引っ越してきた二つ年下の子 2

2010/08/10 13:02 登録: えっちな名無しさん

121 :1[]:2009/08/25(火) 12:58:12.64 ID:9k1Z+XoP0
そして、4月。
俺は、高校生になった。
制服はガクランのままだったが、女子のブレザーが可愛かった。

「こーちゃん、部活どうするの?またサッカー部?」

高校に入ってすぐ、俺と香子は公園で喋っていた。

「うーん、どれにするか悩んでるんだけどな。あ、サッカー部には入らないよ。」
「え、どうして?」
「俺、サッカーのセンスないみたいだしw どうせなら、別のこともやってみたいし。」

ちなみにウチの高校はサッカー部は人数も多く、
中学の時スタメンだったSもなかなかレギュラーになれなかったくらいだ。

「じゃあ、ブラスやろうよw」
「ブラバンかぁ。高校からでも、やれるかな。」
「大丈夫だよ。楽しいよ?」

ニコニコと話す香子につられて、それも悪くないかな、と思えてきた。

「じゃ、やってみようかな。」
「うん、やってみて!」

先に行って待ってるぜ、とは言えなかったが。

俺はブラスバンド部に入ったが、最初は散々だった。
ほとんどの人が中学から、もしくは小学からやっている部員ばかりで、
譜面も読めなければ音もまともに出ないのは、俺くらいだった。

が、サッカー部と受験勉強で鍛えられた忍耐力で、辞めることはなかった。
そして、なんだかリズム感はいいらしいということで、パーカッション担当になった。
これが意外に楽しく、ドラムセットまで8ビートくらいなら叩けるようになった。

毎日の楽しい部活と、勉強の忙しさもあって、
俺は香子となかなか会うことが出来なかった。
だが、これは中学のときもそうだったし、仕方ないか、と思っていた。

高一の一年間はあっという間に過ぎた。
この年のバレンタインはお互いの都合が合わず、
結局母親が預かってくれるパターンだった。
だが、俺もお返ししなくてはならないということにようやく気付き、
ホワイトデーにはクッキーを持っていった。

生憎、香子は居なかったが、お母さんに預かってもらった。

その夜、家の電話が鳴った。
たまたま母親が居なかったので、俺が出た。

「はい。」
『あ、こーちゃん?香子です。クッキーありがとう!!』

一気に捲くし立てる香子に、耳がちょっとキーンとした。

「あ、ああ、大したもんじゃなくて悪いんだけど。」
『そんなことない、すっごく嬉しい!ありがとう!!』

こんなに喜んでもらえるなら、もっと前からあげとけば良かった。

「今年は、いよいよ高校受験だな。」
『うん。私も、○○高目指して頑張るよw』
「香子なら平気だよ。」

母親伝いに、香子の成績が学年でもトップクラスだということは聞いていた。

「待ってるぜw」

今度は、言えた。

『頑張りますw』


二年になっても、相変らずの日々だったが、
受験で忙しい香子とは益々会う機会が減った。
それでも、まるで妹を心配する兄のような心持ちで、
試験の要点や使うといい参考書なんかを教えてやった。

そんな、夏休み明けのある日。
俺は、隣のクラスの女子に、呼び出された。

その子は、合唱部のTだった。
合唱部とは同じ音楽系の部活ということで、交流もあったので、
何度か喋ったこともある。
ショートカットで、綺麗な顔立ちをした子だった。

「ねえ、幸介君て付き合ってる子、いるの?」

放課後の誰も居ない階段の踊り場で、こんなことを聞かれる。
俺の心臓は爆発寸前にまで高鳴った。

「いや、いないけど…」
「じゃあ、私と付き合ってよ。」

なんというか、気が強くてストレートな子だった。
そして、美人だった。

「うん。」

俺は、即答していた。

香子の事は考えなかった。
いや、一瞬は頭を掠めた。
しかしその時の俺は、香子のことは大切な大切な妹のような存在で、
恋愛対象としては見ていなかった。
幼馴染はそういうもんなんだ、とそう思っていた。

それと同時に、リアルに彼女がいる生活にも憧れていたし、
なによりこんな綺麗な子が告白してくれたという事実に、浮かれていた。

そうして、俺とTの交際が始まった。

Tは気が強く、デートの時も率先して行く先を決め、
引っ張っていくタイプだった。
俺は彼女ができたことなんて初めてで何もわからなかったし、
その方が助かった。

お互い、部活や勉強で忙しかったが、
それでも合い間を縫って買い物したり、映画に行ったりした。

それはすごく楽しい日々だったし、今でもそれに後悔はしていない。

初めての携帯も手に入れたし、メールも毎日のようにしていた。
それと比例して、香子と会う機会は減った。
香子はまだ携帯も持っていなかったし、塾と家と学校の往復で、
俺と会ってる暇なんかなかったようだ。

しかし、まったく無かったわけではない。
Tと付き合いだして一ヶ月ほど経った頃、
部活の後に二人でマックに寄って、出てきたときだ。

ちょうど塾帰りだったのであろう、香子と出くわした。

「あれ、こーちゃん?」

先に気付いたのは香子だった。

「おお、香子、久しぶり。塾の帰りか?」
「うん。」

答えながらも、香子がTを気にしているのが分かる。

「あ、こっちは同じ高校のTさん。」
「どうも。」

Tの挨拶にあわせ、香子も頭を下げる。

「Tは、俺の彼女なんだ。」
「え?」

香子は目をぱちくりさせて、俺とTを交互に見た。

「こ、こーちゃん彼女できたんだ!すごーい!」

香子は驚いたような顔をして、俺を囃し立てた。

「ま、まあな。」

俺は照れて頭を掻く。
Tは不思議そうな顔をして、俺と香子を見比べていた。

「じゃあ、私帰るね。」
「ああ、気をつけて帰れよ。」

香子は自転車に乗り込むと、猛発進して去っていった。

「……あの子、中学生だよね?」

香子の後姿を見ながら、Tが聞いてくる。

「うん、同じ団地の、まあ幼馴染だな。」
「へぇ〜」

Tは納得したように頷いた。

その後も、特に関係が変わることはなかった。
相変らずTとは付き合っていたし、
香子とは出会ったときに、近況を語り合うような関係だった。
香子は成績上位をキープしているようだった。○○高には間違いなくいけるだろう。

冬のある日、Tが俺んちに遊びに来たことがあった。
テスト期間で部活もなく、テスト勉強をするという名目だ。
学校が終わった後、そのまま二人で俺んちに直行した。

俺んちに着いて、ドアを開けたその時。
居間の方から笑い声がする。両方、聞き覚えがあった。
一人は母親。そして、もう一人は。

「香子、来てたのか。」
「あ、こーちゃん、お邪魔してますw」

母親と香子は、香子の持ってきたらしいお菓子を食べながら、談笑していた。

「お父さんの出張のお土産なのw こーちゃんも…」

はたと、香子の言葉が止まる。
俺の後ろにTがいることに気付いたからだろう。

「あら、Tちゃんいらっしゃいw」
「どうも、こんにちは。」

Tとウチの母親は、二度ほど面識があった。

「テスト勉強、させてもらいにきたんです。」
「あらあら。じゃあ幸介にしっかり教えてあげてねw」

ちなみにTの成績は俺より全然いい。

「あ、私、帰ります!」

香子は椅子から立ち上がり、帰り支度を始める。

「あら、もっとゆっくりしていけばいいのに。」
「いえ、いいんです、テスト勉強の邪魔になっちゃうし…」

そう言いながら、そそくさと玄関に向う香子。

「じゃ、またね。」
「おう、おみやげ、ありがとな。」

香子は俺に手を振って、Tに一礼して、帰っていった。
俺とTは、俺の部屋に入る。

「あの子、いつかの子だよね。」
「うん。」
「よく遊びに来てるんだ?」
「いや、滅多にこないよ。小学生の時以来じゃないかな。」
「ふうん。」

Tは気の無いように言ったが、俺はウソは付いていない。
その日に限って来ていたのは、本当のことだった。


そして冬休みを越え、新年。

俺とTは初詣にいったり初チューしたりと、
新年のスタートとしては順調だ、と思った。

だが、いいことは長続きしないものだ。

今年もまた、バレンタインがやってくる。

バレンタイン当日。
俺はTに家で待ってるように言われたので、
大人しく待っていると、携帯が鳴った。

『ちょっと、下まで出てきて』

Tからのメールだった。
なんか似たようなこと前にもあったなーと思いつつ、
俺はドキドキしながら家を出た。

公園の街灯の下に、Tがいた。

「おっす。」
「おっす。はい、これ。」

Tが俺に押し付けて来たのは、間違いなくチョコレートだ。

「お、ありがとう。」
「部活忙しくてなかなか買いにいけなくて、やっと今日買えたw」

それで家で待ってろって言ったのか。

「わざわざ、ありがとう。嬉しいよw」

その時、だった。
向かいの棟から、香子が出てきた。紙袋を持って。
恐らく、俺の家に届けるつもりだったのだろう。

「あ…」
「……」

香子は俺たちを見て、Tは香子を見て、固まる。
言い知れない緊張感に耐え、俺は第一声を放つ。

「おっす。」
「こ、こんばんは。」

香子は、俺に対してというより、Tに対して挨拶した。

「こんばんは。こんな遅くにどうしたの?」

Tは、努めて優しい口調で言ってるような気がした。

「え、あの…こーちゃんに……」

素直な香子の言葉。

「それ、チョコレート?幸介にあげるつもりで?」
「は、はい…」

それを聞いて、Tが香子へと詰め寄る。

「彼女のいる人にチョコ持って行くなんて、どういうつもり?」
「ちょっと、やめろよ」

俺は慌ててTの肩を掴んだが、Tは止まらない。

「ハッキリ言って、迷惑なのよこういうの。やめてくれない!?」

怯えたように身を竦ませる香子。

「おい待てって!そういうんじゃないんだよ、俺達は!」

さすがに俺も声を荒げた。

「それは、幸介が思ってるだけでしょ?彼女からしたら違うかもしれないじゃない!」
「そんなことねーよ。」

俺は香子を見たが、香子は震えて声も出ない。
このままここに居させるのは、根が大人しい香子には耐えられないだろう。

「香子。大丈夫だから、家に帰ってな。」
「で、でも…」
「いいから。」

俺が諭すと香子は、走って家へと戻った。

「優しいのね。」

厭味な言い方だった。

「そりゃ、妹のようなもんだからな。」
「こないだだって家に居たし。」
「それは、たまたまだって。」
「そんなに大切なら、私よりあの子と付き合えばいいじゃない!」

俺は、怒った。

「なに言ってんだ、あんまりわけわかんないことばかり言うなよ!」

すると、普段は気の強いTの目から涙が溢れ、

「……帰る」

そう言い残し、俺が止めるのも聞かず、自転車で帰っていった。

俺は家に帰ると、謝罪のメールを送った。

『言い過ぎた、悪かった。俺はTが好きだから、信じて欲しい。』

しばらく後、メールが返ってきた。

『私こそ、ごめん。ヘンに気が立ってた。許してほしい。』

その後もメールのやりとりで謝りあい、
これで、Tとの喧嘩は一件落着した。そう思っていた。

次の日、俺は香子にも謝らなくてはと思い、電話したが、
家の人も香子も留守だった。
結局、その年の香子からのチョコレートは受け取ってやれなかった。


3月に入り、俺はホワイトデーの準備をしていた。
今年はチョコレートを買った。
Tだけでなく、受け取れなかった香子の分まで。

そんな3月のある日、サッカー部のSから妙な話を聞いた。

「おい、幸介。お前、Tと付き合ってるよな?」
「うん。」
「あいつ、こないだの日曜、合唱部の男と街歩いてたぞ。手、繋いで。」

は?

その日曜日は、部活だと聞いていた。

「いや、俺ら試合で他校行ってたんだけど、その帰り。3時くらいか?」

「あれは間違いなくTだったぜ。」

「っていうか、他のヤツが言うには、前にも見たって。」

Sは、俺のためを思って言ってくれてるのは間違いないが、
その一言一言が、まるで刃のようだった。

俺は、その日のウチにTを呼び出した。

「どういうことだよ。」
「………。」
「日曜は部活じゃなかったのか?」
「………。」
「なんとか言えよ!」

ずっと黙っていたTだったが。

「なによ、あんたに言われる筋合いないでしょ!」
「なんだって?」
「だってそうじゃない、あんただって隠れてあの中学生とイチャイチャしてるくせに!」
「なにいってんだ、してるわけあるか!」
「うるさいわね、もうどうだっていーじゃない!!」

Tはそのまま、どっかに行ってしまった。
残された俺は呆然と立ち尽くしながら、
どうやら自分が振られたらしいということに気付いた。

俺は、呆然と家に帰ったが、
なんとなく家に戻るのも億劫で、
真ん中公園のベンチに座っていた。

晴天なのに、心はどしゃぶりだ。
初めての彼女と、こんな終わり方なんて。
まるで世界が終わったかのような気分だった。

「こーちゃん。」

そんなorzな俺に話しかけてくれるのは、香子しかいなかった。

「………。」

返事をする気力もなかったが、香子は構わず俺の方に寄ってきた。

「こーちゃん、どうしたの?」
「………なんでもねー。お前こそなにやってんだ。受験勉強はいーのか。」
「……もう、終わったから。」

あれ、そんなに入試って早かったっけ…
そんなことをぼんやりと考えた。

だがそれよりも、今は一人にして欲しかった。

「こーちゃんあのね、私、話したいことが…」
「うるせぇ。」
「え?」
「お願いだから、黙っててくれ。俺は一人でいたいんだ。ずっとずっとずっと一人で。」

香子は怪訝そうな顔をした。

「そんな一人で居たいなんて言ってたら、彼女さんに怒られちゃうよ?w」

その一言で、俺はカッとなってしまった。

「その彼女に振られたんだよ!」
「え、どうして…こないだの、私のせい?」
「そうだよ、その通りだ!だから、放っておいてくれ!!」

いや、本当は香子のせいじゃない。悪いのは香子じゃない。
その時でさえ俺は分かっていたが、だが、止められなかった。
ただ、一人になりたいという気分の方が勝ってしまい、香子に怒声を浴びせた。

「ご、ごめんなさい、わたし……」

香子は泣き出したようだったが、俺に気にする余裕はなかった。

気がつけば、いつの間にか香子はその場から居なくなっていた。

家に戻ってしばらくして、
俺は香子に怒鳴ってしまったことを後悔したが、
電話して謝ることも出来なかった。そういう気分になれなかった。

そのまま、香子に会うこともなく、
もちろん、Tに会うこともなく、
手元に残された二つのチョコレートと供に、
俺は春休みを向かえた。


春休みのある日。
俺が部活から戻ると、香子の家の電気は夜にも関わらず点いていなかった。

出かけているのかな、と思って家に帰ると、
母親が俺に便箋を渡してきた。

「これ、香子ちゃんからの手紙。お別れの挨拶だって。」
「お別れ?なにいってんだよ。」

俺の返事に、母親は怪訝そうな顔をした。

「何って…佐々木さんち、今日お引越しだったじゃない。」
「は!?」
「あんた聞いてなかったの?とっくに香子ちゃんから聞いてるものと…」

どういうことだ、なんだそれ、
俺はそんな話聞いてない、何も聞いちゃいない。
俺は部屋に駆け戻って、便箋を開けた。

『こーちゃんへ

 何度も話そうと思ったけど、結局言えないままでごめんなさい。
 お父さんの転勤で、前に住んでた町に戻ることになりました。

 高校も、向こうの私立を受けました。
 何度もこっちの○○高に入りたいって言ったけど、お父さんは許してくれませんでした。
 当たり前だよね、高校生の一人暮らしなんて。

 本当は同じ高校に入って、同じブラスバンド部に入りたかった。
 こーちゃんと一緒に、高校に通いたかった。

 最後に、私のせいでTさんと別れることになって、本当にすみませんでした。
 どうやっても許してくれないだろうけど、
 遠くからこーちゃんの幸せを願うことだけは許してください。

               香子』


本当は、もっともっと長い手紙だったが、要約するとこんな感じだ。
今でも手元にある。

俺は手紙を読みながら、涙を堪えることが出来なかった。
なんてことだ。
香子はずっと、このことを俺に言いたかったに違いない。

あの冬の日、家に来ていたときも。
バレンタインの日も。
そして、公園で俺が怒鳴り散らした日も。

俺は香子の話を聞いてやるどころか、
深く傷つけたまま、お別れとなってしまった。

親は、連絡先を聞いていなかった。
俺には、香子に謝ることすらできなかった。

中学に問い合わせれば、もしかしたら分かったかもしれない。

だが。

俺は、それは何か違う気がした。
自分の力で、なんとかしなくてはならない。
そんな、強迫観念に似たような思いに囚われていた。

香子が、前居た町なら知っている。
結構な都会で、レベルの高い国立大がある。
その大学には、香子のやりたがっていた英語の仕事のための、英文学科もある。
なら、香子がその大学に行く確率は高い。

俺はそんな藁にもすがるような思いで、
香子にただ一言謝りたくて……いや、一目会いたくて。
それだけのために。

また、猛烈な受験勉強の日々に入った。

その時のことは俺自身、あまり覚えていない。
とにかく勉強した。朝から晩まで、休み時間まで。
部活は引退まできっちりやったが、早く引退したくてたまらなかった。

秋ごろには、なんと初めてSの成績を超えた。
後にSは、

「あの頃のお前は鬼が憑いてたw」

と言っていた。

体重も激痩せしたが、倒れてる場合じゃないので、
メシは一杯食った。睡眠も4時間は確保した。
冬の手前にはB判定も取ったが、それでも不安だったので、
年越しの頃は時間の感覚が分からないくらいの勢いで勉強していた。


結果。
受かった。
高校のときと同じように、親も先生も喜ぶより驚いていた。

だが、俺自身は、高校の時ほど喜んではいなかった。
こんなことは、通過点にすぎないんだ。
大学に入ったからといって、俺は確実に香子に会えるとは限らない。

それは、まだ先のことだ。

出典:引っ越してきた二つ年下の子
リンク:http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1251188047/

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