バタコ「ジャムおじさんっ…!チクビ吸うのらめぇぇ!」
2010/11/28 12:44 登録: 痛(。・_・。)風
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 01:43:34.94 ID:MrAV8FNSO
足をバタバタさせながらあえぐバタコ
バタコ「新しい顔持ってかなきゃいけないのにっ…!はぁぁんっ!ごめんなさいアンパンマン…」
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 03:26:03.70 ID:gNqUDwEgP
ジャムおじ「ふふ・・・バタコは嫌がってもアソコはバターのようにトロトロだよ・・・?」
バタコ「いやぁ・・・やめてえ!アンパンマンがやられちゃう!」
ジャムおじ「バタコは黙って私の甘い密でも吸ってればいいんだよ。後で適当に顔作って持ってくから。ほら、ここが気持ちいいんだろ?」
バタコ「んっ・・・ごめんなさいアンパンマン・・・」
続き誰かよろ
-------------------------------------------------
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 03:47:20.22 ID:qVMXlbYRO
ジャム「ほらアンパンマン、みてごらん。君の大切なバタコは、本当はけつま●こにフランスパンを突っ込まれてあえぐような変態さんなのさ」
バタコ「いやぁぁあ!みないでっ!みないでっアンパンマンッ!!」
アンパン「クッ…!!」
ジャム「おおっと、私を殴るきかい?しかしねぇ、…ははは、そうだろう、君を作ったのは他でもない私だからね、その行動はプログラムに違反しているんだ。ははははははは」
バタコ「ご、ごめんなさいアンパン…うひぃぃいっ!イッチャウ!またいっちゃう!」
アンパン「……うわぁぁああああああッ!!!!」
ジャム「はははははははははっ!!!」
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 04:08:54.56 ID:qVMXlbYRO
一体いつからだろうか…
あんなに優しかったジャムおじさんが変わってしまったのは…
「イヤ……ヤメ……ヒッ……ギィ」
薄い壁を挟んだ隣室から、今も漏れ続けるバタコの悲鳴に耐えきれず、アンパンマンは強く、強く下唇を噛み締めた。
「タス…テ…アン…パ…ッ!!」
きっと、気のせいだ。
「…ハハハハ」
ジャムの笑い声が聞こえる。
「…タス…ヒイ!!」
終わらない悪夢にアンパンマンは頭を抱えてうずくまる。
「タスケテ…アンパンマンッ!!」
なにかが自分のなかで崩れる音がした。
「うわあぁあああああぁッ!!!」
大声で叫んで外に飛び出す。
「ハハハハハハハ……」
絶望に満たされた頭のなかでは、耳障りなジャムの哄笑がいつまでもひびいていた。
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 04:22:22.32 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「そうですか…ジャムおじさんはやはりもう…」
そう呟いて俯く唯一無二の親友。
その表情は、普段温厚な彼に全く似つかわしくない、負の感情で満ち満ちていた。
ショクパン「…これはもう…私たちがジャムおじさんをとめるしかありません…」
ややあってショクパンマンは、思い詰めたように切り出した。
アンパン「…しかし、私たちはジャムおじさんの『作品』だ。彼に逆らうなど…ハッ!!?まさか君はっ!!」
ショクパン「そうです…私たちが…彼を殺すのですっ!!」
アンパン「そ、そんなこと!!仮にも私たちの産みの親なんだぞ!!」
ショクパン「しかし今ほっておいては、さらに被害が増すばかりです!現にバタコさんは…ッ!!」
アンパン「!!…」
ショクパン「…申し訳ありません」
アンパン「いや、いいんだ…」
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 04:32:46.42 ID:qVMXlbYRO
アンパン「たしかに…」
下をうつむいて何事か考え込んでいたアンパンマンは、何事か決心したように顔をあげた。
アンパン「たしかに、君の言う通りかもしれない…」
ショクパン「…それでは」
アンパン「…ああ、闘おう…私たちの手で、ジャムおじさんを殺すんだ!!そしてバタコさんを…」
ショクパン「…よく決心してくれました。それでは早速、カレーパンマンにもこの事を話して協力してもらいましょう」
アンパン「…しかし、カレーは、彼のなかでジャムおじさんを絶対の存在としてしまっている…彼がジャムおじさんを裏切るなど…」
ショクパン「だからこそですよ、今のジャムおじさんは彼にとっても認めがたい、理想とはかけ離れた姿のはずだ。とにかく、はなしだけでもしてみましょう」
アンパン「…わかった…」
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 04:42:52.17 ID:qVMXlbYRO
カレーパン「…ジャムおじさんを…殺す…?」
ショクパン「そうです。これ以上の悲劇を食い止めるには、もうそれしかありません」
カレーパン「…しかし、ジャムおじさんは俺達の…」
ショクパン「…協力していただけませんか?」
ショクパンの後ろに隠れ、ひそかに拳を固める。
実際カレーパンマンは強い。万が一敵対するとなると負けるとは行かないまでも、相当な苦戦を強いられるだろう。
ならばいっそここで…
カレーパン「…わかった。俺も協力しよう」
ショクパン「本当ですか、カレーパンマン!!」
それを聞いてショクパンは心底嬉しそうな声をあげた。アンパンマンもほっとして、力を入れていた拳を緩める。
カレーパン「…俺も、このままじゃいけないと思っていたんだ。…ジャムおじさんは間違ってる!!」
ショクパン「カレーパンマン!」
カレーパン「ああ、俺たちでジャムおじさんをとめるんだ!行こう、パン工場へ!!」
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 04:57:03.67 ID:qVMXlbYRO
パン工場へ向かう道すがら、久しぶりに三人ならんで空を飛ぶ。しかし、もはや以前のように心は弾まない。
弾むわけがない。
カレーパン「…しかし、俺達パン戦士は、産みの親であるジャムおじさんには直接手を出せない。一体どうするんだ?」
重苦しい沈黙に耐えきれなくなったのか、カレーパンが至極もっともな疑問を口にした。
アンパン「…ああ、パン工場ごと潰すんだ」
カレーパン「パン工場ごと?」
ショクパン「そうです。作戦があります。まず、私がジャムおじさんの気を引きつけている間に、カレーパンマンが捕われているバタコさんを救出します。そして一人残ったジャムおじさんを工場ごとアンパンマンが…」
カレーパン「あんこみたいに押し潰すってか!ははは」
無神経な冗談に思わず殺意がわくのを禁じ得ない。
ショクパン「…」
カレーパン「…はは………すまん………あの犬はどうするんだ?」
ショクパン「チーズは見捨てます。犬一匹にかかずりあってる時間はありません」
カレーパン「…そう、か」
小さく呟いてカレーパンが俯く。再び重苦しい沈黙が三人の間を支配する。
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 05:04:40.47 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…つきましたね」
カレーパン「ああ…」
パン工場の裏手の木の影から様子をうかがうと、中からかすかにかすれた悲鳴のようなものが聞こえた気がした。
バタコさんはまだ拷問されているのだろうか…
先程の彼女の涙とよだれにまみれた顔を思いだし、知らず知らずのうちに拳を握りしめていた。
ショクパン「…どうやらジャムおじさん達はまだ中にいるようですね…行ってきます!カレーパンは間をはかって裏口から入ってください!」
そう小声でささやくと、ショクパンはパン工場の正面玄関へ向かっていった。
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 05:10:51.37 ID:qVMXlbYRO
カレーパン「…そろそろか?」
ショクパンマンが工場の中に入ってから数分が経過し、カレーパンがそわそわと中の様子を気にしながら呟く。
カレーパン「…よし、大丈夫そうだな。今のうちに俺は裏口からバタコさんを助けだす。無事終わったら、大声でお前を呼ぶから、あとは…わかるよな?」
アンパン「ああ…バタコさんを…頼む…」
カレーパン「へへっ…まかそとけって!行ってくるぜ!!」
そういって工場へ向かって颯爽と走り出したカレーパンマンの背中は、とても頼もしく見えた。
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 05:16:29.42 ID:qVMXlbYRO
アンパン「まだ…なのか…」
カレーパンが工場へ入ってからまだ実際には数分もたっていないのだが、アンパンマンにはその待機時間が無限に続くかのように感じられた。
アンパンマン「まだ…」
何度めかのセリフを呟いたとき…
「いまだっ!!アンパンマン!!」
聞こえた!確かに聞こえた!!
「…おぉ…ウオオオオおお!!!!」
一声吼えて、アンパンマンは身を隠していた茂みから飛び出し、パン工場へむかった。
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 05:24:46.16 ID:qVMXlbYRO
目指すはパン工場の徹底壊滅!
まず始めに工場のシンボルである長い煙突に向かったのは偶然だろうか、それとも…
アンパンマン「ううおおおおっ……アァァァァァン!!!」
アンパンマンは空中で、必殺の一撃を繰り出そうと身構えた。
腕をひき、全身の筋肉に力をみなぎらせ、拳を固く握りしめる。
アンパン「ァアアアアアアアアンパ……ッ!!?」
しかし、すべての思いをのせた必殺の拳は、彼の目に飛び込んできた信じがたい光景によってあっけなく一蹴された。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 05:28:50.70 ID:qVMXlbYRO
ジャム「…ははは見てごらん、アンパンマンのあの顔、あははははははは!!!」
彼の目に飛び込んできたのは、絶望、具体的にはパン工場の芝生にたち、にやにや笑うジャムおじさんとカレーパンマン、そして俯くショクパンマンだった。
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 05:34:06.06 ID:qVMXlbYRO
ジャム「やあアンパンマン!相変わらず間抜けな顔をしているね、ははは!」
視界が一瞬にして歪む。一体何が…いや、分かっている。しかし認めたくなかった。
アンパン「ショクパンマン…カレーパンマン…ッ!!」
ショクパン「すまない、ドキンちゃんを人質にとられて…クッ…」
カレーパン「あはは、サイッコーだなあいつ、マジウケるwwwwwww腹いてぇwwwwww」
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 05:52:43.28 ID:qVMXlbYRO
ジャム「あはははは、いやぁ本当に愉快だ。まさかこれほど知恵足らずだとは。さすがに脳みそがあんこなだけあるな、我が作品ながら少々情けなくもある。ははは」
アンパン「…いつから…一体いつから…」
うわ言のように繰り返しながら、自分の心のなかで、はっきりと先程までの何か力強いものがあっけなく音をたてて折れていくのを感じていた。
カレーパン「最初からだばーかwwwwショクパンも俺もはじめっからそのつもりさ、お前だけ必死の、とんだ茶番劇だったぜwwwwww」
ショクパン「うう…すまない、アンパンマン…私は…」
ショクパンマンがなにか呟いていたが、耳に入らなかった。昔からあまりなかのよくなかったカレーパンマンならまだしも、親友、たった一人の戦友、ショクパンマンにまでも裏切られた。
その事実が容赦なくアンパンマンの心に突き刺さる。
ジャム「あはははは、どうしたんだね、アンパンマン?さっさとその作業を続けたまえ。まぁ、もちろん私は痛くも痒くもないし、ぺしゃんこに潰されるのはあの使い古した精液便所と生意気な小娘だけだ。
もっとも小娘のほうはまだ遊び足りないから、若干もったいなくはあるがな。はははははは」
そう嘯くジャムおじさんの皮肉な笑い声が、アンパンマンの頭のなかで何度も何度もこだましていた。
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 06:02:57.10 ID:qVMXlbYRO
ジャム「あはははは…ふぅ、さて、どうやらアンパンマンはすっかりやる気をなくしてしまったようだね?
もっと私を楽しませる別の方法は考えていなかったのかね?」
カレーパンマン「これだけっすよwwwwwwあいつマジあほッすからwwwww」
ジャム「つまらんなぁ、ショクパンマンだって、小娘を人質にとるまではもう少しまともな抵抗を見せたものを…
まぁ仕方ないか、飽きたわ。おい、ショクパンマン、後始末をしてこい」
ショクパン「えっ…」
ジャム「聞いていただろう?ヤツはもういらん、お前が始末してくるんだ。なんだ、小娘をどうかしてほしいのか?」
ショクパン「クッ…!」
カレーパン「俺にやらしてくださいよwwww俺、昔ッからあいつ嫌いなんすよwwwww」
ジャム「ならん、聞こえなかったのかショクパンマン。私は気が短いんだ」
ショクパン「…わかりました」
観念したようにそう答えて、ショクパンマンはふわりと飛び上がった。
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 06:11:32.40 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…すまない、アンパン、マン…」
アンパン「…」
自分と同じ高さまで飛んできたショクパン、すでに彼は攻撃可能な位置にまで近づいている。
しかし、もうどうでもよかった。
アンパンマンはただ呆然と、その場に浮かび続けていた。
ショクパン「…すまないアンパンマン!!せめて一撃でっ!!」
ショクパンマンは既に利き腕を大きくひき、攻撃体制に入っている。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 06:19:12.86 ID:qVMXlbYRO
ショクパンマン「ショォォォォオクパァァァッ!?」
しかしその必殺の一撃は、突如足下から聞こえてきた爆音によって間一髪遮られた。
ショクパン「なっ!!なにがっ!?」
アンパン「…バタコさんっ!!!」
見下ろす足元には轟音をあげて崩れていくパン工場。
ショクパン「ああ…ドキンちゃんっ!!私のせいでっ!!」
瓦礫によって押し潰されたであろう、各々のかけがえのない大切な人たちを思い、彼らの心が再び絶望で満たされる。一体あとなんかい地獄を味わえばよいのか。
その時だった。
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 06:26:19.87 ID:qVMXlbYRO
「…この時を待っていたぜ…ったく、手間ぁとらせやがって…」
もうもうと立ち上る煙の中にひとつのシルエットが浮かび上がって行く。
カレーパン「…その声は!まさかっ!!?」
ジャム「……」
煙の中の影はゆっくりと、しかし確実にある特徴的なラインを描いて行き
バイキン「はぁあっはっはっはっハァヒフヘホォォオオッ!俺様登場ッ!!!!」
なんとそれはUFOに乗り込んだバイキンマンだった。
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 06:50:42.21 ID:qVMXlbYRO
ジャム「…一体何のようだねバイキンマン君…」
バイキン「何のようだも糞もねーだろ、この変態じじいっ!!ドキンちゃんは返してもらったぜっ!!」
カレーパン「てめぇ、いつの間に!!」
ジャムおじさんの額にはうっすらと汗が浮かび、まるで先程までの余裕が嘘だったかのように目に見えて慌てていた。
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 06:55:33.35 ID:qVMXlbYRO
バイキン「つーわけでドキンちゃんは返してもらったからなぁ!!」
そう言って彼は優しさに満ちた眼差しで後ろの座席を振りかえる。
その視線の先には気を失ってぐったりと窓にもたれ掛かっているドキンちゃん、そして…
アンパン「バッ、バタコさんッ!!」
アンパンマンのかけがえのないただひとりの想い人、バタコさんが確かに存在していた。
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 07:09:53.76 ID:qVMXlbYRO
バイキン「ったく、どうせあまちゃんのてめぇらのこった、人質とられていいように遊ばれてたんだろう?
ドキンちゃんと一緒に倒れていたその女を見て、俺はピンっときたね」
アンパン「バッ、バイキンマン…」
バイキン「それによぉ…へへっ、…おまえらみたいなのでも、さすがにみごろしはよぉ…目覚めがわるいっつーか…へへへ…」
ショクパン「…感謝しますよバイキンマン…」
アンパン「…ああ、本当に助かったっ!!」
バイキン「けっ、男に感謝されたって何も嬉しくないね…それより、よぉ」
そう言って彼は、心底軽蔑したような目付きで下を見下ろす。
ショクパン「…ええ、そうですね」
アンパン「ああ、そうだな!!」
そう言って空中で身構えるふたり
そして本来敵であるはずのバイキンマン
しかし、三人は各々違う言葉を全く同じタイミングでいいはなった。
バイキン「てめぇらを…」ショクパン「あなたたちを…」アンパン「お前たちを!!」
「ぶっつぶすッ!!!」
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 07:17:09.71 ID:qVMXlbYRO
ジャム「ちっ…ごみどもが調子づきおって…おい、カレー!!分かってるな!」
カレーパン「へいへいwまぁ大丈夫っすよwwなんのために、あれやったと思ってるんすかwww」
ジャム「…油断はするなよ、行ってこい」
カレーパン「へーいwwww」
ヤル気なさげにそういうと、彼もまた、戦いの空へと飛び上がっていった。
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 07:30:10.89 ID:qVMXlbYRO
カレーパン「さーて…かかってきな、ゴミ共wwww」
三人と対峙してなお、落ち着き払った声がカレーパンマンが言った。
その余裕はただの強がりが、はたまた…
ショクパン「気をつけて下さい、二人とも。カレーパンマンは最近、ジャムおじさんに再改造を受けたのです!!」
バイキン「さ、さいかいぞぉ?」
ショクパン「そうです!機動力をあげる反重力低減装置の強化、そして攻撃力をあげる両手足の内部ブースターの強化!!今の彼は私たちの知っている昔のカレーパンマンではありません!」
アンパン「…バイキンマン、君はドキンちゃんとバタコさんを守りながらの戦いを強いられる。なるべく防御に徹し、隙を見ての援護攻撃を頼む」
バイキン「ちっ、おれぁお荷物かよ…」
言いつつも、バイキンマンは素直に機体を後ろに下げる。
カレーパン「何をごちゃごちゃと………うるせぇやつらだなぁあああっ!!!
三人の会話にしびれを切らしたカレーパンの突撃、それが戦いの合図だった。
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 07:41:53.28 ID:qVMXlbYRO
カレーパン「おらぁあぁああっ!!!」
空を切るカレーパンの猛烈な一撃、三人は間一髪それをかわすと、すぐさま反転したショクパンマンがカレーパンの後ろからけりつける。
ショクパン「ショオオオクキィィィィクッ!!!」
カレーパン「そんな大振り…あたるかぁぁぁ!!!」
余裕でかわすカレーパンマン。ショクパンを追撃しようと身構えるが、それより先にアンパンマンが突っ込んでくる。
アンパン「アアアアんぱあああんチッ!!!」
カレーパン「チィィイッ!!」
しかし、間一髪それを交わしたカレーパンマン。そのままとびぬけていくアンパンマンの背中めがけて、得意のカレーを吹きかけるが
バイキン「さっせっるっかぁぁあ!!」
口から吐き出した一撃必殺のカレー弾は、あっけなくバイキンUFOの高圧ウォーターカッターに弾かれる。
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 07:51:12.57 ID:qVMXlbYRO
アンパン「助かったよ!バイキンマンッ!!」
バイキン「集中しろッ!!来るぞッ!!」
いい終えるか否かの瞬間、
ショクパン目指してカレーパンマンがつっこむ。
カレーパン「カレェェエエッ!!キィィイックッ!!」
ショクパン「グウウウッ…!!」
辛うじて右腕で防御するショクパンマン、しかし、そのまま追撃の一撃を加えようとカレーパンマンが身構える!!
アンパン「アアアアアンンパアアアンチッ!!」
カレーパン「がぁっ!!?」
避けきれず、カレーパンマンの脇腹にアンパンチが突き刺さる!!
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 08:01:21.53 ID:qVMXlbYRO
カレーパン「…調子に乗るなよ…調子に乗るなよ糞共がッ!!!」
一旦空中に制止したカレーパンマンが吠えた。
カレーパンマン「イライラすんだよカスがッ!!!その目で俺を見るなッ!!!俺をあわれむんじゃねぇッ!!俺はお前なんかより強いんだッッ!!」
アンパン「……」
アンパンマンはただ無表情に、喚くカレーパンマンを見つめている。
カレーパン「いつもそうだ!!いつもテメェらは俺を見下しやがってッ!!俺の方がッ!!お前なんかよりッ!」
ショクパン「…」
カレーパンマン「俺は誰よりも強いのにッ!!おまえらなんかより強いのにッ……気に入らねぇ……気に入らねぇぞ…」
バイキンマン「…」
カレーパン「だから…むかつくから…おまえらの大切なもの…」
カレーパン「ぶっ壊してやるんだッッ!!!!」
アンパン「!!!」
ショクパン「しまっ!!」
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 08:14:24.62 ID:qVMXlbYRO
カレーパン「しぃいいねぇぇえぇえぇえッ!!!」
そう叫ぶと、彼はバイキンUFOめがけて最大速力で突っ込んでいった。
かつては、アンパン、ショクパンとならんで、平和を守るパン戦士と歌われたその振りかざされた右腕は、なぜかとても悲しそうに見えた。
アンパン「あぶないっバイキンマン!!」
しかし、そう叫んだアンパンマンより早く、バイキンマンは行動を起こしていた。
バイキン「そうくると思ったぜっ!!!離れろ二人ともッ!!」
言うが早いか何事かすばやくコンソールに打ち込む。
バイキン「くらいやがれっ!!対パン戦士用最終兵器ッ!!ウォーターキューブッ!!!」
アンパン「ッ!!」
ショクパン「なにっ!!」
カレーパンマンの渾身の一撃がバイキンUFOに到達する寸前、UFOを中心とする全ての方角に高圧の水が発射された。
89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 10:06:01.65 ID:qVMXlbYRO
カレーパン「あああああああああっ!??!」
バイキンUFOから射出された高圧の水流を顔面に受けたカレーパンマンが、たまらず悲鳴をあげる。
バイキン「いまだっ!!二人ともッ!!」
間髪を入れないバイキンマンの叫び声を合図に、パン戦士二人が必殺の攻撃体勢に入る。
ショクパン「クッ…すいませんカレーパンマンッ!!」
アンパンマン「…いくぞっ!!」
ショクパン&アンパン「ダァァアブルルルッ!!!」
カレーパン「ああ嗚呼アあアアアアアあ亜ッッッ!!!!」
ショクパン&アンパン「パアアアアアアアアンチッ!!!!」
カレーパン「ガアああアアアアッ!!」
二人のフルパワーをのせた一撃をまともに受けたカレーパンマンは、受け身もとれずに轟音をあげ、地面に叩きつけられた。
90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 10:16:10.96 ID:qVMXlbYRO
アンパン「…」
ショクパン「…」
かつての戦友を叩きのめした二人は、倒れているカレーパンマンのそばに無言でおりたった。
カレーパン「…ざまぁ…ねぇなぁ…」
ショクパン「…」
立ち上がる力も最早ないのだろう。カレーパンマンが倒れたまま、ゆっくりと口を開く。
カレーパン「…俺は…二人みたいに…強くなりたかったんだ…」
アンパン「…」
無言でたたずみながら、倒れ伏したかつての友達にかけられる言葉を必死に探す。
カレーパン「俺は…誰より強く…グゥッ!!」
ショクパン「もういいっ!喋るなカレーパンマンっ!!」
ショクパンマンが悲しみに顔を歪ませ、悲痛な声で叫んだ。
カレーパン「ジャムおじさんが…おかしくなってしまったのは…薄々気付いて…いたんだ…」
ショクパンマンの静止も聞かず、体から絞り出すような声でカレーパンマンが続ける。
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 10:26:08.01 ID:qVMXlbYRO
カレーパン「…再改造の話も…はじめは…断った…アンパンマンには…内緒だって…変な…話だなぁって……」
ショクパン「もういい!もういいんだカレーパンマンっ!!全部分かっている!!」
いつも冷静なショクパンマンが、驚くほど感情を露にしてカレーパンマンをなだめるが、構わず彼は続ける。
カレーパン「…でも、ジャムおじさんが…パン戦士の中では…お前が一番弱いって……いつも、二人の、足を引っ張ってばかりの、お荷物だって…だから…おれ…おれ゛は…」
涙声になりながら話続けるカレーパンマンに、それまで黙っていたアンパンマンが、思い口を開いた。
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 10:39:39.19 ID:qVMXlbYRO
アンパンマン「カレーパンマンは…強いよ」
カレーパン「……俺が…強い?」
思いもよらなかったライバルの言葉に、カレーパンマンが驚いたような声をあげる。
アンパンマン「そうだ…カレーパンマンは強い。一緒に戦ってきた僕たちだから分かる…」
ショクパン「…そうですよ…あなたは強い。誇り高きパン戦士です!!」
ショクパンマンも言葉を続ける。
ショクパン「今までだって…三人一緒に戦ってきたじゃないですか!どんなに強い敵でも、三人だったら闘えた!三人だから闘えたんだ!あなたはお荷物なんかじゃない!!
誇り高きパン戦士だ!!」
そう言う彼の目は、体の構成成分とは無縁であるはずの水分で溢れ、今にも泣き出しそうに見えた。
カレーパン「…そう、かぁ…あり、がとう…ご…ごめんな…ふたりと、も…」
すでに虫の息のカレーパンマンが、ぐしゃくしゃの顔でささやくように言う。
カレーパンマン「…へへっ…おれ、も…なかま、かぁ…へへへ…………あぁ…かおが、よご、れて……ち、から、が………」
そう言うと、彼は事切れた。
97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 10:46:24.51 ID:qVMXlbYRO
バイキン「……畜生、ジャムの野郎…」
UFOからおり、黙って三人のやり取りを見守っていたバイキンマンがうめくように呟いた。
バタコ「…ジャムおじさんなら、地下の秘密工場に逃げたはずよ…」
アンパンマン「!!気付いたんですか、バタコさん!!」
振り返ったアンパンマンの目に映ったのは、最愛の人のやつれた姿だった。
バタコ「…ごめんなさい、アンパンマン…あなたには…あなただけには、あんな姿、見せたくなかったのに…」
消え入りそうな小さな声でバタコが呟く。
98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 10:54:19.12 ID:qVMXlbYRO
アンパン「…謝るのは僕の方だ。あなたを、守れなかった。自分が恨めしい…」
バタコ「アンパン、マン…」
無言で俯いて下唇を噛み締めていたアンパンマン、しかし彼は意を決したように顔をあげ、言葉を続けた。
アンパン「守れなかった…でも、でも!!もう、傷つけない!!もう泣かさない!!あなたは僕が、必ず守るっ!!」
バタコ「私は、汚されてしまった…それでも…それでもまだ私を想ってくれるの?」
アンパン「当然だッ!!バタコさんは…バタコさんは…汚れなんか関係ないッ!!バタコさんは世界で一人の僕の最愛のパン職人だッ!!」
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 11:00:31.03 ID:qVMXlbYRO
それを聞いてバタコは、俯いく。その顔をつたい、地面に一滴、また一滴と水滴が落ちていく。
バイキン「あ゛〜あ〜やだねぇ、リア充って」
ドキン「早速泣かしたわね、最近のアンパンって嘘もつけるのね」
バイキンマンの後ろからひょっこり顔を出したドキンが真顔でそんなことを言う。
ショクパン「ドキンちゃん!!無事だったのかっ!!」
それをみやり、ショクパンマンが嬉しそうに、そして心配しながらそう言った。
101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 11:05:04.76 ID:qVMXlbYRO
ドキン「ショクパンマンさまぁっ!!きっと助けてくれるって信じてました!!私の王子さまっ!!」
歓声をあげながら、ショクパンマンの胸に飛び込んで行くドキンちゃん。それをやや複雑そうに見ながらバイキンマンが続ける。
バイキン「このままハッピーエンドと行きたいとこだがよぅ…まぁだ、残ってるんだよな、諸悪の根元ってやつが」
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 11:12:51.14 ID:qVMXlbYRO
それを聞き、バタコもハッと顔をあげる。
バタコ「秘密工場には、チーズの犬小屋から入れるわ。ジャムおじさんはきっとその中よ」
そういって、壊滅したパン工場の傍らのみすぼらしい犬小屋を指差した。
バタコ「…でも、中で何が待ち受けているのか、私でも分からないわ…きっと危険なのは間違いない、それでも…それでもやっぱり、行くの…ね…」
そう言って、再び俯く。言葉の最後はかすれてしまい、声にならなかった。
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 11:29:20.74 ID:qVMXlbYRO
アンパン「…心配しないで下さい。…必ず、必ず無事に帰ってきます」
バタコ「アンパンマン…」
顔をあげたバタコが、大切な想い人を見つめ、涙声でその名を呼ぶ。
ドキン「だいじょうぶよ、何て言ったってショクパンマン様がついてるんだもの!きっとジャムの爺なんか、指先でちょちょいって撫でて帰ってくるわ!!
それに、バイキンマンだってついてるしね!オマケだけど」
ドキンちゃんが、決して素直ではないが彼女なりの言葉で、不安に押し潰されてしまいそうなバタコを慰めようとする。が、
バイキン「…いや、おれは行かねぇよ」
105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 11:32:54.38 ID:qVMXlbYRO
ドキン「!?なにいってるの!!ここで闘わないなんて、あんた正気!?」
口ではとやかく言いながらも、ドキンちゃんはバイキンマンを絶対的に信頼している。
その信頼を裏切られたように感じて、思わず声をあらげ、バイキンマンに詰め寄る。
106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 11:41:32.62 ID:qVMXlbYRO
バイキン「二度言わせるなよ、俺はいかねぇ…元々パンやどもの始めたいざこざだ。ドキンちゃんさえ無事なら、もう俺様には関係ないことさ」
ドキン「このっ!!意気地無しッ!!卑怯ものッ!!」
更に声をあらげ、今にもバイキンマンに殴りかかりそうになるドキンちゃん。しかし、それを制してアンパンマンが言う。
アンパン「いや、いいんだドキンちゃん。彼の言う通りだ。今回のことは既に直接彼には関係ない。今まで助けてくれたのだって、充分過ぎるほどだ」
ドキン「でもっ!!!」
憤慨したドキンが更にいいつのろうとするが
ショクパン「…ええ、もう充分助けてもらいました。彼がいなかったらきっと二人とも殺されていた。これ以上迷惑をかけることなんて出来ない。今までありがとう、バイキンマン」
バイキン「けっ…てめぇらに感謝されたってちっとも嬉しくねーやね」
バイキンマンはそう嘯いて、そっぽを向く。
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 11:47:11.54 ID:qVMXlbYRO
バイキン「つーわけだから、まぁあとは勝手に頑張れや!おい、帰るぞドキンちゃん!!」
言い捨てるとさっさとUFOに向かって歩き去って行く。その背中を見ながら
ドキン「…サイッテー…」
小さくドキンちゃんが呟いた。
ショクパン「いいんですよ、本当に彼には感謝している。あなたも行ってください…そして、必ず、また会いましょう」
ドキン「…ショクパンマン様…」
その言葉に、ドキンちゃんが売るんだ瞳でショクパンマンを見つめ返した。
111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 12:08:35.31 ID:qVMXlbYRO
アンパン「バイキンマンッ!!」
あるき去っていくバイキンマンを追って、アンパンマンが駆け寄っていく。
バイキン「…あ?」
いぶかしげに振り返ったバイキンマンに、アンパンマンは小声でささやきかける。
アンパン「…もし、万が一僕達がジャムおじさんに負けるようなことがあれば…」
バイキン「…ああ」
アンパン「その時は、バタコさんを、頼む…」
絞り出すようなこえをだすアンパンマンに向かって、バイキンマンは苦い顔をして答えた。
バイキン「はじめっから負けると思って戦う馬鹿はいねぇよ、下らねぇ保険なんざくそッ食らえってんだ」
アンパンマン「分かっている…だか、たのむっ!!彼女だけはっ!!」
そう言われて迷惑そうに渋面を作っていた、バイキマンだが、一度ぐるりと辺りを見回すと、こう切り出した。
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 12:22:09.71 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…ったく、今日は厄日だな…」
アンパン「…すまない…すまない…」
独り言のように感謝の言葉を繰り返すアンパンマンに向かって、しかし彼はこういいはなった。
バイキン「勘違いすんなよ。取引してやるだけだ」
アンパン「…とりひき?」
バイキン「とりひきだ。バタコは面倒見てやるよ。その代わり、あれだ。アンパンマン号を俺様によこせ」
そう言って彼が指差した先にはパン工場の特別装甲車両、アンパンマン号があった。簡潔に言えば移動式のパン工場で、本部がなくなった今アンパンマン号を失っては、新しいパンを焼くどころかパン戦士たちのメンテナンスさえろくに出来ない。
アンパン「…あんなもの、いくらだってくれてやる…」
しかし一瞬の瞬迷さえ見せず、アンパンマンは即答した。
バイキン「…けっ、これだからパン戦士ってやつぁ」
忌々しげに呟くと、後ろを振り返り大声をあげた。
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 12:31:25.85 ID:qVMXlbYRO
バイキン「おい、バタコさん!!戦いが終わるまで、ドキンちゃんと一緒に避難してろ!!アンパンマン号に乗り込んで俺様のあとについてこい!!」
急に名前を呼ばれたバタコは、あわてて二人に駆け寄ってくる。
バタコ「ダメよ!アンパンマン、私はここに残るわ!なんの助けにもならないかもしれない…でも!!」
その言葉を遮ってアンパンマンがつづける。
アンパン「助けにならないなんて言わないで下さい…あなたが無事でいてくれるだけで、僕の心は百人力だ。
それに、バタコさんにはアンパンマン号の保守を頼みたいんです。工場が壊滅してしまった今、僕達の帰る場所はあのアンパンマン号だけだ」
そういって、太陽に鈍く反射するアンパンマン号を指差した。
黙って聞いていたバタコだったが、しばらく思案したあと、一度小さくうなずくと、うるんだ瞳でアンパンマンをみつめ
バタコ「…必ず、必ず無事で帰ってきて…」
そう告げると足早にアンパンマン号に向かっていった。
134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 13:48:31.57 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…けっ、よく喋るアンパンだこと」
なんだかよく分からないセリフをぼやくと、更にバイキンマンは続けた。
バイキン「それからよぅ、カレーパンマンの遺体は引き取るぞ」
アンパン「…え?」
予想外の言葉に思わずアンパンマンが聞き返す。
バイキン「勘違いすんなよ。単純にこのまま野ざらしって訳にゃ行かねーだろ。埋葬ぐらいはしてやるってことだ」
アンパン「…そうか、色々とすまない」
改めてアンパンマンが長年の宿敵に丁寧に礼をのべる。
135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 13:59:25.45 ID:qVMXlbYRO
バイキン「いやだいやだ、しりの座りが悪いったりゃありゃしねぇわ。さっさとジャムの糞爺ぶちのめしてこい、このカビパン野郎がっ!!」
それを聞き、アンパンマンは一度大きく頷いていった。
アンパン「任せてくれ!ジャムおじさんは必ず倒す!!」
バイキン「ちっ、…俺様だって喧嘩相手がいなくなるのは…さっさといきやがれってんだ!」
アンパン「ああ、バタコさんを頼むぞ!!」
そう告げると、既に犬小屋の前に待機しているショクパンマンの方に飛んでいった。
バイキン「ちっ、…俺様の宿敵が、ジャム爺みたいなつまんねーやろうに負けるんじゃねーぞ…」
それを見送り、誰にも聞こえないよう小さく呟くと、彼もUFOに向かって歩いていった。
136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 14:06:37.48 ID:qVMXlbYRO
アンパン「待たせてすまない」
一言そう告げると、アンパンマンはふわりとショクパンマンのそばに降り立った。
ショクパン「いえ…先程調べてみたのですが、どうやらこの犬小屋の床板が外れる仕組みのようですね…中は空洞のようです」
そういってショクパンマンは、まるで値踏みするように足元の床板を二、三度爪先で蹴る。
くぐもった甲高い音が、犬小屋の中に響き渡った。
アンパン「そうか…よし、ちょっと下がってくれ」
ショクパン「…わかりました」
アンパンマンの言葉に従い、ショクパンマンが一歩後ろに下がる。
139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 14:16:22.15 ID:qVMXlbYRO
アンパン「あぁああんパあああンチッッ!!」
アンパンマンは一声そう叫ぶと床板にむけて思い切り拳をふるった。
鈍い音と共に、打撃点を中心に床板がくだけちる。
下から姿を表したのは、長い長い下に続く階段だった。
ショクパン「…このしたに、ジャムおじさんが…」
ショクパンマンが闇にのまれて先が見えなくなっている下り階段を見つめながら呟く。
ショクパン「万が一の可能性もあります。慎重に進みましょう」
そのショクパンマンのセリフに、思い出したようにアンパンマンがにやっと口角をつり上げ答える。
アンパン「はじめから敗けを考えて戦う馬鹿はいない、だってさ」
ショクパン「え…?」
普段の彼らしくない、不遜ともとれるような大胆な発言に、思わずショクパンマンが聞き返す。
アンパン「バイキンマンが言っていたよ。下らない保険は要らない。勝つか負けるかだって」
ショクパン「…ははは、それはまた彼らしい発言ですね」
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 14:24:44.95 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…進みましょう」
気を引きめ直し、ショクパンマンが地下に向かって一歩足を踏み出した。
アンパンマンもそれに続いて、暗闇に向かって足を踏み出す。
そのまま十段ほど降りた時だろうか、丁度外からの光が届かなくなりそうな暗闇に、突如光が指す。壁に添えつけてあった電球が、一斉に点灯した。
144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 14:32:51.89 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「こ、これは!!」
突然の出来事に、二人が慌てて身構える。
そんな姿を嘲笑うかのように、狭い地下通路に不敵な笑い声が響いた。
ジャム「はははははははは、どうやらカレーパンマンを退けたようだな。当然か、あいつは君たちパン戦士の中でも一番弱かった。私の再改造をもってしても、もとがごみでは豚に真珠だな
ははははははははは!!」
ショクパン「ふ、ふざけるな!!彼は立派な戦士だった!!
お前なんかが軽々しくその名を口にするなっ!!」
ショクパンが、あまりの怒りに体を震わせながら叫び返す。
148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 14:42:28.24 ID:qVMXlbYRO
アンパン「落ち着くんだショクパンマン、これしきのことで動揺してはいけない」
アンパンマンがそっと、ショクパンマンの方に手を置きながら続けた。
アンパン「ジャムおじさん、いや、ジャム!!私たちはあなたを倒しにきた!!あなたがこれまでもたらしてきた悲しみと混乱、その悪の根を、今こそ断ち切るッ!!」
胸を張って叫び返したアンパンマンに、ジャムおじさんの不気味な笑い声が響いて答える。
ジャム「ははははははははは、君たちを作ってやった恩も忘れて、なんと恥知らずなパン共だろう。
いいだろう、私は奥でゆっくり君たちの到着を待つとしよう。
ああ、階段の明かりは気にしないでくれたまえ。
君たちが暗闇で転んで怪我でもしないか、という些細な親心だよ
あはははははははははははははははははは」
150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 14:50:49.70 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「くそっ!!バカにしてッ!!」
怒り心頭のショクパンマンが先の見えない階段に向かってそう毒づく。
アンパン「気にすることはない。先に進もう。しかし…」
ショクパンマン「…どうかしましたか、アンパンマン?」
不審そうにまゆを潜めたアンパンマンに、不安げにショクパンマンが問いかける。
アンパン「いや、きのせいだな。先を急ごう」
そのつぶやきを合図に、二人はまた、まるで地獄にでも向かっているような長々とつづいていく階段を下り始めた。
152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 14:57:52.12 ID:qVMXlbYRO
バイキン「やはり…そう……か…わかった、ご苦労…任務を続行しろ…くれぐれも気を付けて…な……」
一方その頃、アンパンマン号を眼下にバイキン城をめざして飛んでいたUFOのコックピットでは、備え付けの無線通信機に向かってバイキンマンが何事かささやいていた。
ドキン「…さっきから、こそこそ何してるのよ、バイキンマン」
後部座席に座っているドキンちゃんが、少し棘のある口調でバイキンマンに尋ねる。
どうやら、まだ自分達だけ安全な場所に逃げ延びてきたことが不満らしい。
154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 15:04:32.06 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…パン戦士達に張り付けていたカビルンルンからの報告だ。どうやらジャム爺の秘密工場は相当な規模らしい…」
斜め上を行く彼の答えに、ドキンちゃんが驚いてすっとんきょうな声を出す。
ドキン「え?カビルンルン?私達はこの件からは手を引くんじゃないの!?」
そう言われて、バイキンマンがまゆを潜めて微妙な表情をする。
ドキン「…そう言えば、さっきから随分時間がたつのに、あんまりパン工場から離れてないわねぇ…まさか、バイキンマン!!」
驚きの声をあげるドキンちゃんに、バイキンマンが決まり悪そうに言葉を返す。
155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 15:10:57.92 ID:qVMXlbYRO
バイキン「勘違いするなよ。ジャムの野郎には、俺だってつもり積もった長年の恨みってやつがあんだ。決してあのカビパンたちを助けてやろうとかそんなことは…」
尻すぼみになるバイキンマンの言葉を聞き、ドキンちゃんが一転はしゃいだ声を出す。
ドキン「なぁによぉ〜、なぁんだっ!結局、あの二人が心配なんじゃない!なぁに?悪のプライドってやつ?くぅだらないっ〜!!」
口ではそう言いながらも、ドキンちゃんの口調には、隠しても、いや、隠そうともしていないが、嬉しそうな調子で溢れていた。
157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 15:14:37.14 ID:qVMXlbYRO
バイキンマン「ちっ、これだから子供は…おい、バイキン城本部、誰かいるか?バイキンマン様だ!!」
決まり悪さをごまかすように、無線通信機に向かってバイキンマンが偉そうに怒鳴る。
『〜〜〜〜〜〜』
それに答えた城付きのカビルンルンが、同族とバイキンマンにしかわからない言葉で答える。
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 15:24:31.67 ID:qVMXlbYRO
バイキンマン「よし、整備済みの大足ロボットは何機ある?…わかった、完全装備で大至急こちらに向かえ」
無線通信機の周波数をアンパンマン号にあわせながら、何事か考え込んでいるバイキンマンに向かって、ドキンちゃんが尋ねる。
ドキン「ねぇ、整備済みの大足ロボット全部って、そんなに必要なの?たかだかエロジジイ一人相手に…」
ものものしい様子のバイキンマンに、さすがに不安を覚えたのか、声に先程までの受かれた口調はない。
バイキン「…敵の戦力がわからないからな…こちらのタマカズは多いに越したことはない…おっ、繋がったか?」
そうつぶやくように答えて、バイキンマンは手を止め、無線通信機に向かって呼び掛ける。
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 15:29:20.78 ID:qVMXlbYRO
バイキン「こちらバイキンUFO、聞こえているか?」
バタコ『こちらアンパンマン号、聞こえるわ』
バイキン『よし、バタコさん、一旦停止してくれ。俺様たちは一旦ここに陣をはる』
バタコ『陣…?』
いぶかしげに応答するバタコだったが、それでもバイキンマンに従い、アンパンマン号を停止させた。
それに会わせ、バイキンUFOもアンパンマン号のとなりに着地した。
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 15:34:49.46 ID:qVMXlbYRO
バタコ「…一体、どういうこと?」
キャノピーをひらいて、地面におりたったバイキンマンに、バタコが怪訝な表情で尋ねかける。
ドキン「やっぱりアンパンマン達の力になりたいんだって!
バイキン城に待機してる大足ロボットもいっぱい呼んだんだよ!凄いでしょ〜
こんな顔してても、根はそんなに悪くないのよ!」
決まり悪そうに突っ立っているバイキンマンの代わりに、ドキンちゃんが胸を張って誇らしげに答えた。
166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 15:40:48.13 ID:qVMXlbYRO
バイキン「そんなんじゃねーつの、馬鹿が!その、なんつったってこの世界の覇者は俺様だからな!!ジャムの爺ごときにすきかってされちゃ、困るんだよっ!!」
心底憤慨したように、バイキンマンが身ぶり手振りを交えて大袈裟に反論する。
そんなバイキンマンを見つめていったバタコは、目に涙を浮かべながらいきなりバイキンマンの手を握り
バタコ「バイキンマンッ…あなたってひとは!!」
慌ててバイキンマンがバタコの手を振り払う。
バイキン「きききき、きやすく俺様に触れるんじゃねぇッ!!!」
そんな様子を見て、ドキンちゃんは楽しそうにクスクス笑っている。
198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 17:41:42.61 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…そうだ。カレーパンマンの遺体を見せろ、
2,3気になることが有るんだ」
ふと真顔になったバイキンマンが、真剣な面持ちでバタコに告げる。
バタコ「カレーパンマンの…遺体?…でも彼は既に十分すぎるほど闘ったわ。
死んでしまった今となっては、もうゆっくり…」
バイキン「いいから早く!」
バイキンマンが少し声を荒げ、バタコに詰め寄る。
ドキン「…心配しないで、バタコさん。
バイキンマンはこんな人だけど、死んでしまった人の尊厳を傷つけるような最低のことはしないわ。
きっとなにか考えがあると思うの」
その場をとりなすようにドキンちゃんが言う。
バタコ「…分かったわ。着いて来て」
199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 17:48:08.45 ID:qVMXlbYRO
そう言ってバタコは、アンパンマン号の後ろに回り、後部ハッチを大きく押し上げた。
バタコ「…カレーパンマンよ」
ぼろぼろになって台の上に横たわるパン戦士を見つめ、バタコが悲しそうに呟く。
バイキン「ああ、ふむ…悪いけどしばらく一人にしてくれ。
ゆっくり考えたいことがある」
バタコ「…」
不安そうに一度カレーパンマンの亡骸とバイキンマンとを振り返り、
それでも素直にバタコさんはアンパンマン号外にでた。
ドキン「大丈夫、心配しないで。詳しくは分からないけど、きっと何かバイキンマンなりの考えが有るのよ」
ドキンちゃんが慰めるようにバタコさんの肩にやさしく手を置いた。
201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 17:58:04.52 ID:qVMXlbYRO
時を少し戻そう。
アンパンマンがジャムおじさんの卑劣な罠に落ちる前、
まさにショクパンマンが予定どうり工場の扉に手をかけようとした、そのときのことだ。
ショクパンマンがふと、視界のはずれのみすぼらしい犬小屋に目をやった。
床には、ろくにえさも貰っていないであろう、その犬小屋にふさわしいみすぼらしい犬が、息も絶え絶え、
といった感じで横たわっていた。
それに気づいたショクパンマンがいそいで駆け寄る。
ショクパン「ああ、チーズ!!なんてことを…」
自分が近づいても起き上がる気力もないのか、チーズは同じ姿勢で横たわったままピクリとも動かない。
ショクパン「…そうだ、これをお食べ」
そう言ってショクパンマンは、自分の顔をほんのちょっぴり切り取って、チーズの前に差し出した。
ショクパン「…そうだ、食べるんだよチーズ。私の顔は栄養満点だからね…これで起き上がれるだろう」
事実、ほんのちょっぴり、ほんのちょっぴりのそのショクパンを弱弱しくかみ締めていたチーズが
ゆっくり、ゆっくり体を起こしていく。
204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 18:06:12.58 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…すまない、私にはこれが精一杯なんだ…」
消え入りそうな声で、自分の情けなさをかみ締めていた。
いのちより大切な人を人質に取られた弱み、
あまり顔を削りすぎて不審に思われてもいけないと言う、ギリギリの、精一杯のショクパンマンの抵抗だった。
ショクパン「…さあ、縄を解いておいた。これで自由に逃げられる」
チーズは犬ながらに何かを理解したのだろう。
ショクパンマンのほうを何度も見やり、しかし決して声を上げず、ついに森の中へ消えていった。
ショクパン「(…強く生きるんだ、チーズ…そして、さようならだ…)」
しばらくチーズの消えていった方角を見つめ、そして意を決して立ち上がったショクパンマンの目に宿る闘志
ショクパン「(私は死んでもいい…だが、必ず…必ず隙を見て、ドキンちゃんだけは逃がさなければ!!!)」
そう心の中で堅く決心し、パン工場の玄関へ向かっていった。
206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 18:15:04.66 ID:qVMXlbYRO
場面は変わり、秘密工場へむかう地下通路の二人。
階段をおり始めて、いったいどれくらいの時間がたったのだろう。
お互い無言のまま、しかしその胸には並々ならぬ闘志を燃やして二人はすすみ続けた。
そして、ついにショクパンマンの足が止まる。
ショクパン「…どうやら、たどりついたようですね」
そういって指差した先には、大きな赤い両開きの扉。
アンパン「ああ…この先に、ジャムが…」
いいさしてアンパンマンがふと、うしろを振り返る。
アンパン「…もういいんだ。隠れてないで、出ておいで」
そう、優しげに声をかけた。
ショクパン「?誰かいるのですか…?」
不思議そうに尋ねるショクパンマン、アンパンマンは黙ってジーっと後ろを見ている。
すると
カビルンルン「〜〜〜〜〜」
一匹のカビルンルンが恥ずかしそうに菌糸を揺らしながら階段を下りてきた。
208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 18:22:43.98 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…これは驚いた、僕たち二人だけかと思っていましたが、
こんなところにも心強い味方が一人」
こわばっていたショクパンマンの顔がふとほころび、本来の彼の優しげな顔つきが戻ってくる。
アンパン「多分、バイキンマンの命令で僕たちのあとをつけてきたんだろう」
その言葉に、ショクパンマンが小さく驚きの声をあげる。
ショクパン「え!?…バイキンマンが…?しかし、彼はドキンちゃんたちと一緒に避難したはずじゃあ…
彼はこの一件から手を引いたはずですよ」
しかし、アンパンマンはなにやら確信を持ってそれに答える。
アンパン「いや、分かるんだ。彼はこっそり僕たちのことを見守ってくれるつもりだったんだろう…
何故かわかる。バイキンマンはそういう人だ」
そう呟くように答えるアンパンマンを不思議そうに眺めるショクパンマン。
ややあって、アンパンマンが気まずそうに揺れているカビルンルンに声をかける。
アンパン「君はきっと通信装置か何かを持っているんだろう?ちょっと貸してくれないか」
210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 18:28:16.94 ID:qVMXlbYRO
カビルンルンはそれを聞いて驚いたようにぴくっと体を震わせると
なにやら思案しているかのように、菌糸をせわしなく揺らし始めた。
…そして背中に背負っていたリュックサック、といってもアンパンマン達からみれば
巾着程度の大きさしかない袋から、大切そうに小型の無線機を取り出すと、
菌糸を器用に使って、おずおずとアンパンマンに差し出した。
アンパン「ありがとう」
そういって、かれはカビルンルンにむかって優しく微笑んだ。
それを受けてうれしそうにカビルンルンが菌糸を揺らす。
アンパン「バイキンマン、バイキンマン、聞こえますか。こちら地下秘密工場のアンパンマン」
213 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 18:38:22.67 ID:qVMXlbYRO
しばらくして、手のひらに乗ってしまうようなその小さな無線機から聞きなれた声が発せられた。
バタコ『こちらアンパンマン号のバタコ、アンパンマン!!無事だったのね!!』
心を締め付けるようなその声に、思わずアンパンマンの声も上がる。
アンパン「はい、ショクパンマンも無事です。
僕達についてきたカビルンルンからこの無線機を借りました」
バタコ『よかった…二人とも無事なのね…』
そう言って無線機からおおきな安堵のため息が聞こえてくる。
アンパン「ええ、今はまだ…ですが…」
バタコ『…そう、もうすぐ戦いが始まるのね…』
無線機の向こうのバタコが不安に息をのむ様さえ感じ取れた。
今の二人は、それほど繋がっている。
アンパン「その前に、あなたの声が聞きたかった…」
バタコ『…』
言葉はない。しかし気持ちはいたいほど伝わってくる。
どうか、 ぶじに かえってきて …
アンパンマンがひと時の切ない思いに身を寄せていると、その沈黙を破るように無線機の向こう側が騒がしくなった。
-------------------------------
215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 18:47:09.26 ID:JRijvJaPO
ショクパン最初、犬は見殺しにしましょうとか言ってなかったかwww
219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 18:59:40.78 ID:A+j854mzO
>>215
こまけぇこ(ry
221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:03:53.92 ID:qVMXlbYRO
実は後付ではない
あれがあの場での最善のカレーパン好みの答えだったから キリッry
いやまじでwwwwwwww
俺こんなSS書いてるんだろな
222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:07:46.95 ID:iETjmpVdO
考えたら負け
--------------------------------
228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:27:00.94 ID:qVMXlbYRO
バタコ『え?そう…アンパ…ええ、ちょっとまってて、アンパンマン、聞こえてる?』
何事か向こう側で話ていたバタコが回線に戻ってくる。
バタコ『バイキンマンが、あなた達に伝えなくちゃいけないことがあるって。変わるわね』
そう告げると、回線の向こう側で、確かに話しての変わる気配がした。
バイキン『こちらアンパンマン号、バイキンマン アンパンマン、聞こえているか?』
アンパン「ああ、聞こえてるよ」
バイキン『ちぇっ、カビルンルンのやろう、しくじりやがって…まあいい。カレーパンマンの遺体を調べていて大変なことが分かった』
アンパン『え?カレーパンマンがどうしたって?』
突然入ったノイズに、二人の会話が阻害される。
バイキン『だか…ざ…ジャム…ザザ…イース…ザザ…不…ザザザ』
アンパンマン「え?なんだって、よく聞こえない!」
必死で会話を続けようとするアンパンマンの耳に飛び込んできたもの、
それは何か大切なことを伝えようとするバイキンマンの通信ではなく、
驚きとあせりにみちた、ショクパンマンの叫び声だった。
ショクパン「アンパンマン!!大変です!あれを見てください!!!」
229 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:33:22.99 ID:qVMXlbYRO
バイキン「畜生ッ!!!!!」
突然途絶えた通信に、バイキンマンが呪詛の怒鳴り声を上げる。
バタコ「いったいどうしたの!アンパンマンたちになにかあったの!!
さっきの会話は何!?ジャムの真の目的って!!!!」
バタコが取り乱して矢継ぎ早に質問する。
バイキン「心配すんな!!!…ちょっと通信が途絶えただけだ。
電波の調子が悪かったんだろう…パン野郎たちなら平気さ殺したって死なな……!!!?」
突然何かに気づいたバイキンマンが興奮して大声を上げる。
バイキン「そうか!!!そういうことなのか!!!
ジャム爺の野郎ッ!!!なんてことを考えやがるッ!!!!」
231 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:41:13.83 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「あれを見てください!!!」
彼が指差したその先をみて、アンパンマンは驚愕した。
ジャムと自分達とを隔てていたはずの最後の扉から、赤いゼリー状の何かが次々と染み出しているのだ。
アンパン「しまった!!罠だッ!!!カビルンルン!僕に掴まって!!!
ショクパンマンッ!!!飛ぶよッ!!!」
それを聞いたカビルンルンがあわててアンパンマンの胴体に菌糸を絡ませてくる。
本来、カビルンルンはその性質から、パン戦士達の天敵である。
しかし、今はそんなことを言ってられない。このままカビルンルンを見捨てて逃げれば、間違いなく彼(?)はあの赤いなにかにに飲み込まれてしまうだろう。
アンパン「逃げるぞッ!!ショクパンマンッ!!!」
ショクパン「はいっ!!」
233 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:47:38.28 ID:qVMXlbYRO
バイキン「くそったれ、大変なことになるぞ…おい、大足ロボットはまだか!!!!今どこだっ!!
…わかった!!いそいで来い!!!」
バイキンマンが声を荒げながら通信機に向かって怒鳴る。
ドキン「ねえ、いったいどうしたって言うの!!ちゃんと分かるように説明して!!」
痺れを切らしたドキンちゃんが、半ば叫ぶようにバイキンマンを問い詰める。。
バイキン「あ、ああ…すまん 俺様としたことが、取り乱した…
おい、なんか飲み物はないのか!?」
バイキンマンが気を取り直したようにいすに腰掛ける。
バタコが手渡したコップいっぱいの水を一気に飲み干すと、バイキンマンは続けた。
235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:58:17.87 ID:qVMXlbYRO
バイキン「カレーパンマンの遺体を調べていてあることが分かった。
あの遺体にはパン戦士として重要なもの、パン戦士をパン戦士たらしめる、あるものがかけている」
ドキン「だからなに!!ちゃんとわかるように言って!!」
バイキン「ああ…ショクパンマンとアンパンマンにやられたとき、何故カレーパンマンはそのまま死んだ?」
ドキン「えっ?」
突然突拍子もないことを言い始めるバイキンマンに、ドキンちゃんが疑問の声を上げる。
バタコ「パン戦士をパン戦士たらしめるもの…!!!わかったわ!!イースト菌ね!!?」
バイキンマン「ご明察だ!流石パン屋!!」
一人置いてきぼりを食らったドキンちゃんがいらいらしながら叫ぶ。
ドキン「だから、そのイースト菌がなんなのよ!!!」
バタコ「…やられてしまったカレーパンマン…まさか!?」
何かに気づいたように、バタコが驚いて叫んだ。
それにわが意を得たりというように、バイキンマンが答える。
バイキン「そう、それだっ!!ジャム爺はカレーパンマンの体から予めイースト菌を抜きさっていた!」
そこで一呼吸おいて続ける。ジャムの恐るべき目的を。
バイキン「やつは…不老不死の化け物になろうとしているッ!!!!」
239 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:17:18.37 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「もっと早く飛ばないと!!!追いつかれてしまいます!!」
先ほど延々と下って来た階段の上、その上を入り口目指して飛びながら、
ショクパンマンが後ろに続くアンパンマンにむかって鋭い声を投げかける。
アンパン「分かっている!!もう少し、もう少しだっ!!」
カビルンルンがまきついた胴体から侵食がはじまり、すでに顔の下四分の一はカビに犯されているであろう
アンパンマンが息も絶え絶えに答える。
ショクパン「くそっ…あと少し!あと少し頑張ってくださいアンパ…」
そのとき、彼らは自分の耳を疑いたくなるような現象に出会った。
ジャム「はははははははは、そんなにいそいでいったいどこに行こうと言うんだね
我ら親子の感動の再開じゃないか!!もっとゆっくりしていけばいい!!」
あろうことか、その声は自分達を追いやっている、あ の 赤 い な に か か ら き こ え る !!
ショクパン「まさかっ…まさかあの赤い物体は…ジャムおじさんなのかっ!!!」
ジャム「はははははご明察だ、これが生まれ変わった私の新しい体、『Strawberry Jam』さ!ははははは」
信じられない光景を尻目に二人と一匹はただひたすら上を目指して飛び続ける。
ジャム「あははははは!!!なんてすばらしい気分だ!!!!まさしく私は生まれ変わったのだ!!!!
そして予定通り貴様らもこの体に取り込み…私は唯一絶対の完璧な生物として!!!!この世の神として君臨するのだ!!!」
もはや狂人のそれに近い、耳障りなJAMの笑い声を背に、ショクパンマンとアンパンマンは必死に入り口目指して飛び続けた。
(この世界に真っ赤なJAMを塗って 食べようとする奴がいても
あの偉い発明家も 凶悪な犯罪者も
皆昔子供だってね
外国で飛行機が落ちました ニュースキャスターは嬉しそうに
乗客に日本人は 居ませんでした 居ませんでした
僕は何て言えばいいんだろう 僕は何を思えばいいんだろう
こんな夜は 会いたくて 会いたくて 会いたくて
君に… 会いたくて… 君に… 会いたくて…
また明日を待ってる…)
245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:29:00.27 ID:qVMXlbYRO
バイキンマン「いいか、よくきけよ。いったいなんで俺様はあの糞忌々しいパン共にいつも負け続けていた?」
まだ納得いかないと言うように盛んに首をひねっているドキンちゃんを見かねて、バイキンマンが問いかける。
ドキン「それは…やっぱりバイキンマンが弱いからじゃないの?いや、違うわね、ショクパンマン様が強すぎるのよ!」
それを聞いて心底不快を感じたかのように鼻を鳴らし、バイキンマンが続ける。
バイキン「ぜーんぜん違うね!!!断じて俺様は弱くなんかないッ!!質問の答えは…」
バタコ「パン戦士の、不死性…」
バイキンマンの言葉を奪い、バタコが呟く。
バイキン「そうだ!あいつらはどれだけ痛めつけたって顔を変えるだけで何度でもよみがえるっ!」
ドキン「…それが、イースト菌の仕業だって言うの?」
バイキン「そうだ、現にイースト菌を抜かれたカレーパンマンは、元々の体が耐え切れないほどのダメージを受けて死んだ」
ドキン「…ッ!!!それじゃあ!!」
バイキン「…そのとおりだ。ジャムの爺はカレーパンマンから抜き取ったイースト菌を自分の体に移植したはず
やつは、パン戦死の不死性に目をつけたんだ!」
300 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 00:26:48.37 ID:qVMXlbYRO
ドキン「それじゃあ闘ったって勝ち目がないじゃない!!」
告げられた、あまりに恐ろしい敵の正体に驚きなかば怯えながら、ドキンちゃんが悲鳴に近い声を上げる。
ドキン「そんな…やっつけてもだめだなんて…」
バタコ「…」
重苦しい沈黙が場を支配する。
しかしそれを跳ね除け、バイキンマンが言った。
バイキン「…まだ諦めるには早い」
ドキン「…でも」
バイキン「…イースト菌は万人に受け付けられるものじゃないんだ。
幸い今ジジイがカレーから奪ったのはパン戦士たった一人分のイースト菌だ」
難しい顔をして、バイキンマンが呟く。
バイキン「そうだ…」
301 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 00:27:59.32 ID:qVMXlbYRO
それを聞き、バタコが不思議そうに言った。
バタコ「どうしてあなたはそんなにイースト菌について詳しいの?」
バイキンマンはちょっと考えるような仕草をしてから利き腕で鼻をさすりながら答える。
バイキン「当然だろう…何年お前達と闘ってきたと思ってるんだ…」
それを見て、ドキンはハッと気づく。
ドキン「(バイキンマン、嘘ついてる…でもなんで?何が嘘なの?)」
長年一緒にいた相手だから彼の癖ぐらい分かる。
しかしそのドキンちゃんですら、難しい顔をして考え込んでしまったバイキンマンが、
何をおもっているのか、はっきりとは分からなかった。
304 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 00:41:45.34 ID:qVMXlbYRO
しばらくしておもむろにバイキンマンが顔をあげ、バタコさんに告げる。
バイキン「…新しい顔を焼く準備をしろ。戦いが始まる」
バタコ「…そうね」
答えてバタコさんがいそいそと作業を始める。
バイキン「…ドキンちゃんも、手伝えるか?」
そんな後姿を見ながら、バイキンマンが呟くようにそんなことを言う。
ドキン「まっかせといて!バタコさんにおいしいパンの焼き方をならって、
ショクパンマン様にほめてもらうんだから!」
なにげない一言に、ふっと張り詰めていた場の空気が緩む。
バイキン「…よし分かった。そのまま待機…パン工場の見張りを続けろ…何かあったらすぐに…うん、頼んだ」
無線通信機に向かってそう囁くと、しばらく考えたあとふっと思いついたようにバイキンマンがいった。
バイキン「…ああ、それからカレーパンマンの新しい顔も用意してくれ」
305 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 00:53:14.89 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…もうすぐ、もうすぐですよアンパンマン!!」
そういって後ろに続くアンパンマンを心配そうに力づける。
アンパン「あ、ああ…もう…ちょっとだ…」
すでに顔の半分以上をカビに侵食されてしまった、
そんなアンパンマンに抱かれたカビルンルンが、泣きだしそうに潤んだ瞳で彼を見つめている。
アンパン「し、心配いらない…僕達はきっと無事に外までたどり着ける…」
すでに体に力が入らない、まっすぐ飛ぶことさえ危ういがそれでも何とか気持ちだけで先を行くショクパンマンについていく。
彼らの後ろからは、あの不気味な赤いゲルが今にも彼らを飲み込みそうな勢いで迫ってくる。
ショクパン「!!見えました!!外です!!!」
視線の先に先ほどの入り口を認めて、ショクパンマンが歓声を上げる。
ショクパン「いっきに突き抜けましょうッ!!」
そういってさらにスピードを上げる。
アンパン「…よし」
体中の力を振り絞って、何とかアンパンマンも加速する。もうすこし、もう少しッ…抜けたっ!!
309 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 01:10:01.65 ID:qVMXlbYRO
アンパンマンたちが地上に抜けでると数秒を置かずに、赤いゲルが地上にあふれ出始める。
ショクパン「…一度アンパンマン号に戻りましょう。体勢を整えるんです」
眼下に広がっていく赤い苺ジャムを眺めながらショクパンマンが呟く。
そのとき、じっと下を眺めていたアンパンマンが有ることに気づく。
アンパン「…た、たいへんだ…あの苺ジャムは…いのちを…触れたものの命を…ッ!!」
その言葉と同じくして、ショクパンマンも眼下の異変に気づく。
赤い苺ジャムに触れた草木が、あっという間に枯れてゆくのだ。
ショクパン「命をッ…吸っているのかッ…なんと言う化け物なんだ…ッ!!」
信じられない光景を目の当たりにして、ショクパンマンがうめくような声を上げる。
アンパン「…こうしてはいられない。早くアンパンマン号に、戻らなくては…」
消え入りそうな声でアンパンマンが言う。
ショクパン「ええ、いけますか?アンパンマン?」
アンパン「な、なんとか大丈夫だ…道案内は、任せて大丈夫、かな…?」
そう言って胸に抱くカビルンルンに視線を移す。
彼(?)の菌糸が一瞬激しく震えたかと思うと、全ての糸が同時に同じ方角を指し示した。
アンパン「…いこう、ショクパンマン…」
313 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 01:25:13.69 ID:qVMXlbYRO
バタコ「え?カレーパンマンの顔を?」
信じられない言葉を耳にして、思わずバタコが聞き返す。
バイキン「…そうだ、魔法が使えるのは、なにもジャムの糞ジジイだけじゃないってことさ」
そういってせわしげに無線機で通信を始める。
バイキン「…なんだと、そうか…よし、相手の特徴は…うん、了解した…
…火炎放射器メインの大足ロボットを…うん、7体…そうだ…」
一呼吸おいて、バイキンマンが大きな声で二人に告げる。
バイキン「ジャムのジジイが本格的に暴れだしやがった、アンパンマンとショクパンマンは無事に秘密工場を脱出
時期、こちらに到着するそうだ」
それを聞いてバタコが目に見えてほっとしたような表情をする。
バイキンマンは続ける。
バイキン「気を抜くなよ、これからが本当のラストバトルだ」
-----------------------
398 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 13:40:15.66 ID:SdXJ3oJgO
ショクパン「しっかりしてください!アンパンマン!アンパンマン号はすぐそこですッ!」
すでに顔中をカビに侵食され、今にも墜落しそうなアンパンマンを気遣い、ショクパンマンが盛んに声をかける。
アンパン「…ショクパンマン…先に行ってくれ…そして、新しい顔を……」
それが最後の言葉だった。
それを合図に高度がどんどん下がって行く。
ショクパン「アンパンマンッ!?」
空中で制止したショクパンマンが悲鳴に近い叫び声をあげる。
悲痛に身を裂かれるように感じながら、ショクパンマンは考えていた。
今、自分がアンパンマンと一緒に居ても、してやれることはない。
カレーパンマンやアンパンマンと違って自分は、体力がない。
カビに侵されたアンパンマンを抱えて飛ぶのも無理があるだろう。
ならば自分の武器は何か。
スピード、そして冷静さ。
アンパンマンが落ちていった場所を目に焼き付けるようにしっかりと記憶し、はるか向こうに小さい点のように見えている大足ロボットを目標として定めた。
きっとあれはバイキンマンの兵隊だろう。ならば必ず一緒にアンパンマン号もいるはず…
今一度、落下地点を振り替える。背後にはすでに赤いイチゴジャムの湖が広がっていた。ゆっくりとしかし確実にその勢力を拡大していく。
ショクパンマンは一度大きく息を吸うと、目標物目指して最大速力で飛び出した。
404 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 13:57:32.86 ID:SdXJ3oJgO
地面に身を横たえながら、アンパンマンは深い眠りに落ちようとしていた。
己の意思に反して、まぶたはどんどん閉じていく。
傍らにたっているカビルンルンが、心配そうに自分を覗きこんでいるのがわかった。
良かった。彼(?)はどうやら、無事に着地出来たようだ…そこまで考えたとき、再び強烈な眠気がアンパンマンを襲う。もう抗えない、そう感じた瞬間アンパンマンの意識は深い闇に墜ちた。
407 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 14:04:08.40 ID:SdXJ3oJgO
バイキン「なに!?本当かッ!!……わかった!!」
無線通信でなにやら報告を受けていたバイキンマンの血相が、一瞬にして険しくなった。
ドキン「…何があったの?」
いち早く異変に気付いたドキンが、不安そうに声をかける。
バイキン「…アンパンの野郎が、墜ちた。カビルンルンを助けて、体に触れたのが原因らしい…くそっ!!あの野郎どこまでッ!!!」
バタコ「そんなっ……!?」
それを聞いて、バタコが絶句する。
409 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 14:12:27.50 ID:SdXJ3oJgO
バイキン「落ち着け!!場所は分かるッ!!すぐに助けにいくぞ!」
悪のプライドも、すでに忘れてしまったのかもしれない。平時であれば、舌を噛みきっても言わないようなセリフを吐いて、バイキンマンが一同に号令をだす。
バタコが急いで運転席に乗り込もうとした瞬間、息を切らせてショクパンマンが飛び込んできた。
ショクパン「たっ大変ですッ!!!アンパンマンがっ!!」
バタコ「ショクパンマンッ!!あなたがついていながらッ!!!」
およそ場違いな叱責も、それだけバタコが動揺しているあかしなのだろう。
ショクパン「本当になさけないっ…急いでアンパンマン号を出してください!ジャムの魔の手が、すぐそばに迫っているっ!!」
ショクパンマンが下唇をかみながら、血をはくような声を絞り出す。
バイキン「よし、新しい顔の準備は出来ているなッ!!俺はUFOで大足ロボット達を指揮しながら急いで現場向かうッ!!お前たちは先に行けッ!!」
そこまで一息に言って、バイキンマンは転がるように外に飛び出していった。
416 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 14:33:36.30 ID:SdXJ3oJgO
眠りに落ちたアンパンマンの傍らで、カビルンルンが菌糸をせわしなく揺らしながら一生懸命考え込んでいた。
本来、彼らの思考回路はそれほど複雑ではない。寝ること、食べること、そしてごく稀にバイキンマンの指図でちょっとした悪戯をすること。
悪戯は好きだ。ワクワクする。バイキンマンも好きだ。何故なら友達だからだ。
倒れているアンパンマンを見ながらさらに考える。
アンパンマンは、あの赤いどろどろから自分を助けてくれた。あの赤いどろどろはきっと良くないものだ。
難しいことは分からないけど、きっととても悪いものだ。
そこまで考えて、突如身を包む悪寒に体を震わせた。
大変だ!あの赤いどろどろがすぐ近くまで来ている!逃げなくちゃ!
一度大きく菌糸を震わせると、何本もの菌糸をアンパンマンに巻き付ける。
持ち上げてみる。凄く重い。
でもこのままほおっておけない。
だって、アンパンマンは自分の友達なのだから。
ショクパン「もうすぐです!」
助手席に座ったショクパンマンが、前方を叫ぶように言った。
ハンドルを握ったバタコの手に大粒の汗が落ちてはじける。
車内の温度が高いわけではない。むしろ先程から体が凍えるように感じていた。
早くいかないと、アンパンマンが死んでしまう。
私の アンパンマンが 死んでしまう !!
420 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 14:52:25.54 ID:SdXJ3oJgO
バイキン「よし!準備は出来ているなッ!!俺様についてこいッ!!」
UFOに乗り込んだバイキンマンが、後ろに控えている大足ロボット軍に号令をかける。一斉に動き出した大足ロボットを先導しながら、バイキンマンの思考は更に加速していった。
アンパンマン達のあとをつけさせたのは、自分だ。
つまりこの失点は自分の責任。苛立ちに歯を喰い縛り、眼前に広がる赤いジャムを見つめた。
ジャムに取り込まれたイースト菌は、今のところカレーパンマン一体分だけだ。
しかし、適性のないものが扱うだけでこうも凄まじい変化を見せるのか、いやもはやこれは暴走と言った方がいいのかもしれない。
これにさらにアンパンマンのイースト菌も加わってしまえば…
バイキンマンはもう一度奥歯を強く噛み締めると、そうじゅうかんをギュッと握りしめた。
427 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 15:07:27.96 ID:SdXJ3oJgO
ショクパン「…もう一度あたりを探して見ましょうッ…もしかしたら墜落したあと、自力でどこかに逃げたのかもしれない!!」
ショクパンマンが掠れた声で言った。
先程から俯いて固まってしまったバタコは、ただ呆然と膝に落ちて弾ける水滴を眺めていた。
もう、自分が泣き出したことさえ気付いていないのではないだろうか…
ショクパンマンが先導した、目指した場所は、すでに辺り一面赤いジャムに侵食されていた。
目に見える絶望。
計り知れない喪失感。
ショクパン「しっかりしてくださいッ!?もう一度ッ」
ドキン「シャキッとしなさいッ!!あんた女でしょっ!!!」
ショクパンマンのその言葉は、突然運転席に身を乗り出してきたドキンの凄まじい恫喝に遮られた。
431 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 15:19:55.95 ID:SdXJ3oJgO
ドキン「前を向きなさいッ!!よく聞いてバタコさん、アンパンマンは必ず、必ずどこかで生きているはずよ!」
そう叫んだ後で、声のトーンを落としてドキンは続ける。
ドキン「…アンパンマンは、こんな下らないことで居なくなったりなんかしない。そんなこと、一番そばにいた貴方が、一番よく知っていることでしょう?
貴方のアンパンマンは、不死身のヒーローでしょう。
信じるのよ、アンパンマンは必ず無事よ!」
なんの根拠もないその言葉は、しかし確かに絶望に満たされていたバタコの心に届いた。
バタコ「……」
涙をぬぐい無言でハンドルを握りしめるバタコ。
ドキン「…大丈夫ね?とりあえず、ここから避難するべきよ。こんなところで止まっていたら、アンパンマンより私たちの方が先にジャムの餌食よ…
バイキンマン?聞いていた?私たちは一旦下がるわ!」
バイキン『…聞いている。了解した』
無線機からバイキンマンの無表情な声が聞こえてきた。
444 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 16:18:52.36 ID:SdXJ3oJgO
UFOのコックピットで、眼前に広がる赤いイチゴジャムを見おろしながらバイキンマンは冷静に考えていた。
敵が固形物でない場合、打撃による攻撃はあまり有効ではない。
すると、カビルンルンからの報告ですぐに火炎放射機装備の大足ロボットを使うことを思い付いたのは、あながち間違いではなかったはずだ。
しかし、ジャムが新たにアンパンマンのイースト菌を取り込んだのなら、時間をおいての第二の変態はまず間違いないだろう。
幸い、ジャムの動きはそれほど早くない。
じわりじわりとその勢力を拡大してはいるが…
バイキン「…叩けるうちに、叩いておくべきだな…」
そう呟くと、無線機に向かってがなりたてる。
バイキン「全機、等間隔で対象に向かって並べ!配置が完了次第、攻撃に移行するぞッ!!」
各機の大足ロボットに搭乗しているカビルンルンから、次々に配置完了の報告が入る。
七機目の大足ロボットからの通信を受けて、ついにバイキンが回線の合図を出した。
バイキン「…全機かまえッ!!!いくぞッ!焼き払えッッッ!!!」
447 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 16:37:17.07 ID:SdXJ3oJgO
包みこまれるような幸福感を、ジャムおじさんは感じていた。
この体になってから、細胞の端々から送り込まれてくる他者の命、それが新たな己の糧となって全身を駆け巡る。
少々意識が混濁しつつあるが、それは些細なこと。
ショクパンマンとアンパンマンは、すでにこの体に取り込んだのだろうか。
満たされた多幸感に、しばらくこの体でもいいのではないかと感じてしまう。
…いけないいけない、この体はあくまで通過点に過ぎない。
目指すべき至高の存在は、この先で確かに私を待ち受けている。
ジャムおじさんは、おそらくこの世界で唯一絶対の存在へと進化した未来の自分の姿を思い浮かべ、顔のない顔でニタニタと不気味に笑った。
突然、細胞の端々に痛みを感じる。いそいで意識をそちらに向けた。
…あれはバイキンマンの兵隊達か…愚かにも神の化身たる私の体の末端に、火を放って焼いてる。
…いいだろう、時は満ちた。
体をめぐるあまりある力が、ジャムおじさんを確信に至らしめた。
次なる変体の時は来た。愚者どもめ、神に逆らった己に絶望し、懺悔し、泣き悶えながらそして死ね。
454 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 16:53:30.89 ID:SdXJ3oJgO
バイキン「…効いて…いるな…?」
業火に焼かれるイチゴジャムの湖を見ながら、選択した方法が正しかったことを再度確認する。
燃え盛る炎に包まれた赤いジャムは、焼かれる痛みに痛みに身震いするかのように後退していく。
バイキン「このまま…いけるのかっ!?」
思わず叫んで、震えるジャムを見る。
瞬間、一番恐れていた事態がすでに開始していたことを認識してしまった。
バイキン「…!!馬鹿なッ!!早すぎるッ!!」
放たれた猛火から逃げるように後退していたジャムが、一度完璧に静止したあと大きく震え、中心部に集束していく!!
456 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 16:57:05.42 ID:SdXJ3oJgO
バイキン「駄目だッ!!来てくれっ、ショクパンマン!!」
無線機に向かって早口で伝え、周波数を切り替える。
バイキン「全機撤収ッ!大至急ッ!陣地まで後退しろッ!!」
458 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 17:03:58.86 ID:SdXJ3oJgO
ショクパン「ッ何があったのですか!?バイキンマン!!」
突然無線機から呼ばれた自分の名に、ショクパンマンが驚いて声をあげる。
バイキン『ジャムの野郎ッ!!また変身するきだっ!!動きの遅い大足ロボットじゃぁ、勝負にならないッ!!』
怒鳴るようなバイキンマンの声を聞き、容易でない事態の急変を悟った。
ショクパン「分かりました!!すぐ行きますっ!!」
そういって一度後ろを振り替える。不安そうにこちらを見ているドキンちゃんと目があった。
----------------------
475 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 18:23:43.79 ID:qVMXlbYRO
険しい表情で自分を見つめるショクパンマンを見返しながら、
ドキンちゃんは精一杯考えていた。
無線の内容は聞こえていた。きっとこれからショクパンマン様は戦いに行くんだろう。
…そういう男の人を送り出すとき、いい女はどうゆうふうに振舞うんだろう。
泣き喚いて、引き止めるんだろうか。…違う。
無言で俯いて、何もいわずに済ますのだろうか…違う。
…分かった。じゃあ、凄くつらいけど、私はそれをしないといけない。いい女に、ならなくちゃいけない。
世界一のショクパンマン様が、闘いに行くのだ。
世界一の私が、送り出してあげなくちゃ。
479 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 18:29:11.60 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…ドキンちゃん、私は…」
いいさして、ふと、止まる。
ドキンちゃんが、自分に向かって片腕を差し伸べてきたからだ。
ドキン「…頑張ってね!ばいばいきん!」
瞳から零れ落ちそうなる涙をこらえて、精一杯の素敵な笑顔でピースサインを作る彼女を見て、ショクパンマンは思った。
そうか、ならば負けるわけにはいかない。
ショクパン「…いってきます!!」
ショクパンマンは、一言そういって、外に飛び出していった。
それを見て、俯くドキンちゃん。こらえていた涙が、どっと溢れだす。
バタコ「…大丈夫よ、ドキンちゃん。あなたが言ったことよ?
…きっとみんな無事に帰ってくる。アンパンマンだって…」
返事はないが、きっとうなずいたのだろう。
声を出せば泣き崩れてしまう自分、それが、痛いほど分かる。
バタコ「…私たちは、私たちに出来ることをしましょう」
そう呟いて、手のひらをぎゅっと握り締めた。
-------------------------------------
487 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 18:50:36.48 ID:qVMXlbYRO
集まってゆくイチゴジャムと距離をとって、バイキンUFOは空中にとどまっていた。
コックピットでは、険しい表情のバイキンマンが、その観察を続けている。
バイキン「…畜生、ジャムの野郎…」
思わずそう呟やいて、後方から飛んでくるショクパンマンに気がついた。
バイキン「ショクパンマン!こっちだ!」
キャノピーを開いて、ショクパンマンを呼び寄せる。
ショクパン「状況の説明を。何があったのですか」
想像以上に落ち着いたショクパンマンの声に、一瞬拍子抜けしたように感じた。
…いや、舞い上がっていたのは、自分のほうか…
そう気づき、一度大きく深呼吸して話し始めた。
バイキン「ジャムのやろうが、また変体し始めた。おそらく、今度は俺様たちみたいな、人型になるはずと思う」
ショクパン「人型、ですか…何故そう思うのですか?」
バイキン「…勘、かな」
勘などではない、自分の中では確信を得ているといってもいいが、それを説明することは出来ない。
ショクパン「…勘ですか」
意外にもそう言って、ショクパンマンが苦笑いをする。
この状況で笑える彼の度胸の大きさに、素直に感心させられた。
バイキン「大足ロボットでは、十中八九相手にならない。
だから、今唯一動けるお前を呼んだんだ」
会話をしている間にもイチゴジャムは一点を目指してどんどん収束していく。
ショクパン「分かりました。私がその相手をすればいいんですね?」
バイキン「俺様とお前とで、だ」
バイキンマンが、すかさず訂正する。
普段の彼ならば、自分の今のセリフに身もだえしたくなるほど後悔したことだろう。
だが、もうそんな思いは頭の片隅にも浮かばなかった。
ショクパン「いいえ、あなたはまだ何かやることがあるのでしょう?
だから、私一人です」
予想外の返答に、思わず目を見開く。
確かに、自分にはまだやらなければならないことがある。
しかし、何故それがショクパンマンに分かったのだろう。
ショクパン「顔に書いてありますよ、正直な人ですね」
そう言って彼は、にこやかに笑う。
バイキン「…チッ…嫌な野郎だねまったく…」
ショクパン「アハハ、失礼しました」
もう一度笑って、そして今度は真剣な顔で言う。
ショクパン「時間は稼ぎます。任せてください」
495 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 19:12:33.92 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…ケッ…大層な大口たたくようになったじゃーねか…」
思わず頼もしいと感じてしまった自分をごまかすように、バイキンマンが減らず口をいう。
バイキン「…無理は、するなよ…」
そうポツリと呟く。
ショクパン「…誰かさんのセリフですよ」
それを聞いて、思いついたようにショクパンマンが答える。
バイキン「…あ?」
ショクパン「はじめから、負けると思って闘う馬鹿はいないそうです」
そう言って彼は、いたずらっ子のように目を輝かせて笑った。
バイキン「ほんっとに嫌な野郎だなてめえはッ!!せいぜいくたばるんじゃねーぞ!!!」
捨て台詞のようにそう言って、キャノピーを閉め、飛んでいくバイキンUFO。
ショクパンマンはそれを笑顔で見送り、再び真剣な表情で向き直った。
ショクパン「負けませんよ、私は…どんな相手だろうともっ!!」
509 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 19:53:04.96 ID:qVMXlbYRO
ショクパンマンと別れた後、チーズは森をさまよっていた。
まわりの空気は、懐かしい、しかし吐き気のするほど嫌なにおいにみちている。
そのにおいから逃れるように、森の奥へ、奥へとやつれたからだを引きずるようにしてすすんでいく。
しばらく歩くと、突然、木々が開けた場所に出た。日の光もそろそろ傾き始めている。
今夜は、ここで寝よう…
うずくまり、優しかったかつての主人の思い出を抱きしめるように前足を縮める。
これからどうしたらいいのだろう…しばらくは食事もろくにしていない。
ショクパンマンの顔の切れ端で少し体力を取り戻せたが、既に体の限界に近いのは間違いない事実だ…
突然、流れてくる風に、もうひとつの懐かしい匂いが混ざっていることに気がついた。
知らず知らずのうちに、尾がピンッと立ち上がる。
チーズはのそりと体を起こすと、その懐かしいにおいの元目指して、むかっていった。
512 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 20:07:56.26 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…どうやら、彼の勘は正しかったようですね…」
少しずつ、少しずつ凝縮され、どす黒くなっていくイチゴジャムの塊を眺めながら、ショクパンマンが呟く。
いや、もはやジャムではない。なにか別の酷く禍々しい物が、そこに存在しているように感じていた。
しかし、当然感じていいはずの恐怖は、何故か微塵も感じない。
ショクパン「…本当にジャムおじさんとは別のものになってしまったんですね…」
そう、悲しそうに呟く。先ほどから、あのどす黒い塊に攻撃することを考えても、何も感じない。
つまり、最早既に、あの物体はジャムおじさんですらないのだ…
ショクパン「ッ!!!」
どうやら変体が終わったらしい。眼下の黒い物体がゆっくりと立ち上がる。
漆黒の肌、背中に生えた黒く艶やかな羽、長くしなやかな尾、そして、頭頂部に生えた二本の特徴的な角。
ショクパン「あれ、は…」
その生き物は、一度大きく伸びをすると、ゴキゴキと間接を鳴らし、そして
JAM「…あ亜あああああああああああああああああ亜亞s蛙唖阿アああッッッ!!!!!」
ショクパン「うわっ!!」
信じられないほどの大音量で、強く吼えた。
521 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 20:17:02.51 ID:qVMXlbYRO
JAM「…ふぅ…ああ、私は再び生まれ変わったのだな…」
黒くしなやかな腕を伸ばし、筋肉質な足に目をやり、ゆっくりと尾を持ちあげる。
JAM「…すばらしいな、これが新たな私の力か…」
そう呟いてぐるりとあたりを見渡し、空中でこちらの様子を伺っているものがいることに気づいた。
JAM「…ショクパンマンか、お前は、まだ、私に取り込まれていないのだな…」
突然の問いかけにショクパンマンは、答えを返す代わりに身構えてみせる。
JAM「…まったくもって素晴らしい、まさか、これでもなお今以上の可能性が残されているとは…」
そう言ってJAMは足を曲げ、力を下半身にいきわたらせる。
JAM「貴様のイースト菌も……食わせろッッッ!!!!!!」
そう吼えると、空中に飛び上がった。
527 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 20:29:06.50 ID:qVMXlbYRO
ドキン「い、今のは?」
突然聞こえてきた獣のような唸り声に驚いて、アンパンマン号のドキンちゃんが怯えた声を出した。
バタコ「落ち着いて、バイキンマンの兵隊だっているわ。ここはまだ安全なはずよ」
そう言ってみたものの、彼女自身今の叫び声には心底驚いていた。
不安で押しつぶされそうになるが、ここで逃げ出すわけには行かない。
バイキン『アンパンマン号アンパンマン号、こちらバイキンマン様だ 聞こえているか?』
突然無線機を通してバイキンマンが呼びかけてきた。
バタコ「こちらアンパンマン号、バタコよ バイキンマン、無事なのね?今の叫び声は?」
バイキン『無事だ さっきのはジャムじじいのくそったれの産声だろうよ カレーパンマンの顔の準備は出来ているか?』
バタコ「え?え、ええ 言われたとおりに焼きあがっているわ。でも…」
バイキン『分かった 今行く』
そう言って通信は一方的に途絶えた。
頭の中にいくつものクエスチョンマークが浮かんだが、一度頭を振り、それらを外に追い出す。
私は、私に出来ることをしなければ。
529 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 20:41:15.81 ID:qVMXlbYRO
ドキン「みんな、ぶじなの?」
ドキンちゃんが心配そうに呟く。
バタコ「ええ、きっと。それよりバイキンマンが来るわ。なんだか分からないけど、できることをしましょう」
そう言って、かまどから、焼きあがったばかりのカレーパンマンの顔を取り出す。
大丈夫、いつも通りだ。きれいに焼けている。
そとから、おそらくUFOが着陸したのだろう。ずいぶん乱暴な音が聞こえてきた。
かまどを閉めたそのタイミングで、アンパンマン号の扉が開いた。
ドキン「バイキンマン!!」
ドキンちゃんが、その無事を喜ぶかのように名前をよぶ。
バイキン「よし、準備は出来ているな。それをカレーパンマンの体に」
バタコ「でも、イースト菌が抜かれていては…」
浮かんできた当然の疑問が、口をついて飛び出してくる。
しかし、バイキンマンは何も答えない。
仕方なく、後ろの台の上のカレーパンマンのつぶれてしまった顔を、新しい焼きたてのそれへと付け替える。
バタコ「…何もおきないわよ?」
分かりきった結果、しかし万が一の期待を裏切られ、失望ともため息ともつかない言葉が自然に口から漏れる。
ドキン「…バイキンマン?」
ドキンちゃんも不思議そうにバイキンマンに問いかけるが、答えはない。
533 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 20:53:30.66 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…しばらく、こいつと二人きりにしてくれないか…」
押し黙ったままだったバイキンマンが、その重い口を開いた。
バタコ「…でも…。それに、万が一カレーパンマンがよみがえったとしても…」
そこで言葉を切る。”また、裏切られるかもしれない”
そんなセリフは言いたくなかった。
バイキン「…そんな心配はいらない。気づかなかったのか?」
そういって静かに指差した先には、カレーパンマンの古い、ぐちゃぐちゃにつぶれた昔の顔があった。
バタコ「…この顔が、どうかしたの?……えっ…そんな、まさかッ?」
突然閃いた恐ろしい考えに、全身が鳥肌立つ。
バイキン「…おそらく、そのまさかだ。よく調べてみろ」
そういわれ、恐る恐るつぶれたパン生地を開いてみる。中には…
バタコ「……こんな、…なんでこんなひどいことをッ!!!」
恐ろしい衝撃と、激しい怒りがバタコの体を震わせる。
バイキン「…言ったとおりだろう…
俺の知っているカレーパンマンは、あんな馬鹿にそそのかされるほど、弱いやつじゃなかったはずだ」
539 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 21:00:58.53 ID:qVMXlbYRO
ドキン「…いったい、なにがあったの?」
話についていけず、ドキンちゃんがバタコの肩越しに声をかける。
バイキン「…見ないほうがいい、気分が悪くなるだけだ…胸糞悪いこと、しやがってッ……」
バイキンマンがそう毒づいて、静かに続ける。
バイキン「…そういうわけだ。二人とも、ちょっと席をはずしてくれ」
有無を言わさぬ迫力に、長年の付き合いのドキンちゃんが空気を察する。
こういうときのバイキンマンは、そっとしておいたほうがいい…
ドキン「…バタコさん、外にでましょう」
そういって震えているバタコの手をとり、外へ降りていった。
バイキン「…」
扉が閉まるのを確認して、バイキンマンが無言で横たわるカレーパンマンに向きなおる。
その瞳は、何故か、言い知れない悲しみで満たされていた。
546 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 21:18:52.19 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「ショック!!!パアアアアアアアンチッ!!!!!!!!」
意外にも、先手を取ったのはショクパンマンだった。
自分に向かってすさまじいスピードで飛んでくるJAMの巨体にも、ひるむことなく力強いパンチを繰り出す。
JAM「シッ!!!!!!」
しかしそのパンチは片腕であっさり防がれ、変わりに、丸太のように膨れ上がったもう片方の腕での、横なぎのラリアットが飛んでくる。
ショクパン「フッ!!!!」
しかし、それを予想していたのだろうか、
ショクパンマンは空中で素早く身をかがめ、ラリアットをかわすと、そのまま反動を使いJAMのわき腹をつま先でけりあげる。
だが、驚くほどJAMの体は硬かった。まるで鋼鉄を蹴りつけたようだと、ショクパンマンは感じた。
いそいでいったん距離をとる。
JAM「…まだ、体がなじんでいないようだ…」
ダメージはほとんどなかったのだろう。
悠々とツバサをはためかせ、空中に浮かぶJAMは、それでも、まるで一発あたってしまったことさえも気に入らないかのように、首を鳴らす。
ショクパン「…なるほど。これは厄介だ…」
真剣な面持ちで距離を測るショクパンマン、しかし、その顔に恐怖は微塵も感じられなかった。
JAM「…貴様で…」
それが気に入らなかったのか、JAMが再び攻撃を加える気配を見せる。
JAM「準備体操するとしようかッ!!!!!」
そう叫ぶと、力強くツバサを動かし、すさまじい勢いで飛び掛ってきた。
549 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 21:29:44.58 ID:qVMXlbYRO
風に漂うかすかなにおいを頼りに、チーズはどこまでもすすんでいった。
バタコさんもほめてくれた、その自慢の鼻は、ゆっくりと、しかし確実にチーズを目的地にいざなってゆく。
…ちかくだ
そう思ったとき、チーズの鼻ほどはよくないがしっかり見える両目は、
懐かしい友人の姿を捉えていた。
アンパンマンだ!!!!
それに気づくと、いそいで駆け寄ろうとした。
ピンと張ったしっぽが、自然に左右に大きく振れている。
しかし、その彼の前に立ちはだかるものがいた。
カビルンルンだった。
小さな体を精一杯張り、何本もの菌糸を逆立たせ、必死に恐い顔をしている。
きっと、自分を威嚇しているんだろう、と、チーズはおもった。
闘って、負ける気はしない。アンパンマンを、助けなければ!!
559 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 21:46:29.42 ID:qVMXlbYRO
全身の毛を逆立たせて、ぐるぐるとうなり声を上げる。
足に力をこめ、いつでも飛びかかれる体制をとる。
…しかし、異変に気づく。
彼の前に立ちはだかったカビルンルンは、倒れ伏したアンパンマンを自分から隠すように、その体を揺らしている。
必死に何事か叫びながら自分を威嚇する様は、むしろまるでアンパンマンを守っているかのように、彼の目には見えたのだ。
…なにか、事情があるのかもしれない。
そう思って、飛び掛るのをやめる。
しかし、このままこの場所にアンパンマンを置いてゆけない…
いままでこういうときはどうしたら良かったんだろう?
必死に思い出そうとする。
誰かに助けを呼べばいいのではないだろうか…
だれが…ジャムおじさん…だめだ…バタコさん…そうだっ!!バタコさんだ!!
それに気づいて、チーズは顔をあげ、必死に空気の中のにおいをかぎ出した。
何かの焼ける嫌なにおいにみちた空気の中に、しかしそれでもかすかなバタコさんのにおいをかぎつける。
…みつけた!!バタコさんだ!!
チーズはくるりとカビルンルンに背を向け、一つ大きく空に吼えると、一目散に走り出した。
565 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:20:31.95 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…」
横たったまま動かないカレーパンマンを前にバイキンマンは、腕を組んで両目をつむり何事か考え込んでいるようだった。
しばらく微動だにせずそうしていた後、やがてゆっくりまぶたを開きバイキンマンは語り始めた。
バイキン「…お前たちはさ…」
ゆっくり一呼吸おいて、さらに続ける。
バイキン「…いつだって、強かったよな…だれに頼まれたわけでもないのに…ただ…自分たちの正しいと信じることを…馬鹿みたいにひたすら繰り返して……」
そこでぎゅっとこぶしを握る。
バイキン「…カレーとも何回闘ったか、わからんな…実際…お前は強かったよ…きっと…」
いったん言葉を区切る。
567 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:21:18.52 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…きっと、なにか信じるものがあったんだろうな…お前の中にも…あの二人の中にも…だから、たたかえたんだ…いつだって、闘えた…」
そういって、またしばらく押し黙った後、声の変わりに奥歯を強くかみ締める音が、車内に響いた。
バイキン「…お前は、誰かに言われて、闘ってたのか?どこぞの神様にでも命令されて、正義のパン戦士、カレーパンマンに生まれてきたのか?」
次第に口調が熱を帯びていく。さらにバイキンマンは続けた。
バイキン「ちがうだろ…俺様たちは違う。望んで生まれてきて、そしてだからここにいる。
俺様たちは違う!自分で自分に命令して、そうやって生きてきた
くだらない菌なんかなくったって、お前たちは最初っから誇り高き正義の戦士だったろッ!!!
そんなやつらに…そういうやつらに、こんな終り方はまっぴらだなんだよッ!!」
そう怒鳴りつけるようにいうとおもむろに、後ろにおいてあったパンきり包丁を手に取る。
バイキン「…なあ、帰って来いよ…」
『 ・・・ 兄 第 ・・・』
577 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:34:08.10 ID:qVMXlbYRO
外で待機していたバタコは、突然アンパンマン号からバイキンマンの怒鳴り声が聞こえて、
思わず車内をのぞきこんでしまった。
そして目の当たりにした光景に驚く。
何故か、調理用の包丁をバイキンマンがその手に取り上げたからだ。
びっくりして扉に手をかけるが、ドキンちゃんに肩をつかまれ引き戻された。
ドキン「お願い、信じてあげて」
バタコ「でも…」
そういってもう一度車内を覗き込む。
バイキンマンは己の手のひらに包丁を当てると、そのまますっと引いた。
その表情は、影になっていて良く見えない。
バタコ「ひっ…」
579 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:36:02.32 ID:qVMXlbYRO
傷ついた手のひらから、当然のように血があふれ出てくる。
バイキンマンは、その手のひらをそのまま上に上げ
バタコ「…いったい、なにを…」
横たわっているカレーパンマンの胸の上にかざした。
あふれ出した血液が、重力に抗えずそのまま下に落ちる。
バタコ「…!!!」
信じがたい光景を目の当たりにして、バタコが声にならない声を上げる。
バイキンマンの手から零れ落ちていく血液が、空中で優しく光輝き、星型を形作ってカレーパンマンの胸に落ちていくのだ。
ドキン「…流れ星が…」
ドキンちゃんが、呟くように言った。
カレーパンマンの胸に落ちた星型のしずくは、やわらかくはじけ、そしてそのまま体にしみこんでいく。
一滴、また一滴とそれが繰り返さる。
そして、信じられないことがおこった。
しばらくして、横たわっていたカレーパンマンの右足がピクリと動いた。
そして続いて左足も。
胸はよわよわしくだが上下し始め、遠目からでもそれが分かった。
バタコ「カレーパンマンッ!!」
思わずバタコさんが、扉を開け、横たわるカレーパンマンに走りよっていく。
ハッとして振り返り、いそいで傷ついた手のひらを隠したバイキンマンは、続いて搭乗してきたドキンちゃんと目があうと、
バイキン「…みてたのか…」
と寂しそうに笑って呟いた。
ドキン「…うん…どういう、こと?」
答えはない。バイキンマンは顔を伏せ、また寂しそうに笑うと
バイキン「…いつか話すよ」
と言っただけだった。
607 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 23:10:09.77 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「フッ!!!!!!!」
JAMの突進を寸前でかわしたショクパンマンは、
空中でくるりと回って体勢を立て直しそのまま無防備なJAMの背中を蹴りつける。
JAM「…小虫がッ!!!」
こちらを向き直ることもせず、鞭のようにしなる尾で背後に飛ぶショクパンマンを狙うが
やはりギリギリでまたかわされる。
少し距離をとって空中に静止したショクパンマンが、あろうことかJAMを挑発するように喋りだした。
ショクパン「…思ったとおりですね。力は凄まじいものがある、だがスピードがそれを活かしきれていない
それだけなら、私のほうが勝っているかもしれませんね」
真顔でそんなことを言う。
JAM「…黙れ、ゴミがッ!!!」
プライドを刺激する一言だったらしい。ショクパンマン目指してがむしゃらに突っ込んでくるが、
それもまたかわす。
608 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 23:11:21.24 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…あなたは、私の大切な人たちをたくさん傷つけた。決して、許しませんよ…」
また距離をとりながらショクパンマンが続ける。
JAM「ほう…ならばどうすると言うのだッ!!!!!!」
一言吼えて三度JAMが突っ込んでくる。
ショクパン「…こうするんですよっ!!!!!」
少しだけ浮き上がったショクパンマンのちょうどひざの部分に、ジャムの顔が当たる。
そのすさまじい突進力を利用しての、ショクパンマンならではの戦い方だった。
JAM「ガアッ!!!!」
膝蹴りをもろに顔面にくらい体勢を崩したJAMが墜落してゆく。
633 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 00:04:02.30 ID:qVMXlbYRO
鉛のように重たいまぶたを、かろうじて押し上げる。
視界がゆがみ、白と黒のモノクロームな世界が広がる。
ゆっくりと息を吸う。そして、目だけ動かしてあたりを見渡す。
心配そうに自分を覗き込む…あれは、バタコさん…か?
瞬間、世界に色が戻ってきた。急激に流れ込んでくる記憶に、体全体が揺さぶられるように感じる。
バタコ「気がついたのね!!!カレーパンマンッ!!!」
カレーパン「…あっ…」
いったい何があったのだろう。ゆっくりと体を起こした。
何故、自分はこんなところで寝ている…
カレー「…あっ…あぅ…あっ!ああっ!!」
そして、全て思い出した。自分が何をしたのかを。
何をしてしまったのかを。
カレーパンマン「ああああああああああッ!!!!!!!!」
バタコ「落ち着いて!落ち着いてッ!!カレーパンマンッ!!
あなたは何も悪くないッ!!何も悪くないのよッ!!!!」
涙を流しながら、バタコが懸命にカレーパンマンをなだる。
カレーパン「…どう…どうしてッ!!どうしてッ!!!」
身が焼かれるような忌まわしい記憶を、心が拒絶する。
しかし、体は覚えている。間違いなく、自分が何をしてしまったのかを。
640 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 00:14:38.91 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…今回の一件は、全部ジャムの野郎の仕組んだことだ…」
傍らに立っていた男が、低い声でそう呟いた。
あれは…バイキンマン…?
バタコ「カレーパンマン…あなたはジャムおじさんに利用されていたのよ…
それもとても酷いやり方で。何も悪くないわ、あれは仕方のなかったことなの」
バタコがカレーパンマンの手を握り、必死に訴えかける。
バタコ「そうよ…あなたはジャムおじさんにイースト菌を抜かれた時、既に死んでいたのよ…
それから起こった事は、全部あなたの体をのっとった悪魔が、勝手にやったことだわ!
大丈夫、あなたは何も悪くないの…」
嗚咽交じりにバタコが言った。
バイキン「そういうことだ…お前はあの時既に死んでたんだ。先のこととは関係ない」
バイキンマンが壁によりかかり、腕を組んだまま険しい顔でそう告げる。
カレーパン「…でも、でもッ…覚えてるんだ!!この体が!!この両腕がッ!!!」
泣けることができたのなら、恥ずかしげもなく号泣していただろう。
しかし、涙は出ない。ただ顔をゆがめ、両の手のひらを見つめていた。
644 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 00:23:08.48 ID:qVMXlbYRO
ドキン「…ショクパンマン様が、闘っているの」
それまで黙っていたドキンちゃんが、ポツリと、呟くように言った。
カレーパン「ショクパンマン…が?」
バイキン「そうだ、ショクパンマンが。たった一人で」
バイキンマンが続ける。
バイキン「ショクパンマンは、言ってたよな。自分たちは誇り高きパン戦士だって
どんなに強い敵でも、三人なら戦えるんだって」
そこで、いったん言葉を区切る。
バイキン「…待ってるんだよ、お前を。そしてアンパンマンを
必ず助けに来るって、仲間を信じて、一人っきりで闘ってるんだ」
その言葉を聴いて、体中に電流が駆け巡った気がした。
カレーパン「…行かなくちゃ…ショクパンマンが…ショクパンマンが…待って、る…」
そう言って床の上に降り立った。
バタコはもう何も言えず、ただ顔をくしゃくしゃにして泣いている。
648 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 00:36:02.38 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…そういうこった、カビパン野郎」
そう言ってバイキンマンがニヤリと笑った。
カレーパン「バタコさん…本当に…」
振り返り、泣いているバタコを見つめる。
バタコ「…行って来なさい!カレーパンマン!!」
泣きながら、それでもはっきりと、バタコがカレーパンマンの背中を押す。
バイキン「ただし無茶はするなよ、本調子とは程遠いいはずだからな」
その言葉とともにバイキンマンは後部ハッチを開いた。
詳細は何も聞いていない。しかし、何故かどこで戦いがおこなわれているのか、感じ取れるような気がした。
バイキン「おい」
飛び立とうとする自分の背に、バイキンマンが声をかける。
バイキン「…お前は、いったい なにものなんだ ?」
その質問が頭の中を駆け巡る。答えは、すぐに出た。
カレーパン「俺は……おいらは 誇り高きパン戦士 カレーパンマンだ!!!」
バイキン「…よし、ぶちのめして来い!!!」
そう言って再びバイキンマンが、ニヤリと笑った。
655 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 00:54:20.43 ID:qVMXlbYRO
JAMの落下地点から土ぼこりがもうもうとたちあがる。
ショクパンマンは油断なくその場所を見つめ、距離をとって地面に着地した。
煙の中から声が聞こえてくる。
JAM「…ずいぶんと、強くなったんじゃないか。ショクパンマン
どうやらお前を見くびっていたようだ…」
あの高さから落下したのに…こころの中で思う。しかし面には出さない。
ショクパン「あなたにだけは、負けられませんからね」
そういって身構える。実際、地力以上のパワーが出ていると、自分でも思う。
その力は、JAMにたいする溢れんばかりの怒りによるものか、それとも……ドキンちゃんのあの笑顔のおかげだろうか
JAM「…クフ、フフフ…予想以上だ、素晴らしい。その力も私のものに…」
土煙の中にJAMの巨体が浮かび上がってゆく。
ショクパン「だからッ!!させませんよッ!!!!」
そう叫んで強く地をけり、飛び出した。
JAM「しかしッ!!!!驕りが過ぎるぞッ!!!!ショクパンマンッ!!!」
しまっ!!!!…たと思ったときには既に遅かった。パンチを手のひらで受け止められ、そのまま腕をつかまれる。
ショクパン「(マズイッ!!!つかまったらッ!!!)」
だが、JAMの力が強すぎて、どうしても振りほどくことが出来ない。
自由になる片腕でJAMの顔を狙うが、それより早く鞭のようにしなる尾がショクパンマンの体にまきつき、そのままギリギリと締め上げていく。
657 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 01:04:08.60 ID:qVMXlbYRO
JAM「クフフ、フフ…とうとう捕まえたぞ、ショクパンマン…
まったく、ちょこまかと…流石小虫だな…」
そう言って含み笑いをするJAM
ショクパン「(なんとかッ!!何とか振り払わねばッ!!!)」
必死で体に巻きついた尾を引き剥がそうとするが、まったくその力は緩まない。
逆にどんどんと力強く、ショクパンマンの体を締め上げていく。
ショクパン「ぐッ!!ぎぎッ!!」
JAM「クフフフフ…そうだ、もがけ、苦しめ!」
全身を締め上げられる激痛に苦しみもがくショクパンマンをみて、JAMが満足そうに微笑む。
ショクパン「ぐうううううッ!!!!」
JAM「クフッ…さて、では貴様のイースト菌を頂くとしよう。
こんなことなら、前の体も少しは残しておけばよかったか。あれを貴様に塗りたれば、さぞかし美味だったろうに」
そんなことを言って笑う。
677 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 01:53:31.97 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「グッ!…がっ…」
視界がゆがんで白くにごって行く。気を失いそうなのだろうか…
…悔しいっ…ただひたすら悔しいっ…
心の中で繰り返し叫びながら、それでもなお最後のときがくるまで抗い続けようと思った。
JAM「…喜べッ!!!私の糧となることをッ!!!!」
JAMが耳まで割けた口を大きく開いた。
鋭くとがった牙と、赤い赤い舌が、今か今かとショクパンマンを待ち受けている。
ショクパン「(クッ…ここまでですかッ!!!!)」
崩れていく視界の中で、遠くの空に黒い点が見えた気がした。
ぼやけた目でもう一度、見る。
その点はすさまじい速さでぐんぐんと大きくなりつづけ、やがて
ショクパン「(あれはっ…あれはっ!!!!!)」
突然自分の後方を見てうれしそうに微笑んだショクパンマンをみて、JAMは訝しげに後ろを振り返った。
JAM「…?」
その無防備な顔面に
カレーパン「カッアアアアアアレエエエエエキイイイイッツックッッッ!!!!!!!!」
カレーパンマンの全体重を乗せた一撃が、炸裂した。
683 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 02:09:25.09 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…よし、俺様もいくぞ」
飛び出していったカレーパンマンを見送り、バイキンマンもその後を追おうと、
いそいでアンパンマン号をおりた。
その耳に
「〜〜〜」
なにやら甲高い鳴き声がする。
バイキン「…あ?」
不審に思ってあたりを見渡す。すると、突然バイキンUFOのそばの茂みが揺れ、
転がるように一匹のみすぼらしい犬が飛び出てきた。
バイキン「…なんだ?…ああ、こいつ、パン工場のあほ犬か、おいッ!!バタコさんッ!!」
大声でまだ車内にいるバタコを呼び、自分はさっさとUFOに乗り込もうとする。
バタコ「…何か…?ッチーズ?チーズなのねッ!!良くぞ無事でッ!!!」
そう叫んで、両腕をひろげ、旧来の友を迎えうけようとする。
しかしチーズは、何度も何度もその場で繰り替えし吼えるだけだ。
バイキン「けっ…躾がなってねーんだよ、俺様はもう行くぜ」
そういってUFOに乗り込もうとするバイキンマンを、バタコさんが引き止める。
687 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 02:19:41.02 ID:qVMXlbYRO
バタコ「まって!バイキンマン…チーズの様子が変なの…どうしたの?あわてなくていいのよ?」
そういってバタコさんがゆっくり、ゆっくりとやせ細ったチーズの体をなでる。
バイキン「…おい、そんなことしてる暇は…」
少しイラついた声でバイキンマンが何か言いかけるが、
その非難の言葉は、バタコさんがいきなりあげた歓声にかき消された。
バタコ「アンパンマンがッ!!!アンパンマンが生きていたわっ!!!!!」
バイキン「なんだと!!?」
予想外の言葉に、思わずUFOのツバサにかけていた手がすべる。
体勢を崩してふらつくバイキンマンなどお構い無しに、
バタコさんはチーズを抱け上げ何か意味不明なことをわめきながらそのばでぐるぐる回っている。
バイキン「おっ、おいっ!!落ち着けっ!!詳しく説明しろっ!!!」
揺れる体を何とか建て直し、バイキンマンがあわててさけんだ。
バタコ「チーズがアンパンマンを見つけてきたの!!!案内するって!!!」
691 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 02:32:15.38 ID:qVMXlbYRO
JAMの尾が一瞬緩んだすきに、ショクパンマンは何とかその支配から逃れていた。
地面にひざをついて、せわしなく息をする。
すさまじい力で締め上げられ、今にも倒れそうにつらいであろうはずなのに、
何故か俯いて咳き込むショクパンマンのその顔は満面の笑顔だった。
それもそのはずだ。
帰ってきたのだ 頼もしい仲間が
カレーパン「無事かッ!?ショクパンマンッ!!!」
力強く自分を呼ぶその声は
別れてからそれほど時間がたったわけではない、しかし何故かとても懐かしく、ショクパンマンには感じられた。
ショクパン「…助かりましたよ!!カレーパンマンッ!!」
万感の思いをこめて、傍らに立つ仲間の名を呼ぶ。
カレーパン「…本当にすまないッ!!おいらはッ…おいらはッ!!!」
昔どおりの一人称も、ショクパンマンの心を強く揺さぶる。
…本当に、帰ってきた…帰ってきたんだ、カレーパンマンがっ!!
ショクパン「積もる話は後です!今は闘うことに集中しましょう!!」
そう叫ぶようにいって吹き飛んだJAMのほうに向き直り、身構える。
何故だろう、分からない、本当に不思議だ。
…だが、今なら負ける気がしない!!!
700 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 02:52:06.59 ID:qVMXlbYRO
地面に無様に倒れ臥しながら、屈辱に沸き返るような頭の中でJAMは考えていた。
あそこに見えるのは確かにカレーパンマン…イースト菌は確かに残らず抜きさったはず…
そうか、あの出来損ないの仕業か
しかし解せない…
先ほどの一撃は確かに強烈だった。しかし不意をくらったとはいえ、
パン戦士2体分のイースト菌を取り込んだはずの自分が、こうもやすやすと、蹴り飛ばされるとは…
…2体分?
そこまで考えて、カレーパンマンのイースト菌を取り込んだときのことを思い出す。
地下秘密工場にもぐり、予めイチゴジャムを媒介に保存していた、
あの培養槽のなかに身を沈めていった時の、世界がどんどん変わっていく、あの感覚…
Strawberry Jam体の時は、他者の命を貪り食らっている実感はあった。
しかし、カレーパンマンのイースト菌を取り込んだときのような、すさまじい衝撃はなかった…
……そういうことか
JAMが大きく目を見開いた。
口角をゆがめ、牙をむき出しにし、恐ろしい顔で笑う。
…わかったぞ…生きているなッ!!!!アンパンマンッ!!!!!
779 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:09:28.56 ID:qVMXlbYRO
自分の傍らに力なくその身を横たえるアンパンマンを見詰め、
カビルンルンは泣き出してしまいそうになりながら、それでも必死に考えていた。
すでに日が落ち、あたりは暗闇に包まれている。自分たちをぐるりと囲む、暗い夜の世界が、心細さを増徴させる。
さっき、突然暗闇から現れたあの犬は、とてもこわかった。
もしかしたら、またやってくるかもしれない…
そんなことになれば…
せめて、みんなと一緒にいればこんなにこわくはなかったのに…
頼りがいのある仲間たちの顔を思い浮かべ、心細さがよりいっそうます
バイキンマンから渡された無線通信機は、逃げる途中でどこかに落としてしまった
あれがなくなってしまったのは、本当に残念だ。
バイキンマンにあれを手渡され、難しい顔で自分の任務をつげられたとき
カビルンルンは、なんだか自分が偉くなったような気がしてとても誇らしかった。
せめてあの通信機があれば、仲間に自分の位置を知らせることが出来たのに…
そこまで考えて、カビルンルンはひとつの素敵なアイディアを思いついた。
そうだ!みんなを呼べばいいんだ!きっと気づいてくれる!
781 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:15:33.43 ID:qVMXlbYRO
菌糸を地面に向けてピンっとはり、少しでも遠くまで合図が届くように自分の体を持ち上げる。
バイキンマンは浄化の光とか言っていたっけ、難しいことは分からない、
でもきっとこれが、今の自分に出来る精一杯だ。
みんなっ!気づいてっ!!ぼくはここだよっ!!!
そう思いながら、風にたよりなさげにゆれるカビルンルンの体が、暗闇で、淡いピンク色に輝きだした。
784 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:22:46.14 ID:qVMXlbYRO
ゆっくりと立ち上がったJAMの顔は、何故か笑みで満たされていた。
こちらに身構えている二人のパン戦士たちを一度ちらりと見やってからくるりと背を向け、
大きなツバサをひろげて夜空に舞い上がっていく。
カレーパン「…にげ、たのか?」
カレーパンマンが不審そうに呟く。
ショクパン「いえ、あれは…」
何かがおかしい。飛び立つ前一度こちらを見たJAMの顔は、確かに不敵に笑っていた。
ショクパン「わかりません…でも、追わなければ!嫌な予感がします!!」
カレーパン「ああ、そうだな!行こう!」
そう言って二人のパン戦士は、JAMの後を追い空中に飛び上がっていった。
789 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:42:35.57 ID:qVMXlbYRO
眼下に広がる黒い森を見渡しながら、JAMは夜空を飛んでいた。
アンパンマンのイースト菌はまだこの体に取り込まれていない。それは、確かなことだ。
ではなぜ、ヤツはあの場にいなかったのか。可能であれば、きっと一番最初に闘いに赴く、それがアンパンマンだ。
まだ人間だった頃の記憶が、その結論を確信させる。
…ならば答えはひとつ。闘える状況になかったのだ。
目を皿のようにして下を眺めながら、必死にStrawberry Jam体だった頃の記憶を思い出す。
あの地下秘密工場から逃げ出すとき、アンパンマンはどうしていたか…
何故か、顔にカビを生やし、今にも……カビ?そうだ、やつは胸に一匹のカビルンルンを抱いていた!!!
カビルンルンだ!!!
それに気づくと同時に、視界の隅で、夜の森の中で輝きだした淡い光が目に留まる。
あの光は…仲間を呼ぶ…カビルンルンの発光だッ!!!!!!!
人間だった頃の知識が、己の幸運を自身に告げ、喜びに体が打ち震える。
…そうか…クフフ…そういうことか………
見つけたぞッ……アンパンマンッ!!!!!!!!
794 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:57:30.54 ID:qVMXlbYRO
バタコ「いそいで!!もうすぐだってチーズが言ってるわ!!!」
バイキンUFOの後部座席に乗り込み、バタコさんが息せき切って早口で促す。
その手にはアンパンマンの焼きたての顔。チーズの知らせを聞き、
アンパンマン号より小回りのきくUFOに、バイキンマンとともに乗り込んだのだ。
それに感化されたのか、隣に座っていたチーズも、甲高い声で鳴き始める。
バイキン「おい、ちょっと黙らせろそのあほ犬。うるさくてかなわん!!」
操縦かんをとるバイキンマンが、堪りかねたようにそんなことを言う。
しかし興奮したバタコさんの耳には届かない。
バタコ「ああ…アンパンマン…私のアンパンマンッ…」
胸に焼きたてのパンを抱きしめ、一刻も早くと願い続けるバタコさん。
突然バイキンマンが前方を指差し、大きな声を上げる。
バイキン「おい、あれ見ろ!!あの光は…カビルンルンかっ!!」
叫んで前方の淡いピンクの輝きを見返す。
本来、カビルンルンの発光には微妙な個体差があり、その数は千とも万とも言われる。
カビルンルンの数だけ、違った色の光があるのだ。
しかしバイキンマンは、常人には決して見分けられないはずのその色の違いを
身内のカビルンルンに限り、一目で完璧に判別できる。完璧に、だ。
バイキン「あの色は…アンパンマンたちと一緒にいたカビルンルンだ!!!!」
796 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 16:14:03.38 ID:qVMXlbYRO
バタコ「あそこにアンパンマンがいるのねッ!!!」
バタコさんがそれを聞き、感極まった声を出す。
そのとき、突然チーズがあらぬ方向を向いて、牙をむき出し、ものすごいうなり声を上げた。
バイキン「おい、急に、何を……ッ!!!あれはッ!!」
そう叫んでチーズが吼え声を上げている方向を見返した。
バイキン「…くそったれッ!!!ジャム爺だッ!!!!」
その言葉とともに、UFOのアクセルを最大出力に引き上げる。
まさしくその方向には、暗闇と同化しそうなJAMの巨体が二人のパン戦士を引き連れ、猛スピードで
こちらのすすんでいるのと同じ方角を目指して夜空を飛んでいるのだ。
798 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 16:25:03.11 ID:qVMXlbYRO
だめだ、間に合わない…
そう思った瞬間からのバイキンマンの行動は早かった。
バイキン「おい、バタコさん!!低空飛行に切り替えるから、飛び降りて先に行けッ!!」
そう叫んで、UFOを操作し、地面すれすれまでその高度をさげる。
キャノピーが開かれた瞬間、アンパンマンの顔を抱きしめたバタコさんとチーズが地面に飛び降りた。
無事に着地したのを一度確認するとすぐさま機体を立て直し、弾丸のように飛んでくるJAMに向かい進路をとる。
バイキン「オオオオオオッッ!!!!」
一声吼えて、UFOごと最大出力でJAMに突っ込んでゆく。
802 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 16:39:45.28 ID:qVMXlbYRO
夜空にせわしなく翼をはためかせ、JAMは悪鬼のようなその顔に恐ろしい笑みを浮かべながら、
光を目指して全速力で飛んでいた。
もう少しだッ!!!もう少しで私はッ!!
心の中でそう叫んだ瞬間、あらぬ方向から、バイキンマンの乗ったUFOが凄まじい速度で突っ込んできた。
間一髪その存在に気づき、両腕で機体を受け止める。
バイキン「オオオオオオッ!!!!!」
バイキンマンがさらにアクセルを強く引き上げるが、その機体はJAMの両腕につかまれたまま空中で静止してビクともしない。
JAM「グ、ギギッ!!!」
JAMが両腕にさらに力を込める。
JAM「ジャああまあああをおおおするなあああアアアあッ!!!!!!!」
バイキン「うおッ!!!!?」
次の瞬間、JAMの凄まじい叫び声とともにUFOごと投げ飛ばされていた。
805 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 16:54:16.90 ID:qVMXlbYRO
地面に飛び降りたバタコは、その瞬間からすぐさますぐ近くに見える光に向かって走り出していた。
着地したときにひねったのだろうか、一歩足を踏み出すごとに激痛が走るが、今はそれすら気にかからない。
バタコ「アンパンマンッ…アンパンマンッ!!」
大切な想い人の名を繰り返し繰り返し、呪文のように唱え名がら、懸命に走り続ける。
…見えたッ!!!カビルンルン!!その下に……ああっ、アンパンマンだわっ!!!
溢れ出しそうな涙をこらえ、さらに一歩踏み出そうとする。
そのとき、恐ろしい叫び声をあげながら夜空からJAMが舞い降りてくるのが目に入った。
JAM「があああああああッ!!!!」
流星のようにアンパンマン目掛けて飛んでくるJAMを見て、
なぜかバタコさんは足を止める。そして大切に抱えてきたアンパンの顔を頭上に高く掲げ、弓なりに背を反り返らせる。
大丈夫よ、これが私に出来ることだから
一言心の中で呟いて、掲げた新しい顔を勢いよく投げる。
バタコ「アンパンマンッ!!!!新しい顔よッ!!!!!」
807 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 17:11:01.07 ID:qVMXlbYRO
それをみて、きりもみしながら揺れるUFOのコックピットで、
バイキンマンは叫んだ。
バイキン「バタコさんッ!!!だめだッ!!!」
しかし、ことは既になされていた。
投げ出されたアンパンマンの顔は美しい放物線を描いて、横たわるアンパンマン目指してとんでいく。
しかし…
JAM「クフハハハハッ!!!!!ひとあし遅かったなッ!!!!」
その軌跡の間に割り込むように体を入れたJAMが、けたたましい笑い声とともに叫ぶ。
思わず目をつぶりたくなる。JAMが飛来するパンを叩き落そうと片腕を掲げた。
…まに、あわなかった…ッ!!
その瞬間、信じられないような光景を、バイキンマンは目にした。
突き出されたJAMの丸太のような腕を、まるで操り糸でもついているかのようにするりとさけ、
横たわるアンパンマン目指してパンが飛んでいく。
JAMは腕を突き出したまま呆然として固まってしまい、口をあけたマヌケな表情でそれを見送った。
全てを見届け、風になびく黒い髪をかきあげながら、バタコさんが誇らしげに呟いた。
バタコ「そんなこともわすれてしまったの、ジャムおじさん?
私のコントロールは世界一なのよ」
-----------------------------
841 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 19:52:55.20 ID:hFaDzrGHO
このスレタイにこんな極上SSが隠されていようなんざ誰も思わんだろうね
----------------------------
886 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 01:12:52.06 ID:qVMXlbYRO
深い眠りから覚め、まぶたを開く。
世界が一度揺れ、徐々に視界がはっきりしていく。
心配そうに自分を覗き込むカビルンルン。
傍らには弾き飛ばされたカビにまみれた古い顔。
夜空には、静止したバイキンマンのUFO、そして、自分目指して急降下してくる仲間たちの顔。
ショクパンマンと…そうか、あれはカレーパンマンか…
突然、甲高い鳴き声を知覚する。そちらに目をやると、バタコさんが静かに涙をこぼしながら自分を見つめていた。
傍らにはやせ細ったチーズ…
…そうか、みんなが助けてくれたのか…
まずゆっくりと上半身を起こす。
地面に手を突き、前かがみになりながらのそりと立ち上がる。
両足に力を込め、軽くひざを曲げ、勢いよく地面をける。
ふわりと体が浮き上がるのを感じる。
そのまま空中で大きく体を広げ、慣れ親しんだポーズをとり、アンパンマンが言う。
アンパン「…元気ひゃくばいッ!!!アンパンマンッ!!!!!」
夜の森に、歓声が響き渡った。
888 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 01:32:20.13 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「無事だったんですね!アンパンマンッ!!」
宙に浮かび上がったアンパンマンのそばでとまり、ショクパンマンが心底うれしそうな声を上げた。
アンパン「…すまない!!どうやら、ずいぶん心配をかけたようだ!!それに…カレーパンマンも…」
そういって、ショクパンマンの後ろで所在無げに浮かんでいるカレーパンマンを見る。
カレーパン「すまん…おいら…おいらぁ…」
そう呟くように言って、カレーパンマンが俯く。
ショクパン「…ふたりとも、気にしてはいけません!!だって、私たちは仲間なんです!!」
そういって、ショクパンマンがさわやかな笑みを浮かべる。
ショクパン「私たち三人は、誇り高きパン戦士!!それだけあれば、充分です!!」
その言葉に、カレーパンマンが、ハっと顔を上げる。
アンパンマンもその新しい顔で、満足げに笑っていた。
ショクパン「あれを見てください、アンパンマン!」
そう言って彼が指差した方向には、こちらの様子を警戒したように伺っている、黒い巨体の何かがいた。
890 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 01:48:35.11 ID:qVMXlbYRO
アンパン「あれは…ジャムおじさんなのか…」
おもわず驚きの声が口をついて出た。
ショクパン「そうです。あの大量のイチゴジャムが、突然集まって変体したのです。
スピードはさほどありませんが、パワーが桁違いです。油断できない相手だ…
現に、私は一度やられかけました。カレーパンマンが来てくれなかったら、本当に駄目だったかもしれない」
早口で言って、しかしさらにショクパンマンは続ける。
ショクパン「しかし、私たち三人が揃っていて負ける相手ではありませんね。そうでしょう?二人とも」
そう言って彼は楽しそうに微笑んだ。
アンパン「…ああ、そうだな」
カレーパン「…まったく、そのとおりだぜ!」
すーっと、自然に手のひらが前に出た。微笑んだままショクパンマンがそれに手をかぶせる。
カレーパンマンも、おずおずと片手を差し出し、その上にのせる。たったそれだけの動作だった。
しかし、瞬間体中を燃え盛る炎が駆け巡ったように感じた。それが自分の心に飛び火して
心臓とは別の何かが、音を立てて動き出す…そうか、僕たちはこんなにも…
一度深呼吸して、そして叫んだ。
アンパン「いくぞっ!!!!!!」 ショクパン「いきましょうっ!!!」 カレーパン「やってやるぜっ!!!」
三人の誇り高きパン戦士は、そういって三方向に飛び出していった。
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 17:48:09.96 ID:hoiDBoK10
三手に別れ、こちらを目指して飛んでくるパン戦士たちを見ながら、
JAMは呆然と宙に浮かんだまま考えていた。
こんなはずではなかった…
パン戦士達のイースト菌をその体に取り込み、至高の存在へと進化した未来の自分…
その輝かしいあるべき姿が、かすみ、歪んでいく…
こんなはずでは…
JAM「ッ!!!」
アンパン「ああああアアアんぱあアアアアンチッ!!!!!」
右腕を大きく振りかぶったアンパンマンが、猛スピードで突っ込んでくる。
かろうじて身をひねってかわす。そのまま自分の横を飛びぬけていくアンパンマンを捕まえようと腕を伸ばすが
カレーパン「カレエエエエエッ!!!キイイイイイイイッく!!」
死角から後頭部を強く蹴りつけられた。
思わず視界が揺れる。あわてて後ろに向き直った。
その顔に
ショクパン「ショオオオオオオクパアアアアアアンチッ!!!」
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 17:49:11.63 ID:hoiDBoK10
強烈なショクパンマンの一撃をくらい、体の力が一瞬で抜ける。
世界が暗転し、揺れる。うまく体勢を維持できない。
仰向けに落下していく自分の無防備な腹部に
アンパン「アアアアンッ!!!キイイイイックッ!!!」
アンパンマンが駄目押しの追撃を加える。
体が意に反してくの字に折れ曲がるのを感じた。
強すぎる…ありえない、神の化身として生まれ変わった私が…ありえない…
…こんなはずでは、なかった…
無限に広がる夜空を見つめ、凄まじい速さで落下していきながら、心の中で何度も呟いた。
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 17:50:25.20 ID:hoiDBoK10
天を見上げる体勢で、蹴りつけられた勢いそのままに衝撃とともに地面に叩きつけられ、意識が混濁する。
作業台の横で、ほほえみを交え談笑する、三人のパン戦士達…
その傍らでバタコが忙しそうに、それでも充実しきった表情で額に汗を浮かべ、パン生地をこねている…
足元では、飼い犬のチーズが楽しそうに尾を振りながらじゃれつき…
そして、そんないつもどおりの光景を見やりながら幸せそうにほほえむ自分…
…頭をひとつ大きく振って、ゆっくりとその巨体を起こした。
考えなければ。上空には、自分を見下ろしながらゆっくりと旋回するパン戦士達。
先ほどの一度の戦闘で充分理解した。このまま闘って、勝ち目はうすい。
そう思って、あたりを見渡す。そうだ!バタコ!あれを人質にとり、何とかこの場を無事に切り抜ければ…
しかし、居ない。
代わりに目に入ったのは、上空に浮かぶバイキンマンとドキンちゃんのUFO。自分を追い込むかのように配置された大足ロボット。
そして……懐かしい、見慣れたアンパンマン号の姿…
…こんなところで命を落とす訳にはいかない。自分には、天から託された絶対的な使命があるのだ。
完璧な身体を手に入れ、唯一絶対の存在として、この世界に君臨する崇高な役割がッ!!!
カレーパンマンのイースト菌を体に取り入れたときの凄まじい衝撃を思い出し、再び全身に力がみなぎる。
自分こそ神に選ばれた唯一の存在なのだ!!!あの時、運命は、確かにこの私の背中を押した!!
奥歯をかみ締め、ひざを曲げ、再び飛び上がる体勢を整える。
そのためだけに、全てを犠牲にしたのだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 17:51:20.98 ID:hoiDBoK10
JAM「ガ嗚呼ああああアアッッッ!!!!」
再び起き上がったJAMが恐ろしい咆哮をあげながら、三人目掛けて突っ込んでくる。
アンパン「あぶないッ!!!」
その声を合図に三人のパン戦士がそれぞれ三方向に飛んでかわす。
JAM「オオおおオオお雄オッ!!!!」
雄たけびをあげたJAMが上に飛んで逃げたショクパンマン目掛けて、鋭い鉤爪のついたその手を伸ばす。
カレーパン「シイッ!!!!」
それを見てカレーパンマンが横合いからJAMのわき腹をすばやく蹴りつけた。
JAMが一瞬ひるんでバランスを崩す。
その無防備な背をみて、すかさずアンパンマンが殴りかかる。
アンパン「ヤアアアッ!!!!」
ショクパン「危ないッ!!アンパンマンッ!!」
後ろから飛び掛ってくるアンパンマン目掛けて、JAMが長い尾を鞭のようにしならせて叩きつけようとするが、
それを読みきったショクパンマンが勢いよくJAMの頭頂部を踏みつけた。
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 17:53:31.47 ID:hoiDBoK10
JAM「ガッッ」
予想外の攻撃に、JAMの巨体が空中でよろける。
カレーパン「いったん距離をとるんだ!」
それを聞いて、カレーパンマンに続き二人のパン戦士も一度身を引く。
恐ろしい表情でこちらを睨み付けているJAMから油断なく距離をとり、
空中に浮かんだままパン戦士達が言葉を交わす。
アンパン「…ショクパンマンのいったとおりだな、パワーは凄まじい。しかし、速さが足りない」
ショクパン「ええ、しかし厄介なのはあの長い尾です。どこから仕掛けてくるか予想がつかない。手ごわい相手です」
口ではそういいつつも、ショクパンマンの顔は至って冷静だった。
理由は明白だ。先ほどのように一人で闘っているわけではない、今は頼もしい二人の仲間がいる!
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 17:55:11.02 ID:hoiDBoK10
それを聞いて、カレーパンマンが少し考え、そしてパッと閃いたようにいった。
カレーパン「なぁるほど!じゃあ、あのしっぽを捕まえちまえばいいんだ!」
言うがはやいかこぶしを固め、JAM目掛けて真正面から飛び掛っていった。
ショクパン「カレーパンマンッ!!」
アンパン「…まったく、彼らしいな」
無謀にも一人で突っ込んでいくカレーパンマンを見ながら、しかしそれでもアンパンマンが何故か微笑みながらいった。
知っているからだ。カレーパンマンの無茶は、後ろに二人が控えているから。頼りがいのある二人の仲間に、背を預けられるからこその無謀。
アンパン「僕達もいこうッ!!」
ショクパン「はいっ!!」
そういって、二人も少し遅れてカレーパンマンの後を追った。
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 17:56:00.03 ID:hoiDBoK10
カレーパン「くらえええええええッッ!!!!」
そう叫んで、カレーパンマンが飛んできたスピードそのままに、JAMの顔目掛けて蹴りを入れる。
JAM「グッ!!!!」
避けきれないそのするどく重い一撃に、JAMが両腕を交差させて眼前で受け止める。
カレーパン「おおおおおおッッ!!!!」
全体重を乗せた渾身の一撃を受け止められ、なおカレーパンマンがもう片方の足を上げて強烈なかかと落としをJAMに見舞う。
JAM「がああああッ!!!」
痛みにゆがむ視界で、JAMが必死に考えていた。
何故だ!何故カレーパンマン如きがこうも強いのだ!!
カレーパンマンだけではない、アンパンマンもショクパンマンも、自分の知る彼らの地力以上の戦闘力を見せている。
一対一で戦えば、まず自分の勝利は揺るがないだろう。なのに、何故三人集まるとこれほど手ごわいと言うのだ!!
胸に浮かんだ焦燥を振り払うかのように、目の前で再び身構えたカレーパンマンに手を伸ばす。
せめて一人だけでも欠けてしまえばッ…!!!!
しかし、その必死の動作は後方に引っ張られる強い力にさえぎられた。
思い通りにいかないもどかしさにゆがんだ顔のまま、首を曲げ、後ろを振り返り、驚愕する。
いつの間にか背後に回りこんだ二人のパン戦士が、長くしなやかな自分の尾を、両手でしっかりと捕まえている。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 17:56:55.61 ID:hoiDBoK10
カレーパンマン「カレエエエエッ!!!パアアアアアンチッ!!!」
叫び声に思わず全身が震える。
まずいッ!!!今あれを食らってはッっ!!!
向き直ったその顔に、カレーパンマンの力強い右ストレートがぶち当たった。
アンパン「おおおおおおおおッ!!!!!!!」
ショクパン「あああああああああああ!!!!!!!」
二人のパン戦士が、力強いおたけびをあげながら、JAMの巨体を振り回す。
JAM「あッ…がッ!! ああッ…!!!」
高速で流れていく景色を眺めながら、JAMはようやく理解した。
…そうか、わかったぞ…だからお前達は、こんなにも…
アンパン「おわりだっ!!!!!」
その声を合図に、ショクパンマンもパッと両手を離す。
凄まじい速度で硬い地面に落下していくのを感じながら、JAMは静かに、そのまぶたを閉じた。
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 18:44:05.77 ID:hoiDBoK10
轟音を上げて地面に激突したJAMから距離をとり、三人のパン戦士達がふわりと地面に降り立った。
闘いを見守っていたバイキンマンがカビルンルンたちを従えてゆっくりと三人の後ろから近づいてくる。
バイキンマン「…やったのか?」
アンパン「…ああ、おそらくJAMはもう動くこともないだろう」
そう言ってアンパンマンがゆっくりと振り返る。
アンパン「…ずいぶん世話になってしまったね。君には感謝しても仕切れないよ」
バイキン「けっ…別にてめえに感謝してもらいたくてしたことじゃねえや。
その、なんだ、カビルンルン!そうだ、秘密工場から逃げ出すとき、カビルンルンを助けただろう。
頼んでもないのに恩着せがましいことしやがって…俺様は借りは作らない主義なんだ」
そんなことを言って、バイキンマンがそっぽを向く。
ショクパン「…終わったんですね」
落下したまま、地面に身を横たえピクリとも動かないJAMを見つめ、ショクパンマンが静かに呟いた。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 18:44:49.68 ID:hoiDBoK10
バイキン「…いや、まだだな」
カレーパン「えっ?」
発せられた意外な言葉に、カレーパンマンが思わず聞き返した。
バイキン「…やつの体は、イースト菌に支配されている。このまま黙って放って置けば、おそらくまた復活するだろうよ。
時間の問題ってやつだな。おい、カビルンルン!」
そういってバイキンマンが後ろに控えていた数匹のカビルンルンに声をかけた。
一団の中には、アンパンマンに助けられた、そしてアンパンマンを助けたあの小さなカビルンルンもまじっていた。
ショクパン「…どうするつもりですか?」
先の読めないバイキンマンの行動に、ショクパンマンが疑問の声を上げる。
バイキン「…カビルンルンには、イースト菌を浄化する力がある。
イースト菌だけじゃない、この世界にそぐわない、不自然なものを取り込んで、
自分達の体の中でゆっくりと時間をかけて自然に帰していく。
はるか昔からこいつらは、そうやってこの星を守ってきた…」
カレーパン「へぇ、詳しいんだな」
一言ずつかみ締めるようなバイキンマンの言葉に、カレーパンマンが感心したように言う。
バイキンマンは無言で曖昧にうなずくと、黙ったまま何故か少し悲しそうな表情で、
倒れ伏したJAMのほうへすすんでいくカビルンルンの一団を見送った。
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 23:29:09.78 ID:qVMXlbYRO
バタコ「アンパンマンッ!!!無事だったのね!!」
そう叫んでバタコさんが今にも泣きそうな顔で駆け寄ってくる。
その目に浮かんだ涙は傷ついた足の痛みによるものばかりではないだろう。
アンパン「バタコさんッ!!」
そう答えて両腕をひろげ、ぶつかるように胸に飛び込んできた大切な思い人の体を受け止める。
バタコ「…」
バタコは、そのままアンパンマンの胸に顔をうずめ、無言でないている。
その涙が少しずつ自分の体にしみこんでいくのが分かったが、気にならなかった。
感情が溢れ、たくさんの流れになって頭の中を駆け巡るが、言葉にならない。
ただ黙って、もう一度、強くその小さな体を抱きしめた。
バイキン「…けっ、あーあー…」
そんな二人の様子を見て、バイキンマンが呆れたように視線をそらす。
その先には同じようにドキンを抱きしめるショクパンマンの姿。
バイキン「……」
もう無言で、星ぼしが瞬く夜空を仰いだ。
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 23:30:54.87 ID:qVMXlbYRO
横たわって仰向けに倒れているJAMの体をぐるりととり囲んで、カビルンルン達は菌糸を絡ませあい輪を作っていた。
足元は倒れ伏したJAMの巨体を中心に、ちょっとしたクレーターのようになっていて、それが落下の衝撃の凄まじさを十二分に物語っている。
一団の中で最年長のリーダー格であるカビルンルンが、菌糸を揺らして皆に合図を送る。
それを皮切りに、カビルンルンたちの体がゆっくりといっせいに淡く輝きはじめ…
と、そのときだった。力尽きていたはずのJAMの体がピクリと震える。
それに気づいたカビルンルンたちが、絡ませあっていた菌糸を離して騒然と囲みをとく。
生気の感じられないうつろな瞳で、JAMがゆっくりと立ち上がったのだ。
そのままの姿勢で微動だにせず、ただ夜空を見上げて立ち尽くしている。
カビルンルンたちが口々になにか叫びながら、慌ててもと来た道を逃げ帰る。
バイキン「…ん?」
騒がしくなったカビルンルンたちに気づき、夜空を見上げていたバイキンマンが視線をJAMに戻した。
そのときだった。
JAM「………ぁ……ぁあ……ああ、ああああああ、があああああッッ!!!!!!!!」
先ほどまで倒れていたはずのJAMが何故か立ち上がっていた。
突然、耳を劈くような雄たけびをあげる。
アンパン「うわっ!!!!」
不意をつかれ、アンパンマンが驚きの声を上げる。
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 23:32:03.98 ID:qVMXlbYRO
バタコ「いっ、生きていたの!?」
バイキン「馬鹿なッ!!!!早すぎるッ!!!!」
ショクパン「二人とも、下がってください!!!」
あわててショクパンマンが、バタコとドキンをかばうように前に出た。
それにあわせてアンパンマンとカレーパンマンも、身構えてJAMに向き直る。
しかし、立ち上がったJAMが襲ってくる気配はない。ただ、黙って立ち尽くしたまま夜空を見上げている。
ドキン「…?」
吊られてドキンが夜空を見上げる。その視線の先に…
ドキン「ッ!?見てッ!!空がッ!!」
指差したその先には一面に突然の流れ星、そして少しづつ空がゆがんでいく。
緑を基調とした幻想的な光の帯が、ゆっくりと宙空に浮かび上がっていくのだ。
カレーパン「なっ、なんだこりゃあ…」
突然目の前に出現したこの世のものとは思えない光景に、カレーパンマンの口から自然に言葉が漏れる。
バタコ「…綺麗…」
その迫力に圧倒され、一瞬何もかも忘れてバタコが呟く。
……でも、すごく恐い……
思わず自分を抱き抱えるように身震いする。
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 23:33:10.86 ID:qVMXlbYRO
アンパン「大変だッ!!!JAMの様子がッ!!!」
その声に、皆がハッとわれに帰る。
アンパンマンが指し示すその先では、JAMが地面に両手両足をつけて、口から滝のように涎をたらしながら激しく身震いしている。
背に生えた翼が見る見るうちにしぼみ、その代わりによりいっそう筋肉質になっていく胴体。
そこから伸びた手と足はだんだんと短く、そしてますます太くなり、最早まるで四足の獣のそれである。
バイキン「三度目の変体だとッ!!?馬鹿なッ!!!!!俺様は…」
あわててバイキンマンが早口で何事か呟くように言う。
アンパン「二人を、頼みますッ!!」
そう言ってアンパンマンが未だガタガタと身震いしているJAM、
いや、最早JAMではない、つい先ほど生まれたばかりのその漆黒の獣めざして飛んでいった。
カレーパンマンとショクパンマンも、急いでその後に続く。
それを見送り、バイキンマンが必死で、今しがた目の前で新たに展開された状況を分析する。
バイキン「俺様は、知らんぞっ…変体は2回だけじゃなかったのかッ!!!?」
いいさしてハッと顔をあげた。
億千万の流れ星が、一面に広がったオーロラを身にまとい、夜空を踊り狂っている。
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 23:34:25.40 ID:qVMXlbYRO
バイキン「JAMに…呼ばれたのか…?」
呆然と夜空を見つめながら、そう呟いた瞬間だった。
バイキン「…がッ!?」
頭の中を激痛が走る。思わず屈みこんだ。
バイキン「ああッ!!?ああああッ!?ガァッ!!??」
苦痛に顔をゆがませ、前のめりに倒れ伏す。
ふざけるなッ!!俺様は俺様だッ!!バイキンマン様だぞッ!!
そう心の中で呟くが、声にならない。
全身を流れる血液が、沸騰してしまったように感じる。
体が、熱い。心臓がドクドクと激しく脈打ち、その鼓動する音までもが自分の耳ではっきりと聞き取れるほどだ。
ドキン「バイキンマンッ!?しっかりしてっ!!!」
異変に気づいたドキンが、悲鳴交じりの声を出し、慌てて駆け寄ってくるのが分かった。
体の自由が利かなくなり、だんだんその感覚がなくなっていく。
バイキン「ちがッよル゛なッ゛…!ハな゛、レッ…!?」
気を抜けば一瞬で飛びそうになる意識のなか、それだけ言うのが精一杯だった。
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/05(金) 03:53:15.61 ID:qVMXlbYRO
暗闇の中で目を覚ます。
ここは…どこだ?体の感覚が、ない…
突然、聞こえてくる小さな声に気がついた。
…生きたい…
その声が、どんどん大きくなっていく。
生きたい!生きたい!生きたい!生きたい!生きたい!
様々な声が揃って同じことを言うが、その中にどれひとつとして同じものはない。
やめろ!それは私ではない!私では…
そして気づく。
…そうか、あの声は自分が取り込んだ多くの命の声。
結局私は数多の他者の命を取り込んだつもりでその実、既にもっと大きな何かに取り込まれていたのか…
抗えない大きな命の奔流に触れて、何故かパン工場ですごした平和だった日々がフラッシュバックする。
そこでジャムおじさんの意識は完全に途絶え、大きく暗い流れの中にゆっくりと溶け込んでいった。
225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/05(金) 23:05:43.38 ID:qVMXlbYRO
ドキン「バイキンマンッ!!バイキンマンッたらッ!!」
急に地面に倒れ伏してしまったバイキンマンに、ドキンが必死で呼びかける。
バタコ「ッ!?離れなさいッ!!ドキンちゃんッ!!!」
不安そうにそれを見守っていたバタコが、突然切羽詰った声を上げる。
苦しそうに身もだえしていたバイキンマンの体が、徐々に変体していくッ…!
ドキン「バイキンマンッ!?」
悲鳴に近い叫び声をあげて、ドキンが思わず半歩だけ身を引いた。
バイキン「アッ!!!ガがッ!!!」
その背に生えた二対の小さな羽根が黒く染まり、急激に、まるで天を目指すように広がっていく。
頭から突き出た二本の小さな角が、ここにきてその存在を主張するかのように力強く伸びていく。
尾?骨のあたりから力なく垂れ下がっていた尾が、太く、そして長くなっていき、
体全体が一回りも二回りもその嵩を増して全身の筋肉が張り裂けんばかりに膨張していく。
228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/05(金) 23:06:46.10 ID:qVMXlbYRO
バタコ「…あれは、まるで…」
JAM、じゃない…その言葉を懸命に飲み込んだ。
そのとき急に背後から、カビルンルン達が何事か囁きあいながら走りこんできた。
呆然と立ち尽くすドキンを押しのけ、苦しそうに悶えているバイキンマンの周りを囲み、せわしなくその菌糸を絡ませあう。
ドキン「…なに、してるの?」
呟いた瞬間、輪になったカビルンルン達の体が、いっせいに優しく光り出した。
バイキンマンを囲んで円を作り、皆が皆様々な色で輝きあい、その体を静かに揺らしている。
輪をなしていた一匹の小さなカビルンルンの口から、体と同じ色に淡く輝く胞子が吐き出された。
続いて仲間達も同じように、その体を優しく揺らしながら次々と胞子を吐き出していく。
カビルンルンたちの口から吐き出された、様々な色の輝く胞子が宙を舞い、地面に横たわるバイキンマンの体に、
ゆっくりと、まるで季節はずれの雪のように降り積もっていく。
バタコ「…綺麗…」
思わず、呟いた。しかし先ほどの狂ったように踊る星達に感じたような恐怖心は、微塵もない…
ハッとわれに返り、呆然と成り行きを見守っているドキンの手を引く。
何かあってからでは遅いのだ。今のうちにこの場を離れなければ…
しかし、ドキンは、まるで地に根が生えたように頑としてその場を動こうとしなかった。
目に涙をためてこちらを見やり、いやいやをするように首を振る。
それを見て、一瞬何もいえなくなる。
229 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/05(金) 23:07:46.18 ID:qVMXlbYRO
輪になって踊るように揺れていたカビルンルンたちの発光が突然消えた。
絡みあわせていた菌糸を素早く解き、蜘蛛の子を散らしたように一目散にこちらに逃げてくる。
バタコ「ッ!!」
思わず身構えた。変体を終えたその黒い生き物が、ゆっくりと立ち上がり、巨体を震わせ体に付着した胞子をふるい落とす。
ドキン「…バイキン、マン…?」
震える声でドキンがその名を呼ぶ。答えはない。
ドキン「…ねえ、バイキンマンったらッ!!」
泣き出しそうになりながらドキンが叫んだ。
最悪の結末を予想して、バタコがその身を硬くする。
その後ろに隠れるように集まったカビルンルンたちが、不安げにその菌糸を揺らしている…
230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/05(金) 23:08:40.76 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…糞ったれの、イスート菌めッ…俺様の体を好き勝手しやがって…」
ドキン「バイキンマンッ!!バイキンマンなのねッ!!!」
ドキンが歓声をあげてバイキンマンに飛びついていった。
張り詰めていた緊張が一気に解け、バタコが安堵の深いため息を漏らす。
カビルンルン達が口々に何か叫びながら、興奮したようにバイキンマンの足元を飛び跳ねまわった。
バイキン「…また、助けられちまったな…」
そう呟いて足元のカビルンルンたちを見るバイキンマンの瞳は、以前と変わらない優しさを湛えていた。
ドキン「…あんまり、可愛くなくなっちゃったね」
変体を遂げたバイキンマンの太くたくましい腕に手をおき、一度足元から頭のてっぺんまでその姿を眺めてから、
ドキンがそんなことを言う。涙でうるんだ瞳が、笑っている。
場違いなその発言に、思わずバタコの顔がほこんだ。
聞きたいことは山ほどあった。しかし、うまくまとまらない。
バタコ「随分、ワイルドになったわね…」
結局、そんな言葉が口をついて出てくる。
それを聞いてバイキンマンが声を上げて笑う。自分でも笑ってしまった。
231 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/05(金) 23:09:25.82 ID:qVMXlbYRO
バイキン「心配かけたな、もう大丈夫だ」
向き直ったバイキンマンが、しっかりした口調で告げる。
ドキン「体の具合は?痛いところはない?」
ドキンが心配そうにそういった。
バイキン「ああ…JAMの野郎は?」
バタコ「ッ!!アンパンマンたちが様子を見に行ったわ!」
その言葉に、ハッと思い出したようにバタコが答えた。
バイキン「そうか…あの野郎、まだ…よし、俺様もいくぞ!!」
言うが早いか、翼を広げ、夜空に舞い上がっていくバイキンマン。
その姿をみおくり、ドキンがなかば唖然としながらくすくす笑って言う。
ドキン「あの格好見たら、ショクパンマン様たち、どう思うかしら」
バタコ「…それもそうね」
つられてバタコも笑い出した。傍らでカビルンルン達がその菌糸をゆるゆると夜風に揺らしている。
232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/05(金) 23:10:15.64 ID:qVMXlbYRO
アンパン「油断してはいけない!!おそろしく早いぞ、先ほどとは段違いだっ!!!」
アンパンマンが鋭い声でそう叫ぶ。指差したその向こうでは、動き出した漆黒の獣が首をたらして低いうなり声を上げ、こちらの様子を伺っている。
カレーパン「ああ…けどさっきから体が異常に軽いぞ?なんだこりゃ」
隣ではカレーパンマンが両腕をぐるぐる回しながら地面をけり何度も飛び跳ねている。
ショクパン「私もです。いったいこれは…」
いいさして、ショクパンマンが後方から高速で飛来する存在に気づいた。
ショクパン「ふっ、二人とも!!!気をつけてくださいっ!!」
そう叫んで後ろを振り返り、身構える。そのとき
バイキン「おいっ!!!勘違いするなっ!!俺様だっ!!」
そう言ってバイキンマンが勢いよく地面に着地した。
233 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/05(金) 23:10:57.85 ID:qVMXlbYRO
カレーパン「ええっ!!?バイキンマンっ!?」
そのあまりの変わりように、カレーパンマンが驚いて素っ頓狂な声を上げる。
アンパン「バイキンマンなのかっ!?その姿はいったい」
いいさしてバイキンマンに遮られる。
バイキン「話はあとだっ!!JAMの野郎はっ!!」
それを聞き、ハッと振り返る。視線の先には、漆黒の獣が…いないっ!?
カレーパン「うえだっ!!アンパンマンっ!!」
その声にハッと顔をあげる。漆黒の獣が、星が乱れ飛ぶ夜空を背にして飛び掛ってくる!
獣「ガアアアアアアアッ!!!」
アンパン「クッ!!!」
間一髪それをさけ、空中に飛び上がった。
続いてカレーパンマンとショクパンマンが、そしてバイキンマンがその後を追い、宙に飛び上がる。
234 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/05(金) 23:11:41.85 ID:qVMXlbYRO
バイキン「おいっ!!あれがJAMなのか!?」
翼をはためかせて空中に浮かびながら、バイキンマンが鋭い口調で尋ねる。
ショクパン「え、ええ…しかし、おそらくもう理性は残っていないでしょう。
先ほど目を見て分かりました。あれはもう、完璧な、いうなれば獣そのものです」
バイキン「…そうか…ジャム爺は、既に飲み込まれたのか…」
それを聞き、うめくようにバイキンマンが呟く。
アンパン「どちらにしろ、僕達に敵意を抱いているのは変わりないようだ」
そういってアンパンマンが足元を指差した。
4人の足元では、獣がこちらを見上げながら低いうなり声をあげてうろうろとその場を行ったりきたりしている。
バイキン「…それじゃあ仕方ねえな、生まれたばっかのいぬっころに、いっちょ社会の厳しさというものを叩き込んでやろう。
はじめにしっかり躾とかないと、どこぞのあほ犬みたいになっちまうからな」
そんなことを言って、バイキンマンがニヤリと笑った。
236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/05(金) 23:12:30.77 ID:qVMXlbYRO
カレーパン「しっかし、バイキンマン…なんだその体?いったい何があったんだ?」
カレーパンマンが繁々とそのたくましく生まれ変わった身体を眺めていう。
そう言われてバイキンマンが少し考えるような仕草をする。そして、黙って夜空を指差した。
バイキン「……星に呼ばれて、な。手は出すな、俺様の相手だ」
それだけ言うと、翼をたたみ、地面目掛けて急降下して行った。
カレーパン「…どういういみだ?」
カレーパンマンがその答えに訝しげに首をひねる。
アンパン「…分からない、だが…」
何故か、とても懐かしい…
数え切れないほどの流れ星が尾を引き飛び回るその光景を見上げながら、そう思った。
バイキン「…つくづく哀れな野郎だ…」
地に降り立ったバイキンマンが、牙を向く漆黒の獣と対峙しながらそう呟く。
獣はただ低いうなり声を上げて、バイキンマンを睨み付けている。
237 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/05(金) 23:13:35.14 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…くだらねえイースト菌なんかに踊らされやがって…」
そういってバイキンマンがゆっくりと身構える。
バイキン「俺様がッ!!!ケリぃつけてやるッ!!!」
叫んでこぶしを固め、獣目掛けて突っ込んでいく。
獣「ガアアアッ!!!」
それに呼応するかのように、獣が宙に飛び上がり、鋭いつめを立てバイキンマンに飛び掛ってくる。
バイキン「ッらぁッ!!」
くるりと後ろを振り返ったかと思うと、鋭い雄たけびをあげて、飛び掛ってくる獣目掛けて強烈な後ろ回し蹴りを見舞う。
獣「ガッ!!」
横合いから顔面を強烈に蹴りつけられふき飛ばされた獣が、砂煙を上げながら何とか地面にその四足をつける。
251 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:01:04.30 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…かかってきやがれ」
あらためて獣に向き合ったバイキンマンが、両足を大きく広げ、挑発するように二本の腕を高く掲げて構える。
獣「ガアアアアアアアッ!!!!」
その大胆不敵なポーズに、獣が、全身をばねのようにして凄まじい勢いで突っ込んでくる。
バイキン「ンギギギギッ!!!!!!!」
その前足をがっちりと捕まえ、まるで力比べをするかのようにバイキンマンが両腕に力を込める。
凄まじい力と力が拮抗しあい、両者の動きがその場で一瞬止まった。
獣「ンンガアアアアアアッ!!!!」
それに耐えかねたように、獣がひとつ叫び声をあげて、大口を開けてバイキンマンに噛み付こうとする。
バイキン「…俺様とッ!!!!張り合おうなんざッ!!!!」
その瞬間、獣の後ろ足がふわりと浮き上がった。
バイキンマンの凄まじい腕力に重力が根負けし、その巨体が浮き上がる。
バイキン「ひゃくまんねんッ!!!!早いんだよオオオオオオッ!!!!!」
獣「ガアアアッ!???」
その凄まじい雄たけびとともに、獣の巨体が空中高く投げ上げられる。
253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:03:30.82 ID:qVMXlbYRO
バイキン「今だッッ!!!!」
それを合図に、上空で戦いを見守っていたパン戦士達が必殺の構えをとる。
獣「ガアッ!!ガッ!!」
空中で四本足をばたつかせながら、獣が必死にもがく。
アンパン&ショクパン&カレーパン「トオオオオオオリプルッ!!!!!」
その巨体目掛けて
バイキン「やっちまえッ!!!!カビパンどもッ!!!!!!!!」
獣「ガアアアアアッ!!」
アンパン&ショクパン&カレーパン「パアアアアアンチッ!!!!!!!!!!!!!!」
三人のパン戦士のフルパワーを乗せた強烈な一撃が火を噴いた。
獣「ガッ!!………………」
そのまま地面と平行に何十メートルも吹き飛ばされたその巨体は、やがて重力に負けて失速し、地面にたたきつけられた。
255 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:04:23.33 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…どうやら今度こそ、本当に終わったようですね」
力なく地面に横たわった黒い獣から少し離れて、一同が会話している。
カレーパン「やっとおわったなあ!!さあ、カビルンルンたち!後は任せたぜッ!!」
カレーパンマンがうれしそうにはしゃいだ声を出し、両手を広げて背伸びをする。
見上げた夜空は、いつの間にか静まり返っていて、いつものように小さな星ぼしが優しく瞬いていた。
バイキン「…そのことなんだが」
それまで黙っていたバイキンマンが、いいづらそうに重い口を開く。
バタコ「…どうしたの?」
バイキン「…こいつ、このままほおっておけないか?」
横たわったままピクリとも動かない黒い獣を指差し、バイキンマンがいった。
ドキン「ええっ!!?」
予想外の言葉に、他の面々も口々に驚きの声を上げる。
バイキン「ジャムの野郎の意識は…もうとっくの昔に取り込まれてきえちまったさ。
要するに、こいつぁそこらのいぬっころと変わらないわけだ
なんもしらねえ生まれたての赤ん坊だ…
このまま、見逃してやらないか?」
256 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:05:51.13 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「しかし、それは…」
ショクパンマンが思わず言い募る。しかし…
アンパン「…わかった。バイキンマンの言うとおりにしよう」
カレーパン「アンパンマンッ!!」
そのままアンパンマンが続ける。
アンパン「確かに、バイキンマンの言うとおりだ。ジャムおじさんの意識が消えてしまったのなら
もうこの獣はただの獣でしかない、僕達と同じ命だ。いたずらに消すことは、許されることではないさ」
それを聞いて、皆が黙り込む。
アンパン「大丈夫だ、僕達でこの森を見張ればいい。この森の入り口に、パン工場を再建してそこで暮らそう」
バタコ「アンパンマン…」
バタコが、潤んだ瞳でアンパンマンを見つめる。
バイキン「けっ…最後までいい子ちゃんぶりやがって…俺様はただ…」
いいかけて、アンパンマンに遮られる。
260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:07:12.54 ID:qVMXlbYRO
アンパン「ありがとうバイキンマン、この感謝は言葉では伝えられないくらいだ。ドキンちゃんも…
本当にありがとう」
ドキン「私はなにもしていないわよ、逆にショクパンマン様に助けてもらったくらいだし」
そういってドキンがショクパンマンを見つめ微笑む。
バイキン「けっ…」
バイキンマンがまた何か嫌味を言ってやろうと口を開いたそのときだった。
カビルンルン達が、再び光り輝きながらバイキンマンに飛び掛り、その身体に菌糸を絡ませていく。
バイキン「まッ!?おまえらッ!?なにっ!!おれさまはッ!!」
ドキン「ちょっと!?なになに!?」
その突然の光景に、一同が騒然とする。
バタコ「あ…」
カレーパン「お!!」
ドキン「あら!?」
ショクパン「…ああ」
アンパン「…ハハ」
262 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:08:03.83 ID:qVMXlbYRO
しばらくして発光をやめたカビルンルン達が次々とバイキンマンの体から離れていく。
その身体は…
バイキン「……………あ゛?」
バタコ「元に戻っちゃったわね」
バタコが微笑みながらいった。
バイキン「ああッ!!!おいッ!!カッ、カビルンルンどもッ!!!」
バイキンマンが三度変体した自分の身体を確認して、叫ぶ。
ドキン「よかったじゃないバイキンマン やっぱりそっちのほうが、かわいいわよ」
ドキンがそれをみて、ニッコリと笑っていった。
263 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:08:51.77 ID:qVMXlbYRO
数日後、新しく再建されたパン工場の庭では、町の人を招いての、パンの試食会が行われていた。
バタコ「バイキンマンも、くればよかったのに…」
新品の作業台の上で、こねたパン生地を小さく丸めながらバタコさんが呟く。
ドキン「仕方ないわよ、ああいうひとだもん」
その傍らに立ったドキンが、バタコの作業を見よう見真似で手伝いながら答える。
バタコ「…あら?」
突然何かに気づいたバタコが、その手を止める。
作業台の向こうで見慣れた菌糸のさきっぽがひょこひょこと揺れ動いていた。
バタコ「…こんにちわ」
反対側に回り込み、自分に見つかってしまいあわてている小さなカビルンルンに笑顔で声をかける。
バタコ「それはまだ食べられないわよ。こっちを持っていきなさい」
そう言って、焼きあがったばかりのパンが詰まったバケットを手渡す。
それをうけとったカビルンルンが目を輝かせて満面の笑みを浮かべ、手を振るように一本の菌糸をゆらゆら揺らすと
あわてて裏口から外に出て行った。
その姿を見送り、二人がクスクスと囁くように笑う。
264 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:09:50.34 ID:qVMXlbYRO
町人「きゃーーーーー!!」
突然外から悲鳴が聞こえてくる。
ドキン「はじまったわね、まったくもう」
それを聞いて、ドキンちゃんがすまなさそうに笑った。
バタコ「いいのよ、にぎやかで楽しいわ」
そう言ってバタコも笑った。
266 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:10:55.47 ID:qVMXlbYRO
アンパン「なにがあったのですか!!」
悲鳴を聞きつけ、いそいで工場の前の庭に向かった。
町人「パンが!!パンが!!」
指差さしたほうを見やる。見慣れたUFOがキャノピーを開いて空中でホバリングしている。そのコックピットには…
バイキン「はぁっはっはっはっひふっへほー!!!!!俺様登場ッ!!!」
バイキンマンが町人から奪い取ったパンを大口をあけてむしゃむしゃ食べながら、すわっていた。
アンパン「なんてことを…今日こそ許さないぞ!!バイキンマン!!」
バイキン「けっ!!それはおれさまのせりふだっ!!!!かかってきやがれっ!!!」
そういって両者が身構える。
その様子をみに外に出てきたバタコとドキンが、そんな二人を見ながら微笑を交わす。
ふ、とバタコが後ろを振り返る。
工場の後ろに面した森の中には、漆黒の獣が一匹、静かに暮らしている。
おわり
----------------------------------
275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:13:58.19 ID:fHMUSpx20
しょっぱなにフランスパンをケツにつっこまれてた内容とは思えない終わり方wwww
277 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:14:20.58 ID:fbmKcTADO
つまりあれか、この世界のばいきんまんはイースト菌に不適合な体にイースト菌を取り込んだ者なのか・・・
294 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:26:20.39 ID:qVMXlbYRO
あくまで脳内設定ね
バイキンマンは、元々普通の人間
赤ん坊の時、死にかけて、でも生きたい!っていう本能がこのほしに流れてきた4つのイースト菌のうちのひとつを引き寄せた。
そこで一回暴走しかけるんだけど、そのとうじのかびるんるんの親玉が自らバイキンマンの体に取り込まれることで、今の体に安定する。
だからかびるんるんの言葉が分かるし、色も識別できる。
289 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:22:06.83 ID:vPdkbY2cO
なんかライターやってる???
299 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:32:09.00 ID:qVMXlbYRO
なんも書いてないよ
むしろ理系
だが脳内で映画化まで行ったブーン系がまだ一本ある
書かないけどね!!!
ちなみにイースト菌はそれじたい意思を持たない。
他者に寄生して、その命にチート作用するだけ
だからある程度宿主の本能に従う。
ジャムの三度めの変体に引きづられて、バイキンマンは大変だったのに、パン戦士たちは体軽いね、くらいですんだのはそのせい。
でもね、ってことは無生物のはずのパンに正義とかそういう心が宿るほどの仕事をしていた当時のジャムおじさんは……ウッ
301 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:34:19.19 ID:IuQo3lOk0
>>299
解説中に射精すんな!!1
303 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:36:12.26 ID:vPdkbY2cO
マジかよ。文章が素人じゃないんだがwww
ジャムか…惜しい男を無くしたよな…間違いなくない天才だったのに
300 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:33:22.16 ID:iDNHNpuY0
イースト菌は分け与えても効果は変わらないの?
つまり、バイキンマンから次々と…
304 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:38:10.54 ID:qVMXlbYRO
>>300 変わらないよ
ただ与えられた本人が受け付けるかどうかは別
ジャモジ=たくさんの命+イースト
パン戦士=イーストのみ
バイキンマン=イースト+自分とかびるんるんのいのち
だからバイキンマンはジャムとパン戦士たちの中間くらいにいる
ジャモジさんは最後は取り込んだ多くの他のいのちに逆にとりこまれちゃったけどね
305 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/06(土) 00:39:35.38 ID:qVMXlbYRO
射精はしてねーよwwww
揉んだだけだッ!!キリッ
出典:
リンク:

(・∀・): 156 | (・A・): 157
TOP