恩師

2010/09/29 20:21 登録: えっちな名無しさんEX

「553 ◆kKJLWMS1vQ 、はよ最後までかきんしゃい 」の続編です。
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口の中はカラカラに乾いて、自分でも何を話してるか解らなくなっていた。
先生との間の空気が重く、いつの間にか俺は喋るのを止めていた。
時間にしてどれくらい沈黙が続いただろう。ふと視線を上げると先生と目が合った。

やはりさっき見送ってくれた時の笑顔では無かった。
公立の受験に合格したことを喜んでくれた時の泣き顔でも無かった。
廊下で思わず抱きついた後の優しい笑顔でも無かった。
修学旅行でツーショットを写した時の無邪気な笑顔でも無かった。

体育祭の翌日、廊下で謝罪した時の「気にしないで」と言った時と同じ先生の顔だった。

さっきまで一人で興奮してここまで来たのが嘘の様に俺の心は醒めていた。
正確には、”冷静になっていた”か。

これまで先生がこういう顔を俺向ける時、そのほとんどは何か俺が失敗した時だ。
カンニングがバレそれを誤魔化そうとウソを言った時。
体育祭の自分の無様さに同情された気がして素直になれずに先生の腕を振り払った時。

じゃぁ、今度は何を失敗したんだろう?
俺はまた先生を失望させてしまったんだろうか?
自分には大人の対応なんてやはり無理だったんだろうか?
先生に”嫌われたくない”と思えば思うほどどんどん”嫌われている”のだろうか?

お互い沈黙の中、先生の目を見つめ急降下で醒めていく頭の中で次々と思考が巡り、遂に限界が来てしまった。
もうこれ以上先生の前に居ることは無理だった。
これまで先生の態度や表情に一喜一憂してた頃と違い、今の俺には”全て諦める”しか選択肢が無いことを今更になって思い知ったのだ。

喉が張り付くように乾いていた。
俺は俯き振り絞るように「帰ります・・・」となんとか声を出して先生に背を向けた。

頭の中が絶望感で一杯のまま帰ろうと重い足を踏み出した時、玄関口で立ったままの先生が背後から刺すように冷たい、それでいて震える声で言い放った。

「そうやってまた逃げるんだ?」

もう訳が解らなかった。
逃げる?ああ逃げるさ。
俺は大人じゃない。まだ子供なんだ。
ただ先生に自分の思いを伝えたかっただけなんだ。
そんな経験したこと今までない俺にこれ以上どうしろっていうんだ?


気が付いたら俯いて廊下で突っ立ったままボロボロ涙を流していて、そのボトボトと落ちた涙で廊下が水玉模様の様に濡れていた。
悔し涙なのか悲しい涙なのか、嬉涙では無いことはハッキリしてたが。

先生が俺に何を期待し何を求めているのか解らない。
受験の時は俺の合格を望んでいた。
水泳大会や体育祭ではクラスの優勝を望み、俺の活躍を期待していた。
でも今は解らない。
この場を逃げることは望んでいないだろう。
では何を期待しているんだろうか?


ふと背中の方に何かを感じ顔を上げて振り向いた。

先生が裸足のまま玄関口から出て俺の背後に立っていた。
顔を見ると先生は泣いていた。
声も出さず静かにただ涙を流していた。

嗚呼、また先生を泣かせてしまった・・・
こんなはずじゃ無かったのに・・・

今度は自然と言葉が出た。
「先生、ごめん・・・また泣かせちゃってごめん・・・。先生の事、大好きなのに今まで泣かせてばかりで本当にごめん。
今だって泣かせるつもりなんて無かったんです。ただ先生に今までのお詫びと感謝と、それと”好きです”って伝えたかっただけなんです。
先生、これでお別れですが幸せになってください。今までありがとうございました。」

いつの間にか俺の涙は止まっていた。
先生の顔もいつのまにか”先生の顔”じゃなくなっていた。
涙を流したままだったけど、俺の大好きな優しい顔だった。

先生は俺を力いっぱい抱きしめてくれた。
そして俺の右肩に顔をうずめて何度も「ありがとう。ありがとう。」と言ってくれた。

しばらくして先生は顔を上げ俺の目を見つめた。目は真っ赤に泣き腫らしていた。
「先生、初めての担任で凄く不安だった。でも去年の夏プールで元気いっぱいの○○君が居たから、
こんな生徒が私のクラスには居るんだからきっと頑張れる!と思えたの。」
「でも○○君がカンニングした時、本当に辛かった。信頼していた生徒に”裏切られたんだ”って悲しくて悔しくて
先生なのに自分でどういう風に○○君に接したらいいのか解らなくなっちゃった・・・」

嗚呼、あの時先生も俺以上に苦しんでいたんだ・・・
それなのに俺は自分が被害者のように拗ねて先生の事を避けて、なんてバカ野郎なんだ・・・

「ずっと悩んでたの。どうやったら○○君が立ち直ってくれるんだろう?どんな言葉をかければいいんだろう?
3年生になっても○○君が居るクラスの担任になって、ずっと悩んでた。」
「でも修学旅行の下駄のお店でようやく希望が持てた。”○○君の本当の姿を思い出して接すればいいんだ”って。
陸上部で頑張ってた○○君。夏休みの水泳の練習に毎日欠かさず参加してた○○君。本当は素直な○○君。」
「体育祭のリレーの選手に指名した時だって”やります”って言ってくれたこと、本当に嬉しかった。
結果なんてどうでもよかった。先生だって陸上部の副顧問だもん、○○君の走りを見たら○○君がリレーの為に練習してたんだってことわかったんだよ?」
「でも○○君はまた凄く落ち込んじゃって、先生また不安になった。折角立ち直りかけてたのにまた○○君が自信なくしちゃう。
受験までもう時間は無いし、○○君の成績も不安を抱えたままだし、毎日”どうしよう、どうしよう”って不安だったの。
お陰で体重が随分と落ちたんだよ?」
「職員室で○○君が公立の合格を報告してくれた時、本当に嬉しかった。他の先生達が居るのも忘れちゃうくらい嬉しくて嬉しくて涙が止まらなかった。
頭の中が”良かった!良かった!”って一杯になって、○○君の袖、力いっぱい握りしめてたのも全然気が付かなかった(笑」

先生はこんなにも俺の事で悩んで心配をしてくれてたんだ・・・
国士舘が”恩師”って言ってたけど、こういうことなんだな・・・

「先生にとって○○君はずっと心配ばかりさせる生徒。
でも、○○君が居たからこそ今教師としてちょっぴり自信が持てたと思う。」

先生は俺を抱きしめていた手を解いて、少しハニカミながら言った。
「先生の事を”好き”だって想ってくれる○○君の気持ち、凄く嬉しい。
先生が今まで○○君の事で一杯悩んで辛かったのも、きっと心のどこかで○○君のその気持ちに気がついて意識してたからだと思う。」
「先生、○○君のその気持ちに答えること、出来ないけど、○○君ならこの先、高校生になって、その先も色々な経験を積んで、
今よりもっともっと魅力的な人間になって、先生なんかよりももっと素敵な人達との出会いが待ってると思うの。」
「○○君、ここで立ち止まらずに前を見て頑張ってほしい。先生、ずっと○○君の事応援してるから。」


先生が住んでいるマンションからの帰り道、俺の心の中はスッキリとして晴れ渡っていた。
結局先生にはフラれたんだけど。(当たり前だがw)


それから毎年先生から年賀状と暑中見舞いが届く。
毎回Vサインが描かれている。
そして俺が大学生の時に先生は結婚した。
式には呼ばれなかったが、式の時の写真付きのハガキが送られてきた。
写真の先生はとても綺麗で幸せそうだった。
結婚相手は、あの時先生の部屋にあった写真の人かどうかは解らない。

そして先月地元に帰省した時にたまたま同窓会があったので久しぶりに参加した。
先生も来ていた。
先生とお酒を飲みながら沢山話すことが出来た。
ほとんどが思い出話ばかりだったけど、とても楽しい時間だった。
その中で先生が言っていた。

「修学旅行の時に二人で写した写真、あれは先生にとってとてもとても大切なお守りなの。
教師を続けていて何度も辛いこと苦しいこと悲しいことがあったけど、その度にあの写真を見て頑張ろう!って思ったの。
○○君には悩まされてばかりだったけど、でも先生にとって一番思い出深い、そして先生としての自信の支えになった生徒かな。」
そう言った美香子先生は、俺が大好きだった優しい笑顔だった。






















元作品の作者である553 ◆kKJLWMS1vQ氏の許可無く、創作した続編を萌えコピに投稿することを、この場を借りましてお詫び致します。

出典:オリジナル
リンク:業者撲滅活動

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