引っ越してきた二つ年下の子 1

2010/08/10 12:50 登録: えっちな名無しさん

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/08/25(火) 09:14:33.30 ID:9k1Z+XoP0
ちょっと遅めのお盆休みで実家に帰ってきたら、
昔のことを思い出した。
友人・知人にはなかなか話せないので、
ここで淡々と書いてみる。

もうすぐ小三になる春休み。
団地住まいだった俺は、いつものように団地の真ん中にある
ちょっとした公園で、近所の友達と遊んでいた。

春は引越しのシーズンで、その日もあちらこちに
引越しのトラックが停まっていて、忙しく荷物を運び出している。
団地では、毎年の風景でもあった。

公園のジャングルジムに登って、そんな光景を眺めていたら、
ふと、一台の引越しのトラックのそばに、一人小さな女の子がいることに気付いた。
人形を抱えながら、忙しく働く引越し業者さんや両親らしき人を見つめている。

その子が目に付いたのは、どうも、俺の周りにはいないようなタイプだったからだ。
ウチの地元は田舎で、子供と言えばTシャツに短パンやら、ミニスカートやら、
適当な動きやすい服のやつばかりだったのだが、
その子はまるで余所行きのような花柄のワンピースで、
ちょっと癖のある栗色の髪には、可愛らしいリボンまでついていて、
まるで漫画に出てくるような女の子だった。

ボケーとその様子を見ていると、ちょっとだけ女の子の不安な様子が感じられた。
そういえば、俺も引越してきたときは見知らぬものだらけで、
友達もいないし、心細かったなあ、などと思っていたが、
だからといってその子に話しかけるようなこともなく。

下から友達の呼ぶ声が聞こえ、その子を忘れてジャングルジムから降りた。

新学期が始まって、俺は三年生になった。
人生初のクラス替えもあったりしたが、まあ三分の一は前と同じヤツだし、
そこまで憂鬱になることもなかった。
相変らず勉強もそこそこに遊び回る毎日。
特に、下校中に道草をくうのが楽しくて、下校は登校の3倍以上の時間がかかったものだ。

そんな4月の終わりのある日。
いつものように俺は下校中に友達んち経由で大回りで帰ったため、
普段は通らない登下校コースを歩いていた。

人通りの少ない、閑静な住宅街。
その細い道の傍らで、女の子がしゃがみ込んで泣いていた。

それは春休みに見かけた、引っ越ししてきた女の子だった。
その後も何度か見かけたが、団地以外では初めてだ。
ランドセルについたカバーから、彼女が一年生だということがわかった。

三年生にもなると、ちょっと先輩面というか、お兄さんっぽくしたい気持ちも出てくる。
相手が新一年生ともなると、尚更だ。
俺は、泣いてるその子の隣に行って同じようにしゃがみこんだ。

「君、○○団地の子だよね?どうしたの?」

女の子はハッと顔を上げ、俺を見つめた。
瞬間、更にポロポロと涙が零れる。

「どうしたの?大丈夫?」

相手を刺激しないように、なるべく優しく聞いたつもりだ。

「……おうちが、わかんなく、なっちゃた」

彼女はなんとかそれだけ言うと、またわんわん泣き出した。

まあ予想通りの答えではあった。
田舎の道は入り組んでいて、俺も一年生の頃はよく迷ったものだ。

「じゃ、連れてってやるよ。」
「え?」

俺は立ち上がると泣いている女の子の手を引いた。
女の子はゆっくりとだが、立ち上がった。

「さ、帰ろう。」

女の子は黙って頷いた。
喋ったこともなかった女の子といきなり手を繋げるなんて、
子供の頃の無鉄砲な勢いっていうのは、偉大だと思う。

かといって、気を使って女の子に話しかけるようなスキルは当然無い。
そのまま黙々と団地へと歩き続けた。
女の子も黙って歩いた。

団地が近づいてくると、その入り口でキョロキョロと辺りを見回している女の人がいた。

「あ、ママ!」

その人は女の子のお母さんだったようだ。
娘の帰りが遅かったので心配して出てきたのだろう。
女の子は俺の手を離すと、お母さんに向って走っていった。

女の子はお母さんに抱きついて、一頻り泣いた後、
こっちを振り返って俺を指した。
お母さんがペコっと頭を下げて、こっちに向ってくる。
大人の人に頭を下げられるなんて初めてだった俺は、
なんか混乱と気恥ずかしさで、その場を走って逃げ出してしまった。

その日の夜、ウチに女の子とお母さんが尋ねてきた。
義理堅いお母さんだった。わざわざ俺がどこのウチの子か近所で聞いて回ったらしい。

俺は母親によって無理矢理玄関に呼ばれ、お母さんからお礼のケーキを受け取った。
女の子はずっとお母さんの足にしがみついていて、チラチラと俺と母親を交互に見ていた。
俺は嬉しいとか誇らしいとかそういう気持ちは全然なくて、
ただ早く自分の部屋に戻りたかった。

が、女の子達が帰った後、母親に褒められたのは悪い気がしなかった。

「香子ちゃんは一年生で、こっちにきたばっかりなんだから、これからも助けてあげなさいよ?」
「んあ。」

そうか『かこちゃん』っていうんだな。名前も知らんかった。
そんなことを思いながら食べるケーキは、美味かった。

まもなくGWに入った。
俺はいつものごとく団地で遊びながらも、どこかで香子の姿を探したが、
連休中にその姿を見る事はなかった。

GWが終わり、ダルイ学校生活がまた戻る。
朝、欠伸をしながら家を出ると、公園を挟んで向かいの棟の下に、
香子とお母さんがいるのが見えた。
お母さんに何事か言われ、香子がこっちに走ってくる。

なんだなんだと思いつつ待っていると、香子は小さな袋を差し出してきた。

「これ。」
「ん?くれるの?」

香子が頷くので、袋を貰って開けて見ると、中から陶器で出来たフグのキーホルダーが出てきた。
後で聞いた話だが、お爺ちゃんの家が下関にあるそうだ。

「おみやげ。」
「あー…ありがとう。」

物を貰ったらお礼を言う。それくらいは子供でも分かった。
香子は嬉しそうに笑顔を見せた。

俺はそのまま学校へと歩きだす。
と、香子もトコトコと付いて来る。……目的地が一緒なので当たり前だが。

さすがに登校中に手を繋ぐようなマネは出来なかったが、
ほっといてどんどん先に行く訳にもいかないので、歩くペースを彼女にあわせた。

「学校慣れた?」
「………うん。うぅん。」

歯切れの悪い返事だった。
これも後から知ったんだが、都会っ子の香子は服も垢抜けてたし、
容姿もまるで人形のように可愛らしかったが性格が大人しかったため、
クラスでちょっと浮いていたらしい。

団地にも同い年の子はいるはずなのに、一緒に登校するところを見たことは無かった。

香子からしたら、俺がこっちに来て初めての友達、のつもりなんだろう。
そう思うと、年下ということもあって、無碍には出来ない気がした。

「勉強好き?」

勉強嫌いの俺が聞くことではないかもだが、他に話題もわからない。

「こくごとおんがくが好き。」
「あー、おんがくは俺も好きかな。」

リコーダーが本格的になるにつれ、音楽もだんだんと面倒くさくなっていくのであるが。

結局その登校中は、学校の話ばかりで終わったような気がする。ちょっと記憶が曖昧。

それから、登校にはいつも香子がついて来るようになった。
俺が意識して時間を合わせた記憶はないので、向こうがこっちを待っててくれたんだろう。

団地で遊んでいるときも、トコトコと寄って来てはジっと見ていたので、
こっちから呼んで混ぜてやった。
そのせいか、団地でも徐々に友達が増えているようだった。


低学年、中学年の頃はそれでも良かった。
しかし、高学年に入ると、状況は変わってきた。

自転車を手に入れ、活動範囲が広がった俺は、
団地の小さな公園で遊ぶより、運動公園に行ってサッカーしたり、
友達の家でゲームをする方が楽しくなっていった。
後、女の子と遊ぶことが妙に恥ずかしくなったりする頃でもある。

俺は、だんだんと放課後に香子と遊ぶことが少なくなっていった。

それでも、日課となっていた一緒に登校は続いていた。

「こーちゃんあのね、昨日先生がね…」

放課後会えなくなった分、登校中の香子はよく喋った。
昨日学校であったことや、友達のことを事細かに話す。
俺は「うん」とか「ああ」とか言いながら、適当に聞き流していた。
正直、それもちょっと面倒になってきてたんだろう。

それに、登校中にクラスメイトに出会ってしまった時、
からかわれるのが物凄く嫌だった。

「やい幸介、今日も女と仲良く登校か?ww」
「うるせー!」

大体、女といることをからかっていたようなヤツに限って
早めに彼女を作ってたりするもんだが、それはもっと後のこと。
子供にとって、重要なのは今だった。

六年生になって間もないある日。
俺は、自転車で迎えに来た友達と供に、運動公園へサッカーをしにいくところだった。
自転車に乗り込んで、いざ出発、と思ったときだった。

「こーちゃん!」

なんと、香子が真新しい自転車に乗ってやってきた。
そういえば、春休みに買ってもらったと言っていた。

「……なんだよ。」
「私も、サッカー観に行っていい?」

香子にしてみれば、自転車を手に入れてやっと団地の外もついて行ける、
そんな気分だったんだろう。
だが。

「お、幸介いいなぁ、カノジョも一緒なんてw」
「ひゅーひゅー!」

悪友達のベタな煽りが、ものすごく恥ずかしかった。
その思いは、香子へとぶつけられる。

「駄目だ、ついてくんな。」
「え?どうして?観てるだけで邪魔しないよ。」

不思議そうに言う香子。ますます酷くなる煽り。

「駄目だったら駄目だ!女がついてくんな!居るだけで邪魔なんだよ!」

俺の剣幕に驚いたのか、香子は大きな瞳を更に丸くして、固まっていた。
構わず俺は、自転車を漕ぎ出す。

「おい、行こうぜ!」

慌てて、友達二人もついて来る。

「幸介いいのかよ、あんなこと言って。」

散々煽ったくせに、心配そうに言う友達。

「いいんだよ、言わなきゃわかんないんだあいつは。」

そう言いながらも、俺はちょっとだけ気になって、団地を出る寸前に振り返った。
遠目でよく分からなかったが、香子は泣いているように見えた。

次の日、香子は登校中に現れなかった。
俺は清々した、と思いながらどこかで後悔もしていた。
かといって、謝るような素直さももっていない。男子小学生なんて意地の塊だ。

次の日だけでなく、それから以後、小学校卒業まで香子と一緒に登校することはなかった。

一人で登校しながら、俺は香子を傷つけてしまったことを知った。
これから何度となく俺は香子を傷つけることになるが、これがその一番最初だった。


中学に入ると、俺はサッカー部に入った。
サッカーは好きだし、走るのも好きだったが、
ヘタクソなので万年補欠だった。
が、それはまあ置いといて。

部活が始まると、小学生の頃とは比べ物にならないくらい忙しい。
家に帰るのは七時くらいだし、テスト勉強もしなくちゃならない。
小学生の頃は一緒に登校しないまでも、団地やコンビニでたまに香子と会うことがあったが、
中学に入るとほとんど会うこともなくなった。

まあ、子供の頃の女友達なんてそんなもんだろう。
そう思いながら、俺はやっぱり、どこか淋しい想いを抱えていた。

中一も終わりに近づいた、2月。
俺は部活の後、WJを買いにコンビニに寄っていた。

買い物を済ませ、コンビニを出たその時。

「こーちゃん。」

振り向くと、香子が立っていた。
久しぶりに見る香子は、もう子供子供した感じじゃなくなってきていて、
手足がスラっとしていて、髪はポニーテールだった。胸はまだない。

「久しぶりだなw」

俺は久々に会う動揺を隠して、努めて普通に挨拶した。

「うん、久しぶりw学ラン似合うね。」

そういえば、制服着て会うのも初めてだった気がする。

「中学どう?楽しい?」
「まあまあかな。部活はしんどいけど、楽しい。」
「サッカー部なんだよね?」
「ああ。」

帰り道は一緒なので、歩きながら喋った。

「そういえば、こんな遅くに一人でコンビニなんて、危ないじゃないか。」
「あ、うん、ちょっと材料が足らなくて…」

言いながら、香子はしまった、というような顔をした。

「材料?なんの材料だよw」

問いながらも、本当は俺にも分かっていた。
もうすぐバレンタインデーだ。
小学生の時、香子は既製のチョコを俺にもくれたが、
いよいよ手作りであげたくなるような男子も出来たんだろう。

「エヘヘ、ナイショだよw」

笑う香子を見ながら、なんか感慨深い気持ちになった。
同時に、ちょっと淋しくもあった。

数日後、一年で一番男子がソワソワする日、バレンタインデー。
俺も例に洩れずソワソワしていたが、結局学校では誰からももらうことはなく、
トボトボと家路を急いだ。

家に帰ると、俺の机の上に、綺麗にラッピングされたチョコらしきものが置いてあった。
最初、母親かと思ったが、こんな手の込んだことをするはずない。

「かあさん、これなんだ?」

俺はチョコらしきものを手に居間に行くと、母親に聞いた。

「ああそれ、夕方に香子ちゃんが持ってきてくれたんだよ。」

それだけ聞くと俺は大慌てで部屋に戻った。
香子が?なんで?しばらく会ってもいなかったのに??

ゆっくりとラッピングをあけると、手作りらしいチョコと供に、
小さなカードが入っていた。

『初めて手作りしました。美味しくなかったらごめんね。香子』

俺は丸いチョコをかじると、ちょっとビターすぎな気もしたが、
十分美味かった。
思えばあの丸型は、サッカーボールだったのかもしれない。
なんか模様みたいな線がついてたし。

すぐさま電話でもして礼を言えばよかったのだが、照れくさくてそれもできなかった。
きっと、ガキの頃の延長でくれたんだな。それくらいに思った。

しかしまあ、まったくそのまま会うことがなく。
ホワイトデーのお返しなんて気の効いたこともせず。
あっという間に中一は終わり、二年になった。

中二病とはよくいったものである。
クラスの面々は、一年の頃に比べ、よくも悪くも個性が増してきていた。
不良っぽいやつは、よりDQNな格好に。
勉強できるやつは、よりガリ勉スタイルに。
そして、リア充は、よりシャレっ気が増し、モテ男になっていた。

そのどれにも該当しない俺は、
学校ではサッカー部、家では漫画読んだりゲームしたりと、
比較的ノーマル(若干オタ寄り)な中二だった。

ノーマルであるが故、女子に興味が出るのは当然のことである。
が、サッカーもヘタで至ってフツメンな俺に浮いた話はなく。

サッカー部でモテるのはレギュラーだけだし、
一大イベント修学旅行も、男友達とバカ騒ぎしただけで終わった。

そんな中、二年の冬休み直前。
一番中の良かったサッカー部の友人Sに、彼女が出来た。
そう、小六の時に俺をからかいまくったアイツだ。

相手は、同じクラスのテニス部の子で、結構可愛かった。
部活の帰りにそれをSから聞いて、俺は心底驚いた。

「マジで?告白したの?」
「あ、それは向こうからw」

そっけなく言うSの余裕が憎たらしい。
それにしても、身近なヤツに彼女が出来たのが初めてだったので、
ショックというかリアルというか、なんとも言えない気持ちになった。

「裏切り者〜〜ッ」

Sをバシバシ叩く俺。

「なんだよ、お前だって仲良い女の子いたじゃん。」

Sが言ってるのは、間違いなく香子のことだ。

「あれ、どうなったの?」
「いや香子は…ただの、近所の友達だから。」

ウソでもなんでもない。年下の女友達、というだけで、
それ以上は何もないんだ、俺たちは。

「ふーん。……でも、あの子は絶対お前のこと好きだと思ったけどなぁ。」
「………。」

じゃああんなに煽るなよ、とは言えなかった。

それに実際、俺自身が香子に恋愛感情なんてハッキリしたものは無かった。
何しろ、相手はまだ小学生だったし。そういう対象ではない気がした。
ただ、大切な存在ではあったと思う。

それ以上その話は続かず、俺とSは適当に喋って帰った。

冬休みが終わって、1月が過ぎ、そして2月。
俺は去年のことを思い出しながら、なんとなくまたチョコもらえるかなー、
と思っていた。
相変らず香子と会う機会は少なかったが、
去年のバレンタイン以降、たまに会った時には
談笑できるくらいの感じの仲には戻っていた。

そしてバレンタイン当日。
相変らず学校では全滅だったが、俺はちょっとウキウキしながら家に帰った。

そして、部屋の机の上を見る!
………何も、無かった。

と、居間から母親が俺を呼ぶ。

「こーすけ、電話!」

Sがチョコを貰った自慢でもしてきたんだろうと思って、
母親から受話器を受け取る。

「もしもし?」
『あ、こーちゃん?香子です。』

途端に、心臓の鼓動が早くなる。
なら先に言えよ、と思って母親を見ると、ニヤニヤしがらこっちを見ていた。

「あ、うん、久しぶり。どーしたの?」

なんか、会話するたびに久しぶりって言ってる気がする。

『今、ちょっと真ん中公園に来れる?』
「ああ、平気だけど。」
『じゃ、来てね、私もすぐ行くから!』

電話は一方的に切られた。

外に出るとすぐ、団地の真ん中の公園にいる香子が見えた。

「こんばんは。」

香子はまたちょっと背が伸びた気がした。今日は長い髪を下ろしている。
小さい時に比べ、髪のクセが無くなってきているような気がした。

「おう。電話、タイミング良かったな。今帰ったとこなんだ。」
「実はね、家からこーちゃんの部屋に電気が付くのを見てたのw」

なるほど、確かに向いの棟だから、そういうことも出来る。

「これ。」

香子はおずおずと手にした紙袋を差し出した。
中には去年の如く、チョコらしきものがラッピングされて入っている。

「ありがとう。」

今年はちゃんと礼が言えた。

「去年は手渡しできなくて、ごめんね?」
「い、いや…俺も、礼もなにも出来なくて、悪かった。」

なんか、お互いで謝りあってる。

「今年は、去年よりは上手に出来たつもりだけど…」
「いや、去年のも美味かったよw」
「ホント?良かったww」

一年越しで去年のチョコの感想のやりとりをした。
こんな近くに住んでいるのに。

「4月から、中学生になるよ。」
「知ってるよww」
「一年だけだけど、また同じ学校に行けるねw」

香子は無邪気にそう言った。

「そうだな、楽しみだな。」

俺も小学生の時より少しは成長していたのか、素直に答えることができた。

「……ねえ、4月から、また前みたいに、一緒に学校行ってくれる?」
「え?」
「たまにでいいから。」

夜の闇のせいではっきりとは分からないが、
香子の頬は、ちょっとだけ赤く染まってる気がした。

「俺、朝練もあるから、ホントにたまにだぞ?」
「うん!たまにでいい。…ありがとう。」

緊張した表情だった香子はやっと微笑んでくれた。

「じゃ、帰るね!」
「うん。」

勢いがついたのかテンションがあがったのか、
香子はそのまま走って家へと戻っていった。

中三の春。
俺は、いつもの進級とは違った気分で迎えていた。

香子はセーラー服がよく似合っていた。

俺は朝練があったので、言うほど一緒に登校は出来なかったが、
たまに一緒に行けたときは、学校のことをよく話してくれた。
香子も小一のときとは違い、友達もたくさんいるし、
ブラスバンド部に入って、部活も頑張っていた。

まもなく俺は最後の大会が終わり、サッカー部を引退となった。
結局三年までスタメンに選ばれることはなかったが、
最後の大会は途中出場で試合にも出れたので、満足していた。

それから受験勉強の日々が始まる。

「勉強、大変?」
「まあね。」

俺が引退した後は、香子と一緒に登校する機会は増えていた。
毎日ではないが、週に二、三くらい。

「受験ってどんな感じなのかな。」

いまいち実感が湧かないという顔をする香子だが、
実は香子はかなり成績が良いので、この地区で一番の
公立進学高である○○高を目指すことになるのは間違いなかった。
そして俺は、ある決心をしていた。

「俺、○○高を目指すよ。」
「ホント?あそこ、難しいんでしょ?」
「うん。でも、やってみる。」

俺の成績は中くらいで、はっきり言って○○高は相当厳しい。
それでも、やってみるつもりでいた。
たった一年、また香子と同じ学校に通うために。

それから受験までは、まさに勉強漬けの日々だった。
今まで行った事のなかった「塾」というものにも行ったし、
夏休みも何が休みなのかっていうくらい、勉強した。

何か目標があってやるということは、結構重要なことらしい。
冬くらいになると俺の成績は、先生も驚くほど上がっていた。

Sは、そんな俺を見ながら、

「まるで横島クンだな。煩悩パワーだw」

と笑っていた。
ちなみにヤツは、そんな俺より成績が上なのが腹立つ。

受験勉強で忙しいため、俺と香子はこの一年、
登校中くらいしか話すことはなかった。
が、それでも良かった。俺には、十分力になった。
それにこのときに至ってさえ、俺は香子に対して
恋愛感情は無いんだと思っていた。思い込んでいた。

ただ、また、こうやって一緒に喋れたらいいな。
そう思って、勉強に打ち込んでいた。

春が来て、受験が終わり、
そして、合格発表の日が来た。

受験前後から、香子は受験の類の話を全然しなくなった。
おそらく、気を使ってくれたいたんだろう。
確かに、こっちの精神は異常なほど研ぎ澄まされていたし、
発表まで気が気じゃなかった。

発表の日、俺はSと供に観に行った。

「あ、あった。」

Sはあっさりと自分の番号を見つけた。
まあ、ヤツの実力なら当然の結果だ。

「じゃあ、俺のも一緒に探してくれよ!番号は…」
「いや、だからあったんだって。俺のも、お前のもw」

はい?
俺は一瞬状況がわからなくなったが、すぐに意識を取り戻す。

「まじかーー!どこだ!」
「だから、あれww」

笑いながらSが指した先に、確かに俺の番号はあった。

「あった!やったーーーー!!!」
「良かったなw」

やたら冷静なSをよそに、俺は大きくバンザイした。

合格したらすぐに中学に来いと先生に言われていたが、
それよりまずは電話だ。

Sは携帯で家に電話していたが、俺は持ってなかったので
公衆電話から電話をかけた。

しかし、家ではない。香子の家だ。
約束も何もしていなかったが、俺は何故か、
香子が家で待っていてくれてるような気がしたから。

「はい、佐々木です。」

一度きりのコール音の後、電話に出たのはやっぱり香子だった。

「俺、幸介。」
「こーちゃん!…その、どうだった?」
「受かったよ、合格!」

俺は敢えて冷静にかっこつけようと思ったが、
テンションが上がって、どうも駄目だった。

「ホント!?やったね!良かったね!!」

受話器の向こうで、香子のテンションはもっと高かった。

出典:引っ越してきた二つ年下の子
リンク:http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1251188047/

(・∀・): 295 | (・A・): 80

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