引っ越してきた二つ年下の子 3
2010/08/10 13:12 登録: えっちな名無しさん
355 :1[]:2009/08/25(火) 15:27:29.76 ID:9k1Z+XoP0
大学に入ると、生活は一変した。
まず、初めての一人暮らしに馴れない事だらけだ。
炊事は、今でも不得意だ。
生活費の足しと、賄い飯目当てで、レストランにバイトに入った。
バイトも初めてだったが、店長が良い人で根気良く教えてくれたため、
なんとかまともなウェイターになれた。
大学の講義も思っていたより全然面白くて、
それだけでも入った価値はあったと思えた。
だが、それもやはり、当初の目的とは違う。
日々の生活に埋もれそうなときも、香子の事は忘れなかった。
写真すら持っていなかったのには、かなり後悔したけど。
一枚くらいとって置くべきだったんだよ。
とかなんとか言いつつ、大学での二年間もすぎた。
車の免許もとった。飲み友達も増えた。
でも、合コンの類には行かなかったし、相変らず童貞のままだった。
当たり前だ、俺は香子が好きなんだから。
大学に来て、ようやくそのことに気付いた。
高三のときは、それすら考える余裕がなかったんだ。アホだ。
そして、大学3年目の、春。
この年、もし、俺の予想が正しければ…
いや、願いが叶うなら。
香子が入学してきたはずだ。
もしかしたら、もう彼氏がいるかもしれない。
それならそれで、構わない。
俺は、一度だけでいいから、香子に会いたかった。
入学式には、探せなかった。人が多すぎる。
どいつが新入生で、どいつがサークルの勧誘かわかりゃしない。
講義が始まってからだ。
どの学部のどの学科に入ってるかはわからなかった。
だが、やはり英文科からいってみることにした。
ちなみに、俺は同じ文学部だが、日本文の方だ。
授業日程で、英文科の一年がどの時間にどこで講義を受けているかは、すぐ分かる。
三限で終わる日を狙って、講義棟の下で待っていた。
うむ、我ながらあきれるほどのストーカー具合だ。
講義が終わって、学生たちがワラワラと出てくる。
その数十人の学生を、俺は香子を探し出すため一心に見つめていた。
それはそれはキモイ画だったことであろう。
その中に、香子は。
いた。すぐ分かった。
背は、また少し伸びていた。
栗色の長い髪は、かわらないが、もうポニーテールにはしていない。
すらっと伸びた手足に、胸は……相変らずあんまりない。
表情は大分大人びていたが、それでも、面影は変わらない。
間違えるはずはなかった。
だが、俺は、声をかけることが出来なかった。
どんな顔して会えばいい?
どんなことを喋ればいい?
たくさん考えていたはずなのに、やっぱり頭が真っ白になった。
そんなとき、彼女がこっちを見た。
「こーちゃん!!」
なんと、香子が気付いてこっちに駆けてくる。
思えば、香子は走ってばっかりだ。
「こーちゃん!」
息せき切りながら、香子はもう一度俺の名前を呼んだ。
「お、おう、久しぶり。」
なんと、そんなことしか言えない俺のバカ。
違う、そうじゃないんだ、もっと言うべきことがあるだろうに。
俺はやっとの思いで再び喋ろうとしたが、その前に香子の言葉で仰天する。
「こーちゃん、やっと会えた!」
「え?やっとって…」
「ブラスの時の先輩に、こーちゃんがこの大学に入ったって聞いたからw」
なんと!!?
そういえば中学・高校が俺と同じで、ずっとブラスバンドだったやつがいるのは当然だ。
その子たちから聞けば、俺の進路を知ることだって簡単なはずだ。
なんてこった、俺には「香子の連絡先を知ってるヤツが同じ高校にいる」っていう可能性を
全然考えていなかった。女子同士なら、当たり前だろうに。
「だから、私もここを目指したんだよw」
「そ、そうか。」
「高校の時は、約束果たせなかったから…」
それは、同じ学校に通うという約束。
「待たせたねw」
「はは…」
俺はもう、笑うしかなかった。
笑っていないと、泣きそうだった。
だが、笑っているわけにもいかない。
「俺も、香子に会うためにココ、受けたんだ。」
「え?」
そう、俺は香子に会いたくて…
「ずっと、謝りたくて。」
「何を?」
「最後に会ったあの日。お前は全然悪くないのに、怒鳴ったりしてごめんな。」
「そんな、あれは私が悪いんだよ。私こそ、ごめん。」
また謝りあってる。
そんなわけで、俺と香子は仲直りできた。
香子はやはり実家暮らしだったが、
俺の狭いアパートに遊びに来たがった。
断る理由もないし、思ったより実家と近かったので、招待した。
「へえ、結構綺麗にしてるんだね。」
香子は感心したように言った。
「物が少ないだけだけどな。」
「子供の頃はおもちゃや漫画で溢れてたもんねw」
「ハハ、懐かしいな。」
「ごはんはどうしてるの?作ってる?」
「いや、バイトに週4、レストランに行ってるから、夕飯は賄い。」
「バイトの無い日は?」
「コンビニか、インスタント。」
香子は呆れたように溜め息をついた。
「それじゃ体壊しちゃうよ。」
「俺、料理へたなんだよw」
「じゃ、バイトの無い日は私が作ってあげよっか?ww」
香子が、悪戯っぽく微笑んだ。
「マジ?いやーそれは助かるけど…いーの?」
「いーよ、家から持ってくるだけだし。」
「いや手間じゃなくて、彼氏とかいねーのかよ。」
「彼氏なんか、出来たことないっすよ、先輩と違って。」
睨まれたが、気分は最高だった。
それから、週4はバイト、そしてバイトの無い日は
香子がご飯を持ってきてくれるor作ってくれるという生活が始まった。
驚くべきことに、この時点では付き合ってなかった。
お互い、何故か決定的な一言が言えないでいた。
この幸せを崩したくない、とか、昔から知ってて今更…とか、
いろんな思いがあったのは間違いないが、それにしても、である。
もちろん、香子が泊まったりするようなこともなく、
ご飯を食べたあとには、ちゃんと駅まで送っていた。
そんな生活が、冬ごろまで続いた。
しかし、このままではいけないと思っていた。
彼女でもない子に飯作ってもらってる場合じゃないだろ、俺は。
そんなわけで、ここは男らしく告白するしかない、と、
冬の頭にやっと思い立ったのである。
……だが。
そんなときに限って、悪いことが起こるんだ。
それも、今までで最悪の。
その日、俺はバイトがない予定だったが、
風邪で欠員が出たため、急に行くことになった。
電話で、香子にその旨を伝える。
『えー、そうなんだ。せっかくシチュー作ったのに。』
「ごめん、今度必ず食うから。」
『でも、明日もバイトなんでしょ?……そうだ、今日バイト終わってから持って行ってもいい?』
「え、それは嬉しいけど…でも、遅くなるぜ?10時過ぎるし。」
『大丈夫、明日大学も休みだし、10時半頃に、持って行くよw」
俺は、浮かれていたんだ。
夜に一人歩きさせるべきじゃなかった。
今でも、このとき止めておくべきだったと、悔やんでいる。
俺はバイト後、帰宅した。
10時すぎ頃、一度電話する。
「電車が駅に着く前に、言えよ?迎えにいくから。」
『わかったーw』
しかし、その後、電話は無かった。
10時半、俺はもう一度掛けてみる。
だが、出ない。
なにかあったのか?
俺は心配になって、家を飛び出した。
駅までの道のり、香子に会うことはなかった。
だが。
公園の前に停まる、パトカーが目に入った。
それも、二台も。
人も少々集まってきている。
もしや、と思い、野次馬の人に話しかけた。
「なにかあったんですか?」
「ああ、女の子が通り魔に襲われて、病院に運ばれたらしいよ?」
俺は、言葉を失った。
慌てて、警察の駆け寄る。
「すみません、すみません!!」
「どうした?」
その警官は俺の剣幕に驚いたような顔をした。
「襲われた子、どんな子でした!?どこの病院にいったんですか!?」
「君は…?」
「俺の大切な人かもしれないんです、さっきから連絡が繋がらないんです!!」
そして、警察に2、3、香子の特徴を聞かれ、
それが一致したため、俺は警察に病院に運んでもらえた。
病室の前には、香子の母親が来ていた。
「お久しぶりです」
「あ、ああ幸介くん…」
お母さんは、一瞬立ち上がったが、声にならない声を出して座り込んだ。
これ以上お母さんに聞くのは酷だと思った。
病室に入ろうとしたら、医師に止められた。
「今は、薬で眠っている。怪我は軽傷だから心配いらないよ。」
とりあえずは、ホッとした。
「君、ちょっと。」
背後で、警察に呼ばれ、そっちへ向う。
「怪我は、二箇所。顔面を殴られて、あと、二の腕を刃物で切られていた。」
「……!」
俺は、腸の煮えくり返る思いだった。
「骨には異常ないそうなので、顔は綺麗に治るだろう。ただ、腕の刃物の跡は残るこもしれないそうだ。」
何も言えず、俺は自らの太股を叩いた。
「あと……シャツが、びりびりに裂かれていた。襲われかけていたんだ。」
「!」
「だが、幸い、近所をジョギングしてた夫婦が通りかかったため、それは未遂に終わった。
それに、警察もすぐ呼んでくれたおかげで、犯人も逮捕できた。」
俺は怒りと安堵が織り交じったような不思議な感情だった。
警察の話の後、今度は医者が寄ってきた。
「これはまあ、襲われた女性によくあることなんだが、彼女は非常に錯乱している。」
それはそうだろう、落ち着いていられるはずもない。
「薬で眠らせる前は、ずっと悲鳴を上げていて、大変だったんだよ。」
何か他人事のような物言いが気に入らないが、
医者なんてこんなものだろう。
「今日、目を覚ますことはない。一度、家に帰りなさい。」
「でも……」
「君が体を壊しても仕方ない。もうすぐお父様もくるようだしね。」
俺は医者に促され、しぶしぶ病院を後にした。
翌日、俺は正午になるのを待って、病院に向った。
あまり朝早く行っても、香子の眠りの妨げになると思ったからだ。
病院に行って受付で話すと、「少々お待ちください」と、待たされた。
俺はソファに座るのも惜しんで、イライラと待っていた。
すると。
「幸介君、だね?」
現れたのは、体格のいい男性。
子供の頃、見覚えがある。香子のお父さんだった。
お父さんは仕事の忙しい人で、俺もニ、三度しか会ったことがない。
多分、向こうは俺の顔なんて憶えてもいないだろう。
「はい、そうです。」
俺は返事をして、次の言葉を待った。
「少し、歩こうか。」
「はい。」
俺はお父さんと供に、病院を出る。
「いつも、娘が世話になっていたそうだね。」
「いえ、そんな…」
むしろ、世話をしてもらっていたのは俺の方だ。
「正直、私は君が憎いよ。」
「え?」
「君のところに行かなければ、娘がこんな目に会うこともなかった。」
「……。」
その通りだった。俺は、何もいえない。
しかし、それでも俺は。
「娘さん…香子さんに、会わせてくれませんか?」
「それは、駄目だ。」
お父さんは歩みを止めて、こっちを見据えた。
「いや、誤解のないように言うが、君に意地悪して言ってるわけじゃない。」
「……。」
「娘は今、男性というものを拒絶しているんだ。警察や医者、見舞いに来てくれた先生でさえも、見るだけで錯乱した。」
お父さんは、悔しそうに、そして悲しそうに唇を噛んだ。
もしかしたらお父さんでさえも…そう思った。
「だから、君が今会っても、同じことだろう。娘には、時間が必要だ。」
「……」
「それに君は、娘の恋人というわけでもないんだろう?」
「!」
それは、痛い一言だった。
「君のために、娘が傷ついた。それは事実だ。」
恋人ではない、と言われるより、
傷つけた、と言われたその言葉の方が、俺はショックだった。
まただ、また俺は香子を傷つけた。
今回に至っては、肉体的にも精神的にも、だ。
俺は、疫病神なのか?そんなことすら本気で思った。
「今日は、帰ります。」
「そうしてくれ。」
お父さんは俺を見ないまま振り返って、病院に戻っていった。
どん底な気分のままで、フラフラと俺は家に帰った。
そのまま布団に包まり、ただ、泣いた。
情けないが、泣くことしか出来なかった。
結局、香子が病院に入院している間、
俺は一度も会うことが出来なかった。
いや、俺だけでなく、見舞いに来たほとんどの男が会えなかったようだ。
それでも、俺は病院に通った。
毎日、ナースセンターでお見舞いの品を渡すだけの日々だった。
そんな二週間目のある日。
「すみません、田中ですが…」
「ああ、田中君。」
ナースの方も、俺のことを既に憶えていた。
「入院している佐々木さんに、これを…」
「あ、聞いてないの?佐々木さん、退院したわよ。」
俺は、手にしていた花を取り落とした。
既に退院している?
俺はわけのわからない心持ちで、病院を出ると、
まっすぐに香子の家に行く。
大体の場所は聞いていたし、家の住所も分かっていたから、
割りとすぐに香子の家は見つかった。
インターホンを鳴らす。香子は会ってくれるだろうか?
中から、香子のお母さんが出てきた。
「幸介くん…」
お母さんは、ちょっと申し訳なさそうな顔をした。
「どうぞ、上がって。」
「はい、お邪魔します」
俺はお母さんに促されるまま、居間に通された。
居間で待っていると、お母さんがパタパタとお茶を持ってきてくれた。
「あ、お構いなく。」
「ごめんね、バタバタしてて。私もさっき戻ってきたところだから。」
さっき、戻ってきた?
「あの、香子、いや香子さんは…」
「療養のために、山口の田舎に行ってるの。昨日から。」
山口には、香子のお祖父さんとお祖母さんがいるはずだ。
「体の方は元気になったんだけど、心の方がね…」
「……。」
「私も、夫の身の回りのために一度戻ってきただけで、明後日にはまた行きます。」
「あの、大学の方は…」
「当分、休学ね。」
俺は、頭をぶっ叩かれたような気分だった。
「……男の人に、過剰に怯えてしまうの。お父さんやお祖父ちゃんは、平気になったけど…」
お母さんは、淡々と続けた。
「お祖父ちゃんの家は田舎で、周りに若い人もいないから、療養するにはちょうどいいだろうって、ウチの人が。」
「病院には、いかなくていいんですか?」
「入院は、あの子が嫌がってね……でも、通える病院は近くにあるみたいだから。」
俺は、言葉もなく、俯くしかなかった。
「……ウチの人が酷いことを言ったみたいだけど。」
お母さんの声に、顔を上げる。
「子供を想うあまりのことだから、気にしないでね。幸介君は、何も悪くないわ。あの人も、分かってる。」
「それは……いえ、やっぱり俺のせいです。すみません。」
「謝らないで。あの子も、あなたを責めてないわ。むしろ、自分を責めてる。」
「え?」
俺は、その時初めて聞いた。
香子は、俺の言いつけをやぶって電話をせずに駅から一人で来ようとしたのは、
バイトで疲れている俺のことを思ってだった。
しかし今は、自分が俺の言うことを聞いて電話していれば、
こんな大事にならずに済んだのに、と自分を責めているのだ。
「それで、幸介君が責任を感じていないかと心配してたわ…」
俺は、馬鹿だった。
また自分が落ち込むばかりで、香子の気持ちを見失っていた。
こんなにまでなっても、香子は俺の事を心配してくれている。
なら、俺は、他にもっとやるべきことがあるはずだ。
香子が病気と戦っているのに、俺が逃げてる場合じゃない。
「分かりました。」
俺は、スクっと立ちあがった。
「俺の事は心配いらないから、自分の体を第一に考えてくれ、と、お伝えください。」
「え、ええ。分かったわ。」
突然蘇ったかのような俺にお母さんは驚いていたが、
それでも最後は微笑んで送り出してくれた。
俺がするべきことは何か。
香子が戻ってきた時、支えられる男になる。それしかないじゃないか。
例え、香子が大学に戻れなかったとしても、
一生支え続けるだけの男になってやる。
三度、俺の中のスイッチが入った。
思えば、その時期は就職活動真っ只中。
俺は、暫く中断していた就職活動に身を投じ、
これまたガムシャラに頑張った。
今までは、そこまで働く場所や土地を考えていなかったが、
なるべく今住んでいる所の近くを探すようにした。
会社説明会にも先輩の訪問にも足繁く通ったし、
周りに負けないくらいのことはやった自負がある。
そして、4年生。
第一志望の、内定が、貰えた。
それは結構大手のメーカーで、大学と同じ県にあるのが良かった。
俺は一安心の後、今度は卒論に気合いを入れた。
しかし、香子はまだ帰ってきていなかった。
出典:引っ越してきた二つ年下の子
リンク:http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1251188047/

(・∀・): 82 | (・A・): 24
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