィ ィ ……
ドクオは不愉快そうに、手に取ったペットボトルを教室の隅に投げ捨てる。
鈍い音をたてて壁にぶつかったボトルは、転がりながら赤い水を垂れ流した。
10 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:20:46.94 ID:ZvbGnd4z0
ショボンは床を濡らす赤い水を物欲しそうに眺めながら考える。
昨日までは、ペットボトルの中身は間違いなくただの飲み物だった。
─── これは異界の力が増している、という事なのだろうか?
ショボンは赤い水から意識をそらす為に、先程思い付いた事を話し始める。
(´・ω・) 「ねえ、みんな。ちょっと聞いてもらいたいんだけど・・・」
一同がショボンに注目する。
(´・ω・) 「あのサイレンが全ての元凶なのは間違いないと思うんだけど」
皆、うなづく。
ショボンに言われるまでもなく、それは誰もがそう思っていた。
(´・ω・) 「だから、あのサイレンの発信源に何があるのか、探ってみる必要があるんじゃないかな?」
('A`) 「んな事言ったって、どこで鳴ってるかもわかんねぇのに・・・」
ドクオのその言葉を聞いて、ショボンの顔がシャキーンとなる。
11 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:23:41.03 ID:ZvbGnd4z0
(`・ω・) 「思い出してみて。最初のサイレンはピクニックの場所から南西、つまり村の方角から聞こえたよね?」
ξ ゚?゚)ξ 「次のサイレンは、学校から見て北東の方角・・・あっ、ピクニックの目的地のほうね」
('A`) 「・・・そうか!三度目は方角を気にしてる余裕はなかったが、もし同じ方角だとしたら・・・」
(*゚ー゚) 「つまり、村とピクニック地点の中間・・・・・・お社?」
(`・ω・) 「その通り!」
( ^ω^) 「謎は全て解けたお!犯人はこの中にいるお!」
('A`)´・ω・) ゚?゚)ξ*゚ー゚) 「はいはい、じっちゃんの名にかけて、名にかけて」
考えてみれば単純な事だった。
なぜもっと早く気付けなかったのだろう、とショボンは悔やむ。
それだけ精神的に余裕がなかったという事なのだろうが、
もう少し早ければ、もしかしたら定期便の人達を巻き込まなくて済んだかもしれない。
そう思うと胸が痛んだ。
だが、いまさら悔やんだ所でどうなる訳でもない。
今は自分達が助かるよう、そして村の皆を救えるように全力を尽くすだけだ。
('A`) 「よし、そうと決まりゃ善は急げだ。ツン、歩けるか?」
ξ ゚ヮ゚)ξ 「当たり前でしょ」
( ^ω^) 「出発だお!」
笑ってドクオに返事をしたものの、ツンの胸中は複雑だった。
ξ ゚-゚)ξ。oO(お社・・・か)
もし今から目指す場所に怪異現象の原因があるとすれば、ツンにとってそれはとても残念な事だった。
13 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:26:06.83 ID:ZvbGnd4z0
【ツンの想い出】
お社(やしろ)はツンにとって、想い出深い場所であった。
一人っ子だったツンは、幼い頃からずっと妹が欲しかった。
それで祖母に連れられてお社に行き、よく掃除などをしたものだった。
お社に祀られている島の守り神の虚朧子(うろぼろす)は両性具有といわれ、子宝の神でもあったからだ。
幼いながらに一所懸命掃除をし、そしてお祈りしたのだった。
可愛い妹が欲しい、と───
祖母が亡くなり、お社への足も遠のいてしばらく後、しぃが転校してきた。
最初は普通とは少し違う容姿に惹かれたのだが、何回か話しをしている内にその内面に魅せられていった。
しぃは人見知りをする性格だったため、すぐに打ち解ける事は出来なかったが、
時間をかけてゆっくりと仲良くなっていった。
しぃはしぃなりに自分に懐き、徐々に心を開いていってくれた。
ツンは幼い頃の願いがようやく叶ったのだと、神に感謝した。
しぃは自分とは正反対の性格で、とても可愛いらしい女の子だった。
内気で、引っ込み思案で、臆病なところはあったが、それすらも彼女の魅力の一部と思えた。
なぜこんなにも無条件に惹かれるのかは、自分でもよくわからなかった。
自分が彼女のようになりたいと思っていた訳でもない。
だが、もし娘が産まれたらしぃのような子に育てたい、などと勝手に想像したりもしていた。
妹が欲しいという願いは、いつしか娘が欲しいという想いに変わっていった───
18 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:30:58.34 ID:ZvbGnd4z0
【ニ日目/異界/09時35分11秒/羽生蛇学校・廃校舎脇】
ツンとしぃを廃校舎の出口に待機させ、ブーン・ドクオ・ショボンの三人は念入りに辺りを確認する。
視界が効く範囲で、屍人が隠れられそうな場所は全て捜した。
お社までは視界を遮るような物は何も無く、お社自体も見通しのよい小高い丘の上に建っている。
また、お社には屋根と壁があり、家の様相を呈してはいたが、
15m四方程度の大きさしかなく、内部に隠れられるような場所はない。
つまり、学校を出る際に見つかって追われたら逃げ場はないのだ。
屍人の姿がどこにも見当たらない事を確認すると、一同は学校を出る。
村の外れからお社までの道は、緩やかな登り坂になっている。
足を挫いているツンには多少きついかもしれないが、少しでも早く村から離れたい。
ゆっくりしていれば、それだけ見つかる可能性が高くなるからだ。
ドクオがツンに肩を貸し、出来る限り足早に坂を登り始める。
22 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:33:45.55 ID:ZvbGnd4z0
【ニ日目/異界/09時49分50秒/お社へ続く坂道】
ここまでくればもう大丈夫だろう、ドクオは思った。
すでに村は薄闇に飲まれ、視認できないほど後方にある。
短時間の移動にもかかわらず、ツンの息はかなり上がっている。少し休ませたい。
そう思って歩く速度を緩めたとき、ドクオの背中に悪寒が走る。
後ろを振り返り、目を凝らす。
だが、その先は暗くて何も見えない。
( ^ω^) 「どうかしたかお?」
('A`;) 「シッ!」
ドクオは目を閉じ、耳を澄ます。
微かだが、遠くから屍人達の唸り声が風に乗って聞こえてくる。
('A`;) 「やべぇぞ・・・ヤツら追って来てやがる」
(;^ω^) 「ほ、ほんとかお?何も見えないお」
('A`;) 「間違いねぇ、急ぐぞ!」
ここまで来てしまったら村には戻れない。
こうなったらもう、お社に逃げ込むしかない。
入口にライトを向け、侵入しようとする屍人との持久戦になるだろう。
電池が切れるのが先か、次のサイレンが鳴り ── 鳴ったとしてだが ── 元の世界に戻るのが先か。
先の見えない分の悪い勝負だが、他に選択の余地はない。
28 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:37:37.53 ID:ZvbGnd4z0
ツンの息が荒くなる一方で、しかし歩くスピードはほとんど変わらない。
もう屍人達の唸り声は、背後からハッキリと聞こえてくる。
後ろを振り返ると、薄闇の中に屍人達の追ってくる姿が見え始めている。
群れといっていいだろう。その数は倉庫のときの倍は下らない。
ツンは苦しそうに肩で息をしている。誰が見ても、もう限界だった。
('A`;) 「ツン、オレにおぶされ、早く!」
ξ;゚?゚)ξ 「で・・・でも・・・!」
('A`;) 「いいから早くしろ!」
ξ;゚?゚)ξ 「は、はい!」
('A`;) 「しっかりつかまってろよ!うおぉぉぉぉおおっ!!」
ナップザック越しにツンを背負い、一気に坂を駆け登るドクオ。
しかし、このペースがお社まで持つはずがない。
ショボンはそれを危惧し、ブーンに呼び掛ける。
(;`・ω・) 「ブーン、ボク達でヤツらを食い止めよう!」
(;^ω^) 「わ、わかったお!」
('A`;) 「お、おいっ!」
(;`・ω・) 「ドクオ君はツンちゃんを早くお社に!しぃちゃんも!」
(*゚ー゚) 「う、うん・・・!」
(;`・ω・) 「いくよ、ブーン!」
(;^ω^) 「ガッテンだお!」
ショボンとブーンは振り返り、屍人の群れにライトを向ける。
30 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:39:52.08 ID:ZvbGnd4z0
距離があるせいか、光を当てても思ったよりダメージを与える事が出来ない。
数が多い為、照らす相手を頻繁に切り替えなくてはならないが、次のを攻撃しているとすぐに復活してくる。
ブーンとショボンは後ろ向きに走りながら屍人を照らし続けるが、その距離は次第に詰まってきてしまう。
(;`・ω・) 「ドクオ君、急いで!」
('A`;) 「お・・・おう・・・!」
ξ;゚?゚)ξ 「ドクオ、降ろして!私、もう走れる!」
('A`;) 「ふ、ふざ・・・けん・・・なぁッ!」
ツンを背負って走るドクオのペースは格段に落ちていた。
ブーンとショボンは後ろ向きで走っているにもかかわらず、すでにドクオとの距離はほとんどない。
ドクオの荒い息づかいが二人にも聞こえてくる。
(;`・ω・) 「ここで踏ん張るよ!いい、ブーン!?」
(;^ω^) 「の、望むところだお。羽生蛇学校の呂布といわれる僕の力を、ヤツらに見せてやるお!」
実際ブーンは、廃校舎で赤い水を口に含んでから体の調子がすこぶる良かった。
ここまで走ってきたにもかかわらず、ほとんど疲労を感じてなければ息も上がっていない。
今の自分なら屍人達を食い止められる自信があった。
(;^ω^) 「我こそはブリューン!マルダーンフ・マルダーンの称号を冠せられたつわものぞ!」
(;`・ω・) 「一人に集中するんじゃなく、テンポ良く照らすんだよ!」
照らす距離が近ければそれだけ与えるダメージも大きくなり、屍人の動きが止まる時間も長くなる。
一体当たりにかける照射時間が短くても、そこそこの時間が稼げるはずだ。
ショボンとブーンは覚悟を決め、その場で踏み止まって屍人の群れを迎え撃つ。
32 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:41:43.51 ID:ZvbGnd4z0
ア゙ ァ゙ ァ゙ 〜 ! ア゙ ア ァ゙ ア゙ ア゙ ァ ァ゙ ァ゙ ア〜 !!
ヴ ァ゙ ア゙ ァ ァ゙ ァ゙ ア ーーー !!!
物凄い唸り声の波と共に、二人に押し寄せる屍人達。
ブーンとショボンは屍人を次々とライトの光で狙い撃つ。
照らされた屍人は悲鳴を上げ、その場にしゃがみ込む。
だがそんな屍人の脇をすり抜け、更には跳ね飛ばし踏みつけて、新たな屍人が二人に迫り来る。
一瞬たりとも気を抜く事は出来ない。
ジリジリと後退しながらも、屍人達の前進を阻止すべく奮闘する二人。
そのときすでに死神の大鎌が振り上げられている事に、二人は気付いてはいなかった───
あとずさっていたブーンのかかとが、道端の小石を踏んづけてしまう。
屍人に集中していたブーンは後ろに倒れそうになり、焦って両手を回してバランスを取ろうとする。
だが、その拍子に汗で濡れていたマグライトが、手からすっぽ抜けてしまった。
坂を転がっていくライトを、ブーンは慌てて追い掛ける。
(;`・ω・) 「ダメだ!危ない、ブーン!!」
ライトを拾い上げたときには、すでに先頭の屍人の手がブーンの両肩を掴んでいた。
肩に食い込む屍人の爪。
必死で屍人にライトを向けるブーン。
短い悲鳴を上げて硬直する屍人。
だが、その手はブーンの両肩をがっしりと掴んで離れない。
硬直した屍人の背後から、別の二体がブーンに手を伸ばす。
間に合わない!
ブーンは固く目を閉じた。
33 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:43:38.69 ID:ZvbGnd4z0
(;`・ω・) 「ブゥーーーーーーンッ!!!」
地を蹴ったショボンは渾身の力を込めて、ブーンを掴んでいる屍人に体当たりを食らわす。
その衝撃で手は離れ、そのまま後ろの二体を巻き込んで、ショボンと屍人は勢いよく坂を転がってゆく。
(;´ω`) 「!!?」
('A`;);゚?゚)ξ 「ショボン!!」
(*゚ー゚) 「ッ!!」
ブーンが目を開けたときには、ショボンの姿はすでに屍人の群れに飲み込まれて見えなくなっていた。
(;゚ω゚) 「ショボンッ!?ショボォォォォォーーーン!!!」
(*゚ー゚) 「すぅ、やめてっ!お願い、やめさせてぇっ!!」
(;`・ω・) 「ブーンッ!みんなを、しぃちゃんを頼・・・うわぁぁぁっ!!」
ショボンの言葉は屍人達の喚声に掻き消されてしまう。
(((;゚ω゚))) 「ショボン・・・そんな、ウソ・・・だお・・・・・・」
ブーンは自分の身を守る事も忘れ、呆然とその場に立ちすくむ。
そんなブーンの後ろから、三人がライトで援護射撃をする。
ブーンに掴みかかろうとしていた屍人達がその光に照らされ、悲鳴を上げてのた打ち回る。
(*゚ー゚) 「・・・・・・」
ξ;>?<)ξ 「走って!走るのよ、ブーン!」
('A`#) 「ボケっとしてんじゃねぇ!ショボンの気持ちをムダにする気か!!」
36 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:45:19.55 ID:ZvbGnd4z0
その言葉でハッと我に返ったブーンは、振り向くとお社に向かって一目散に走り出す。
── 怖かった。
それは屍人に対してなのか、ショボンがいなくなってしまった事に対してなのかはわからない。
怖かった。
ただ、ただ怖かったのだ。
そして後ろを振り返らずに、がむしゃらに走った。
皆もそれに続く。
ツンは足の痛みも忘れて走った。
ドクオも息をするのも忘れて走った。
気がつくと四人は、いつの間にか丘の上のお社までたどり着いていた。
質素で古ぼけたその木造の建物は、今や四人の最後の砦だった。
もう、ここに立て篭もるしか道はない。
ドクオは古びてガタのきている木製の扉を勢いよく開ける。
('A`;) 「な、なんだ・・・?」
その扉の向こうに見えるものは、まるで蜃気楼のように揺らめいていた。
38 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:46:52.30 ID:ZvbGnd4z0
そこには八畳分ほどの部屋(外陣)があり、
奥には御神体が祀られている部屋(内陣)に続く扉がある。
その外陣の扉枠を境に、全てがユラユラと儚げに揺れているのだ。
壁も、床も、天上も、内陣に続く奥の扉も。
ドクオの背後から、ツンとしぃが覗きこむ。
ξ;゚-゚)ξ 「ど、どうなってるの、これ?」
(*゚ー゚) 「さ、さあ・・・」
ドクオはその空間にマグライトを恐る恐る入れてみる。
やはりライトの半分から先が揺らめいて見えた。まるで波立つ水の中にでも入れたかのように。
この得体の知れない空間に生身の人間が入ったら、一体どうなるのだろうか?
ア ァ゙ 〜・・・! ア゙ ァ゙ ア ァ゙ ァ゙ 〜・・・!
そうしている間にも、屍人の群れは雪崩れのように迫ってくる。
このまま山を登って逃げ続けても、捕まるのは時間の問題だろう。
辺りに隠れられるような場所もなく、ツンの体力もすでに限界だった。
最初から選択肢など残されてはいないのだ。ドクオは腹を決めた。
('A`;) 「イチかバチか、この中に入んぞ!」
ξ;゚-゚)ξ 「で、でも・・・!」
('A`;) 「迷ってる暇はねぇんだ、いくぞ!」
ξ;゚?゚)ξ 「は、はいっ!」
そう言うとドクオは放心しているブーンの腕を掴み、勢いよく揺らめく部屋に飛び込む。
ツンはしぃの手を取ると、一拍置いてドクオの後を追う。
そして四人の姿は揺らぎの空間の中へと消えていった───
40 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:48:15.83 ID:ZvbGnd4z0
【ニ日目/現世/10時07分45秒/お社】
揺らめく部屋に飛び込んだ直後、ドクオは足の裏に確かな感触を得ていた。
この感じは床か地面だ。少なくとも得体の知れない空間を漂っている訳ではなさそうだった。
恐る恐る目を開ける。
そこは子供の頃から見慣れたお社の中だった。
両隣にはブーンとツン、しぃもいる。
振り返ると、開いたままになっている扉から日の光が差し込んできていた。
扉の外に出て、余りの眩しさに額に手をかざす。
徐々に光に目が慣れていくに従い、辺りの景色がおぼろげながら見えてくる。
それは子供の頃から幾度となく見た風景だった。
見上げると抜けるような青空が広がっている。
元の世界に戻ってきたのだ。しかもサイレンを聞くことなく。
自然と笑みが零れる。
だがその笑みも、村に続く道に視線を向けた途端に凍りついてしまう。
そこには何十人もの村人達が、累々と横たわっていたのだ。
屍人と化し、自分達を追ってきた人達だろう。
ドクオは慌てて一番近くの一人に駆け寄り、声を掛ける。
('A`;) 「お、おいっ、大丈夫か?しっかりしろ!」
その隣りで、ドクオに続いてお社から出てきたツンとしぃが別の村人を揺さぶっている。
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、目を醒まして、ねぇ!」
(*゚ー゚) 「聞こえますか?聞こえたら返事して下さい!」
42 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:49:25.18 ID:ZvbGnd4z0
しかし、問い掛けに対する反応は返ってこなかった。
脈も呼吸もある。だが、意識は全くない。
いくら声を掛け体を揺さぶっても、目を醒ます徴候はみられなかった。
昨日の時点ではだるそうではあったが、声を掛ければ確実に返答はあったのだが。
明らかに状態が悪化している。
二度の海還りのせいだろうか……?
(*゚ー゚) 「・・・ショボン君、ショボン君はっ!?」
しぃのその声に、お社の中で突っ立っていたブーンがビクリと体を震わす。
そしていきなり外に飛び出すと、大声でショボンの名を叫びながら辺りを駆けずり回る。
(;゚ω゚) 「ショボンッ!どこだお、どこにいるお!!」
狂ったようにショボンを捜し回るブーン。
その姿には鬼気迫るものがあった。
(;゚ω゚) 「返事するお!ショボ・・・ショボンッ!!」
ブーンは重なり合った人達の隙間から覗いている、ハンドライトを握っている手を見つけた。
上に乗っている数人を手荒く引きずり降ろすと、ショボンの肩を強く揺さぶる。
(;゚ω゚) 「ショボン!しっかりするお、ショボン!」
43 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:50:23.19 ID:ZvbGnd4z0
ショボンはゆっくりと目を開け、その虚ろな視線をブーンに向ける。
(´+ω+) 「あれ・・・ブーン・・・どうした・・・の?」
(;゚ω゚) 「ショボン、大丈夫かお!?」
(´+ω+) 「・・・ここ・・・は?確か・・・・・・ピクニック・・・行って」
(;゚ω゚) 「・・・ショボン・・・・・・記憶が・・・」
三人がブーンとショボンの所へ集まってくる。
ショボンはしぃの姿を見ると、弱々しく笑いかける。
(´+ω+) 「しぃちゃん・・・サンドイッチ・・・美味し・・・かった・・・また・・・ピクニック・・・行こ・・・」
(*T-T) 「・・・ショボン君・・・わたしのせいで・・・・・・ごめんなさ、うぅっ・・・」
しゃがみ込んで、両手で顔を覆うしぃ。その手から雫がこぼれ落ちる。
そんなしぃの肩を抱くツンも、涙をこらえる事は出来なかった。
ξ T?T)ξ 「しっかりしなさいよ、ショボン・・・あんたがしぃを悲しませてどうすんの・・・」
その様子を見ていたドクオは、無言で後ろを振り向く。
握り締めたその両拳は、血の気を失いブルブルと震えている。
仁王立ちで空を仰ぎ、天に向かって吼えた。
Σ('A`#) 「オレはショボンをこんな目にあわせたヤツを絶対に許さねぇ!絶対にだッ!!」
その叫びは、雲一つ無い青空に吸い込まれていった。
44 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:51:59.12 ID:ZvbGnd4z0
【ニ日目/現世/10時22分36秒/お社・外陣】
ドクオは未だ呆けているブーンを叱咤しながら、半ば意識を失ったショボンを肩に回し担ぐ。
晴れた空の下とはいえ、地面の上にショボンを置き去りにするのは忍びなかったのだ。
他の村人達もなんとかしてあげたかったが、いかんせん人手が足りなさすぎる。
倒れている人達の顔をなるべく見ないようにしながら、一同はお社へ戻った。
ショボンを部屋の床に横たえた後、ドクオが噴き出した汗を拭っていると、ブーンがボソリとつぶやく。
(;´ω`) 「もうダメだお・・・」
('A`) 「・・・あん?」
(;´ω`) 「どうあがいても絶望だお!ショボンも僕達も村のみんなも、きっと誰も助からないお!!」
('A`#) 「なんだと?もうイッペン言ってみろ、コラ!!」
ドクオは酷く疲れている事も忘れて立ち上がると、ブーンの胸倉を掴んで壁に叩き付けて睨む。
その視線から顔を背け、床を見つめるブーン。
('A`#) 「それがてめえの、ショボンの行動に対する返事か!?それじゃあアイツも浮かばれねぇなぁ!」
Σ(゚ω゚;) 「!!」
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、ドクオ・・・言い過ぎよ」
ツンがドクオの腕に触れて落ち着かせようとするが、ドクオの怒りは収まらない。
('A`#) 「ショボンが何の為にてめえを、オレ達を助けたのか、よく考えてみやがれ!」
(゚ω゚;) 「・・・・・・」
('A`#) 「お前に泣き言を言わせるために、身代わりになった訳じゃねぇだろうが・・・っ!」
45 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:53:14.14 ID:ZvbGnd4z0
ブーンは、ショボンの言葉を思い出していた。
『みんなを、しぃちゃんを頼む』
ショボンはそう言っていた。自分に向かって確かにそう叫んだのだ。
ドクオはブーンを掴んでいる手をいまいましげに突き離すと、床に座り込む。
ブーンは壁に寄り掛かる様に立ったまま、ジッと床を見つめている。
ツンとしぃは、そんな二人を不安げに交互に見やっていた。
そのときドクオの怒声で気が付いたのか、ショボンがか細い声で二人をたしなめる。
(´+ω+) 「・・・二人・・・とも・・・ケンカしちゃ・・・ダメだよ・・・?」
(*Å-゚) 「ショボン君・・・」
それが引き金になったかのように、ブーンがショボンにすがり付いて大声で泣き出した。
( TωT) 「ショボンッ、ショボン・・・!うわぁぁぁ・・・ゴメン、ゴメンだお、ショボォォォン・・・!」
(´+ω+) 「どうし・・・たの、ブーン・・・そんなに・・・泣いたら・・・みんなに・・・笑わ・・・れるよ・・・?」
ブーンの泣き声が、狭いお社の中で反響する。
しぃ達は、子供のように泣きじゃくるブーンを見ながら涙をこらえる事しか出来なかった。
46 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:54:47.30 ID:ZvbGnd4z0
ブーンはひとしきり泣くと、自分を取り戻したようだった。
いや、以前のブーンとは違う。その目には強い意思の光が宿っている。
皆とこれからの事について話し合うブーンは、ツンにはまるで別人のように思えた。
その姿は頼もしくもあるが、自分の知らないブーンの一面に、ツンは少し戸惑ってしまう。
ふと隣りを見ると、しぃが膝を抱えて辛そうにうつむいていた。
薄暗いお社の中でもわかるほど、その顔は蒼ざめている。
どおりで先程から口を開いていないはずだ。
ξ;゚?゚)ξ 「しぃ、あなた顔色良くないわよ。具合でも悪いの?」
(*゚ー゚) 「う、うん・・・ちょっと気分が悪くて・・・しばらく外の空気を吸ってきます」
ξ;゚?゚)ξ 「あんまり遠くに行っちゃダメよ」
しぃは弱々しい笑顔でうなずくと、ドクオとブーンにも声を掛けてからお社を出てゆく。
そういえば、先程から自分もなんとなく気分が悪い。
それに、なぜかここにいると落ち着かない感じがする。
なぜだろう?子供の頃から、あんなに慣れ親しんだ場所なのに。
しぃの姿を見送ったあと二人に視線を戻すと、どうやら話しがまとまったようだった。
ξ ゚?゚)ξ 「これからどうするの?」
('A`) 「・・・とりあえず、その扉の鍵を壊す」
ξ;゚?゚)ξ 「え?でもそれって・・・」
ドクオが指差した奥に続く扉は、御神体が祀られている部屋(内陣)への扉だ。
いま自分達がいるこの部屋(外陣)は、村人なら誰でも自由に入れるのだが、
鍵の掛かっているこの奥は、村でも極一部の者にしか入る事が許されない神聖な場所である。
村の人間達は皆、子供の頃からそう厳しく教えられてきた。
ツンが気後れするのも無理はない。
47 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:56:17.03 ID:ZvbGnd4z0
( ^ω^) 「あの異界で唯一、僕達の助けになったのがこの場所だお」
('A`) 「サイレンが聞こえてきたのもこの辺りだしな。調べてみる価値はある」
ξ;゚-゚)ξ 「それは・・・そうだけど・・・」
そう言われると、ツンは口をつぐむしかなかった。
村人達とこの村の命運がかかっているのだ。
この罰当たりな行為も、虚朧子様は多めに見て下さるに違いない。
ツンが自分にそう言い聞かせている間に、ブーンが外で拳大の石を拾って戻って来る。
('A`) 「よし、オレがやろう」
( ^ω^) 「大丈夫、僕がやるお」
ブーンは内陣に続く扉の前に立つと、躊躇する事なくその石を錠前に叩きつける。
ツンはおもわず視線をそらすが、ブーンはお構いなしに二度、三度と石を振り下ろす。
大型の南京錠はその程度ではビクともしなかったが、金具のほうはその衝撃に耐えられなかった。
無残にひしゃげた金具が南京錠ごと床に落ちる。
(;^ω^) 「・・・開けるお」
('A`;) 「お、おぉ・・・」
二人ともさすがに内陣に入る事には気後れしているようだ。
ツンは先程から感じていた不快感に、嫌悪感や恐怖感などが加わるのを感じていた。
もしかしたらブーンとドクオも同じなのかもしれない。
複雑な表情を浮かべる二人を見て、ツンはそう思った。
ギ ィ ィ ィ ……
御神体を護る扉が、軋んだ音をたてて開かれてゆく───
48 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:57:15.68 ID:ZvbGnd4z0
【ニ日目/現世/11時12分13秒/お社の建つ丘】
しぃは、お社から少し離れた丘の上に立って、村を見下ろしていた。
その村には短い間── 自分が生きてきた時間に比べれば、本当にわずかな間しか暮らさなかったが、
それでも想い出のたくさん詰まった場所であった。
もちろん今まで同様に嫌な思いもしたが、それ以上に良い想い出で一杯だった。
その大切なものが、いま音をたてて崩れ始めている。
村の平和を、何気ない日常を壊してしまったのは、紛れもない自分だ。
それは仕方のない事だと思っていた。
呪われた血の定めからは逃れられないと思っていた。
だが、本当にそうなのだろうか?
運命を言い訳にして、ただ諦めてしまっていただけなのではないだろうか?
もっと早く勇気を出していれば、この村は……ショボンはあんな事にはならなかったのではないか?
49 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:58:33.66 ID:ZvbGnd4z0
うつむいたしぃの赤い瞳からは、大粒の涙が止めどなく溢れていた。
長い迷路のような時を生きてきたが、このような涙を流した事など一度としてなかった。
想像はしていた。覚悟もしていた。
それなのに、友達を失う事がこんなにも辛く悲しい事だったなんて……
馬鹿だ、自分は大馬鹿だ。失ってから本当に大切なものに気付くなんて……
─── しぃの厚い心の壁が、今まで抑え込んできた想いに突き破られようとしていた。
この村を、この村の人達を、そしてなにより大切な友達を救う方法はないのだろうか?
もう手遅れかもしれない。
でも、まだ間に合うかもしれない。
自分の力だけで全てを救うのは無理かもしれないが、それでも自分が出来る精一杯の事をしよう。
しぃはそう決意した。
それが、ショボンや村の皆に対する贖罪になるのかはわからない。
それでもこのまま自らの運命に翻弄され続けるのは、もう嫌だった。
涙を拭って顔を上げる。
そしてどこまでも続く青空を仰いで、両手を広げゆっくりと深呼吸をした。
それは、もう一人の自分への宣戦布告だった。
50 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/11(木) 23:59:54.38 ID:ZvbGnd4z0
【ニ日目/現世/11時12分40秒/お社・内陣】
扉の奥からカビた臭いの空気と共に、嫌な『気』が吹き出してくる。
ブーンはそれをまともに浴び、全身から冷や汗が滲み出てくるのを感じた。
ドクオとツンを見ると、二人ともなんとも表現しがたい表情を顔に貼りつかせている。
たぶん、自分もそんな顔をしているのだろう。
ライトで中を照らすと、そこには大きな石碑がポツンと立っていた。
その部屋に床は無く、その分一段下がった地面から直にその黒い石碑は生えている。
三人は今すぐここから出たい気持ちを抑えて、地面の上に降りる。
その石碑は黒光りする分厚い石で出来ており、人の背丈以上の高さがある。
そして、石碑には近寄りがたい圧迫感があった。
この部屋に入ったときから── いや、入る前から感じていた不快な『気』は、
どうやらこの石碑から発せられてるようだ。
ツンは辺りを見回すが、その石碑以外には何も見当たらない。
ξ;゚?゚)ξ 「ご、御神体はどこにあるのかしら・・・?」
ツンが当然の疑問を口にする。
通常、御神体という物は、御樋代(みひしろ)と呼ばれる木製の入れ物に納められている。
この村にある朧神社の御神体も、その例に漏れない。
だが、その御樋代がどこにも見当たらないのだ。
御樋代の脇に石碑が建っているのはよくある事だが、石碑だけというのはいささかおかしい。
ξ;゚?゚)ξ 「もしかして、この石碑が御神体なのかしら・・・?」
ツンは誰に問い掛けるでもなくつぶやく。
51 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/12(金) 00:01:04.98 ID:3ngEObbf0
確かに石碑自体が御神体という例もあるにはあるが、
それにしては余りにもぞんざいな祀られ方ではないだろうか?
これでは、まるで……
('A`;) 「・・・まるで墓だな」
ドクオの言葉に、ブーンもうなづく。やはり皆がそう感じていたのだ。
石碑の中央には、大きな文字が彫られていた。
それに気付いたブーンが明りを照らすと、そこにはこう書かれてあった。
虚
子
(;^ω^) 「・・・ココ、ちゃん?・・・聞いた事ない名前だお」
ξ;゚?゚)ξ 「え?なんか言った、ブーン?」
(;^ω^) 「ここに文字が彫られてるんだお」
ブーンの指差すその下にも小さい文字がなにやら彫られていたが、
この暗い中で顔を近づけて読む気にはとてもなれない。
なにしろ石碑の近くにいるだけでもかなりの苦行なのだ。
一刻も早くこの場を離れたい。
そう思ったツンは、二人に声を掛ける。
ξ;゚?゚)ξ 「ね、ねぇ。他には何も無いみたいだし、ひとまず出ましょ?」
(;^ω^) 「それがいいお。なんだかすごくイヤな気分だお」
('A`;) 「そうだな。しぃもそろそろ戻って来てるだろうしな」
三人は石碑から発せられる『気』に背中を押されるように、そそくさと内陣を後にした。
4 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:27:07.08 ID:9LdJkqx20
《 五章 白蛇に呪われし子ら 》
【ニ日目/現世/11時16分27秒/お社・外陣】
外陣に戻ってきた三人は、お社やこの島の守護神の事について話し合っていた。
虚朧子神(うろぼろすがみ)とは、お社に祀られているこの村の守り神である。
その姿は両性具有の双頭の白蛇と伝えられている。
また、この村にはそれとは別の神─── 朧神(おぼろがみ)も祀られており、
その姿は蝙蝠の羽を持つ白蛇だと言われている。
元々は朧神がこの島の土着の神で、虚朧子神は後の時代に祀られるようになったという。
両神とも白蛇の姿を借りて顕現する事から村では、虚朧子神は朧神の子供、と伝え信じられてきた。
だが、朧神が小さいとはいえ神社に祀られているのに対し、
虚朧子神は村から離れた古ぼけた社にひっそりと祀られている。
いくら後から信仰され始めたとはいえ、この違いは何なのだろうか。
少なくともブーン達は、誰もその理由を知らなかった。
それに、石碑に刻まれていた『虚子』という文字の意味は……?
('A`) 「御神体の無い内陣といい、あの石碑といい、どうもここは怪しいな」
( ^ω^) 「そうだお。もっと徹底的に調べてみたほうがいいお」
ξ ゚?゚)ξ 「でも調べるって言ったって、どうやって調べるのよ?」
('A`) 「・・・石碑の下に何か埋まってるって事はないか?」
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ・・・あんたまさか、これ以上罰当たりな事を考えてるんじゃないでしょうね?」
7 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:28:55.66 ID:9LdJkqx20
グ ラ リ ……
ツンがドクオを問いただそうとしたとき、お社全体が大きく揺れ動いた。
また地震だ。今度のは、かなり大きい。
だが、今は地震などを気にしている場合ではない。
地震が収まるのを待って話しを続けていると、しぃが外から戻ってくる。
まだ顔は蒼ざめてはいるが、その赤い瞳には強い決意が秘められているように思えた。
先程、ブーンに対して感じたものと同じような印象をツンは受ける。
唐突に、しぃもブーンもどこか自分の手の届かない所へ行ってしまうのではないか……?
などという理由のない不安がツンの脳裏をよぎり、慌てて首を振る。
(*゚ー゚) 「いま皆さんが話していた伝承は、虚子(うろす)の祟りを恐れた昔の人達が、後に改竄したものです」
ξ ゚?゚)ξ 「うろす・・・って?」
(*゚ー゚) 「虚子とは150年前、天から堕ちてこの島に流れ着いた、常世(とこよ)の存在です」
('A`) 「とこよ?」
(*゚ー゚) 「常世とは、一般でいうところの『神』や『魔』の住む世界の事です」
(;^ω^) 「な、なんでしぃちゃんがそんな事を知ってるんだお?」
(*゚ー゚) 「・・・わたしが知っている事を皆さんにお話しします。時間がありませんのでよく聞いて下さい。」
しぃはそう言うと、話し始める。
この異様な出来事の発端となった過去を───
12 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:30:47.91 ID:9LdJkqx20
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150年前、白蛇島(現在の双頭蛇島)の海岸に、双頭の白蛇が流れ着いた。
元々、朧神の化身といわれる白い蛇を信仰の対象としていた村人達は、
この白蛇を朧神の使いとあがめ祀った。
だがしばらくして、朧神社の巫女が夢の中で神託を授かる。
双頭の白蛇── 虚子は魔の使いである、と。
それを聞いた宮司を始め村の有力者達は、朧神社に伝わる一対の御神体、『龍子矛』と『虚月盾』のうち、
龍子矛を持って虚子を害し、亡骸を丑寅(北東)の方角に龍子矛と共に埋め、石碑を建てて封じた。
だがその後、神託を受けた巫女が生娘のまま受胎、出産する。
その赤子の体には、凶兆の印が現われていた。
それを虚子の呪いと畏れた宮司は、その赤子を生贄として、生きたままうつろ船に乗せて海に還した。
更に石碑のある場所に社を建て、虚子を朧神と融合した神として祀る事とした。
こうして発生したのが、虚朧子信仰である。
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15 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:34:49.45 ID:9LdJkqx20
しぃの話しを聞き終えた三人は、狐につままれたような顔をしている。
いきなりこんな事を話されても、信じろというほうが無理だろう。
('A`;) 「よくわからんが・・・つまりこの事態を引き起こしたのは虚朧子神、いや虚子って事か?」
(*゚ー゚) 「そうです。虚子は封印から解き放たれ、常世に還る事を望んでいます。
その望みを叶えるために、異界を作り出したのです」
('A`;) 「・・・虚子の封印が解かれたらどうなる?村や、村のみんなは?」
(*゚ー゚) 「おそらく無事では済まないでしょう・・・」
('A`;) 「それは・・・・・・死ぬ、って事か?」
(*゚ー゚) 「・・・・・・」
('A`;) 「じゃあ、みんなを救う為には、虚子の復活を絶対に止めなきゃならねぇって訳だな・・・」
ドクオの低い問い掛けに、しぃが小さくうなずく。
ξ;゚?゚)ξ 「そもそも虚子は、何の目的で異界を作ったの?」
(*゚ー゚) 「一つは村の人達を赤い水で支配し操り、石碑の封印を解かせるためです」
(;^ω^) 「・・・ふ、二つ目はなんだお?」
(*゚ー゚) 「もう一つは、赤い水を取り込んだ人の・・・・・・魂を喰らう事です・・・」
(;゚ω゚)'A`;);゚?゚)ξ 「!!!」
ドクオがしぃの肩を掴んで揺さぶる。
('A`;) 「ま、待てよ!じゃあ赤い海に入った人間は、もう助からないって事か!?」
(*゚ー゚) 「わ、わかりません・・・でも、完全に魂を喰われてしまう前なら、もしかしたら・・・」
20 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:37:20.56 ID:9LdJkqx20
肩に爪が食い込む痛みに耐え、消え入りそうな声で話すしぃ。
それを見て、ツンがドクオを慌てて諭す。
ξ;゚?゚)ξ 「ちょっと落ちついて、ドクオ。それじゃ、しぃが話せないわ」
('A`;) 「あ、あぁ・・・」
(*゚ー゚) 「・・・海還りを重ねた人達の魂を喰らい続け、虚子はその力を増してきています。
そして最後は、自らの完全なしもべと化した人達を使い、石碑の排除を試みるでしょう」
ξ;゚?゚)ξ 「つまり、常世に還るために必要な力を手に入れて、最後に復活する・・・って事?」
(*゚ー゚) 「・・・そうです」
ここで、誰もが感じていた疑問をブーンが口にする。
(;^ω^) 「しぃちゃん・・・君はいったい何者なんだお?」
(*゚ー゚) 「わたしは・・・・・・150年前に神託を授かった巫女の子供です」
(;゚ω゚) 'A`;);゚?゚)ξ 「!!!」
衝撃の事実に、三人は言葉を失う。
150年前・・・?
目の前にいるしぃは、どうみても16歳前後の女の子だ。
(*゚ー゚) 「虚子は封印される直前、巫女に呪いをかけました。そうして産まれてきたのが、わたしです。
わたしは── 虚子の分身であり、しもべなのです・・・」
(;゚ω゚) 'A`;);゚?゚)ξ 「・・・・・・」
三人は声も出せずに、しぃの顔を食い入るように見つめる。
何か悪い冗談でも言っているのではないかと。
だが、その赤い瞳は真摯な光を帯びている。
嘘や冗談を言っているのではない事は明らかだった。
21 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:38:57.34 ID:9LdJkqx20
それでも信じられないといった三人の表情を見て、しぃはシャツの袖をおずおずとまくり上げる。
袖の下に隠れていた上腕の一部には、細かい銀色の鱗── 蛇の鱗が生えていた。
しぃが夏でも長袖の服しか着なかったのは、紫外線対策以外にもこの鱗を隠す意味があったのだ。
(*゚ー゚) 「・・・・・・これが、虚子がわたしにかけた呪いの一部です。
わたしは普通の人間ではありません・・・魔の眷属なのです」
しぃは自虐的につぶやき、袖を元に戻す。
ツンは目の前がグルグルと回り始め、次第に真っ暗になっていくのを感じた。
やはり、しぃの日記に書かれていた『あの日』とは、この一連の怪異現象が起こる日を差していたのだ。
それが意味するところは、つまり───
('A`;) 「ちょっと待て・・・って事は、この怪異は・・・おまえの差し金だったって事か!?」
(*゚ー゚) 「・・・・・・そう、です・・・」
Σ('A`#) 「てめえっ!!てめえのせいで、ショボンが!オヤジが!村のみんながっ!」
ドクオが、今度はしぃの胸倉を掴む。
しぃは抵抗もせずに、されるがままになっている。
ドクオの腕の震えがしぃに伝わり、伏せたその長い銀色のまつげを細かく震わす。
ξ;+?+)ξ 「ちょ、待って、ドクオ!・・・しぃを責めるのは全てを聞いてからでも遅くないわ」
なんとかドクオを止めに入ったものの、まだツンの視界はグラグラと揺れていた。
しぃに裏切られた── ツンの心の中では、その思いが勢いよく渦を巻いている。
ツンにとってその事実は、しぃが普通の人間でなかった事よりもよほどショックだった。
(;^ω^) 「そ、そうだお。しぃちゃんには、まだ聞きたい事があるお」
('A`#) 「・・・チッ!」
23 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:40:17.23 ID:9LdJkqx20
ドクオは床にツバを吐くと、しぃから手を離す。
しぃは壁に寄り添って立ったまま、床を見つめている。
( ^ω^) 「それで、なんで僕達はサイレンを聞いても赤い海に入らずに済んだんだお?」
(*゚ー゚) 「それは・・・わたしの血を皆さんに飲ませたからです」
('A`) 「あぁ、あれか・・・」
ドクオはピクニックで飲んだ紅茶を思い出していた。
あのとき感じた鉄臭さは、しぃの血の臭いだったのだ。
(*゚ー゚) 「ドクオさん、気付いていたんですか?」
('A`) 「・・・なんとなくな」
しぃは驚いた顔でドクオを見つめる。
誰かに気付かれていたとは思っていなかったのだろう。
( ^ω^) 「なんで僕達に血を飲ませて海還りさせなかったんだお?」
(*゚ー゚) 「保険のためでした」
('A`) 「保険?」
(*゚ー゚) 「はい。わたしや海還りをした人達は、この世界でいう『魔』なので、
人の祈りの念がこもった神聖なモノ── 石碑に触れる事はおろか、近寄る事すら出来ません。
少量とはいえわたしの血を飲んだ皆さんも、あの石碑に近づくのは辛かったでしょう?」
しぃの説明に、石碑から発せられていた『気』── その異様な圧迫感や嫌悪感も納得出来た。
あの石碑に込められた人々の念が、しぃの呪われた血を拒絶していたのだろう。
(*゚ー゚) 「ですから、虚子のしもべと化した人達がどうしても石碑を取り除けなかった場合、
皆さんを誘導して、石碑を排除させるのがわたし達の役目でした。それが保険という意味です」
('A`#) 「ケッ、オレ達は踊らされてたって訳かよ・・・」
26 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:41:35.04 ID:9LdJkqx20
あのまま他に打つ手がなければ、最後には石碑の下を掘り返していただろう。
ドクオは、つい先程までそんな事を考えていた自分を忌々しく思った。
目眩からようやく回復したツンがしぃの言葉に反応し、疑問を投げかける。
ξ;゚?゚)ξ 「今、わたし達って言ったわね?」
いま思えば、日記にもそんな事が書かれていた気がする。それに扉に掛かっていた、あのネームプレート・・・
日記に書かれていた内容を思い浮かべるツンに、しぃは視線を向ける。
(*゚ー゚) 「はい・・・わたしのこの体には、二つの精神が存在します」
(;゚ω゚) 'A`;);゚?゚)ξ 「!!」
またもや三人とも声を失う。
しぃは話しづらそうに言葉を続ける。
(*゚ー゚) 「この世界ではわたしが表に出ていますが、異界ではもう一人の人格、すぅが体を支配しています。
すぅは虚子に忠実なので、異界でのわたしを絶対に信じてはいけません」
('A`;) 「じゃあ、今まで何回も入れ替わってたってことか・・・?」
(*゚ー゚) 「はい。すぅは海還りした人達を、ある程度なら命令し操ることが出来ます。
そうやって皆さんを精神的に追い詰め、選択肢を狭めていったんです」
('A`) 「なるほどな・・・電話局や船を燃やしたのも、オレ達を待ち伏せして襲わせたのも、
全てその、すぅってヤツの指示だったって訳だ」
ξ;゚?゚)ξ 「でも、だったらなんでヤツらにショボンを襲わせたりしたの!?止める事は出来たんでしょ?」
(*゚ー゚) 「・・・ショボン君が、わたし達の事について気付き始めていたからだと思います。
それに、もしかしたら・・・すぅは楽しんでいたのかも・・・」
('A`#) 「なんだと!」
29 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:46:13.54 ID:9LdJkqx20
思わず腰を浮かせたドクオの肩を、ツンが両手で押さえる。
ドクオは不満そうな表情を浮かべるが、黙って腰を下ろす。
その隣りではブーンが拳を握り締めている。
(#^ω^) 「ゆ、許せないお・・・その、すぅって子は絶対に許せないお!!」
(*゚ー゚) 「・・・・・・」
ドクオもツンも同じ気持ちだった。
しぃは複雑な表情でうつむく。
そんなしぃの顔を見つめながら、ツンの頭の中でずっと疑問だった事の答えが出た。
ξ ゚?゚)ξ 「そっか・・・ワンピースを着替えてたのは、すぅって子のほうだったのね?」
(*゚ー゚) 「そうです。すぅは女の子っぽい服が好きではないので、その都度着替えに帰ってました。
わたしは・・・わたしは、あのワンピースをずっと着ていたかったのに・・・」
ξ;゚-゚)ξ 「しぃ・・・」
しぃのその表情を見たツンは、彼女が嘘を言っていないと直感する。
にわかには信じがたい事ばかりだったが、しぃが話した事は恐らく全て事実なのだろう。
だが、ドクオはしぃの話しを── いや、しぃの事を完全には信じられずにいた。
('A`#) 「・・・それで?オレ達は、おまえの事をどこまで信じりゃいいんだ?」
(*゚ー゚) 「そ、それは・・・」
('A`#) 「今の話しが罠だって可能性もあるだろ?大体なんで急にベラベラしゃべる気になった?」
(*゚ー゚) 「・・・・・・」
問い詰められて、しぃは言葉を失う。
31 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:46:57.27 ID:9LdJkqx20
ドクオの疑惑はもっともだった。
ここまで事態が悪化してしまった以上、今更自分の事を信じてくれというのも確かに無理な話しだ。
だが証明するにしても、それに必要な時間が無い。
すぅと虚子の計画は、すでに完成間近なのだ。
しぃが返答に窮していると、ブーンが勢いよく手を挙げる。
( ^ω^)∩ 「僕はしぃちゃんの事を信じるお!」
(*゚ー゚) 「・・・ブーン君」
( ^ω^) 「あのときショボンは僕に、 『しぃちゃんを頼む』 って言ったお。
ショボンはずっとしぃちゃんを信じてたお。だから僕も信じるお」
ξ ゚ー゚)ξ 「そうね、私もしぃの事を信じるわ。それに、信じるしか助かる道はないんじゃない、ドクオ?」
('A`) 「フン・・・おまえら、ホントおめでてぇな・・・・・・・・・オレもな」
(*Å-゚) 「・・・皆さん・・・ありがとう・・・」
ツンは、しぃの震える肩をそっと抱きしめ、銀色の髪を優しく撫でる。
しぃの頬からツンの腕に伝った雫が、床にポタッ、ポタッと落ちては沁みこんでゆく。
昨日の広場で再会したときに流したあの涙を、さっきショボンの前で零したあの涙を、
そして今、しぃの瞳からあふれでるこの暖かい涙を、ツンは疑えるはずもなかった───
32 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:48:13.19 ID:9LdJkqx20
【ニ日目/現世/11時33分02秒/お社・外陣】
しぃが泣き止むのを待って、ドクオが肝心な事を聞く。
('A`) 「で、オレらはこれから何をすりゃいいんだ。どうすれば虚子とすぅってヤツを止められる?」
(*゚ー゚) 「そうですね、まず・・・」
しぃはそう言うと、ポケットから小型のカッターナイフを取り出す。
そしてその刃を自分の手のひらに当てると、一気に引いた。
(*゚ー゚) 「・・・ッ!」
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、しぃっ!」
その真っ白な手から真っ赤な血が溢れ出て、床に垂れる。
しぃは痛みに顔を歪めながら、ブーン達にその手を差し出す。
(*゚ー゚) 「・・・もう一度、わたしの血を飲んで下さい。
最初に飲んだ血は、サイレン── 虚子の鳴き声によって効果が薄れてきていますので」
三人は手を伸ばし、おずおずとしぃの血を手を受け止める。
ドクオは、しぃの血を飲む事に抵抗を感じていた。
それは血を飲むという行為に対してではない。
人為らざる者の血を体内に容れる、という事に対してであった。
今更しぃの事を疑っている訳ではないが、なぜか体が拒否するのだ。
隣りを見ると、ブーンとツンが目をつぶって手のひらの血を舐めていた。
仕方なくドクオも覚悟を決め、それに従う。
33 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:49:42.10 ID:9LdJkqx20
(*゚ー゚) 「これでまた異界に引き込まれても、サイレンや赤い水に対する欲求にあらがえるでしょう」
この世界に戻ってきてからは赤い水を飲みたいとは思わず、いまいち実感が湧かないのだが、
今はしぃの言う事を信じるしかない。
(;^ω^) 「あ、あの、ショボンにも飲ませてあげてもいいかお?」
しぃはうなずくとその手を意識のないショボンの顔の上にかざし、口の中に血を数滴落とす。
今の状態のショボンに血の効果があるのかは、しぃにもわからなかった。
だが、ショボンを見つめる三人の心配そうな顔を見ていると、その事はとても言いだせなかった。
それが終わると、ツンがウエストポーチから絆創膏を取り出して傷口に貼り、
その上からハンカチを巻いてあげる。
('A`) 「ああ、そうだ。さっき聞き忘れたが、そもそも異界ってのはどこにあるんだ?」
(*゚ー゚) 「異界が虚子の作り出した世界という事はさっき説明しましたが、異界とは、
幻世(げんせ) ── 天国や地獄、黄泉、あの世と呼ばれてる世界 ── と、
現世(うつつよ)── この世界 ── の狭間にある、数多の世界の一つです。
虚子によって支配されていますが、必ずしもその力が全てに及んでいる訳ではありません」
( ^ω^) 「それがあの石碑って訳かお?」
(*゚ー゚) 「はい。祈りの『気』に満ちた石碑に封じられている虚子は、それを異界に取り込む事ができません。
そのため石碑の周囲に空間の歪みが生じ、それを通ってこの世界に戻ってこられたのです」
ξ ゚?゚)ξ 「つまりお社は、異界とこの世界をつなぐ非常口って事ね?罠でも偶然でもなく?」
(*゚ー゚) 「そうです。でも、それもいつまで持つかは、わたしにもわかりません。
次のサイレンが鳴ったら閉じられてしまう可能性もないとは言いきれないです」
('A`;) 「・・・オレらに残された時間は少ないって事か」
34 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:50:43.50 ID:9LdJkqx20
ドクオは溜息をつく。
しぃが味方になって情報を提供してくれた事は収穫だったが、だからといって事態が好転した訳ではない。
手詰まりである事には依然として変わりないのだ。
そんなドクオの心の内を読んだのか、しぃが問いかける。
(*゚ー゚) 「・・・ドクオさん、今朝の火事の事を憶えていますか?」
('A`) 「ん?ああ、コンビニを出るときに見た煙の事だな?」
(*゚ー゚) 「ええ。あのときすぅは、海還りした人達に命令して朧神社を燃やさせました」
( ^ω^) 「なんでだお?」
(*゚ー゚) 「神社には、人の念のこもったものがたくさんあるからです。それらを消し去りたかったから」
ξ ゚?゚)ξ 「お札とかかしら・・・そうか、御神体!」
神社ならば礼拝の対象となるものは幾らでもあるだろうが、その中でも特別なのは御神体であろう。
ブーン達は朧神社の御神体を見た事はないが、先程のしぃの話した伝承を信じるならば、
『龍子矛(たつのこたるほこ)』と対になる、
『虚月盾(うつろなるつきのたて)』が神社には祀られていたはずだ。
35 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:51:45.06 ID:9LdJkqx20
('A`;) 「クソッ、こっちの切り札が燃やされちまったって訳か!?」
(*゚ー゚) 「いえ、まだ望みはあります。完全にそのカタチが失われていなければ、あるいは・・・」
( ^ω^) 「なら僕達はこれから御神体を探しにいくお!」
(*゚ー゚) 「お願いします。もうすぐまたサイレンが鳴るでしょう。できるだけ急いで下さい」
ξ;゚?゚)ξ 「や、やっぱり鳴るの・・・?」
(*゚ー゚) 「・・・はい、近い内に必ず。くれぐれも異界のわたし・・・すぅの言う事を信じてはダメですよ。
すぅには先程から情報をストップしていますので、わたしの裏切りはバレているはずです」
('A`) 「情報をストップ?そんな事が出来るのか」
(*゚ー゚) 「ええ、今のすぅは寝ている状態だと思って下さい。
ですから、わたしが皆さんに話した内容は伝わってはいませんが、
記憶が途中で途絶えていると知れば、すぅはわたしが裏切ったと気付くでしょう」
しぃは一息にそう言うとうつむき、それから顔を上げて寂しそうな笑顔を浮かべる。
(*゚ー゚) 「・・・ここで、お別れです」
ξÅ-゚)ξ 「また・・・きっと会えるよね、しぃ?」
(*Å-゚) 「ツンさん・・・」
ツンはしぃを抱きよせ、しぃもツンの体をギュッと抱きしめる。
ブーンとドクオは、そんな二人をただ眺めていた。
しばしの時が流れ、しぃはツンからゆっくりと体を離す。
そして涙を拭うと、手を大きく振りながらお社を出て行く。
(*゚ヮ゚)ノシ 「皆さん、どうかご無事で!ありがとう、本当にありがとう!!」
去り際のしぃの声は、今までに聞いた事がないような力強い声だった。
36 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:52:27.87 ID:9LdJkqx20
【ニ日目/現世/11時49分47秒/村へ続く坂道】
しぃに遅れること数分、ブーン達三人は村へ続く坂道を足早に下っていた。
ドクオに肩を借りるツンは、それでもお社へ向かうときに比べると随分と楽そうだった。
お社を出発する前にブーンが外で木の枝を拾ってきて、それを捻挫した足首に添え、
その上からドクオのTシャツでしっかり固定していた為だ。
出来ればサイレンが鳴る前に神社に着いていたい。
そうドクオが考えた矢先に、背中にそれまで感じた事がないような悪寒が走る。
これは、ソレの発生源が近いからだろうか?それとも……
('A`;) 「くるぞっ!」
ドクオが叫ぶと同時に、背後からサイレンが鳴り響く。
空を、大地を、人を、この世の全てを呪う虚子の叫び声───
37 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:53:16.20 ID:9LdJkqx20
【ニ日目/異界/12時00分00秒/村へ続く坂道】
ヴ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ! ! ! !
瞬間、世界が異界へと反転する。
見慣れたはずの、だが未だ慣れる事のない、血の色が支配する世界。
ξ ゚?゚)ξ 「ねぇ、ドクオ・・・」
('A`) 「ああ、しぃの言った事は本当だったようだな」
ドクオとツンはすぐに気付いた。
サイレンを聞いても赤い水を飲みたいとも、赤い海に入りたいとも思わない。
しぃの血が効いているのだ。
少なくとも、これで赤い水の欲求に対する恐怖だけはなくなったといえるだろう。
状況は最悪ながら、少しだけ安心する事が出来た。
38 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:53:57.25 ID:9LdJkqx20
── だが、ブーンはそうではなかった。
前回のサイレンを聞いたときよりも、更に体が赤い水を欲している事に気付いてしまったのだ。
そして、廃校舎でペットボトルの赤い水を口に含んだときと同様、体中に力がみなぎってくる。
それは自分達の世界にいたときには感じられなかった力だ。
異界にいるときだけの、赤い水が屍人にもたらす恩恵。
急に立ち止まったブーンに、ドクオが声をかける。
('A`) 「どうした、ブーン?急ぐぞ」
(ヽ^ω^) 「・・・あ、うん。ごめんだお」
ブーンは二人に悟られないよう、顔を伏せて走り出す。
なるべく顔を見られないようにしなければ。
自分の目は、きっと真っ赤に充血しているのだろうから……
39 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:55:41.72 ID:9LdJkqx20
先程まで道に倒れていた村人達がサイレンに反応し、次々と起き上がり始める。
もちろん人ではなく、屍人としてだ。
背後にその気配を感じたブーン達は、おのずと足早になる。
今までの経験からいえば、サイレンが鳴ってから海還りするまでの屍人は無害なはずだが、
つい二時間前までは、死に物狂いで彼らから逃げていたのだ。
しかもショボンが犠牲になっている。
沸き上がる恐怖は簡単には抑えられなかった。
ブーンが横を見ると、ツンに肩を貸すドクオの息がすでにあがり始めている。
ツンも足の痛みと疲労で顔を歪めている。
無理もない。昨日からずっと逃げどおし、走りどおしなのだから。
ブーンは目を合わせないようにドクオに話しかける。
(ヽ^ω^) 「ドクオ君、交代するお」
('A`;) 「あ?オレはまだ大丈夫だぜ」
(ヽ^ω^) 「いいから交代するお。ツンちゃんも苦しそうだし、僕におぶさるお」
ブーンはそう言いながら、背負っていたリュックをドクオに差し出す。
リュックの中には自分のマグライトと、しぃが置いていった懐中電灯が入っている。
ショボンのハンドライトは、お社の床に横たわる彼の手に握らせてきた。
なんとなくそうしたい気分だったからだ。その事にドクオもツンも反対はしなかった。
40 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:57:05.31 ID:9LdJkqx20
ブーンの無謀ともいえる申し出に、ツンが驚いた声を出す。
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、あんたが私を背負えるワケないでしょ?」
(ヽ^ω^) 「できるお。今日の僕は、なんかやたらと絶好調だお」
('A`;) 「でもな、ブーン。こいつ、こう見えて結構・・・」
ξ#゚ー゚)ξ 「結構── なにかしら?」
('A`;) 「あ、いえ・・・なんでもありません」
(ヽ^ω^) 「早くしないとヤツらに追いつかれちゃうお」
ブーンは背後を指差す。
すでに数十メートル先には、屍人の群れが近づいてきている。
赤い目で無表情に歩くその姿は、今のところ危険がないとわかってはいても、やはり不気味だ。
ときおり低く響く屍人の唸り声に背中を押されるように、ツンはブーンにおぶさる。
ξ;゚?゚)ξ 「無理だったら早めに言うのよ?」
(ヽ^ω^) 「大丈夫、しっかりつかまっててお。じゃあ、行くお!」
ツンを背負ったブーンは気合をいれるように叫ぶと、猛然と坂を駆け下り始める。
ドクオはそのスピードに呆気に取られたあと、急いでその背中を追う。
('A`;) 「おい、ブーン。そんなんじゃ神社まで持たねぇぞ!」
だがドクオの予想に反し、ブーンはツンを背負ったまま商店街を突っ切り、
そのまま脅威的なスピードで神社まで走り抜いた。
41 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/13(土) 23:58:02.29 ID:9LdJkqx20
【ニ日目/異界/12時18分09秒/朧神社・焼け跡】
三人の目の前に広がるのは、朧神社だったモノの焼け跡だった。
屋根や梁は焼け落ち、炭になった柱がかろうじて残っている程度だ。
炎は一応収まってはいたが、まだほうぼうでブスブスと音をたててくすぶっている。
ξ;゚?゚)ξ 「これじゃ、御神体も・・・」
さすがに疲れて地面に座りこんでいるブーンの隣りで、ツンも膝をつく。
('A`;) 「・・・クソがッ!」
ドクオは焼け残った木材を何度も蹴りつけている。
そんな二人を余所に、ブーンは息を整えると立ち上がってスタスタと歩き始めた。
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、ブーン・・・?」
(ヽ^ω^) 「本殿は確かこっちだったお」
本殿とは御神体が納められている建物の事である。
もちろん本殿も焼け落ちて跡形もないのだが、
さして大きくもない朧神社の本殿があった場所を推測するのは難しくはなかった。
(ヽ^ω^) 「ここらへんだお」
ブーンはつぶやくと足場の良さそうな所を選んで、焦げた木材の折り重なった焼け跡に入って行く。
42 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:00:00.19 ID:7oZ+wTQT0
ξ;゚?゚)ξ 「ブーン、危ないわよ!」
(ヽ^ω^) 「ツンちゃんはそこで待っててお」
('A`;) 「おい、ブーン。あんまムチャすんな」
半分炭になった木材の上と、わずかに覗く地面とを交互にバランスをとりながらブーンは奥に進む。
ほどなくして立ち止まり、ドクオに手招きする。
(;^ω^) 「・・・ここだお!ドクオ君、来てくれお」
('A`;) 「! あったのか!?」
ドクオは慌ててブーンの後を追い、それをツンが心配そうに見守る。
何度かバランスを崩しながらもブーンの近くまで来たドクオは、
始めブーンが適当な事を言ったのだと思った。
ブーンが立っている辺りは、やはり焼け焦げた木材が重なり合って倒れていて、
とても御神体── 『虚月盾』を目で確認できる様子ではなかったからだ。
だが、その場所に近づくにつれ、それは間違いだったと悟る。
ブーンが見下ろす場所を中心に、もの凄く嫌な『気』が充満していたからだ。
それは、お社であの石碑から感じたものと同様……いや、それ以上のものだった。
('A`;) 「こ、こいつぁ・・・」
(;^ω^) 「ドクオ君も感じるお?」
('A`;) 「ああ、イヤってほどな」
この『気』の発生源は、よほど膨大な量の人々の念を溜め込んでいるのだろう。
それはすなわち御神体に違いない。
43 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:01:01.89 ID:7oZ+wTQT0
('∀`) 「この有様で無事だったとは、オレらついてるぜ!」
(ヽ^ω^) 「早速掘り返さなくちゃだお」
運が良い事に、この付近に折り重なっている木材でそんなに太い物はなかった。
てこを使えば、男二人がかりならなんとか動かせそうである。
だが、さすがに素手で熱を持っている木材を取り除くのは無理だ。
('A`) 「ツン、わりい。近くの家から厚手の手袋探して持ってきてくれないか?」
ξ ゚?゚)ξ 「うん、わかったわ」
ツンはドクオにうなずくと、足を引きずって近くの民家へ向かう。
その間にブーンとドクオは、炭になるのを免れた適当な長さと太さの木材を探し始める。
それをてこにするのだ。
(ヽ^ω^) 「この木が使えるお」
('A`) 「こっちもなんとか使えそうだ。よし、始めんぞ」
二人は未だ熱の残る木材をそれぞれ肩に担ぐと、虚月盾のある場所に戻って行く。
44 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:03:08.55 ID:7oZ+wTQT0
ブーンとドクオがてこを使って倒れている木材を動かしていると、ツンが民家から戻ってきた。
作業中の二人の姿を確認すると、頭上に三組の厚手の作業用手袋を掲げる。
ξ ゚?゚)ξ 「手袋、借りてきたわよ!」
('A`) 「おう、サンキュ・・・って三つ?おまえ、その足でやる気か?」
ξ ゚?゚)ξ 「当たり前でしょ!こんな時にのんびりと休んでなんかいられないわよ」
('A`) 「まぁ、そりゃそうだが・・・」
時間が経てば屍人達が海から還ってくる。
今は猫の手も借りたいくらいだ。
結局、三人で作業を続ける事にした。
てこで重い木材を少しづつ動かし、軽い物は力を合わせて手で取り除く。
三人は汗と煤にまみれなりながらも、黙々と体を動かす。
その中でもブーンは、普段からは想像もつかないほどの働きをみせた。
ドクオでも手に余りそうな木材を一人で持ち上げ、動かす。
ツンは足の痛みも忘れてブーンをまじまじと見つめる。
そんなツンの視線に気づいたブーンは、体を動かすふりをして顔をそらす。
(;^ω^) 「ツ、ツンちゃん、疲れたかお?休んでていいお」
ξ;゚-゚)ξ 「あ、ううん、大丈夫・・・」
自分を背負って走ったときといい、今の働きぶりといい、いつものブーンとは全くの別人のようだ。
それに、今そらした目……かなり充血して赤くなっているような……
45 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:04:19.89 ID:7oZ+wTQT0
ツンがそんな事を考えていると、ドクオが嬉しそうな声を上げる。
('∀`;) 「お、今なんか光ったぜ!ツン、ちょっとライト」
ξ;゚-゚)ξ 「あ、はい・・・」
ツンがナップザックからライトを取り出してドクオに手渡す。
ドクオはそのスイッチを入れると、かろうじて開いた木材の隙間の中を照らす。
その光が何かに反射した瞬間───
バ シ ュ ン ッ!
一条の光の矢が空中めがけて伸び、そして赤い空に吸い込まれてゆく。
三人ともポカンと口を開けて、光の矢が消えていった上空を見上げていた。
('A`;) 「な、なんだ・・・今のは?」
ξ;゚?゚)ξ 「さ、さあ・・・光線?」
(;^ω^) 「レーザービームみたいだったお。イチローだお」
そのとき、あっけにとられている三人の背後から聞き憶えのある声がした。
? 「・・・皆さん、こんな所で何をしてるんですか?」
46 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:05:46.85 ID:7oZ+wTQT0
【ニ日目/異界/12時53分34秒/朧神社・本殿跡】
ブーン達は、一斉に声のしたほうを振り向く。
そこには見慣れた顔の少女が、見慣れた表情を浮かべて立っていた。
(*゚ー゚) 「皆さんのこと捜しちゃいました。こんな所にいると、海還りした人達に見つかってしまいますよ?」
彼女は心配そうな顔で話しかけてくる。
だが、そこに立っているのはブーン達のよく知っているしぃではない。
敵意と警戒心とを顔に貼り付かせた三人に向かって、更に言葉を続ける。
(*゚ー゚) 「さあ、早くあたしと一緒に逃げ・・・」
彼女の言葉が終わらない内に、ブーンが声を震わせて叫ぶ。
(#^ω^) 「僕らの友達のしぃちゃんは、自分の事を『わたし』って言うお!」
辺りが一瞬、静まり返る。
彼女はポカンとした表情を浮かべ、次に声を上げて笑い出した。
(*゚ー゚) 「あはははは・・・!あいつ、やっぱり裏切ったんだ。途中から記憶が途絶えてたから、
もしかしてとは思ったけれど・・・そうなんだ・・・・・・しぃ、馬鹿なヤツ・・・」
忌々しそうにつぶやく言葉の最後は、どこか寂しげな響きを含んでいた。
47 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:06:48.46 ID:7oZ+wTQT0
('A`#) 「すぅ、っていったな。てめぇが村のみんなを、ショボンを・・・ッ!」
(*゚ー゚) 「待った。なら、取引をしない?」
ξ;゚?゚)ξ 「・・・取引?」
すぅは先程とはまるで違う、勝ち誇ったような表情を浮かべて言う。
こころなしかその声も、低く太くなっている。
(*゚ー゚) 「ぼくに協力してくれるのなら、村の皆を元に戻してあげる。もちろんショボン君もね」
『彼』の申し出は魅力的に聞こえた。
このまま抵抗し続けても、村人達やショボンを救える保証はどこにもない。
しぃも、皆を救う具体的な方法までは教えてくれなかった。
それはつまり、ブーン達の力だけでは無理だという事なのではないか?
そんな恐ろしい考えが頭をよぎる。
だが───
(ヽ^ω^) 「しぃちゃんはキミを絶対に信用するなって言ったお!」
ξ ゚?゚)ξ 「そうね、私はしぃを信じてる。だからあんたの事は信じられないわ」
('A`) 「そーゆーこった。虚子は復活させねぇ。もし復活しても必ずブッ潰す!!」
それを聞いたすぅは、笑顔を浮かべたまま下を向き首を振る。
(*゚ー゚) 「そう、それは残念・・・あなた達とは良いお友達になれると思ったのにな」
ゆっくりと上げたその顔には、今度は邪悪な笑みが貼り付いていた。
48 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:08:27.45 ID:7oZ+wTQT0
(*゚ー゚) 「なら、力尽くで仲間になってもらうよ!」
すぅのその声と共に、屍人の唸り声がどこからともなく聞こえてくる。
それは林の中から、民家の陰から、あらゆる方向からしてきた。
すぐにあちこちから屍人達がゾロリと姿を現す。
その数は、お社へ向かうときに追い掛けて来た屍人達よりも遥かに多い。
しかも、今度は三度の海還りをした屍人が相手だ。更に手強くなっているに違いない。
三人は急いで唯一の武器であるライトを取り出して構える。
('A`;) 「チッ、囲まれたか!」
(;^ω^) 「・・・ぁゎゎゎ」
ξ;゚?゚)ξ 「ひっ・・・!」
ツンの口から、思わず悲鳴がこぼれる。
その数も去る事ながら、屍人達の半数以上が武器を手にしていたからだ。
包丁、バール、鉈、鉄パイプ、鍬、シャベル、バット、火掻き棒……中には日本刀を持った者さえいる。
武器を持っているという事実が、ツンの心に更なる恐怖を沸き上がらせた。
あの武器で自分達を動けなくなるまで痛めつけたあと、赤い水を飲ませるつもりだろうか……?
想像しただけで喉の奥から苦い物が込み上げてくる。
緊張した面持ちの三人を見て、すぅは高圧的に言い放つ。
(*゚ー゚) 「あなた達にも虚子様復活に協力してもらうよ。でもその前に、ぼくに逆らった罰を受けて貰う。
この人達はまだ手加減も出来ないほど頭が悪いから、もし死んじゃったらごめんね?」
彼は笑いながらクルリと後ろを向くと、お社のほうへ向かって走り出す。
それが合図とばかりに屍人達が一斉に喚声を上げ、ブーン達めがけて押し寄せる!
50 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:09:47.19 ID:7oZ+wTQT0
ヴ ァ゙ オ ォ゙ ォ゙ ォ オ オ゙ オ゙ ァ゙ ァ ァ゙ !!
ア゙ ァ゙ ァ ア゙ ァ゙ ア ア゙ ア゙ ァ゙ ァ゙ ァ ー ー ー ー ッ!!
ブーンが左右の手にマグライトと懐中電灯、ドクオがマグライト、そしてツンがハンディライトを構え、
輪になるようにして屍人の群れを迎え撃つ。
ヴ ォ ァ゙ ア゙ ァ ァ゙ ア゙ ー ッ!!!
光線を喰らった屍人は悲鳴を上げ、硬直してその場に昏倒する。
次々に標的を切り替え、屍人の動きを止めるブーン達。
だがそうしている間にも、最初に照らされた屍人はダメージから復活してくる。
お社に向かう坂道のときとは状況が全く違っていた。
敵は全方向から襲いかかってくる。
しかもこちらは足場の悪い、倒れた木材の上だ。
この折り重なった木材は屍人に対して障害にはなるが、逆に三人にとっての足枷にもなっていた。
こんな足場では逃げようがない。ましてやツンは足を怪我している。
この場にとどまって迎撃するのが精一杯だった。
だが、屍人達の包囲網は次第に狭まってくる。
こちらに敵を倒す決定的な手段がないのだから、それも当然の事だ。
どんなにライトで照らしても、時間が経てば何事もなかったかのように起き上がってきてしまう。
しかも三度目の海還りをした屍人達の動きは、以前とは比較にならないほど速くなっていた。
もう人間と変わらない。いや、それ以上かもしれなかった。
51 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:12:26.86 ID:7oZ+wTQT0
そして先頭の屍人の足が、とうとう焼け跡に踏み入ってくる。
真っ赤に染まった目と、ゾッとするような邪悪な笑み。
その手には刃の先端が鉤状になった大鉈が握られている。
それが、もう10メートル先まで迫ってきているのだ。
('A`;) 「クソがっ!」
鉈屍人 「ヴォア゙ァ゙ーッ!」
ドクオのライトに照らされた鉈屍人は、短い悲鳴を上げて焼け跡の上に倒れる。
だが、その屍人もすぐにまた立ち上がってくる。
倒れた木材が邪魔をしてくれているおかげで、屍人達はなかなか近づいてはこれないが、
それはバッドエンドまでの時間を無駄に引き伸ばしているに過ぎない。
澱のように積もりゆく恐怖に耐えきれなくなったツンが、悲鳴交じりの声で叫ぶ。
ξ;>?<)ξ 「もうダメ、私を置いて逃げて!あんた達だけでもっ!!」
('A`;) 「バカ言ってんじゃねぇッ!」
(;^ω^) 「そうだお!最後まで諦めちゃダメだお!」
ξ;>?<)ξ 「でも!このままじゃみんな、みんなっ・・・」
ツンの言葉の最後は、すでに泣き声に変わっていた。
ドクオとブーンだけでも逃げ延びて欲しい。
そう思いながらも、もはや手遅れだとわかっていた。
例え足手まといの自分がいなくても、ここまで接近したこの数の屍人包囲網は抜け出せないだろう。
もっと早く自分を置いて逃げろ、と言えばよかった。
そうすれば二人だけでも走って逃げられたかもしれないのに。
もっと早く足場の悪いこの場所から移動しておけばよかった。
そうすれば三人とも助かったかもしれないのに。
そもそも、なんでこんな場所なんかに……
52 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:13:53.80 ID:7oZ+wTQT0
そこまで考えて、ツンの脳裏に閃光が走る。それはまさに一筋の光明だった。
そうだ、御神体───!
ツンは迫り来る屍人達に背を向けてその場にしゃがみ込み、急いで手袋を外す。
('A`;) 「お、おい、ツン!なにやって・・・」
ドクオの言葉は無視し、木材のわずかに空いた隙間に手を差し込む。
なんとか手が入るとはいえ、地面までは結構な距離があった。
肩まで腕を入れると、火事で熱を持った地面に指が触れた。
届く範囲で手のひらを動かしてみる。
無い。
その間にも屍人達が次々に焼け跡に侵入してくる。
ドクオは屍人をライトで照らし続けながら叫ぶ。
('A`;) 「今はそんな事してる場合じゃねぇだろ!」
ドクオにはツンの行動が理解出来なかった。
今は御神体などに気を取られている場合ではない。
少しでも長く屍人の足を止めなくてはならないのだ。
だが、ブーンはツンの考えに気付いたようだった。
(;^ω^) 「ツンちゃん、がんばるお!」
53 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:15:17.08 ID:7oZ+wTQT0
早く、早く見つけなきゃ───!
ツンは体を斜めにし、更に腕を深く突っ込む。
肩が木材で擦れて痛んだ。
それでも構わず、出来る限り手を伸ばす。
そして、その指先がひんやりとした塊に触れた。
あった!
ξ;゚?゚)ξ 「ひいぃっ!!」
だが、触れた途端に塊から耐えがたい『気』が伝わってきて、思わず手を引っ込めてしまう。
ソレに触れた指先が自分の物ではないような、そこに付いててはいけない物のような、そんな違和感。
しかし、今はそんな事を気にしている場合ではない。
もう一度指を伸ばし、その塊に触れる。
やはり嫌悪感が走るが、構わず爪で塊の端を引っ掻く。
塊がほんの少し手前に動く。
もう一度。
今度は親指が触れるくらいまで手前に動いた。
ξ;>?<)ξ 「届いた!」
思いきってその塊を掴むと、手を一気に隙間から引き出した。
54 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:16:26.84 ID:7oZ+wTQT0
何体かの屍人達は、もう三人の目前まで迫ってきている。
ツンが視線を上げるのと、ブーンの肩にネイルハンマーがめり込むのとが同時だった。
(ヾ゚∀゚) 「ミ゙ィ゙ィイ゙ィイィ゙ィ゙ィナ゙ァァ゙ア゙ァアァ゙ァ゙ァア゙アッ!!」
メ キ ィ ッ !
(;゚ω゚) 「ウグゥッ!!」
('A`;) 「ブーーーンッ!」
ドクオが上半身をひねり、ブーンを襲った白衣の屍人を照らす。
悲鳴を上げ、その場に倒れ込む医師屍人。
ブーンは殴られた右肩を押さえて、その場に膝をつく。
ξ;゚?゚)ξ 「ドクオ、後ろっ!」
ドクオの背中に、出刃包丁を逆手に握った屍人が襲いかかる。
不自然に体をひねった体勢だったために反応が遅れ、左腕を包丁の刃がかすめる。
ドクオの上腕から真っ赤な血が飛び散った。
('A`;) 「グッ!」
唸りながらもその屍人をマグライトの柄で殴り、よろめいたところで光を当てる。
だがその隙に、更に二体の屍人がドクオに迫る。
55 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:17:11.61 ID:7oZ+wTQT0
(;´ω`) 「ツ、ツンちゃん、構えてお!」
ξ;゚?゚)ξ 「えっ、あ!」
ブーンの言葉に、ツンはその手に握っていた金属塊を慌てて胸の前に構える。
そして、その塊をブーンがライトで照らす。
バ シ ュ ッ !
ライトの光は塊に反射し光の矢となって、ドクオに襲いかかろうとしていた屍人の胸を貫く。
光矢に貫かれた屍人は一瞬中に浮き、そのまま仰向けに倒れる。
屍人を貫通した光矢は、更に後ろの二体の屍人を貫いて林の中に消えていった。
その未知の力に臆したのか、取り囲む屍人達の動きが一瞬止まる。
('A`;) 「よし、今だ!」
ツンが金属塊を屍人に向け、ブーンとドクオがそれを代わる代わる照らす。
光矢は目標を外す事なく、次々と屍人を貫いていく。
その圧倒的な力の前に、屍人達の反撃する余地はもはやなかった───
56 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:19:04.49 ID:7oZ+wTQT0
【ニ日目/異界/13時03分20秒/朧神社・本殿跡】
数分後、ブーン達を包囲していた屍人達の中で動く者はいなかった。
ライトの明りでは何度も復活してきた屍人達だったが、今はもうピクリとも動かない。
最後の一体を光矢が貫いた直後、ツンは持っていた金属塊を思わず手放してしまう。
それはコンコンと固い音を立てて木の上を跳ね、そして止まる。
焦げた柱の上に転がっている黒く煤けたそれは、その名の通りなら盾をかたどっていたのだろう。
だが、今やそれは炎の熱で無残に溶けた、ただの平べったい金属の塊にすぎなかった。
それでもその塊から漂ってくる『気』は、間違いなく本物の御神体である事を示していた。
ツンは、立っていられないほど足が震えている事に今更気付く。
冷や汗が体中の毛穴からジットリと滲み出て、体を濡らしていた。
屍人達が怖かったのはもちろんだが、
それと同じくらいこの金属の塊── 虚月盾が恐ろしく感じられたからだ。
この盾を持っているだけで、自分の全てが否定されている気がした。
それに込められた『気』── 平和を願う、『神』を敬い尊ぶ、『魔』を忌み嫌う、
人々のそういった祈りや願いがそう感じさせるのだ。
人の住む世界にとって要らないモノ、穢れたモノ、醜悪なモノ、存在してはいけないモノ、
そんな諸々の負の感情が、呪われたしぃの血を頑なに否定する。
ツンは、自分が今まで世界に存在している事が当たり前だと思っていた。
世界が居場所を与えてくれ、その場所で生きている。
それは当然の権利だと思っていたのだ。
いや、それを意識した事すらなく、ただ日々を過ごしてきた。
だが、この御神体を手にして初めて感じた根源的な恐怖。
自らの存在を否定されるという事は、こんなにも恐ろしい事だったのか。
57 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:20:19.82 ID:7oZ+wTQT0
しぃの血をほんの数滴飲んだだけでこの有様なのだ。
この恐怖すらもしぃの受けた呪いのほんの一部にすぎないのかと思うと、
彼女が不憫に思えて涙が溢れてくる。
アルビノ、体に生えた鱗、終わる事のない生、更にはその存在の完全なる否定……
自分には想像もつかない程の長い年月、しぃはどれほどの苦しみに耐えてきたのだろうか。
ブーンが殴られた肩を手で押さえながら、
子供のようにボロボロと涙を流すツンの顔を心配そうにのぞき込む。
(ヽ^ω^) 「ツンちゃん、どこか痛むお・・・?」
ξÅ-゚)ξ 「・・・ううん、大丈夫。あんたこそ大丈夫なの?」
(;^ω^) 「う、うん。このくらい、なんともないお」
ドクオが左腕の傷口を押さえながら二人に近づく。
傷を押さえた指の間からは、血がしたたり落ちている。
('A`;) 「おい、おまえら大丈夫か?」
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、なに言ってんのよ。あんたこそ、そのケガ!」
('A`;) 「いや、ちょこっと皮膚が切れただけだって」
ツンは未だ残る手の不快感も忘れてナップザックからミニタオルを取り出すと、
それでドクオの傷口を固く縛る。
('A`;) 「てっ、いてーっ!いてぇって!」
ξ#゚?゚)ξ 「男の子なんだから我慢しなさいっ!!」
('A`;) 「う、うん・・・」
ξ ゚ヮ゚)ξ 「はい、いい子ね。ほら痛くない、痛くない」
58 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:21:22.40 ID:7oZ+wTQT0
ドクオを手当てし終わると、ツンはブーンに振り向く。
なぜかたじろぐブーン。
ξ ゚?゚)ξ 「次はあんたね。さ、シャツ脱いで」
(;^ω^) 「ぼぼぼ、僕は大丈夫なんだな」
ξ#゚?゚)ξ 「・・・そう、むりやり脱がされたいのね?ポロリもあるのね?」
(;^ω^) 「いやん、ハートはドキ土器」
ブーンがシャツを脱ぐと、その右肩にはクッキリと殴られた跡が残っていた。
それどころかパンパンに赤黒く腫れ上がっている。
それを見たツンは息を飲む。
当のブーンが割と平気な顔をしていたので、ここまで酷いとは思っていなかったのだ。
ξ;゚?゚)ξ 「ちょちょちょっ!あんた、これ痛くないの!?」
(;^ω^) 「も、もちろん痛いお。でも、そんなたいした事ないお」
ブーンはそう言うと、腕をグルグル回してみせる。
ツンはそんなブーンをいぶかしむ。
普通、こんな怪我を負ったら相当な痛みなのではないか?
金槌で殴られているのだ。運が悪ければ骨折していただろう。
それなのに、こんなに腕を動かして平気なんて……?
視線をそらしたブーンの横顔を、ツンはジッと見つめる。
そんな二人を見て、ドクオがなぜか慌てて割って入る。
('A`;) 「ま、まあ、そんだけ腕を動かせりゃ大丈夫だろ。それより、急がねぇと」
(;^ω^) 「そ、そうだお。御神体も手に入れたし、早くお社に戻らなきゃだお」
59 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:22:40.17 ID:7oZ+wTQT0
おそらく、すぅが屍人達を指揮して石碑を取り除く段取りになっているのだろう。
その方法は見当がつかないが、御神体を手に入れた自分達が次にすべきは、
やはり、すぅより先にお社に戻る事だろう。
ξ;゚?゚)ξ 「あ、うん。そうね・・・」
そこでツンは気が重くなる。また、あの御神体に触れねばならないのかと。
だが、これは自分の役目だ。ずっと足手まといだった自分の。
ナップザックの口を開けると、手袋を付けているほうの手で虚月盾を掴み、急いでその中に放り込む。
素手ほどではないが、やはりあの『気』は体に流れ込んできてしまう。
恐怖感、不快感、嫌悪感、喪失感、絶望感、その他ありとあらゆる負の感情が心の中に渦を巻く。
ツンはそれに耐え切れずに目を閉じ、体を固くして堪える。
もしかして、ライトで照らされた屍人はこんな気持ちなのだろうか……?
なぜか理由もなくそんな事を思う。
そんなツンの姿を、事情を知らないブーンとドクオが変な目で見ている。
(ヽ^ω^) 「ツンちゃん、なんか変だお。アルマジロ?」
('A`) 「おまえ、なに固まってんの?ダンゴ虫?」
ξ#゚-゚)ξ。oO(こっ、こいつら人の気も知らんと・・・!)
とりあえずツンは手袋を付けたままにして、ナップザックは背負わないようにしようと決めた。
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83 名前: 設定 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 00:46:29.61 ID:7oZ+wTQT0
えー、本編では明かされない設定の一部をここで。
しぃ(すぅ)にかけられた見た目の呪いは、
アルビノ、鱗、そして両性具有(雌雄同体)です。
これらは虚子(村に伝わる虚朧子)の特徴と同じです。
また転生(魂と精神、記憶を伴う)の呪いもかけられており、
何度でも生まれ変わります。
ちなみに今までに三度、死んで生まれ変わりました。
ですので、今のしぃ(すぅ)は正真正銘の16才です。
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3 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:32:45.05 ID:GXy5THmj0
《 六章 還り来たるモノ 》
【ニ日目/異界/13時13分13秒/羽生蛇商店街・表通り】
ブーンは神社へ向かうときと同様に、ツンを背負って商店街の通りを走っていた。
両手にマグライトを装備したドクオがその前を行く。
神社へ向かうときとは違い、屍人が海から還ってきた今、商店街はかなり危険なルートではあった。
だが、神社では随分と時間を食ってしまった。
村を迂回していると更に時間をとられる事になる。
どちらにしろ屍人との闘いは避けられないだろう。なら、距離的に一番短い商店街を突っ切るべきだ。
そう提案したのはドクオだった。
先程から、なぜか胸がざわついてしょうがなかったからだ。
屍人は人々の祈りの念がこめられている石碑に、触れる事も近づく事も出来ない。
近寄りすらせずに、相当な重さのある石塊を倒す。普通に考えればそんな事は不可能だ。
道具や機械を使うのなら話しは別だが、
すぅは先程神社で、手加減も出来ないほど屍人の知能は低い、と言っていた。
ならば何か道具を使うにしても、複雑な機械などは屍人の手に余るはずだ。
油断は禁物だが、多少の時間的余裕はあるとみていいだろう。
だから今は身の安全を優先して迂回ルートを選ぶべきだ。
頭ではそう思うのだが、自分の中の何かが気持ちを強く駆りたてる。
その焦りからドクオは商店街ルートを強く推し、ブーンとツンはそれに渋々応じたのだ。
7 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:34:28.35 ID:GXy5THmj0
案の定、村に入ると屍人達が次々と襲いかかってきた。
ツンを背負って両手が塞がっているブーンの変わりに、ドクオとツンが迎撃にあたる。
だが、三度目の海還りで動きの速くなっている屍人を撒くのは困難だった。
光でその動きを止めても、次の屍人の相手をしている間に起きあがってくる。
走って引き離す余裕がない。
そうこうしている内に回りを囲まれてしまった。
('A`;) 「ツン、御神体だ!」
ξ;゚?゚)ξ 「で、でも・・・」
(;^ω^) 「ツンちゃん、頼むお!」
二人に押し切られ、ツンはナップザックから虚月盾を取り出す。
また、あの吐き気がするような負の感情が押し寄せてくる。
投げ捨てたくなる衝動をなんとか抑え、胸の前で構える。
ξ;゚?゚)ξ 「い、いいわよ!」
ドクオが虚月盾に光を当てる。
盾から光矢が伸び、屍人を次々と貫いてゆく。
一分後、三人を囲んでいた屍人達は全て倒れ、動かなくなっていた。
9 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:36:59.10 ID:GXy5THmj0
ツンは倒れて動かなくなった屍人達を複雑な気持ちで眺めていた。
虚月盾に触れる事が嫌だった訳ではない。
もちろんそれもあったが、それ以上に嫌だったのは光矢で屍人を攻撃する事だった。
虚月盾の光矢に貫かれた屍人はピクリとも動かない。
それまでは殴ろうがライトで照らそうが、何をしてもすぐに起き上がってきたのに。
─── もしかしたら、殺してしまったのではないか?
そんな恐怖に駆られる。
今は屍人とはいえ、元はみんな顔見知りなのだ。
自分達が救うべき対象なのだ。
それなのに、自分達の身を守るためとはいえこんな事を……
胸の奥から言い様のない何かが込み上げてくる。
顔を上げると、ブーンもドクオも沈んだ顔をしていた。
考えている事は一緒なのだろう。
やはり少しくらい遠回りでも、目の届きにくい村外を通るべきだったのでは?
ツンが、そう後悔しかけたとき───
パ ァ ー ン … ッ!
離れた場所で、何かが破裂するような音が聞こえた。
14 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:38:10.50 ID:GXy5THmj0
その音が何なのか理解する間もなく、二回目の音が響く。
パ ァ ン … ッ!
(;゚ω゚) 「グ・・・ッ!!」
それが銃声だと気付いたのは、ブーンが呻き声を上げ、太腿を押さえて崩れ落ちたときだった。
傷を押さえたブーンの手の隙間からは鮮血が溢れ出て、地面に赤い染みを作る。
('A`;) 「やべぇ、銃だ!隠れろっ!」
ドクオは叫ぶと、うずくまっているブーンを力任せに引きずり、向かいのコンビニに飛び込む。
ツンはうろたえながらも、ブーンの盾になるようにかばいながら後に続く。
19 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:41:34.41 ID:GXy5THmj0
【ニ日目/異界/13時19分09秒/羽生蛇商店街・ひろぽんマート】
ドクオは引きずってきたブーンを商品棚の陰に隠すと、通りに面したショーウィンドウから外を窺う。
だが、辺りにはそれらしき人影はない。
('A`;) 「さすがにノコノコと姿を見せてはくれねぇな・・・」
屍人が武器を使う事はわかっていたが、まさか銃まで使ってくるとは。
家の鍵すら開けられなかった頃からは想像も出来なかった。
三度の海還りを果たした屍人の能力を見くびっていたのかもしれない。
身体能力があれだけ回復しているのだ。知能だって戻っていても、何ら不思議ではない。
そこまで考えてドクオは首を振る。今は銃を持つ屍人だけに意識を集中すべきだ。
この村で銃といえば、駐在所の警官が持つ拳銃一丁しかない。
なんとかしてその屍人から拳銃を奪わなければ、危険過ぎてここを動けない。
ドクオは身を低くしながら、タオルでブーンの傷口を縛るツンの元へ移動する。
('A`) 「どうだ、傷は?」
ξ;゚?゚)ξ 「う、うん。弾は貫通してるみたいなんだけど・・・」
(;´ω`) 「・・・う、うぅ・・・・・・」
傷口を覆った白いタオルは、みるみる内に赤く染まってゆく。
20 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:44:07.64 ID:GXy5THmj0
かなり痛むのだろう、ブーンは眉間に皺を寄せ、苦しそうに息をしている。
('A`) 「もっと強く縛んなきゃダメだ」
ξ;゚?゚)ξ 「あ、はい・・・・・ん、どうかした?」
ブーンの顔を覗き込むドクオの顔が、こころなしか蒼ざめて見えたのだ。
('A`;) 「・・・んにゃ、なんでもね」
ツンの視線を避けるようにドクオは立ち上がり、
商品ラックに掛けてある新しいタオルを手渡しながら言う。
('A`) 「ブーンを頼むぜ。オレは拳銃を持ってるヤツを探してくる」
ξ;゚?゚)ξ 「え!?そんな、危険よ!」
('A`) 「だからこそだろ。まともに歩けないブーンを連れてここを出ていったら、それこそいい的だ」
ξ;゚?゚)ξ 「でも、あんただってケガしてるし、一人じゃ・・・」
('∀`) 「こんなん、たいしたこたねぇって」
ドクオはそう言って怪我をしたほうの腕を曲げ伸ばししたあと、
両手のマグライトを二丁拳銃のポーズで構える。
('∀`) 「それに向こうは一丁、こっちは二丁だからな。負ける理由がねぇ」
ξ ゚ー゚)ξ 「なに言ってんの、バカね・・・」
ドクオは急に真顔になると、ツンの肩に手を置く。
('A`) 「・・・なぁ、ツン」
ξ ゚ー゚)ξ 「なぁに?」
('A`) 「もし、オレが無事に戻ってこれたら・・・」
23 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:46:44.07 ID:GXy5THmj0
ξ ゚?゚)ξ 「それ死亡フラグ」
('A`;) 「・・・はい?」
ξ ゚?゚)ξ 「あんた、それ以上言ったら死んじゃうわよ?」
('A`;) 「あ、うん・・・そうだね・・・」
ξ ゚?゚)ξ 「あとね、“時間を稼ぐのはいいが、別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?” とかね・・・」
('A`;) 「いや、もういいから」
仕切り直し。
ドクオは急に真顔になると、ツンの肩に手を置く。
('A`) 「御神体はおまえが持ってろ。いざとなったらブーンを守ってやってくれ」
ξ;゚-゚)ξ 「ん、わかった・・・」
外に出たドクオの目を盗んで、拳銃屍人が店内に入って来ないとも限らない。
ドクオはもちろんだが、ツン達だって危険である事に変わりないのだ。
('∀`) 「んじゃ、ちょっくらサバイバルゲームとしゃれこんでくるぜ」
ξ;゚?゚)ξ 「気をつけてね・・・!」
ドクオは拳を突き上げると、裏口に消えて行く。
26 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:48:40.27 ID:GXy5THmj0
【ニ日目/異界/13時32分50秒/羽生蛇商店街・裏通り】
ドクオはマグライトを構えながら体を低くし、物陰から物陰へと素早く移動する。
無意識の内に呼吸は早く、浅くなる。
今、この瞬間に銃口に狙われていないとも限らない。
これまでの緊張感とはまるで異質なものだった。
胃がキリキリときしみ、背筋を冷たい汗が流れ落ちる。
('A`;) 「ヤロウ、どこに隠れてやがる・・・?」
この付近にいた屍人達は先程の戦いで一掃したのか、辺りはやけに静まり返っていた。
それが不気味で、ことさら恐怖を掻き立てる。
想像していたよりも屍人の数が少ない。
もしや倉庫のときのように、どこかに息を潜めて待ち構えているのではないか?
そんな不安に苛まれてしまう。
他にもドクオを不安にさせる要素はあった。
店内でブーンの肩の怪我をさりげなく確認したところ、
あんなに酷かった腫れが、この短時間でほとんど引いていたのだ。
どう考えても通常の人間の回復力ではない。
ショックを受けはしたが、ある程度想像はしていたので、ツンにはそれを気付かれないようにした。
恐らくブーンも、それを望んでいるのだろうから。
28 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:49:56.95 ID:GXy5THmj0
ドクオの予想通りなら、しばらくすればブーンは立って歩けるまでに回復するだろう。
だが、どちらにしろ拳銃屍人が危険な事に変わりはない。
ブーンが回復するまでの間に、なんとかして仕留めなければ。
付近に拳銃屍人の気配が無い事を確認して、次の建物へ移動しようとしたそのとき───
パ ァ ー ー ー ン ………!
背後で銃声が響く。
思わずその場にしゃがみ込むドクオ。
だが、すぐにその銃声は自分を狙ったものではない事に気付く。
銃声がしたのは……ひろぽんマートのほうだ。
('A`;) 「しまった!!」
ドクオは慌てて駆け出す。
パ ァ ー ー ー ン ……!
次いで、二発目の銃声が聞こえた。
29 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:51:18.66 ID:GXy5THmj0
【ニ日目/異界/13時24分50秒/羽生蛇商店街・ひろぽんマート】
ドクオが銃声を聞く少し前───
ブーンは店の床に座り、太腿の傷の痛みに耐えていた。
ツンは少し離れた所で心配そうにブーンを見つめている。
傷の痛みは先程に比べると、随分やわらいではいた。
この分なら歩けるようになるまで、そう時間はかからないだろう。
だが、ツンを背負って走れるようになるまで、どれくらいの時間が必要なのだろうか?
三十分?一時間?
さすがにそんな悠長な事は言っていられない。
こうしている間にも、すぅは虚子復活の準備を整えているだろう。
敵の手の内がわからない以上、急ぐに越した事はない。
そのために危険を承知で商店街ルートを選んだのだ。
このままでは自分の怪我のせいで、その選択が無意味になってしまう。
ブーンは意を決してツンに話しかける。
(ヽ^ω^) 「・・・ツンちゃん、お願いがあるお」
ξ ゚?゚)ξ 「なぁに?」
30 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:53:03.10 ID:GXy5THmj0
飲み物のコーナーを指差すブーン。
(ヽ^ω^) 「そこのペットボトルを一本、持ってきて欲しいお」
ξ;゚?゚)ξ 「! だって、あれ・・・」
冷蔵庫の棚には色々な種類の飲み物が並べられているが、
それら全てが今は赤い水に変化している。
ξ;゚?゚)ξ 「あんた、なに言ってるかわかってんの!?あれは・・・」
(ヽ^ω^) 「よくわかってるお。あれは今の僕に必要なモノだお」
ξ;゚?゚)ξ 「で、でも、あれを飲んだら・・・」
(ヽ^ω^) 「もう飲んじゃったお」
ξ;゚?゚)ξ 「ブーン・・・」
(ヽ^ω^) 「ツンちゃんは気付いてないかもだけど、僕はもう二回も飲んじゃったんだお」
気付いていた、とは言い出せず、ツンは口をつぐむ。
(ヽ^ω^) 「二度ある事は三度ある・・・じゃなくて、二回も三回もおんなじだお」
ξ;゚-゚)ξ 「・・・」
(ヽ^ω^) 「お願いだお、ツンちゃん。ここでゆっくりしている暇はないお」
ξ;゚-゚)ξ 「・・・・・・わかった」
ツンはうなづくと冷蔵庫まで歩いて行き、ガラス扉を開けペットボトルを一本取り出した。
31 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:55:17.39 ID:GXy5THmj0
手に取ったボトルは、真っ赤な液体で満たされている。
ツンは震える手でそれをギュっと握り締め、かすれ気味の声を出す。
ξ;゚?゚)ξ 「・・・ね、ねぇ?これを飲めば私のケガも・・・」
(ヽ^ω^) 「ダメだお」
ツンが言い終える前に、ブーンはピシャリと言う。
(ヽ^ω^) 「そんな事したらドクオ君が悲しむお。僕も悲しいお」
ξ;゚-゚)ξ 「・・・」
(ヽ^ω^) 「さ、こっち渡してお」
ξÅ-゚)ξ 「・・・ブーン、ごめん・・・あんたに・・・だけ・・・」
(ヽ^ω^) 「ツンちゃんが謝ることないお」
ブーンは手を伸ばし、ツンからペットボトルを受け取る。
キャップをひねると、パキッと小気味よい音がした。
(ヽ^ω^) 「・・・後ろ向いてて欲しいお」
ξÅ-゚)ξ 「うん・・・」
ツンが後ろを向くと、ブーンはペットボトルに口をつける。
とても、とても甘美なその味。
赤い液体が体内に流れ込んでくる。染み込んでくる。
飲み終わった直後、体中に力が溢れてきた。
(ヽ^ω^) 「ア゙ァァ゙ァ゙ァァ゙・・・」
太腿の痛みが一気に薄れる。すでに血は止まっているだろう。
32 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:56:39.30 ID:GXy5THmj0
具合を確かめるようにゆっくりとブーンは立ち上がると、後ろを向いたままのツンに声をかける。
(ヽ^ω^) 「もういいお・・・それとドクオ君には、この事は黙ってて欲しいお」
ξ(゚-Åξ 「ん・・・わかった・・・」
その返事とは裏腹に、勘の良いドクオは既にブーンの異変に気付いているだろう、とツンは思う。
いま思えば、神社からのドクオは少し様子がおかしかった。
ブーンの事を自分には気付かせないように振舞っていたのだろう。
(ヽ^ω^) 「もう動けるお。ドクオ君の手助けに行くお!」
ξ ゚ー゚)ξ 「そうね、行きましょう!」
しんみりとした空気を追い払うようにブーンが元気よく言い、ツンもそれに力強い声で答える。
二人が床の荷物を持ち上げようとしたとき、裏口の扉の開く音が聞こえた。
キ ィ ィ ィ ……
二人の位置からでは、レジ奥の通路の先にある裏口を見る事は出来ない。
ξ;゚?゚)ξ 「・・・ド、ドクオなの?」
(;^ω^) 「ドクオ君、大丈夫だったかお?」
二人の問いかけは、店内の闇に吸い込まれてしまう───
33 名前: ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:57:04.85 ID:GXy5THmj0
(ヽ^ω^) おしっこしてくるお
35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2006/05/14(日) 23:58:44.42 ID:G/mQhMbNO
>>33
トイレはレジの奥だぜ!
36 名前: ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/14(日) 23:59:40.60 ID:GXy5THmj0
(ヽ^ω^) たっぷりでたお
37 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:01:24.94 ID:bGGqJGpR0
【ニ日目/異界/13時31分41秒/羽生蛇商店街・ひろぽんマート】
ブーンとツンはしばらく待つが、返事が返ってくる様子はない。
ドクオでないとすれば、残るは屍人だけだ。
最悪の場合、拳銃を持っている屍人かもしれない。
ブーンはツンにだけ聞こえるようにささやく。
(;^ω^)。oO「僕が様子を見てくるから、ツンちゃんはここに隠れてて欲しいお」
ξ;゚?゚)ξ。oO「でも、それじゃあんたが・・・」
(;^ω^)。oO「何かあったら援護して欲しいお。それまでは居場所を知られないほうがいいお」
ξ;゚?゚)ξ。oO「・・・わ、わかった。注意すんのよ」
ブーンはうなづくと懐中電灯のスイッチを入れ、進行方向を照らしながらレジ前へと進む。
(;^ω^) 「だだ、誰かそこにいるのかお?」
商品棚の端に隠れながらレジ奥の通路を照らすが、ここからでは壁が死角になって裏口が見えない。
レジの真横に回り込まなければ。
ブーンが棚から出ようとしたとき、通路の奥からくぐもった声が聞こえてきた。
? 「・・・・・・ブ〜ン・・・眩じい・・・よ゙・・・」
(;゚ω゚) 「・・・ッ!!」
38 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:02:57.61 ID:bGGqJGpR0
その声に思わず懐中電灯を取り落とす。
床を転がった懐中電灯は、レジカウンターと床の隙間に入り込んでしまった。
途端に辺りが闇に包まれる。
? 「・・・あ゙りがどう、ブ〜ン・・・ごれで・・・出ら゙れるよ゙ぉ〜・・・」
(;゚ω゚) 「そ、そそ・・・その声・・・・・・」
聞き間違えるはずがなかった。
少しくぐもってはいるが、よく聞き慣れた声。
子供の頃からいつもそばにあった声。
その声の主はゆっくりと壁の陰から姿を現し、レジカウンターを挟んでブーンと対峙する。
(ヽ´゚ω゚) 「ブ〜ン・・・会い゙たがっだよォ゙ォォ゙・・・・・・ブゥゥ゙ゥ〜ン゙・・・」
(;゚ω゚) 「・・・・・・ショ、ショボ・・・ン・・・」
血の色の目でブーンを見つめ、唇の端を吊り上げニタリと笑う。
(ヽ´゚ω゚) 「ゲェッ、ゲッ、ゲェェ゙ェ・・・」
それはショボンの変わり果てた姿だった───
42 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:05:0353 ID:bGGqJGpR0
ショボンの声が聞こえてきたときから、ツンは動けなくなっていた。
足も腕も命令に従ってはくれない。まるで電池の切れた玩具のように。
体が動かないのはブーンも一緒だった。
頭は床に落ちた懐中電灯を拾え、と命令しているのだが、体はそれを拒否し続けていた。
ショボンが屍人になって自分達を襲いにくる。
こうなる事は充分、予測できたのに……
ブーンは、いやドクオもツンも、あえてその事を考えないようにしていたのだ。
(ヽ´゚ω゚) 「ま゙た・・・会え゙で、うれじいよ゙・・・・・・ボク達ば・・・ずっど一緒、だっ゙たん゙だから゙ぁ・・・」
ショボンはブーンにささやきかけながら、レジカウンターを迂回すべく正面出入口のほうに歩き出す。
上半身を左右に揺らしながら、ゆっくりとした足取りで。
(ヽ´゚ω゚) 「ね゙ぇ、ブ〜ン゙・・・だがらブ〜ンも゙・・・ボク達の゙仲間に゙なろ゙うよォ゙ォォ〜」
(;゚ω゚) 「ショボン・・・こ、こっち来るなお・・・来ちゃダメだお・・・」
暗くてよくは見えないが、ショボンの手には何か黒い物が握られている。
(ヽ´゚ω゚) 「・・・何で・・・ぞんなごど・・・言ゔのぉ、ブゥ゙ゥゥ゙〜〜〜ン・・・?」
ショボンは歩きながらもその視線をブーンから離そうとはしない。
47 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:06:55.08 ID:bGGqJGpR0
ショボンはすでにレジカウンターの端まで歩いてきている。
もう二人の距離は3メートルと離れていない。
ブーンはかろうじて動く首を回すと、ショボンの後方───
ショーウィンドウの外に、警官の姿をした屍人が拳銃を構えていた。
(;゚ω゚) 「危ないお、ショボンっ!!」
思わず叫ぶブーン。
パ ァ ン ッ !!
ガ シ ャ ー ー ー ン !
銃弾はガラスを突き破り、ブーンのすぐ脇の棚に当たって弾ける。
その直後、ショボンが素早い動きでブーンに襲いかかる!
(ヽ´゚ω゚) 「ブウゥ゙ゥ゙ゥーーーーーーーーゥ゙ゥン゙ッ!!」
51 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:09:26.01 ID:bGGqJGpR0
その銃声でツンの見えない戒めが解かれた。
レジのほうを振り向くのと、屍人と化したショボンがブーンを押し倒すのとが同時だった。
慌ててハンディライトのスイッチを入れ、その強力な光でショボンを照らす。
(ヽ´゚ω゚) 「ヴァアァ゙ァア゙アァ゙ァ゙ァア゙アーーーッ゙!!!」
ブーンと重なり合ったまま、ショボンの体が硬直する。
しかし倒れたときに頭を打ったのか、ブーンはピクリとも動かない。
このままでは拳銃の格好の的だ。
ツンは棚の列から飛び出し、拳銃屍人にライトを向ける。
パ ァ ン ッ !!
右手の先に衝撃を感じ、ライトのレンズカバーが砕け散る。
慌ててライトを見るが、それはすでに光を発していない。
スイッチを二、三度押すが、反応はない。
焦って顔を上げると、砕けたガラス越しに拳銃屍人がのげぞって嘲笑するのが見えた。
その銃口はツンに向けられている。
─── もうダメ!
ツンは固く目を閉じる。
ヴ ォ ア゙ ァ ァ゙ ア゙ ー ッ !!
死を覚悟した瞬間、屍人の絶叫が轟いた。
銃声はいつまでたっても聞こえてこない。
ツンが恐る恐る目を開けて見たものは、倒れた拳銃屍人をライトで照らし続けるショボンの姿であった。
55 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:11:27.99 ID:bGGqJGpR0
【ニ日目/異界/13時37分20秒/羽生蛇商店街・ひろぽんマート】
(ヽ`・ω・) 「ツンちゃん、拳銃を奪って!」
ξ;゚?゚)ξ 「え、あ・・・う、うん!」
状況が飲み込めずに固まってしまったツンに、正気を取り戻したショボンが叫ぶ。
ツンはビクッと体を震わせると、急いで倒れている拳銃屍人の元へ走る。
屍人は拳銃を握ったまま硬直していたので指を伸ばすのに苦労したが、
なんとか拳銃を手から引き剥がす事が出来た。
拳銃の吊り紐を帯革から外していると、ドクオが脇道から姿を見せ走り寄ってくる。
('A`;) 「ツン、無事か!ブーンは・・・ショボンッ!?」
ドクオは割れたガラス越しに店内の様子を見て、声を失う。
ブーンが床に倒れ、その脇でショボンが屍人をライトで照らしている。
自分が離れている間に、いったい何が起こったのだろうか?
ショボンは持っているライトを、屍人を照らし続けるように床に置いて立ち上がる。
それは、お社でブーンがショボンに握らせておいた彼のハンドライトだった。
(ヽ´・ω・) 「ドクオ君、後で説明するから。とりあえず予備の弾丸を持っていないか調べて」
('A`;) 「あ、あぁ、わかった」
ショボンの目は屍人のように真っ赤だったが、正気なのは間違いない。
事情はよくわからないが、言われた通り屍人の制服を漁る。
スペアの弾丸は持っておらず、拳銃の弾倉には一発だけ弾が残っていた。
ドクオはとりあえず、自分の腰のベルトに拳銃── ニューナンブM60を差し込む。
57 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:13:04.47 ID:bGGqJGpR0
('A`) 「んで、一体どうなってんだ?」
(ヽ´・ω・) 「うん、実は・・・」
ショボンには屍人になっていたときの記憶が残っているらしく、先程までの経緯をドクオに話した。
('A`) 「なるほどな・・・光を浴びて正気に戻ったのか」
(ヽ´・ω・) 「うん。でもたぶん、一時的なものだろうけど・・・」
ξ;゚?゚)ξ 「え?それってどういう・・・」
(ヽ´ω`) 「・・・う、うーん・・・あれ、みんなどうしたお・・・?」
ツンが質問しようとしたとき、ブーンが後頭部を押さえながら上半身を起こす。
寝惚けたような目で三人を見回し、ショボンの顔を見て目を剥く。
(;゚ω゚) 「・・・ショボンッ!!」
(ヽ´・ω・) 「ブーン。大丈夫、落ちついて。さっきは襲いかかったりしてゴメンね」
(;゚ω゚) 「ショ、ショボン・・・本当に・・・ショボンかお?」
(ヽ´・ω・) 「ボクだよ、ブーン。ショボンだよ」
(ヽTωT) 「う、うぅ・・・ショボン・・・ショボ・・・」
ブーンはショボンの足にしがみ付き、声を上げて泣き始める。
ショボンはそんなブーンの頭を撫でてあげるのだった。
61 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:15:37.98 ID:bGGqJGpR0
ブーンがしばらくして泣き止むと、ショボンはサイレンが鳴った後の事を話し始める。
(ヽ´・ω・) 「サイレンが鳴った直後にまた意識がなくなって、気がつくと海岸近くにいたんだ」
('A`) 「・・・海還りしにか?」
(ヽ´・ω・) 「うん、たぶんね。結果的に海には入らなかったみたいだけど・・・」
言われてみれば、ショボンの服は赤い水で濡れていない。
(ヽ´・ω・) 「そこで・・・しぃちゃんに会ったんだ」
ξ;゚?゚)ξ 「しぃに!?」
(ヽ´・ω・) 「うん・・・それで、みんなを捜して襲うように言われた・・・」
('A`#)。oO(すぅのヤツめ、よりによってショボンにそんな事を!)
それはショボンにはさぞショックな出来事だったろう。
お社で意識を失っていたショボンは、しぃの告白を聞いていない。
つまりショボンは未だに、すぅをしぃだと思っているのだ。
ドクオがその事を説明しようとすると、ショボンはそれを遮って続ける。
(ヽ`・ω・) 「でも、あれはしぃちゃんじゃない。しぃちゃんは絶対にあんな事を言ったりしない!」
('A`) 「ショボン・・・」
(ヽ´・ω・) 「しぃちゃんはきっと誰かに操られているんだ。
だから、みんなにはしぃちゃんを助けて・・・ううん、救ってあげて欲しいんだ・・・」
微妙に言い方を変え、頭を垂れるショボン。
65 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:18:15.80 ID:bGGqJGpR0
今まで黙っていたブーンが、おずおずと口を開く。
(;^ω^) 「みんなに、って・・・も、もちろんショボンも一緒に行くお?」
(ヽ´・ω・) 「・・・しぃちゃんにみんなを襲えって言われたとき、体の中の何かにボクは支配されたんだ。
ライトの光が一時的にソレを封じ込めてるけど、ソレは今でもボクの中に潜んでる」
(;^ω^) 「な、なにを言ってるんだお、ショボン・・・?」
(ヽ´・ω・) 「ソレは遠からず、またボクを支配すると思う。だからみんなとは・・・もう行けないんだ」
(;^ω^) 「もし、またショボンが変になってもライトで照らすお!何回でも照らすお!」
(ヽ´・ω・) 「・・・ブーンは光を浴びたときの苦しみを知らないんだね・・・・・・」
ショボンはブーンから視線をそらし、寂しそうに笑う。
それは、己がすでに人ではない事を自覚している者の哀しい笑みだった。
ドクオとツンは、そんなショボンを黙って見つめる事しか出来なかった。
その二人のほうを向き、ショボンが意を決した表情で告げる。
(ヽ`・ω・) 「ボクはこれ以上、自分が自分でなくなるのが嫌なんだ。ボクは自分自身を救いたい」
ξ;゚?゚)ξ 「え?きゅ、急に何を言いだすの、ショボン?」
(ヽ`・ω・) 「さっき、みんなが外でヤツらに囲まれているのを見たよ。そのとき使った光の矢を放つ武器も・・・」
('A`;) 「ショボン、おまえまさか・・・」
(ヽ`・ω・) 「みんなの手はわずらわせないよ。ボクが自分でやるから」
(;゚ω゚) 「そんなのダメだお!!」
ショボンの意図を察したブーンが叫ぶ。
(;゚ω゚) 「そんなの絶対ダメだお!そんな事したらショボンは・・・!」
(ヽ´・ω・) 「ブーン、お願いだからわかって・・・ボクにはもう時間がないんだ」
70 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:22:23.51 ID:bGGqJGpR0
ショボンは子供を諭すように言うが、ブーンは耳を貸そうとはしない。
(;>ω<) 「ダメだお!絶対にダメだお!!」
(ヽ´・ω・) 「大丈夫、死んだりはしないよ。意識を失うだけだから」
もちろんそれは、ブーンを納得させるための嘘だった。
光矢に貫かれ活動を停止した屍人がどうなるかなど、ショボンにもわかるはずがなかった。
ブーンは次第に泣き声になりながらも、頑なに反対し続ける。
(ヽTωT) 「いやだお・・・いなくなっちゃいやだお、ショボン・・・」
('A`) 「・・・ショボンの言う通りにさせてやれ、ブーン」
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、ドクオ!?あんた、なに言って・・・」
('A`;) 「ショボンが決めたんだ!自らの意思で、人としての尊厳をかけて!
それを曲げる権利は・・・オレらにはねえ・・・」
ドクオの歯軋りの音が店内に響く。
ξ;゚-゚)ξ 「ドクオ・・・」
(ヽTωT) 「・・・やだ、いやだおぉ・・・うぅぅ・・・」
泣きじゃくるブーンの耳には、すでに誰の言葉も届いてはいなかった。
ブーンはよく知っていたのだ。
この優しげな風貌の幼馴染が、一度何かを決意したらてこでも変えない強い意思の持ち主である事を。
(ヽ´;ω;) 「ありがとう、ドクオ君。まだボクの事を・・・人って呼んでくれるんだね・・・」
ショボンは静かに涙を流す。
その涙は血のように真っ赤だった───
72 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:23:56.19 ID:bGGqJGpR0
【ニ日目/異界/13時51分09秒/羽生蛇商店街・ひろぽんマート】
(ヽ´・ω・) 「ホントにいいの?扉の横に立て掛けてくれるだけでいいのに・・・」
('A`;) 「・・・ああ、オレがこうしたいんだ」
(ヽ´・ω・) 「ありがとう、ドクオ君・・・」
ドクオは裏口の扉の前で、虚月盾を胸の前に構えていた。
ブーンとツンは、外で待たしてある。
ドクオの数メートル先には、ショボンがライトを握って立っている。
(ヽ´・ω・) 「・・・ドクオ君にお願いがあるんだけど」
('A`;) 「ん、なんだ?」
(ヽ´・ω・) 「このライトをブーンに渡してくれないかな?」
ショボンが右手のハンドライトを軽く持ち上げる。
('A`;) 「・・・わかった」
(ヽ´・ω・) 「頼むね・・・じゃあ、いくよ」
('A`;) 「おう・・・!」
ドクオは沸き上がる負の感情を抑え付けながら、虚月盾を胸の前に突き出す。
ツンは今までこれを泣き言も言わずに持っていたのかと思うと、今更ながらに感心する。
だが、ここで自分が弱音を吐く訳にはいかない。
いま自分が感じている以上の恐怖と闘っているのは、間違いなくショボンのほうなのだから。
76 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:25:50.80 ID:bGGqJGpR0
(ヽ´・ω・) 「ドクオ君、みんなと無事に元の世界に戻ってね・・・それと、しぃちゃんの事・・・」
('∀`;) 「しぃの事はオレらにまかせとけ」
(ヽ´-ω-) 「・・・・・・みんな、ありがとう・・・さよなら・・・」
そうつぶやくとショボンはライトで虚月盾を照らし、そして光矢がその体を貫く。
一瞬の間のあと、鈍い音を立ててその場に崩れ落ちるショボン。
ドクオはしばらくその場に佇んでいた。
もしかしたら怨気を祓われたショボンが、ひょっこり起き上がってくるのではないか。
そんな淡い期待を捨てきれなかったからだ。
だが、いつまで待ってもショボンが眠りから醒める事はなかった。
( TAT) 「・・・・・・最後まで・・・人の心配なんかしやがって・・・・・・ショボン・・・」
ドクオの頬はいつの間にか涙で濡れていた。
自分が最後に言った気休めは、ショボンの心残りを少しでも軽くする事が出来たのだろうか……?
ドクオは涙を拭うとショボンの脇に転がったライトを拾い、裏口の扉を開ける。
外に出ると、ブーンとツンが寄り添って待っていた。
二人とも涙を隠そうともしない。
そんな二人にドクオはあえて強い口調で言う。
('A`) 「いま泣いてる暇はねぇ。行くぞ、虚子の復活は絶対に阻止する」
ξÅ-゚)ξ 「・・・うん」
('A`) 「ブーン。このライト、ショボンがおまえに渡してくれってよ」
(ヽTωT) 「・・・・・・」
動かなくなったショボンを店内に残し、三人はコンビニを後にした。
82 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:28:44.93 ID:bGGqJGpR0
【ニ日目/異界/14時07分45秒/羽生蛇村外れ・お社へ続く道】
ショボンの事があったのでドクオはしばらく気が付かなかったのだが、
拳銃で受けたブーンの傷は、すでに完治している様子だった。
今はツンを背負いながらも、ドクオ以上のペースで走っている。
ドクオは自分の予想が当たっていた事に落胆した。
やはりブーンは赤い水を飲んでいたのだ。
学校で屍人に襲われたときだろうか?
それとも、廃校舎でペットボトルの赤い水を口に含んだときか?
どちらにせよブーンが半屍人化しているのは、もう疑いようがない。
驚異的な治癒力と、充血した赤い目がそれを証明している。
そして、もしかしたらブーンもショボンのように……
ドクオは不吉な考えを頭から振り払う。
ふと前を見ると、先を走っていたブーンが立ち止まって足元を見ている。
('A`) 「どうした、ブーン?」
(ヽ^ω^) 「・・・これ、何だと思うお?」
ツンを背負ったまま、ブーンが地面を指差す。
そこには車のタイヤの跡のようなものが、クッキリと残っていた。
いや、それはタイヤよりも幅広で、深く地面に刻み込まれている。
先程この場所を通ったときには、こんなものはなかったはずだ。
ドクオの胸がざわつき始める。
嫌な予感がして視線を上げると、その轍は学校のほうからお社に向かって続いていた。
頭を何かで殴られたような衝撃の後、ドクオは神社を後にした頃から感じていた焦燥の原因を理解する。
88 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:32:03.02 ID:bGGqJGpR0
Σ('A`;) 「ショベルカーだ!!」
学校には老朽化した廃校舎を取り壊すために、数日前からショベルカーなどの重機が置かれていた。
それはわざわざ本土から運ばれてきた大型の物で、
村では普段見る事がなかったために、今まで失念していたのだ。
ξ;゚?゚)ξ 「もしかして、それを使ってお社と石碑を・・・!」
屍人は石碑に触れる事が出来ない。
しかしショベルカーを使えば、石碑に近寄りすらせずにアームで押し倒す事が可能だ。
だが、本当に屍人がショベルカーを運転出来るのだろうか?あんな複雑なものを?
バットを振り回したり、拳銃を撃ったりするのとは訳が違うのだ。
そう自問したドクオはある事に思い至り、愕然とする。
すぅは神社で屍人の事を、『手加減も出来ないほど頭が悪い』と言っていた。
屍人に対する今までの先入観から、疑いもせずにその言葉を信じてしまったが、
もし、あれが自分達を油断させるための罠だったとしたら?
少なくともあの時点で、すでに機械を操作出来るくらいまでに屍人の知能が回復していて、
それを悟らせないために、すぅはわざとあんな事を言ったのだとしたら……?
お社でしぃは繰り返し言っていた。すぅの言葉を信じてはいけない、と。
その助言を忘れ、まんまと引っ掛かってしまったのだ。
もちろん出来る限り急いだつもりだったが、それでもどこか油断がなかったとは言い切れない。
ドクオは自らの愚かさを呪った。
ショボンがいてくれたら、あんな言葉に惑わされなかったのに───
('A`;) 「や、やべぇぞ・・・あんなん使われたらひとたまりもねえっ!」
(;^ω^) 「急ぐお!」
ブーン達は猛然とお社へ続く坂道を駆け登り始める。
89 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:33:22.42 ID:bGGqJGpR0
【ニ日目/異界/14時16分09秒/お社へ続く坂道】
坂を走りながら、ドクオがツンに話しかける。
('A`;) 「ツン、御神体の準備をしておけ。ヤツら、絶対に待ち伏せしているはずだ」
ξ;゚-゚)ξ 「・・・わかった」
ツンはうなづくと肘に掛けているナップザックの口を開け、いつでも取り出せるようにする。
虚月盾を使う事には依然として抵抗がある。
ショボンの事があってから、更にその度合いは増していた。
だが、今は躊躇している場合ではない。
しぃは言葉を濁していたが、虚子の封印が解かれれば恐らく村人全員が犠牲になってしまうだろう。
そうなれば当然、ドクオやブーンも助からないのだ。
(;^ω^) 「うじゃうじゃいるお!」
ブーンが叫んで足を止める。
予想通り、薄闇のその先には屍人達が待ち構えていた。
道と、その両脇の草むらに群れをなして立っている。
暗いために全てを見通す事はできないが、相当な数の屍人が壁を作っていた。
すぅは残りの手持ちの駒の殆どを、この場所に配置しておいたのだろう。
どおりで商店街には思ったほど数がいなかった訳だ。
いくら虚月盾があるとはいえ、この圧倒的な数を防ぎきれるのだろうか?
一度捕まってしまえば、それで終わりだ。
神社のときのように屍人の障害になる物も無い。
ツンがブーンの背から降り、震える手で虚月盾を取り出す。
90 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:34:59.40 ID:bGGqJGpR0
ブーンはマグライトとハンドライトを構えながらドクオに言う。
(;^ω^) 「ドクオ君は御神体のほうに専念して欲しいお。僕はヤツらの足を止めるお」
('A`;) 「あの数を一人で止められんのか?」
(;^ω^) 「作戦があるお。足止めは僕に任せて欲しいお」
('A`;) 「・・・わかった、頼んだぞ。ツン、構えろ!」
ξ;゚?゚)ξ 「はいっ!」
バ シ ュ ン ッ !
虚月盾の第一射が屍人の厚い壁に穴を穿つと、
それを皮切りに、屍人の群れが津波のように押し寄せる───!
ア゙ ァ゙ ァ゙ ア゙ ァ゙ ァ゙ ア゙ ア゙ ァ゙ ァ゙ ァ゙ 〜!!
オ゙ ォ ォ゙ オ ァ ア゙ ァ ァ゙ ー ッ!!
ヴ ァ゙ オ ォ゙ ァ゙ ァ゙ ア ォ゙ ォ オ オ゙ オ゙ ァ゙ ァ ァ゙ ア ア゙ !!
(;^ω^) 「き、きたおっ!!」
ブーンは今までのように、手当たり次第に個々を狙う事はしなかった。
恐怖心を抑え、屍人達のスピードが乗るのを待つ。
そして、その勢いが最大限に達したところでライトを屍人に向け、素早く左右に払う。
前列の屍人達はその光を受け、一瞬だけ体を硬直させる。
92 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:36:22.55 ID:bGGqJGpR0
それで充分だった。
動きの止まった前列の屍人達は、勢いのついた後続から押され、その場に倒れる。
その倒れた屍人に足を取られ、バランスを崩す後ろの屍人。
バランスを崩した屍人は、そのまた後ろの屍人に突き倒される。
その状況が、前列の至る所で起こっていた。
そんな屍人達の混乱の隙を突き、光矢が次々と放たれる。
屍人がなんとか前進し始めたところで、またもやブーンの薙ぎ払い攻撃を受ける。
この辺りの地形も、屍人達には仇となった。
両脇に散開しようにも草むらのすぐ隣りは急坂になっており、いかな屍人といえど立ち入る事は出来ない。
平坦な地ならともかく、この狭い場所での大人数は、今やマイナス要因でしかなかった。
ましてや屍人側からみれば、ここは下り坂だ。ちょっとした事でバランスを崩し易い。
ブーンは広範囲を足止めにする戦法に徹した。
その思惑は当たり、屍人達は三人との距離を思うように詰められず、みるみる内にその数を減らしてゆく。
そして、あっという間にその数は半分程度になる。
('∀`) 「すげぇぞ、ブーン!こんな足止めの仕方、いつ考えたんだ?」
(ヽ^ω^) 「神社で囲まれたときだお!」
('A`) 「神社?」
(ヽ^ω^) 「そうだお。ヤツら倒れた木材に足を取られて、僕達になかなか近づけなかったお」
('∀`) 「そうか!木の代わりにヤツらを、って訳か」
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、あれっ!」
ブーンとドクオが話している最中、いきなり群れの後ろから何かが飛んで来た。
93 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:38:17.09 ID:bGGqJGpR0
それはブーン達からかなり離れた所へ音を立てて落ちる。
手斧だった。
一向に近づく事の出来ない屍人が、苦し紛れにその手の武器を投げたのだろう。
それに触発されたのか、不利を悟った屍人達は次々に持っている獲物を投げ始める。
だが、まだかなり距離があるため、その多くは三人には届かずに手前に落ちてしまう。
たまに届いても大きく脇に逸れて地面に落ちる。
元々、それらの武器のほとんどは投げる事に適していない物ばかりだ。
これなら当たる心配はないだろう。
ブーン達が油断した直後───
シ ュ ッ !
一本の農作業用のフォークが薄闇を切り裂く。
そのフォークは緩やかな放物線を描き、ツン目掛けて飛んでくる!
Σ('A`;) 「ツンッ!」
恐怖で体が固まったツンに体当たりするドクオ。
ド サ ッ !
フォークはドクオとツンの間をすり抜けて後方の地面に突き刺さり、二人はもつれ合って道に倒れ込む。
慌てて二人に駆け寄るブーン。
(;゚ω゚) 「二人ともだいじょ・・・あっ!」
('A`;) 「・・・ぐっ・・・ううぅ・・・」
94 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:40:10.03 ID:bGGqJGpR0
ドクオがうずくまったまま脇腹を押さえている。
手で押さえた所を中心に、あっという間に赤い染みが服に広がってゆく。
痛みにうめくドクオに、ツンがすがりつく。
ξ;>?<)ξ 「ちょ、ドクオ!しっかり、ドク・・・イヤァァァアッ!!」
(;^ω^) 「ツ、ツンちゃん、落ち着くお!」
三人の攻撃が止んだ隙を突いて、一気に押し寄せる屍人達。
ブーンは屍人達の喚声に気付き、慌てて両手のライトで足止めをする。
屍人の数はかなり減ったとはいえ、まだ半分近くは残っている。
ブーン一人では、時間を稼ぐだけで精一杯だった。
どちらにしろ虚月盾でなければ屍人を倒す事は出来ない。
屍人達は少しづつだが、確実に距離を縮めてくる。
ブーンは焦って叫ぶ。
(;^ω^) 「ツンちゃん、御神体を構えてお!ツンちゃん!!」
ξ;>?<)ξ 「イヤッ、ドクオ!ドクオッ!!」
だが、ツンは今までに見た事がないほど取り乱しており、ブーンの呼びかけに耳を貸そうとはしない。
(;^ω^)。oO(ひ、一人でなんとかするしかないお・・・!)
ブーンは覚悟を決め、ライトを左右に振りながら虚月盾を探す。
それはドクオの隣りでしゃがみ込む、ツンの脇に転がっていた。
すぐにでも駆け寄りたかったが、一瞬でも屍人達から目を離すのが怖い。
96 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:41:14.19 ID:bGGqJGpR0
屍人をライトで牽制しながら、虚月盾のほうにジリジリとあとずさるブーン。
が、なんとか手が届きそうな距離まで近づいたとき、足元にあった土の窪みに足をとられてしまう。
(;゚ω゚) 「うわっ!!」
ブーンはバランスを崩し、仰向けに倒れ込む。
だが、地面に頭を打ちつける前に、何かがその背中を支える。
尻餅をついた状態で振り返るブーン。
太い腕が、大きな手のひらが、ブーンの背中をしっかりと支えてくれていた。
それはツンの陰から伸びるドクオの腕だった。
('∀`;) 「・・・た、頼むぜ、ブーン」
(;^ω^) 「ドクオ君!」
ドクオはブーンの背中から手を離すと、近くに転がっている虚月盾を掴む。
そして、そのまま地面に寝転がりながら、盾を屍人の群れに向ける。
('A`;) 「ブーン、やれ!」
ブーンはうなづくと、右手のライトで屍人の足を止めつつ、左手のライトで盾を照らす。
唯一の好機に戦況を覆す事が出来なかった屍人達は次々に倒れてゆく。
そして勝敗は決した───
97 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:42:46.42 ID:bGGqJGpR0
【ニ日目/異界/14時28分34秒/お社へ続く坂道】
フォークの爪は、ドクオの左脇腹を大きく切り裂いていた。
幸運にも内臓に届くほどの怪我ではなかったが、素人目にも軽傷とは言いがたい。
このまま放置しておけば、下手をすれば命にかかわるかもしれない。
とりあえずブーンは自分の太腿に巻かれたままになっていたタオルを傷口に当て、
その上からツンが着ていた長袖のジャケットで縛って止血する。
ξ T?T)ξ 「ごめんなさい、ドクオ・・・私のせいで・・・」
('∀`;) 「別におまえのせいじゃねえっつーの。自惚れんな。」
ξÅ?゚)ξ 「なっ、なによ、その言い方・・・!」
('∀`;) 「おっと、殴んのはカンベンな」
ξÅ-゚)ξ 「バカ・・・」
二人のやりとりを聞いていたブーンが、座っているドクオの手をおもむろに取る。
(ヽ^ω^) 「ドクオ君、立てるかお?」
('A`;) 「ん・・・あぁ、たぶんな」
ξ;゚?゚)ξ 「ちょ、ブーン!ドクオは大ケガしてんのよ!?」
(ヽ^ω^) 「でも、急がないと虚子が復活しちゃうお」
ξ;゚?゚)ξ 「そ、そりゃそうだけど・・・せめて村に戻って治療を・・・」
(ヽ^ω^) 「残念だけど、もうそんな余裕はないお・・・あれが聞こえるお?」
ブーンはそう言って、顎でお社のあるほうを示す。
99 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:45:11.67 ID:bGGqJGpR0
耳を澄ますと、木がメリメリと裂ける音が聞こえてくる。
(ヽ^ω^) 「すぅ達はお社を壊し始めてるお。急がないと間に合わないお」
ξ;゚?゚)ξ 「でも・・・」
('A`;) 「ブーンの言う通りだ、ツン。虚子が復活したら、何もかもお終いだ」
ξ;゚-゚)ξ 「ドクオ・・・」
('∀`;) 「この程度のケガなんか、元の世界に戻りゃすぐに治してもらえるって。さ、行くぞ!」
青ざめた顔のドクオは、握っている手に力を込めてブーンをうながす。
ブーンはその手を引っ張ってドクオを立たせると、背中におぶさるように言い、
そして自分よりも遥かに大きいその体を、しっかりとその背で受けとめる。
(ヽ^ω^) 「僕はドクオ君と一緒に先に行くから、ツンちゃんは後から来て欲しいお」
('∀`;) 「ツン、わりいな。ブーンの背中を借りちまって。でも、ブーンにはそのほうが楽か?」
(ヽ^ω^) 「ツンちゃんよりも軽い気がするお」
ξ#゚-゚)ξ 「・・・あんたら、殴るわよ?」
ツンは手を振り上げて殴るポーズをしたあと、ドクオの手に虚月盾を握らせる。
ブーンに背負われたドクオは、それに触れた途端に顔をしかめた。
('A`;) 「こいつを持つと傷が疼きやがるな・・・」
ξ ゚ー゚)ξ 「私に殴られるよりかはマシでしょ?」
('∀`;) 「へっ、ちがいねぇ」
(ヽ^ω^) 「ツンちゃんは別行動だから、これ持ってたほうがいいお」
ブーンはそう言うと、ショボンのハンドライトを差し出す。
ツンのライトは拳銃屍人との戦いで壊れてしまっていたからだ。
104 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:50:12.18 ID:bGGqJGpR0
ξ;゚?゚)ξ 「え?でもこのライトは、あんたにって・・・」
(ヽ^ω^) 「それはツンちゃんに持ってて欲しいお。僕はこっちので充分だお」
ブーンは右手のマグライトを示す。
今ここで言い合ってもしょうがないので、ツンはおとなしくライトを受け取る事にした。
後でブーンに返せばいい。それならショボンも許してくれるだろう。
(ヽ^ω^) 「それじゃ、ツンちゃんもなるべく早く来てお!」
ブーンはそう言うと、お社へ向かって走り出す。
その速さは、本人を越える体重の人間を背負っているとはとても思えない。
今更ながらに、ブーンは赤い水の影響を強く受けているのだと思い知らされる。
ブーンは赤い水に侵され、ドクオは大怪我を負い、自分も足を負傷している。
しぃはすぅの意識に支配され、そしてショボンは……
そこまで考えて、ツンは両手で頬を叩く。
最悪な状況だからこそ、気だけはしっかりと持たないと。
虚子の弱点は人の祈りの念だと、しぃは言っていた。
それは詰まるところ、何かや誰かを想う気持ちという事なのだろう。
ならば自分の想いも武器になるかもしれない。
自らにそう言い聞かせ、ブーンとドクオの後を追いかける。
108 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:53:05.31 ID:bGGqJGpR0
【ニ日目/異界/14時37分52秒/お社へ続く坂道】
足が地面へ着くときの衝撃が伝わるたびに、背中のドクオが小さく唸る。
強がってはいるが、やはり傷は相当痛むのだろう。しかし、ここでスピードを緩める訳にはいかない。
ブーンはドクオの気を紛らわすために話しかける。
(ヽ^ω^) 「僕はドクオ君がうらやましいお。あんなに心配してくれる人がいて」
('A`;) 「あ?ツンの事か?」
(ヽ^ω^) 「前にクマと闘ったときでも、あんなに取り乱してなかったお」
('A`;) 「そりゃ、まぁ・・・あいつとは年もタメだし、家も隣りだからな。姉弟みたいに思ってんだろな。
ウチはオフクロいないから、たまに飯とか作りに来てくれるし、掃除や洗濯なんかもしてくれてるしな」
(ヽ^ω^) 「それなんてエロゲ?」
('A`;) 「んぁ?」
(ヽ^ω^) 「なんでもないお」
('A`;) 「よくわからんが・・・ま、いいか。それに、おまえにだって心配してくれる人はいるだろ?」
(ヽ^ω^) 「・・・・・・」
ドクオのその言葉に、ブーンは祖母とショボンの顔を思い浮かべる。
両親が亡くなったあと、女手一つで自分を育ててくれた祖母。
あの優しい祖母の笑顔を、もう一度見る事が出来るのだろうか?
そして、その身を挺して自分を守ってくれたショボン。
自分は彼の想いに答える事が出来るのだろうか?
今まで誰かに助けてもらってばかりの不甲斐ない自分に。
(ヽ^ω^) 「僕が・・・みんなを守るお・・・」
('A`;) 「あん?なんだって?」
(ヽ^ω^) 「ううん、なんでもないお・・・あっ、見えたお!」
ブーンの視線のその先に、すでに半壊したお社がうっすらと見えてくる。
112 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:56:43.45 ID:bGGqJGpR0
【ニ日目/異界/14時39分15秒/お社の建つ丘】
ブーンとドクオがそこで見たのは、見るも無残なお社の姿と、そのすぐ脇にあるショベルカーだった。
建物の屋根や壁の半分が破壊され、蜃気楼のように揺らめく石碑が剥き出しになっている。
またショベルカーの周辺には、なぜか地面を掘り返して埋めたような跡が幾つかあった。
ショベルの操作の練習でもしたのだろうか?
それとも何かを探していたのだろうか?
そしてショベルカーがアームを伸ばし、いままさにショベルで石碑をすくい倒そうとしていた。
('A`;) 「ブーン、降ろせ!!」
ドクオは傷の痛みも忘れてブーンの背から急いで降りる。
そして屍人に向けられた虚月盾を、ブーンが間髪入れずにライトで照らす。
ショベルカーまではまだかなりの距離があったが、光矢は運転している屍人を正確に貫く。
その屍人は運転席で倒れ込み、ショベルの動きは石碑に触れる直前で止まった。
運転手がやられると、その周りにいた五人の屍人が振り向き、ブーン達に向かって走ってくる。
だが、その程度の数は問題ではなかった。
つづけざまに光矢が放たれ、屍人達は地面に倒れ伏す。
そして、辺りが一瞬静まり返る。
その静寂を破り、すぅの声がどこからか響いてくる。
すぅ 「思ったより来るのが早かったね・・・それが虚月盾?」
(#^ω^) 「すぅ、どこにいるお!姿を見せるお!」
113 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 00:58:44.75 ID:bGGqJGpR0
ブーンの声に反応し、すぅがショベルカーの後ろから姿を見せる。
だが、なぜかショベルカーの陰に半分隠れて、それ以上は出てこようとしない。
|ー゚) 「・・・ところでショボン君には会えた?」
('A`#) 「てめぇがショボンの名を呼ぶんじゃねえッ!!」
|ー゚) 「その様子だと会えたんだね、よかった」
('A`#) 「あぁ!?何がよかったんだよ!」
|ー゚) 「だって、ちゃんとお別れができたでしょ?」
('A`#) 「黙れッ!」
|ー゚) 「それに、ぼくとしても時間稼ぎをしてもらって・・・」
('A`#) 「黙れっつってんだろが!!」
ドクオは吼えると虚月盾を左手に持ち替え、ベルトに挟んでおいた拳銃を抜いて構える。
銃口を突き付けられたすぅは、大胆にもショベルカーの陰から出てきて両手を広げる。
(*゚ー゚) 「・・・ぼくを撃てるの?今は眠っているとはいえ、この体はしぃのものでもあるんだよ?」
('A`;) 「ク、クソが・・・!」
銃口が大きく震えて狙いが定まらない。
それは脇腹の痛みのせいだけではなかった。
(*゚ー゚) 「震えてるよ。両手でしっかり構えたほうがいいんじゃないかな?」
('A`#) 「うるせぇ!!」
ドクオは左手の虚月盾を地面に放ろうとして思いとどまる。
すぅとの距離は30メートルはある。
例え両手で狙いを付けたところで、素人が撃って当たる距離ではないだろう。
それに自分には、しぃは撃てない。撃てる訳がない……
116 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 01:00:37.61 ID:bGGqJGpR0
(ヽ^ω^) 「もう止めるお!こんな事、しぃちゃんは望んでないお!」
(#゚ー゚) 「裏切り者の気持ちなんか、知った事じゃない!」
すぅが表情を固くして声を荒げる。
そのまましばらく緊張感を伴った睨み合いが続いた。
そこへようやく、ツンが息を切らしながらやってくる。
ξ;゚-゚)ξ 「すぅ・・・!」
(*゚ー゚) 「あ、ツンさんも無事だったんだ」
ツンはすぅを見据えながら、ドクオの左手に握られている虚月盾を受け取る。
その瞬間、すぅが顔をしかめたのをブーンは見逃さなかった。
ブーンはすぅに聞こえないよう、小さな声で言う。
(ヽ^ω^)。oO「ツンちゃん、御神体をすぅに向けて構えて欲しいお」
ξ;゚?゚)ξ。oO「・・・わかったわ」
ツンが虚月盾をすぅに向けようと持ち上げる。
(*゚ー゚) 「ッ!!」
だが、それを察したすぅは、ショベルカーの後ろに素早く身を隠してしまう。
(ヽ^ω^) 「やっぱりだお!すぅは御神体を恐れてるお。だから迂闊には動けないんだお」
ξ;゚?゚)ξ 「という事は、光の矢が効くって事ね?」
(ヽ^ω^) 「たぶんそうだお。だからショベルカーの運転席を狙っててくれお」
ξ;゚?゚)ξ 「うん、わかった」
(ヽ^ω^) 「あ、それとドクオ君は銃しまってお」
('A`;) 「あ、あぁ、そうだな・・・」
118 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 01:03:13.74 ID:bGGqJGpR0
ドクオは再び拳銃をベルトに挟むと、マグライトを取り出す。
そして逆三角の形になると、すぅが隠れているショベルカーのほうにゆっくりと近づいていく。
ブーンとドクオが前に出て、いつでも盾を照らせる構えだ。
(ヽ^ω^) 「キミが御神体を恐れているのはわかってるお。もう諦めて出てくるお!」
すぅ 「・・・やめて、こっちにこないで!」
不利を悟ったのか、それまでとはまるで違う口調で懇願するすぅ。
しかし、ブーン達は近づくのを止めない。
ショベルカーまで、あと20メートル。
ξ;゚?゚)ξ 「で、出てきなさい、すぅ!みんなと村を、元の世界に戻して!」
すぅ 「ぼ、ぼくを殺したら誰も助からないよ!それでもいいの!?」
そんな見え透いた脅しに乗る訳にはいかない。
イニシアティブはこちらが握っているのだ。
まずは、すぅの抵抗を完全に止めさせなければ。
あと10メートル。
('A`) 「諦めて出てくんだな!おとなしくしてりゃ御神体は使わねぇ」
すぅ 「ま、待って!なんなら、今すぐショボン君を元に・・・」
('A`#) 「グダグダ言ってねぇで、さっさと出てきやがれ!」
すぅ 「・・・・・・」
120 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 01:04:27.59 ID:bGGqJGpR0
あと5メートルのところまで来て、突然すぅの勝ち誇ったような声が響いた。
すぅ 「・・・ふふ。諦めるのは、あなた達のほうだよ?」
続いて手を鳴らす音。
その音が鳴るのと同時に、ショベルカーの周りの埋め立て跡が、ボコッと盛り上がる。
('A`;) 「ッ!!」
穴に埋もれていたのは屍人だった。
すぅは、このタイミングを計っていたのだろう。
(;^ω^) 「ま、まずいお!」
ξ;゚?゚)ξ 「ひっ!」
土にまみれた五体の屍人が、ブーン達に一斉に襲いかかる。
至近距離の複数を相手に、虚月盾を使っている余裕はない。
ブーンとドクオがライトの光で屍人を迎撃する。
それを見たツンは、慌ててポケットのライトを取り出しスイッチを入れる。
ア゙ ゥ゙ ォ ア゙ ァ ー ッ!!
ライトの攻撃を受けた屍人達の動きが止まる。
121 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 01:06:27.51 ID:bGGqJGpR0
ツンが構えた虚月盾を下ろすのを陰から見ていたすぅが、素早くショベルカーの運転席に駆け昇る。
('A`;) 「しまったっ!!」
ドクオがそれに気付いたときは、もう遅かった。
すぅがアーム操作レバーを目一杯倒す。
直後、石碑の真上で止まっていたショベルがそれに反応して動き、派手な音をたてて石碑とぶつかる。
地中深く埋まっていた石碑は、その力の前にあっけなく倒れてしまう。
跡にはポッカリと穴が空いていた。
まるで墓穴のように───
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160 名前: 設定 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 01:35:25.75 ID:bGGqJGpR0
今日も少し裏設定を・・・
ドクオの勘がいいのには、一応訳があります。
実はドクオは常世の存在の血を引いていて、それで危機探知能力に優れているのです。
とはいえ遥か昔の事ですから、かなりその血は薄れていますが。
その血がしぃの血を飲む事を拒絶した訳です。
紅茶に混ざった血に気が付いたのも、それが理由です。
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10 名前: 本文 ◆SiRen.KDYA 投稿日: 2006/05/15(月) 23:38:49.23 ID:ZDWZhHMT0
《 七章 うろぼろすノつるぎ 》
【ニ日目/異界と常世の狭間/時間不明/赤い空間】
ヴ ォ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙
オ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ ! ! ! ! !
鼓膜を突き破らんばかりの激しいサイレン── いや、虚子の鳴き声が異界全体に響き渡る。
それと同時に何かの影が石碑の穴から飛び出し、すぅに向かって伸びる。
一瞬の事だったが、ドクオには『ソレ』が何かわかった。
いや、感じたというべきだろうか。
影の正体は、双頭の白蛇であった。
『ソレ』が、すぅの体に吸い込まれてゆく。
ドクオが我に返り叫ぶ。
('A`;) 「ツン、盾だ!!」
ξ;゚?゚)ξ 「は、はいっ!」
ドクオの声に反応したツンが、すぅに向けて虚月盾を構える。
それを照らすドクオ。
バ シ ュ ッ !
放たれた光矢は、すぅ目掛けて一直線に宙を翔ける。
15 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/15(月) 23:40:56.37 ID:ZDWZhHMT0
そして、光矢が彼の体を貫こうとした瞬間───
(*゚ー゚) 「もう効かないよ、そんなもの」
光矢はすぅの目前で散りぢりになり、光の粒と化して消滅する。
その光の粒が消え去る刹那、すぅの影を地に落とす。
地面に伸びるその影は、人ではなく双頭の蛇を形作っていた。
(;^ω^) 「ご、御神体が・・・効かないお・・・」
絶句して固まるブーン達。
突然、辺りが揺れ始める。
ξ;゚?゚)ξ 「じ、地震!?」
地面だけではない。
異界の全てが大きく震えていた。
そして、ゆっくりと地面が消え始める。
三人がうろたえて辺りを見回すと、目に映る全てのものが消え始めていた。
草花も、木々も、山も、海も、村も、そして屍人も。
異界に存在する全てが── いや、異界そのものが消えようとしているのだ。
('A`;) 「な、なんだ、こりゃあ!!」
(*゚ー゚) 「今、異界は常世へと向かっているんだ。人の身で行けるのは、あなた達だけかもしれないよ?」
ξ;゚?゚)ξ 「と、常世!?」
(*゚ー゚) 「そう。虚子様とぼくとしぃが還るべき永遠の世界・・・」
18 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/15(月) 23:43:05.75 ID:ZDWZhHMT0
すぅはどこか楽しげな、夢心地の表情で話す。
話している間にも辺りはどんどん透けていき、そして赤い空間そのものに変化してゆく。
辺りを見回していたブーンは、自分の腕が透け始めている事に気付いた。
(;゚ω゚) 「うぁぁぁあっ!う、腕が透けてるお!!」
('A`;);゚?゚)ξ 「!!」
ブーンだけではない。ドクオとツンの腕も、更には体全体が透け始めていた。
地面や景色よりかは消えるスピードは遅いが、それでも完全に消えてしまうのも時間の問題だろう。
(*゚ー゚) 「ふふふ。ぼくの血を飲んでいるとはいえ、ここらが限界のようだね。可哀相に」
そう言うすぅの体も徐々に透け始めている。
だが、彼にとってそれは問題ではないのだろう。特にうろたえる様子もない。
ツンは慌てて視線を巡らす。
その目に倒れた石碑が映る。
石碑もうっすらと消え始めてはいるものの、地面ほどではない。
そのため、空中にぽっかりと浮かんでいるように見えた。
ξ;゚?゚)ξ 「あ、あれよ!」
ブーンがドクオを担ぎ上げ、三人は急いで石碑の元へ走る。
そんな三人の様子を、すぅは少し離れた所でニヤニヤ笑いながら見ている。
20 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/15(月) 23:45:28.61 ID:ZDWZhHMT0
前回はお社を通って、異界から元の世界に戻る事が出来た。
しぃは、それを石碑の力だと言っていた。
消える速度が地面などより遅いのもそのためだろう。
ならば今回も……
ツンはそう考えたのだ。
ξ;゚?゚)ξ 「ブーン、いくわよ!」
(;^ω^) 「わかったお!」
石碑の隣りまで来たツンは、ドクオを担いだままのブーンと同時に石碑に触れる。
腕が石碑に吸い込まれてゆく。
だが、そこまでだった。
体半分までは隠れるものの、それ以上は見えない何かに阻まれ、押し返されてしまう。
力を込めるが、それ以上はどうしても入っていかない。
それはブーンも同じだった。
ドクオもブーンの肩から降りて同じようにしてみるが、やはり駄目だった。
そんな三人を見ていたすぅが笑う。
(*゚ー゚) 「あはは、虚子様があなた達を帰す訳ないでしょ?己を害し封印した、憎き村人達の子孫を」
ブーンとツンはその言葉を無視して石碑に体を押し付け続けるが、無駄な努力だった。
いや、むしろ先程よりも体が潜らなくなっている。
今はもう、肩付近で押し戻されてしまう。
体もすでに半分近く透明になっていて、向こうが透けて見えてしまっている。
必死で足を踏ん張る二人の横で、ドクオは石碑の倒れた跡の穴の中に有る、何かに気づいた。
穴の側壁が透けつつあるために見つける事が出来たのだ。
23 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/15(月) 23:46:57.68 ID:ZDWZhHMT0
錆びてボロボロになっている細長い金属の板。
それは『虚月盾』と対になる、もう一つの御神体── 『龍子矛』であった。
もしかしたら、アレが切り札になるかもしれない……!
('A`;) 「ブーン、それを取れえっ!」
ドクオは、ブーンの肩越しに龍子矛を指差す。
いきなり動いたので脇腹に激痛が走った。
('A`;) 「グッ!」
(;^ω^) 「ドクオ君!」
('A`;) 「早くしろ!」
(;^ω^) 「う、うんだお!」
ツンが倒れ込むドクオの体を支え、ブーンは少し離れた穴に駆け寄る。
そして穴を覗き込み、腹這いになって龍子矛に手を伸ばす。
(*゚ー゚) 「やめるんだっ!!」
突然、すぅが離れた場所から叫んだ。
その右手にはいつの間にか拳銃が握られ、銃口はブーンに向けられている。
('A`;) 「なっ!?」
ドクオは無意識にベルトに挟んだ拳銃に手を伸ばす。
だが、その手はそこにあるはずの拳銃に触れる事はなかった。
先程から、すぅはあの場所から一歩も動いていない。
まさか拳銃が瞬間移動でもしたというのか?
26 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/15(月) 23:50:15.11 ID:ZDWZhHMT0
(*゚ー゚) 「ふふ・・・異界を越えたこの世界では、こんな事も出来るんだよ?」
すぅは笑って、手品師のように左手を振る。その手に見慣れたマグライトが握られていた。
ドクオは気味の悪いものでも見るかのように、自分の右手を眺める。
そこには確かに今まで握っていたはずのマグライトが無かった。
間違いない。今のすぅは自然界の理すら捻じ曲げている。
すぅは、青ざめたドクオの顔を見て小さく笑うとマグライトを放り投げ、
そしてゆっくりと腹這いになったままのブーンに近づいていく。
(*゚ー゚) 「ブーン君、もう諦めようよ。それとも、ぼくにこの手を汚せと言うの?」
銃口はブーンの頭に狙いを定めている。
ブーンは恐怖で動く事が出来なかった。
いかに屍人並みの治癒力を持つこの体でも、さすがに頭を撃ち抜かれたらただでは済まないだろう。
恐怖心と闘っている間にも、すぅは歩み寄ってくる。
ブーンは極度の緊張の中、ある疑問を抱く。
虚月盾の光矢は、虚子と同化したすぅには効かなかった。
もし龍子矛が虚月盾と同じような力を持っていたとしても、恐らくそれはすぅには通じないだろう。
それなのになぜ、自分が龍子矛を手にする事を阻止しようとするのか?
何かが頭の中でまとまりかけたそのとき、聞き慣れた声が響く。
(*゚ー゚) しぃ 「ブーン君、すぅはわたしが止めるから早く!」
(*゚ー゚) すぅ 「し、しぃ!なんでお前が出てこられる!?」
すぅの右腕がぎこちなく動き、銃口がブーンからわずかにそれる。
その腕は大きく震えており、すぅの内で何かが葛藤している様子が見て取れた。
二人の表情がせわしなく入れ替わる。
28 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/15(月) 23:51:47.59 ID:ZDWZhHMT0
(*゚ー゚) しぃ 「ここはもう異界じゃない。あなただけの世界じゃないのよ、すぅ!」
(*゚ー゚) すぅ 「くっ、やめろ、しぃ!自分が何をしてるかわかってるのか!?」
(*゚ー゚) しぃ 「御神体は一対のものよ、ブーン君!」
ブーンの頭の中で何かが閃いた。
しぃの言う通り、伝承では龍子矛と虚月盾は一対の御神体だ。
一対……ふたつでひとつのもの───
(;^ω^) 「そうか、わかったお!」
ブーンが龍子矛に手を伸ばし、それに触れた瞬間、
パ ァ ン ッ !!
銃口が火を吹いた。
銃弾はブーンの頭をかすめ、ほぼ透明になった地面に吸い込まれる。
すぅは続けてトリガーを二度、三度と引くが、もう弾は入っていない。
(*゚ー゚) すぅ 「くぅっ、この!」
すでに赤い空間と変わり果てた元地面に、透けた拳銃を投げ捨てる。
その隙にブーンは龍子矛を掴んだ。
龍子矛から体に流れ込む『気』は、一瞬でブーンを恐怖と絶望とで満たす。
だが、それはすぅ── いや、虚子という『魔』を封じるための力だという証しでもあるのだ。
ブーンは沸き上がる体の震えを無視して、ツンの元へと駆け寄る。
30 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/15(月) 23:53:38.60 ID:ZDWZhHMT0
(;^ω^) 「ツンちゃん、盾だお!」
ξ;゚?゚)ξ 「あ、うん!」
ツンはブーンの意図を察し、手の中の虚月盾を差し出す。
ブーンはそれに龍子矛をぶつけるように重ねる。
キ ィ ン !
澄んだ音が響く。しかし、何の変化も起こらない。
(;^ω^) 「ダメだお!何も変わらないお!」
(*゚ー゚) しぃ 「祈って!みんなの気持ちをそれに込めて!」
(*゚ー゚) すぅ 「よ、余計な事を・・・しぃ!」
(;^ω^) 「う、うんだお!」
('A`;) 「おう!」
ξ;゚?゚)ξ 「わ、わかった!」
三人で合わさった御神体に触れ、そして祈る。
お互いのこと
家族のこと
村の住人のこと
ショボンのこと
そして、しぃのこと
全てが元通りの世界に戻りますように───
三人は一心に願った。
その想いに反応し、御神体が白い光を放ち始める。
32 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/15(月) 23:55:39.11 ID:ZDWZhHMT0
(*゚ー゚) すぅ 「させるかっ!!」
すぅが叫ぶとその周りの空間に、包丁、ナイフ、剣鉈、日本刀といった半透明の武器が現れる。
先程の拳銃やライトのように、すぅが屍人の武器を招喚したのだ。
それらの武器は、無防備な三人めがけて一斉に飛びかかる。
(*゚ー゚) しぃ 「だめぇっ!!」
だが、しぃのその叫びで、武器はブーン達に突き刺さる寸前で掻き消える。
(*゚ー゚) すぅ 「お前は、どこまで逆らえば!!」
発した光は御神体を包み、そして三人を包み込む。
やがて収束した光は、一振りの剣となって空中に浮かんでいた。
永きに渡り別たれていた
『虚月龍子』はひとつとなり 今ここにその在るべき姿
『虚朧子』として顕現したのである
ブーンはその神々しく光り輝く剣に魅入られる。
剣は凝縮された光そのもので出来ており、
見ようによっては蝙蝠の羽を持つ、白く輝く双頭の蛇のようにも見える。
胴体から尾にかけてが刃、羽が鍔、絡み合う双首が柄、そして二つの頭が柄頭といった具合に。
33 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/15(月) 23:57:01.27 ID:ZDWZhHMT0
刹那の後、我に返ったブーンは目の前に浮かぶ光剣の柄に手を伸ばす。
まるで目に見えない何かに操られるかのように。
('A`;) 「ま、待てっ!ソレに触るな、ブーン!!」
ドクオはその銀灰色に鈍く、そして冷たく光る剣を握ろうとするブーンを見て、うわずった声で叫ぶ。
ソレは人が触れるべきモノではない。触れる事が許されるのは、『神』か『魔』のみ……
ドクオの中の何かがそう囁く。
だが、ブーンはドクオの呼びかけを無視して剣の柄を握る。
(ヽ゚ω゚) 「……僕が…やるお…僕……みんな…助け……だお」
('A`;) 「ブ、ブーン・・・」
ξ;゚?゚)ξ 「ブーン、あんた・・・」
ツンは、紅蓮の炎を上げて燃え盛る剣を手にしたブーンを見て、思わずたじろぐ。
ブーンが、彼以外の別の『何か』になってしまったように感じられたからだ。
二人の心配をよそに、ブーンは今までに感じた事のない昂揚感で満たされていた。
今まで御神体から流れ込んできていた負の感情は、もはや感じられない。
その光剣からは純粋な想い── 『魔』を討ち滅ぼさんとする、その意思のみが伝わってくる。
(ヽ゚ω゚) 「………」
すぅは闇の剣を手にしたブーンの後ろ姿を見て、怯えてあとずさる。
その剣は自分と虚子の全てを呑み込み消し去ろうと、暗黒に光り輝いている。
34 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/15(月) 23:58:05.09 ID:ZDWZhHMT0
すぅはなり振り構わず、もう一人の自分に懇願する。
(*゚ー゚) すぅ 「・・・し、しぃ!お願いだから力を貸して!今ならまだ、力を併せれば・・・」
(*゚ー゚) しぃ 「いやよ!もう、あなたの思い通りにはならない!」
(*゚ー゚) すぅ 「どうして!?ぼく達の願いは虚子様と常世に還る事・・・このままじゃ、それが!」
(*゚ー゚) しぃ 「そんなの、わたしは望んでない!わたしの願いは人として生き、人として死ぬ事だもの・・・」
(*゚ー゚) すぅ 「なっ、馬鹿な事を!?人間はぼく達に、あんなに酷い仕打ちをしてきたじゃないか!
外見が少し違うだけのぼく達を奇異の目で見て、差別して、蔑んできたじゃないか!」
(*゚ー゚) しぃ 「それでもっ!それでも、ツンさん達は優しかった!
ブーン君も、ドクオさんも・・・ショボン君も、みんなわたしに優しくしてくれたわ!」
(*゚ー゚) すぅ 「そんなのうわべだけだ!何度も何度も騙されたのを、忘れた訳じゃないだろ!?」
(*゚ー゚) しぃ 「忘れてなんかない・・・でも、それでもわたしはみんなを信じたい!助けたいのっ!!」
(*゚ー゚) すぅ 「信じれば、また裏切られる!その繰り返しだって、どうしてわからない!?」
すぅは絶叫すると服の袖をまくり上げ、その下に隠された蛇の鱗をさらけ出す。
(*゚ー゚) すぅ 「ぼく達は化け物なんだ!人間が受け入れてくれるはずがないっ!!」
36 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/15(月) 23:59:54.47 ID:ZDWZhHMT0
すぅの哀れな心の叫びを聞いたドクオが、脇腹の痛みも忘れて吼える。
Σ('A`#) 「しぃは化け物なんかじゃねえッ!!化け物はてめぇの心だ!」
(*゚ー゚) しぃ 「・・・ドクオ・・・さん」
ξ ゚ヮ゚)ξ 「そうよ、しぃ。見た目が少しくらい違っても、そんなの関係ない。あなたは普通の人間よ」
(*Åー゚) しぃ 「・・・ツンさん」
すぅはしぃの説得を諦めたのか、今度は闇の剣を構え近寄ってくるブーンに震える声で話しかける。
(*゚ー゚) すぅ 「ね、ブーン君・・・ぼ、ぼくを殺さないよね?ぼくが死んだら、しぃも死ぬんだよ!?」
(ヽ゚ω゚) 「……!」
その言葉にブーンの歩みが止まった。
ショボンはブーンに頼んだのだ。しぃを助けて欲しいと。
だが、すぅの言う通りならば、しぃを助ける事は叶わない。
すぅの内に巣食う虚子は葬らなければならないが、そのためにしぃを犠牲には出来ない……
すぅの言葉に葛藤していると、ブーンの内の『何か』が強く囁きかける。
迷ウナ、我ヲ振ルエ─── と。
『何か』の意思と、自分の理性との板挟みで動けなくなったブーンを見て、しぃが悲痛な声で叫ぶ。
(*゚ー゚) しぃ 「すぅの言葉に惑わされないで!このままでは、わたしは虚子に呑み込まれてしまうの!
だからお願い、わたしの心を・・・魂を救って!!」
(ヽ゚ω゚) 「!!」
40 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:02:10.67 ID:bC8kT4XU0
ブーンの脳裏に、ショボンの言葉が鮮明に甦る。
そうだ。ショボンは、しぃを救って欲しいと言ったのだ。
助けて、ではなく、救って─── と。
あのときの言葉は、そういう意味だったのか。
もうブーンの心に迷いはない。
迷いが吹っ切れたその瞬間、ブーンの内の『何か』が昂揚感と共に消え失せた。
夢から醒めた心地のブーンは、自らの意思で剣の切っ先をゆっくりと彼女に向ける。
(ヽ^ω^) 「しぃちゃん、キミを救ってあげるお!」
(*゚ー゚) すぅ 「助け、やっ、イヤァァァ・・・・・・ッ!」
ブーンに剣先を突き付けられた直後、すぅの悲鳴はブツリと途切れ、その表情が急に穏やかになる。
先程までの緊張感が微塵も感じられないその顔は、間違いなくしぃのものであった。
(*゚ー゚) 「ありがとう、ブーン君・・・」
(ヽ^ω^) 「しぃちゃん・・・僕の代わりに、すぅちゃんに謝っておいて欲しいお」
しぃは目を閉じて、両手を胸の前に重ねる。
(*゚ー゚) 「大丈夫、すぅにもちゃんと聞こえてるよ?だって、わたし達は二人で一人なんだから・・・」
(ヽ^ω^) 「・・・すぅちゃん、ごめんなさいだお。きっとすぅちゃんも、すごく辛かったんだお・・・」
ブーンらしいその心遣いに、しぃは穏やかな微笑みを返す。
44 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:03:59.76 ID:bC8kT4XU0
そして、今にも消えてしまいそうな石碑の隣りでしゃがみ込むドクオを見る。
(*゚ー゚) 「ドクオさん、ありがとう。ドクオさんがいなかったら、たぶん誰も助からなかったと思う・・・」
('A`;) 「しぃ、その・・・お社では疑ったりして悪かったな・・・」
(*゚ー゚) 「ううん、気にしないで・・・あれはみんなを助けたいっていう、ドクオさんの想いの現れなんだもん」
('A`;) 「しぃ・・・」
(*゚ー゚) 「わたしの事、化け物じゃないって言ってくれて本当にありがとう・・・
そう言ってくれた人は、ドクオさんが初めて・・・」
それから一呼吸置いて、ドクオの肩を支えるツンに涙声で話しかける。
(*゚ー゚) 「ツンさん・・・わたし、広場でツンさんに叱られて嬉しかった。叩かれてとても嬉しかったの。
だってあんなふうに叱ってくれたの、ツンさんだけだったから・・・」
ξ ゚ー゚)ξ 「・・・叱られて喜んじゃダメでしょ?」
(*Åー゚) 「ふふ、そうだね・・・おかしいよね・・・」
ξÅー゚)ξ 「・・・・・・」
(*Åー゚) 「ねぇ、ツンさん・・・最後に、お願いがあるんだけど・・・」
ξÅー゚)ξ 「なぁに・・・?」
(*Åー゚) 「もし、また生まれかわる事ができたら・・・今度はツンさんの子供に産まれてきてもいい?」
ξÅヮ゚)ξ 「・・・たくさんかわいがってあげるから、覚悟して産まれてきなさいよ?」
(*Åヮ゚) 「・・・ありがとう・・・・・・さよなら、お母さん・・・」
ξ T?T)ξ 「・・・しぃ・・・・・・」
しぃは目を閉じると前に歩み出て、剣の刃で自らを貫く。
直後にしぃの体は霧散し、次に双頭の蛇の白い影が現れ、そして消えていった。
後を追うように剣も光の粒となってはじけ散り、消滅する。
46 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:05:29.44 ID:bC8kT4XU0
思い出したようにブーンは振り向き、ドクオとツン、そして石碑を見る。
先程まで消えかかっていた石碑は、虚子の力が消えた今、はっきりとその姿を赤い空間に漂わせている。
だが、すでに石碑以外の全ての物は消失しているし、自分達の体もほとんど消えかかっている。
一刻も早くここから脱出しなくては。
(ヽ^ω^) 「ドクオ君、ツンちゃん!早く石碑に触れるお!」
('A`;) 「お、おぉ!ブーンも早くしろ!」
(ヽ^ω^) 「すぐ後を追うお!」
ξÅ?゚)ξ 「行くわよ、ドクオ!」
ツンはドクオの手を取り、その組んだ手で石碑に触れる。
すると先程とは違い、体が石碑に吸い込まれ消えてゆく。
ブーンは二人の姿が完全に見えなくなるまで、その光景を見つめていた。
その後、石碑に歩み寄り、少し逡巡してから手を伸ばす。
47 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:07:15.54 ID:bC8kT4XU0
【ニ日目/異界と現世の狭間/時間不明/黒い空間】
気が付くと、ブーンは黒い空間にポツンと浮かんでいた。
上も下もない、宇宙のような所だった。
以前、元の世界に戻ったときは気が付いたらお社の中に立っていた。
しかし、今回はいつまでたってもこの空間に漂っているだけだ。
(ヽ´ω`) 。oO(やっぱり、ダメだったかお・・・)
自分は元の世界には戻れない── ブーンには、なんとなくそんな気がしていたのだ。
前回はお社を通して元の世界に戻れた。
だが、今は戻る事が出来ない。
それは異界がじきに消滅する定めだからだ。
虚子の力で作られた、虚ろなるかりそめの世界。
主が失われれば、世界と共にそのしもべも消え失せるのが道理だ。
赤い水── 虚子の血に体を侵された、異界の住人の自分も……
ふと頭上を見ると、遠くに小さな赤い穴のようなものが見えた。
それは遙か彼方の蜃気楼のように揺らいでいて、今にも消えてしまいそうだ。
そして足元を見ると、石碑とその隣りに座り込むドクオとツンが見えた。
こちらもやはり幻影のようにユラユラと儚く見えるが、どうやら無事に元の世界に戻れたようだ。
今にも消えてしまいそうな二人は、なにやら辺りをキョロキョロと見回し、何かを叫んでいる。
自分を捜してくれているのだろうか。
二人の名を呼んでも、もはやその声が届く事はない。
さよならを伝えられなかったのが少し心残りだった。
48 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:08:48.00 ID:bC8kT4XU0
そんな事を思っていると、突如二人の姿が大きく揺らいで見えなくなってしまう。
見上げると赤い穴も消えている。異界が完全に消滅したのだ。
異界と元の世界をつなぐこの通路も、そう長くは持たないだろう。
(ヽ^ω^)。oO(ドクオ君、ツンちゃん、元気でね。さよならだお・・・)
心の中で二人に別れを告げたとき、どこからか聞き覚えのある声が響いてきた。
? 『ごめんね、ブーンおじさん。あなたを助けてあげられなくて・・・』
(ヽ^ω^) 「しぃちゃん・・・?」
ブーンは黒い空間に視線を巡らす。
だが、どこにもしぃの姿は見えない。
それになんとなく、しぃの声とは違うような……?
? 『あの二人は助けられたんだけど、あなたとショボンおじさんは・・・』
(ヽ^ω^) 「いいんだお。こうなる事は、なんとなくわかってたお。それにショボンとの約束も果たせて、
僕はもう救われたお・・・でも、すぅちゃんを救うことが出来なかったのが残念だお」
? 『うぅん、すぅは救ってもらえたよ?・・・それに虚子も。ブーンおじさんのおかげだよ』
(ヽ^ω^) 「虚子もかお?」
? 『うん。怨気を祓われた虚子は、すぅと一緒に願い通り常世に還れたの』
(ヽ^ω^) 「そうかお・・・しぃちゃんはどうしたかわかるかお?」
? 『しぃも・・・しぃの願いも、これから全て叶えられるよ。だから心配しないで』
(ヽ^ω^) 「これから?・・・キミはいったい誰なんだお?」
? 『・・・私はココ、いい名前でしょ。ブーンおじさんが付けてくれたんだよ? 』
(ヽ^ω^) 「僕がかお?というか、僕はおじさんじゃな───」
ブーンがその言葉を言い終える前に、黒い空間は消滅した───
50 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:09:59.44 ID:bC8kT4XU0
《 最終章 朱(あけ)に染まる地で 》
【ニ日目/現世/14時48分19秒/お社の建つ丘】
ツンは気が付くと、お社の残骸の真ん中に座っていた。
足の下には地面があり、青空を見上げると雲の切れ間から太陽が輝いている。
握った手のその先にはドクオの姿もあった。
ξ ゚ヮ゚)ξ 「私達、帰ってきたのよ!ドクオ、ブーン・・・!」
ツンは辺りを見回す。それにつられて、ドクオもブーンを捜す。
だが、ブーンの姿はどこにも見当たらなかった。
('A`;) 「ブーン、どこだ?・・・おい、冗談はやめろよ!」
ξ;゚?゚)ξ 「・・・ブーン?ちょ、ブーン!」
二人は傍らに転がる石碑を触ったり、叩いたり、呼びかけたりする。
だが、何の反応もない。
それはすでに、ただの石の塊に過ぎなかった。
二人が立ち上がり、大声でブーンの名を叫ぼうとしたとき───
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ………ッ! ド ゴ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ン ッ !!!
52 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:11:34.87 ID:bC8kT4XU0
いきなり大地が大きく揺れたかと思うと、頭上から雷鳴のような轟音が響き渡る。
耳の奥に痛みを感じる程の凄まじい音だ。
思わず耳を塞ぎ、空を仰ぎ見るドクオとツン。
二人が見たものは、天に向かって火柱を吹き上げる雌蛇ヶ岳の姿だった。
そんな馬鹿な……
その光景に、ツンは愕然とする。
雌蛇ヶ岳は休火山のはずだ。少なくとも150年以上、噴火記録はない。
だが、思い当たる節がないでもなかった。
確かに最近は地震が頻発していた。
あれはもしかしたら、噴火の予兆だったのかもしれない。
しかし、それにしてもこんな唐突に噴火するなんて……
やはりこれは、一連の怪異現象とつながりがあるとしか思えない。
だが、虚子は確かに滅びたはずだ。
それに虚子にここまでの力があるとも思えない。
もしや、虚子など及びもつかない『常世の存在』が介入しているのだろうか?
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …………!
頭上から小石がパラパラと降ってくる。
地震は依然として続いている。
いや、さっきよりも揺れが酷くなっているように感じる。
ツンは自分達がいる雄蛇ヶ岳の山頂を仰ぎ見る。
今はまだ火を吹いてはいないが、いつ雌蛇ヶ岳のように噴火するかも知れない。
一刻も早くこの場を離れなければ……!
54 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:12:37.49 ID:bC8kT4XU0
ド ガ ア ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ン ッ !!!
ひときわ激しい爆音が轟く。
雌蛇ヶ岳の二回目の噴火だ。
火柱と共に、火口からドロリとした赤い液体が湧き出てくる。
それは傷口から溢れ出す血を連想させた。
火口から溢れる溶岩は、村の方角に向かって流れ出す。
その光景に見入っていた二人に戦慄が走る。
ξ;゚?゚)ξ 「よ、溶岩が!!」
('A`;) 「やべぇ!下には村が!!」
羽生蛇村は、雄蛇ヶ岳と雌蛇ヶ岳の山麓に挟まれた窪地にある。
このままでは溶岩の直撃は免れない。
ましてや、あの怪異現象と何らかのかかわりがあるとすれば……
案の定、溶岩はまるで村を目指すかのように流れてゆく。
人知を超えた得体の知れない力と、大自然の圧倒的な力の前に、二人は全くの無力だった。
為す術もなくその光景を眺めていたドクオが、ガクリと膝を折り頭を垂れる。
('A`;) 「・・・な、なんだよ・・・これじゃ・・・オレらだけ助かったって、もう・・・・・・」
55 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:13:42.22 ID:bC8kT4XU0
ドクオの隣りで呆然と立っていたツンの目に怒りが宿る。
ξ#゚-゚)ξ パ ー ン ッ !!
⊂彡☆))A`)・∵
ドクオの頬に、ツンの渾身の平手が容赦なく炸裂した。
☆-(゚'A゚;) 「・・・ッ!!!」
叩かれた頬ではなく、傷を負った脇腹を押さえて声もなくうずくまるドクオ。
そんなドクオの背中を、ツンが震える声で怒鳴りつける。
ξ;>?<)ξ 「私達がそんなこと言ったら、ブーンやショボンや・・・しぃはどうなるのよっ!!」
('A`;) 「・・・・・・ツン・・・」
ξ T?T)ξ 「わ、私達がこんなところで諦めたらっ・・・あの子達は・・・うっ・・・」
('A`;) 「・・・悪かった、ツン。すまん・・・肩、貸してくれないか?」
ξÅ?゚)ξ 「・・・ど、どうしてもってんなら、貸してあげてもいいわよ・・・?」
('∀`;) 「あぁ、どうしてもだ。こんな所で唐揚げになるのはゴメンだからな」
ξÅー゚)ξ 「・・・まったく世話がやけるんだから。こんど弱音なんか言ったら殴るわよ?」
('∀`;) 「もう殴ってるつーの」
ツンは鼻をすすると、ドクオの手を肩に回し立ち上がらせる。
ξ;゚?゚)ξ 「こういう場合、どっちに向かったらいいのかしら・・・?」
('A`;) 「そうだな・・・オレもよくわからんが、やっぱり海岸じゃないか?」
ξ;゚-゚)ξ 「ん・・・そうね」
56 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:14:49.75 ID:bC8kT4XU0
二人が村とは反対の海岸を目指して歩き始めようとしたとき、どこからともなく声が聞こえてくる。
小さい声だが、それは噴火音にかき消される事なくハッキリと耳に届いた。
? 『そっちに行っちゃダメ。んーと・・・北東を目指して』
ξ;゚?゚)ξ 「・・・え、しぃ?どこ、どこなの!?」
ツンは辺りを見渡すが、声の主の姿は見当たらない。
思わずしぃの名前が口をついたが、彼女の声とは微妙に違う感じがする。
それにしぃにしては、しゃべり方も幼いようだ。
声は二人に懇願する。
? 『お願いっ!早く、早くして』
迷っている間にも、降ってくる小石の数は増えていく。
このままでは溶岩に飲み込まれるよりも先に、落石に頭を割られてしまうだろう。
('A`;) 「・・・よし、信じよう」
ξ;゚?゚)ξ 「う、うん。そうね!」
なぜかその声には信じるに足るような、二人を安心させる響きがあった。
どこか聞き覚えのあるような、ごく身近な人の声のようにも思えたからだ。
二人は声に従い、山に向かって歩き出す。
58 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:15:53.76 ID:bC8kT4XU0
すぐに疲労と傷の痛みで汗だくになるドクオとツン。
そんな二人を励ますように声は聞こえ続ける。
? 『がんばって!もうちょっとだよ』
('A`;) 「・・・な、なあ・・・ホントに、こっちで・・・助かんのか・・・?」
? 『大丈夫、絶対助かるよ!』
ξ;゚?゚)ξ 「・・・どうして・・・そんな事が・・・わかるの?」
? 『ん〜・・・よくわかんない。わかんないけど、わかるの』
('A`;) 「はぁ?・・・なんだ・・・そりゃ?」
? 『も〜、いいから!がんばれ、がんばれっ!』
またもや島を大きな揺れが襲い、頭上で山が割れたかのような爆発音が轟く。
雄蛇ヶ岳も噴火したのだ。
こちらもすぐに溶岩が噴き出すだろう。
ぼやけてきた頭で、まるで他人事のようにツンは考えていた。
ふとドクオの顔を見ると、雄蛇ヶ岳の噴火など気付いてもいないようだった。
焦点の定まらないその目には、すでに何も映ってはいないのだろう。
ただ、足だけは何かに操られているかのように、前へ前へと進んでゆく。
60 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:17:26.66 ID:bC8kT4XU0
【ニ日目/現世/15時16分53秒/雄蛇ヶ岳山麓・花の散り乱れる丘】
地震と地響きと落石の中、二人は黙々と細い道を登り続ける。
永遠に続くのではないかと思われた坂道は、不意に途切れる。
坂を登り切った二人の眼前に広がったのは、くすんだ赤い色の一面の花畑だった。
そこはつい昨日、ピクニックに来た場所であった。
満開だった陽下美人の花はすでにしおれ、下を向いた花弁が血の色の絨毯を作りあげていた。
昨日の事が、もう何週間も前の事のように思える。
呆然と立ちすくむツンに、声が先をうながす。
? 『ちょ、立ちどまっちゃダメだよ!もうちょっと先、先!』
声に背中を押されるままに進むと、少し開けた場所に出る。
ここは確か、しぃの弁当を皆で食べた場所だっただろうか……?
朦朧とする意識の中で、おぼろげにツンは思い出す。
その場所からは、村やお社を望む事が出来た。
だが、村はとうに溶岩の下に埋没している。
そしていままさに、お社のあった丘をも溶岩が覆い尽くそうとしていた。
村も、学校も、海岸も、神社やお社の残骸も、そして石碑も……何もかもが溶岩に飲み込まれてゆく。
皆の命と想い出を道連れに、全てを歴史の彼方へと葬り去ろうとしている。
これで災いの連鎖は終わったのだろうか?
もうこれ以上、大切な何かを失う事はないのだろうか?
ツンは切望した。誰でもいいから教えて欲しかった。
だが、ツンの心の叫びに答えてくれるものはいない───
61 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:19:39.41 ID:bC8kT4XU0
その代わりに、例の声がホッとしたような響きで告げる。
? 『そこだよ、そこに座ってて。絶対に動いちゃダメだよ?』
その声で立ちっぱなしだった事に気付いたツンは、ドクオを肩から降ろしその場にへたり込む。
座って一息つくと頭の靄が少し晴れ、自分達の置かれた状況が甦ってきた。
相変わらず噴火は続き、空からはおびただしい量の石や灰が降ってくる。
石といっても小指の先ほどの小石から、人の胴体ほどもある岩まで様々だ。
もし拳大程度の石が頭に落ちてきたら、それだけであの世逝きだろう。
ツンは自分の体を抱いて、ブルッと震える。
一体いつまでこんな危険な場所にいればいいのだろう?
いつ自分達は助かったと言える状況になるのだろう?
ツンは見えない相手に問いかける。
ξ;゚?゚)ξ 「ね、ねぇ!私達、いつまでここにいればいいの?」
? 『んーとね・・・あと、18時間30分くらい』
ξ;゚?゚)ξ 「ちょっ!?じゅ、じゅうはちって!それじゃドクオ死んじゃう!」
? 『大丈夫、二人とも絶対助かるよ』
ξ#゚?゚)ξ 「だ・か・らっ!どうしてそんな事がわかるのよ!」
? 『だってわかるんだもん・・・それにそれ、さっきも聞いたもん!』
声は明らかに拗ねた響きになる。
ツンは呆れてしまうが、見えない相手に愛おしさも感じ始めていた。
まるで小さな子供を相手にしているみたいだ。
いや、実際子供なのだろう。
だがこの際、相手は子供でも構わなかった。
頼りのドクオは、先程から横たわったまま目を閉じている。
顔は青ざめ、呼吸も浅く速い。もう歩く事もままならないだろう。
62 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:20:50.02 ID:bC8kT4XU0
そして、噴火と地震と落石と溶岩。
これらから身を隠す場所も術もない。
正体不明の子供が相手とはいえ、この状況下で話し相手がいるという事実は、それだけで気が紛れた。
それにこの声の主と話していると、妙に落ち着いた気分になれる。
まるで血を分けた肉親と話しているような……
ξ ゚?゚)ξ 「はいはい。じゃあ、それはもう聞かないから。それで、どうすれば私達は助かるの?」
? 『ヘリコプターが飛んでくるから、そしたらポケットのライトで合図してね』
ツンはハッとしてポケットに手を当てる。
そこにはブーンから渡された、ショボンのハンドライトが入っていた。
どうしてそんな事まで知っているのだろうか?
それに救助が来るまでの時間や、その手段までも。
もしそれらが本当なのだとしたら、この子は一体……?
ξ;゚-゚)ξ 「ねぇ、聞いてもいい?」
? 『なぁに?』
先程からずっと聞きたかった、でもなぜか聞きづらくて先延ばしにしていた質問を投げかける。
ξ;゚?゚)ξ 「・・・あなた、しぃなの?」
? 『ん〜・・・違う、かな?』
ξ;゚?゚)ξ 「じゃあ、すぅ?」
? 『む〜・・・それも違うかも』
ξ;゚?゚)ξ 「じゃあ誰なの?私のよく知ってる人よね?」
63 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:22:00.11 ID:bC8kT4XU0
ツンは自分の口から出た言葉に驚いた。
確かに肉親や親友と話しているような既視感はあったが、本当にそうだとは思っていなかったからだ。
村での付き合いは狭く、深い。
聞き覚えのある声とはすなわち、見覚えのある顔の持ち主という事だ。
そしてこの声には、なんとなく── いや、確かに聞き覚えがある。
だからあんな言葉が口を付いたのだろうか?
しかしいくら考えても、この声の持ち主の顔は思い浮かんでこなかった。
ツンが頭をひねっていると、バスにでも乗り遅れるかのような調子で声が告げる。
? 『あっ!時間だから、もう行かなくっちゃ』
ξ;゚?゚)ξ 「え?ちょ、待ってよ!まだ、あなたの名前聞いてないわ」
? 『・・・じゃあ、名前だけ教えてあげるね。私はココ』
ξ;゚?゚)ξ 「ココ・・・?」
ココ 『うん。いい名前でしょ?とっても気に入ってるの』
やはり知らない名だ。だが、つい最近どこかで耳にした気もする。
ココ 『大切な名前だから、絶対に絶対に忘れないでね!』
ξ;゚?゚)ξ 「・・・なんで大切なの?」
ココ 『あ、ブーンおじさんとショボンおじさんが呼んでるからもう行くね。じゃあまたね── 』
ξ T?T)ξ 「ちょ、待って!ココ、ココ・・・!」
ココと名乗った少女の言葉は、最後まで聞き取れずに宙に吸い込まれていった。
64 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:22:51.62 ID:bC8kT4XU0
空を見上げたツンは、しばらくして自分の頬を伝わる涙に気付く。
なぜだろう?数十分前に知り合ったばかりの少女との別れがとても辛く、悲しい。
まるで自分の半身を持っていかれるかのような……
そして彼女は最後に、ブーンとショボンの名を口にした。
もしかしたら二人は無事なのだろうか?
今はこの世界に戻ってこれなくても、どこか別の世界で元気にしているのだろうか?
そうであって欲しい。そして、いつかこの世界に戻ってきて欲しい。
ツンはそう願い、祈った。
その想いがブーンとショボンに届くように………
そして、隣りで眠るドクオの手をソッと握りしめた───
ξ*゚ー゚)ξ 『エピローグに続くよ!』
65 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:23:13.86 ID:bC8kT4XU0
【エピローグ】
「う〜〜〜ん・・・」
男はボサボサに伸びた髪の毛を掻きむしる。
その男は、とある大学の資料室で二ヶ月前の新聞をめくっていた。
小さな島で起こった、ある事件について調べていたのだ。
島の住人のほとんどが行方不明となったその事件は、大きく伝えられる事はなかった。
無論、休火山が噴火して村が全滅した事については大々的に報道されたのだが、
男が関心を抱いているのは、その噴火の前に起こったという怪異現象についてであった。
新聞やニュースでは、島民の行方不明の原因は村が溶岩に飲み込まれた為と発表していた。
男も最初はその報道を信じて気にも止めていなかったのだが、
その村の二人の生存者の話しによると、それ以前に何らかの事件が起こったらしかったのだ。
だが、二人の話しに世間が耳を傾ける事はなかった。
それは余りにも突拍子のない話しだったからである。
異界がどうとか、赤い水がどうとか、屍人がどうとか。
余りのショックに気が触れてしまったのだろう、まだ若いのに気の毒に。
世間はそんな二人に同情と奇異の眼差しを向け、そしていつしか忘れ去っていった。
大多数の人間にとっては、目新しいニュースを追いかける事のほうが大事だったのだ。
後日、二人の話しが誇張されて書かれた週刊誌を手に取った男は、何故かその記事に興味を抱いた。
その村の名前が読み方こそ違えど、生まれ故郷と同じ名だった事に気付いたせいもあったかもしれない。
生存者である二人の高校生とコンタクトを取ろうとしたのだが、
その後の二人の行方を掴む事は出来なかった。
男は諦めきれず、自分が民俗学を教える大学で資料を漁っていたのだ。
しかし、これといって目新しい情報は得られず、さっきから唸ってばかりいたのである。
66 :本文 ◆SiRen.KDYA :2006/05/16(火) 00:23:42.16 ID:bC8kT4XU0
「うーん・・・」
何度目かの唸り声を上げたとき、資料室の扉が勢いよく開いた。
「あ〜、先生ぇこんなとこにいた〜。早くしないと先生の講義、始まっちゃいますよぉ〜?」
男を先生と呼んだその女は分厚い眼鏡をかけていて、男に負けないくらい冴えない外見をしていた。
男は女のほうを見ようともせず、新聞をめくりながら独り言のようにつぶやく。
「・・・すぐに行くから、ちょっと静かにしてくれないか?」
その言葉を聞き咎めた女が口を尖らす。
「早くして下さいよぉ。大体、なんで私がいつも先生を呼びに来なくちゃなんないんですか〜?」
男は煩そうに髪の毛を掻くと、その女のほうをチラリと見る。
「はぁ・・・少し黙っていてくれ、安乃君」
男の名は武内多聞。
この数ヶ月後、自らが安乃依子と共に怪異に捲き込まれる事になろうとは、今はまだ知る由もない───
( ^ω^) ブーンが赤い水を飲んじゃったかもSIRENね【完】
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(・∀・): 201 | (・A・): 120
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