嘘の女王
2010/12/26 07:05 登録: 西風
昔々、
未だ夜空に星が輝いていなかったほど昔、
広い(ひろい)この世(よ)の片隅(かたすみ)に
「嘘(うそ)の国(くに)」という
中々(なかなか)どうして厄介(やっかい)な国(くに)がございました。
何から何まで嘘に彩られた
この国を治めまするは、
嘘の女王。
その御姿かたちも御言葉も、
女王様におかれましては
嘘の嘘まで嘘なのですが、
だからこそ却って
真実がお分かりになる御方でした。
けれど天(てん)なる定め(さだ )として
一度(いちど)でも真実(まこと)を口(くち)にしようものなら、
その御命(おいのち)は
たちまち失われて(うしな )しまうのです。
「何(なん)と素晴らしき(すば )定め(さだ )!」
だから女王(じょおう)はそんな嘘(うそ)をついて
天(てん)に栄光(えいこう)あれぞかしと
嘘涙(うそなみだ)を流す(なが )ほかありませんでした。
一方(いっぽう)
王子(おうじ)を侮辱(ぶじょく)されて
真実(まこと)の国(くに)の重臣(じゅうしん)たちは大い(おお )に憤慨(ふんがい)し、
やがて両国(りょうこく)の間(あいだ)には
戦(いくさ)の火(ひ)の手(て)が上がりました(あ )。
何(なん)と言う(い )悲劇(ひげき)でしょう。
それでも嘘(うそ)の女王(じょおう)は
今(いま)や敵(かたき)となった真実(まこと)の王子(おうじ)が恋しくて(こい )
愛しくてRussian 6 いと )、
夜も眠れぬ有様です。
思い悩んだ女王はとうとう或る明け方のこと、
嘘の衣を身にまとい
一人(ひとり)ひそかに敵国(てきこく)の
御城に忍び込んだのでした。
おそらくは
恋に眩んだその目には、
衛兵の姿など映らなかったのでしょう。
手もなく捕らえられた女王は、
真実の牢に繋がれてしまいました。
その哀れなみすぼらしい姿。
けれど真実の王子は一目見て、
それが恋する人だと気づきました。
その夜、
処刑の刻が迫り、
嘘の女王は斬首台に引き立てられました。
泣きはらしたその目と
視線を重ねたとき、
王子はとうとう我慢ができずに、
生涯最初の
そして最後の嘘を口にしました。
「その女は真実の国の者である。
ゆえに処刑は相ならぬ!」
そう言い終わるが早いか
王子はその場に倒れました。
これを目にした嘘の女王は、
悲鳴(ひめい)をあげながら
恋する人のもとへ駆け寄って、
生涯最初の
そして最後の真実を口にしました。
「愛しています愛しています愛しています。
心から
しんじつ私は貴方を愛しています!」
そう言い終わるが早いか
女王は、
王子の亡骸の上に倒れました。
同時に
恋する二人の魂は天に昇り、
星となって夜空にまたたき始めました。
嘘と真実、真実と嘘。
きらきら、きらきら。
星があんなに輝いて見えるのは、
その中で
違う二つのものが同じ一つのものに
なろうとしてるからなのでしょう。
出典:忘れた
リンク:なんだか悲しい

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